執筆者:上山卓真(CTO兼CAIO)
KDDI×アクセンチュアのDX専門ベンチャー「株式会社ARISE analytics」に約7年間在籍。データサイエンティストとして、約200名の副事業部門長を担い、データ・AIの専門家として活躍
bloom株式会社にてCTO兼CAIOとして、データ・AIを含むテクノロジー全般の活用を推進
企業における外部発信の重要性は、多くの経営者やマーケティング担当者が認識しています。採用ブランディングのために自社の取り組みを発信したい、リード獲得のためにナレッジを公開したい、業界での認知度を高めたい。こうした目的で、オウンドメディアやテックブログを立ち上げる企業は増えています。
しかし、現実はどうでしょうか。「やりたいけどできない」 という企業が大半ではないでしょうか。立ち上げたブログが数記事で更新停止している、年に数本しか記事が出せていない、という状況は珍しくありません。発信の重要性は理解していても、実行に移せていない企業が多いのが実態です。
特に少人数組織では、外部発信に割けるリソースが限られています。専任のライターやコンテンツマーケティング担当を置く余裕がない組織がほとんどです。エンジニアやコンサルタントが本業の合間に記事を書く、という体制にならざるを得ません。
本業が忙しい中で、記事作成の優先度はどうしても下がります。クライアント対応や開発作業が優先され、「時間ができたら書こう」と後回しにされ続けます。結果として、発信したい内容はあるのに、記事として形にならない状態が続きます。
本記事では、AIX事業部で実践しているClaude Codeと音声入力を組み合わせた記事作成ワークフローを紹介します。なぜこの技術の組み合わせを選んだのか、実際にどのようなフローで記事を作成しているのか、そしてどのような成果が得られたのかを解説します。
少人数組織でも継続的に外部発信を行うための、実践的なアプローチとしてお読みください。
bloom.ai spaceは、AI活用の実践知を発信するメディアとして立ち上げました。社内外でのAI導入事例、技術トレンド、プロジェクト実績など、発信したいコンテンツは山ほどあります。
しかし、AIX事業部のメンバーは、クライアント向けのAI活用支援や社内システム開発が本業です。記事作成に専念できる時間は限られています。「今週こそ記事を書こう」と思っても、案件対応に追われて週末を迎える、という状況が続いていました。
大企業であれば、コンテンツマーケティングの専任担当者を配置できます。しかし、少人数で運営している組織では、そのような余裕はありません。記事を書ける人が「ついでに」書く、という体制にならざるを得ません。
問題は、「ついでに」では記事が完成しないことです。記事作成には、ネタ出し、構成検討、執筆、推敲というプロセスがあります。それぞれに時間と集中力が必要です。本業の合間に断片的に取り組んでも、なかなか完成まで辿り着けません。
本業の合間に記事を書こうとすると、いくつかの問題が発生します。
まず、まとまった時間が取れません。記事を書くには、ある程度の集中時間が必要です。30分刻みの空き時間では、書き始める前に次の予定が来てしまいます。
次に、中断からの再開が難しいという問題があります。途中まで書いて中断し、翌日再開しようとすると、「どこまで書いたか」「何を書こうとしていたか」を思い出すところから始まります。このコンテキストの復元に時間がかかり、実質的な執筆時間が減ってしまいます。
結果として、「書きたいネタはあるのに記事が完成しない」 という状態が続きます。これが、少人数組織における外部発信の実態です。
AIを使った記事作成は、既に一般的になっています。ChatGPT、Notion AI、Gemini、Claudeなど、文章生成に使えるAIツールは数多く存在します。「AIに記事を書かせる」こと自体は、誰でもできる時代になりました。
実際、多くの企業がAIを記事作成に活用しています。下書きの生成、文章の推敲、アイデア出しなど、さまざまな場面でAIが使われています。AI活用は当たり前になりつつあります。
しかし、汎用的なAIツールをそのまま使うだけでは、いくつかの課題があります。
まず、自社の文脈を毎回説明する必要があります。「です・ます調で書いてください」「この構成で書いてください」「過去の記事はこういうトーンです」といった指示を、毎回入力しなければなりません。これは手間がかかりますし、指示忘れによる品質のばらつきも生じます。
次に、コピー&ペーストの手間があります。ChatGPTで生成した文章をエディタにコピーし、修正して、また貼り付けて、というやり取りが発生します。この往復作業が積み重なると、かなりの時間を消費します。
さらに、コンテキストが途切れるという問題もあります。チャットのセッションが切れると、前回の続きから再開するのが難しくなります。長い記事を何度かに分けて書く場合、毎回背景説明からやり直す必要があります。
私たちが求めていたのは、以下の要件を満たすワークフローでした。
自社の執筆ルールやテンプレートを、AIが自動で参照してくれること。毎回同じ説明を繰り返さなくても、一貫性のある記事が生まれる状態が理想です。
エディタ上で完結し、コピペが不要であること。生成された文章がそのままファイルに反映され、修正もその場でできる環境が必要でした。
そして、音声入力との親和性が高いこと。タイピングの負担を減らし、話すだけで記事が作れる状態を目指していました。
