研究テーマ例「ユニークな自作パルス強磁場を作る研究」
研究テーマ例「100テスラ強磁場によるコバルト酸化物のスピンクロスオーバーと秩序化」
研究テーマ例「100テスラ強磁場による強磁性固体酸素の結晶構造解明を目指す」
研究テーマ例「ベクトルパルス磁場を利用した異方的物性の3Dマッピング」
研究テーマ例「1000テスラ化学:1000テスラ超強磁場による物質中の化学結合切断」
研究テーマ例「ユニークな自作パルス強磁場を利用した新研究:宇宙科学・素粒子・プラズマ・生命科学への展開」
研究テーマ「ユニークな自作パルス強磁場を作る研究」
私達は強い磁場を作るためにパルス磁場を自作しています。パルス磁場は、一瞬のうちに大電流をコイルに流して磁場を作る方法で、コイルの発熱を避けることで、通常ではたどり着かない強磁場を発生できます。100テスラを超える領域では磁場自身の反発力によって、コイルが毎回爆発する、破壊型パルス磁場を利用します。池田研究室ではポータブルタイプの40テスラの非破壊パルス磁場装置や、ポータブルタイプの破壊型100テスラ発生装置を開発しています。ポータブル100テスラ装置は世界で唯一の装置です。X線自由電子レーザーSACLAと組み合わせることで、テーマ①や②などの唯一無二の実験に利用していますポータブル40テスラ装置では、基本的な物性計測にとどまらず、ベクトルパルスマグネットや100Hz高速AC磁場などのユニークな装置に応用することで、やはり唯一無二の実験に利用しています。
研究テーマ「コバルト酸化物のスピンクロスオーバーと秩序化」
私達はLaCoO3という非磁性物質に1000テスラ級の超強磁場をかけることで複数の相転移を発見しました。コバルト酸化物にはスピン状態自由度というユニークな自由度があり、外部磁場でスピンの長さを操作できる特徴があります。非磁性であるLaCoO3の磁場誘起相転移は、何もない空間からスピンを持った粒子が飛び出してくるような現象であり、真空場に磁場をかける実験に類似しています。これらの新規相はスピン状態が規則的に並んだスピン状態結晶や、スピン状態が量子力学的に非局在化したスピン状態のボーズアインシュタイン凝縮相ではないかと考えられています。現在は、これまでのマクロ物理量の測定に加えて、X線によるミクロ計測手段を使って、この起源を探ることに挑戦しています。
コバルト酸化物におけるスピン状態自由度とエキシトン自由度の対応関係
A. Ikeda, et al., JPSJ (2024)
A. Ikeda, et al., Nat. Commun. (2023)
A. Ikeda, et al., PRL (2020)
A. Ikeda, et al., PRB (2016)
池田暁彦、他 固体物理, 52, 335 (2017). pdf
研究テーマ「強磁性固体酸素の結晶構造解明を目指す」
私達は強磁性磁石になった固体酸素の結晶構造を解明しようとしています。酸素分子は一つ一つがスピン1をもつ分子磁性体です。低温で液化し、さらに低温で固体になります。固体酸素でスピンが互い違いに並ぶ反強磁性という状態になります。このとき、分子軸同士が平行に並んだ結晶構造をとります。この結晶構造は磁性がない場合(例えば固体窒素)にとるべき結晶構造とは全然異なります。固体酸素は磁性を優先して、特別な結晶構造をとっているというわけです。ここに100テスラというチョー強い磁場をかけると、磁性が壊れ強磁性磁石になることまでわかっています。私たちはこの強制強磁性状態になった固体酸素の、全く新しい結晶構造を解明したいと考えています。このために独自開発した100テスラX線回折法を役立てようと思っています。
A. Ikeda, et al., 固体物理 (2017)
A. Ikeda, et al., Megagauss-2018 (2018)
研究テーマ「結晶対称性を反映した異方的物性の3Dマッピング」
私達はビスマスの異方的金属状態を3次元ビジュアル化しようとしています。磁場はベクトル場であり、ベクトルには矢印の向きの自由度があります。磁場やスピンは時間反転対称性を破ります。結晶は並進・回転対称性が離散化しており、その対称性によって物性が大きく左右されます。例としてビスマスでは、その電子磁気物性が非常に異方的であることが知られており、さらに低温で不思議な回転対称性が発現することが知られています。この謎を解明するため、私達は独自開発したベクトルパルスマグネットを駆使して、ビスマスの異方的金属状態を3次元ビジュアル化しようとしています。また、この独自技術を使って、様々な物質の異方的性質を明らかにするつもりです。
研究テーマ「1000テスラ超強磁場による物質中の化学結合切断」
10万テスラ程度の磁場があれば、共有結合のスピンシングレット状態が解消し、共有結合自体が崩壊すると予想されます。つまり超強磁場中では物質の化学結合状態が大きく変貌します。1000テスラの磁場領域でも固体中の共有結合など、エネルギースケールの小さな化学結合が切れ始めると予想しています。このような現象を探索するのが本研究の目的です。
研究テーマ「自作パルス強磁場を利用した宇宙科学・素粒子・プラズマ・生命科学への展開する研究」
本研究室の自作パルス磁場装置があれば、研究の興味はほぼ無限の広がりがありえます。大きなスケールから考えると、宇宙には広大な残留磁場が遍歴していて、プラズマの流れに影響しています。また、超新星爆発や中性子星からのジェットには磁場によるコリメーション効果が聞いています。さらに天体の地磁気は液体金属の運動により支えられていると考えられています(磁気流体ダイナモ理論)が、地球や太陽で見られる磁場反転を説明できる理論はありません。鳥や微生物には地磁気を感じ取るものがいますが、その理由や詳細はほぼ不明です。物質の量子多体効果やエキゾチックなトポロジカル物性と磁場の相互作用は新発見の宝庫です。さらにサブアトミック領域では、真空の偏極や新粒子探索において強磁場がキーワードとなっています。これらの広範な強磁場研究のどれかを、自らの手で開拓することは、ロマンにあふれた新時代の研究と言えます。
他にもやってみている・やりたいこと
先端ひずみ計測による物性物理
エキゾチック超伝導体の磁気ひずみ物性
Crのスピン密度波とひずみ
固体酸素の磁気ひずみ
近藤絶縁体の磁気ひずみ
Fe3O4の超強磁場ひずみとVerwey転移
ひずみ印加による物性制御
コバルト酸化物の励起子凝縮をひずみでコントロールする
高温超伝導をひずみで誘起する
その他の磁性研究
磁性体における時間結晶の実現とその特異的な崩壊
近藤絶縁体の非相反輸送