那覇・浦添の開業医の皆さま。診療に集中できる体制作り、承ります。
セルフ・キャリアドック(SCD)は、制度ではなく“視点”であり、人と向き合う関わり方のひとつです。このコラムでは、キャリアコンサルタント・アンコンシャスバイアス講師の視点から、日常の出来事や報道、裁判事例を手がかりに、「なぜSCDが必要なのか」「どのように人と組織、そして企業の信用を守れるのか」を考察しています。経営者・人事担当者にとって、SCD導入を“現実的な選択肢”として捉えるきっかけになれば幸いです。
目次
本コラムは、特定の人物や組織を断罪することを目的としたものではありません。ハラスメントの有無や事実認定について述べるものではなく、民間企業と自治体の制度上の違いに着目し、「対応の難しさ」と「組織として取るべき構造的な備え」について、企業の皆さまに参考としていただけるよう執筆しています。
2025年7月、沖縄県南城市において市長に対する不信任案が審議されました。
賛成多数ではあったものの、出席議員の4分の3以上という法的要件に届かず、否決という結果に終わりました。
一見すると政治的な出来事のように見えますが、実はこの構図には、企業がハラスメント対応や組織ガバナンスを考えるうえでの重要な示唆が含まれています。
私はキャリアコンサルタントとして、民間企業の人材定着やハラスメント対策を支援しています。
今回のような地方自治体の首長によるハラスメント案件は、民間企業とは構造が大きく異なります。
民間企業では、経営層や人事部門が人事権を持ち、ハラスメントの加害者に対して異動・降格・解雇などの対応が可能です。外部調査や第三者委員会を通じて、比較的迅速に被害者保護と事実確認が行える体制も整ってきました。
一方、首長は選挙によって選ばれるため、「上司」や「監督者」にあたる存在がいません。どれほど深刻な訴えがあっても、辞職や処分に至るまでには高いハードルがあります。
つまり、政治的な信任が倫理的責任を上回ってしまうという構造的な矛盾が存在しているのです。
こうした構造は、公的機関だけの問題に見えるかもしれません。
しかし、働く誰もが「組織トップに声が届かない空気」や「告発をためらわせる心理的な抑圧」を感じたことがあるのではないでしょうか。
たとえば、家族経営の企業や、ワンマン社長が長年率いてきた組織では、「ハラスメント行為者=権限を持つ人物」となることが多く、是正の力が働きにくくなる傾向があります。
なぜなら、今でこそ世論が敏感に反応しますが、一昔前までは、被害者が声を上げることは困難であり、沈黙とともにその場を去る(離職する)ことが主流だったからです。
この南城市の事例から学べるのは、「制度の限界」だけではありません。
むしろ重要なのは、組織内部に「正しい声を拾える仕組み」を構築することです。
私の顧問先でも、セルフ・キャリアドック制度の導入や、定期的な組織風土調査、外部相談窓口の設置を通じて、リスクの芽を早期に発見する体制づくりを支援しています。
さらに、上司・部下間のコミュニケーションを整える「対話型アプローチ」や、「責任の取り方・謝り方」を学ぶ研修、ハラスメント関連研修を通じて、「管理職としての覚悟の醸成」**に取り組む企業も増えてきました。
政治の世界と異なり、企業には「柔軟に動かせるルール設計」が可能です。
トップが孤立しない仕組み。社員の声が届く制度。ハラスメントを“個人の資質”ではなく、“組織内の対人関係構造の歪み”として捉える視点。
これらが整ってこそ、持続可能で信頼される組織運営が実現できます。
私たちは誰しも、「ある日突然、加害者と告発される」「被害者となる」可能性があります。
身に覚えがあるならまだしも、事情が適切に把握されない、客観性や公平性に欠ける、感情論優位な支援体制では、状況は暗澹とするばかりです。
だからこそ、第三者による状況把握が不可欠です。
一般的に、弁護士や社労士に相談する企業が多いと思います。弁護士は「法」を、社労士は「制度」を武器に課題解決を図ります。
