選者4名 今村博子(東京未来図), 小高和子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図) , 小松留美子(檜扇同人)
<特選>
39. 山椒魚哲人めきたる沈思かな 溝渕吉博
・山椒魚の文字を見ると井伏鱒二を思い出す。女学校時代の漢文の先生が鱒二の甥、章典先生であった。その後もまつわる話など松の木にのぼった大山椒魚のことなど。山間の渓流に住み、なかなか動かない姿など哲人のようかもしれない。
<秀句>
51. 蟬声や無言で出でし無言館
<佳作>
10. ふるさとをあとに異郷の暑さかな
26. 睡蓮の葉叢をくぐり鯉静か
37. 揚げ花火瀬戸の小魚驚きて
54. 月を見て今この地球その憂ひ
57. 梨を剥き寝たきりの人美味しいと
<特選>
16. 遠き日の母のミシンや簡単服 小松留美子
・遠き日と簡単服でおそらく大正、昭和時代でしょう、足踏みのカタカタ音がしたようです!作者はそのミシンに思い出がかさなる様子が簡単服でしっかり生活感をだして幅広く詠みとれる作品で
<秀句>
14. 天蓋めき蜘蛛の囲光る庭木かな
<佳作>
12. 荒天の予報蹴散らす夏祭
15. 老鶯や夜明けの窓をそつとしめ
20. 白靴に素足つっこむ伊達男
26. 睡蓮の葉叢をくぐり鯉静か
33. 虚子句碑に紫苑に名残り信濃旅
<特選>
52. 山国の水の匂ひや姫螢 今村博子
・山間の小さな螢の点滅が美しい。山国の清しさ、水の清しさが伝わってきてしみじみとします。
<秀句>
40. この地球毀れはせぬか町極暑
<佳作>
1. 庭石のまだ濡れてをり夕立去る
12. 荒天の予報蹴散らす夏祭
17. 木の根方うす暗がりに蟇健在
23. 待つ人も待たれる人もサングラス
46. きちきちも連れて干し物とりこめり
<特選>
51. 蟬声や無言で出でし無言館 小高和子
・蝉声とはある種の静寂を含んだ不思議な音である。涼しい館内をあとに暑気のただ中で聞く蝉の声。戦没画学生の絵画と対峙した人の心の鎮まり、無言を唯一蝉の声とともに感じる。
<秀句>
6. 白玉の小さき指あと遠き日よ
<佳作>
9. 髪の毛の汗が飛び散る右フック
36. 露の世は未だに目指す成長のみ
49. 天金を拭ひ亡夫の書を曝す
56. 白南風やレゲエのリズムに熱砂踏む
63. 青々と波頭立つキャベツ畑
投句一覧(8月15日)
庭石のまだ濡れてをり夕立去る
夏の海楽しき日々は休みのみ
お手前の子の大人びて花菖蒲
風鈴を吊りし軒下懐かしき
手花火で若き父待つ二人の児
白玉の小さき指あと遠き日よ
闇に浮く踊櫓のものがなし
熱きコーヒー淹れて酷暑と真向ひぬ
髪の毛の汗が飛び散る右フック
ふるさとをあとに異郷の暑さかな
秋の蚊は払ひし我にまとわりて
荒天の予報蹴散らす夏祭
一湾の雨のこりたる海紅豆
天蓋めき蜘蛛の囲光る庭木かな
老鶯や夜明けの窓をそつとしめ
遠き日の母のミシンや簡単服
木の根方うす暗がりに蟇健在
遠花火間遠の音のおもしろく
金魚売声を頼りに角曲がる
白靴に素足つっこむ伊達男
プールにて三年の月日を思ひ出し
木陰出てまた入りして夏終る
待つ人も待たれる人もサングラス
咲き続く紫苑ひとむら虚子旧廬
久しぶり糸瓜の花を愛でし時
睡蓮の葉叢をくぐり鯉静か
老の身のしづまぬやうに未草
カサブランカ今年も元気な容姿見せ
金魚玉転がし遊びし土香り
虹立ちて古老の声に顔並べ
荒梅雨に激しく芭蕉打たれけり
蜻蛉舞ふ道を歩みて池に出る
虚子句碑に紫苑に名残り信濃旅
炎天来て足裏を撫づる我が齢
葎引き思ひの ほかの深き庭
露の世は未だに目指す成長のみ
揚げ花火瀬戸の小魚驚きて
日焼け子の眼のひかり再会す
山椒魚哲人めきたる沈思かな
この地球毀れはせぬか町極暑
盛夏にも災害恐れて戸惑ひし
はたた神イヤホン越しにとびこめり
爽やかな風に乗りしは何の花
日盛りを鬱陶しいと思ふ日々
マンゴーの賽の目きらと立ち上がり
きちきちも連れて干し物とりこめり
炎天や常の道路に人を見ず
夏帽やチューバに映る女子生徒
天金を拭ひ亡夫の書を曝す
「いらっしゃい」の馴染みの声がとぶ夜店
蟬声や無言で出でし無言館
山国の水の匂ひや姫螢
葡萄にも季節変わりて何時が今
月を見て今この地球その憂ひ
秋の潮海も変わりていざ進め
白南風やレゲエのリズムに熱砂踏む
梨を剥き寝たきりの人美味しいと
鳴り物になびく手足の盆まつり
朝曇りやっと一息外に出る
灸花児の手にのせる散歩道
向日葵畑用水の流れ早かり
風穴のあきて模様のレース編み
青々と波頭 立つキャベツ畑
夏座蒲団並べ介護の人を待つ
枝豆を分けてのりこむエレベーター
桃は今早く食べてと遊ぶ子ら
半袖のキーボード打つ医師一途
腰落とし男おどりや阿波の夏
峠越え駒草に会ひしやがみ込む
初潮に驚き我は日々徹夜
射干や抜きんづる朱の潔し
秋空に白雲刷ける鏡池
贈られし団扇わが句を切り込みて
あの峰が目指す夏山眉上げる
溝蓋を抜けてとんぼう空青し
赤潮かそれとも魚目が覚める
選者2名 今村博子(東京未来図), 小高和子(東京未来図)
<特選>
32. 草笛を若き音色と耳すます 小松留美子
・草笛の作品を見て、すぐに藤村の千曲川旅情の歌を思い出しました。小諸なるに始まる詩、昔は一生懸命覚えたものですが、佐久の草笛と同じような音色だったでしょうか。"若き音色"と感じ取り耳を澄ませて聞き入られた様子がよく分かります。
<秀句>
5. 掘り起こす自然薯長し子の背丈
<佳作>
4. 物干しにゆれるジーパン風五月
14. 届きたる鎌傷ふかき筍を
24. 大潮や春の愁ひを曳きてゆく
28. 投げらるるともづな白き遊覧船
37. タンポポの絮戦場の落下傘
<特選>
43. 風知草こころ素直に撫でてをり 今村博子
・五月は緑が豊かであるが、風知草も緑の葉を涼しげに風に揺らせている。吹いてくる風も愛でながら静かにいる作者の姿がみえる。
<秀句>
33. 大山蓮華旧家の庭のほの暗き
<佳作>
2. 夏蓬脳細胞は細りゆく
4. 物干しにゆれるジーパン風五月
29. 推敲を重ねかさねてアマリリス
30. 夏兆す水道水にカルキ臭
32. 草笛を若き音色と耳すます
投句一覧(5月16日)
種を蒔く人のからだのいつはらず
夏蓬脳細胞は細りゆく
初夏を愛で意気揚々と海を見る
物干しにゆれるジーパン風五月
掘り起こす自然薯長し子の背丈
豊かな葉波打つあはひ花擬宝珠
庭の隅狐の提灯花つけて
梅の実や姉妹の絆固かりき
麦秋や山下画伯放浪す
ピアニスト老いてきよらや春の川
縮減の人口世界も子供の日
鯉幟見ることもなくビルの街
春パクチー午後の懈怠許さるる
届きたる鎌傷ふかき筍を
われを呼ぶ友の大声街薄暑
何はさて常に基本の憲法記念日
葉桜のゆさゆさ揺れて図書館へ
トンネルの車窓に吾や春の昼
過ぎし日は団地住まひの武者人形
菖蒲湯も献呈品の珍しき
夢一夜ふぐり逞し恋の猫
日の色の花器に余るる紅の花
無惨にも巣を壊されし初つばめ
大潮や春の愁ひを曳きてゆく
とめどなく老の茶話会しおまねき
下着にてタンスの前の立夏かな
海牛の磯辺に憩ふ素足かな
投げらるるともづな白き遊覧船
推敲を重ねかさねてアマリリス
夏兆す水道水にカルキ臭
卯月にて花は何処に迷い道
草笛を若き音色と耳すます
大山蓮華旧家の庭のほの暗き
白靴やスタートライン発つひとり
若菜パスタをんな小粋に古希迎ふ
五月雨や生垣は色けざやかに
タンポポの綿戦場の落下傘
牡丹咲き散るを惜しみて次を見る
亀鳴くや新人アナの初マイク
勇ましき雄叫びばかり武者人形
身体ごとぺろーんと舐め氷菓の子
葉桜に枝も隠れて身も隠す
風知草こころ素直に撫でてをり
鉢植ゑの苺楽しも掌に受けて
選者2名 今村博子(東京未来図), 小松留美子(檜扇同人)
<特選>
34. 見送る子と離任のテープ春岬 吉岡御井子
・学期始めの先生と生徒の別れは、一抹の寂しさを感じますが、皆が持って離さないテープが風にきらきら海の青の上をひらひら光って癒されます。春岬の言葉が二十四の瞳を思い起こしました。学期始めの様子がしっかり見えます。
<秀句>
19. 旅立ちの祝袴に花吹雪
<佳作>
10. 枯山水波に散り乗る花一片
14. もう誰も叱ってくれぬ朝寝かな
26. 雲水の托鉢修行葱坊主
32. 潮まねき満ち干をかつぐ結納日
40. 草萌えや初めて歩く嬰の靴
<特選>
45. シャンソンの古きレコード鳥雲に 溝渕吉博
・レコードプレーヤーで再生するシャンソンは、さらに懐かしく、ものさびしく、「鳥雲に」の季語が効いていると思います。
<秀句>
49. 青き日の僧しづしづと桜茶会
<佳作>
7. 春陽さすぐるり一棹水城門
14. もう誰も叱ってくれぬ朝寝かな
15. 菜の花や夫の額に掌を当てて
26. 雲水の托鉢修行葱坊主
投句一覧(4月18日)
結界よりやあと師の声鳥雲に
春林に煙が満ちてぼんやりと
懐かしや白兎の海の干鰈
花の散る如く此の世去りたし
シクラメン一鉢部屋に独立す
吾子の背に威張りておるや奴凧
春陽さすぐるり一棹水城門
シャボン玉壊れ涙となりにけり
松の枝ようやく尖り意気揚々
枯山水波に散り乗る花一片
春濤の一と日一岩我欲す
白樺の花を愛でしはいつの日か
春愁や同窓会名簿あらた
もう誰も叱ってくれぬ朝寝かな
菜の花や夫の額に掌を当てて
紅白の光を飛ばす門桜
香り満つ我が昼食の山椒の芽
勝利への全力疾走春の泥
旅立ちの祝袴に花吹雪
八重桜人を待つかに揺れてをり
日本を南に降りて樫の花
スイトピー甘く花束にぎやかす
いっせいに海になだるる水仙郷
海しづか車窓に見ゆる山つつじ
濡縁に友と語らう過ぎし日を
雲水の托鉢修行葱坊主
花乱舞日本に生きるよろこびを
楤を見つけ喜び山降りる
飼犬の遠吠え我が軒初つばめ
枸杞摘みて伏せりし母のお見舞いに
庭桜紅の光を鳶の笛
潮まねき満ち干をかつぐ結納日
花の散り黒き棒立つ心寒し
見送る子と離任のテープ春岬
無人の家玄関先にポピー揺れ
椿落つわが煩悩の数ほどに
花茶会行き交う人の生き生きと
ヘルメット畦道続く山笑う
朝日受け風になびく猫柳
草萌えや初めて歩く嬰の靴
一面の桑畑も消え次は何
アネモネやガリバーめけるミニチュア館
山藤の高きみちのく翁道
雉鳩も急ぎ道行く季節なり
シャンソンの古きレコード鳥雲に
吾は行く永久に尊敬師の元へ
鍋の底こするタワシや風光る
黄色にて染めし満作山は生き
青き日の僧しづしづと桜茶会
選者2名 今村博子(東京未来図), 村山由斉(香川未来図)
<特選>
37. 球児らの青き丸刈り風光る 小松留美子
・春の選抜高校野球も終り今年はWBCの野球で大いに盛り上り、高校野球は、少々影がうすくなったけれど、あの青い丸刈りのうなじの若々しさは、元気が世見える。風光るの季語が、ぴったりと当てはまりました。
<秀句>
60. 春一番ふんわり卵のオムライス
<佳作>
8. 木の芽晴れ生きてるコール発信中
19. きざはしの一段ごとに菫草
26. いっせいに海になだるる水仙郷
27. 桜咲きこの世に生きる喜びを
39. 囀やをちこちの枝弾みをり
<特選>
10. 菜の花に紛るる黄色ワンピース 小松留美子
・実に清々しい春の風を感じる。生き生きとした未来を感じさせる黄色の艶やかさに心も和む。
<秀句>
15. 花冷えの朝の散歩の息白し
<佳作>
8. 木の芽晴れ生きてるコール発信中
19. きざはしの一段ごとに菫草
25. 朝散歩足裏の軟く春の土
34. アスファルト隙間を埋める緑の芽
48. 春休み落着く我が家母の笑み
投句一覧(3月21日)
早暁や芽吹きうながす鳥の声
春の暮のんびり散歩気分良し
春の川小魚を追う児の遊ぶ
銀鼠に光る山脈春の雲
峠越す春の川辺に手をふる母
暖かや胃ろうの兄はひた眠る
花の雲世界遺産に雨乞い踊り
木の芽晴れ生きてるコール発信中
門桜紅白揃い咲き初む
菜の花に紛るる黄色ワンピース
啓蟄や微熱の地球病気です
春陰や久しぶりかな遅く起き
着飾りて誇りたかきの明治雛
押絵雛ははの手造り額に映え
花冷えの朝の散歩の息白し
暖かや同じ飴でも喜びし
吠ゆること忘るる犬や春愁
早春や味のカタログ次次に
きざはしの一段ごとに菫草
ゆっくりと散歩の朝も長閑なり
薄氷に今朝の青空輝けり
紅白の朝陽に光る門桜
叔父の忌のカタログギフト春寒し
休耕田得たりとのびる草の花
朝散歩足裏の軟く春の土
いっせいに海になだるる水仙郷
桜咲きこの世に生きる喜びを
春の海あいたき人が近かづいて
春風をちぎり小さき背グラススキー
男ゆゑ姉の雛を妬みけり
永き日を感じ感じて手紙書く
辛夷散る欠片ついばむ鳥の来て
造成地草の芽早くも芝生のごと
アスファルト隙間を埋める緑の芽
遠き娘よ大内雛のふくよかに
花開くライトアップに夢心地
球児らの青き丸刈り風光る
ふらここ漕ぐたましいとばぬやうに高く
囀やをちこちの枝弾みをり
春泥の轍踏み往くハイヒール
紅白の門桜咲きバーベキュー
春時雨昨日の空を想ひしに
ミモザ揺れ篠笛を聞く公園に
木々の下春蘭一つ妣思う
ピカソ展調子はずれの初音かな
銀翼を仰ぎつつゆく木の芽道
よりかからずわだかまらず下萌ゆる
春休み落着く我が家母の笑み
遠くある木々を見つめて花曇
雛の市季節も変わり街も消へ
紅白の門桜見るリビング花見
バス停のベンチを防ぐ春の草
雨樋を飛び出す子雀地に下りる
独り身にせつせつ迫る桜花
コロナ禍で面会出来ぬ花菜かな
やじ怒号とびて議場や春嵐
紅白の光を天上門桜
双葉にはまだ早いかと庭を見る
キリストを愛でて見つめる踏絵帳
春一番ふんわり卵のオムライス
木々の陰春蘭光る朝陽光
選者2名 今村博子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図)
<特選>
13. 囀や大樹取り巻く綱ひかり 小高和子
・公園には色々な名木などが植えてあり、菰巻きで虫から守られている。その網でしょうか、ひかっているのが、囀りとひびき合って気持の良い句になりました。
<秀句>
31. 雪舟の世界現はる春の雪
<佳作>
11. 不穏の世を気強く咲くや梅の花
21. 樹齢千年空をちりばめ欅の芽
34. 自毛つけし妣の手作りひな飾る
38. よりかからず楽しむ老いへ日脚伸ぶ
41. はんなりと掌に納まりぬ桜餅
46. 還り来ぬ北方四島冴へ返る
58. いまさらを生き来て日脚伸びにけり
<特選>
3. 糞つけてほのかに温い寒卵 溝渕吉博
・糞つけて、から鶏小屋で産みたての卵を手にそっととった。その情景が糞がくっつている事で強調され、手の中にはほのかに温かいとそれだけに新鮮である。
寒中の卵がほかの季節のものより滋養があるので、寒卵の季語がうまく効いて良い作品である。
<秀句>
10. 犬ふぐり青き地平のスニーカー
<佳作>
2. 立春や木々の梢のつやめきて
7. 息白く消印有効投函す
13. 囀や大樹取り巻く綱ひかり
20. 今日を咲く一日をかさね椿落つ
28. 棄て鉢にいのちの気配日脚伸ぶ
38. よりかからず楽しむ老いへ日脚伸ぶ
46. 還り来ぬ北方四島冴へ返る
投句一覧(2月21日)
豆つぶて額でうけとる節分会
立春や木々の梢のつやめきて
糞つけてほのかに温い寒卵
凍返る畦道歩く朝散歩
花疲れいつの頃かなコロナ禍で
春雪や目覚めし朝の輝いて
息白く消印有効投函す
温暖化花篝すら遠くなり
逃げ足の早き二月気ぜわしや
犬ふぐり青き地平のスニーカー
不穏の世を気強く咲くや梅の花
ちんまりと背中丸々ちゃんちゃんこ
囀や大樹取り巻く綱ひかり
初雪や芝生の上にきぬのごと
花守の目の前広し山並みの
春浅し庭木背のびし陽を退いて
蘖の季節も間近庭を見る
若布干す日本のスープ味噌香る
節分や無邪鬼な子らの豆礫
今日を咲く一日をかさね椿落つ
樹齢千年空をちりばめ欅の芽
まだまだか炬燵を塞ぐ季節かな
牡蠣すする喉越しにある年月よ
白梅や天つ乙女にかがやきて
雪垣を取る時期迷ふ異常気象
春寒しとぢこもる日々昼の酒
もてあます鬱をまるめて鳥雲に
棄て鉢にいのちの気配日脚伸ぶ
如月やははの羽織をジーンズに
山裾に色香放ちて片栗の花
雪舟の世界現はる春の雪
立雛色紙の中にははの声
柳の芽川面に広がる空の色
自毛つけし妣の手作りひな飾る
球春や羽化する金の卵とも
裏山を巡りて気づく豆の花
妙齢のがぶりがぶりと恵方巻き
よりかからず楽しむ老いへ日脚伸ぶ
声こぼす鴨の番の羽繕ひ
立春と名のみの日々やいろり炊く
はんなりと掌に納まりぬ桜餅
白魚の喉をするりと滑り台
暗香の梅やいつもの猫の来て
春の雪木々の根方の雪間かな
雪解けの道をびしやびしや急ぐ日々
還り来ぬ北方四島冴へ返る
ウェイトレスはAIなりし牡蠣御前
日脚伸ぶ針先ふるふ皿秤
母子草時を巡りて友の夢
梅つける庭になりたる梅をもぎ
蕗の薹庭隅に出で季を知らす
梅蕾む古木となりし木の匂ひ
残雪に足をとられてスッテンコロリ
嫁菜摘み懐かし今は踏み入れず
春光や出船入船一湾に
木瓜咲くやいまだに固き風の中
十字切りそっと足置く薄氷
いまさらを生き来て日脚伸びにけり
雪だるま黒き涙を鳶の笛
造成地梅の木一本紅放つ
梅句会ちびつ子はこびの頬の日の丸
選者5名 今村博子(東京未来図), 小高和子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図) , 村山由斉(香川未来図), 小松留美子(檜扇同人)
<特選>
76. 曽祖母の沢庵石の丸さかな 溝渕吉博
・沢庵は江戸初期臨済宗の僧で但馬の人とある。たくあん漬は冬の季語で、あまり気にも止めない沢庵石で、素敵な一句が出来ました。私も若い頃、東京郊外の社宅の空地で手頃な丸い石を一つ白菜漬に使いはじめ、主人の転勤のたびに持って来ている。ほっこりと心あたたまる佳い句になりました。
<秀句>
6. 手袋の白のまぶしきエスコート
<佳作>
7. ぼつてりと朱塗りの椀や雑煮餅
15. ながらへて娘の病知る年の暮
28. 七草粥その新鮮さ喉にやさし
33. 冬花火晦日の夜をはなやかに
51. 初硯旧知の友の便りくる
55. 糠味噌の天地返しの晦日かな
64. 元日や満足の句を作りたし
<特選>
49. 息災の電話みじかや寒椿 小松留美子
・「寒椿」をおいたことによって、電話をかけてきた人も電話を受けた人も元気に冬を乗りきっていることがわかります。
<秀句>
63. 棟梁の明日の段取り夕焚き火
<佳作>
1. 余生なほ浮世と思ふ冬の空
6. 手袋の白のまぶしきエスコート
32. 誕生日届く盛花スイトピー
43. 雪晴れにまぶしき木々の艷やかに
52. 久しぶり骨牌に耽り故人思ふ
60. 奇びなる洞のひかりや冬怒濤
71. 暁闇に覚むる身ひとつしづり雪
<特選>
49. 息災の電話みじかや寒椿 小松留美子
・年明けに離れてる家族に、元気にしてますか?と電話、よかった、またね!
短いが愛がつたわるものです。上手くまとめて寒椿の季語が効をしている。
<秀句>
1. 余生なほ浮世と思ふ冬の空
<佳作>
16. 椅子ひとつ置きて厨の木の葉髪
30. 閉ぢこもり句作の日々や一月尽
41. 凧揚げも珍しきなりドローンかな
53. 七種がゆ炊きて今年も変りなく
63. 七種がゆ炊きて今年も変りなく
83. 落ち山茶花入口埋めて遠回り
<特選>
68. 冬の草吾は死なぬと枯れて立つ 村山恵
・すでに枯れているのに生きているように見える雑草。すでに生命の水循環はほぼ消えていてもまだ生きているのかもしれない。人の一生を改めて考えさせられた。
<秀句>
1. 余生なほ浮世と思ふ冬の空
<佳作>
4. 余生なほ浮世と思ふ冬の空
7. ぼつてりと朱塗りの椀や雑煮餅
16. 椅子ひとつ置きて厨の木の葉髪
26. 御手洗の指先凍つる身も凍つる
43. 雪晴れにまぶしき木々の艷やかに
50. 里宮の睦月の日差し身にまとひ
63. 棟梁の明日の段取り夕焚き火
<特選>
11. 元朝の新聞大きく広げけり 小高和子
・元日の新聞は厚く、ずっしりと重みがあります。畳まれた朝刊を大きく広げると詠まれたところに溢れる淑気を感じました。
<秀句>
47. 初暦めくれば湧き 来旅心
<佳作>
1. 余生なほ浮世と思ふ冬の空
3. 柏手の鳴るたび太る冬木の芽
35. 三寒四温今日は四温を楽しみて
42. 風神のゆさぶる紙垂の淑気かな
55. 糠味噌の天地返しの晦日かな
62. 糠味噌の天地返しの晦日かな
66. はは好みの帯締めぽんと初鏡
投句一覧(1月17日)
余生なほ浮世と思ふ冬の空
向う脛十鉢縫つて年暮るる
柏手の鳴るたび太る冬木の芽
初朝日虹を背負いて屋島嶺
垣根越し芋焼く匂ひ落ち葉焚き
手袋の白のまぶしきエスコート
ぼつてりと朱塗りの椀や雑煮餅
初金毘羅石段登りて山を見る
氷はる庭の水甕亀をとぢ
雨の中散歩で集中風の朝
元朝の新聞大きく広げけり
いつの間の元のふたりで屠蘇を酌む
冬梅に先を思ひて心和ぐ
佳き夢に笑まいて過ごす二日かな
ながらへて娘の病知る年の暮
椅子ひとつ置きて厨の木の葉髪
気温差に羨ましきは冬加州
七種や唐土の鳥の渡らぬ先に
一月やまだお呼びなき天国に
初詣あけやらずの道鐘聞きつ
初商い今こそ大事物作り
初詣御籤を引けば中吉と
仏の座なぜ包丁は二本かな
凍る草まだ生きてると頭上げ
冬日向しばし老身晒しをり
御手洗の指先凍つる身も凍つる
早梅に心いやさる朝散歩
七草粥その新鮮さ喉にやさし
できたてのスープに匙のつめたさよ
閉ぢこもり句作の日々や一月尽
蕗のとう夢見て庭の懐かしき
誕生日届く盛花スイトピー
冬花火晦日の夜をはなやかに
じゃじゃ馬のはねつ返りが福娘
三寒四温今日は四温を楽しみて
台湾の半導体で冬暖かし
思出は出合ひ直しと老の春
近道と選ぶ畦道霜柱
樹氷林リフトで登る好奇心
フライパン日の出のよふな寒卵
凧揚げも珍しきなりドローンかな
風神のゆさぶる紙垂の淑気かな
雪晴れにまぶしき木々の艷やかに
いつか来る蓬を積みしあの頃が
元日を思ひ出しつつ日々精進
餅花のはえる旧道朱塗り家
初暦めくれば湧き 来旅心
初詣提灯下げて肩車
息災の電話みじかや寒椿
里宮の睦月の日差し身にまとひ
初硯旧知の友の便りくる
久しぶり骨牌に耽り故人思ふ
七種がゆ炊きて今年も変りなく
初天神華やかなりし運河の里
糠味噌の天地返しの晦日かな
初詣村の神社を皆廻り
スケートの見事な演技神業と
間違った道に歩みしロシアの冬
耳に両手樹氷の中に佇ちつくす
奇びなる洞のひかりや冬怒濤
嫁菜とはなぜ嫁なのか今思ふ
ゆるされて蔵を出る児に竜の玉
棟梁の明日の段取り夕焚き火
元日や満足の句を作りたし
一月や心あらたに宮参り
はは好みの帯締めぽんと初鏡
葉牡丹の王宮めける花壇かな
冬の草吾は死なぬと枯れて立つ
年玉を貰へし日々を懐かしみ
田遊びの声の聞こえし古の
暁闇に覚むる身ひとつしづり雪
粕汁に酒酌み交わし久しぶり
俎板に七種並べめでたけれ
初風に瞼を閉じて先見つめ
雪見酒老いのほうびと昼日中
曽祖母の沢庵石の丸さかな
門柱に御座す黒猫寒椿
野仏の染みがこくなる冬日向
冬の梅風にもめげず紅放つ
猫柳波頭のごとく銀色に
初詣家内安全隠居前
初詣新調の服身にまとい
落ち山茶花入口埋めて遠回り
選者5名 今村博子(東京未来図), 小高和子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図) , 村山由斉(香川未来図), 小松留美子(檜扇同人)
<特選>
89. 菰巻きのしっとり似合ふ離宮かな 小高和子
・菰巻きは害虫駆除のために松などの幹にこもを巻くことで、離宮とあるから、りっぱな庭園の形の良い松の木々のこも巻きの様子を見て、「しっとり似合う」と感じ取れたことは対象物をしっかり見て出来た季語のしっかり働いた良い作品になっています。
<秀句>
63. 金継ぎの陶器も出品文化祭
<佳作>
9. バスタオルからりと乾き小鳥来る
12. 肩こりの激しき夜や一葉忌
15. 椿の実熟れて命の弾けさう
35. 鵙日和シーツ高々干されけり
41. 狛犬の阿の口にある木の実かな
82. 幽谷を下る筏や照り紅葉
86. 掃き癖つく箒や落葉また落葉
<特選>
2. うす紅は母恋ひの色返り花 村山恵
・冬のあたたかい日ざしのもとで咲いている返り花の会うと懐かしい感じのするものである。「母恋ひの色」が素晴らしい。
<秀句>
18. ゆっくりと毛糸を編んで人を待つ
<佳作>
3. 林檎剥くらせんの先にある未来
7. 弾痕をなでて上野の天高し
9. バスタオルからりと乾き小鳥来る
54. 鐘一打余韻にひらく白芙蓉
75. 秋うらら介護へるぱーAIに
78. ながらへて長寿手帳や冬紅葉
85. 嫁してより六十八年文化の日
<特選>
3. 林檎剥くらせんの先にある未来 小松留美子
・林檎は果物のなかで栄養もあり親しみがある。
林檎むきを最後まできれいに螺旋じょうに剥くことを競ったことがあります。
剥いた皮の先にある未来の表現力の豊かさにいただきました。
<秀句>
1. 靖国の黄葉天を昇りつむ
<佳作>
15. 椿の実熟れて命の弾けさう
34. 落葉掃く箒の重く愚痴ひとつ
35. 鵙日和シーツ高々干されけり
41. 狛犬の阿の口にある木の実かな
63. 金継ぎの陶器も出品文化祭
67. バス停の一人降り立つ冬田道
78. ながらへて長寿手帳や冬紅葉
<特選>
54. 鐘一打余韻にひらく白芙蓉 吉岡御井子
・秋の澄み切った空気に響く鐘の余韻がその美しさを讃える芙蓉の白を生み出すという叙情が爽やかである。
<秀句>
8. 秋風の人麻呂歌碑を撫でてゆき
<佳作>
3. 林檎剥くらせんの先にある未来
9. バスタオルからりと乾き小鳥来る
11. 茶の花の丸さのほしき吾が心
20. 老の手を引くも紅葉孫優し
25. 見えぬことこれ程つらき冬ごもり
51. 俳句という楽しみありて冬迎え
90. 大根洗う真白並べて笑み浮かぶ
<特選>
14. イージス艦の鰯曇追ひ着岸す 吉岡御井子
・雄壮で物々しい光景です。日常の平和の影にある国防が「着岸す」で鮮やかになるとともに、平和への祈りも新にします。
<秀句>
54. 鐘一打余韻にひらく白芙蓉
<佳作>
8. 秋風の人麻呂歌碑を撫でてゆき
35. 鵙日和シーツ高々干されけり
44. 秋灯し媼独りの駄菓子店
67. バス停の一人降り立つ冬田道
71. 夕紅葉朱に染めたる池の面
82. 幽谷を下る筏や照り紅葉
85. 嫁してより六十八年文化の日
投句一覧(12月20日)
山城の石垣語る冬菫
裸木を包む灯色や老施設
気候危機乗り越える術かまくらや
冬ざれの野面転がる風の音
満月やワイングラスにメール待つ
贈られし名をつくづくと十二月
浮寝鳥光となりて見え隠れ
霊園に交はす一礼冬ぬくし
上賀茂を越えて僅かで雪が降る
冬支度不眠の闇に思ふこと
鯛焼きや餡となりたる吾子の口
国道に並ぶきつね火謎とけず
石仏の風化や枯葉降りしだく
訪ねたき人は鬼籍に冬薔薇
書き初めと身構え老ひし我が手見る
遺跡めく子らの砂場や冬日射す
避寒にもコロナ禍依然躊躇して
となり火事腰を抜かして動かれず
クリスマス庭の木電飾ほこらしげ
逝く秋や独り夕餉の咀嚼音
今日ひと日善女となりて秋遍路
御神木をつついてゐたり寒鴉
雪が舞ひ瀬戸の都も別世界
大やかん座席をまはる冬あたたか
おでん炊く犬くんくんと窓のぞく
雪見酒いつの頃かな遠き日に
牡蠣好きの広島迄も牡蠣食べに
冬の湖今日も絵になる取水搭
人波に押され押されて十二月
立冬の闇の外灯かがやけり
いにしへの気骨武者めく懸崖菊
秋深し近づく影の咳払い
富士見橋遥か彼方に雪の富士
お火焚きの美し届き空に舞ひ
寒木瓜の朱のからみたる基地の柵
名園の掃くには惜しき草の露
つまづくも歩み絶やさず冬至粥
ざぶざぶと冬菜を洗ひ主婦長き
北風のドレス巻き上げ大慌て
AIの運ぶ牡蠣膳お辞儀して
