執筆者:上山卓真(CTO兼CAIO)
KDDI×アクセンチュアのDX専門ベンチャー「株式会社ARISE analytics」に約7年間在籍。データサイエンティストとして、約200名の副事業部門長を担い、データ・AIの専門家として活躍
bloom株式会社にてCTO兼CAIOとして、データ・AIを含むテクノロジー全般の活用を推進
キャリアアドバイザー(CA)の面談品質を向上させるため、AIによる自動フィードバックの仕組みを導入しました。
課題: 1対1のオンライン面談が主流となり、上長が面談内容を把握できず、CA自身も振り返る機会を持てませんでした。
解決策: Google Workspace FlowsとカスタムGemを活用し、面談終了後に自動でフィードバックが生成・通知される仕組みを構築しました。
成果: 利用率100%を達成しました。CA自身の振り返り機会の創出に加え、マネージャーによる育成・指導が可能になりました。
当社BCA事業部では、人材紹介事業を展開しています。キャリアアドバイザー(CA)は、転職を希望する求職者と面談を行い、キャリアの棚卸しから求人紹介、選考支援、入社後のフォローまでを一貫してサポートしています。
この面談は、人材紹介事業の根幹を成す重要なプロセスです。面談の質が、求職者の満足度や成約率に直結します。そのため、面談品質の向上は事業成長における最重要課題の一つでした。
従来、面談品質を担保する方法として、上長による面談同席を行っていました。上長が面談に同席することで、CAの面談スキルを直接観察し、終了後にフィードバックを行うという形式です。この方法は、リアルタイムで具体的な指導ができるという点で効果的でした。
しかし、オンライン面談が主流となる中で、この従来の方法にいくつかの課題が顕在化しました。
まず、上長のスケジュール調整が難しくなりました。対面での面談であれば、同じオフィス内で自然と同席できる機会がありましたが、オンライン面談では事前にカレンダーを調整して参加する必要があります。上長自身も多くの業務を抱えているため、すべての面談に同席することは現実的ではありませんでした。
次に、1対1で行われる面談の中身がブラックボックス化しました。オンライン面談は、CAと求職者の2名だけで行われることがほとんどです。上長が同席しない限り、面談でどのような会話が行われたのか、CAがどのような対応をしたのかを知る術がありませんでした。
結果として、面談内容に対するフィードバックの機会が大幅に減少しました。上長が同席できた面談についてはフィードバックが行われますが、それ以外の多くの面談については、何も指導がないまま終わってしまう状況でした。
面談同席が難しくなったことで、CA自身にも影響が出ていました。
CAにとって、自分の面談を客観的に振り返る機会がないことは大きな問題です。面談中は求職者との会話に集中しているため、自分がどのような質問をしたか、どのような反応を示したかを正確に覚えていないことも多くあります。面談後に記憶を頼りに振り返ろうとしても、主観的なバイアスがかかってしまい、正確な振り返りは困難でした。
また、良かった点や改善点を言語化できないため、成長実感が得にくい状況でした。何となく「今日の面談はうまくいった」「今日はうまくいかなかった」という感覚はあっても、なぜうまくいったのか、何が足りなかったのかを具体的に把握できません。これでは、次の面談に向けた改善が難しくなります。
特に新人CAにとっては、自己流の面談スタイルが定着してしまうリスクがありました。フィードバックを受ける機会が少ないまま面談経験を重ねると、良くないクセが身についてしまう可能性があります。一度定着したスタイルを後から修正するのは、最初から正しいスタイルを身につけるよりも難しいものです。
こうした課題を解決するため、AIを活用した面談フィードバックの自動化に取り組むことにしました。
Google Workspace Flows(Googleが提供するノーコードのワークフロー自動化ツール)を活用し、自動化フローを構築しました。Google Workspace Flowsは、2025年4月にGoogleが発表した新しいツールで、プログラミングなしでGoogle Workspaceアプリ間の連携を実現できます。
全体の流れは以下のとおりです。
まず、Googleカレンダーに登録された面談予定に、サービスアカウントが自動で参加します。サービスアカウントとは、人間のユーザーではなくシステムが使用する専用のアカウントです。このアカウントをすべての面談予定に自動で追加する仕組みを構築しました。