では、キャリアコンサルタントは何を武器にするのか——それは「心理」です。
ハラスメントは、人の価値観に深く根ざした言動から生じるため、非常に捉えどころが難しい課題です。
キャリアコンサルタントは、クライエントの行動変容を支援する専門家として、言動(行動)から心理をたどり、心理から言動を再構築するお手伝いをします。
たとえば、パワハラ行為を認めない行為者が、対話を重ねる中で次第に自らの行為を理解し、認められるようになる。
あるいは、行為者に対する強い怒りを抱えていた被害者が、自ら過去の遺恨を断ち切り、再出発する力を取り戻す。
このような心理的アプローチは、直接的な対立ではなく、内面の変容を促すものです。
誤解を恐れずに言えば、「いきなり弁護士が出てくる」と、人は警戒します。
警戒すると心を閉ざし、本音を隠すようになります。その結果、問題の本質にたどりつけないこともあります。
これは弁護士のせいではなく、私たちの中にある「権威」や「地位」への無意識の反応です。
極度の警戒心は恐怖となり、恐怖に打ち勝つために人は反撃します。
その反撃が、組織も被害者も、そして行為者やその家族までも巻き込む“炎”となることがあります。
キャリアコンサルタントとして、私が目指すのは「誰も声を飲み込まずに働ける職場づくり」です。
このコラムが、自社の組織課題と向き合う一歩となれば幸いです。
ご関心のある方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
■ 事案の概要:医師によるパワハラで戒告処分
2025年2月、沖縄県病院事業局は、八重山病院に勤務する医師をパワーハラスメント行為により戒告の懲戒処分としました。
この医師は、2021年から2024年にかけて、複数の専攻医に対して強い口調での批判や、無言による威圧などを繰り返していたとされています。
■ 思い込みに気づく:加害者=男性?というアンコンシャスバイアス
このニュースに触れたとき、読者の多くが「年配の男性医師」を思い浮かべたかもしれません。
ところが、実際に戒告処分を受けたのは40代の女性医師です。
このズレは、私たちが持つ**アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)**の表れです。
「パワハラ=男性上司によるもの」という構図に縛られていると、問題の本質を見誤るリスクがあります。
■ 現代のパワハラは「長期・多層化」している
近年のパワハラ事案では、今回のように数年にわたり、複数の被害者が声を上げるケースが目立ちます。
また、「無言の圧力」も含めた威圧的な態度により、相手の自尊感情を毀損することも珍しくありません。
パワハラは大声や暴言だけでなく、静かな攻撃としても現れることがあるのです。
■ 組織の対応が整備されつつある
今回のケースでは、処分前に上司による指導や改善プログラムが数ヶ月間実施されていたとの報道があります。
これは、パワハラ行為者が処分に不服を申し立てた場合に備えた組織的な備えでもあり、
近年ではこうした**「改善措置+記録」による対応の型**が、企業や団体の中で整いつつあります。
■ パワハラ対策は「誰かを守る」だけではない
パワハラ対策は、単に被害者を保護するためのものではなく、組織全体の信頼性を守るための設計である必要があります。
感情論に偏るのではなく、手順・記録・フィードバックのサイクルを整備することが、再発防止にもつながります。
弊所では「セルフ・キャリアドック × 心理的安全性」を軸とし、心理的安全性のある職場環境づくりをサービスとして提供しています。
その一環として、ハラスメントの起きにくい職場環境の整備も手がけています。
心理的安全性の高い職場は、働き方改革や生産性の向上とも直結しています。
ハラスメント対策を目的としたアプローチだけではなく、“誰にとっても公正で健全な職場づくり”を目指すことこそが、持続可能な対策と言えます。
■ 最後に:問い直すべきは「パワハラ像」そのもの