これらの要件を満たす方法として辿り着いたのが、Claude Codeと音声入力の組み合わせです。
Claude Codeを選んだ最大の理由は、ディレクトリ全体を見てコンテキストを理解できる点です。
Claude Codeは、プロジェクトのディレクトリ構造を把握し、関連するファイルを自動で参照します。CLAUDE.mdに書いた執筆ルール、カテゴリごとのテンプレート、過去の記事のトーンやスタイル。これらを毎回説明しなくても、AIが自動で参照してくれます。
汎用AIツールでは、毎回「です・ます調で」「この構成で」と指示する必要がありました。Claude Codeなら、一度ルールを定義しておけば、以降は自動で適用されます。これにより、記事の一貫性が保たれ、指示の手間も省けます。
もう一つの重要な選定理由は、セキュリティ面での安心感です。Claudeのチームプランは、SOC 2 Type IIやISO 27001といった一般的なセキュリティ基準を満たしています。さらに、入力したデータがモデルの学習に使用されない点も大きなポイントです。社内のナレッジや執筆中の記事内容をAIに入力する以上、情報漏洩リスクへの配慮は欠かせません。これらのセキュリティ要件を満たした環境で、安心してワークフローを構築できることが、Claude Codeを選んだ理由の一つです。
音声入力を組み合わせる理由は、タイピングの物理的な制約を解消するためです。
話すスピードは、タイピングの数倍です。頭の中にある考えを、タイピングで追いかけるのは大変です。入力している間に次のアイデアを忘れてしまうこともあります。音声入力なら、思考のスピードに近い速度でアウトプットできます。
また、タイピングには「書く」という意識が伴います。「ちゃんとした文章を書かなければ」というプレッシャーがかかり、手が止まることがあります。一方、話すことにはそのプレッシャーが薄れます。ラフに話してもいい、という気持ちで取り組めるため、アウトプットのハードルが下がります。
ここで重要なのは、AIと音声入力の親和性が非常に高い という点です。
音声入力には、誤変換や言い淀みがつきものです。「えーと」「あの」といったフィラーが入ったり、言い直しが発生したりします。従来のテキスト入力であれば、これらを手動で修正する必要がありました。
しかし、AIに入力する前提であれば、この問題は大きく軽減されます。AIは文脈を理解して、誤変換を補完してくれます。言い淀みや言い直しも、意図を汲み取って整った文章に変換してくれます。
つまり、「完璧な入力」が不要 になります。ラフに話しても、AIが意図を理解して、読みやすい文章にしてくれます。この特性が、音声入力×AIの組み合わせを実用的なものにしています。
実際のワークフローは、以下の流れで進みます。
[Step1] テーマを音声で伝える
↓
[Step2] AIにインタビューさせて情報を引き出す
↓
[Step3] AIが構成案を作成、音声でフィードバック
↓
[Step4] AIが本文を執筆
↓
[Step5] 音声で修正指示、完成
ポイントは、AIからインタビューさせる というアプローチです。
AIに記事を書かせても、期待した品質にならないという経験をした方は多いのではないでしょうか。その原因の多くは、情報不足 にあります。AIは与えられた情報をもとに文章を生成するため、インプットが不足していれば、薄い内容や的外れな記事になってしまいます。
では、どうすれば抜け漏れなく情報を入力できるでしょうか。ここで有効なのが、AI側から質問項目を整理させて聞かせるというアプローチです。人間が「何を伝えるべきか」を考えるのではなく、AIに「何を聞くべきか」を考えさせる。この逆転の発想が、このワークフローの核心です。
最初のステップは、書きたい記事のテーマを音声で伝えることです。
「〇〇というタイトルで記事を書きたい」「〇〇について記事にしたい」といった形で、大まかな方向性を伝えます。この段階では、完璧な説明は不要です。ラフなアイデアで構いません。
たとえば、この記事を書く際は「Claude Codeと音声入力で記事を書くというタイトルで新しい記事を書きたい」と伝えるところから始まりました。
次に、AIにインタビューをさせます。
「この記事を書くにあたって、必要な情報を洗い出してインタビューしてほしい」と指示します。すると、AIが記事に必要な情報を整理し、質問を投げかけてきます。
背景は何か、課題は何か、どのような解決策を取ったか、成果はどうだったか。AIが質問し、こちらが音声で回答する。この対話を通じて、記事の素材が揃っていきます。
このステップの良いところは、自分では気づかなかった観点が引き出されることです。AIが質問してくれることで、「そういえばこれも書くべきだな」という気づきが生まれます。
インタビューが終わったら、AIに構成案を作成させます。
インタビューで得た情報をもとに、AIが記事の構成を提案してくれます。この構成案に対して、音声でフィードバックを伝えます。「ここを変えてほしい」「この観点を追加してほしい」といった修正指示も、音声で伝えられます。
構成が固まったら、AIが本文を執筆します。セクションごとに内容を確認し、必要に応じて音声で修正指示を出します。この対話を繰り返して、記事を完成させます。
全体を通じて、キーボードに触れる時間は最小限です。話すだけで記事が形になっていく体験は、従来の記事作成とは大きく異なります。
このワークフローを効果的に機能させるために、いくつかの工夫を行いました。