次に、Google Meetの議事メモ機能によって面談内容が文字起こしされます。サービスアカウントが会議に参加することで、Geminiによる議事メモの自動取得が可能になります。この文字起こしデータが、フィードバック生成の基礎となります。
面談終了後、Workspace Flowsがトリガーとなり、カスタムGem(Geminiをベースにカスタマイズしたチャットボット)がフィードバックを生成します。カスタムGemには、あらかじめ設定したフィードバックの評価観点とプロンプトが組み込まれており、面談内容を分析して具体的なフィードバックを出力します。
生成されたフィードバックは、Google Chatに自動通知されます。CAが日常的に使用しているコミュニケーションツールに直接届くため、新しいツールを開く必要がありません。
面談終了から約5分で、CAのもとにフィードバックが届きます。記憶が新しいうちにフィードバックを確認できるため、振り返りの効果が高まります。
フィードバックの内容は、経営陣・マネジメント層で議論し、「求職者が当社経由で成約するにあたってリスクとなり得る観点」を評価軸として設定しました。
この評価軸の設定は非常に重要です。単に「良い面談だったかどうか」という漠然とした評価ではなく、ビジネス成果に直結する具体的な観点を設定しています。人材紹介事業において、求職者が成約に至らない原因を分析し、その原因を早期に発見・解消するための観点を盛り込みました。
具体的には、以下のような観点を含みます。
求職者の本音を深掘りできているかという観点があります。求職者は、初回の面談では本当の転職理由や希望条件を話さないことがあります。表面的な情報だけで求人を紹介してしまうと、後から「実は違った」というミスマッチが発生します。本音を引き出すための質問ができているかを評価します。
競合エージェントの利用状況を把握できているかという観点もあります。求職者の多くは、複数の転職エージェントを同時に利用しています。競合の状況を把握していないと、他社に先を越されてしまうリスクがあります。どのエージェントを使っているか、どのような求人を紹介されているかを確認できているかを評価します。
キャリアの選択肢を提示し価値提供ができているかという観点も重要です。CAの役割は、単に求人を紹介することではなく、求職者のキャリア形成を支援することです。求職者が気づいていない選択肢を提示したり、市場価値を客観的に伝えたりすることで、CAとしての価値を提供できているかを評価します。
これらの観点に基づき、AIが面談内容を分析し、改善点や次のアクションを提案します。評価観点は固定ではなく、日々の課題感に応じて適宜調整しています。
フィードバックは、構造化された形式で出力されます。単なる感想や総評ではなく、CAがすぐにアクションを起こせるような具体的な内容を心がけました。
出力は以下のような構成になっています。
「致命的な問題」として、このままでは成約に至らないリスクが高い事項を指摘します。たとえば、「求職者の転職時期が曖昧なまま放置されている」「競合情報を確認していない」といった、すぐに対処すべき問題を明示します。
「見落としている可能性が高いこと」として、面談中に確認すべきだったが漏れている可能性のある事項を指摘します。たとえば、「報酬体系について具体的な確認ができていない」「キャリアパスの期待値にギャップがある可能性」といった内容です。
「レビューワーからのアドバイス」として、ベテランCAの視点からの助言を提供します。求職者の心理状態の推測や、次回面談で意識すべきポイントなどを含みます。
「今週中に必ずやるべきこと」として、具体的なアクションリストを提示します。「〇〇について追加でヒアリングする」「△△企業への書類提出を進める」といった、明確なタスクとして示します。
Google Chatにはサマリが通知され、詳細版はURLをクリックして確認できる形式としました。サマリでは重要度の高い指摘事項のみを表示し、詳細を確認したい場合は別途URLから全文を読めるようにしています。日常の業務環境で自然に目に入り、必要に応じて深掘りできる設計を意識しています。
この仕組みで最も重要視したのは、利用率100%を実現する設計です。どんなに優れたツールでも、使われなければ意味がありません。多くの企業でAIツールの導入が進んでいますが、導入後に利用率が低下してしまうケースは少なくありません。私たちは、この「使われなくなる問題」を設計段階から徹底的に排除しました。