コロナ禍に罹る災難年の暮
北風に帽子奪われ車轢く
白手套はめて己のさだまれり
大根を洗ひし頃はまだ元気
イルミネーショ駅におとぎの白馬駈く
錫の音や同行二人しぐれ行く
生者めく落手袋の風の指
除夜の鐘人混み避けて遠くより
短日や天眼鏡に生命線
川凍る京都の北の山並みや
はかどらぬロッカー整理日の短
数へ日や一つ怪我なく過すこと
山茶花の垣越し光る湖水かな
あらららら赤子立ちをり師走かな
投句一覧(11月15日)
靖国の黄葉天を昇りつむ
うす紅は母恋ひの色返り花
林檎剥くらせんの先にある未来
紅葉狩り寺の境内今榮りなり
見えたならつい口に出し冬ごもり
日々続くマスク消費にワクチンも
弾痕をなでて上野の天高し
沙弥島吟行にて
秋風の人麻呂歌碑を撫でてゆき
バスタオルからりと乾き小鳥来る
秋の暮れまだまだ生きる気力かな
茶の花の丸さのほしき吾が心
肩こりの激しき夜や一葉忌
この家は男やもめと鵙猛る
イージス艦の鰯曇追ひ着岸す
椿の実熟れて命の弾けさう
値上げなき百円ショップ西鶴忌
初時雨庭木嬉々とし天仰ぐ
ゆっくりと毛糸を編んで人を待つ
夢に出し亡夫の若さ帰り花
老の手を引くも紅葉孫優し
道ゆけど人一人見ず秋の暮
冬日和旅の支度のはかどりて
川沿ひに氾濫めきて枯薄
深呼吸伯耆の国の赤とんぼ
見えぬことこれ程つらき冬ごもり
散るために咲きし山茶花入口塞ぐ
峠越ゆ冬の野路に妣の影
冬尼寺茶を入る香り尼僧元気
何るも神に託す人世葡葉裏
アサギマダラの飛来まつ藤袴
草の実や思はざりしを学び来て
登るより遥か眺むる雪の富士
熱燗でゆっくり囲みて旬を見る
落葉掃く箒の重く愚痴ひとつ
鵙日和シーツ高々干されけり
冬日和庭木の艶の光々と
秋澄むや海を巡りて塩飽島々
喉痛く玉子酒懐かし遠き日々
峠道冬の紅葉の人を待つ
曼殊沙華やこの世の花とし活けり
狛犬の阿の口にある木の実かな
冬安居すだれぎみにて鳥住まう
冷ややかに首筋キリッと朝散歩
秋灯し媼独りの駄菓子店
ベランダに帰り花咲き慌て水
柔らかき日差そそぐ秋桜
落葉散る車道転がり木端微塵
球根植う一つひとつの艶をなで
木枯や淋しさに衿かきあはす
賜りし映画チケット長崎忌
俳句という楽しみありて冬迎え
柿落葉踏むは惜しく遠回り
ミステリー左脳の冴える夜長星
鐘一打余韻にひらく白芙蓉
庭木にも枯葉の目立ち冬来たる
山茶花の咲いては散りて大安売り
晩秋に野山歩きて我が歩み
コロナ菌見ゆる眼鏡研究中
暖かきこたつに入りて句作りの夜半
谷地凧や目の切れ長の男ぶり
家紋背にいばる男の子七五三
銀杏黄葉境内埋める結願寺
金継ぎの陶器も出品文化祭
のこりたる林檎の芯や昭和めく
初霜を踏て散歩を楽しみて
つや光りする柿落葉ポケットに
バス停の一人降り立つ冬田道
秋の朝暗きうちに家を出る
枯れ並木続きて街も痩せしかに
冬日和かけ出したくも仕事に追われ
夕紅葉朱に染めたる池の面
神の旅留守居の巫女の晴れ姿
目醒めれば夜鍋のははの影さみし
大根煮る味なき大根味含む
秋うらら介護へるぱーAIに
彼岸花橘寺への道すがら
キネマ出て夕空のびる秋の雲
ながらへて長寿手帳や冬紅葉
庭に落つ枯葉一枚心寒
舞い落ちる銀杏落葉の黄金散る
冬に入る今朝もパン待つ鳥一羽
幽谷を下る筏や照り紅葉
口ずさむ歌は恋唱紅葉狩
銀杏落葉大師の笠に結願寺
嫁してより六十八年文化の日
掃き癖つく箒や落葉また落葉
一本の紅葉の散りて朝日煌煌
秋の昼久しぶりかな読書の日
菰巻きのしっとり似合ふ離宮かな
大根洗う真白並べて笑み浮かぶ
選者5名 今村博子(東京未来図), 小高和子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図) , 村山由斉(香川未来図), 小松留美子(檜扇同人)
<特選>
31. 火祭りの鞍馬の山の永遠の夢 村山由斉
・火を焚いて神を祀る行事で火災のないように祈る祭り、京都鞍馬山の由岐神社で行われる火祭りは名高い。古くから続く火祭り京都人の夢は永遠に続くであろうと作者は感じて出来た俳句。珍しい題材の作品である。
<秀句>
74. 新米やよそふ手つきの恭し
<佳作>
11. 新米のおむすびですと言葉添へ
21. 落葉踏むかさこそ過去の音のして
23. 穢れなき馬の眸や秋澄めり
34. 薄日さし水草紅葉かぎろひて
52. 秋高し鍬振り上げる農夫かな
66. 檸檬切る生気みなぎる朝の卓
84. 秋寂し灯の入るバスの通りけり
<特選>
46. 流れくるジャズの古曲や秋ともし 吉岡御井子
・ジャズの古典というところに、しみじみと秋の夜を過ごす姿が浮かびます。と同時に一緒にジャズを聞く気持ちになります。
<秀句>
30. 秋風の身の腑抜けゆく天守跡
<佳作>
7. 行く秋や電話で声を聞くばかり
10. 言ひすぎて後は孤独や捩れ花
20. 長き夜戻らぬ過去を追いかけて
23. 穢れなき馬の眸や秋澄めり
74. 新米やよそふ手つきの恭し
77. 外出のままならぬ日の秋日和
81. 病院の長き廊下やちちろ鳴く
<特選>
29. 鎮座する地蔵の涙秋時雨 村山恵
・讃岐の里山を登る途中お地蔵さまに出合うことがある。六道を巡りながら人々の身代りや村を守る存在ときいたことがある。山野に降る秋の時雨が地蔵さまの涙と見えた作者、この世濁世への涙だろうか?自然界と現実の瞬時を切りとった深みある作品です。
<秀句>
14. プーチンの狂鬼の沙汰や鵙の贄
<佳作>
5. 老の手を引くも老の手萩の寺
21. 落葉踏むかさこそ過去の音のして
22. 女三人犬の自慢の秋の路地
36. 新米の升目山もり山の駅
51. 晩秋の川辺に挽歌流れをり
69. 病む膝のなほ畑にあり木の葉髪
81. 病院の長き廊下やちちろ鳴く
<特選>
4. 俯瞰する盆地に静かな秋没日 小高和子
・とにかく美しい情景である。盆地全体が照らし出され、いずれ静かに消えていく。秋没日という漢字が見事に情景化され、その一体感が素晴らしい。
<秀句>
34. 薄日さし水草紅葉かぎろひて
<佳作>
5. 老の手を引くも老の手萩の寺
7. 行く秋や電話で声を聞くばかり
10. 言ひすぎて後は孤独や捩り花
18. 秋日和マスク外して夢の旅
33. 家守りて独りとなりし秋灯下
70. 宮島の鹿のんびりと人に寄る
91. 枯山水波に乗りたる紅葉一枚
<特選>
26. 琵琶の音の空耳なるや秋深し 村山恵
・琵琶の音の空耳という聴覚的な表現に晩秋の侘しさが際立ちます。
<秀句>
44. 破蓮身じろぎのなき影落とす
<佳作>
15. 何欲しと曾孫に聞けばマスカット
29. 鎮座する地蔵の涙秋時雨
30. 秋風の身の腑抜けゆく天守跡
46. 流れくるジャズの古曲や秋ともし
74. 新米やよそふ手つきの恭し
80. 熟柿掬ふスプーンの音のたよりなき
85. 地芝居の懐かし松のそばに立ち
投句一覧(10月18日)
桐一葉落ちて隣家の美人妻
停電の世を忙しなく秋扇
秋祭り子供役者に飛ぶおひねり
俯瞰する盆地に静かな秋没日
老の手を引くも老の手萩の寺
ウォームアップただそれだけで秋の朝
行く秋や電話で声を聞くばかり
長き夜夢に出てくる句を拾い
いわし雲セカンドライフ心急く
言ひすぎて後は孤独や捩り花
新米のおむすびですと言葉添へ
鰯雲見て居て信号赤となり
小魚のピカピカ光る秋いさら
プーチンの狂鬼の沙汰や鵙の贄
何欲しと曾孫に聞けばマスカット
下り簗旅人も来ずひっそりと
渋皮の味又も内なる栗の飯
秋日和マスク外して夢の旅
新豆腐大豆は何処季節なし
長き夜戻らぬ過去を追いかけて
落葉踏むかさこそ過去の音のして
女三人犬の自慢の秋の路地
穢れなき馬の眸や秋澄めり
秋の川石につまずく水光る
まだ天を知らぬはず赤蜻蛉
琵琶の音の空耳なるや秋深し
法師蝉仏法の世の慈しみ
カレー好き朝餉夕餉と秋の日々
鎮座する地蔵の涙秋時雨
秋風の身の腑抜けゆく天守跡
火祭りの鞍馬の山の永遠の夢
教え子の真心光る新米届く
家守りて独りとなりし秋灯下
薄日さし水草紅葉かぎろひて
突然に金木犀の庭となり
新米の升目山もり山の駅
どんぐりを拾ひ集めた町の子達
秋日和まなこ奪はる日の光
モナリザの微笑の謎や稲光
遙かよりかすか聞こゆる秋の声
心地よき秋日いつ迄続くやら
母老いて安否確認柚味噌もて
あの翁遠き思ひ出渋を揚く
破蓮身じろぎのなき影落とす
十歳を超る柿に実五ツ
流れくるジャズの古曲や秋ともし
恩師引退令和十月心寒
秋の川さざなみ光る白き足
時代祭京の都もZ世代
秋日和心晴れやか身も軽し
晩秋の川辺に挽歌流れをり
秋高し鍬振り上げる農夫かな
長袖を脱ぎつ羽織りつ秋行けり
大文字眺めて辛し色変化
秋晴れももうすぐ終わり気ぜわすし
東空茜広めて秋日の出
注目のシュート一蹴り秋空へ
心地よき天を仰ぎて秋満喫
満月やぶつぶつ煮物の煮より
近道と畦道行けばバッタ攻め
あればたる土蔵にもたれ柿たわわ
赤とんぼ伯耆の国で深呼吸
窓越の秋日さんさんゴミ目立ち
秋日濃し日輪窓辺をのぞき込み
化粧いらぬマスク日々の良し悪し
檸檬切る生気みなぎる朝の卓
アイホンの指絡まりて秋時雨
マスカット与え喜ぶ孫の笑み
病む膝のなほ畑にあり木の葉髪
宮島の鹿のんびりと人に寄る
菊人形武者人形勇ましく立つ
城跡のコスモス二本光源氏
歩み初めの靴並べをる秋初め
新米やよそふ手つきの恭し
天高しその天を突きゴルフ球
杜鵑草淋しき山地赤紫
外出のままならぬ日の秋日和
台風の情報も消え旅支度
紫雲山煙ただよう郷愛の里
熟柿掬ふスプーンの音のたよりなき
病院の長き廊下やちちろ鳴く
天高き山歩きせし遙かな日
十三夜眠れぬ夜半や空眺め
秋寂し灯の入るバスの通りけり
地芝居の懐かし松のそばに立ち
歩きたし寝たきりの秋空青し
子ら跳ねて薄くなりけりカーペット
秋の蝉なぜ今なのかふと思ふ
稲妻や怒髪天衝くベートーベン
犬自慢つきぬ三人秋深し
枯山水波に乗りたる紅葉一枚
選者5名 今村博子(東京未来図), 小高和子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図) , 村山由斉(香川未来図), 小松留美子(檜扇同人)
<特選>
79. 居待月の光宿すやにわたずみ 溝渕吉博
・居待月は陰暦の8月18日のこと。十五夜の名月より少しずつ遅れて出る月で、その中を行くうちに、にわたずみの中にひかりを見つけ今日は居待の月だったなーと感じ取れたその感性のするどさに共鳴です。
<秀句>
57. アキアカネ弔ふやうに合戦跡
<佳作>
6. 今年米農婦の自慢話を聞く
10. 鐘一打ぴりびり締まる夏木立
31. 高圧線の伸びゆく空や蕎麦の花
40. 蟷螂の先にきてをり大茶会
52. 遊歩道へ梨売りの旗へんぽんと
62. クラリネット音のびやかに秋高し
72. 裏の池菱の実を摘むたらい舟
<特選>
40. 蟷螂の先にきてをり大茶会 吉岡御井子
・私の住んでいる狭山市は毎年野点の大茶会を行っていますから、この句がよくわかります。ユーモラスで、大茶会の始まるわくわくした気持ちが感じられます。
<秀句>
60. 気丈夫は老の賜物新松子
<佳作>
5. 月今宵まだ生き足りぬ八十路坂
22. 秋深し城石の黙百年なり
26. 秋高し眉上げのぼる登城坂
30. タンカーの雲かとまがふ秋潮路
36. ひい孫に言葉の殖ゆる萩の花
62. クラリネット音のびやかに秋高し
82. 赤灯台洗う高潮秋疾風
<特選>
79. 居待月の光宿すやにわたずみ 溝渕吉博
・8月18日の月は遅くにでるので座ってまつ月、その月明かりからにわたずみに光る耀きに。光り宿すやの中七に力あり暗やみのにわたずみの水がうごいて月見が新たになったのでしょう。自然界のすばらしさを感じさせる句となっている。
<秀句>
69. 文机に夫の墨跡盆の月
<佳作>
9. 名月の雫を干せば甘露かな
28. 装束の二人白きや秋遍路
38. ひらり落つ桐の葉一枚考の影
60. 気丈夫は老の賜物新松子
62. クラリネット音のびやかに秋高し
74. ふるさと村月見団子のうまさうに
82. 赤灯台洗う高潮秋疾風
<特選>
10. 鐘一打ぴりびり締まる夏木立 吉岡御井子
・すっかり山は放置され、夏木立は無数の下草や蔦や雑木に覆われて、足を踏み入れることもできない。寺の鐘が響いて初めて以前のようによく手入れがなされた山林を想い出すことができたのであろう。「ぴりびり」が今を象徴している。
<秀句>
13. 秋日和山陵光り鳶の舞う
<佳作>
9. 名月の雫を干せば甘露かな
18. 山肌に光る秋水清々し
22. 秋深し城石の黙百年なり
38. ひらり落つ桐の葉一枚考の影
55. 川底の石の輝く秋天下
69. 文机に夫の墨跡盆の月
80. 信頼は何にも勝る返り花
<特選>
41. 敬老の日忘れられてゐて寧し 小高和子
・敬老の日はいつからでしょうか。気がつくと祝われる立場になっていて、この御句には祝われる人の気持ちがよく表れていると思いました。「寧し」に年長者の誇りと心遣いを感じました。
<秀句>
29. 燃え尽きて草にまぎれぬ曼殊沙華
<佳作>
5. 月今宵まだ生き足りぬ八十路坂
16. 戦争を知らぬわれ等の敬老日
31. 高圧線の伸びゆく空や蕎麦の花
40. 蟷螂の先にきてをり大茶会
55. 川底の石の輝く秋天下
62. クラリネット音のびやかに秋高し
67. 秋朝日黒き影引く一番鳥
投句一覧(9月20日)
もろこしを焼いてけぶれる旅の駅
畑の隅生姜育ちて食そそる
車避け狗尾草に撫でらるる
プリザーブド花野のにほひなる夜長かな
月今宵まだ生き足りぬ八十路坂
今年米農婦の自慢話を聞く
霧しぐれ早い月日に屋島見る
屋島峰七色の雲秋陽燦々
名月の雫を干せば甘露かな
鐘一打ぴりびり締まる夏木立
鳥が鳴き台風遠くとホッとする
求めゆかん一句一作いわし雲
秋日和山陵光り鳶の舞う
秋の昼静かに読書誰か来る
ずっしりと重く体もレモンなり
戦争を知らぬわれ等の敬老日
秋の蝶来ては離る蓮は枯れかけて
山肌に光る秋水清々し
仰ぎみる一本立ちの大毛蓼
鳩吹きの鳩呼び寄せて子がはしゃぐ
月光や射らるるごとく立ちすくむ
秋深し城石の黙百年なり
塀越しに無花果与う社員の笑顔
冷え冷えと根釣の候と黙々と
秋風にほつと息つく朝散歩
秋高し眉上げのぼる登城坂
嫁して長き神話の国の青き梨
装束の二人白きや秋遍路
燃え尽きて草にまぎれぬ曼殊沙華
タンカーの雲かとまがふ秋潮路
高圧線の伸びゆく空や蕎麦の花
生きる苦を知らず敬老日祝いくる
秋晴れを期待し朝に訃報なり
ゴミ箱の袋リセット十三夜
星月夜いつの日見たる遙かな日
ひい孫に言葉の殖ゆる萩の花
腰庇い高きに登り町を見る
ひらり落つ桐の葉一枚考の影
セーヌ川恋人たちも秋日照り
蟷螂の先にきてをり大茶会
敬老の日忘れられてゐて寧し
アイロン切り終え無言虫の声
朝早くコーヒー入れて句作の秋
若くして先に逝きし仲間の秋
秋の七草花を愛で胃もスッキリ
秋虹や異国の訃報かけめぐる
東窓開ければ秋陽ギラギラと
ビル狭間売れ残る田の草の花
法師蝉耐えし大雨体冷え
虫の声りんりんと吾集中す
種取るや命を繋ぎ今生きる
遊歩道へ梨売りの旗へんぽんと
月を見て心きれいに戻りけり
久闊の友と酒酌む良夜かな
川底の石の輝く秋天下
曼珠沙華咲く頃間近友想ひ
アキアカネ弔ふやうに合戦跡
秋の夜半床下合唱にぎわいて
広場には踊りを終へて塵が舞ふ
気丈夫は老の賜物新松子
吉野葛長き時間の成果なり
クラリネット音のびやかに秋高し
朝日燦先々光る秋の草
瀬戸内の秋の夕焼け島に生きる
身近なるものに幸あり草は実に
昭黄葉流れの緩きぬ里の川
秋朝日黒き影引く一番鳥
鈴虫がウロウロ居間にどこへ行く
文机に夫の墨跡盆の月
真白の音なき世界九月朝
卒寿祝百本の薔薇そへ乾杯す
裏の池菱の実を摘むたらい舟
花野にて負けじと生きる在来種
ふるさと村月見団子のうまさうに
くつ脱ぎて遊び入る子や秋入日
粟畑古の糧感謝する
朝ぼらけ秋風背ナに心地よく
九月行く季節は変わりコロナ変わらず
居待月の光宿すやにわたずみ
信頼は何にも勝る返り花
橙の大木ありし山里の
赤灯台洗う高潮秋疾風
選者5名 今村博子(東京未来図), 小高和子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図) , 村山由斉(香川未来図), 小松留美子(檜扇同人)
<特選>
31. 縁側に並ぶはらから大西瓜 村山恵
・夏は何と云っても西瓜。私ごとになりますが、昔子供達を連れて尾道に帰省した折、兄弟、姉妹の子供達九人と大人も縁側で西瓜を食べた事を懐かしく思い出しました。お盆に乗せた切り分けた赤い西瓜が見えて来ます。
<秀句>
50. 秋空を仰ぐキリンの孤独かな
<佳作>
10. 刃の当たりぱしつと西瓜はじけたる
22. 八月のこよなく晴れた空悲し
40. 掃苔や古き塔婆の風に鳴る
55. 秋蝉や神社の森の底深し
63. 竹の皮包みし母の握り飯
67. 八月の六日九日喉乾く
81. テレビより黙祷の声終戦日
<特選>
57. 退屈に子の纏いつく大残暑 溝渕吉博
・猛暑が続いた上に残暑も厳しく大人も子どももうんざりしています。大残暑という表現はあまり目にしませんが、残暑の程度をよく表していると思います。
<秀句>
24. 大皿のごとくひまはり空のせて
<佳作>
6. 船料理由良川の風頬を撫ぜ
13. 長考に風鈴りんと鳴りにけり
35. 入院の覚悟は決し炎天下
43. 言いかけて言葉忘るる朝の虹
51. ベランダの胡瓜日本の形して
59. 高階の玻璃を焦がして大夕焼け
67. 水の面かすかに揺れて蓮散華
<特選>
7. 九回裏ニ死満塁の大夕立 溝渕吉博
・野球の試合で9回裏まで互に競い合い、満塁のバッターの一打に勝敗が、。スタンド席、アルプス席の多くの人達が見守るなか、突然の大夕立で状況が一転した、。時間の経過とスピード感、各々の感情の動きが詠み取れます。
<秀句>
58. 広島忌天然水を供へけり
<佳作>
1. 扇風機うなり通せし一夜漬
17. 眼の手術終へて明るい蜻蛉の眼
26. ロボットの駆けづる住み処甚平着て
40. 掃苔や古き塔婆の風に鳴る
56. 二百円右手にしかと盆出店
63. 竹の皮包みし母の握り飯
77. 菩提寺に聞く蝉の声ひとしほに
<特選>
37. 新涼や小さき足爪日和下駄 溝渕吉博
・なんとも清々しい句である。厳しい暑さが続く中、晴れた日でも少し涼しさを感じる時がある。夕立後の夕方であろうか。湿気をすべて地に落とした雨が止み、陽が射してすぐに石畳の地面は乾く。浴衣を着た小さな女の子が日和下駄を履いてはしゃいでいる。その若々しさと涼しさ、なんとも羨ましい。
<秀句>
13. はは在さぬ家郷しみじみ茄子の花
<佳作>
2. 葉月なる笠雲をのせ伊吹山
4. 日陰にも色もりあげて草の花
5. すひかずら長寿の町を祝ぐやうに
10. 刃の当たりぱしつと西瓜はじけたる
35. 載る風を待ちをり杭の鬼やんま
41. 八十歳初めて詠みし季語を知る
67. 八月の六日九日喉乾く
<特選>
85. 涼しかり九十余命に感謝のみ 辻蝶子
・九十余命を賜ったことへ感謝のみ。清々しく、潔く、澄んだ世界が読み手の心にも広がってきます。
<秀句>
31. 縁側に並ぶはらから大西瓜
<佳作>
7. 九回裏ニ死満塁の大夕立
37. 新涼や小さき足爪日和下駄
43. 山の日や逞し友の大臀筋
58. 広島忌天然水を供へけり
71. 朝顔の紺に重ねし幼き日
76. 病上がり無言でさぐる終戦日
80. 夏芝居今なほコロナ日本なり
投句一覧(8月16日)
扇風機うなり通せし一夜漬
葉月なる笠雲をのせ伊吹山
夏木立踏み入れ難き放置され
日陰にも色もりあげて草の花
すひかずら長寿の町を祝ぐやうに
胡瓜の蔓からまり合ひて空せめぐ
九回裏ニ死満塁の大夕立
コロナ風何時までマスク付けをるか
あれこれと思いは山と流星
刃の当たりぱしつと西瓜はじけたる
夏休みプラン多くもコロナこわし
南の島ハイビスカスの道歩む
はは在さぬ家郷しみじみ茄子の花
海水欲今年諦めいつの日か
小豆炊き菌に打ち勝つプラン練る
馬を見る人の顔にも霧流れ
眼の手術終へて明るい蜻蛉の眼
鷺草を愛でる楽しみまた来年
大手振り初秋肌に感じたし
ヒットコの面を付けたる案山子かな
星月夜死語となりたり暗き空
八月のこよなく晴れた空悲し
垣根越し朝の挨拶瓜の花
汗をしてだんだんとのる仕事かな
片陰や猿山の猿ひとところ
ロボットの駆けづる住み処甚平着て
堂々と白壁這ふは守宮かな
おはじきで遊ぶ子見る子麦こがし
盆の月静かに清く光る夜半
蜩に追はれ樹林の細き道
縁側に並ぶはらから大西瓜
女優めくつばひろリボンの夏帽子
藤椅子の朽ちて今なほ強し命
花野かな自由に生れる我が口は
載る風を待ちをり杭の鬼やんま
八月の満月傘さしうすあかり
新涼や小さき足爪日和下駄
鎮守の森しづけさ包み蝉時雨
夏痩せてズボンの下の辞書見つく
掃苔や古き塔婆の風に鳴る
八十歳初めて詠みし季語を知る
広島忌喜寿の歳月過ぎて尚
山の日や逞し友の大臀筋
狂ひ蛾の駆け込み寺に迷ひ込み
初生りの苦瓜老の掌に眩し
ざつくりと葱を切る音
島の白浮き上りたる鮎焼ける
ふらふらと木陰を探しハンモック
初秋の風に一息心機一転
秋空を仰ぐキリンの孤独かな
釣り忍や古民家カフェのおもてなし
我儘にあちこち何処蝉時雨
信頼は何より勝る返り花
大粒の雨に泥あぐ盆の花
秋蝉や神社の森の底深し
二百円右手にしかと盆出店
退屈に子の纏いつく大残暑
広島忌天然水を供へけり
浜風をたぐり寄せくる残暑かな
はたた神来べしや空の晴れてをり
蚊帳吊りしバングラデシュ調査楽し
あけやらず屋島上空秋にしき
竹の皮包みし母の握り飯
流れ星見たき心に救急車
一夜明け朝のまぶしき台風過
雨上り不幸ありげるマスク写真
八月の六日九日喉乾く
胡瓜には水しかないの今不思議
まん中より端へ端へ涼しさよ
バナナの木その大きさに我忘れ
朝顔の紺に重ねし幼き日
初秋の風柔らかや隙間風
遠近の痛み重なる老いの八月
ハイウェイを夕立に追はれ減速す
夾竹桃その逞しさ広島を生き
病上がり無言でさぐる終戦日
菩提寺に聞く蝉の声ひとしほに
助けてと亡夫にすがる秋夜半
背には星天動虫の生きる場所
夏芝居今なほコロナ日本なり
テレビより黙祷の声終戦日
マスクといふくびきを外(と)れば風は秋
セールスマン樹間のベンチで大昼寝
サスペンス現の証拠の特効薬
涼しかり九十余命に感謝のみ
子どもらが昼顔覗き元気なり
睡蓮の花の一滴に水面揺れ
かき氷老いの脳天つん裂けり
選者5名 今村博子(東京未来図), 小高和子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図) , 村山由斉(香川未来図), 小松留美子(檜扇同人)
<特選>
87. 滝水の落ちてようやく水の色 村山恵
・袋田の滝は春夏秋冬で言って事があり、季節によって色々な顔を見せてくれる。皆一ように無口でじっと見る。作者も時間をかけてみつめ、「ようやく」の言葉で経過が分かる。素直な句です。
<秀句>
41. 言いかけて言葉忘るる朝の虹
<佳作>
7. 新しき疊の上の昼寝かな
8. 待合室の空気ほぐるる熱帯魚
37. 新涼や渚に揺るる風の影
53. 靴の紐結び直して炎天下
58. はだかん坊おつかけ廻し天瓜粉
66. 軽鴨の子のけなげな水尾の続きけり
84. ふるさとの水辺灯して月見草
<特選>
14. 雲に立つ青鷺一羽水鏡 村山恵
・まず「雲に立つ」の措辞に驚きました。枝に止まった青鷺が水面に映った情景を活写したものですが、色彩も美しく青鷺の緊張感も伝わってくる句とおもいました。
<秀句>
36. 大皿のごとくひまはり空のせて
<佳作>
26. 船料理由良川の風頬を撫ぜ
27. 長考に風鈴りんと鳴りにけり
30. 入院の覚悟は決し炎天下
41. 言いかけて言葉忘るる朝の虹
47. ベランダの胡瓜日本の形して
67. 高階の玻璃を焦がして大夕焼け
91. 水の面かすかに揺れて蓮散華
<特選>
12. 夏至の日の棒となりたる立ち話 溝渕吉博
・夏至は二十四気の一つで北半球では昼間が一番長い日です。この日に二人の女性の立ち話をしている様子、久し振りなのか長いお喋りが続いてる。中七の棒となりたるの惜辞が季語にあわさり効を奏し、なにげない情景を上手くとらえた作品です。
<秀句>
4. 夏雲や抜き手を切って沖のブイ
<佳作>
1. 梅を干す異状気象の空眩し
5. モバイルのアンテナ立たぬ炎暑かな
24. 渓谷の流しそうめん鳥も客
32. 花房の重たき雨の百日紅
46. ラムネ玉からんと傾く水平線
67. 高階の玻璃を焦がして大夕焼け
91. 水の面かすかに揺れて蓮散華
<特選>
9. 半夏生闇の中より風立ちぬ 辻蝶子
・漢方薬の生薬となる「半夏」が出る季節、田植えをこの頃までに無事終えて、秋の実りを期待する季節でもある。田植えを終えたばかりの田をめぐる風であろうか。「闇の中より」が将来への希望をうまく表象しているように思う。しっとりとした秀句である。
<秀句>
32. 花房の重たき雨の百日紅
<佳作>
7. 新しき疊の上の昼寝かな
16. 空蝉の一茎風に残しけり
53. 靴の紐結び直して炎天下
63. つはぶきの崖に気強く夏生きる
78. パイナップル舌の痺るるまで食べて
81. 欲望をみたし過ぎしか蚊の飛べず
89. 割り箸に竹のかをりや素麺流し
<特選>
53. 靴の紐結び直して炎天下 辻蝶子
・靴の紐結び直して、という措辞から時間の経過や映像が浮かんで来ます。炎天の季語がよく働いていると思います。
<秀句>
87. 滝水の落ちてようやく水の色
<佳作>
12. 夏至の日の棒となりたる立ち話
40. 膝枕妻在りし日の夏座敷
41. 言いかけて言葉忘るる朝の虹
47. ベランダの胡瓜日本の形して
57. 花束に余る大きさカサブランカ
62. 蜻蛉の目玉夕日をひと巡り
77. 足裏暑し駆けて飛び込む青き海
投句一覧(7月19日)
梅を干す異状気象の空眩し
水甕の気になる貯水走り梅雨
蠛蠓は払えど今も追いかける
夏雲や抜き手を切って沖のブイ
モバイルのアンテナ立たぬ炎暑かな
ボート漕ぐ初のデートに富士眺め
新しき疊の上の昼寝かな
待合室の空気ほぐるる熱帯魚
半夏生闇の中より風立ちぬ
河鹿鳴く水際冷やり一休み
あけやらずヨット風呼び青世界
夏至の日の棒となりたる立ち話
好む木や幾度も戻る黒揚羽
雲に立つ青鷺一羽水鏡
一匹の蚊でさえ追へず虚ろなり
空蝉の一茎風に残しけり
山小屋の布団をだせば大むかぜ
妙齢の幅広夏帽振り返り
納骨の家に一匹ほうたるよ
蝉すだく俳句作れと亡師の門
名刹のくちなしの花垣を成し
ははの味語る古里木の芽あえ
サングラスとりて階段札所かな
渓谷の流しそうめん鳥も客
えごの花シャボン玉にも麻酔にも
船料理由良川の風頬を撫ぜ
長考に風鈴りんと鳴りにけり
街道の酒樽うどん夏を呼ぶ
熟れトマト大量煮込む台所
入院の覚悟は決し炎天下
夕焼けの明るき中に黒き鳥影
花房の重たき雨の百日紅
凛として白き日傘や銀の髪
終活やビキニ水着をにぎりしめ
大ひまわり背筋伸ばして日と交信
大皿のごとくひまはり空のせて
新涼や渚に揺るる風の影
守宮出づ今年も同じ指定席
走り藷季節先取り我楽し
膝枕妻在りし日の夏座敷
言いかけて言葉忘るる朝の虹
灼くる日や凶弾に逝く元総理
松の木に蝉の縦隊大合唱
夕焼や乳離れの子大泣き続く
近道と獣道行き茨攻め
ラムネ玉からんと傾く水平線
ベランダの胡瓜日本の形して
街中をおお洗いして夕立去り
蝉二匹網戸離れず部屋覗く
白シャツのまこと似合ひてリーダーよ
素麺のつけ汁楽し茗荷かな
雨上がり蟹の出歩く哲学の道
靴の紐結び直して炎天下
夏バテとゴロリ長椅子大いびき
放棄田葎の海となりにけり
門前の松に蝉鳴き句を詠めと
