執筆者:上山卓真(CTO兼CAIO)
KDDI×アクセンチュアのDX専門ベンチャー「株式会社ARISE analytics」に約7年間在籍。データサイエンティストとして、約200名の副事業部門長を担い、データ・AIの専門家として活躍
bloom株式会社にてCTO兼CAIOとして、データ・AIを含むテクノロジー全般の活用を推進
課題: 少人数のベンチャー企業において、1人あたりの業務範囲が広く、未経験領域のプロジェクトを進める際に知見やノウハウが不足していた。
解決策: Claude Code(AnthropicのCLIツール)を「内部コンサル」として活用し、タスク分解、設計書作成、方針決定の壁打ち相手としてAIをプロジェクトマネジメントに組み込んだ。
成果: PM業務にかかる工数を推定40〜50%削減。未経験領域でも一定の品質を担保しながらプロジェクトを推進できるようになった。
bloom株式会社は、人材紹介事業、不動産事業、AIX事業を展開するベンチャー企業です。成長フェーズにある企業の常として、やるべきことに対して人手が圧倒的に足りないという状況が続いていました。
特にAIX事業部では、社内外のAI活用支援、メディア運営、システム開発など多岐にわたる業務を少人数で回しています。1人が複数のプロジェクトを並行して担当し、それぞれのプロジェクトで企画から実装、運用までを一貫して行う必要がありました。
ベンチャー企業では、新しい取り組みが次々と立ち上がります。メディアサイトの構築、社内ナレッジベースの整備、顧客向けAIツールの開発など、過去に経験のない領域のプロジェクトに取り組む機会が非常に多いのが実情です。
大企業であれば、過去の類似プロジェクトを経験した先輩社員や、専門領域を持つチームメンバーに相談できます。しかしベンチャーでは、そもそも「その領域に詳しい人」が社内にいないことが珍しくありません。
この状況では、以下のような課題が生じます。
プロジェクトの進め方自体がわからない。
タスクの抜け漏れに気づけない。
判断に自信が持てず、意思決定が遅れる。
もちろん、外部のコンサルタントやPMに依頼するという選択肢もあります。しかし、コスト面での制約があることに加え、ベンチャーのスピード感に合わせて即座に対応してくれる外部リソースを見つけるのは容易ではありません。
また、社内の文脈や事業の背景を理解してもらうまでに時間がかかるという問題もあります。「ちょっとした相談」のために毎回説明コストをかけるのは現実的ではありませんでした。
今回導入したのは、Anthropic社が提供するClaude Codeです。Claudeは現在最も高性能なLLM(大規模言語モデル)の一つとして知られており、Claude Codeはそのエージェント機能を活用した開発者向けツールです。
Claude Codeの特徴は、プロジェクトの文脈を深く理解した上で作業を進められる点にあります。
プロジェクトのファイルやドキュメントを直接参照し、背景を理解した上で回答できる
複雑なタスクを自動的に分解し、段階的に実行できる
事業固有の情報や制約を踏まえた、実践的な提案ができる
数あるAIツールの中からClaude Codeを選定した理由は、「コンテキストの入りやすさ」にあります。
一般的なチャット型AIでは、毎回プロジェクトの背景や前提条件を説明する必要があります。しかしClaude Codeでは、CLAUDE.mdというファイルにプロジェクトの前提情報を記載しておくことで、AIが常にその文脈を踏まえて回答してくれます。
これは、外部コンサルタントに毎回説明するコストを省けるのと同じ効果があります。事業の背景、組織の制約、過去の意思決定の経緯などを一度整理しておけば、以降はその情報を前提とした提案が得られます。
また、Claudeの高い推論能力により、単なる情報整理だけでなく、「この状況ならこういう観点も検討すべきでは」といった実践的な示唆を得られる点も大きなメリットでした。
この取り組みの特徴は、開発プロジェクトに限らず、幅広い業務領域で活用している点にあります。現在、以下のようなプロジェクトでClaude Codeを内部コンサルとして活用しています。