従来のツール導入でよくある失敗は、「使う・使わない」の判断をユーザーに委ねてしまうことです。忙しい業務の中で、新しいツールを能動的に使い続けることは容易ではありません。最初は物珍しさから使っていても、日常業務に追われる中で次第に使わなくなってしまうケースがほとんどです。
この問題を解決するため、今回の仕組みでは、Googleカレンダーの面談予定にサービスアカウントが自動で追加されるようにしました。CAが何もしなくても、サービスアカウントが面談に参加し、フィードバックが生成されます。「使わない」という選択肢そのものを排除しました。
重要なのは、CAに追加の作業を一切求めていないという点です。ツールを起動する、録音ボタンを押す、ファイルをアップロードする、といった操作は一切必要ありません。CAは普段どおりにカレンダーに面談予定を登録し、Google Meetで面談を行うだけです。あとはすべて自動で処理されます。
この設計により、利用率は最初から100%です。正確には、「利用しない」ということができない設計になっています。
フィードバックの通知先は、日頃から業務で使用しているGoogle Chatを選択しました。新しいダッシュボードやアプリケーションを開く必要がなく、面談が終わって業務環境に戻ると、自然とフィードバックが目に入ります。
なぜ新しいツールではなく、既存のGoogle Chatを選んだのでしょうか。それは、新しいツールを導入すると、そのツールを開くという行動自体がハードルになるからです。ブラウザでブックマークを探してクリックする、あるいはアプリを起動する。この数秒の手間が、日々の業務の中では大きな障壁になります。
Google Chatであれば、CAは日常的にチームメンバーとのやり取りで使用しています。面談が終わって席に戻り、いつもどおりチャットを確認すると、そこにフィードバックが届いている。この「業務の流れの中に溶け込む設計」が、継続的な利用につながっています。
また、Google Chatであれば通知も自然に届きます。デスクトップ通知やモバイル通知を受け取ることができるため、フィードバックが生成されたことを見逃すことがありません。
導入にあたって意識したのは、とにかくハードルを下げることです。どんな小さなハードルでも、積み重なると大きな障壁になります。
CA側の操作は一切不要です。前述のとおり、特別な操作をする必要がありません。新しいツールのログインや設定も不要です。Google Workspaceの中で完結するため、追加のアカウント作成や初期設定は発生しません。既存のGoogle Workspaceアカウントがあれば、それだけで利用できます。
さらに、学習コストも最小限に抑えました。フィードバックはGoogle Chatに届き、URLをクリックすれば詳細が見られる。この単純な流れは、誰でも直感的に理解できます。マニュアルを読む必要も、研修を受ける必要もありません。
この設計により、導入初日から利用率100%を達成し、現在も維持しています。「使われない」という事態が発生しようがない設計にすることで、AI活用の効果を最大化しています。
面談終了後、すぐにフィードバックが届くことで、CAは自分の面談を客観的に振り返れるようになりました。これまでは「何となくうまくいった」「何となくうまくいかなかった」という曖昧な感覚しかありませんでしたが、具体的なフィードバックによって、何が良くて何が足りなかったのかが明確になりました。
「この質問をもっと深掘りすべきだった」という気づきが得られます。面談中は会話の流れで進んでしまい、重要な質問を掘り下げきれないことがあります。フィードバックを読むことで、「ここで止まらずにもう一歩踏み込むべきだった」というポイントが明確になります。
良かった点も言語化されるため、成功パターンを認識できます。改善点だけでなく、良かった点についてもフィードバックされます。「この質問の仕方は効果的だった」「この情報提供は求職者にとって価値があった」という positive な指摘は、成功体験を言語化し、再現性を高めることにつながります。
次の面談に向けた改善点が明確になりました。フィードバックには「今週中に必ずやるべきこと」というアクションリストが含まれています。次に何をすべきかが明確になることで、漫然と次の面談を迎えることなく、目的意識を持って準備ができるようになりました。
副次的な効果として、マネージャーが面談内容を把握できるようになりました。これは当初の想定を超えた大きな成果です。