花束に余る大きさカサブランカ
はだかん坊おつかけ廻し天瓜粉
汗とんで身体はうまき調律師
夏風邪に頭ボーッと投句の締切
花を見せ幻想の惑ひ烏瓜
蜻蛉の目玉夕日をひと巡り
つはぶきの崖に気強く夏生きる
レース着て風に吹かれて山の家
暑さにめげず忙しく動くゾウリムシ
軽鴨の子のけなげな水尾の続きけり
高階の玻璃を焦がして大夕焼け
炎昼続き救急サイレン鳴り通し
梅結けて書き香りの手に残り
公園のいさらジャブジャブ水遊び
マネキンの水着姿やサニーサイド
川遊び小魚捕りて酒のあて
虎杖の至る所に獣道
夏のれん風を誘ひて客も呼ぶ
海月浮き早くも仕舞ひし海の家
立葵並び花向くサラリーマン
足裏暑し駆けて飛び込む青き海
パイナップル舌の痺るるまで食べて
地下を出る焼け付く暑さ足すくむ
Tシャツの似合ふ男の怒り肩
欲望をみたし過ぎしか蚊の飛べず
門前にことわりのなき蝉集団
急激に雨になりしは夏薊
ふるさとの水辺灯して月見草
朝顔の迷蔓を巻きなをし
天満宮の牛大昼寝がらんどう
滝水の落ちてようやく水の色
AIの狭間に吊るす江戸風鈴
割り箸に竹のかをりや素麺流し
うら若き母娘遍路の七月や
水の面かすかに揺れて蓮散華
投句一覧(6月21日)
竹落葉風より軽く降りて積む
夫行く其の子供もその年に行き寂しかり
水門から轟音のしぶき田植唄
蝸牛慎重すぎて進歩なし
夏草や話題にのぼる瓜の皺
亀の子が銭形砂浜陽を浴びて
スーパーの軒にぎやかや燕の子
紫陽花の青青々と水を受け
鈴の音の入り日に消ゆる秋遍路
草むらに落とす実梅のふかみどり
父の日や男寡の台所
河骨や気付きて淋し独り言
人の血をむだんで吸って蛭ころり
梅雨寒や蝿が手を擦るガラス窓
よしきりや中華世界の大使かな
繚乱の花の中にも花菖蒲
露の世の露にも似たり吾が余生
青芒湿度の高さもなんの園
上向きに咲きて向日葵空青し
杖つきて白木蓮咲く山上の寺
雹の音車の屋根を打ちつづけ
ハンザキの棲家探して川遊び
ゆる抜きの群青世界夏来たる
鯵フライ季節を感じ旬を生き
天空へ拳振り上げ大枯木
世を拗ねて甘酒熱く啜りけり
水馬スイスイ進みつい見惚れ
聖像は隠れ家のごと夏の蝶
黒牡丹と言へど濃き崩れけり
青田が広く広がり空真っ青
「甘い水」ボサのリズムや蛍の夜
愛犬の蝮を前にいざ出陣
翡翠の離れ業見て若返る
立ち話の重なり会ふて白日傘
夏の川魅力少々危うきや
ケアハウス裏門しんと落椿
親燕らしく嬉々とし餌を餌を運ぶ
鳳蝶柑橘類の畑愛で
残りたる目高一匹呼べば来る
ベランダの胎内時計朝日満つ
鵜飼にてウクライナから訪ねし人
薔薇ひらき師の面影に忌を修す
のけぞりて見上ぐる空や朴の花
羽抜鳥生命継いで我が意なり
いつもの道蟹が渡りて微笑みし
めだか光る頭揃えて小さき川
はは好みの藍浴衣着る齢かな
飴玉をふくみポケット一ツ草むしり
線路にも軽鴨出て和やかに
紫陽花の雫こぼるを生けにけり
大人なしき子に此の声や寒稽古
大瑠璃の瑠璃に目覚めて筆起こす
疲れかな土用蜆が夢に出で
白牡丹散り行く闇の深さかな
水面より立ちのぼりたる糸とんぼ
穴子寿司瀬戸大橋を渡りつつ
父と子の思ひ出グラブ黴の華
色鯉の色鮮やかに陽を見あぐ
水槽にメダカ泳がせ客を待つ
句作りの老を彩る紫陽花
老二人二ツ並びし夏帽子
手水舎の鉢に紫陽花ひとり占め
若楓手許明るく写経して
時鳥俳句の世界を雄飛して
コーヒーの豆挽く音やけふは夏至
短夜も痛みに耐えて長き夜
手話の子の眼の光り合ふ息白し
紫陽花の青もりもりと天を突く
なだらかな稜線の湧く夏の雲
汗疹出で赤ちゃんすらもぐったりと
涼やかに風を揺らして花ぎぼし
夜鷹にドキッと山の清々し
側溝に水草の花青光る
半壊にのこる面影燕の子
赤エイのグロテスクでも切り身楽し
足裏の焼きつく夏を思い出し
夏大根先からおろし辛さ楽しむ
六月や連山映す水鏡
竹箒逆さに振りて蛍狩り
遊び船水面に広がるキラキラと
下校の児の固まつてゐる蟻地獄
鎌研いで朝露も刈り草も刈る
番傘の匂ひ濃くして男梅雨
夕焼けの茜の空を黒き鳥
けふよりは無人駅なる更衣
日に弾み金糸妖しき未央柳
淡水も海水も良し鰻かな
鴉の子たまに歩きて親子かな
草刈りて散髪をせし心地よさ
木戸開けるポッと蛍の光り飛ぶ
いさら川まひまひの舞ひに座り込み
選者5名 今村博子(東京未来図), 小高和子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図) , 村山由斉(香川未来図), 小松留美子(檜扇同人)
<特選>
42. 笹舟の子等に田や川水ぬるむ 後藤隆道
・水ぬるむ頃になると子供達の遊びも活発になる。水の中にも平気で入って小魚を追いかけたり、ざりがにを探したり、小川では笹舟を目で追いながら声を出して楽しそうに遊ぶ様子も見えて来る。「水ぬるむ」の季語であたたかい句になっています。
<秀句>
58. 雨を来し遍路の浄衣朱印濃し
<佳作>
15. 風薫る赤ちゃん力士の泣き相撲
28. 口許は真一文字や武者人形
35. 観音の背筋すらりと青葉風
36. 一望千里菜の花黄金を宙に撒く
70. 車椅子止めて見上ぐるさくらかな
78. ぶら下がり上がりきるべし尺取り虫
80. 葉脈に紫紺を通す茄子の苗
<特選>
78. ぶら下がり上がりきるべし尺取り虫 小松留美子
・尺取虫の様子を見ていて思わず応援してしまう。またそれを我が身に引きつけてみている様子がよくわかります。
<秀句>
5. 花散りてしまひし山の深さかな
<佳作>
1. 節電の薄明りして花の冷え
10. 九ちゃんの面皰の笑顔昭和の日
15. 風薫る赤ちゃん力士の泣き相撲
17. 亀鳴くやさみしき旅の一人酒
29. 長距離の通学めげず葱坊主
36. 一望千里菜の花黄金を宙に撒く
63. 滴りや詩を書くことは生きること
<特選>
35. 観音の背筋すらりと青葉風 松村遊
・観音とあり香川県の五色台内青峰に八十二番札所があります。観音菩薩像のお姿をおもいました。いつも背筋すらりとお立ちです。いつの世も変わらずさわやかな青葉風がうまく調和し効している。
<秀句>
14. ボウタンの百の芽あれば百の景
<佳作>
12. 瀬戸芸に夏来たりなば人溢る
17. 亀鳴くやさみしき旅の一人酒
29. 長距離の通学めげず葱坊主
36. 一望千里菜の花黄金を宙に撒く
41. 初夏の海クルーズ船の西東
47. いち様に背丈縮みて夏衣
81. 我が問いにニャーと答へる走り梅雨
<特選>
54. いさら川メダカの光り空蒼し 伊藤加代美
・不知也河(いさやがは)という言葉が変化したのが「いさら川」だという。今や誰も知らないような小川を見出すことが難しく,また,そこにメダカを発見できるようなことはほぼない。しかしなぜか,その発見の喜びを共感させてくれるのは,そのメダカを輝かせる太陽の陽射しを想像させてくれるからである。小さな世界から広大な世界へとつなげてくれるのが「空蒼し」である。川とメダカを語りつつも,草木が茂る生命感を示す青色で括られているところが素晴らしい。
<秀句>
45. 夏近し声も新たに蝉鳴けり
<佳作>
5. 花散りてしまひし山の深さかな
6. 月見草誰も待たずに開きけり
11. 五月優し感のにぶりて句作が苦作
14. ボウタンの百の芽あれば百の景
42. 笹舟の子等に田や川水ぬるむ
69. 青春の日は遠けれど春は来る
76. 昔子と競ひ泳ぎし海を訪う
<特選>
24. 衣更へてラジオ体操伸び伸びと 小高和子
・衣更えての季語に少し身体を動かしてみたくなったという、初夏の開放的な気分があって共感しました。
<秀句>
53. 葉桜や話戦時へ逆のぼり
<佳作>
10. 九ちゃんの面皰の笑顔昭和の日
23. 麦秋や稚さ残すロシア兵
51. オフィス街上着片手の薄暑かな
57. 伽羅蕗の上手に炊けてひとりごち
82. 叱られに来し小児科や麦熟るる
投句一覧(5月17日)
節電の薄明りして花の冷え
はは恋ひのセルの長着やはおりみる
かさこそと歳月を積む竹落葉
春雷や若草色の鍋洗う
花散りてしまひし山の深さかな
月見草誰も待たずに開きけり
キリギリス肩に止まらせ逢ひに来る
小満も喜び束の間草だらけ
聖五月最後と習ふ五七五
九ちゃんの面皰の笑顔昭和の日
五月優し感のにぶりて句作が苦作
瀬戸芸に夏来たりなば人溢る
常の道今年も小さき鯉のぼり
ボウタンの百の芽あれば百の景
風薫る赤ちゃん力士の泣き相撲
肩車涼しき風の頬撫ずる
亀鳴くやさみしき旅の一人酒
風花やサヨナラは手で振り向かず
まかないの竹の子小さき夕餉膳
羽織ること多き老なり松手入
瀬戸の海皐月の頃はぼんやりと
新弟子はそっぷ型なる五月風
麦秋や稚さ残すロシア兵
衣更へてラジオ体操伸び伸びと
百才の白梅にして香は一とつ
踏み込まれ幸の四つ葉にクローバー
風光る葵の紋のくぎかくし
口許は真一文字や武者人形
長距離の通学めげず葱坊主
真夏日を早くも迎て服探す
夏兆す川瀬を羽虫飛び交ひて
牡丹の二ツの蕾日の恋ゆる
添水にも怠けたき日のありにけり
物干しにGパン乾く日永かな
観音の背筋すらりと青葉風
一望千里菜の花黄金を宙に撒く
崩れし王の風格白し牡丹かな
大人なしき子に此の声や寒稽古
父無きに父の日近し春怒涛
おひねり飛ぶ幼な弁慶夏芝居
初夏の海クルーズ船の西東
笹舟の子等に田や川水ぬるむ
芒種なり忙しく働く老いの今
園丁に常盤木落葉きりもなし
夏近し声も新たに蝉鳴けり
山小屋の火点し頃や人恋し
いち様に背丈縮みて夏衣
土筆とり日課とりし秘密の場
うどん屋に長蛇の列や薄暑候
聖五月心地の良さについ眠り
オフィス街上着片手の薄暑かな
面皰とふ青春の華や昭和の日
葉桜や話戦時へ逆のぼり
いさら川メダカの光り空蒼し
葉桜や駅へと開く透明傘
瀬戸芸に人溢れなば夏来る
伽羅蕗の上手に炊けてひとりごち
雨を来し遍路の浄衣朱印濃し
露草の季節は通し雨の音
活けられて安堵してゐる紅き薔薇
不道の行きつくところ雲の峰
春の道裏道どこも濡れてをり
滴りや詩を書くことは生きること
新人のそっぷ力士や聖五月
梅見過ぎ木の色変わり雨の音
庭石を埋める勢ひさつき咲く
プーチンの明日なき戦や聖五月
春月に守られ急ぐ家路かな
青春の日は遠けれど春は来る
車椅子止めて見上ぐるさくらかな
息合はせ子とハイタッチ子どもの日
晴天へ節も百歳今年竹
夫行くその子供もその年に行きにけり
葛餅を楽しみにした我懐かしむ
そら豆の白き布団に三姉妹
昔子と競ひ泳ぎし海を訪う
ビルの窓斜めに泳ぐ鯉のぼり
ぶら下がり上がりきるべし尺取り虫
氷菓求め子らの集ふイベントの候
葉脈に紫紺を通す茄子の苗
我が問いにニャーと答へる走り梅雨
叱られに来し小児科や麦熟るる
梅雨寒にしまい込みし上着着る
杖つき坂白木蓮咲く水しぶき
選者5名 今村博子(東京未来図), 小高和子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図) , 後藤隆道(香川未来図), 村山由斉(香川未来図)
<特選>
74. カリヨンを鳴らすガーデン緑さす 小松留美子
・カリヨンと云うとヨーロッパの教会の風景を思い浮かべますが、この句の場合は、教会の結婚式場の鐘を思います。『緑さす』の季語が効果的です。
<秀句>
7. ぽつねんと屋台の明かり花朧
<佳作>
9. 穀雨得てシャンと背筋の草なりし
30. コロナ禍のふっと顔出す土筆かな
38. 鯛網の海へ船団水脈を引く
49. 枝垂れ桜支えられ生く我が身とも
66. 清明や切り揃へたる足の爪
68. 生きている男一匹目刺し焼く
76. 下校児のタンポポの笛競い合う
<特選>
50. 畦塗の苦労の上を輝きて 村山由斉
・畦塗は大変な作業だと思います。その畦塗が終ってみごとに輝くのを「苦労の上を輝きて」と表現したことが素晴らしいと思います。
<秀句>
74. カリヨンを鳴らすガーデン緑さす
<佳作>
17. ライトアップ花の幻想美しき夜
28. 鯛網の漁師かけ声せりあがり
49. 枝垂れ桜支えられ生く我が身とも
60. 物種を蒔いては時を愉しみて
67. むらさきに藤は暮れ行く尼の寺
68. 生きている男一匹目刺し焼く
85. 角のない栄螺楽しむ瀬戸の島
<特選>
3. 新緑のゴールネットを揺らしけり 小松留美子
・ゴールネットは季語の新緑から室内の防御ネットではなくサッカー競技で、勢いあるシュートがストレートにネットにあたった。シュートの技をネットを揺らしけりで競技者への賛美とも、新緑の季語が清々しさを引き立て瞬時をとらえた句となっている。
<秀句>
28. 鯛網の漁師かけ声せりあがり
<佳作>
14. 残照へ色にじみけり夕桜
31. 燕来る家を違えぬ律儀者
43. 藤千条寺に不開の門一とつ
46. 酔漢のすするうどんや花の冷え
56. 駈けくる子初夏の匂ひも運び来る
66. 清明や切り揃へたる足の爪
81. 錠剤の床に転がる春愁ひ
<秀句>
6. 四月馬鹿駅で待つ人未だ来ず
<佳作>
1. 島畑の花菜明かりを一人占め
13. 閉ぢこもる扉開けたし桜散る
19. 丸坊主の野球少年卒業す
30. コロナ禍のふっと顔出す土筆かな
39. あれもこれも値上げ貼り紙春嵐
54. 白花をつけていきいき若桜
60. 物種を蒔いては時を愉しみて
68. 生きている男一匹目刺し焼く
<特選>
56. 駈けくる子初夏の匂ひも運び来る 後藤隆道
・コロナ禍で人との距離がすっかり遠くなってしまった。匂いも香りも熱気も冷気もマスク越しである。子どもが駆け寄り初夏を感じる。何とも清々しい初夏ではないか。
<秀句>
14. 残照へ色にじみけり夕桜
<佳作>
1. 島畑の花菜明かりを一人占め
4. 若葉どき柱時計が刻を打つ
13. 閉ぢこもる扉開けたし桜散る
28. 鯛網の漁師かけ声せりあがり
49. 枝垂れ桜支えられ生く我が身とも
67. むらさきに藤は暮れ行く尼の寺
71. 二重三重幹くねらせて藤の花
投句一覧(4月19日)
島畑の花菜明かりを一人占め
もてなしは讃岐うどんや春遍路
新緑のゴールネットを揺らしけり
若葉どき柱時計が刻を打つ
いつの日か鰊戻りし北の夢
四月馬鹿駅で待つ人未だ来ず
ぽつねんと屋台の明かり花朧
春の雪始末におえず亡夫恋う
穀雨得てシャンと背筋の草なりし
磨かれし三宝並ぶ春の宮
産卵期旬となりしは瀬戸の鰆
母が吹き子が手伸ばす石鹸玉
閉ぢこもる扉開けたし桜散る
残照へ色にじみけり夕桜
太陽に向かいし大輪牡丹かな
花冷えや啄木に無き薬代
ライトアップ花の幻想美しき夜
春眠はなぜ楽しきか自問する
丸坊主の野球少年卒業す
観潮の逢瀬楽しむ鳴門かな
街路樹に生活史あり柳の芽
夜桜や水銀灯に綾なして
ウクライナ春の夢まだ殺戮の
春の雲ビルの窓窓覗きゆく
野遊びも陽射しも楽し親子連れ
春疾風ベランダの鉢くつがえし
花冷えの季節に惑ふ膝痛む
鯛網の漁師かけ声せりあがり
溜池に釣り糸垂れば春の鯉
コロナ禍のふっと顔出す土筆かな
燕来る家を違えぬ律儀者
初夏の風供物空つぽ野の佛
春雨や肩を濡らして相合傘
値上がりの食パン嚙る穀雨かな
燕の子日がな口開け親の苦知らず
朝顔に迷ひの蔓を巻きなをし
集まりてまた広がりし鱵の出会い
鯛網の海へ船団水脈を引く
あれもこれも値上げ貼り紙春嵐
山登る太き虎杖水変わり
琴の音に酔いてそいろの花祭り
夕方にビールと思えど遅き日に
藤千条寺に不開の門一とつ
近道と獣道行き蜘蛛の囲被る
睦五郎居場所追われし有明の
酔漢のすするうどんや花の冷え
つばき落ち落ちても吾は天仰ぐ
摘み草の人また人の出会いかな
枝垂れ桜支えられ生く我が身とも
畦塗の苦労の上を輝きて
干し物の出し入れ忙し春の雲
花冷えや常の緑茶の鮮しき
炉端にて語り懐かし日永かな
白花をつけていきいき若桜
朝寝して疲れを飛ばしまた仕事
駈けくる子初夏の匂ひも運び来る
花に溺れ俳句締切期日忘れ
渾身の母の眉間やカーネーション
懐かしむ梅見の酒の友去りし
物種を蒔いては時を愉しみて
紅鮭の目玉まで食む甘露煮は
人の庭我が物顔に蕨取り
生け簀魚水産高校卒業す
玉筋魚を頂き感謝幼き身
春日燦燦溜池の亀甲羅干し
清明や切り揃へたる足の爪
むらさきに藤は暮れ行く尼の寺
生きている男一匹目刺し焼く
赤い線桜石斑魚の信濃源流
蛍烏賊輝きまして我が手元
二重三重幹くねらせて藤の花
節電に夜の街暗し春寒し
ウォームビズ下着と言えど春暑し
カリヨンを鳴らすガーデン緑さす
朝陽受け花種蒔くを鳥が見る
下校児のタンポポの笛競い合う
花見客北へ北へと日本かな
夏蜜柑ひと箱届く便りかな
風船が優雅に浮かぶ子離れの
部活生虎杖噛んで石段駆ける
錠剤の床に転がる春愁ひ
鶯や何処ともなくホーホケキョ
楽しみのセカンドハウス蜂の乗つ取り
彩噴きて一山燃ゆるつつじかな
角のない栄螺楽しむ瀬戸の島
躊躇いをしりし日々なり花の散る
若鮎を眺め喜ぶ川下り
五万本の色香さまざまチューリップ
凧揚げも江戸の行事の季節なり
椿落つ入口塞ぎ遠回り
選者4名 小高和子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図) , 後藤隆道(香川未来図), 村山由斉(香川未来図)
<特選>
65. 太平や露店の石にあそぶ蜂 留美子
・暖かくなって蜂が出てきました。普段は少し恐れられる蜂も、石のまわりで飛び回っている様子を見ると、どこか微笑ましいです。「あそぶ」がよかったと思います。
<秀句>
47. 目白来る小枝弾きて日を弾み Miiko
<佳作>
2. 都恋ひ飛梅香る道真忌 Miiko
7. 生きるとは孤独と知るや鳥雲に 吉博
10. いつもいつも庭駆け抜ける猫の恋 由斉
13. 菜の花や一揆の里の崩れ堀 蝶子
15. 眼帯の取れて飛び込む花浄土 隆道
55. 囀りは何処からとも嬉しきもの 由斉
69. ポケットに握りしめたる寒さかな 隆道
<特選>
1. 約束の四回転半燕来る 留美子
・秋から冬にかけ日本に渡来し子育てし越冬する渡り鳥、燕。スケートのオリンピックの技にかけた四回転半で飛んで来ると交わした約束だろう、燕に期待し躍動感あり、ひきしまったなかに約束ごとの対話にして、リズムも優れてる。
<秀句>
7. 生きるとは孤独と知るや鳥雲に 吉博
<佳作>
3. 崖背負ふ十六羅漢冴返る 和子
11. 水琴窟古城の春の音を聴く 蝶子
15. 眼帯の取れて飛び込む花浄土 隆道
31. 梅ふふむ合格の声隣り沸く 蝶子
51. 片栗の花見に来いと葉書来る 蝶子
84. 一病を押して髪切る柳の芽 留美子
94. 蔵造りの窓の堅固や松の芯 和子
<特選>
1. 約束の四回転半燕来る 留美子
・何の四回転半でしょうか。鉄棒でしょうか。成功したそのよろこびが良く表されています。
<秀句>
31. 梅ふふむ合格の声隣り沸く 蝶子
<佳作>
2. 都恋ひ飛梅香る道真忌 Miiko
53. 啓蟄やナスカの地上絵謎深き 吉博
63. 柚子風呂や一人刻を楽しめる 蝶子
68. 言ひすぎて後は孤独やねじれ花 蝶子
81. 盆梅の安らかにあり筆をとる Miiko
89. 古雛や出して念入り髪をとく 蝶子
<特選>
94. 蔵造りの窓の堅固や松の芯 和子
・蔵造りといえば、漆喰(この漢字は当て字、石灰という漢字の中国語の発音が「しっくい」だと言われている)の白を思い出す。耐水性と耐火性に優れた漆喰造りである。しかし、「窓の堅固」で川越の蔵造りの街並みを思い返した。威風堂々である。両開きの窓が本当に頑丈そうに見えた。漆喰の白が印象的ではない蔵造りのようだったと思う。さらに「松の芯」が追い討ちをかけるようにその頑丈さを強調する。火事多き世界に頼もしい存在だったのであろう。蔵造りの違いをもう少し全国で調べてみる必要があると思った。
<秀句>
43. 蓬摘む香る指先唾をのむ 加代美
<佳作>
5. なだらかな坂を転びて山笑ふ 広斉
6. 水仙や空にみなぎる波の音 隆道
12. 手を繋ぎ杖突き登る梅見坂 加代美
23. 春の山のんびり眠る青き空 広斉
48. 野路をゆく轍の間の鼓草 和子
71. 堀の無き島に暮すや犬ふぐり 蝶子
85. 遥かな日田にしの佃煮食べし日々 加代美
投句一覧(3月15日)
約束の四回転半燕来る
都恋ひ飛梅香る道真忌
崖背負ふ十六羅漢冴返る
東風吹きて上着一枚脱ぎ捨てる
なだらかな坂を転びて山笑ふ
水仙や空にみなぎる波の音
生きるとは孤独と知るや鳥雲に
白き地に白鳥群れて際立ちし
白雲の型変へたる春の色
いつもいつも庭駆け抜ける猫の恋
水琴窟古城の春の音を聴く
手を繋ぎ杖突き登る梅見坂
菜の花や一揆の里の崩れ堀
曾孫に戦前昭和の古雛
眼帯の取れて飛び込む花浄土
津波の春十一年目の大防波堤
たくさんの枝を加えし鴉の巣
雅なる一語探して梅見かな
山麓のカフェを覆ふ花ミモザ
南部鉄お湯を沸かして木芽和え
花柄の花のエプロン春来たる
空白のごとき春眠ソファの上
春の山のんびり眠る青き空
蝌蚪まだ水田静かゆったりと
石割れ目むらさき光る菫一本
小六の修学旅行伊勢参り
蝦夷の名の今も残りし三陸の春
春の野に遊ぶ雀の嬉々として
図書館の雪解しづくの音聞きつ
桜鯛小さき一匹お頭付き
梅ふふむ合格の声隣り沸く
ゆらめいて松明めきぬ牡丹の芽
桃の花一枝くれない城跡に
街も山も霞て呑気とぢこもり
黄砂降る元寇の役さながらに
春の鳥やつと日の目の受験生
春の雁白鳥混じり白黒宴
高高とみくじ結ぶ受験生
ビル狭間一枚の田に田螺列
春うらら恋の歌碑道巡り来て
家族とは太き絆や涅槃西風
毛糸帽子己れだけ知る後ろと前
蓬摘む香る指先唾をのむ
なぜか今太りし我の子持櫨
芽柳の紆余曲折に吹きにけり
風強し花巻の冬にランディング
目白来る小枝弾きて日を弾み
野路をゆく轍の間の鼓草
どんこといふ魚を知りし老いの春
今日のる今日宅附けて春近し
片栗の花見に来いと葉書来る
三月の白雲低くただよいて
啓蟄やナスカの地上絵謎深き
蒲公英の踏まれても立つ強さ欲し
囀りは何処からとも嬉しきもの
野仏に早春の陽のかけらかな
白魚を食べたし我はコロナ禍なり
暴れたる俎上の鯉や春一番
鶯の飛来を待ちし我が里の
堤防に半日座り鰊一匹
防風林家々を守る花巻の冬
北上の川がくつきり処女地の我
柚子風呂や一人刻を楽しめる
盆梅の白張りつめし包丁店
太平や露店の石にあそぶ蜂
春炬燵しまうべきかまだ置くべきか
若狭には名物多く蒸鰈
言ひすぎて後は孤独やねじれ花
ポケットに握りしめたる寒さかな
くつきりと北から眺む白き富士
堀の無き島に暮すや犬ふぐり
枯山水に流さるるごと落椿
帰る雁腹拵えに忙しく
引鴨を見し三陸の懐かしき
茶の花のころころと白まろやかに
ダムの水減りて心配春雨を待つ
赤茎のエネルギッシュや菠薐草
部活生一人おくれて山笑ふ
ピカドンと隣に春雷飛び上がる
もろこ釣り湖畔の宿に朝が来る
盆梅の安らかにあり筆をとる
平泉蝦夷と接して浄土の春
軽やかに髪切るハサミ初つばめ
一病を押して髪切る柳の芽
遥かな日田にしの佃煮食べし日々
岩手山今も現役木々の春
池の鴨そろそろ飛び立ち引鴨と
竜天に昇りふるさとダムの底
古雛や出して念入り髪をとく
春泥をまとひ子供の田に遊ぶ
春迎へ南北格差の日本なり
紅椿ぼたぼた紅蒼空に
約束のごと一番客の雉三羽
蔵造りの窓の堅固や松の芯
人影もまばらな春に防波堤
シベリアは遠く悲しく鴨帰る
春の鴨終の住処は讃岐かな
選者4名 小高和子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図) , 後藤隆道(香川未来図), 村山由斉(香川未来図)
<特選>
42. 何がしかざわつき初め焼野かな 由斉
・早春、野焼きをしたあとの野原。黒くくすぶった野原だが萌え草があったりして、なにかしら春の予兆を感じさせる。「ざわつき初める」に作者の感動があると思う。
<秀句>
38. 煮凝りや厨に土間のある暮らし 吉博
<佳作>
1. 濁る世に楚々とひらきて梅真白 Miiko
12. 七草粥ほくほく食して吉とせり Miiko
16. 日をあびて初蝶命ふるはせる 隆道
24. 一服の茶筅の泡や女正月 Miiko
27. 片言の御慶又良し保育園 隆道
30. とぢこもり春を楽しむ五目飯 恵
68. 鍵盤に指をしづめて春愁 留美子
<特選>
2. 紅を引く米寿の笑顔春隣 隆道
・88歳の長寿の祝い、米寿、愛でたくこの年を迎えられ祝って口紅をつけてみる。赤い色が良く似合って思わず微笑む。まわりの景色も春がそばに。春隣の季語が調和し秀逸の御句となっている。
<秀句>
11. 口笛の風に消へゆく早春賦 吉路
<佳作>
3. 立春大吉くるり剥けたる茹で玉子 吉博
13. 朝日燦々建国記念日鳶の笛 広斉
35. 明けやらず餌場に向かう春の鳥 由斉
38. 煮凝りや厨に土間のある暮らし 吉博
50. 葉牡丹の垣めぐらせて老夫婦 和子
53. 頑固さはくさめ一とつで露呈する 隆道
68. 鍵盤に指をしづめて春愁 留美子
<特選>
30. とぢこもり春を楽しむ五目飯 恵
・何が気にのらないのか部屋に閉じこもっていた子が母親の愛のこもった五目飯に笑顔がもどりなでやかな姿が良く表されていると思います。
<秀句>
1. 濁る世に楚々とひらきて梅真白 Miiko
<佳作>
18. 梅チラと紅光る天満宮 恵
29. 梅一輪ほころぶ朝のしみじみと 和子
37. 建国記念日各戸に日の丸遙かな日 恵
49. 朝早くパンクズを待つ目白二羽 広斉
57. 春疾風無二の親友逝く知らせ 恵
61. 知り合いのごと寄り来る初雀 Miiko
70. 山川の辺りを散歩水温む 由斉
86. 富士見橋遥か春雪浜に馬術部 恵
<特選>
5. 探鳥の合間を縫ひて日向ぼこ 和子
・鳥の声はまだ寒い日々に嬉しい気持ちにしてくれる。とはいえ、なかなか鳴いている姿を見るのは難しい。あらゆる季節の変化や生命の気配をつぶさに感じとっているのであろう。素晴らしい感性である。それに対して理性が優先する人は、野鳥を探し疲れて、ほっとする。「日向ぼこ」が実にいい。
<秀句>
20. 日の光春のうずまく今の幸 加代美
<佳作>
1. 濁る世に楚々とひらきて梅真白 Miiko
38. 煮凝りや厨に土間のある暮らし 吉路
43. 猫柳今日のひと日を風とたわむる 恵
61. 知り合いのごと寄り来る初雀 Miiko
66. 読み耽る焼き芋つつむ古新聞 吉博
75. 風邪といふ親しき病なりけるも 留美子
78. つまづきて足るを知るなり掃く落葉 留美子
投句一覧(2月15日)
濁る世に楚々とひらきて梅真白
紅を引く米寿の笑顔春隣
立春大吉くるり剥けたる茹で玉子
豆まきて子供心に鬼と福
探鳥の合間を縫ひて日向ぼこ
春の山もつこり感は夢がある
春暁の手指力のあふれくる
出し入れの整理の日々や春寒し
エプロンの姉妹厨にバレンタインデー
手を繋ぎ紅梅を持ち山下りる
口笛の風に消へゆく早春賦
七草粥ほくほく食して吉とせり
朝日燦々建国記念日鳶の笛
山の家玄関塞ぐ雀蜂の巣
目の前の雑事にまみれ山笑ふ
日をあびて初蝶命ふるはせる
届けるる山形産の豆とどく
梅チラと紅光る天満宮
塀隙間毎朝覗くイタチの目
日の光春のうずまく今の幸
日時計の影のしらじら春寒し
あいあい傘男の肩に雪を乗せ
春休祖父の手作りボードゲーム
一服の茶筅の泡や女正月
久しぶり瀬戸を眺めし春潮の
路地上り見え隠れする春の月
片言の御慶又良し保育園
自堕落にはべる炬燵や猫スマホ
梅一輪ほころぶ朝のしみじみと
とぢこもり春を楽しむ五目飯
細き枝先香りを宙に春最中
春の野に我横たえる夢を見し
祈るる何かに多いが宮拝り
ない物ねだりやめて活用春時雨
明けやらず餌場に向かう春の鳥
短冊の白き春の眠り払ふ
建国記念日各戸に日の丸遙かな日
煮凝りや厨に土間のある暮らし
雪の中愚痴をこぼせぬ彼女待つ
人を待つ春田の如く夢を待つ
春の星ひとりひとりの手に地球
