敗血症(Sepsis:セプシス)の認知を高める活動
敗血症(Sepsis:セプシス)の認知を高める活動
Global Sepsis Alliance 理事
名古屋大学大学院医学系研究科
救急・集中治療医学分野
教授 松田直之
Prof. Naoyuki Matsuda, M.D., Ph.D.
敗血症(sepsis:セプシス)は,感染症において臓器の機能が低下する状態です。この敗血症が,全身性炎症,サイトカインストームの病態として国際的に定義されたのは1992年でした 1) 。そして,2016年より敗血症は,感染症において臓器機能不全が進行する状態として再定義されました 2) 。現在,集中治療は集中治療室において,このような臓器機能不全が急に進む状態の治療として,その学術および診療技術として発展してきています 3-5) 。
敗血症の認知を高める活動は,まず2002年10月に欧州集中治療医学会のバルセロナ宣言 6) として開始されました。敗血症による死亡率を5年間で25%低下させる活動として,Surviving Sepsis Campaign(SSC)が国際的活動として開始されました。このバルセロナ宣言では,1)敗血症の認知を高めること,2)敗血症の診断法を確立すること,3)一貫した診療手順と適切な治療法を確立すること,4)世界標準の敗血症診療ガイドラインを作成すること,5)敗血症の診療支援と教育体制を充実させること,6)集中治療室の入退室前後の一貫した診療の質の維持すること,この6つのアクションプランが提案されました。そして,世界標準の敗血症ガイドラインとして,2004年に初めてSurviving Sepsis Campaignガイドライン(SSCG) 7) が公表され,日本においても2012年にはじめて日本版敗血症ガイドラインを公表し,4年毎の改訂として世界標準の敗血症診療ガイドラインが普及されるようになりました。
一方で,バルセロナ宣言が目標とした2007年を超えても,敗血症の認知と治療成績を高める活動は発展途上国を含めて国際的に必要とされました。2010年にニューヨークで開催されたMerinoffシンポジウムにおいて,敗血症および集中治療の国際的リーダーによりGlobal Sepsis Alliance(GSA)が結成され 8, 9) ,敗血症の認知を高める活動として毎年9月13日をWorld Sepsis Day(世界敗血症デー)と定めました。敗血症の重症化を防ぎ,敗血症からの救命率を高める活動が継続されています。2017年5月26日に,世界保健機関(World Health Organization:WHO)の定例会議World Health Assemblyにおいて,「敗血症は世界における健康上の優先課題」として議決され,そして,昨年2023年9月12日に私たちはこの重要性を再び確認し,さらに活動を継続するために「ベルリン宣言」 10) を行いました。そして,本年2024年9月10日 11)に私たちGSAは「2030 Global Agenda for Sepsis」を世界に公表させていただきます。
現在,GSAは2030年までに,1)感染予防策の徹底による敗血症発症率の低下,2)行政主導の感染症予防・抗菌薬の適正使用・敗血症の早期発見と早期治療の政策立案,3)早期認知システムと救急診療の標準化,4)全世界の罹患者すべてに対するリハビリテーションの普及,5)専門家だけではなく一般の皆さんへの敗血症に対する認知と理解の向上,6)敗血症の社会への負の影響の明確化という,6つを達成目標としています。発展途上国における衛生面や学術面での支援,敗血症診療に素早くかかることができるように,さらに敗血症罹患後のリハビリテーションの普及が必要とされています。敗血症は,感染症の重症化したときにどのようになるのかを具体的に考えるための病態名です。GSAは,敗血症の認知を国際的に高め,診療をより高めることに尽力しています。
【文献】
1. American College of Chest Physicians/Society of Critical Care Medicine Consensus Conference: definitions for sepsis and organ failure and guidelines for the use of innovative therapies in sepsis. Crit Care Med. 1992; 20: 864-874.
2. Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al. The third international consensus definitions for sepsis and septic shock (Sepsis-3). JAMA 2016;315:801-810.
3. 松田直之. 集中治療:進歩と未来〜50周年を振り返って〜敗血症・敗血症性ショック:病態生理の解明と治療戦略の進歩と未来. ICUとCCU. 47:181-189,2023
4. 松田直之(執筆・編集). 救急・集中治療アドバンス 敗血症 〜感染症と臓器障害への対応〜. 2023年1月20日発刊 株式会社 中山書店,東京
5.松田直之.【識者の眼】Global Sepsis Alliance:敗血症の認知を高める活動. 日本医事新報 2023年09月02日発行.
6. Slade E, Tamber PS, Vincent JL. The Surviving Sepsis Campaign: raising awareness to reduce mortality. Crit Care. 2003;7:1-2.
7. Dellinger RP, Carlet JM, Masur H, et al. Surviving Sepsis Campaign guidelines for management of severe sepsis. Crit Care Med 2004; 32:858-873.
8. Czura CJ. Merinoff symposium 2010: sepsis-speaking with one voice. Mol Med. 2011;17:2-3.
9. Global Sepsis Allianceホームページ. https://globalsepsisalliance.org
10. 松田直之. 敗血症ベルリン宣言について.
https://blog.goo.ne.jp/matsubomb/e/b6ae913b84ace5f323f4bd6a4e5a756c
11. Global Sepsis Alliance. 2030 Global Agenda for Sepsisの世界配信