IPO準備におけるセキュリティ対応では、情報セキュリティ体制の構築を進めています。セキュリティポリシーの策定、必要な規程類の洗い出し、技術的な対策の検討など、専門知識が求められる領域ですが、AIに観点を整理してもらうことで、抜け漏れなく対応を進められています。
マーケティング戦略の立案では、市場分析から施策の企画、実行計画の策定までを支援してもらっています。競合分析のフレームワーク提示、ターゲット設定の観点整理、KPI設計など、戦略コンサルタントに依頼するような業務をAIと進めています。
システム開発のマネジメントでは、要件定義、設計、実装、テストの各フェーズでタスク管理と品質チェックを行っています。このメディアサイト自体もClaude Codeを活用して開発を進めてきました。
このように、技術領域だけでなく、経営管理やマーケティングといったビジネス領域でも活用できることが、高性能AIならではの強みだと感じています。
プロジェクト開始時に、まずClaude Codeにゴールを伝え、必要なタスクを洗い出してもらいます。
たとえば「新規サービスのマーケティング戦略を立案したい」という要望があった場合、以下のようにタスクを分解してくれます。
市場調査と競合分析を行う
ターゲット顧客のペルソナを設定する
サービスの訴求ポイントを整理する
チャネル選定と予算配分を検討する
KPI設計とスケジュールを策定する
自分では思いつかなかったタスクや、見落としていた観点を指摘してもらえることで、プロジェクト全体の見通しが良くなります。
マーケティング戦略を立案する際、まず必要になるのが前提知識の収集と情報整理です。この部分をAIに任せることで、効率的にプロジェクトを進められるようになりました。
たとえば、新しい市場に参入する際には、以下のような調査をAIに依頼しています。
業界の市場規模や成長率のリサーチ
主要な競合サービスの特徴と価格帯の整理
ターゲット層の課題やニーズに関する仮説立案
参考になるマーケティング理論やフレームワークの提示
また、LP(ランディングページ)を企画する際には、構成案やキャッチコピーの方向性、デザインのイメージ案をAIに作成してもらうこともあります。人間がゼロから考えるよりも、AIが出した叩き台をベースに議論を進める方が、圧倒的にスピードが上がります。
マーケティング施策を進める中で、判断に迷う場面は多々あります。そのような場面で、壁打ち相手として活用しています。
たとえば「SNS広告とリスティング広告のどちらに予算を集中すべきか」という判断を迫られた際には、それぞれのメリット・デメリット、想定されるROI、自社のリソース状況を踏まえた論点整理をAIに依頼しました。AIは感情や社内政治を抜きにして論点を整理してくれるため、冷静な判断材料を得ることができます。
もちろん、最終的な意思決定は人間が行います。しかし、判断の前段階で論点を整理し、見落としがないかを確認できることで、意思決定のスピードと質が向上しました。
Claude Codeを「内部コンサル」として機能させるために、最も重要なのは「AIに会社の文脈を理解させること」です。ここでは、実際に取り組んでいる3つの工夫を紹介します。
ベースナレッジの整備
まず、会社の静的な情報をナレッジベースとして整備し、Claude Codeに参照させています。会社概要や事業内容だけでなく、組織構造、社内で使われる固有名詞や略語なども含めて文書化しています。これにより、AIが「社内の言葉」を理解した上で回答できる状態を作っています。
このナレッジベースは個人ではなくチーム全体で共有できる形で整備しており、誰がClaude Codeを使っても同じ前提知識をもとに作業できる環境を構築しています。
議事録の活用
静的なナレッジだけでなく、日々の打ち合わせで生まれる動的な情報も活用しています。Google Meetの自動文字起こし機能で議事録を取得し、マークダウン形式で保存した上で、プロジェクトのディレクトリに格納しています。
これにより、AIは過去の議論の経緯や決定事項を踏まえた上で提案ができるようになります。「前回の会議でこういう話が出ていたが、それを踏まえると...」といった文脈を持った回答が得られるのは大きなメリットです。