何がしかざわつき初め焼野かな
猫柳今日のひと日を風とたわむる
明日明今日尽して寒牡丹
湯の廊をめぐる道あり百合咲けり
讃岐の春は青の世界にはじまれり
不老不死の艶やぴかぴか椿の実
庭の木々芽吹き始めて光燦々
朝早くパンクズを待つ目白二羽
葉牡丹の垣めぐらせて老夫婦
毎年の季節が巡り春の水
二月来る来るや早々帰るしたく
頑固さはくさめ一とつで露呈する
逃水か我が老いの目に映りしは
日向ぼこ猫ねずみ捕ひざる猫を抱く
鴨帰る満濃池の空高く
春疾風無二の親友逝く知らせ
建国記念日日の丸高く空あふる
久女忌や水仙りりしく活けられて
春日和薄着で出掛け大失敗
知り合いのごと寄り来る初雀
モリトモは官僚たちの踏み絵とも
春来るコロナなければ思いは一つ
春浅き吾には吾の小抽斗
梅の花チラと紅蒼天に
読み耽る焼き芋つつむ古新聞
松の洞草を育てて春寒し
鍵盤に指をしづめて春愁
とぢこもり三時のお茶に春を盛る
山川の辺りを散歩水温む
令和二月努力努力の映像化
お礼参り梅満開の天満宮
推敲をかさね重ねてヒヤシンス
今日あるも明日のわからぬコロナの春
風邪といふ親しき病なりけるも
冬菜の色めざとき鳥の来てをりぬ
明けやらずもんどりあげれば獲物三匹
つまづきて足るを知るなり掃く落葉
春光の部屋中入る高階の幸
朝散歩浜辺の空気今日の糧
思ひ出す因果応報春の海
猫柳ゆらりゆらりと川土手に
しだかれて枯れ草土に還る代代
海蒼く赤き灯台新港
健康大事つくづく感ず春寒し
富士見橋遥か春雪浜に馬術部
藁人形恋に身を焼くとんどかな
天満宮鳥居の前の春古着
湯気のぼる仏飯白し初景色
植えつけし若布背丈を越しにけり
選者4名 小高和子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図) , 後藤隆道(香川未来図), 村山由斉(香川未来図)
<特選>
22. シアトルのこちら雪よと初電話 Miiko
・なにげなく会話を季語用いてリアル感があります。会話の中に「雪」を入れているので季語の重なりも気になりません。暖かく懐かしい初電話です。
<秀句>
13. 雑煮餅のびて目出度き白寿かな 吉博
<佳作>
9. 大鳥居くぐれば布袋の初笑ひ Miiko
33. 海の碧空の碧もて四温晴れ 由斉
45. 山あいの雲間の陽ざしや淑気みつ Miiko
59. 熱燗や額の写真へまづ一献 Miiko
62. 真夜中の予備校寮の冬灯 広斉
3. 樹氷光り我を虜の北海道 恵
86. 蝋梅の香りに目覚めオンライン 由斉
<特選>
86. 蝋梅の香りに目覚めオンライン 由斉
・蝋梅の花は、まるで蝋細工のような黄色の花で甘い香りがする、生け花にして新春を飾れる。部屋に蝋梅の香が優しい、香りに目覚め の中七の惜辞が効を奏している。爽やかな目覚めでオンラインの仕事もはかどり。
<秀句>
2. 木枯しの宙に青葉の二三枚 隆道
<佳作>
1. 白壁を下より染めて寒朝日 遊
5. 風に遊ぶ大樹に懸かる奴凧 和子
12. 南天の実風の悪戯紅零す 恵
13. 雑煮餅のびて目出度き白寿かな 吉博
36. 冬日差し出土の貝の深ねむり 和子
48. 寒泳の古式正しき抜き手かな 吉博
64. 風花や友の御髪のぬればいろ 和子
<特選>
9. 大鳥居くぐれば布袋の初笑ひ Miiko
・正月先ず一番に八幡神社への初詣である大鳥居をくぐれば、その向こうによく来たねと布袋様に迎えられるときの姿が良く表されています。
<秀句>
30. のし餅が出刃に噛みつく寒四郎 吉博
<佳作>
4. 鈍色の天つくぺット年暮るる 留美子
15. ぼんやりと眺め思ふは春の空 由斉
27. 寒椿庭に三輪灯を点し 遊
29. 木々喚く冬疾風の朝迎え 由斉
58. 大マスク帽子眼鏡のコロナ災 広斉
62. 真夜中の予備校寮の冬灯 広斉
68. 展望台ゆたに開ける初景色 和子
88. 化石探しの声をなだむる冬の川 和子
<特選>
54. できぬこと青空に捨て冴ゆる今日 恵
・もし苦しいことやできないことを空に捨てられればそれに越したことはない。まして「人新世」の時代、人間が水や大気を変化させている現在だけに、そんな人間の仕業もすべて受け止め青空になってくれるのであれば、それに越したことはない。「冴ゆる」がまさに人の心と大気を一緒に表現しており素晴らしい。
<秀句>
2. 木枯しの宙に青葉の二三枚 隆道
<佳作>
1. 白壁を下より染めて寒朝日 遊
13. 雑煮餅のびて目出度き白寿かな 吉博
14. 蹴散らせば次の落葉が陣を敷く 隆道
18. しをらしき萩すすきそろいて風にのり 蝶子
73. 樹氷光り我を虜の北海道 恵
79. 腰下ろすリュックとキャップ冬日射す 留美子
89. 川淵の一文菓子屋冬知らず 恵
投句一覧(1月18日)
白壁を下より染めて寒朝日
木枯しの宙に青葉の二三枚
窓越しの春光背ナに思考の日々
鈍色の天つくぺット年暮るる
風に遊ぶ大樹に懸かる奴凧
有難き雪の少なき地方住み
牡丹咲く葛屋にひらと紅散らし
爪立ちて梢に結ぶ初神籤
大鳥居くぐれば布袋の初笑ひ
中世の城址彼方春の星
寒鴉真青な空の電線に
南天の実風の悪戯紅零す
雑煮餅のびて目出度き白寿かな
蹴散らせば次の落葉が陣を敷く
ぼんやりと眺め思ふは春の空
冬うらら化石探しのハンマー音
霧深く橋をいだきて頭の真白
しをらしき萩すすきそろいて風にのり
本を読む若きは日陰漱石忌
雪の花眺め昼酒とぢこもり
スケートの人技はなる技に乾杯
シアトルのこちら雪よと初電話
踏んばつて命守る手の注連飾る
雪かきに普段はいらぬ夫をこう
誕生日祝う心の春の闇
竹馬を二階より乗り歩く兄
寒椿庭に三輪灯を点し
去年今年変わらぬ愛車の駐車位置
木々喚く冬疾風の朝迎え
のし餅が出刃に噛みつく寒四郎
窓ガラス春光キラキラ善き日かな
陥没も地割れも若葉道となる
海の碧空の碧もて四温晴れ
庭掃きて寺庭散らす紅葉掃く
枡席に初相撲見し遥かな日
冬日差し出土の貝の深ねむり
蝋梅の薫る朝庭鳥集う
稜線のつながりゆきぬ初山河
古希愛でる春風間近もう一花
冬の厨呆けゆく頭叩きつつ
どこかしら彷徨い続け春の雲
相撲見る背中の広く場所見えず
よもすがら雪を持ちくる難儀忍ぶ
凧に引かれ喚く腕白鳥笑う
山あいの雲間の陽ざしや淑気みつ
皸の膏薬目立つ母の指
揚雲雀疲れた時は風に乗れ
寒泳の古式正しき抜き手かな
青空を眺めもの干す三寒四温
冬帽のスケボー飛んで飛びやまず
風と雪迫りあう道の朝出勤
いさら川石あげとりし蟹昼餉
風引の子近よらず手を振るのみ
できぬこと青空に捨て冴ゆる今日
方舟の山はるばると鳥渡る
豊凶を占ふ罅や鏡餅
滴りてこぼれるほどの春の月
大マスク帽子眼鏡のコロナ災
熱燗や額の写真へまづ一献
藁屋からひらり顔出す牡丹ひとひら
伯母上の煎茶なつかし小正月
真夜中の予備校寮の冬灯
峠越ゆはるかに光る冬灯り
風花や友の御髪のぬればいろ
漆黒の闇走りぬけ嫁が君
雪かきのつくづく悲し独り居や
子供背負い一山越えてスキー場
展望台ゆたに開ける初景色
雪の富士遙に浮かぶ富士見橋
凧上がるびっぱる糸に子の喚き
編物の衿編浅し祖母行けり
サンライズ鶏鳴高く寒卵
樹氷光り我を虜の北海道
四温晴鴉えさ場へ一直線
千両や声を荒げて年の競り
蝋梅の薫る蒼空鳶の輪
大声は健在であり秋耕す
朧げに記憶も遠く散歩道
腰下ろすリュックとキャップ冬日射す
風と日の競り合う冬の宙碧し
雪だるま朝日に涙鳥笑う
峠茶屋冬灯ポツリと人を待つ
孫の手に温もり満ちて朧月
年新くるりと剥けし茹で玉子
春待つや折れ線グラフ折れ続く
蝋梅の香りに目覚めオンライン
冬霧の宙をうばいて世はグレー
化石探しの声をなだむる冬の川
川淵の一文菓子屋冬知らず
冬の草地を這い己守る日々
選者4名* 小高和子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図) , 後藤隆道(香川未来図), 村山由斉(香川未来図)
<特選>
52. 日記買ふ新しき日々すぐそこに 由斉
・新しい年への期待や希望が感じられて大変さわやかな句だと思います。
<秀句>
55. 枯れ草も風と遊ぶと背のびせり 広斉
<佳作>
3. 菊師らの百花百魂菊まつり Miiko
6. 菱の実を父に倣いて採りし日よ 遊
22. 枯萩の終日ゆれて庭乾く 遊
32. 見ている吾流れそうなる鰯雲 蝶子
41. 年守る庭に元気に犬吠ゆる 由斉
46. ハイヒールの靴音もつる落葉径 Miiko
58. 冬紅葉きらきら映るいさら川 恵
<特選>
44. 冬の鳥たずみに集い朝化粧 恵
・一読してまるで人の日常をおもわせる鳥の様子に惹かれた。集っているのは、雀だろうか、鴉、冬の鵙か、冬空に飛び立つ前に身づくろいをしてるのだろう。鳥たちのもう一つの姿を朝化粧にして想像を豊かにしてる。
<秀句>
14. 枯れ蔓のビルを取り巻き廃屋と 由斉
<佳作>
58. 冬紅葉きらきら映るいさら川 恵
70. 懸崖菊王朝の御代想はせて 和子
72. おでん炊く湯気の向こうにははの笑 恵
85. 神鶏に留守を託して神の留守 和子
88. 隠れんぼ好む太陽冬の空 恵
<特選>
13. 風吹いて冬日浚はれ行くごとし 隆道
・ぐっと寒くなった朝、それでも冬の陽射しは暖かい。風が太陽光を浚うことはない。ところがこの「浚」が実に巧みに生きている。川や井戸の底の土砂を取り底を深くする「浚渫」を思い出させる「浚」は、一瞬に「水」を思い浮かべさせる。太陽光を奪うのは大気の動きにより水から誕生する雲である。地球の壮大な水と大気の循環が見事に組み込まれているが故に、この地の一点での情景が心に沁みる。
<秀句>
3. 菊師らの百花百魂菊まつり Miiko
<佳作>
7. 冬雲を脱ぎし一と時遠屋島 隆道
43. 池の水抜きて寒鮒手掴みに 恵
46. ハイヒールの靴音もつる落葉径 Miiko
50. どんぐりの壜詰光るおもちや箱 留美子
70. 懸崖菊王朝の御代想はせて 和子
88. 隠れんぼ好む太陽冬の空 恵
93. 冬の雨心を閉ざし気の重く 加代美
*今回は3名の選者で構成しています。
投句一覧(12月14日)
防霜扇はるかに富士の冠雪
振袖にあきてしまひし七五三
菊師らの百花百魂菊まつり
柿をむぐリズムに乗って皮長く
枇杷の花陽を奪いあいおしあいて
菱の実を父に倣いて採りし日よ
冬雲を脱ぎし一と時遠屋島
凍りつく水を額に心意気
日々終えし日々の名残の十二月
年忘忘れしことの蘇る
サックスの泣きしびれたる冬銀河
電線に巾着となり冬雀
風吹いて冬日浚はれ行くごとし
枯れ蔓のビルを取り巻き廃屋と
大晦日明くるを期待あおき世を
凍る道じてん車転び目から火が
寒夕焼鈍色見せる基地の柵
菱の実取り小舟漕ぐ父楽し気な
今日のこと今日に片付け年を暮す
ビル狭間冬田に集う雀どち
テレワークの窓辺に会釈小鳥来る
枯萩の終日ゆれて庭乾く
羽抜け鳥みすぼらしきや我おもう
思ひ出のカセットテープさがす冬
紅葉寺石も妙なる石畳
枝切られでくのぼう並木冬車道
屋島嶺に残る灯のあり冬に入る
友も去り寄り添うことも名残雪
届きたる泥つきの芋どっさりと
根深汁風邪の薬とははの影
柚子薫る朝の目覚めの心地よし
見ている吾流れそうなる鰯雲
水鳥のここまでおいでと老いに無理
かまくらに遊ぶ夢の夜明ける
晦日蕎麦うどんの街も参戦し
雨戸繰る目に宵闇の青木の実
峠越ゆ妣の影みゆ冬灯
南天のみ紅の光八方へ
小春日や惚けゆく頭撫で叩き
松迎えなぜ松なのか理解の苦
年守る庭に元気に犬吠ゆる
水音にせかされ田水走りだす
池の水抜きて寒鮒手掴みに
冬の鳥たずみに集い朝化粧
大根煮る無味乾燥のすうじかん
ハイヒールの靴音もつる落葉径
停まれば鳩のより来る冬公園
荒らしたる冬田へだてて村と村
白菜の重きに買えず指くわえ
どんぐりの壜詰光るおもちや箱
一年に一度の餅つき被災地思う
日記買ふ新しき日々すぐそこに
疊替井草の香り家に満つ
クリスマス女子会のごと娘と話す
枯れ草も風と遊ぶと背のびせり
近道と獣道行き冬茨
てのひらに包んでみたき万年青の実
冬紅葉きらきら映るいさら川
船守り納めの金毘羅ふと寂し
色変へぬシンボル松に考重ね
軍歌歌い小学校え冬の雨
寒中水泳心臓不安吹き飛ばす
大仏は鎌倉文化枯木立
夜長かな聖書ひもどく時忘れ
中華まん屋湯気もうもうとクリスマス
月今宵まだ生きよとは苦し日々
雪だるま朝日に涙流しそむ
極月や夢を手にのせ宝くじ
あれこれと衣類整理の冬の日々
懸崖菊王朝の御代想はせて
はやばやと門松たてて友を待つ
おでん炊く湯気の向こうにははの笑
初比叡スキー場今消えはてし
掃納コロナ禍の日々ピッカピカ
冬祭日射ゆたかや園の昼
山の宿ふくろう鳴いてめし遅し
木馬まつコロナの邪魔にがらんどう
冬日燦廃油石鹸作る日々
歳晩のミュージシャンさび轟かせ
雪の富士目の前に起き馬刺し食ぶ
読み返す何も変わらず古日記
ビル狭間冬田に降りる雀百
白菜の重きに老いの指くわえ
注連飾り餅を供えて心締め
神鶏に留守を託して神の留守
塩入り川白鳥一羽我が川と
高層の風に負けじと注連飾る
隠れんぼ好む太陽冬の空
城園の飛び石とびて返り花
冬の雲低くたれ込み犬の遠吠え
ひた走るマイカー車窓の紅葉かな
年末賞与待つ楽しみも子に委ね
冬の雨心を閉ざし気の重く
失恋の尼の一生枯れおばな
元気かと送り送られ年の暮れ
選者4名 小高和子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図) , 後藤隆道(香川未来図), 村山由斉(香川未来図)
<特選>
14. 城垣は刀の反りや秋澄めり Miiko
・「刀の反り」という措辞にその城の凛とした姿が見えてきます。澄みわたった空に白い城垣が目にしみます。
<秀句>
16. 千年の樹の梢ゆく秋の雲 遊
<佳作>
17. 山百合は断崖が好き香を降らす 隆道
18. 残されし案山子の哀れ我が身とも 恵
27. 手土産に庭の無花果二つ三つ Miiko
39. 小春かな足湯にぎやか女学生 隆道
41. てっぺんは蒼穹にふれ銀杏散る 吉博
52. 秋ふかむ一人住みにも物増えて 遊
85. 朝の日に師の句碑粲と萩の花 隆道
<特選>
17. 山百合は断崖が好き香を降らす 隆道
・夏に咲く山百合を題材に詠まれ、断崖が好きと表現して擬人化でふくらみがある。山中にはよく見かけるが、断崖に咲いてる百合は、1本で茎がのびその風貌は大型で白い華麗で豪華。そよぐ風を独り占めしてるようにも見える。そして強い芳香が揺れるたびに放って、回りを魅了してるかの様子一物仕立て で詠まれ山百合の魅力を見事に引出している。
<秀句>
23. 秘境バス停紅葉一本光の雅 恵
<佳作>
42. 自転車のかごより攫ふ寒鴉 留美子
54. 羽織袴あめを引きずり七五三 蝶子
64. 下の子も飴持つてゐる七五三 留美子
68. 老いの干す干物奪う秋疾風 恵
80. 便り来ぬ郵便受けや秋の暮れ 吉博
<特選>
41. てっぺんは蒼穹にふれ銀杏散る 吉博
・神社か寺院であろうか。大きな銀杏の古木が今黄金色に輝きその天辺は大空の風に触れ、ひらりはらりと散って行く姿が良く表されている。
<秀句>
54. 羽織袴あめを引きずり七五三 蝶子
<佳作>
8. 朝日さんさん青空高く神迎え 由斉
9. 書き散らす文の無聊や夕時雨 和子
24. 膝に来て猫のど鳴らす秋日和 吉博
27. 手土産に庭の無花果二つ三つ Miiko
47. 真夜中の赤子のぐずり秋の雨 由斉
62. マスク慣れ目を見つめては顔忘れ 由斉
<特選>
41. てっぺんは蒼穹にふれ銀杏散る 吉博
・銀杏の黄葉と蒼。その青空はただ青いのではなく、草木が茂るさまをいう蒼が生きている。一瞬に状況を浮かばせる俳句ならではの醍醐味と同時に、顔面蒼白などで使う蒼がうまく組み込まれ、黄葉が舞い落ちるさまもうまく描けている。地表よりも「てっぺん」に風が吹いたのであろう。
<秀句>
106. とぢこもり衣類整理の秋一日 恵
<佳作>
1. 布団干す十七階の小春かな 隆道
2. 秋の行く思いは山と老いの邪魔 恵
9. 書き散らす文の無聊や夕時雨 和子
17. 山百合は断崖が好き香を降らす 隆道
18. 残されし案山子の哀れ我が身とも 恵
51. 山の家猪担ぎ村漢 広斉
80. 便り来ぬ郵便受けや秋の暮れ 吉博
投句一覧(11月16日)
布団干す十七階の小春かな
秋の行く思いは山と老いの邪魔
自転車でころび顔打つ神の留守
秋夕焼週末の字のやけのこり
文化の日の彩る紙面老眼鏡
ひちりんだし煙を天に秋刀魚焼く
おもちやヘリ子らと飛ばして秋の空
朝日さんさん青空高く神迎え
書き散らす文の無聊や夕時雨
立冬やこきこきこきと軋む骨
マスク慣れ忘れし事も忘れおり
ホットコーヒー増へる自販機冬に入る
俳句試み友達の増え生き甲斐を
城垣は刀の反りや秋澄めり
大根煮る無意識まかりとうりけり
千年の樹の梢ゆく秋の雲
山百合は断崖が好き香を降らす
残されし案山子の哀れ我が身とも
十年会わず会って変らぬ友のいて
時雨るるやほっと一息朝の庭
金ばかり尊ばれしも恵比寿講
むつまじく内緒話や枇杷の花
秘境バス停紅葉一本光の雅
膝に来て猫のど鳴らす秋日和
草と木と野外彫刻秋の園
愚鈍の老い秋疾風に転びけり
手土産に庭の無花果二つ三つ
柿簾窓中つるし笑を待つ
河豚汁の年金暮らしに遥なり
お火焚きや休みし身にも気がよぎる
小春日やマンドリン弾くストリート
木の葉髪知らずに逝きしはは愛し
初時雨京都生まれの京都つ子
木枯らしやジャズのペットの嘆き節
淋しめば塀の雀がおじきする
落ち葉あつめ風呂たく幼ひうち竹
終の地は河岸段丘柚子たわわ
窓あけるまつてましたと寒き風
小春かな足湯にぎやか女学生
凍て道にキャリア自転車ころびけり
てっぺんは蒼穹にふれ銀杏散る
自転車のかごより攫ふ寒鴉
十一月する事山と道遙
初時雨光ほのかに山隠れ
勅使門閉ざせしままに小鳥来る
草伸びし高松城址揚げ雲雀
真夜中の赤子のぐずり秋の雨
火事の因不審火なりし酉の市
郷堤兎追いし遙かな日
猪垣を結ぶは父子か兄弟か
山の家猪担ぎ村漢
秋ふかむ一人住みにも物増えて
大穴あく塞ぐすべなく秋の行く
羽織袴あめを引きずり七五三
末枯やものみな吾より丈高し
新撰組駆けたる京都秋疾風
古酒に酔へば昭和よ青春よ
燃えるよう紅葉の道ゆるり行く
ベランダの小さな木々も枯葉載せ
大根洗うま白き肌にすぎし過去
時雨るるや水やり苦労免れり
マスク慣れ目を見つめては顔忘れ
ボジョレーヌーヴォ解禁に湧く上戸どち
下の子も飴持つてゐる七五三
底無しの蒼澄み渡る秋高し
板張りに土器(かはらけ)並べ神楽笛
裸木の走り根土をもたぐりて
老いの干す干物奪う秋疾風
海の日の海を見たくて灯台へ
ゆるやかに色葉ちりぬる女坂
青空の煌々として秋の雲
くるぶしの痒し晩稲刈り急ぐ
落穂なき田のコンバイン寒雁の憂ひ
家に居てものの追ひ来る一葉忌
朝の庭草の実漁る雀どち
秋の雲ふわりふわりと空の旅
枯葉散る車ひき逃げ鳥涙
ぶつかけうどん辛み効かせて暑気払う
ビル狭間草の実揺れてははの影
便り来ぬ郵便受けや秋の暮れ
己が踏む落葉の音にありにけり
秋の雲放浪癖の光飛ぶ
蟒蛇は女なりけりお燗酒
切り干し煮る香りのおくにははの笑
朝の日に師の句碑粲と萩の花
羽織袴やんちや坊主の七五三
下校児の道草堤秋の声
蜜柑山日々働きし人恋し
木の葉散る車ひき逃げ鳥あきれ
夏山に詣でし神の名は知らず
何時咲いて何時散るやらん枇杷の花
山の景色菓子に練り込み秋を表現
閉ぢこもり菓子を作りて秋を盛る
朝の庭雀蛤となる我も着込み
目の痛み堪え句作りの秋夜中
京都の秋何処も我の過去歌う
色絵の美テレビに愛でて芸術の秋
歴史見つめ秋を練り込む菓子作り
星見つめ同胞思う秋の夜半
山間にひつそりひそむ紅葉寺
山の幸と景のハーモニー秋の菓子
人の手と技の作りし秋羊羹
本頼り料理にこりて秋を盛る
爽やかや三時のお茶に今日の幸
午後三時心を癒す小鳥来る
とぢこもり衣類整理の秋一日
思いでの衣類色々捨てる秋
京都の錦糸紡ぐプロ人秋燦々
こつてり甘から自分好みの秋を盛る
まん丸の月を見つめて孫思う
山の風景色盛り立て鷺の脚
投句一覧(10月19日)
下り急上りなき老い秋深し
名月やしたたる光踏みにけり
胎動のうねりや小菊咲き出づる
里山に鵯の声のしみわたる
耳立てて犬が音聞く今朝の秋
漆紅葉燃ゆる山々お椀を眺む
風の中風走り抜く大青田
赤い羽根のお願いコールに中学生
ななかまど十字を刻む一書かな
十月や鉛筆すべる手の乾き
色かへぬ松天変地異の日常辛し
栗菓子に思ひをこめで京老舗
鉄瓶の湯のたぎる音温め酒
一枚の枯葉に滑り鳥笑ふ
梨の香のバスの中まで果樹道路
日めくりの日めくるやうに文化の日
頑張れと天からの声秋夜の夜
底紅や時季を待たず花終る
女郎花風のいたずら無題方面
思ひ思ひ我が道ゆけり大花野
自然と技術調和盛り上ぐ木の実菓子
眉月や行きあふ女は美しく
藩主の園溢れるほどに草の露
みえぬ目に締め切り明日夜半の月
街暮れてコスモスの空青々と
みえぬ眼どう生きようか秋の行く
桐の実の天上揺すり考の影
運動会のろし花火やいざ出陣
庭園に和して綺羅なすアキアカネ
栗を焼く爆ぜて灰散り父おにと
柳散る憂へを胸に雑踏へ
小雀のとゆ滑り落ち犬の鼻
車椅子止めて蝉耳に素通りせし
コスモスの風受け入れる純情を
満月三個とくかそんかと我が眼
後二句と月を眺めて祈る夜半
エレベーター工事完了小鳥来る
咲き登る背中合はせの牽牛花
立ち番の婦人警官秋ともし
変貌自在そのままもいい落花生
うたた寝に見しは冥府か秋の蝶
朝焼けの湖畔の茜秋たかし
夕景のダムのしぶきや秋澄めり
わが膝に顎のせ犬の秋思かな
満月の三こも見える老いまなこ
部屋中を灯し見えぬ目秋深し
ながらへて個室に眺む今日の月
御飯つぶ付けた髭のおつさん演説す
打ち水に日暮かぶさる縄のれん
紅葉の景見ぬまに過ぎたるコロナ災
秋の草そろそろ最後覚悟あれ
歩きゐて道となりたる黄落期
山の家どまに猪夕餉用
桐一葉光放ちつ道祖のひざ
魅せられて菓子濁人と秋深し
竹の春こどもの声が遠くなり
扇風機のお役目換気ウイズコロナ
青葡萄盆地の夜空滴らす
不自由な日々を生き抜く秋の草
秋風の木々にいたずら竹箒
色絵の美愛でる秋の日鳶の笛
移り行く秋空眺め過去思ふ
熟練のアイアンシェルフ木の実落つ
和服の魅力ははの背に見る秋祭り
米洗ふ今の幸せ浮人形
幸はほどくが良いとして川蜻蛉
季の移ろひ窓吹く風に初冬を
冬支度遅れて急に目が覚める
畑守る考の衣の案山子かな
秋晴れも今日が最後と朝日燦
爽やかやぴんと跳ねたる猫の髭
いとほしむあるかなきかのつまみ菜の根
山の風吹きこみ栗の菓子作る
ひたすらに自由を求めばつた飛ぶ
阿波にゐてなんでもかでもすだちかな
秋深し何時まで続くコロナかな
世を見つめ歴史を思ひ月渡る
巡礼の歩み急かすや秋の風
薄物や重たき過去も軽く着て
文化の日明治維新は遥かなり
存えて幸せだったと紅葉坂
秋の草さよなら人生今しばし
流れくるモンロージャズや身にしみて
朝の庭にてん水の音小鳥来る
ふぞろひの手縫ひ巾着文化祭
デコボコの人生航路天たかし
紅葉もゆ平安貴族のたたずまい
行く秋を見あぐ青空飛行雲
句作りに詰まりみあぐる秋の月
鯊を見し諫早の海干拓事業
鶏頭の種子茶色してもろいけれ
小鳥くろ我が顔眺めチョコチョコと
丸まりて漢の背中しぐれゆく
空豆のおたふくならぶ三姉妹
桐一葉天より舞ひて考の影
選者4名 小高和子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図) , 後藤隆道(香川未来図), 村山由斉(香川未来図)
<特選>
8. 幻聴に言葉を返す夜寒かな 吉博
・もう一度会いたいと思っている人、もう一度その声を聞きたいと思う人などがいると、幻の声が聞こえてきてしまう。そして思わず語りかけてしまう。静かな秋の夜ならなおさら思慕がつのる。「夜寒」が効いていると思う。
<秀句>
9. 一気読むロマンロランの夜長かな 留美子
<佳作>
36. 縺れざる糸萩千条風の寺 Miiko
37. 花薄風の袂か花散らし 恵
39. 糸蜻蛉老の眼も覚めし朝 由斉
49. 羽根摑む秋蝶伝へ来る鼓動 隆道
68. 南高梅貰ふ酸っぱき敬老日 吉博
87. 転びても笑って済ます草の花 由斉
88. 台風のそれて昼食握り飯 広斉
<特選>
2. 初物の煙りを天に秋刀魚焼く 恵
・秋刀魚を美味しく頂くには焼き方、焼き加減など大事、その味も異なります。煙りを、天にとあるから屋外にて七輪に炭火を使って焼いている。初物とあることで今年の旬の秋刀魚を味わえる喜びがつたわる。昔から秋刀魚の煙りの匂いは、味を増幅させるといわれてる。作者は煙りを、と強調され至福の美味しさを味わう為のひと時が詠みとれます。
<秀句>
3. 不可能のありすぐこの世秋に入る 康
<佳作>
1. 百代の蝉の声とも立石寺 隆道
8. 幻聴に言葉を返す夜寒かな 吉博
19. 法師蝉仏法聞きし寺廃墟 由斉
40. 反芻の牛の横目や豆の花 隆道
62. 雨を受け波打つごとき乱れ萩 和子
<特選>
8. 幻聴に言葉を返す夜寒かな 吉博
・淋しい闇の夜一人家路へ急ぐ時、ふと誰かに呼ばれたと思い返事してふり返るも誰も居なかったのである。只闇の夜寒が身に沁みるばかりの様子が良く表されている。
<秀句>
15. なつめ大樹鈴生りの実を晒しをり 和子
<佳作>
30. 小さき手のギフトをひらく敬老日 留美子
36. 縺れざる糸萩千条風の寺 Miiko
45. 遊び田の風とたわむる草の花 由斉
60. 鶏頭の真つ赤に燃えて山の家 広斉
61. 留守かとも見へて山家の柿すだれ Miiko
63. 生御霊つひの学びと女子会と 留美子
68. 南高梅貰ふ酸っぱき敬老日 吉博
86. 今日会える人のいる幸老いの秋 恵
<特選>
90. 城園をくきくきくきとトンボの輪 恵
・およそ5,000種類にも及ぶトンボの200種類ほどが日本で生息しているらしい。害虫を捕食する肉食性であり、複眼、頭部、腹部など、よく見ると本当に不思議な生き物である。戦国時代を象徴する城が今は庭園になっていても、本来、敵を防ぐために直線を避けた道は「くきくきくき」と鋭角に曲がっている。しかし、その「くきくきくき」はトンボの鋭角に方向を変える飛ぶ姿、そしてその腹部も連想させる。そして、空中を捕食しながら飛び回るトンボは戦国時代の武士のようなのに、「輪」という平和を象徴する言葉でこの句は閉じられる。トンボの生態の不思議さと素晴らしさを思い出せると同時に、その余韻が残り続ける秀句である。
<秀句>
46. 秋ついりひとり窓辺でいろは唄 遊
<佳作>
1. 百代の蝉の声とも立石寺 隆道
6. 吾に返る秋七草の中に立ち 和子
14. 敬老日晴れて雨跡のこる窓 遊
27. 配給芋茎三百ミリの戦争時代 恵
30. 小さき手のギフトをひらく敬老日 留美子
34. 閉ぢこもり塞ぐみぬちの宵の闇 恵
36. 縺れざる糸萩千条風の寺 Miiko
投句一覧(9月21日)
百代の蝉の声とも立石寺
初物の煙りを天に秋刀魚焼く
不可能のありすぐこの世秋に入る
月の夜や御手前立てて友三人
秋の蝉終の住処は任せし雌に
吾に返る秋七草の中に立ち
がうがうと岩肌なぞる男滝
幻聴に言葉を返す夜寒かな
一気読むロマンロランの夜長かな
秋に入る心新たに俳句詠む
秋晴れや冷房いでて手足振る
秋に入る和む心の木々の風
蒲の絮宇宙旅行の天蒼し
敬老日晴れて雨跡のこる窓
なつめ大樹鈴生りの実を晒しをり
墓洗ふあごの尖りて孫二十歳
満月や琴音高く六の段曲
地虫鳴く真夜中の宙闇世界
法師蝉仏法聞きし寺廃墟
秋に入るワクチン済むに部屋の守り
モネの池青き水蓮人を呼ぶ
段畑の天辺に佇つ鍬始め
秋刀魚焼く側を離れぬ黒き猫