私たちは今、パワハラという言葉のイメージそのものを問い直す時期に来ています。
それは「誰がやったか」ではなく、「どんな行動が人の尊厳を損なったのか」という視点で捉えることが大切です。
そして、対策は被害者・加害者・組織のどれか一方に偏るのではなく、全体の関係性と構造の中で考えるべき時代に来ています。
心理学では社会構成主義などの学びがこの手のテーマと親和性があると考えます。興味のある方はぜひ検索されてみてください。
X(旧Twitter)で話題となった「贈り物がパワハラ認定された」件について考える
X(旧Twitter)で話題となった投稿によると、ある会社の部長が部下の送別会でバスタオルを贈り、後日パワハラ認定を受けたそうです。この件について、SNS上では「過剰反応では?」と戸惑う声が多く上がる一方で、「消え物やギフトカードが無難」という意見もあり、贈り物の難しさが議論されています。
この話題を詳しく調べたところ、現時点では間接的な情報が拡散しているにすぎず、事の真相は明確ではありません。特に、「男性上司」「餞別」「バスタオル」「女性部下」「セクハラ」「組織がそれを認定」という要素が含まれていますが、最も影響が大きいのは「組織がパワハラ認定を下した」という部分です。しかし、これが事実かどうかについては、記事やSNSの投稿を遡るだけでは確認できませんでした。つまり、この問題が「個人の価値観によるもの」なのか、「組織の対応に対する反発」なのかが不明確です。
事実の検証なく拡散される情報のリスク
この話題が示唆する重要な点は、話題の事実性を検証することの必要性です。これは、企業におけるハラスメント対応にも共通する問題です。間接的な情報が一人歩きし、誇張や主観が加わることで、本来の事実とは異なる形で広まり、特定の人物の評価を大きく左右することがあります。
こうした情報の変容によって組織の対応にズレが生じると、不当な評価を受けた社員の人権が侵害されるリスクが生じます。このような誤った対応を防ぐために、まず「その情報がどこまで事実に基づいているか」を慎重に検証する姿勢が求められます。ここを見誤ると、組織は訴えられた際に劣勢に立たされる可能性が高まるのではないでしょうか。
贈り物の捉え方を構成する価値観と埋没する感謝の気持ち
さて、この話題の検証はここで区切りますが、これに類似した出来事が我が家でもありました。具体的なケースを通じて、ハラスメントについて考えてみます。
私の夫は某企業で管理職を務めており、長年尽力してくれた女性部下の退職に際し、「高級入浴剤を贈ろうと思うのだけど、どう思う?」と私に相談してきました。私自身もその女性にお世話になったことがあり、夫の気持ちはよく理解できました。しかし、私は「入浴剤はこのご時世では避けたほうがいい。女性によっては性的なニュアンスを感じるかもしれない」と助言しました。
夫は「まさかそんなことが?」と驚いていました。それもそのはずで、夫にはその女性を性的な目で見る意図はなく、次のような背景から入浴剤を選んでいたのです。
・長年の貢献に対する感謝の気持ちから、少しでも喜んでもらいたかった
・世間一般では女性はアロマや入浴剤を好むという先入観があり、これなら喜ばれると思った
・実際に妻(私)も入浴剤を好んでおり、日常的に使用して喜んでいた
・形に残るものより、実用的で負担の少ない贈り物として適していると考えた
夫が高級入浴剤を贈っていたら、ハラスメントになったのか?
もし夫が実際に入浴剤を贈っていたら、相手はどう反応したでしょうか。私の知る限り、その女性は「ありがとう!これ有名だよね。高くて買ったことがなかったから嬉しい」と好意的に受け取るか、あるいは「いいけど、セクハラとか言われるご時世だから気をつけなよ」と冗談交じりに話す可能性が高いです。
仮に嫌悪感を抱いたとしても、組織に相談するのではなく、自分の胸にしまっていたかもしれません。つまり、「夫とその女性の関係性の中では問題にならなかった」「組織から制裁を受けることはなかった」可能性が極めて高いと考えられます。
何が夫を守ったのか?
