WTA vs ATP

1. WTA,ATPって?

WTA: Women's Tennis Association

ATP: the Association of Tennis Professionals

ATPが実際には男子プロのことですが,Menが入ってないあたり微妙ですね。テニスは元々男のものだったから言うまでもない,的なことでしょうか。

…ポリコレ的な話はさておき,それでは以下の参考動画を観てみましょう。男子プロと女子プロとで何が違うか考えた後,解説です。

ATP vs WTA Forehandでは,以下の7点が述べられていました。特に大切と個人的に思う点は太字にし,以下に画像を載せていきます。(矢印はWTA←→ATPの順で対比を表します。)

  1. テイクバック時のラケット位置:身体の後ろ側←→身体の前側
  2. 非利き手のつかい方
  3. 肘の位置:低い&身体に近め←→高い&身体から遠い
  4. 手とラケットヘッドの位置関係:ラケットヘッドの方が身体の後ろ側←→身体の前側
  5. 手首の動き
  6. フォロースルー:肩の上←→腰の横

また,この動画には挙げられていませんでしたが,スイング軌道も大切です。(その結果として,フォロースルーがどこで終わるかが決まってくるわけです。)

以上の点を意識するあまり,スイングがぎこちなくなっては本当に逆効果です。特にATPフォアハンドは,ムチのようにしなる(このスタイルで球を打つことを, "whip through the ball" と言っている解説動画もあるくらいです!)ことが一番の肝なので。それでは,以下詳しくみていきましょう。

2. テイクバック

とても重要だと思うので2枚載せました。どちらにも共通するのは,オープンスタンスであり上半身と下半身の間にねじれがあるという点です。その意味で,どちらもModern Forehandと言えるでしょう(Classical vs Modern参照)。それでは,違いはどこでしょうか。

左側,ATP(男子)は身体の前側に腕・手首・ラケットヘッドがあることがわかります。

右側,WTA(女子)は身体の真横〜後ろ側に腕・手首・ラケットヘッドがありますね。

3. 手首

さて,手首。違いがわかりますか?(ラケットの画像だけ消すと,より身体の使い方に目が行きますね。技術の進歩…!!)

左側,WTA(女子 ちなみにHalep選手です)は,手首が手の甲側に曲がっていることがわかります。これはインパクトの形を先取りしてつくっているからです。以下の画像をみるとより分かりやすいと思います。左も右も,手首の角度がほとんど同じですね。これは安定につながる要素に思えます。

引用元:Halep: Slow Motion Collection (Cincinnati 2014)

その点ATP(男子 ちなみにフェデラー選手です)は,スイングの準備段階では脱力し,手首もそり返っていないのがわかります。身体の回転によってスイングが始まると,ラケットの重みで手首が自然にそり返り,ラケットヘッドが自然に遅れ,それが戻る際にパワーが出ると言えます。

また,WTAは手首をある程度固めて打つため,インパクト後もその形が残りますが,ATPは手首をゆるめているので,インパクト後,急速にラケットヘッドが前に出ることも特徴です。以下の画像はインパクト直後ですが,ATP(男子)はすでに手首が開放されているのに対し,WTA(女子)は固めたままということがわかります(が,これは動画で観た方が分かりやすい。ATP vs WTA Forehandの13分52秒〜)。

ただ注意して欲しいのは,WTAもATPも,「よし,ここだ!」と意識して手首を開放しているわけではないだろう,ということです。この辺り,頭で考えすぎると逆にぎこちなくなりそうなので(というか自分がまさにそうなので。。汗),脱力したスイングの中でボールを捉える,ということを意識するのが先決だと思います。

4. スイング軌道

引用:ATP Vs WTA Forehand Swings | 4K

左WTAの方がcircular (円形<- circle)で,右ATPの方がlinear (直線的 <- line)です。先にみたテイクバックの位置からボールに向かって振り始めれば,自然にこうなりますよね。

それでは,これはどんな違いを生むか。スイング軌道が丸いと,インパクトが少し早いと左に,遅いと右に飛んでしまいます。その点直線的なスイングなら,インパクトが前後しても同じ方向に飛ぶ,と言えそうです。

5. まとめ―WTA, or ATP: That is the question.