八十の手習弾む秋一日
白萩のひれ伏すごとく山門へ
父そははキャスリーン台風斯く語りき
配給芋茎三百ミリの戦争時代
しみじみと子規の生涯柿の種
自転車に乗りづらくなり老いの秋
小さき手のギフトをひらく敬老日
桜紅葉誰より早く霧を突く
昨夜からの雨になだるる花真菰
廃油より生まれるシャボン秋ひとひ
閉ぢこもり塞ぐみぬちの宵の闇
七輪を裏庭に出して秋刀魚焼く
縺れざる糸萩千条風の寺
花薄風の袂か花散らし
食卓に数輪づつの小菊かな
糸蜻蛉老の眼も覚めし朝
反芻の牛の横目や豆の花
秋の草自由自在の吾の日々
朝刊のしんかんと入る終戦日
女郎花ひかり煌々とんびの輪
草の穂はまだまだ元気遠くに遊ぶ
遊び田の風とたわむる草の花
秋ついりひとり窓辺でいろは唄
煌々と満月の月波に乗せ
蟋蟀の聞こえし年は季節あり
羽根摑む秋蝶伝へ来る鼓動
草の花踏まれて育つ多兄弟
蓮の実の飛ぶを待ちゐる父子かな
香水つくる秋の香りを貴女にと
水子仏にジュース三本山の秋
雪隠に篭れば親しちちろかな
存えて見ざる聞かざる草の花
登らねば見えぬ大景山は秋
朝散歩かすか虫の音笑む道祖
轡虫何故か楽しく書を臥せる
一日かかり香水作り秋灯す
鶏頭の真つ赤に燃えて山の家
留守かとも見へて山家の柿すだれ
雨を受け波打つごとき乱れ萩
生御霊つひの学びと女子会と
末枯れに自分を重ね後少し
奪われし活力戻し竹の春
朝の庭木々の涙の露ひととき
あやす子に眼鏡取られてうろたへり
南高梅貰ふ酸っぱき敬老日
秋蝶の踊子れんに連れ舞ひて
鶏頭の頭並べて過疎の燃え
定年のあと半年と穂の芒
あれやこれ名詞消へゆく草虱
馬追のスマートに見る我が青春
生き者の泡吹く古代蓮の池
婆の乗る菱の実を摘むたらい舟
医者行きのバス停癒す草の花
青蜜柑生きし頼もし艶やかに
退屈と見上ぐる空を雁の行く
梨剥くや皮の薄さがわが誉れ
カサカサと障子のさんの茶立て虫
柚子の実も重みを増して陽を受ける
小粒でもピリリ目覚ます唐辛子
久しぶり窓開け秋の風を呼ぶ
すいすいとカッターさばく秋の昼
朝日いで露の光の暗闇え
今日会える人のいる幸老いの秋
転びても笑って済ます草の花
台風のそれて昼食握り飯
光陰や杉山千本夕月夜
城園をくきくきくきとトンボの輪
百までも生きるのかしら老いの秋
結願寺親娘じゆんれい秋しみる
秋の蝶飛ぶこと控え生を守る
選者4名 小高和子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図) , 原さくら(ほととぎす), 村山由斉(香川未来図)
<特選>
66. 夕立にほっと息つぐ鬼瓦 由斉
・今年も猛暑でした。なにもかも焼けつくような暑さの中に夕立が来るとほっとして救われます。屋根に雨が降り注ぎ一番立派な鬼瓦も心なしかほっとしているようだという擬人法が面白いです。鬼瓦に託して作者がほっとしている様子や自然界の営みに感動している作者が見えてきます。
<秀句>
86. 家具なほす夫の槌音秋澄めり 留美子
<佳作>
10. 白砂にふはりと風の夏帽子 さくら
21. 存在感残して二才児盆終る 遊
26. 朝夕の心にゆとり涼気満つ 由斉
70. カラフルなトマト海辺のレストラン さくら
77. 夏蒲団胸まで掛けて山の宿 さくら
84. 風捉え宙に紅吐く百日紅 由斉
85. 生き身魂長生きしてねと肩を揉む 恵
<特選>
9. 思ひ出に気附けば返事ソーダ水 遊
・思い出は、人それぞれの状況や年代であの頃、あの時と話す相手にも違うだろう。何かを思い出してながら改めて気が付いた。時にそうなのだと自分に納得?の返事。そのスッキリした気分はまさに、ソーダ水を飲んだ時の清涼感と似ている。瞬時の気持ちを上手く季語重ね佳句となっている。
<秀句>
37. 桐一葉天よりゆるり考の愛 恵
<佳作>
1. 朝顔のひとつひとつにある夜明け 恵
3. 炎天をまつすぐに漕ぐいただきさん 留美子
5. 鉄瓶の静かに流る今日彼岸 隆道
14. 浴衣着て母の袖引く赤リボン 恵
32. 夏休み道いつぱいのケンケンパー 恵
44. 捥ぎたてのトマトが馳走里の朝 さくら
59. 土砂降りの雨の迎え火魂迷う 広斉
<特選>
1. 朝顔のひとつひとつにある夜明け 恵
・「朝顔」はその名のとおり朝開いて昼には萎んでしまうが赤、白、紺色、絞りなど色も品種もさまざまである。一花一花それぞれの色を持ち形を持ち時間を持つ。一人一人の人間の人生にも通じるものがあると作者は感じとられたのであろう。写生句にして心情句である。下五の「夜明け」が混沌とした今の世の中に一条の光明となっている。
<秀句>
64. 初恋の彼は特攻天の川 恵
<佳作>
2. サングラスとりて古刹の由来読む Miiko
7. 青田風原風景に溺れけり 和子
20. 砂時計指を零れる夏休み 吉博
30. 蜩や枯山水に砂の川 吉博
47. 団扇絵のアマビエの風もらひけり Miiko
90. 桐一葉一葉に忍ぶ考の愛 恵
98. 雨しとど忍者屋敷の七変化 広斉
<特選>
62. 秋出水すすぎ乾くといふは幸 留美子
・ここしばらくの極端気象により、突然の洪水や山崩れで、町の道路は流れてきた土砂や車や木々で埋め尽くされる。裏山が崩れれば家はひとたまりもない。綺麗な町の整備された街路は無惨であり、また、長閑な自然を楽しめていた家は瞬く間に人も埋め尽くす。悲惨な「秋出水」を想像させるが、この句が描く世界は全く別物である。水田という独特の貯水池の洪水は洪水ではない。もしすでに稲の刈り取りを済ませていれば、洪水もなんの問題もない。むしろ大量の新しい栄養を運んでくれる。だから、洪水が治り、全てをすすぎ落とし、水が乾けば、来年の豊作は保障される。これほどうまくこの複雑な情景の変化をまとめあげた句は珍しいと思う。秋出水、乾く、そして幸という漢字が見事にひらがなで結ばれている。素晴らしい。
<秀句>
1. 朝顔のひとつひとつにある夜明け 恵
<佳作>
3. 炎天をまつすぐに漕ぐいただきさん 留美子
10. 白砂にふはりと風の夏帽子 さくら
21. 存在感残して二才児盆終る 遊
34. 桐の花ははを仰ぐかにひらきけり Miiko
44. 捥ぎたてのトマトが馳走里の朝 さくら
51. たくましき茎を揃へて芋の列 和子
75. マスクなき君の唇涼新 吉博
投句一覧(8月17日)
朝顔のひとつひとつにある夜明け
サングラスとりて古刹の由来読む
炎天をまつすぐに漕ぐいただきさん
巣籠て盆も普段もテレビ前
鉄瓶の静かに流る今日彼岸
午前五時散歩涼しく鳥の声
青田風原風景に溺れけり
蚊帳の中太郎三郎魚となる
思ひ出に気附けば返事ソーダ水
白砂にふはりと風の夏帽子
初嵐ベランダ野菜ちりぢりに
八月の森にひしめく息吹かな
遠花火祈りの火のあと願ひの火
浴衣着て母の袖引く赤リボン
耐えに耐え夏牛朝のカーボンゲップ
窓開ける一筋の風秋気配
測溝に水草の花宙碧し
火輪出し勢火に任す秋刀魚焼く
竹薮の隙間日差しに秋気配
砂時計指を零れる夏休み
存在感残して二才児盆終る
白砂に寄せ来る波の音涼し
自粛生活抜け出し青田風を浴ぶ
浴衣着てすます娘の左前
片かげりスマホをはさむ肩と耳
朝夕の心にゆとり涼気満つ
牛蛙大合唱の魂迎え
青き踏み来るみづ色のワンピース
送り火も雨の土砂降りこの世の災
蜩や枯山水に砂の川
炎天や騎手の愛馬に塩食ます
夏休み道いつぱいのケンケンパー
台風の準備万端度胸きめ
桐の花ははを仰ぐかにひらきけり
初嵐鳥の集団声もでず
白雲のいやます光残暑かな
桐一葉天よりゆるり考の愛
白靴はメッシュ山の手夫人かな
AIのどこ吹く風や夏祭
マスカット送られ集ふ閉ぢこもり
門川に遊ぶ一人の水温む
紫式部暑さ負けして棒立ちと
爽やかや青空丸く鳶の輪
捥ぎたてのトマトが馳走里の朝
飽食の猫とかげ食べずジャレ遊ぶ
天の川吾と夫とのあの世かな
団扇絵のアマビエの風もらひけり
七夕や逢瀬はソーシャルディスタンス
朝散歩に忍ぶ初秋雲錦
大文字小規模ながら京気迫
たくましき茎を揃へて芋の列
明けやらず蓮池ぽんと紅大花
朝散歩吹く風秋を運び来る
閉ぢこもりコロナ騒ぎの八月大名
夏草や少年いつもひみつ基地
せせらぎの音の爽やか峠越え
こんなにも居たか小鳥の帰り行く
雑草の暑さにめげず背丈越す
土砂降りの雨の迎え火魂迷う
目礼し墓参の人をややり過ごす
星月夜夜通し聞ゆ踊り節
秋出水すすぎ乾くといふは幸
ふみつけしタンポポ花けなげに小花咲く
初恋の彼は特攻天の川
今日一日日ごろを感謝生き身魂
夕立にほっと息つぐ鬼瓦
ピッケルで指す遠き嶺夏穂高
青空に光り微笑むさるすべり
滝しぶきを浴びし師の声山のこゑ
カラフルなトマト海辺のレストラン
今日、どこに行こうか夏帽子
天の川渡れぬ二人羽あらば
学校農園つぶらに光る稲の花
足形のマークを踏みて秋暑し
マスクなき君の唇涼新
爽やかやせせらぎの音水光る
夏蒲団胸まで掛けて山の宿
流れ星に手の届きそう庭に立ち
苧殻なく割り箸炊きて事済ませ
行水名残心機一転今を生く
夏ゴルフ鴉咥えしボール何処
モネ水蓮蒼持ちあげて人目引く
初台風どつと倒せり洞大木
風捉え宙に紅吐く百日紅
生き身魂長生きしてねと肩を揉む
家具なほす夫の槌音秋澄めり
目に余る世の災難や秋近し
珊瑚樹の生き生き赤く鳥を呼ぶ
郷帰り空一杯の星月夜
桐一葉一葉に忍ぶ考の愛
浴衣着てはにかむ少女おちょぼ口
草踏みて降る坂道盆踊り
向日葵や太陽巡り終日
稲妻の光間近や父の留守
流れ星降る郷の綺羅同胞を
母の忌や向の沙羅の花盛りなり
一杯の梅酒に恙無き日々を
雨しとど忍者屋敷の七変化
選者4名 小高和子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図) , 原さくら(ほととぎす), 村山由斉(香川未来図)
<特選>
8. 岩清水光る山路や郷近し 恵
・静かな山間を歩いていると、きれいな岩清水に会う。静謐な心境の中「岩清水光る」の措辞に郷へ向かう作者の心の逸るのを感じる。
<秀句>
40. 麦茶飲み遊びの輪へと駆け戻る さくら
<佳作>
3. 満ち潮の風になれ染む海紅豆 Miiko
6. ヨーソロと帆柱高く夏の雲 吉博
9. 片づかぬ日々を生くるや薔薇真紅 留美子
19. 松籟や蚊帳に眠る子向き向きに 遊
66. 空と海蒼を広げてヨット行く 由斉
76. 魔女被るヴェールや烏瓜の花 さくら
101. 水の面の微かに揺れて蓮散華 恵
<特選>
6. ヨーソロと帆柱高く夏の雲 吉博
・ヨーソロの掛け声が聞こえて帆船日本丸だろうか、。船の舵取りで目的の方向や角度へ向かって進めという意味あいで出航のあいづに。白帆を高く広げ航海練習生が安全な航海を願っ大きなヨーソロが響く夏雲、季語が効してる。
<秀句>
87. 青田へと臥龍天青鷺一羽 さくら
<佳作>
1. 松籟や蚊帳にとどく波の音 遊
9. 片づかぬ日々を生くるや薔薇真紅 留美子
19. 松籟や蚊帳に眠る子向き向きに 遊
28. する事の多きに老いの梅雨曇り 恵
53. ビル狭間売れ残る田の草いきれ 由斉
84. 空蒼くヨット列なす新港 広斉
101. 水の面の微かに揺れて蓮散華 恵
<特選>
46. 猫じゃらしひよろりと立てて子のブーケ 留美子
・色とりどりの花を摘んで束ねた中に2、3本の猫じゃらしを加えて仕上げたブーケが手にとるように見えてくる。子供の想像力や発想力は無限である。大人の感覚からはみ出した柔軟な子供ならではのアイディアの詰まったブーケ。ひよろりと立てた猫じゃらしを揺らす風さえ見えてくる。「ひよろり」の擬態語が効果的に使われていて読む人の笑みを誘う。
<秀句>
101. 水の面の微かに揺れて蓮散華 恵
<佳作>
25. 青芝に百葉箱の浮きて見ゆ 遊
31. 片陰を選りて包丁研ぎ師かな 和子
35. こんがりと若き肌焼く海開き 吉博
37. 歩け無い身にも聞ゆる夏の声 恵
48. 白玉のつるりと滑る安堵感 由斉
49. 向日葵や太陽日々に育ちけり 吉博
<特選>
3. 満ち潮の風になれ染む海紅豆 Miiko
・月と地球との重力の関係で生み出される普通の満潮、干潮ではない。吹き寄せ効果という気象用語のあるもので、海岸に向かって吹く風によって、海水が沿岸に吹き寄せられて潮位が高くなる現象である。もし満潮と重なるようなことがあれば、まさに高潮である。ある意味で恐ろしさを感じる状況でも海紅豆の花は悠然と揺れているのであろうか。近年の極端気象を想起させると同時に、それすら平然とやり過ごす力を求められていると痛感する。
<秀句>
4. 飛び立ちて明かす所在や青葉木菟 さくら
<佳作>
5. 四百年流る谷川船遊び 広斉
7. 垣のどこか滴光るる梅雨晴れ間 和子
11. 向日葵や頬杖雨の日曜日 さくら
12. 冷奴薬味色々閉ぢこもり 広斉
19. 松籟や蚊帳に眠る子向き向きに 遊
22. 遠郭公心の躍る朝かな 和子
93. テイブルに朝日のでんと梅雨開ける 恵
投句一覧(7月20日)
松籟や蚊帳にとどく波の音
城内に史実新や祇園祭
満ち潮の風になれ染む海紅豆
飛び立ちて明かす所在や青葉木菟
四百年流る谷川船遊び
ヨーソロと帆柱高く夏の雲
垣のどこか滴光るる梅雨晴れ間
岩清水光る山路や郷近し
片づかぬ日々を生くるや薔薇真紅
ワクチン打ち社長に感謝コロナ災
向日葵や頬杖雨の日曜日
冷奴薬味色々閉ぢこもり
父母会は祭の準備孫来る
帰校時に妣の差し出す砂糖水
明けやらず蝉の饗宴被災地を
スイカ割り海の向こうのジェノサイド
岩なぞり神の滝めく白き糸
冷素麺食欲誘う郷の昼
松籟や蚊帳に眠る子向き向きに
梅雨晴れま慌て洗濯鳶の笛
逆さ富士沈め湖の光燦々
遠郭公心の躍る朝かな
毎日を昼寝三昧コロナ災
鱧の骨切る音微か猫覗く
青芝に百葉箱の浮きて見ゆ
団扇型の器に盛りて京の膳
一陣の風に分け入る大暑かな
する事の多きに老いの梅雨曇り
炎昼や叫びたくなるムンクの絵
夜光虫波にゆらゆら美の祭典
片陰を選りて包丁研ぎ師かな
ボート乗る新調帽子風奪う
欄干にででむし我は傘の中
虫干しと開けし箪笥にあの日の衣装
こんがりと若き肌焼く海開き
梅雨空にサッカー錬修声高く
歩け無い身にも聞ゆる夏の声
夏風邪に頭の痛みやつあたり
空蝉に生気をもらう朝散歩
麦茶飲み遊びの輪へと駆け戻る
風呂上がり飲むサイダーや犬の舌
帆柱めく噴水一気に立ちのぼり
エメラルドグリーンの囲む夏に生き
砂糖水そつと一匙おまけとか
麦茶の香なじみのふかく郷をこう
猫じゃらしひよろりと立てて子のブーケ
閉ぢこもり思い切りこる夏料理
白玉のつるりと滑る安堵感
向日葵や太陽日々に育ちけり
夕暮や子供等線香花火老の人
焼跡の機銃照射終る敗戦日
冷蔵庫あれもこれもと期限切れ
ビル狭間売れ残る田の草いきれ
しがらみを解くかに落つる滝しぶき
ベランダの胡瓜の曲がり誰が根性
閉ぢこもりアイステーこり避難の人を
雨止んで曇りのち晴れ蝉しぐれ
遠花火の火の鳥となる散華かな
茹で小豆朝から匂うコロナ去れ
千年を落ちる滝音変わりなく
国中の空襲跡や終戦す
また逢ひし蜥蜴閃光残し去る
薬缶より麦茶直飲みするは誰
木の間越しほのかに見ゆる夏の月
着藷師のやさしき強き青嵐
空と海蒼を広げてヨット行く
女型役者の魅惑夏の月
剪定のすみて緑陰刈りとらる
セイルスマン緑陰ペンチを我が物と
さー句作と座る机に額の花
冷麦の薬味色々鳥の影
冷素麺被災地思い涙ポロ
大空へガツンとゴーヤ芽ののびて
甘酒に心沈めてさー句作
東洋の夏の憩いや茶の手前
魔女被るヴェールや烏瓜の花
水羊羹風呂上がり待ち生きる幸
花御座を木陰に友と妣の笑
海の日や苦海浄土を思うべし
苗にしてすひにトマトの香を放つ
青青と青の生み出す夏の里
存えて香と味飽きぬ麦茶かな
ひまわりの並ぶ大地の平和かな
空蒼くヨット列なす新港
雷の音孫おどろきて腹当急ぎ掛け
空の蒼海の青引きサーフィン
青田へと画竜点睛鷺一羽
セーラーの飛ばす草矢の艶めけり
水鉄砲のプラスチックに竹涙
古城址に水豊かな花菖蒲
夕立に里雲仰ぎ無味感傷
風知草ゆらゆら揺るる郷近し
テイブルに朝日のでんと梅雨開ける
心太つるりと滑る昼さがり
川岸の熱き抱擁巴里祭
夏始め五体驚く朝ぼらけ
毎日の食後楽しやアイスクリーム
ほっとする午後の夏テイー被災地を
芝居席何処からより蜜豆来る
夕顔の振りしてそっと祇園茶屋
水の面の微かに揺れて蓮散華
選者4名 小高和子(東京未来図), 吉岡御井子(香川未来図) , 原さくら(ほととぎす), 村山由斉(香川未来図)
<特選>
55. 氷水五臓六腑に生きる日々 恵
・氷水の冷たさが、からだの中を走るとき身のひきしまるものを感じます。その美味しさに生きていることを実感し、これからも日々真剣に生きようとする作者の気持ちがよく伝わってきます。
<秀句>
31. 本の上ばさりと夜半の天牛虫 広斉
<佳作>
10. マンションを水平に切る夏燕 辻
19. 海光の蝶となりゆく白帆かな Miiko
21. ゴールネットを揺らすボールや梅雨晴間 さくら
41. 松葉牡丹気丈な妣の笑顔見 恵
50. 雲水のごとき清貧心太 吉博
70. 下校子の長靴まじる梅雨晴間 留美子
105. 讃岐路の靄の中よりほととぎす 隆盛
<特選>
22. 驟雨来て街の騒ぎを攫ひけり 和子
・夏の午後、雲が空を覆い急に音たてて降りだす雨、街往く人たちは、駆け足で軒下にかけこむ、街の騒ぎを、から人々の話声や車等の生活音すべてを夕立ちが洗い流した。下五句の攫ひけりたで強調され、生き返ったように思える。驟雨の季語にして新鮮な夕立ち感の一句となっている。
<秀句>
107. 高層にとどくくちなは都市社会 留美子
<佳作>
2. 黴の華咲かせて齧るパンの耳 吉博
18. 尾を切られ慌てチョロチョロ瑠璃蜥蜴 由斉
36. 幽けきはおみなの霊や姫ほたる 吉博
41. 松葉牡丹気丈な妣の笑顔見え 恵
61. 刈り込みし膝の高さに牡丹の芽 隆道
64. エンジン音駆け抜ける夏ノスタルジー 由斉
68. 蚊帳釣りて部屋開け放つ郷座敷 恵
<特選>
19. 海光の蝶となりゆく白帆かな Miiko
・青空の下蒼海へと滑り出したヨットは風を受け風を操りゆっくりと遠ざかってゆく。海光を浴びるヨットの白帆は傾きつつ光を返しつついつしか海原と同化して行く。「海光の蝶」とは言い得て妙。一服の絵画を見ているような美しい光景に魅了されてゆく色彩豊かな秀句である。
<秀句>
102. 端居して寄る辺なき身を託ちけり 吉博
<佳作>
17. 雨模様そろそろ角を蝸牛 由斉
32. 日焼してわらふ老爺の目尻かな 留美子
50. 雲水のごとき清貧心太 吉博
66. 振りまわす棒の先よりシャボン玉 遊
98. 梅雨ぐもり朱色の靴は男なり 遊
105. 讃岐路の靄の中よりほととぎす 隆道
<特選>
32. 日焼してわらふ老爺の目尻かな 留美子
・コロナ禍でマスクが日常となり、人の笑い顔を忘れてしまったかのような今、日焼けして真っ黒の老いた漁師だろうか、その目尻の皺が眼前に浮かぶ。その翁の漁場の日常も大きく変わってしまっているように思う。懐かしさを超えて、大切なものを思い出させてくれる句に出会えることができたのがとにかく嬉しい。
<秀句>
10. マンションを水平に切る夏燕 辻
<佳作>
6. 南天の花災の去れよと白を吐く 恵
11. 紫陽花に緊張ほぐす風すこし 遊
16. 薔薇の花一夜の風に花悲し 辻
45. 大きい羽ひらり飛び立つ夏の蝶 恵
49.古民家にあぢさい咲いて人見えず 佐藤
66. 振りまわす棒の先よりシャボン玉 遊
68. 蚊帳釣りて部屋開け放つ郷座敷 恵
投句一覧(6月15日)
胡麻を蒔く風やはらかな日和かな
黴の華咲かせて齧るパンの耳
嬉しは葉隠れ梅の二つ三つ
はは好み紫小袖花菖蒲
梅天に天使の笑顔振り撒く子
南天の花災の去れよと白を吐く
見なれきし母の背中や胡瓜もみ
あかときの沈思黙考夏来たる
廃線の終着駅や草茂る
マンションを水平に切る夏燕
紫陽花に緊張ほぐす風すこし
ナイターに奇声を上げし日も遙か
夏至の日の影なき電柱並びけり
初夏の瀬戸夜明けの陽射し長く伸び
雨模様並ぶ青田の美の世界
薔薇の花一夜の風に花悲し
雨模様そろそろ角を蝸牛
尾を切られ慌てチョロチョロ瑠璃蜥蜴
海光の蝶となりゆく白帆かな
ドクダミの日陰占領医者いらず
ゴールネットを揺らすボールや梅雨晴間
驟雨来て街の騒ぎを攫ひけり
草茂るビルの狭間の一枚田
燕の子一日大きく口を開け
屈託も痛みも解けて梅雨の湯に
ふる里や土日もなくて農作業
緑陰や水筒あおぐポニーテール
万歩無理千歩やっとの氷水
暗から明へ急展開瀬戸の初夏
寝静まる梅雨の闇へと溢るる灯
本の上ばさりと夜半の天牛虫
日焼してわらふ老爺の目尻かな
空梅雨の光燦々苦し日々
椿刺す根付くを祈る朝の庭
オンラインの面接えがお薄暑かな
幽けきはおみなの霊や姫ほたる
羽抜鳥我が身見るごとまなこ閉ず
新緑の色の深さに包まるる
涅槃西死と詩の語感相似たり
風やはぐ吹けば色甦る菖蒲園
松葉牡丹気丈な妣の笑顔見え
兄逝くと電話の声す樫落葉
田圃えとて早苗投げ込む考の笑
影を出て流れ早やめし春の川
大きい羽ひらり飛び立つ夏の蝶
五月晴兄のけむりの一筋に
風呂上がり冷酒待ちおり笑み転ぶ
今日の事今日で片付け梅雨に入る
古民家にあぢさい咲いて人見えず
雲水のごとき清貧心太
正伝と並ぶ青田や美の日本
執着を棄つるさらさら紗羅の花
今少し読みたきところ明けやすし
明けやらぬ散歩の沈思かたつむり
氷水五臓六腑に生きる日々
早苗投ぐ考の笑顔の百万雨
城濠を烟らせ梅雨の舫ひ舟
常磐木落ち葉集め風呂炊く山の家
戸袋の巣雀ゆるす老の家
栗の花裏山埋めてたのもしや
刈り込みし膝の高さに牡丹の芽
ビル狭間青田整然日本の美
注ぎ足る香り懷し新茶哉
エンジン音駆け抜ける夏ノスタルジー
兜虫求め四時起き幼き日
振りまわす棒の先よりシャボン玉
柿の花路地埋め尽くす夜明け前
蚊帳釣りて部屋開け放つ郷座敷
熟年もよし花水木花の空
下校子の長靴まじる梅雨晴間
庭仕事終え氷水犬見あぐ
割り箸に摘み出されて根切り虫
海の日や連絡船のありし日々
撃ち返す波煌々とヨット列
蓮池に流るる風の浄土かな
水鏡ひとり早乙女映しけり
から梅雨の朝の水まき鳥参加
遠足のしんがり何時も小走しりに
嫁せし娘の部屋をのつとる大西日
からびたるこころに童話五月尽
ベランダのトマト色好き鳥を呼ぶ
内燃機関もはや廃棄の蝸牛
蔓手毬崖這い登リ天に手を
カタツムリ日差しを避けて眠る日々
松葉牡丹空き地を埋めて色の風
第一ボタン外して仰ぐ泰山木の花
側溝に一本の糸さぼり蜘蛛
夏燕親待つ一日口開けて
青天へ節も百歳今年竹
尺蠖の測るに任せゐる仏
ひとり生えの枇杷の色付き鳥を呼ぶ
水素ガソリン夢の夢なりポルシェの夏
堤防に釣舟ゆれて額の花
ほうたるのゐるかも葉っぱ裏返す
草茂る朝日の嬉々と風の波
出水あり田の池と化し水光る
振り返り後悔無しと涼し朝
梅雨ぐもり朱色の靴は男なり
冷房を切り忘れたる朝朦朧
片言に言葉合せて夏の夕
梅雨入りも梅雨の明けるも吾寝床
端居して寄る辺なき身を託ちけり
から梅雨に今日も寝るよと蝸牛
窓開ける涼し高階蔦の輪
讃岐路の靄の中よりほととぎす
柘榴の花紅灯す峠越え
高層にとどくくちなは都市社会
選者4名 I. 今村博子(東京未来図) , O. 小高和子(東京未来図), Y. 吉岡御井子(香川未来図) , M. 原さくら(ほととぎす)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
75. 夏帽子の飾りを換える夫の忌(3)祥
・夫の忌を迎えられ来し方を色々と思い出し、夏帽子に薔薇の小花でも飾って忌を修されれば御主人もよろこばれる事でしょう。忌を大事に考えられる良い事です。
<秀句>
42. 野良猫の蛇口を舐める薄暑かな(5)吉博
<佳作>
17. 立ちこぎの風切る少年麦の秋(7)吉博
19. 親戚の子のやうにくる雀の子(2)Miiko
23. 花束の届きて母の日となりぬ(2)さくら
32. 小判草群れゐて買い手つかぬ家(2)さくら
58. 鳥雲に空を寂しく残したる(2)広斉
61. 姉が来る春の野菜の匂ひ連れ(4)佐藤
70. 鼻唄は自ずと演歌昭和の日(4)吉博
<特選>
86. 農道も川に成り果つ男梅雨(3)由斉
・早くも四国や近畿地方でも梅雨入りが宣言されている。空梅雨でも困るのだが最近の梅雨は大きな被害をもたらすので警戒が必要である。この句はその一端を捉えている。「成り果つ」に梅雨に困惑している様子がよく表れている。季語「男梅雨」が効いていると思う。
<秀句>
63. 沖の船の雲かとまがふ青葉潮(2)Miiko
<佳作>
5. 鍬疵のふかき筍道の駅(1)Miiko
11. 若葉してターザンロープ児らを待つ(2)留美子
19. 親戚の子のやうにくる雀の子(2)Miiko
21. 山若葉アスレチックの丸太歩す(4)留美子
33. 雄大な山二分して滝の音(1)恵
44. 生真面目をうとまるる日よ通し鴨(2)遊
91. 石積なる世も一筋の蟻の道(2)恵
<特選>
17. 立ちこぎの風切る少年麦の秋(7)吉博
・早収穫を迎えた麦畑は、この時期野山の草木が繁茂する緑の中黄色がひときわ美しい、ゴッホの絵画にもあるように。上句の立ちこぎから若者、自転車に乗っている中高生だろうか、少年の表現で麦の成長と重ね立ちこぎで動きが見える。熟れた麦の匂いにむせ返りながら初夏の風切り自転車で麦秋を横目に走り抜いてる姿が見え爽やかさも届く優れた句である。
<秀句>
39. 紫に虚空を染めて桐の花(4)恵
<佳作>
7. 苗木市見終へて己が財布あけて見る(1)佐藤
13. 夏蝶や野仏の肩風巻く朝(2)祥
35. 波に乗る海月の軽さ吾かとも(1)恵
49. 雨だれに妣の声聞く梅雨ひと日(1)恵
61. 姉が来る春の野菜の匂ひ連れ(4)佐藤
65. 告白の如くひとひら捲る薔薇(3)さくら
89. 予後と伝ふ時をただよふ室の花(2)隆道
91. 石積なる世も一筋の蟻の道(2)恵
<特選>
70. 鼻唄は自ずと演歌昭和の日(4)吉博
・時代の流れと共に歌も又変遷を重ねてきている。哀調を帯びた日本的なメロディの演歌は昭和を生きてきた人々の心に深く沁みついていると言っても過言ではないだろう。歌は時代を映すと言われている。この句の作者も昭和と言う激動の時代を生きてこられた方だと推測される。「昭和の日」との取り合わせが絶妙である。
<秀句>
92. 身の丈も縮む齢や更衣(5)吉博
<佳作>
6. 初つばめ頭上かすめて来たりけり(2)遊
22. 燕の巣パン屋の軒に新聞紙(1)遊
34. ぼろぼろの地図を折りまげ遍路手に(1)辻
39. 紫に虚空を染めて桐の花(4)恵
42. 野良猫の蛇口を舐める薄暑かな (5)吉博
58. 鳥雲に空を寂しく残したる(2)広
<互選>
1. もの捨てて始まる未来木々芽吹く(4)秀
2. 男の子ばかり水を追ひかけ萩の角(2)秀
3. 薄雲に見え隠れしつ春の月(1)
4. 若芝や母の手が持つ児の歩み(2)
15. 花散りて心静かに聖書讀む(1)
28. 残照の神の雪領へ合唱す(1)
31. 春続くつづかなき日々吾が鍛練(1)
38. 身の奥にコロナ案じつ春の旅(2)秀
46. 芝居小屋閉まり躑躅の緋の舞台(2)
48. 春強風ベランダ荒らし後誰が(1)
50. 敵と言うものの無くなり春の蝶(1)
55. 吊革に体委ねて花疲れ(3)
66. 桜散る木々のドラマや散歩道(2)
74. 春の闇とぢこもる日々老い深む(1)
77. よだれの子あやせば笑ふ春日中(3)秀
78. 鯉幟風の死角となる真昼(2)
81. 一年生母子一列登校かな(1)
83. 春の闇遅れ勝ちなる考の時計(1)
87. 潮干狩り腰を伸ばせば遠き海(1)
93. 春風に帽子飛ばされ追かける(1)