仮に入浴剤を送ったとしても、夫は結果的に守られる可能性が高いと考えます。その理由をいくつか挙げます。この話自体の正誤は抜きにして、「こんな視点があるのか」「自分ならどう考えるか」といった観点で考えてみてください。
・日頃の周囲への言動
彼女だけでなく、周囲の人々への普段の接し方が、「あの人ならこういう意図だろう」と受け手に判断される要素になります。日常的にハラスメント的な言動をとっていれば、夫は未来の自分を守ることにはつながっていなかったでしょう。
・誰かと話題を共有する習慣
何事も一人で決めず、雑談しながら意見を聞くことは、自身のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)に気づくきっかけになります。他者の視点が加わることで価値観の押し付けを減らし、結果的に相手の気持ちを損ねることを防ぎ、自分を守ることにつながったのではないでしょうか。
まとめ
・事実確認を怠らず、噂に振り回されないことが重要
・贈り物は受け手の価値観に大きく左右されるため、慎重に選ぶ必要がある
・普段の言動が、その人の意図を正しく理解してもらう基盤をつくる
・意思決定の際は、他者の意見を聞くことでリスクを軽減できる
・企業におけるハラスメント対応は、個々の価値観と組織の対応のバランスを慎重にとることが求められる
このように、ハラスメントの境界線は曖昧ですが、適切な対策と意識を持つことで、不要なリスクを避けることができるのではないでしょうか。
弊所では、企業さまから事例をご提供いただき、それに基づいた事例検証を中心とした研修を実施しております。「相手はどう思うだろうか」「どのような心理が働くだろうか」「なぜ自分はそのような言動をとるのか」「なぜ憤りを感じるのか」など、人の心理の観点からハラスメントを考える研修をご提供しています。
また、琉球スフィア法律事務所と連携し、「法的観点」を加えたハラスメント関連研修もご用意しております。弊所と琉球スフィアは、「それぞれの専門性を活かし、地域社会に貢献する」という共通の理念を掲げ、地域の皆さまに日頃のご恩をお返ししてまいります。
X(旧twitter) による個人の投稿:2023年3月11日 https://x.com/clashiwa_boy/status/1888136258221928710
佐賀新聞電子版 公開日時 2025年01月31日 06:35 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1400486?utm_source=chatgpt.com より
佐賀県が、「能力不足」を理由に50代の男性職員2人を「解雇」に相当する分限免職処分にしていたことが30日、分かった。正職員では佐賀県庁で初めてのケース。①半年間に及ぶ研修後も改善が見られず、「最下位の職位に降任しても見合った仕事ができない」と判断した。処分は2024年2月29日付。県は、成果主義を取り入れる趣旨の地方公務員法改正に基づき、2016年度から人事評価制度を導入。②分限処分は同法に規定があり、勤務実績がよくない▽適格性を欠いている▽心身の故障により職務遂行に支障がある―などを理由に降任、免職できるとしている。不祥事を起こした職員への懲戒処分とは異なり、退職手当は全額支給される。県は人事評価で③ 2年連続で最低評価」などの場合に、業務に支障がある「要支援職員」とみなす。④庁内の判定委員会などを経て、6カ月の「職員能力向上支援プログラム」の対象になるかどうか決定する。
琉球新報朝刊 公開日時 2025年02月01日 05:00更新日時 2025年02月01日 14:36 https://ryukyushimpo.jp/news/national/entry-3919747.html より
第11管区海上保安本部は31日、巡視船で作業中の部下職員1人を大声で怒鳴りつけるなどのパワーハラスメント行為が認められたとして、石垣海上保安部所属(当時)の1等海上保安正の男性職員(55)を同日付で減給3カ月(10分の1)の懲戒処分にしたと発表した。石垣海保によると、男性は2020年8月、巡視船に搭載された小型艇の準備作業をしていた部下を、 ① スピーカーで「何をしてるんだ」と② 怒鳴りつけた。③ 作業後も、④ 他の複数の職員の前で「何でそんなに時間がかかったんだ」などと⑤ 10分以上、⑥強く叱責(しっせき)したという。*掲載元の文章に数字①から⑥および下線を加筆しています。