同席しなくても、フィードバック内容からCAの課題が見えるようになりました。マネージャーはすべてのCAのフィードバックを確認できます。フィードバック内容を見れば、各CAがどのような面談を行っているか、どのような課題を抱えているかが把握できます。これにより、同席していない面談についても、一定の情報を得ることができるようになりました。
1on1ミーティングで具体的な指導ができるようになりました。従来のマネジメントでは、「最近の面談どう?」という漠然とした質問から始めるしかありませんでした。今は、「先週のAさんとの面談で、競合情報の確認が漏れていたみたいだけど、その後フォローした?」というように、具体的な事実に基づいた会話ができます。
チーム全体の面談品質の傾向を把握することも可能です。複数のCAのフィードバックを横断的に見ることで、チーム全体としての課題が見えてきます。たとえば、「本音の深掘りが弱いCAが多い」という傾向がわかれば、チーム全体での研修テーマとして取り上げることができます。
従来は「面談の中身が見えない」という課題がありましたが、この仕組みによってマネージャーがCAにフィードバックしやすい環境が整いました。これは、組織としての人材育成力の向上につながっています。
「面談が終わると、自然とフィードバックが届いている状態なので、振り返りが習慣化しました。特に、自分では気づかなかった観点を指摘されることが多く、次の面談に活かせています。最初は『AIに評価される』という抵抗感もありましたが、今では自分の成長のために欠かせないツールになっています。」(キャリアアドバイザー)
「これまで面談同席ができず、どう指導すればいいか悩んでいました。今はフィードバック内容をもとに具体的なアドバイスができるので、育成がしやすくなりました。特に新人CAの立ち上がりが早くなった実感があります。以前は自己流のスタイルが定着してから矯正するのに苦労していましたが、今は早い段階で軌道修正ができています。」(マネージャー)
今回の取り組みで得られた成功のポイントは3点です。
1点目は、利用率100%を目指した設計思想です。自動化と業務環境への統合により、使わない選択肢を排除しました。AI活用において最も重要なのは、高度な技術を使うことではなく、確実に使われる仕組みを作ることです。どんなに優れたツールでも、使われなければ価値はゼロです。私たちは、使われないリスクを設計段階から排除しました。
2点目は、経営陣と連携した評価観点の設計です。課題起点のフィードバックにより、実践的な改善につなげています。フィードバックの内容は、単なる面談テクニックの評価ではなく、ビジネス成果に直結する観点を設定しました。これにより、フィードバックを受けたCAは、なぜその改善が必要なのかを理解できます。
3点目は、ノーコードツールの活用による迅速な導入です。Google Workspace Flowsを活用することで、約1週間で構築できました。従来であれば、システム開発会社に依頼し、要件定義から開発、テストまで数ヶ月かかるようなプロジェクトです。ノーコードツールの活用により、アイデアを素早く形にし、運用しながら改善していくことが可能になりました。
運用を続ける中で、新たな課題も見えてきました。
同じようなフィードバックが続くと、CAが見なくなる傾向があります。毎回似たような指摘を受けていると、「また同じことか」と思って読み飛ばしてしまうリスクがあります。そのため、評価観点を定期的に見直し、PDCAを回し続ける必要があります。日々の課題感に応じて評価観点を微調整し、常に新鮮なフィードバックを提供できる仕組みを目指していきます。
また、現在はGoogleWorkspace上のカスタムGemを使用しており、モデルの性能はGemini 2.5 Flash(仮説)に相当します。将来的には、より高性能なモデルを使用することで、フィードバックの質をさらに向上させることも検討しています。
今後は、企業との面談への展開も検討しています。現在は求職者との面談のみを対象としていますが、企業との商談においても同様のフィードバックが有効と考えています。また、他事業部への横展開も視野に入れています。人材紹介事業で得られた知見を、他の対人サービスにも応用していく予定です。
7. 最後に
AI活用は、大規模なシステム開発がなくても始められます。今回のように、既存の業務環境を活用し、ノーコードで素早く構築することで、短期間で成果を出すことができました。重要なのは、完璧なシステムを目指して開発に時間をかけるのではなく、まず動くものを作り、運用しながら改善していくことです。「まず小さく始めて、運用しながら改善する」というアプローチが、AI活用成功の鍵となります。