94. 半開きの門扉のつるばら屋主留守(2)秀
97. 雨止みて竿昇りゆく鯉幟(2)
99. 髪切つて大きな影の初つばめ(1)
投句一覧(5月18日)
母の日や吾にも吾子にも母はなし
馬車に乗る嵯峨野竹藪夏の風
緑中童地蔵の微笑めり
雲り空雨もほつほつ遍路杖
鍬疵のふかき筍道の駅
初つばめ頭上かすめて来たりけり
苗木市見終へて己が財布あけて見る
この先にピアノ教室昼蛙
温帯から亜熱帯へと日本の梅雨
たれかれにふるまふ飴湯初戎
若葉してターザンロープ児らを待つ
新緑の絶気に酔ひて郷の道
夏蝶や野仏の肩風巻く朝
二人いて愛も話せぬ草いきれ
新茶入れ香りに溺れ味に惚れ
健康で卒寿まで生き野バラ咲き
立ちこぎの風切る少年麦の秋
ガラス越し映画見ること梅雨の庭
親戚の子のやうにくる雀の子
髪切つて傘が重荷の梅雨に入る
山若葉アスレチックの丸太歩す
燕の巣パン屋の軒に新聞紙
花束の届きて母の日となりぬ
今一番朱の大屋根を新芽這う
電気自動車鬱なる梅雨も我関せず
おもむろに駅名動く初電車
忍者屋敷日毎変はリて七変化
桜満開人に酔ひ花に酔ひ
人の手と自然おりなす緑の軌跡
婆さんのくしやみに力ありにけり
コロナの災閉ぢこもる梅雨如何生きん
小判草群れゐて買い手つかぬ家
雄大な山二分して滝の音
ぼろぼろの地図を折りまげ遍路手に
波に乗る海月の軽さ吾かとも
テラス来てわが物顔の夏すずめ
春は夕暮飛行機雲は一直線
はは恋ひの羽織りてみるセルの着物
紫に虚空を染めて桐の花
クレーンより丸太一本五月晴
ゆきあひて呉るる豌豆エレベーター
野良猫の蛇口を舐める薄暑かな
手作りのマスクを送る老母かな
生真面目をうとまるる日よ通し鴨
負うた子に教えて貰ふ梅雨の入り
夏兆す部活生徒の蛇口飲み
セカンドハウス蛇堂々と風呂泳ぐ
不器量の莢にふくふく実豌豆
雨だれに妣の声聞く梅雨ひと日
平和であれ夏憲法改正大反対
好奇心釘付けにする蛇の衣
餌撒くや金魚揃つて立泳ぎ
放置されし畑に注ぐ梅雨虚し
今日は紅明日はなに色七変化
青空は巨大なドーム春の岳
水蓮咲く水に感謝の一日暮れ
かけうどん熱熱ぬるき薄暑かな
鳥雲に空を寂しく残したる
納涼床風も馳走と通りけり
青葉の簾髪すく妻を見なほせり
姉が来る春の野菜の匂ひ連れ
コロナ災泳ぎ遠避け波遊ぶ
沖の船の雲かとまがふ青葉潮
おでん酒美人客来て皆無言
告白の如くひとひら捲る薔薇
白カーテン庭のさつきに夕日射し
太平洋熱き湿りの梅雨に入る
五月憂し半透明の空続き
梅雨きびし古傷痛む通院日
鼻唄は自ずと演歌昭和の日
手習ひの如く老いたる柏餅
梅雨時の腰痛虚し夢散歩
白鳥の胸より水へすべり込む
耳とうき二 人の電話山笑う
夏帽子の飾りを換える夫の忌
境内のせせらぎ光り夏光る
人は皆自然を友と梅雨ごもり
残生の眼差しで見る藤の糸
目眩するほどの真紅や薔薇の海
たそがれや草花「いらぬか」卯月晴
新茶摘む婆も娘も赤襷
大口をあいて薫風呑みにけり
風音の乾く真昼や麦の秋
雄大な山と人との夏斜つ景
洞に雨小さき新芽の溌溂と
農道も川に成り果つ男梅雨
たんぽぽの残る飛石孫帰る
現実と幻想錯綜梅雨しとど
予後と伝ふ時をただよふ室の花
風薫る森吹き抜ける厳かや
石積なる世も一筋の蟻の道
身の丈も縮む齢や更衣
傘寿祝ぐ阿修羅の前の桐の花
いけ花に心打ち込む夏座敷
麦秋を撫できし風のちくちくす
気持ちいい自然な心夏の海
遠花火延命治療ことわると
孫の髪雨にぬれ歸る五月雨
器選り新茶楽しむ閉ぢこもり
選者4名 I. 今村博子(東京未来図) , Y. 吉岡御井子(香川未来図) , G. 後藤隆道(香川未来図), M. 原さくら(ほととぎす)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
55. 教会の十字架高く花は葉に(3)辻
・教会には親戚の結婚式などで、何度か行った事があり、礼拝堂の雰囲気は荘厳そのもので、清らかな気持になれる。作者は教会の屋根にある十字架を目に止め青い空に、いつの間にか花は葉桜になっている景色を見て、無理のない素直な表現で、きちんと俳句の形になっていて気持の良い句である。
<秀句>
85. 風船を風に進水式佳境(2)さくら
<佳作>
12. 走り繋ぐ聖火ランナー風光り(5)Miiko
15. 再起動待つ間殊更花吹雪(1)広斉
18. 春の星数の少なき北の窓(3)遊
31. 過疎バス停木の椅子一つ春の冷え(6)恵
56. 武者幟晒す川波かぎろへる(2)隆道
102. 結願に近き遍路の浄衣かな(1)さくら
106. 先生のドレス離さぬ入学児(4)恵
<特選>
57. たんぽぽに命の風や蕊の旅(5)恵
・たんぽぽは代表的な春の野の花で黄色の可愛い花で思わず手にとった記憶がある。花のあと種子が白い冠毛で風に飛ばしていた。中七に命の風とし、風任せの蕊の何処まで飛んで行くのを旅にして下五で上手く調和、蕊に焦点あてた優れた一句である。
<秀句>
31. 過疎バス停木の椅子一つ春の冷え(6)恵
<佳作>
16. 春の鬱ワクチン吾にほど遠し(1)由斉
18. 春の星数の少なき北の窓(3)遊
47. 嫁ぐ娘のテーブルミモザ溢れさせ(2)博子
51. 小手鞠の咲きて明るき排水路(1)留美子
52. 春愁や開かずの鍵の納戸かな(1)広斉
67. 春疾風前髪気にす女学生(1)恵
89. 木の樽の大きく干され百千鳥(2)博子
90. 明けやらず玄関灯す紅椿(6)由斉
103. 蒼き踏むフォークダンスの片思ひ(1)吉博
<特選>
90. 明けやらず玄関灯す紅椿(6)由斉
・早朝の玄関今正に空が明けゆかんとする時一と足早く紅椿が紅々と咲き玄関を明るく照らしている光景が良く表されています。
<秀句>
26. 春寒や看護士寝ずに見廻りぬ(2)佐藤
<佳作>
2. 生命の躍動見ゆる新芽かな(2)由斉
10. 散るを知り咲く満開や花の雲(2)留美子
31. 過疎バス停木の椅子一つ春の冷え(6)恵
51. 小手鞠の咲きて明るき排水路(2)留美子
57. たんぽぽに命の風や蕊の旅(5)恵
75. 千年の楠の洞ろや春の闇(1)さくら
106. 先生のドレス離さぬ入学児(4)恵
<特選>
58. 木の芽風広がるフォークダンスの輪(5)佐藤
・フォークダンスと言えば青春時代が懐かしく思い出される。高校時代の文化祭では他校生と混じって踊り憧れの先輩と会う瞬間をドキドキしながら待ったものだ。1人2人と加わって輪が膨らんで行く。明るい日差しの中に若さの輪が膨らんでいく様子が映像として伝わってくる。
<秀句>
21. アマリリスのお喋りといふ花言葉(2)Miiko
<佳作>
42. はやもつれ合ひて初蝶なりしかな(1)隆道
50. ままごとの妻の口まね春障子(1)吉博
78. 苔厚き庭の井筒や若楓(1)祥
92. 潮寄する音聞く宿の菖蒲風呂(3)辻
94. 振り返り振り返り見る春の虹 (1)広斉
96. かたまりて次の風待つ鯉幟(4)辻
<互選>
1. もの捨てて始まる未来木々芽吹く(1)
3. 男の子ばかり水を追ひかけ萩の角(1)
4. 薄雲に見え隠れしつ春の月(2)
6. 若芝や母の手が持つ児の歩み(1)
9. 花散りて心静かに聖書讀む(2)秀
13. 残照の神の雪領へ合唱す(1)
14. 春続くつづかなき日々吾が鍛練(1)
17. 身の奥にコロナ案じつ春の旅(1)
19. 芝居小屋閉まり躑躅の緋の舞台(2)秀
22. 春強風ベランダ荒らし後誰が(1)
24. 敵と言うものの無くなり春の蝶(1)
25. 吊革に体委ねて花疲れ(2)
28. 桜散る木々のドラマや散歩道(1)
30. 春の闇とぢこもる日々老い深む(1)
33. よだれの子あやせば笑ふ春日中(1)
35. 鯉幟風の死角となる真昼(1)
36. 一年生母子一列登校かな(1)
39. 春の闇遅れ勝ちなる考の時計(1)
40. 潮干狩り腰を伸ばせば遠き海(1)
43. 春風に帽子飛ばされ追かける(1)
45. 半開きの門扉のつるばら屋主留守(1)
62. 雨止みて竿昇りゆく鯉幟(1)
65. 髪切つて大きな影の初つばめ(1)
70. 神の山鳥声零れ新芽光(1)
72. カーテンの開かぬ工房夏椿(1)
73. 人の世の入れ替り見る山桜(1)
81. 朝日受け光燦々木々芽吹く(1)
83. 青空は巨大なドーム春の島(1)
100. マンボウの蔓延防止春の海(2)秀
105. 永久に今の春風望む日々(2)秀
107. 最後かと思う日々なり落ち椿(3)秀
110. 廃校となりしバス停一人静(3)秀
投句一覧(4月20日)
もの捨てて始まる未来木々芽吹く
生命の躍動見ゆる新芽かな
男の子ばかり水を追ひかけ萩の角
薄雲に見え隠れしつ春の月
銀輪にきらめく風や初つばめ
若芝や母の手が持つ児の歩み
紙風船のおまけ富山の置き薬
ヒヤシンス一輪飾り部屋香る
花散りて心静かに聖書讀む
散るを知り咲く満開や花の雲
紅一点季の早読みや庭つつじ
走り繋ぐ聖火ランナー風光り
残照の神の雪領へ合唱す
春続くつづかなき日々吾が鍛練
再起動待つ間殊更花吹雪
春の鬱ワクチン吾にほど遠し
身の奥にコロナ案じつ春の旅
春の星数の少なき北の窓
芝居小屋閉まり躑躅の緋の舞台
花散りて光燦々宙蒼し
アマリリスのお喋りといふ花言葉
春強風ベランダ荒らし後誰が
薫風や昔を語る杵の艶
敵と言うものの無くなり春の蝶
吊革に体委ねて花疲れ
春寒や看護士寝ずに見廻りぬ
春の星ギター背に旅立ちしかな
桜散る木々のドラマや散歩道
雄大な鯉幟の尾影揺る
春の闇とぢこもる日々老い深む
過疎バス停木の椅子一つ春の冷え
春愛でつ馴化でコロナ第四波
よだれの子あやせば笑ふ春日中
温暖化木々の新芽の迷う日々
鯉幟風の死角となる真昼
一年生母子一列登校かな
蝶穴を出今朝の狭庭の片隅に
小さな口「大きくあけて」風邪薬
春の闇遅れ勝ちなる考の時計
潮干狩り腰を伸ばせば遠き海
入学式十分早き掛時計
はやもつれ合ひて初蝶なりしかな
春風に帽子飛ばされ追かける
大柳風の住み着く讃岐浜
半開きの門扉のつるばら屋主留守
大川の百鯉幟風招きをり
嫁ぐ娘のテーブルミモザ溢れさせ
空海の魂に満ちたる春の池
木々芽吹き光燦々吾に喝
ままごとの妻の口まね春障子
小手鞠の咲きて明るき排水路
春愁や開かずの鍵の納戸かな
春疾風帷子なびき寺の路
アルバムを出し涙腺ゆるむ西日かな
教会の十字架高く花は葉に
武者幟晒す川波かぎろへる
たんぽぽに命の風や蕊の旅
木の芽風広がるフォークダンスの輪
春の日々続くか否か吾が気持
柳の芽つるす俳句の風に飛ぶ
綾なせる光と翳や竹落葉
雨止みて竿昇りゆく鯉幟
春の夜一方向よりゲーム音
あたたかや娘の乗る車遠ざかる
髪切つて大きな影の初つばめ
満開の桜一本人見えず
春疾風前髪気にす女学生
蜜蜂の花粉まみれの日長かな
深梅と言ふ大いなる探しもの
神の山鳥声零れ新芽光
董風やマスク外して深呼吸
カーテンの開かぬ工房夏椿
人の世の入れ替り見る山桜
白髪の友久しき笑顔雛菊の花
千年の楠の洞ろや春の闇
百年の梅熟すらん留守の庭
鶯や今朝も早からケキョケキョと
苔厚き庭の井筒や若楓
ベランダにペアスニーカーや雲の峰
春の鬱五感鈍るとぢこもり
朝日受け光燦々木々芽吹く
春を愛で馴化でコロナ第四波
青空は巨大なドーム春の島
大マスク帰る家あり落ち椿
風船を風に進水式佳境
春灯の窓々光る予備校寮
同時期に植えし苗木々春色々
彼岸会や師からの俳名身に重し
木の樽の大きく干され百千鳥
明けやらず玄関灯す紅椿
ベランダの体内時計朝日満つ
潮寄する音聞く宿の菖蒲風呂
東風吹かば聖火の炎や駆ける魂
振り返り振り返り見る春の虹
なるようになれとコロナの春送る
かたまりて次の風待つ鯉幟
縁日の風船結ぶ子の小指
踏みなれし門踏み外し雲雀きく
百階段僅か残して春の行く
マンボウの蔓延防止春の海
今日もまたコロナ理由に昼寝かな
結願に近き遍路の浄衣かな
蒼き踏むフォークダンスの片思ひ
彼を待つ春近くして学徒兵
永久に今の春風望む日々
先生のドレス離さぬ入学児
最後かと思う日々なり落ち椿
ぴかぴかの土踏まずある裸足かな
春隣恋猫耳に傷を受け
廃校となりしバス停一人静
選者4名 I. 今村博子(東京未来図) , Y. 吉岡御井子(香川未来図) , G. 後藤隆道(香川未来図), M. 原さくら(ほととぎす)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
76. 春の海あの日の事を語り継け(3)辻
・この句、十年前の三陸の大災害、地震津波、原発の事だと思う。繰り返しテレビの画面を見るたびに心がいたみ、涙の出る事も幾たびもある。自分の事として心にきざみ語り継ぐことが将来のためにもなる事だと思い共鳴しました。
<秀句>
2. 首で泣く文楽人形沙羅の花(3)辻
<佳作>
15. 春の陽が暗き惑ひを突き破る(2)由斉
34. 子猫抱きやはらかき鼓動伝われり(3)辻
47. 吹き足して子に風船を返す母(5)隆道
74. 園丁の声ほがらかや春の土(4)留美子
101. しほひ狩り隣も我も無我夢中(2)由斉
110. 初つばめ新任教師は帰国子女(2)吉博
121. 句座和む女雛男雛の大マスク(3)広斉
<準佳作>
29. 都恋ひ飛梅香る法の庭(2)Miiko
56. 観音の高き身丈や花の雲(2)辻
<特選>
49. 春雨に声を濡らしてボール蹴る(8)さくら
・春雨は、四季の雨のなかでも絹糸のようにと形容されたり匂やかな雰囲気を持ってる、だから出来るのだろう。サッカーの練習か試合だろうか、春雨のなかでのプレイ、「声を濡らして」の中七にプレイヤーの力と魂入った雰囲気が詠みとれる。臨場感ある一句となっている。
<秀句>
2. 首で泣く文楽人形沙羅の花(9)辻
<佳作>
7. 花ミモザ高きに咲けり子供苑(3)遊
17. 空きビルの蔓の芽吹きや路地光る(2)広斉
19. 絵雛飾り心華やぐ老いの家(2)博子
46. 啓蟄やういろうの粒こぼれをり(1)博子
54. ひとむらの花菜明るく畝立てり(1)留美子
69. 回廊に光差し込む涅槃寺(2)さくら
96. 明日こそと言ふは容易く春の雪(2)由斉
<特選>
49. 春雨に声を濡らしてボール蹴る(8)さくら
・お天気になるのが待ち切れずにいる子供の姿が良く表されています。子供の顔が目に浮かんで参ります。
<秀句>
6. 香りよき煎茶一服春障子(1)吉博
<佳作>
14. スイートピー色とりどりの風流る(1)広斉
29. 都恋ひ飛梅香る法の庭(2)Miiko
42. 臘梅のふふむいのちに日のさして(2)Miiko
53. 初蝶に会う参道の陽矢のなか(1)由斉
68. 不死身なる美顔の雛や二百年(2)Miiko
79. 辛夷咲きももとせ眠る諸味蔵(4)博子
<特選>
47. 吹き足して子に風船を返す母(5)隆道
・うららかな日差しの中風船をいっぱいに膨らませるには子供の息では足りなかったのでしょうか。それとも萎んだ風船に息を足して元通りに膨らませた風船を子の手に握らせたのでしょうか。母と子の幸せな時間が流れて行く。青空に飛ぶ風船の色や子供の声それに応える母親の笑顔が映像となって伝わってくる微笑ましい句である。
<秀句>
74. 園丁の声ほがらかや春の土(4)留美子
<佳作>
16. 白木蓮見上げてはいる小料理屋(1)遊
31. 葉桜の狭間無数の風さわぐ(4)隆道
35. パンジーの庭に小人のどんぐり目(1)留美子
61. 蔦芽吹く予備校寮の徹夜の灯(2)由斉
79. 辛夷咲きももとせ眠る諸味蔵 (4)博子
90. 花冷えの京都嵯峨野の人力車(2)広斉
<互選>
5. ゆく春を俎板跳ねる車蝦(1)
8. 目瞑りて余生透かせば野菊の香(1)
12. 雪解けの峠のカフエ主元気(1)
25. 初大師呼べば応へる彼岸桜(1)
30. 公園のパンジー咲きて児らの声(1)
33. 雛菊を掌に載せ愛信ず(1)
41. 蚕飼ふ村を行き交ふ行商人(1)
52. 古箱の雛出し並べ髪をとく(1)
58. 山笑ふ旅の夫婦の指す屋島(1)
64. 風軽し芽柳解けつ結ばれつ(2)秀
70. 魞挿してふと見上ぐれば伊吹山(1)
71. 水量の増して川面を貯木行く(1)
80. 祖谷谿に平家伝説大枯野(1)
82. 春雨やあいあい傘の肩の濡れ(1)
83. あざなへる自由と孤独大朝寝(2)
86. 春風よ百歳までも生きそうよ(1)
89. 年の豆数へし子等も早親に(1)
94. 鞦韆漕ぐ恋の予感のハイヒール(1)
99. 別れとは言葉にならず梅の花(2)
109. 裏庭の気付かぬうちの紅椿(1)
112. 公園の入り口に咲く初桜(1)
114. スイートピー優しく癒す閉ぢこもり(1)
116. 寝転びて白き桜を老いの幸(1)
117. 今日を生き明日は明日の春の風(1)
119. 欲いへば香り欲しきや迎春花(1)
122. そこばかり光集めて菜花咲く(1)
124. 愛猫の一瞥くらふ春炬燵(1)
投句一覧(3月16日)
親は子を子は親思ふ白寿雛
首で泣く文楽人形沙羅の花
唐芋を植え初めたり生を継ぐ
旅立ちの袴の桜舞ひつどひ
ゆく春を俎板跳ねる車蝦
香りよき煎茶一服春障子
花ミモザ高きに咲けり子供苑
目瞑りて余生透かせば野菊の香
春眠の淵抜け切れず遅刻かな
五千歩の踵を返す花大根
ケキヨケキヨと啼く鶯や裏の谷
雪解けの峠のカフエ主元気
蒼空の陽と和し桜生き生きと
スイートピー色とりどりの風流る
春の陽が暗き惑ひを突き破る
白木蓮見上げてはいる小料理屋
空きビルの蔓の芽吹きや路地光る
春の星浮かべ煌めく水の空
絵雛飾り心華やぐ老いの家
椿一輪落ちて彩変ふ水の色
踊り出すお掃除ルンバ春の雷
紅白の二本の桜人を待つ
接木して果実欲する我が身かな
春の川光りを流し木を流し
初大師呼べば応へる彼岸桜
コロナ禍の二波三波来て春の家
友と会ひ道草食ふや春深し
咲き始む合戦後の老い桜
都恋ひ飛梅香る法の庭
公園のパンジー咲きて児らの声
葉桜の狭間無数の風さわぐ
あたたかや杭に立つ鳥眠りおり
雛菊を掌に載せ愛信ず
子猫抱きやはらかき鼓動伝われり
パンジーの庭に小人のどんぐり目
春雨の中を火事の火赤赤と
今日一輪開く桜は白い色
客人は女人であるべし春日傘
麗かや地下道渡る風ゆるり
マスク下の言葉の綾やケアハウス
蚕飼ふ村を行き交ふ行商人
臘梅のふふむいのちに日のさして
鶯や木靴にはなき右左
蛇穴を出る鈍き動きに我が身知る
啓蟄や九十五までまだ少し
啓蟄やういろうの粒こぼれをり
吹き足して子に風船を返す母
老老いて友と同病霾めり
春雨に声を濡らしてボール蹴る
春の川悲鳴を天に川下り
新参の吾の緊蝶児の解す
古箱の雛出し並べ髪をとく
初蝶に会う参道の陽矢のなか
ひとむらの花菜明るく畝立てり
ひとり者も空家も多し農村は
観音の高き身丈や花の雲
公園の門桜紅陽に光る
山笑ふ旅の夫婦の指す屋島
疫病に負けじと蛤胸ひらく
田起しの畝整然とビル狭間
蔦芽吹く予備校寮の徹夜の灯
蒼き空持ち上げ新芽煌々と
春一番ベランダの花覆し
風軽し芽柳解(ほど)けつ結ばれつ
カレンダーめくれば雛の私語
春の雪光り輝き今日を生く
明けやらず鶯の声ケキヨケキヨと
不死身なる美顔の雛や二百年
回廊に光差し込む涅槃寺
魞挿してふと見上ぐれば伊吹山
水量の増して川面を貯木行く
咲く頃はさぞやと寺苑の牡丹の芽
朝陽輝やき鳥の囀り意気高く
園丁の声ほがらかや春の土
水溜りの薄氷庭を灯しけり
春の海あの日の事を語り継け
飾られて鳴らんばからの雛の琴
初蝶のやつと近づく水飲場
辛夷咲きももとせ眠る諸味蔵
祖谷谿に平家伝説大枯野
鶯や自信喪失作句の苦
春雨やあいあい傘の肩の濡れ
あざなへる自由と孤独大朝寝
かたかごの鈴の音微か山斜面
青い目のマネキンそつぽ春の風
春風よ百歳までも生きそうよ
春銀河経済回す夜の街
ベランダの紫の風スイートピー
年の豆数へし子等も早親に
花冷えの京都嵯峨野の人力車
春一番必ず来ると友を待つ
新薬の待たるる春のコロナの禍
老いて今身に迫る介護目潤む
鞦韆漕ぐ恋の予感のハイヒール
春吹雪さりて俄に空茜
明日こそと言ふは容易く春の雪
朝霜や畦道走るランドセル
野遊びの髪すこやかに走るかな
別れとは言葉にならず梅の花
宇和島の先の光は蜜柑山
しほひ狩り隣も我も無我夢中
休み明け蛇穴を出る今朝の庭
碧い地球円くなぞひて燕来る
種選ぶベランダ野菜楽しみて
有料の紙袋辞す啄木忌
夕さりの彼岸桜の異空間
春潮や白き客船新港
波音も潮の匂ひも春に入る
裏庭の気付かぬうちの紅椿
初つばめ新任教師は帰国子女
差し水の手に紅零す桃の花
公園の入り口に咲く初桜
開き初む門桜白光光と
スイートピー優しく癒す閉ぢこもり
春渚行き来激しき足跡ばかり
寝転びて白き桜を老いの幸
今日を生き明日は明日の春の風
偕老の腕くむ花の詣道
欲いへば香り欲しきや迎春花
ふり仰ぐ小暗き径の花ミモザ
句座和む女雛男雛の大マスク
そこばかり光集めて菜花咲く
白き芙蓉小木満ち咲く影斜め
愛猫の一瞥くらふ春炬燵
選者4名 I.今村博子(東京未来図) , Y.吉岡御井子(香川未来図) ,G後藤隆道(香川未来図), M.原さくら(ほととぎす)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
5. 焚火より売り声が飛ぶ野菜市(5)隆道
・最近は道の駅とか農家の庭先で野菜を並べて売っている景をテレビで見たりする。この句も野菜市のそばで焚火で暖を取りながら、おしゃべりをしたり、時々大きな声で売り声を上げている様子が見えて楽しい作品になっている。
<秀句>
90. 春一番つばさ無きものあまた飛び(3)絢子
<佳作>
3. 遥かより馬橇(ばそう)の鈴音(すずね)深雪の夜(2)絢子
16. マスクして変はらぬ会釈疫病禍(3)留美子
45. とぢ籠り廊下千歩と山笑ふ(1)由斉
53. 朝の雪みな駅へ向く靴の跡(5)隆道
67. 労りを重ねる年の懐炉かな(2)祥
72. 誰が残す駅のベンチの勿忘草(わすれなぐさ)(2)絢子
<準佳作>
13. 吾もまた一点景や大枯野(1)吉博
28. 水鳥のしづかに己が身を流す(2)佐藤
34. 蒼空の蒼こぼせしやいぬふぐり(1)広斉
82. 老梅の洞を抱きて天みあぐ(1)広斉
96. 梅満開京都北野の牛の背(2)由斉
<特選>
14. 春を待つ釣り好き老の鬱の壺(4)由斉
・この時節になると堤防あちこちに仕掛けした釣り人が見え瀬戸内の長閑な光景。釣り好きの老、大公望の目当ては何だろう、エサ盗りの反応も無い我慢の時、ふと壺に眼をやると空っぽ。思うように釣れない気のふさぎと老いの釣果を壺に。また釣れるまで待ちと春を待つの季語で穏やかな心持ちかさねて確かな一句となっている。
<秀句>
8. 盆梅の樹齢百年てふ宇宙(2)さくら
<佳作>
3. 遥かより馬橇(ばそう)の鈴音(すずね)深雪の夜(2)絢子
6. 節分や鬼滅の礫ぴしぴしと(1)吉博
7. ものいはぬ巖を洗ふ冬怒濤(1)留美子
27. 側溝をころげころげて鳥交(つる)む(1)隆道
49. 花椿マリア・カラスの声燃ゆる(3)絢子
52. 鴨群れて日差し呑み込む殿が池(1)祥
56. イヤリング外すや耳朶にある余寒(2)さくら
75. 枝垂れ梅杖百本の命かな(3)由斉
93. 病む友の戸に置きぬ寒そうび(1)祥
95. 一本の線にはじまる建国の日(1)留美子
<特選>
46. 冬の日は風呂敷つつむごと暮るる(4)佐藤
・西空の地平に沈みかけた夕日がゆっくりゆっくりと風呂敷を包む様に地平に消えて行く姿が良く表されています。
<秀句>
65. 父の忌の父の育てし柿供ふ(2)佐藤
<佳作>
2. 盆栽の梅一輪に顔顔顔(2)由斉
12. 水仙の人待ちかおや廃屋に(1)Miiko
44. バレンタイン密さけ並ぶチョコの列(2)留美子
56. イヤリング外すや耳朶にある余寒(2)さくら
72. 誰が残す駅のベンチの勿忘草(わすれなぐさ) (2)絢子
77. 高階の窓に飛び込む春日差し(1)広斉
83. 切り貼りの白の濃淡春障子(3)隆道
91. 初蝶や石垣古りし屋敷町(2)さくら
<特選>
58. 初雪や衣縫ふ妻の糸切り歯(4)吉博
・髪の油を針に指す仕草や仕舞いの糸を糸切り歯で切る仕草。外には初雪が舞っている。現在ではなかなか見られない場面かもしれないが仕上がっていく衣擦れの音が聞こえて来そうな静かな時間が紡がれていく美しい句である。
<秀句>
32. 生きてゆくためのマスクを楽しめり(4)留美子
<佳作>
5. 焚火より売り声が飛ぶ野菜市(5)隆道
10. 踏み入れば峡の氷柱は笹を噛み(1)博子
39. 諦めの三寒希望の四温かな(1)吉博
53. 朝の雪みな駅へ向く靴の跡(5)隆道
83. 切り貼りの白の濃淡春障子 (3)隆道
90. 春一番つばさ無きものあまた飛び(3)絢子
<互選>
18. かぐや姫の降りて来さうな朧月(2)
19. 梅古木瑞枝に生まれたての白(1)
25. 寒月の胸の奥まで射通せる(1)
29. 臘梅の四恩の光りころころと(2)秀
31. 溜池の水の温みて小魚光る(1)
55. 見えぬ目に俳句詠めとは春怒涛(1)
59. ピンヒールのヒールずぶりと凍ゆるむ(1)
85. 春一番ワクチン接種揺れる身に(3)
94. 白梅の白青空を深めけり(1)
投句一覧(2月16日)
節分や日向の庭に猫二匹
盆栽の梅一輪に顔顔顔
遥かより馬橇(ばそう)の鈴音(すずね)深雪の夜
雨あがり虹のきざはし雲に消ゆ
焚火より売り声が飛ぶ野菜市
節分や鬼滅の礫ぴしぴしと
ものいはぬ巖を洗ふ冬怒濤
盆梅の樹齢百年てふ宇宙
紅の舞ふ庭に一本梅の花
踏み入れば峡の氷柱は笹を噛み
閉ぢこもりの鬱飛ばさんと春ゴルフ
水仙の人待ちかおや廃屋に
吾もまた一点景や大枯野
春を待つ釣り好き老の鬱の壺
春霜や琉球ガラスの光りをり
マスクして変はらぬ会釈疫病禍
大鳥居取り巻くピンク春告げ草
かぐや姫の降りて来さうな朧月
梅古木瑞枝に生まれたての白
一条の風の悪戯や落ち椿
コーヒや四方山話きりもなく
義理一遍老師笑顔のバレンタイン
小猫二匹抱く男佇つ庭の昼
静かなる一人の昼を虻破る
寒月の胸の奥まで射通せる
春時雨傘広げずに青信号
側溝をころげころげて鳥交(つる)む
水鳥のしづかに己が身を流す
臘梅の四恩の光りころころと
赤鳥居の青空制し風待ち草
溜池の水の温みて小魚光る
生きてゆくためのマスクを楽しめり
衣更月脱いだり着たり慌ただし
蒼空の蒼こぼせしやいぬふぐり
群れ咲きて水仙岬となりしかな
口中に青き甘みや茅花食む
一服に膝の小猫の飛んで逃げ
山間をキラキラ光る春の水
諦めの三寒希望の四温かな
白梅や脊山の闇の異界めく
操とは消えゆく文字かぼたん雪
ほうけると老友気合梅句会
コロナといふ災厄祓らふ鬼やらひ
バレンタイン密さけ並ぶチョコの列
とぢ籠り廊下千歩と山笑ふ
冬の日は風呂敷つつむごと暮るる
祈る身に清水寺の匂草
晩菜(おくな)茹で好める齢となるふたり
花椿マリア・カラスの声燃ゆる
君子蘭土盛り上げて青を吹く
焚き火番どかと尻据へ牢名主
鴨群れて日差し呑み込む殿が池
朝の雪みな駅へ向く靴の跡
落椿入口塞ぎ遠廻り
見えぬ目に俳句詠めとは春怒涛
イヤリング外すや耳朶にある余寒
立春や明けさわがしく小鳥何方
初雪や衣縫ふ妻の糸切り歯
ピンヒールのヒールずぶりと凍ゆるむ
焼肉のおしやれに香る春障子
椿の葉の艶やかなりし黒髪に
青海苔の香る朝膳鳶の笛
羽ばたいて鴨は屋島の影乱す
引き鴨の帰りを惜しみ寄り添ひて
父の忌の父の育てし柿供ふ
せせらぎも艶増してをりきぬさらぎ
労りを重ねる年の懐炉かな
田螺はふ田螺食べしと母は言ふ
薄氷の閉ぢこむ泡の真珠色
空あかね木の芽朝日に顔を向け
桜草はるかおさげの女学生
誰が残す駅のベンチの勿忘草(わすれなぐさ)