まず、CLAUDE.mdに執筆ルールを定義しています。CLAUDE.mdは、Claude Codeがプロジェクトを理解するための設定ファイルです。ここに執筆ルールを書いておくと、AIが自動で参照してくれます。
具体的には、以下のようなルールを定義しています。
・文体は「です・ます調」で統一すること ・見出しは「1. タイトル」「1-1. サブタイトル」の形式にすること ・箇条書きは全角中黒「・」を使用すること ・一文は60〜90文字を目安にすること
これらのルールを毎回指示する必要がなくなり、AIが自動で適用してくれます。結果として、記事の品質が安定し、一貫性のあるコンテンツが生まれます。
カテゴリごとにテンプレートを用意しています。cases(AI活用事例)、trends(AIトレンド)、projects(プロジェクト実績)など、カテゴリによって記事の構成は異なります。
各カテゴリのディレクトリに_template.mdを配置しておくと、AIが新しい記事を作成する際に参照してくれます。「このカテゴリの記事はこういう構成で書く」というパターンが自動で適用されるため、構成を考える時間が削減され、品質も安定します。
このワークフローの優れた点は、インタビューでの対話がそのまま記事の素材になることです。
AIとのやり取りで話した内容は、AIの中に記録されています。構成案を作成する際も、本文を執筆する際も、その対話の内容が活用されます。別途メモを取ったり、情報を再入力したりする必要がありません。
つまり、話した時点で記事の素材ができあがっています。あとはAIがそれを構造化し、文章に仕上げてくれます。情報を二度入力する手間がないため、効率的に記事が完成します。
このワークフローを導入した結果、記事作成にかかる時間が大幅に短縮されました。
従来の記事作成では、構成を考え、下書きを書き、推敲するという工程に、数時間から半日程度かかっていました。このワークフローでは、同等の記事を1/3以下の時間で作成できるようになりました。
実際、この記事自体も、音声入力とClaude Codeを使って作成しています。テーマを伝え、インタビューを受け、構成を確認し、本文を執筆させる。この一連の流れが、従来よりも大幅に速く進みます。
時間短縮以上に大きな変化は、発信量の増加です。
「書けない」状態から「話せば書ける」状態に変わりました。記事を書くハードルが下がったことで、これまで後回しにしていたネタも記事化できるようになりました。
心理的なハードルの低下も大きいです。「記事を書かなければ」というプレッシャーが、「AIと話せばいい」という気軽さに変わりました。この変化が、継続的な発信を可能にしています。
副次的な効果として、思考の整理効果があります。
AIとの対話を通じて、自分の考えが整理されます。AIが質問してくれることで、「なぜそうしたのか」「どんな課題があったのか」といった点を言語化する機会が生まれます。
記事を書くこと自体が、ナレッジの言語化プロセスになっています。頭の中にぼんやりあった知見が、対話を通じて明確な言葉になります。これは、発信の有無に関わらず価値のある体験です。
このワークフローには、環境面での制約があります。
音声入力を使うためには、静かな場所が必要です。オフィスで周囲に人がいる状況では、音声入力は使いにくいでしょう。リモートワーク環境や、個室での作業が前提になります。
また、周囲の目が気になるという心理的な障壁もあります。声に出して作業することに抵抗がある方もいるかもしれません。この点は、働く環境や個人の好みによって評価が分かれるところです。
今後は、さらなるワークフローの効率化を検討しています。
モバイル環境での活用も視野に入れています。移動中や外出先でも、音声メモを取っておき、後からClaude Codeで記事化するといった使い方ができないか模索中です。
また、より多くのメンバーがこのワークフローを使えるよう、ドキュメント整備やナレッジ共有も進めていきたいと考えています。
本記事では、「外部発信したいが人的工数が割けない」という課題に対して、Claude Codeと音声入力を組み合わせたワークフローで解決した事例を紹介しました。
ポイントは、AIと音声入力の親和性の高さを活かしたことです。音声入力の誤変換や言い淀みを、AIが文脈を理解して補完してくれる。この特性により、「完璧な入力」が不要になり、ラフに話すだけで記事が作れる状態を実現しました。
また、Claude Codeのコンテキスト理解能力を活かし、執筆ルールやテンプレートを自動で参照させることで、一貫性のある記事を効率的に生成できる仕組みを構築しました。
このワークフローは、特別なツールや複雑な設定なしで再現できます。
必要なのは、Mac標準の音声入力とClaude Codeだけです。Mac標準の音声入力はシステム環境設定から有効にでき、Claude CodeはCursorやVSCodeに統合して使用できます。ローコードで実現できるアプローチです。
執筆ルールを定義したCLAUDE.mdと、カテゴリごとのテンプレートを用意しておけば、すぐに始められます。
外部発信の工数課題を抱えている方は、まず1本、対話から記事を作ってみることをお勧めします。
テーマを伝え、AIにインタビューさせ、構成を確認し、本文を執筆させる。この流れを一度体験すると、「話せば書ける」という感覚が実感できるはずです。
少人数組織でも継続的な発信は可能です。このワークフローが、その一助になれば幸いです。