Classical vs Modernのページでも述べましたが,どちらが良い悪いという話ではありません。目指すテニスによって目標とすべきフォアハンドは違うでしょうし,どちらも極めれば安定し強力なものになります。憧れの選手をみつけて,そこに近づくべく努力すればよいと思います。

ですが僕個人の意見としては,最初からATPフォアハンドを目指すべきと思っています。個人的な仮説ですが,「ATP=パワー WTA=安定」という構図はそんなに正しくないのではないでしょうか。どちらでも安定するだろうし,パワーならATPの方が上でしょう。問題は,自分のフォアのどこがATP的でないかを意識できるか,ということです。

自分のみている男子校の部活の現状では,男子生徒の多くはATPフォアを目指しますが,自分のどこが「ATPじゃない」のか,理解できていません。それを理解しながら自分に合った段階を見極めれば,おそらく少しずつ自分のフォアを理想に近づけることはできるはずです。たとえば手首まで緩めるとまだ自分は安定しないと思えば,そこだけWTA的にしておいて,その他をなるべくATP的にして安定させる。その後で少しずつ手首を脱力して打つことを学ぶ,とか(なんとなく,アガシのフォアってそうなのかな,とか思います。違うかも。)。

他にも,肘が身体の後ろに行き過ぎるなら,左手で右肘をつかんでスイングする,など色々な工夫が提案されています(Transforming The WTA Forehand Into ATP Forehand - Tennis Forehand)。

…まあ自分ができていないのに何を偉そうに,という感じですが。笑 以下,一問一答形式で考えを書いておきます。

①どちらが安定するの?

諸説あります。ムチのようにしならせるATPフォアより,手首をある程度固めるWTAフォアの方がインパクトは安定すると言えるでしょう。ただしWTAフォアの方がラケットの移動距離は長いので,その分ブレる要素が大きいと言えます。面感さえあれば,ATPフォアの方が安定する気もします。どちらが安定するかより,「どちらにせよ,安定するまで練習する」が正しいと思います。

②どちらが強く打てるの?

これはより高速化を追い求めるATPプロがほとんどATPフォアであることを考えると自明です。

③そうだとしたら,なんで女子プロの多くはWTAフォアハンドなの?

良い質問ですね。笑

これは日本語で議論されているのをみたことはありませんが,英語圏ではしばしばよく議論されています(たとえば,Atp male forehand vs. female wta forehand. What's the difference?)。その中で面白かった意見がこちら。

"This topic has been thoroughly exhausted. In any event, junior girls have been getting taught the modern ATP style forehand for a while now. It's just a matter of time before it starts showing up on the tour in more abundance.(このトピックは議論され尽くしたでしょ。いずれにせよここ最近はジュニアの女の子たちもATPスタイルのフォアハンドを習っているよ。女子ツアーの中にATPフォアがもっと出てくるのは時間の問題。)

In the mean time, Magdalena Rybarikova (blue dress) has the best example of an ATP style forehand that I've seen on the women's side. Unfortunately, it seems that her career has been hampered by injuries. Here's a video showing her forehand:2016 BNP Paribas Open Round of 16 | Magdalena Rybarikova vs Robeerta Vinci | WTA Highlights(今だって,Magdalena Rybarikova選手はATPフォアの(女子選手における)お手本だよ。怪我でキャリアはだめになっちゃってるけど。ビデオもあるから観てみてよ。)"

このスレッドでは,両者の違いはそう教えられたからなのか,それとも筋力などの性差によるものなのか,という議論がされています。英語の勉強にもなるので,ぜひみてみてください。

(さらに面白かった意見はこちら。あえて訳しませんが,的を射ているのかなと。)

"Boys and girls are taught the same way but the overwhelming majority of girls adopt "WTA" forehand because it comes more naturally to them. It is possible to teach girls the ATP style but it requires constant involved coaching over long period of time to steer them away from the style that feels natural. It is like teaching a lefty to write with his right hand. Boys, on the other hand, will often acquire ATP forehand without any coaching at all, which never happens to girls (with the possible exception of girls who are very tomboyish, aka butch)."

昔でもエナン選手などは,女子選手ながらATPフォアの人でした。何が違いを生んでいるんでしょうね。考えていきたいテーマです。

参考資料