バレンタインチョコにちらちら彼の顔
肉を焼く師と教え子の遅日かな
枝垂れ梅杖百本の命かな
はかなきはいのちなりけりうす氷
高階の窓に飛び込む春日差し
チョコは好きバレンタインの日は嫌ひ
閉ぢこもりテレビ動画に初笑ひ
種を蒔くベランダ野菜楽しみて
春雪や見知らぬ鳥のポストの上
老梅の洞を抱きて天みあぐ
切り貼りの白の濃淡春障子
先駆けの梅を見たくて京都旅
春一番ワクチン接種揺れる身に
申告の医療費束ね目借時
連翹の花見遠足腕白連
二輪草の仲良し姉妹赤リボン
摩天楼匂ふ焼き芋ハイヒール
春一番つばさ無きものあまた飛び
初蝶や石垣古りし屋敷町
艶つぽく青空制し冬木の桜
病む友の戸に置きぬ寒そうび
白梅の白青空を深めけり
一本の線にはじまる建国の日
梅満開京都北野の牛の背
選者5名 I.今村博子(東京未来図) , K.河野絢子(東京未来図) , Y.吉岡御井子(香川未来図) , M.原さくら(ほととぎす),G後藤隆道(香川未来図)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
17. 足跡は命の重さ雪を踏む(6)さくら
・この句は雪山登山の際心にひびいた事かと思う。雪山の遭難はテレビニュース等で見たり痛ましい事である。元気に一歩一歩登った人の足跡を見て、自分も命大事と登って行くのである。「命の重さ」の措辞がよい。
<秀句>
20. 初風や威儀を正して山河あり(4)隆道
<佳作>
5. 戦前の暮しおぼろに薺粥(1)遊
10. 病む妻の箴言しみる寒椿(2)吉博
40. たとう紙の冬の匂ひや長羽織(1)Miiko
50. 睨み鯛老いたる吾をしげしげと(3)正恵
55. コロナ禍やイマジン響く冬の空(2)Miiko
73. 鳥渡る宇宙に塒(とや)のかずいくつ(2)遊
79. 初富士を拝む心や日本人(2)広斉
82. 冬帝にメタセコイアは直立す(2)さくら
89. 雪時雨被爆の痛み放りたし(3)正恵
105. 大服を祝ふ幸せ存へて(1)正恵
109. 初日の出部屋の隅まで光差し(2)広斉
115. 湯気立ててふと母許りの心地せり(2)絢子
129. 餅を搗く音家中に幸響く(1)由斉
<特選>
70. 寒晴や声出せば空毀れそう(5)博子
・寒の蒼穹は一片の暇もなくピンと張りつめている。それを声を出したら毀れそうと感覚的にとらえたのが新鮮。類想句があまり無いのが良いと思います。
<秀句>
21. 寒紅を拭ひ心の鎧脱ぐ(2)さくら
<佳作>
7. 手編てふ温もりを巻き医者通ひ(2)祥
26. 退院の妻の差配や年の暮れ(4)吉博
31. 冬椿死者にこの世の化粧して(5)佐藤
74. 死神と背中あはせの日向ぼこ(3)隆道
103. 後ろ手に障子ぴしゃりと世を閉ざす(2)さくら
109. 初日の出部屋の隅まで光差し(2)広斉
37. 七草粥六腑に春を収めたり(2)正恵
82. 冬帝にメタセコイアは直立す(2)さくら
89. 雪時雨被爆の痛み放りたし(3)正恵
97. 鼻欠けしスフィンクスや去年今年(1)吉博
134. 左義長や竜のごとくに炎なる(1)Miiko
<特選>
8. この星に尽きせぬ祈りお元日(6)絢子
・この星とあるので、きっとご自分のお気に入りの星であろう。尽きせぬの表現がひたすらに祈りその深さを感じる。時の過ぎるのも忘れ祈り続けながら、ふと気がつけば新年を迎えてる。おそらくコロナ収束を願っての祈りであろう。その強い思いが伝わり秀抜な句となっている。
<秀句>
17. 足跡は命の重さ雪を踏む(6)さくら
<佳作>
36. 晩年の顔しみじみと初鏡(4)隆道
47. 愚痴一とつ落葉に乗せて掃きとばす(3)隆道
51. 野良猫の髭ととのへる氷面鏡(1)さくら
80. 蝋梅のひとひら包む掌(たなごころ)(4)正恵
90. 寒雀朝日の光奪ひ合ひ(3)正恵
92. 出稼ぎや思郷の念の五目飯(4)祥
<特選>
45. 初仕事石屋は石の音重ね(3)佐藤
・年が明けて各人が初めて仕事に取り掛かる事を仕事始と言うがそもそもは正月に仕事を始める儀式をさすと記されている。石屋の仕事始めはどのような儀式をされるのか残念ながら分からない。いずれにしても寒気の中に石の立てる音は高く澄み渡っている事でしょう。
<秀句>
50. 睨み鯛老いたる吾をしげしげと(3)正恵
<佳作>
31. 冬椿死者にこの世の化粧して(5)佐藤
35. 大杓文字掛けたる庫裡に淑気満つ(2)隆道
36. 晩年の顔しみじみと初鏡(4)隆道
59. すりきれし座布団返す寒灯下(1)留美子
92. 出稼ぎや思郷の念の五目飯 (4)祥
132. なまくらといへども出刃や寒に入る(1)吉博
<特選>
26. 退院の妻の差配や年の暮れ(4)吉博
・何や彼やと忙しい年の暮ゆっくりと入院もしておれないと早々と退院して年末のすべてを差配する人妻の姿が眼に浮び上がって来ます。
<秀句>
63. 冬タンポポ地にはりつきて影もたず(4)絢子
<佳作>
8. この星に尽きせぬ祈りお元日(6)絢子
31. 冬椿死者にこの世の化粧して(5)佐藤
37. 七草粥六腑に春を収めたり(2)正恵
53. 枝先先実のなる如く初雀(1)由斉
90. 寒雀朝日の光奪ひ合ひ (3)正恵
92. 出稼ぎや思郷の念の五目飯(4)祥
103. 後ろ手に障子ぴしゃりと世を閉ざす(2)さくら
<互選>
去年今年変わらぬ辞書の置きどころ(1)
生命の空間求め鶴が舞ふ(2)
16. 明けやらず狭庭に集ふ初雀(3)
25. かじかみて手指五感のあふれをり(1)
28. 山陵にピンク広めて初日の出(3)
33. 霞初月まだ明けやらず日々不安(3)
43. 大空の日差し遍く冬至かな(1)
44. 爆竹に火の粉吹き上げ雀散り(1)
54. 昵月や挨拶もなくコロナ禍に(2)
56. コロナ禍に貧し母子の聖夜かな(3)秀
65. 卒寿来て孫が五人の御慶かな(2)
76. 裏屋島見ゆる港に冬鷗(2)
77. 開春に過去振り返り明日を待つ(2)
83. 山ン姥(やまんば)の摘み忘れたる冬いちご(2)秀
84. コロナ禍を超えて夢みる春の蝶(4)秀
85. たたみこむ薄刃のひかり寒の水(1)
86. 求め合ふ願ひいろいろ大初日(1)
91. 凧揚げに風の読みあひ河原かな(1)
94. 冬晴に切口白き庭木かな(2)
98. 門松の大きさ競ふ遙な日(2)
100. 母の忌は内輪にすませ冬座敷(1)
102. 霜月や朝日キラキラ庭の木々(1)
112. とどまれば雲が先ゆく枯木道 (2)
114. 雪降ると思へばぱたと日の光(1)
119. さりげなき言葉かき寄せ冬ぬくし(2)
121. 落葉掻く老僧の影風の消す(2)秀
127. 風花の雪となりたる峠越え(1)
128. 独楽回し鉄が奏でる気合なり(3)秀
130. ぽんぽん蒸気音ひびかせて山笑ふ(1)
131. 日溜りの光散らして寒雀(1)
133. 羽子板を送られし朝背比べ(1)
先生方の気掛かりな点
108. や、かな 切字が二つ
投句一覧(1月19日)
去年今年変わらぬ辞書の置きどころ
生命の空間求め鶴が舞ふ
歌留多会兄の強さに調脱帽
新年や計画山と生きる甲斐
戦前の暮しおぼろに薺粥
針仕事して春を待つこころかな
手編てふ温もりを巻き医者通ひ
この星に尽きせぬ祈りお元日
温暖な高松襲ふ春疾風
病む妻の箴言しみる寒椿
大服に祈るコロナの終決を
冬日射す猫のひたいの厨かな
お年玉貰ひし朝は遙かなり
閉ぢこもりゲーム楽しみ年開くる
コロナ災終決願ふ初詣で
明けやらず狭庭に集ふ初雀
足跡は命の重さ雪を踏む
童心に返りて遊ぶ柚子湯かな
初春の晴れ着縫ふはは徹夜して
初風や威儀を正して山河あり
寒紅を拭ひ心の鎧脱ぐ
花八ツ手上眼遣ひの猫に会ふ
閉ぢこもりゲーム三昧お正月
古里の一駅歩く冬日和
かじかみて手指五感のあふれをり
退院の妻の差配や年の暮れ
餅飾り餅に執着日本人
山陵にピンク広めて初日の出
洗濯物干す指痛み北の吹く
晩節の眼濁さじ初鏡
冬椿死者にこの世の化粧して
お節食べつまみばかりの不思議かな
霞初月まだ明けやらず日々不安
凧挙げる電線捉へ泣きつつら
大杓文字掛けたる庫裡に淑気満つ
晩年の顔しみじみと初鏡
七草粥六腑に春を収めたり
娘の手借り落葉踏みゆく夫の墓
新春の初の訪問小鳥たち
たとう紙の冬の匂ひや長羽織
書初めに考の手かりし遙な日
笹鳴きのこの道歩せば父母の墓
大空の日差し遍く冬至かな
爆竹に火の粉吹き上げ雀散り
初仕事石屋は石の音重ね
なすな粥ははの面影吹き零す
愚痴一とつ落葉に乗せて掃きとばす
初詣家並の軒のすつきりと
枇杷の花ひと日籠りて声たてず
睨み鯛老いたる吾をしげしげと
野良猫の髭ととのへる氷面鏡
閉ずものは必ず開く花は咲く
枝先先実のなる如く初雀
昵月や挨拶もなくコロナ禍に
コロナ禍やイマジン響く冬の空
コロナ禍に貧し母子の聖夜かな
雪の富士遙かに拝し生きる幸
[朕思うに」日の丸高くお元日
すりきれし座布団返す寒灯下
餅を搗く古来伝来飽き足らず
旅宿に手の皺自慢蜜柑むく
伯母よりの羽子板大き背比べ
冬タンポポ地にはりつきて影もたず
初雀庭のたずみに朝化粧
卒寿来て孫が五人の御慶かな
七草をははと摘みし日郷の野辺
入院の妹とのメール春を待つ
初雀枝先先に巾着と
魔法解け冬至かぼちゃは煮えにけり
寒晴や声出せば空毀れそう
江戸雪見提灯下げて裾を引き
釣りこうぼう今夜の魚瀬戸鰊
鳥渡る宇宙に塒(とや)のかずいくつ
死神と背中あはせの日向ぼこ
湯気立てて薬缶の鳴るや雨の夜
裏屋島見ゆる港に冬鷗
開春に過去振り返り明日を待つ
はは好みの銘仙はおり初詣
初富士を拝む心や日本人
蝋梅のひとひら包む掌(たなごころ)
運勢を占ふごとく初句会
冬帝にメタセコイアは直立す
山ン姥(やまんば)の摘み忘れたる冬いちご
コロナ禍を超えて夢みる春の蝶
たたみこむ薄刃のひかり寒の水
求め合ふ願ひいろいろ大初日
餅を搗く来年こそと気合入れ
初夢に亡夫戻りき妻何処と
雪時雨被爆の痛み放りたし
寒雀朝日の光奪ひ合ひ
凧揚げに風の読みあひ河原かな
出稼ぎや思郷の念の五目飯
冬晴に切口白き庭木かな
淑気満つ白波の沖つ寄せ来たる
蝋梅の香りふくいく脳の冴へ
鼻欠けしスフィンクスや去年今年
門松の大きさ競ふ遙な日
人日や体力大事と医者の言
母の忌は内輪にすませ冬座敷
ささやかなメモを積み上げ日脚伸ぶ
霜月や朝日キラキラ庭の木々
後ろ手に障子ぴしゃりと世を閉ざす
眉をひき八十路をめざす初鏡
大服を祝ふ幸せ存へて
元旦や夫の唱ふる祝詞より
追ひ風の落葉と競ふ日暮かな
羽付きや艶やか舞ふは若さかな
初日の出部屋の隅まで光差し
生れ日を重ねて老いの粥柱
靴下の穴繕ふやイヴ今宵
とどまれば雲が先ゆく枯木道
年越蕎麦細く長くと謎をかけ
雪降ると思へばぱたと日の光
湯気立ててふと母許りの心地せり
鬼太鼓(おんでこ)の鬼ふりかぶる波の花
蝋梅のかをりに引かれ規を破り
獅子舞の掘り上げる剣天を突く
さりげなき言葉かき寄せ冬ぬくし
初詣で考に負はれて夜半野道
落葉掻く老僧の影風の消す
風呂で聞く何処からより除夜の鐘
世とともに鍛冶の誇りや冬の月
春迎ふ生きるも死すも今日が鍵
ヘアーカット庭に一輪冬のばら
蝋梅の庭中かをり脳さやか
風花の雪となりたる峠越え
独楽回し鉄が奏でる気合なり
餅を搗く音家中に幸響く
ぽんぽん蒸気音ひびかせて山笑ふ
日溜りの光散らして寒雀
なまくらといへども出刃や寒に入る
羽子板を送られし朝背比べ
左義長や竜のごとくに炎なる
詩心引く新年の朝日光
選者4名 I.今村博子(東京未来図) , K.河野絢子(東京未来図) , Y.吉岡御井子(香川未来図) , M.原さくら(ほととぎす)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
51. しぐるるや嵯峨野笹垣騒立てて(4)絢子
・この句サ行の音がつづいて、リズムの良い句で、野々宮神社への径にも竹林がつづき、風の音も気持ちの良い径だった事を思い情景の良く見える佳句になりました。
<秀句>
23. 大根炊く心痩せしと思ふ夕(7)絢子
<佳作>
16. 冬晴や末広がりの船の水尾(2)さくら
19. 憲兵のサーベルの音寒波来る(2)正恵
32. 透明な響きを捧げ聖歌終ふ(3)絢子
49. 宵立ちやコートの重さ知る齢(1)祥
95. 枯葉舞ふ雑木林に風の楽(3)さくら
99. 煤払い煤竹重く老いを知る(3)正恵
<準佳作>
53. 鞴祭肩にカメラの三代目(1)留美子
85. 影長く結眼目指す冬遍路(2)正恵
88. 綿虫の群れて視線をはぐらかす(2)さくら
<特選>
45. 悉く刃物を研いで十二月(6)吉博
・この方はきっと毎年十二月に入ると家中の刃物を研ぎ暮の大忙しの仕事に備えるのでしょう。一年の締めくくりとよき新年を迎えるための心がまえが見えるようです。何もかも完璧にこなしたい姿勢が表れています。
<秀句>
30. 結願の鐘おんおんと返り花(3)Miiko
<佳作>
4. 採用のウェブ面接春隣(2)Miiko
19. 憲兵のサーベルの音寒波来る(3)正恵
55. 忙中に身の透くおもひ初祓(3)博子
75. ぽつくりの鈴音ゆかし宮小春(3)Miiko
88. 綿虫の群れて視線をはぐらかす(2)さくら
95. 枯葉舞ふ雑木林に風の楽(3)さくら
<準佳作>
16. 冬晴や末広がりの船の水尾(2)さくら
29. 木の骨の街路となりて空明し(1)遊
37. 父を見て子がステップの冬至かな(1)留美子
60. 十二月雲より白き朝の月(3)遊
65. 砂ケーキ落葉でかざる子守かな(2)留美子
80. 潮入り川引く潮見つむ寒烏(3)正恵
<特選>
9. ふぞろひの家族のまどゐクリスマス(3)留美子
・今年の十二月はいつもとは違う、コロナ禍にあっても街中ではクリスマスソングが心なしか控えめの音で聞こえ、サンタのグッズ癒され季節を楽しめる。成長した子どもたちはそれぞれ個性的な服、不揃いの服で思う心も差があってもまるく座して、心豊かな家の集いの雰囲気が彷彿として臨場感ある一句となっている。
<秀句>
55. 忙中に身の透くおもひ初祓(3)博子
<佳作>
13. 街川のもみじ織(にしき)や暮早し(1)祥
17. あすか路の棚田広がる鰯雲(1)博子
32. 透明な響きを捧げ聖歌終ふ(3)絢子
33. 落人の千年の村溪紅葉(1)吉博
74. 引く潮に乗り遅れたる冬小魚(1)由斉
79. 夢多き少女真紅の日記買ふ(3)博子
<特選>
23. 大根炊く心痩せしと思ふ夕(7)絢子
・コロナの発生から十一カ月。終息の気配どころか波を打ちながら感染者は続出していて医療崩壊を危惧するニュースが否応なく聞こえるくる。自粛生活を強いられる中知らず知らずに心が尖ってきて余裕を無くしてゆく。この時代を生きている誰もが感じている納得させられる一句である。ただ大根を炊くと言う平凡な日常にどこか安心させられる。
<秀句>
45. 悉く刃物を研いで十二月(6)吉博
<佳作>
6. 屋島晴れ女木はしぐれの出船かな(3)吉博
11. 立冬の水音白き厨(くりや)かな(2)絢子
51. しぐるるや嵯峨野笹垣騒立てて(4)絢子
60. 十二月雲より白き朝の月(3)遊
75. ぽつくりの鈴音ゆかし宮小春 (3)Miiko
78. 膝あさく仏壇に座す木の葉髪(2)留美子
<互選>
1. 送りくる動画の曽孫も冬服に(2)
2. 朝風呂に吹雪到来北の郷(3)
14. 父母の元離れ一人居寒木瓜と(2)
21. 百歳の胸も小踊る大氷柱(4)秀
22. 長病みの妻の食欲冬うらら(2)
26. 玄冬の考かと紛ふ祇園茶屋(1)
38. 落葉踏みグウルモンはたヴェルレーヌ(1)
42. 一年中孤独を守り木守柿(2)秀
46. 師走来る絹縫ふははの胸踊る(3)秀
52. 古希祝ふ妻誕生の神無月 (2)
57. 碧空の島の葱畑宙をつく(2)秀
61. 夕日落つ肩をたたくや落葉雨(1)
62. 朝餉時南へ今日も鳥渡る(2)
63. 冬竹林一人で行けば胸騒ぐ(2)
69. 国難といふコロナ禍や年詰まる(1)
71. 小春日やパパちゃんと呼ぶ幼声(3)秀
76. 刺身鮃ぴくりと踊り箸惑ふ(1)
81. 里山へ寒烏の声の吸ひこまる(2)
86. 綺羅なりし一語に尽きる谷紅葉(2)
91. 寂しさと気楽さ交互冬の夜(3)
92. 妻恋の話延々熱燗に(2)
96. みかん山摘み手不足に鳥嬉々と(2)秀
101. 麦の芽の青生き生きと鳶の笛(3)
先生方の気掛かりな点
説明的、散文的な句がまだ多いのは残念。俳句も詩。
33. 語順を変える
58.60.91.等、季語の動く句は残念
66.「や」「かな」切字が二つ
投句一覧(12月8日)
送りくる動画の曽孫も冬服に
朝風呂に吹雪到来北の郷
朝一や師走の色の友の声
採用のウェブ面接や春隣
枯蟷螂脚ふんばって首を振る
屋島晴れ女木はしぐれの出船かな
洗濯物出し入れ忙し冬ひと日
市街地へ冬霧流れ込む夜明け
ふぞろひの家族のまどゐクリスマス
朝北風に目覚め窓越し空見上ぐ
立冬の水音白き厨(くりや)かな
神苑の落ち葉の日々や空真蒼
街川のもみじ織(にしき)や暮早し
父母の元離れ一人居寒木瓜と
放流の鯉へ歓声秋うらら
冬晴や末広がりの船の水尾
あすか路の棚田広がる鰯雲
朝餉待つ施設の空を鳥渡る
憲兵のサーベルの音寒波来る
靡きいし名草の枯れて猫の声
百歳の胸も小踊る大氷柱
長病みの妻の食欲冬うらら
大根炊く心痩せしと思ふ夕
立ち上がりバスのステップひざ寒し
段ボールに猫抱きし人冬到来
玄冬の考かと紛ふ祇園茶屋
帆船のマスト寛ぐ冬の空
宝くじに託せる夢の御講日和
木の骨の街路となりて空明し
結願の鐘おんおんと返り花
雨音の目覚む父の忌冬ぬくし
透明な響きを捧げ聖歌終ふ
落人の千年の村溪紅葉
お駄賃の硬貨のボトル冬銀河
灰色の冬空霧笛又響く
古家に塵積み上げて老婆の冬
父を見て子がステップの冬至かな
落葉踏みグウルモンはたヴェルレーヌ
鴛鴦や選択権は我にあり
冬帽子赤一輪車乗りまはし
さくら落葉一枚が美し画家の手に
一年中孤独を守り木守柿
千両も萬両も植ゑ老いにけり
更新の旅券を無駄に冬籠り
悉く刃物を研いで十二月
師走来る絹縫ふははの胸踊る
珈琲の泡に北斎秋思かな
刈田道の幼児手を振る電車かな
宵立ちやコートの重さ知る齢
老ゆる今時を止めたし十二月
しぐるるや嵯峨野笹垣騒立てて
古希祝ふ妻誕生の神無月
鞴祭肩にカメラの三代目
重きほど熟柿たわわに島の宿
忙中に身の透くおもひ初祓
窓越しに見上ぐ朝空雪の花
碧空の島の葱畑宙をつく
冬を詠む碧空見つめ雲見つめ
笹鳴きと重ねて聴きて確信す
十二月雲より白き朝の月
夕日落つ肩をたたくや落葉雨
朝餉時南へ今日も鳥渡る
冬竹林一人で行けば胸騒ぐ
存える胸の小踊る大氷柱
砂ケーキ落葉でかざる子守かな
大根の辛味や貧し戦後かな
ペーチカたく朝の薪くべ老いと猫
竹馬に乗れず泣きたる遙な日
国難といふコロナ禍や年詰まる
谷川の水面の光り冬ぬくし
小春日やパパちゃんと呼ぶ幼声
歴史聞く人の死のあり冬将軍
朝支度供花のつぼみ庭椿
引く潮に乗り遅れたる冬小魚
ぽっくりの鈴音ゆかし宮小春
刺身鮃ぴくりと踊り箸惑ふ
列車旅見知らぬ人に貰ふみかん
膝あさく仏壇に座す木の葉髪
夢多き少女真紅の日記買ふ
潮入り川引く潮見つむ寒烏
里山へ寒烏の声の吸ひこまる
牡丹雪北國の孫来たように
遊歩道を手押し車の冬ぬくし
師走来る鼠の葉書残しまま
影長く結眼目指す冬遍路
綺羅なりし一語に尽きる谷紅葉
石蕗の花崩れる崖に首伸して
綿虫の群れて視線をはぐらかす
落ち葉して老い足滑る昼下がり
社長さん本音ポロリと熱燗に
寂しさと気楽さ交互冬の夜
妻恋の話延々熱燗に
睦まじき時計の針や冬暖か
思案気にうるめ食う子や大学生
枯葉舞ふ雑木林に風の楽
みかん山摘み手不足に鳥嬉々と
冬葵蒼き海辺に紅広め
極月のあれもこれもと蒼き空
煤払い煤竹重く老いを知る
煤湯入る煤の払へぬ老いながら
麦の芽の青生き生きと鳶の笛
選者4名 I.今村博子(東京未来図) , K.河野絢子(東京未来図) , Y.吉岡御井子(香川未来図) , M.原さくら(ほととぎす)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
77. 黒づくめの幼き魔女やハロウィン(6)絢子
・ハロウィンは十月三十一日でアメリカの収穫を祝う行事で、かぼちゃの仮面や仮装をして家々を廻ってお菓子をもらえる行事。三十五年前、娘の出産の手伝いでニューヨークに行った時、ハロウィンの日に出会った。家の近くの子供達が七、八人仮装をし、中に黒い鍔広の帽子を被った女の子が居て、静かなハロウィンだった事を思い出す句に出会いました。
<秀句>
83. 焼芋の湯気ほつこりと待合室(2)留美子
<佳作>
20. 城跡の気骨武者めく懸崖菊(1)Miiko
24. 街路樹の末(うれ)のささめき十三夜(7)絢子
26. 母よりの襟巻きまとい冬の寮(3)正恵
42. 大仕事抱える日々や冬に入る(1)由斉
58. 黄泉路へと続く海面(うなも)の月の道(2)絢子
86. 木犀や巡礼笑みを零しけり(1)祥
<特選>
68. 雑炊のまどゐ青菜をたつぷりと(3)博子
・雑炊のまどゐですから、ごく親しい方々の気楽な集いなのでしょう。そのお仲間でおしゃべりをしながら頂く雑炊にたっぷり入れる青葉の色が鮮やかに見えて暖かい雰囲気が伝わります。何気ない御句ですがこのような素朴な日常も句として残していきたいものですね。
<秀句>
101. 立冬やくちびる乾く夕間暮れ(2)祥
<佳作>
5. 雑炊炊く湯気に戦後の香り満つ(2)正恵
19. 呆けてゆく心細さよ昼の虫(3)遊
31. コロナ禍は人の世のこと浮寝鳥(2)正恵
44. だんご虫一つ掌にのせ一茶の忌(6)博子
73. 腰かける石の割れ目に冬菫(1)由斉
79. 里山の夕日の中を雁の棹(1)博子
<準佳作>
21. 冬紅葉石に躓くいさら川(1)
23. 福引の子の手にあまる萬両箱(1)
56. 冬月のきりりと天を支配せり(2)
62. 里の家冬灯小さくははの影(2)
99. 天高し白球雲に吸はれけり(3)
<特選>
24. 街路樹の末(うれ)のささめき十三夜(7)絢子
・街路樹の黄落はポプラだろうか、ポプラの語源はラテン語の(人民)で市民が当時集会を開いたとか。作者は、落ち葉のポプラを踏みしめると末のささめきが聞こえたのであろう。末の、が落ち葉から連想、ささめきが聞こえがポプラの語源とかさなり、季語の十三夜で後の月明かりで照らされ詩情豊かな一句となっている。
<秀句>
29. うかうかと日差しに乗りて狂ひ花(4)さくら
<佳作>
5. 雑炊炊く湯気に戦後の香り満(2)正恵
17. 釈意満つ野に予後の身を晒しけり(1)隆道
46. 散歩道の変へて出会へり水引草(2)祥
53. となり留守や新月のぞくケアハウス(1)祥
72. 席替へて新たな出会ひ冬温し(1)祥
74. 落葉風椅子に落葉と音のこし(1)遊
<特選>
24. 街路樹の末(うれ)のささめき十三夜(7)絢子
・満月までにあと二日。少し欠けた月を賞するのは日本独特の美意識と言われている。樹々に宿った風がサワサワと葉擦れの音を立てている。その葉擦れの音をささめきと叙され十三夜の情緒へと引き込んでいく詩情豊かな一句である。
<秀句>
77. 黒づくめの幼き魔女やハロウィン(6)絢子
<佳作>
14. 初時雨茶を入れ替へて長居かな(2)祥
41. 京時雨祇園芸妓の急ぎ足(2)正恵
44. だんご虫一つ掌にのせ一茶の忌(6)博子
87. 秋たしか流るる水に行く雲に(2)隆道
96. 寒燈下師の一句づつかみしむる (1)留美子
99. 天高し白球雲に吸はれけり(3)正恵
<互選>
1. 風の流転水の流転や木の葉散る(1)
2. 刈り込まれ整ふ川面十三夜(1)
8. 小鳥来るパン屑求めガラス越し(2)秀
9. 肩の凝り湯舟に溶けて秋の月(1)
10. 水渇れて残暑の風が地を這へる(1)
12. 凍蝶に大空の青与へたし(2)秀
16. 初氷草の香りを何となく(2)秀
25. 明けやらぬ窓を開ければ北吹く風(1)
35. 黄落や即興でやるジャムセッション(1)
51. 呆け検査帰りてホッと煎茶汲む (1)
55. 微妙なるバランス保ち冬の草(1)
59. 学園の冬陽だまりの活気かな(1)
65. 一枚の木の葉にかつて読みし本(1)
66. ロープウェイ紅葉の谷を一跨ぎ(1)
71. 石蕗の出迎へありて山路旅(1)
81. 碧き空紅葉色々いだきこみ(1)
82. 銀漢や棟割長屋の軒低き(1)
88. 夫を押し黄葉を抜けて駆け込み寺(1)
89. 大冬木宇宙を目指し努力の日々(1)
102. 風花や形見分して未だこの世(3)秀
先生方の気掛かりな点
35. ジャムセッションは即興でやるものなので中七は省略できる
51. 無季語
63. 無季語
70. 虫一とつ→残る虫 なら良かったと思います
82. 長屋の→「の」が不要
投句一覧(11月17日)
風の流転水の流転や木の葉散る
刈り込まれ整ふ川面十三夜
スマホ手にグラタン作り天高し
「おいでまい」てふ新米ピカピカに
雑炊炊く湯気に戦後の香り満
魔女めけるとんがり帽子冬茜
山陵のくっきり浮かび冬模様
小鳥来るパン屑求めガラス越し
肩の凝り湯舟に溶けて秋の月
水渇れて残暑の風が地を這へる
ななかまど並木炎を上ぐ大雪山(たいせつ)へ
凍蝶に大空の青与へたし
朝の庭キリキリ寒く首すくめ
初時雨茶を入れ替へて長居かな
老い易き少年少女木の実独楽
初氷草の香りを何となく
釈意満つ野に予後の身を晒しけり
痛む肩いだきて眠むる冬夜長
呆けてゆく心細さよ昼の虫
城跡の気骨武者めく懸崖菊
冬紅葉石に躓くいさら川
炭焼きの香り身にいむ郷山路
福引の子の手にあまる萬両箱
街路樹の末(うれ)のささめき十三夜
明けやらぬ窓を開ければ北吹く風
母よりの襟巻きまとい冬の寮
次世代の少なき町よ藪からし
足上げて犬が尿する文化の日
うかうかと日差しに乗りて狂ひ花
トンネルを出れば冬空隠れんぼ
コロナ禍は人の世のこと浮寝鳥
もつれるも乱れ萩とはまだ遠し
冬潦雀集まり朝化粧
背伸びして人の世見入る帰り花
黄落や即興でやるジャムセッション
病院の広さに疲れ秋一日(ひとひ)
帰り花おつちよいちよいの我も亦
マスクして一回りする地球かな
冬麗やいさらの川のきらら星
茶の花の蘂ふつくりと盛り上る
京時雨祇園芸妓の急ぎ足
大仕事抱える日々や冬に入る
爽やかや気分晴れ晴れサイクリング
だんご虫一つ掌にのせ一茶の忌
小鳥来る愛の記念日空蒼し
散歩道の変へて出会へり水引草
空の碧溜池に下り秋の水
堀炬燵入れば最後猫の友
流星や地球は孤独の星ならん
過疎の村案山子の家族のおもてなし
呆け検査帰りてホッと煎茶汲む
百姓に今日が始まる露の空
となり留守や新月のぞくケアハウス
星草の小さき宇宙鉢の中
微妙なるバランス保ち冬の草
冬月のきりりと天を支配せり
切干を夫に焚きおき明日は旅
黄泉路へと続く海面(うなも)の月の道
学園の冬陽だまりの活気かな
冬葵花小さくして自首防衛
うたた寝のコートをなおすベビーカー
里の家冬灯小さくははの影
十年の犬との別れケアハウス
父子相乗りて小春のメリーゴーランド
一枚の木の葉にかつて読みし本
ロープウェイ紅葉の谷を一跨ぎ
浮世絵の女見返る金木犀
雑炊のまどゐ青菜をたつぷりと
北吹くと種張り切りて旅支度
やつちやばの土間の明け方虫一とつ
石蕗の出迎へありて山路旅
席替へて新たな出会ひ冬温し
腰かける石の割れ目に冬菫
落葉風椅子に落葉と音のこし
凍蝶の歩けぬ狭間吾の日々
一輪ごと愛を重ねて千輪菊
黒づくめの幼き魔女やハロウィン
菊なます盛られし膳や古希祝
里山の夕日の中を雁の棹