データフォーマットの統一
PowerPointやExcelで作成された資料は、人間には読みやすくてもAIには扱いにくい形式です。そこで、重要な資料はマークダウン形式に変換し、AIが読み取りやすい状態に整備しています。
また、ディレクトリ構造を整理し、READMEファイルで「どこに何の情報があるか」をサマリーとして記載しています。AIがプロジェクト内の情報を探索しやすくなり、必要な情報に素早くアクセスできるようになりました。
AIを活用する上で意識しているのは、AIの提案をそのまま鵜呑みにしないという姿勢です。
AIは優秀な提案をしてくれますが、組織の事情や暗黙の制約を完全に理解しているわけではありません。たとえば、理論的には最適な施策であっても、社内リソースの制約や過去の経緯から実行が難しいケースがあります。
そのため、AIからの提案は「優秀なコンサルタントからの提案」として受け止め、最終的な判断は必ず人間が行うというルールを徹底しています。AIに任せきりにするのではなく、人間とAIが協働するという姿勢が、うまく活用するためのポイントだと感じています。
感覚的な話でもありますが、導入前は、タスク整理に2〜3時間を要していましたが、導入後は30分〜1時間程度まで短縮され、約60%の時間削減が実現しました。また、設計検討にかかる時間については、導入前は半日から1日程度必要でしたが、導入後は2〜3時間で完了するようになり、約50%の削減効果が確認されています。
さらに、方針決定までに要する日数は、導入前の3〜5日から導入後は1〜2日へと短縮され、全体として約50%のリードタイム短縮につながりました。
PM業務全体としては、推定で40〜50%の工数削減効果があったと考えています。
定量的な効果に加え、以下のような定性的なメリットも感じています。
心理的な安心感が得られます。未経験領域のプロジェクトでも、「見落としがないか」をAIに確認してもらえることで、自信を持って進められるようになりました。
属人化の軽減につながっています。プロジェクトの進め方やナレッジがClaude Codeとのやり取りの中で言語化されるため、他のメンバーへの引き継ぎがしやすくなりました。
学習効果もあります。AIからの提案を通じて、PMとしての観点や設計の勘所を学ぶことができています。
今回の取り組みがうまくいった要因を振り返ると、3つのポイントがあったと考えています。
1つ目は、Claude Codeを「ツール」ではなく「チームメンバー」として位置づけたことです。単発の質問に答えてもらうのではなく、プロジェクト全体を通じて継続的に相談できる存在として扱いました。これにより、文脈を踏まえた深い提案を受けられるようになりました。
2つ目は、AIが参照できる情報を丁寧に整備したことです。会社のナレッジベース、議事録、各種資料をマークダウン形式で整理し、AIが「会社のことを知っている状態」を作りました。この準備に一定の工数はかかりましたが、その後の業務効率を考えると十分に元が取れる投資でした。
3つ目は、AIの提案を鵜呑みにせず、人間が最終判断を行う姿勢を保ったことです。AIは優秀な提案をしてくれますが、組織固有の事情や暗黙の制約までは理解できません。「優秀なコンサルタントの提案」として受け止め、採用するかどうかは人間が判断するというルールを徹底しました。
今後は、この取り組みをさらに発展させていく予定です。
まず、プロジェクトごとのナレッジ整備をテンプレート化し、新しいプロジェクトでもすぐにAIを活用できる体制を構築します。現在は担当者ごとに整備の仕方が異なるため、標準化することで組織全体の生産性向上を目指します。
また、AIX事業部で得られたノウハウを他事業部へ横展開することも計画しています。人材紹介事業や不動産事業でも、マーケティング戦略の立案や業務プロセスの改善など、AIを内部コンサルとして活用できる場面は多いと考えています。
少人数でも大きな成果を出すために、AIを「内部コンサル」として活用するアプローチは、同じような課題を抱えるベンチャー企業にとって有効な選択肢になるはずです。本記事が、AI活用を検討されている方々の参考になれば幸いです。