門アーチの葡萄の枯れて烏啼く
碧き空紅葉色々いだきこみ
銀漢や棟割長屋の軒低き
焼芋の湯気ほつこりと待合室
凍蝶や羽光る道夢となり
澄む秋や田んぼ宅地とトラクター
木犀や巡礼笑みを零しけり
秋たしか流るる水に行く雲に
夫を押し黄葉を抜けて駆け込み寺
大冬木宇宙を目指し努力の日々
背負はるる赤の冬帽顔塞ぎ
思わずもひょっとこ顔や今年酒
今朝の庭あちこち光る霜柱
南瓜咲く下に井を汲み足洗ふ
冬草の枯れ切らずして生保ち
鋤焼に小躍りしたる戦後の夜
寒燈下師の一句づつかみしむる
橅の実を掌に樹木医の話きく
ロッカーの冬着出番と大き顔
天高し白球雲に吸はれけり
焼き芋の食べたし熱し苛々と
立冬やくちびる乾く夕間暮れ
風花や形見分して未だこの世
選者4名 I.今村博子(東京未来図) , K.河野絢子(東京未来図) , Y.吉岡御井子(香川未来図) , M.原さくら(ほととぎす)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
63. 秋薔薇の燃ゆるひと日を古書整理(6)正恵
・秋薔薇は春に咲き揃うような勢いはないけれど、小ぶりな花で秋は秋で美しい。その薔薇を眺めながら古書の整理、なかなか捨てられぬ本。それでも何となく整理がついてほっとする。薔薇が気分を和ませてくれる。良い取り合わせだと共鳴しました。
<秀句>
42. 肩車の小さき手の追ふ赤蜻蛉(7)祥
<佳作>
17. コロナ禍を深く静めて今日の月(2)Miiko
19. ざくろの実割れば光となりこぼれ(4)隆道
31. 朝霧のゆれて鋼の光り持つ(1)隆道
51. 月光や寂しきままに安らぎて(3)遊
52. 小鳥来る午後のコーヒーほしきころ(3)正恵
76. 終活といふも身近かや落ち葉踏む(3)Miiko
86. 今年米届いて大名気分かな(1)吉博
88. テイータイム秋を奏でる菓子を盛り(4)正恵
<特選>
61. 朝寒や目覚まし時計さがす指(3)留美子
・誰にも覚えのある、この日常の瑣事が一句に。指に焦点を当てたことで、その一寸可笑しい指の動きや朝寒のひんやりした感触がまざまざと伝わります。
<秀句>
10. 名月や切絵のやうな闇に泛く(4)博子
<佳作>
19. ざくろの実割れば光となりこぼれ(4)隆道
24. 無骨なる指の手間隙受賞菊(2)さくら
42. 肩車の小さき手の追ふ赤蜻蛉(7)祥
45. つきぬけるボーイソプラノ天高し(2)留美子
64. 盆僧を仏のごとく迎へけり(2)隆道
85. 螽斯足忍ばせて兄妹(2)正恵
<準佳作>
40. 菊の酒考に勧めた奥座敷(3)由斉
44. 萩芒見つけ七草探す目に(3)さくら
47. 空耳や犬がもの言う秋の暮れ(1)吉博
52. 小鳥来る午後のコーヒーほしきころ(3)正恵
94. 惚けといふ独りの世界地虫鳴く(2)遊
<特選>
42. 肩車の小さき手の追ふ赤蜻蛉(7)祥
・おそらく父親の肩車に乗ってる幼児が赤トンボを見つけ夢中、あそこよ、こっちよと指で指し、言われるままに動いてる。思わず二人の楽しい声が聞こえてきそうな雰囲気が彷彿として臨場感ある一句となっている。小さき手の追ふが効を奏している。
<秀句>
4. 百年は童話の寸時木の実落つ(8)隆道
<佳作>
10. 名月や切絵のやうな闇に泛く(4)博子
20. 秋鯵の美味に惹かるる昨日今日(2)正恵
55. 机辺に積む読みさしの嵩秋暑し(1)絢子
63. 秋薔薇の燃ゆるひと日を古書整理(6)正恵
69. 無花果を煮つめコロナに向ひをり(1)博子
81. 天高し釣り糸宙を二分せり(1)正恵
<特選>
4. 百年は童話の寸時木の実落つ(8)隆道
百年と言う長い歳月も童話の中ではほんの数十ページに収まってしまう。人生を振り返ってみると童話の寸時と変わらない程の長さで言い表せてしまうのではないだろうか。作者に自分が重なる。木の実の落ちる音が現実に引き戻す。季語の「木の実落つ」の使い方が絶妙である。
<秀句>
63. 秋薔薇の燃ゆるひと日を古書整理(6)正恵
<佳作>
10. 名月や切絵のやうな闇に泛く(4)博子
19. ざくろの実割れば光となりこぼれ(4)隆道
45. つきぬけるボーイソプラノ天高し(2)留美子
49. マンションを一跨ぎして秋の虹(1)祥
57. 手庇で見上ぐ爆音天高し (1)祥
89. 括られて身動き取れぬ乱れ菊(2)正恵
<互選>
1. コロナ何きかん気爺の遍路旅(2)
2. かまつかの揺れ激しきは吾が思ひ(2)
11. 吾輩は名もなき猫や鰯雲(1)
12. 目には空胸は青き気吸ひて秋(3)
13. 小鳥くる午後のカフェのテラス席(1)
16. 月光や透き通りゆく二人の黙(1)
21. 舌頭にころがす一句夜長星(1)
29. ガラス越し鈴虫の声朗々と(2)秀
32. 存らへて日々の秋思や鳶の輪(2)秀
35. バンカラの寮歌蛮声秋高し (1)
39. 髪切つて降る月光の音を聴く(1)
46. 濁世を清めしごとく月満ちて(2)
60. 千枚田稗ひく婆の古薬缶(2)
65. 存らへて残菊となり持て余す(2)
66. 人影のなくて尼寺ちちろ鳴く(1)
75. 白木杖秋の湖水の音に耳(3)秀
79. 狐跳ね燃へる大地や曼珠沙華(1)
80. 紅葉坂ころがぬように老いひたすら(1)
93. 秋薔薇の真っ赤に開き誰を待つ(1)
投句一覧(10月19日)
コロナ何きかん気爺の遍路旅
かまつかの揺れ激しきは吾が思ひ
山薊根を掘り食べし幼の日
百年は童話の寸時木の実落つ
まっ先に露踏みて訪ふ師の歌碑
窓明り漂ふ香り銀木犀
窓覗く菊戴に今朝の幸
録りためてイチオシドラマみる夜長
健康美誇る娘や今年米
名月や切絵のやうな闇に泛く
吾輩は名もなき猫や鰯雲
目には空胸は青き気吸ひて秋
小鳥くる午後のカフェのテラス席
澄み渡る大気の中の秋情緒
秋晴れや洗濯物を片寄せて
月光や透き通りゆく二人の黙
コロナ禍を深く静めて今日の月
秋曇り真白な宙を烏駆く
ざくろの実割れば光となりこぼれ
秋鯵の美味に惹かるる昨日今日
舌頭にころがす一句夜長星
紅茸のはれがましくも芝の庭
長年を句の楽しみに生き通し
無骨なる指の手間隙受賞菊
秋寒しそろそろ部屋の模様替
今朝の庭彼方此方よりの虫の声
強風を避けるすべなし雁来紅
秋彼岸サイレン遠に拝みけり
ガラス越し鈴虫の声朗々と
小鳥来る小さな小屋の物語
朝霧のゆれて鋼の光り持つ
存らへて日々の秋思や鳶の輪
遠のけば野火走りくる曼珠沙華
天高し履物何足庭の緑
バンカラの寮歌蛮声秋高し
チンチンと姿隠して鉦叩
供養して仲間となりぬ秋彼岸
溝蕎麦の紅のやさしさ足を止め
髪切つて降る月光の音を聴く
菊の酒考に勧めた奥座敷
行く先へ先へと恋の赤蜻蛉
肩車の小さき手の追ふ赤蜻蛉
菊膾作り夕餉の膳飾る
萩芒見つけ七草探す目に
つきぬけるボーイソプラノ天高し
濁世を清めしごとく月満ちて
空耳や犬がもの言う秋の暮れ
手すさびの若菜に触れて行く風よ
マンションを一跨ぎして秋の虹
釣船草山路を辿る小流れに
月光や寂しきままに安らぎて
小鳥来る午後のコーヒーほしきころ
オリーブの実庭に初なり陽に光
茨の実道を彩り道祖神
机辺に積む読みさしの嵩秋暑し
明けやらぬ鳥の集団金柑に
手庇で見上ぐ爆音天高し
黄落や石と対き合ふ坐禅僧
四阿の屋根の寂れや鵙猛る
千枚田稗ひく婆の古薬缶
朝寒や目覚まし時計さがす指
戸に佇てば盆の窪吹く風は秋
秋薔薇の燃ゆるひと日を古書整理
盆僧を仏のごとく迎へけり
存らへて残菊となり持て余す
人影のなくて尼寺ちちろ鳴く
秋意みつ機上黙祷機長無視
オリーブの実収穫近し紅天に
無花果を煮つめコロナに向ひをり
秋祭り若衆鯔背纏ふかな
汽車通学彼乗り来るを待つ秋思
冷ややかやふと下ろしたる床足裏
柿紅葉夕日に映えて庭美しき
風爽やか朝の散歩に付き纏い
白木杖秋の湖水の音に耳
終活といふも身近かや落ち葉踏む
初めての西瓜奈良漬け京都味
街角でする立ち話身に入めり
狐跳ね燃へる大地や曼珠沙華
紅葉坂ころがぬように老いひたすら
天高し釣り糸宙を二分せり
三十年考を恋たる秋祭り
この道は認知症かも花茗荷
露の消え登校少女事故犠牲
螽斯足忍ばせて兄妹
今年米届いて大名気分かな
黄金なる落穂拾ひといふ名画
テイータイム秋を奏でる菓子を盛り
括られて身動き取れぬ乱れ菊
初なりのオリーブの実に愛光る
サーフインにこりて湖水の家を買ひ
竜胆の夜の眠りにあの人を
秋薔薇の真っ赤に開き誰を待つ
惚けといふ独りの世界地虫鳴く
吾が域にひそと香りを金木犀
菊を炊く香りと色を蒼空に
茜空讃岐夕日の釣瓶落し
選者4名 I.今村博子(東京未来図) , K.河野絢子(東京未来図) , Y.吉岡御井子(香川未来図) , M.原さくら(ほととぎす)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
68. 猫じゃらし予防接種の子をあやす(5)留美子
・小さい頃猫じゃらしで友達の首すじを撫でたり、相手にやられたりと、楽しい遊びを思い出しました。その猫じゃらしで予防接種でこわがる児をあやしている大人の姿が見えて来るようで楽しい句に。
<秀句>
98. 草の花自分の色の花に咲き(4)正恵
<佳作>
14. こぼれ花踏みて高みの葛に会ふ(5)絢子
22. この先に原発のある花野かな(6)絢子
23. 散り松葉風呂焚く足しと集めし日(2)由斉
35. 爽やかに水棹操る城の舟(3)さくら
44. 閻王の真つ赤な憤怒秋暑し(3)絢子
53. コーヒーをゆつくり入れて秋始め(2)広斉
70. 露の玉光生みたる神の庭(1)Miiko
87. 新涼や舐め合ひ育つ獣の子(3)正恵
<準佳作>
17. フルネームで特選名乗る老いの秋(2)由斉
54. 野分晴天守台より望む瀬戸(1)さくら
74. またしても覗く井戸中大西瓜(1)広斉
75. 古時計客間にありて立待月(1)由斉
<特選>
25. 昼の虫線路はここで途切れたる(4)さくら
・時が移るに従い過疎化が進み廃線になった鉄道の多さに驚く。そこで途絶えた線路の端に立つと昼の虫がしきりに鳴いている。その閑けさ、寂しさが伝わって来るところが良い。
<秀句>
87. 新涼や舐め合ひ育つ獣の子(3)正恵
<佳作>
3. 庭石に苔の陰影白露の日(2)さくら
6. 繁茂して方位失ふ葛の花(3)博子
23. 散り松葉風呂焚く足しと集めし日(2)由斉
28. 広やかな刈田ゆるゆるローカル線(2)祥
47. 滴りとなる一瞬の光りかな(2)正恵
57. 秋思ふと笹の葉先の雨雫(1)さくら
<準佳作>
17. フルネームで特選名乗る老いの秋(2)由斉
68. 猫じゃらし予防接種の子をあやす(5)留美子
71. 引越しを知らぬ亡夫に門火炊く(4)正恵
83. 敷石に鳥の爪音秋深む(1)正恵
<特選>
14. こぼれ花踏みて高みの葛に会ふ(5)絢子
・葛の花は秋の七草の一つで江戸時代から親しまれ、現代はエディブルフラワーとして身近になっています。紅紫色の蝶形花で絡み付きながら上の方に咲く。その高みの葛に手を伸ばしてる、こぼれ花を踏んでまで。おそらく高みの意味には場所の高さと葛の計り知れない食用等の魅力への気持であろう。上手く調和し、葛に出会った瞬時を切り取った句である。
<秀句>
96. 三日月を黒雲隠す石千代(いしんじょ)や(3)正恵
<佳作>
6. 繁茂して方位失ふ葛の花(3)博子
22. この先に原発のある花野かな(6)絢子
51. 小さき手のフラワーアート敬老日(2)留美子
55. 千枚田今日より稲架に夕日乗る(3)広斉
77. 秋遍路纏ふは後世の風ばかり(2)吉博
100. 光ある色の風吹くコスモス園(2)由斉
<特選>
22. この先に原発のある花野かな (6)絢子
・人工的に作られた花畑とは違う神の作られた花畑である。秋の草花が自由に咲き乱れ人々の心を捉えて詩を紡がせる楽園である。だがその先には自然を破壊へと導く原発が異様な姿で聳え立っている。未だ帰宅困難区域が解かれない区域のある3.11を思い出さずにはいられない重い一句である。
<秀句>
71. 引越しを知らぬ亡夫に門火炊く (4)正恵
<佳作>
16. 血が騒ぐ二百十日の雲の乱(1)吉博
27. さはやかや免許自主返納の爺 (2)留美子
44. 閻王の真つ赤な憤怒秋暑し(3)絢子
45. 老いて今過去のふくらむ花野かな (5)博子
47. 滴りとなる一瞬の光りかな (2)正恵
89. 詩にならぬ片言隻句秋暑し (2)吉博
<互選>
1. 夜勤明け素顔の乙女秋暑し(1)
4. さはやかに槌一筋の伯父長寿(1)
5. 甲板に月を眺むるコック一人(1)
8. 秋あらし庭の木二本傾けり(1)
9. 大花火逃げ遅れたる鳥の影(1)
10. 真菰の花ベランダに咲き穀盗人(2)秀
11. 日の早し俳句に追はれ鰍伏す(1)
12. 今朝散歩初めて涼し寺詣で(1)
13. 里恋ふやつくつく法師今だ鳴き(2)秀
15. 萩刈りて明るく寂し日暮かな (1)
18. もの畳む姿が見へて秋簾(1)
21. 人間も神も引っ張り秋祭り(2)秀
24. どの家も老人ばかり忍草(1)
26. 朝露を味噌汁に入れ喝ひと日(1)
29. リモートの面接効果合格す(1)
30. 大見栄を切って五右衛門大残暑(1)
31. 薄穂の風になびきて大パノラマ(1)
32. 台風過名知らぬ鳥の竿の先(1)
33. 父の日を皆んな忘れて一人酒(1)
36. 月光のベランダに降りピアノの音(1)
37. 新涼や見上ぐ児の背にランドセル(1)
40. あちこちの痛みに堪へて秋に入る(1)
42. 蜩や令和二年の残る月(2)秀
43. 貸し本の押し花の後秋灯(1)
46. 待つ人の皆んな星なり団栗独楽(1)
48. 爽籟の北斎展を出で街へ(1)
49. 煙草手に出れば隣も鱗雲 (1)
50. 柳散る我が身削らる念ひして(1)
59. 雨降れば雨に輝く葉鶏頭(1)
63. 人影のなくて地蔵や吾亦紅(1)
64. 休日の乗馬の彼女爽やかや(1)
66. 夕散歩思い思いの秋の草 (1)
69. 蠅虎(はえとりぐも)何も取らずに飛んで見せ(1)
73. 島の茶屋娘の胸に愛の羽根(1)
76. 籐椅子に眠ればセピアの夢の中 (1)
78. 薄穂の落日使ひ果しけり(1)
79. 行く秋や魂の抜けたる詩ばかり(1)
80. 秋風月苛むコロナの余生かな(1)
84. 蜻蛉の尾で水を打つひたすらに(2)秀
85. 胡麻叩く遊びとなりて妣の顔 (2)秀
91. 月明かり潮満ち来る赤燈台(1)
94. たましひに刻まるる月あるやうな (1)
95. 秘め事は吾感せずと今日の月(2)秀
投句一覧(9月15日)
夜勤明け素顔の乙女秋暑し
将棋指す処暑の縁側友の下駄
庭石に苔の陰影白露の日
さはやかに槌一筋の伯父長寿
甲板に月を眺むるコック一人
繁茂して方位失ふ葛の花
穭穂にまたみのりあり雀群る
秋あらし庭の木二本傾けり
大花火逃げ遅れたる鳥の影
真菰の花ベランダに咲き穀盗人
日の早し俳句に追はれ鰍伏す
今朝散歩初めて涼し寺詣で
里恋ふやつくつく法師今だ鳴き
こぼれ花踏みて高みの葛に会ふ
萩刈りて明るく寂し日暮かな
血が騒ぐ二百十日の雲の乱
フルネームで特選名乗る老いの秋
もの畳む姿が見へて秋簾
秋茄子を夫に食はせな世の変り
手作りのマスクを洗い秋深し
人間も神も引っ張り秋祭り
この先に原発のある花野かな
散り松葉風呂焚く足しと集めし日
どの家も老人ばかり忍草
昼の虫線路はここで途切れたる
朝露を味噌汁に入れ喝ひと日
さはやかや免許自主返納の爺
広やかな刈田ゆるゆるローカル線
リモートの面接効果合格す
大見栄を切って五右衛門大残暑
薄穂の風になびきて大パノラマ
台風過名知らぬ鳥の竿の先
父の日を皆んな忘れて一人酒
黒雲の月を隠して余生かな
爽やかに水棹操る城の舟
月光のベランダに降りピアノの音
新涼や見上ぐ児の背にランドセル
常盤木の淋しく見ゆる秋の昼
八朔や受付け前に検温す
あちこちの痛みに堪へて秋に入る
潮騒めくポプラ葉騒(はざい)も九月かな
蜩や令和二年の残る月
貸し本の押し花の後秋灯
閻王の真つ赤な憤怒秋暑し
老いて今過去のふくらむ花野かな
待つ人の皆んな星なり団栗独楽
滴りとなる一瞬の光りかな
爽籟の北斎展を出で街へ
煙草手に出れば隣も鱗雲
柳散る我が身削らる念ひして
小さき手のフラワーアート敬老日
雨音のいつ時激し台風裡
コーヒーをゆつくり入れて秋始め
野分晴天守台より望む瀬戸
千枚田今日より稲架に夕日乗る
天変や蚯蚓のたうち大地震
秋思ふと笹の葉先の雨雫
コロナ秋いつかは縁の語り草
雨降れば雨に輝く葉鶏頭
京都っ子四国に骨を色なき風
蜻蛉の綺羅草の先空蒼し
団栗独楽掌好きと児の笑顔
人影のなくて地蔵や吾亦紅
休日の乗馬の彼女爽やかや
久方の月すどうりし時惜しむ
夕散歩思い思いの秋の草
秋海棠花雫して泉川
猫じゃらし予防接種の子をあやす
蠅虎(はえとりぐも)何も取らずに飛んで見せ
露の玉光生みたる神の庭
引越しを知らぬ亡夫に門火炊く
台風の先払ひかや雷雨来る
島の茶屋娘の胸に愛の羽根
またしても覗く井戸中大西瓜
古時計客間にありて立待月
曼殊沙華地球はいつも燃えてをり
秋遍路纏ふは後世の風ばかり
薄穂の落日使ひ果しけり
行く秋や魂の抜けたる詩ばかり
秋風月苛むコロナの余生かな
焼さんま猫が食べしと思ふ皿
あやふやな虫時雨浴び朝散歩
敷石に鳥の爪音秋深む
蜻蛉の尾で水を打つひたすらに
胡麻叩く遊びとなりて妣の顔
齢とか検査の後の秋時雨
新涼や舐め合ひ育つ獣の子
耳かさぬ娘との話や赤トンボ
詩にならぬ片言隻句秋暑し
敬老日老後なかりし父のこと
月明かり潮満ち来る赤燈台
天高し碧と白との美の極み
鈴虫の堂々と啼く床の下
たましひに刻まるる月あるやうな
秘め事は吾感せずと今日の月
三日月を黒雲隠す石千代(いしんじょ)や
あけやらぬ庭にぼんやり虫時雨
草の花自分の色の花に咲き
村に生く泡立草の生き残り
光ある色の風吹くコスモス園
選者4名(I・K・G・M)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
31. 数珠玉やじゆげむ寿限無と継ぐ瀬音(4)絢子
・一寸長い句になっていますが、発想が意外で、楽しい句になっています。昔、数珠玉をつないで遊んだ日々を思い出しました。
<秀句>
76. 生御霊ステーキ好きで俳句好き(7)さくら
<佳作>
3. 熱帯夜寝ぐせの髪を笑ひ合ふ(2)祥
10. 篁(たかむら)の高み風鳴る葛ざくら(2)絢子
14. 赤まんま摘んで始まるおままごと(2)さくら
20. 揺り椅子の肘掛に艶晩夏光(6)絢子
23. 烏瓜の花白きレースを宵垣に(3) 正恵
44. 古民家の風鈴風をほしいまま(3)Miiko
49. 芋茎配給半分なりし終戦日(1)正恵
57. 山の畑稗引く婆の古やかん(2)正恵
61. 黙祷のうなじ百千廣島忌(4)隆道
<準佳作>
28. 笹団子に詩歌を添へて星祭(4)Miiko
36. あちこちに刻を急かせて法師蟬(1)さくら
50. 親方はおんな花火師江戸小町(3)吉博
83. うたた寝の夢の中まで蝉時雨(3)祥
<特選>
76. 生御霊ステーキ好きで俳句好き(7)さくら
・この夏のコロナ禍に加えての酷暑にばて気味のせいか、まぶしい程エネルギッシュな生御霊にひきつれられました。(ふと寂聴さんを思い浮かべたりして)何とも頼もしい生御霊にエールを送るつもりで頂きました。
<秀句>
35. 村の子の太鼓の乱打雲の峰(5)隆道
<佳作>
14. 赤まんま摘んで始まるおままごと(2)さくら
22. 百才の墨痕美しき七夕紙(4)隆道
44. 古民家の風鈴風をほしいまま(3)Miiko
55. 汗が飛ぶ白球が飛ぶ声が飛ぶ(3)隆道
83. うたた寝の夢の中まで蝉時雨(3)祥
85. 母は子を子は犬を呼ぶ大花野(1)隆道
<準佳作>
7. 稲の花さやさや風のふるさとよ(3)博子
28. 笹団子に詩歌を添へて星祭(4)Miiko
50. 親方はおんな花火師江戸小町(3)吉博
56. 野の草の丈極まりし残暑かな(2)博子
71. 老犬に行く先任す極暑かな(1)祥
80. 妣も亦妣恋い歩む夜半の月(4)正恵
<特選>
21. 病癒ゆ試歩の一歩や星逢ふ夜(3)正恵
・長い院生活に終りをつげ退院の大地へ一歩踏み出した。大空には今日陰暦七月七日織女の二星が相会う夜でもあったのだ。
<秀句>
34. 師の句碑に止まりて愛し赤トンボ(2)正恵
<佳作>
42. 忽然と朝日を返す赤蜻蛉(3)祥
44. 古民家の風鈴風をほしいまま(3)Miiko
62. 青林檎友とかじりし日の遠く(1)留美子
76. 生御霊ステーキ好きで俳句好き(7)さくら
80. 妣も亦妣恋い歩む夜半の月(4)正恵
86. 明け遣らぬ庭を広めて虫時雨(2)正恵
<特選>
20. 揺り椅子の肘掛に艶晩夏光 (6)絢子
・映画のワンシーンの様にいろいろな人が揺り椅子を揺らしては去ってゆく。縁側に置かれた揺り椅子はその歴史を語るかのように肘掛け部分は古色を帯びて光っている。晩夏と言う秋への予感を秘めた時の流れがどことなく侘しさを漂わせている詩情豊かな一句となった。
<秀句>
35. 村の子の太鼓の乱打雲の峰 (5)隆道
<佳作>
22. 百才の墨痕美しき七夕紙 (4)隆道
41. 秋立つや鎖骨美し女にあふ (1)吉博
55. 汗が飛ぶ白球が飛ぶ声が飛ぶ(3)隆道
58. フラスコの触れ合ふ音も夜の秋 (2)絢子
81. しずかさや骸の蝉に石一つ (2)吉博
83. うたた寝の夢の中まで蝉時雨 (3)祥
<互選>
5. 瀬戸大橋灯りと星の晩夏光 (1)
6. フレームの曲がりし眼鏡秋暑し (2)
8. 梅干すと師の声弾む妣をふと(1)
11. 松茸狩り早起き競ひ山登る (1)
12. 窓開ける飛び込む暑さ火の匂(1)
13. 門灯も歳月重ね守宮這ふ (2)秀
15. 大空へがつんと芽を出すゴーヤの芽(1)
16. 熊蝉の珍客となるケアハウス (1)
17. 籐椅子に眠ればセピアの夢の中 (2)
18. 祖母惚け爽やかなるに傘届く(1)
26. 小手毬が咲きどこからか師のお声 (1)
27. 震災のための古井戸水引草(2)秀
37. 古里をそれぞれに持つ踊りの輪 (1)
40. 稲穂垂れ光りキラキラひこうき雲(1)
48. 人生に無欲となりて百日草(2)秀
51. 老友に帰るすべ問ふ酷暑中(1)
52. 妙齢の匂ひほのかな藍扇子(1)
53. 山奥のいさらに根気山女釣(1)
60. 唐突に闇震はせて秋の蟬(2)秀
68. 思ひでの楽しさのまま夏帽子(1)
69. 残る蚊の狭庭の隅に密やかや(1)
70. 燕帰る空巣を眺む今朝無心(1)
74. 満月の兎餅つく妣の膝(1)
79. 里山の夕日に映ゆる野ばらの実(1)
82. コロナ太り遍く鬱の暑気怠惰(1)
84. 月白や東見つめて縁に座し(1)
先生方の気掛かりな点
12. 三段切
24. 去るは不用
37. 語順
41. あふは不用
投句一覧(8月18日)
七夕や清少納言の筆ならむ
山の家白百合の風渦を巻き
熱帯夜寝ぐせの髪を笑ひ合ふ
ゴルファーの友かと肩に赤とんぼ
瀬戸大橋灯りと星の晩夏光
フレームの曲がりし眼鏡秋暑し
稲の花さやさや風のふるさとよ
梅干すと師の声弾む妣をふと
水口を開けて水呼ぶ今朝の秋
篁(たかむら)の高み風鳴る葛ざくら
松茸狩り早起き競ひ山登る
窓開ける飛び込む暑さ火の匂
門灯も歳月重ね守宮這ふ
赤まんま摘んで始まるおままごと
大空へがつんと芽を出すゴーヤの芽
熊蝉の珍客となるケアハウス
籐椅子に眠ればセピアの夢の中
祖母惚け爽やかなるに傘届く
小さき手でコップをまぜる夏帽子
揺り椅子の肘掛に艶晩夏光
病癒ゆ試歩の一歩や星逢ふ夜
百才の墨痕美しき七夕紙
烏瓜の花白きレースを宵垣に
朝の雨虹の大橋残し去る
秋暑し積んどく本の崩れけり
小手毬が咲きどこからか師のお声
震災のための古井戸水引草
笹団子に詩歌を添へて星祭
坂見上げ諦めたるや赤トンボ
秋暑しちんぷんかんの外国語
数珠玉やじゆげむ寿限無と継ぐ瀬音
山の家寛ぐ筈が台風禍
蔓茘枝生物めけるうすみどり
師の句碑に止まりて愛し赤トンボ
村の子の太鼓の乱打雲の峰
あちこちに刻を急かせて法師蟬
古里をそれぞれに持つ踊りの輪
読書灯はらひ真闇のみちをしへ
晴れ渡る朝庭に群れ赤トンボ
稲穂垂れ光りキラキラひこうき雲
秋立つや鎖骨美し女にあふ
忽然と朝日を返す赤蜻蛉
吐く鳥と拾ふ鳥居り毬の栗
古民家の風鈴風をほしいまま
月下美人開くや海馬香に酔へる
虎の尾のぬつと行手に腰立たず
初見えの孫は汽車旅盆休み
人生に無欲となりて百日草
芋茎配給半分なりし終戦日
親方はおんな花火師江戸小町
老友に帰るすべ問ふ酷暑中
妙齢の匂ひほのかな藍扇子
山奥のいさらに根気山女釣
秋暑し松葉は針となり光る
汗が飛ぶ白球が飛ぶ声が飛ぶ
野の草の丈極まりし残暑かな
山の畑稗引く婆の古やかん
フラスコの触れ合ふ音も夜の秋
身に入むや我が身の如き衣類捨て
唐突に闇震はせて秋の蟬
黙祷のうなじ百千廣島忌
青林檎友とかじりし日の遠く
湖に逆さ富士映え晩夏光
代参の田舎のみやげ盆団子
憧れはジープに乗って敗戦日
葛引けば遙な先に白踊る
緑陰をゆつくり使ふ囲碁の顔
思ひでの楽しさのまま夏帽子
残る蚊の狭庭の隅に密やかや
燕帰る空巣を眺む今朝無心
老犬に行く先任す極暑かな
あけやらぬ庭にきらりと露の玉
鬼やんま知り合ひのごと庭に来て
満月の兎餅つく妣の膝
袂とは橋にもありぬ盆の月
生御霊ステーキ好きで俳句好き
雨漢旅行の連れは雨の月
盂蘭盆会介護をあとに高速道
里山の夕日に映ゆる野ばらの実
妣も亦妣恋い歩む夜半の月
しずかさや骸の蝉に石一つ
コロナ太り遍く鬱の暑気怠惰
うたた寝の夢の中まで蝉時雨
月白や東見つめて縁に座し
母は子を子は犬を呼ぶ大花野
明け遣らぬ庭を広めて虫時雨
選者4名(I・K・G・M)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
32. 日向水幼の声の昂りて (3)由斉
・今はビニールで出来た水遊びのプール、庭先で兄弟、姉妹の幼子が水をかけたり、水鉄砲で遊んだりの様子が見えて、庭先の芝生にプールを出して孫達を遊ばせた日々をなつかしく思い出し「声の昂りて」の表現で楽しさ一杯の様子が見えて来ます。
<秀句>
9. 逝きし師よ今とめどなき夏落葉(5)絢子
<佳作>
3. 一抹の不安梅雨茸蹴ってみる (3)さくら
16. 夏空に色散りばめて熱気球(1)吉博
18. 太陽の螺子巻き初むる時計草(2)さくら
36. 海水着と言えば真黒戦前派(2)正恵
43. 遥かより透る師の声蛍の夜 (2) 絢子
50. 句碑涼しおおむらさきを遊ばせて(3)隆道
77. ウイルスを払はん団扇アマビエ絵 (2)Miiko
<準佳作>
59. 町焼けて瀬戸の海見ゆ敗戦日(2)遊
69. 緑陰を出て新しき影を踏む(4)由斉
81. 今日元気大夕焼けに願ふ明日(2)正恵
85. 夏掛や薄くなりたる夫の嵩(4)絢子
96. 亡き姉の小袖未だに土用干(2)正恵
<特選>
4. 彼方より「やあ」と師の声夏の雲 (6)Miiko
・敬愛された師の「やあ」で、親しみ深い様子や、季語「夏の雲」でそのお人柄までしのばれる良い句になっていると感心致しました。
<秀句>
92. 触れし手にはんなり重し手毬花 (6)隆道
<佳作>
23. 神宿る木々の一本づつ涼し(1)さくら
36. 海水着と言えば真黒戦前派 (2)正恵
41. 草いきれゴルフボールを探す昼(2)広斉
52. 明けやらず蝉啼くまでの庭仕事 (3)正恵
56. 忘れたき友の一言水を打つ (3)正恵
69. 緑陰を出て新しき影を踏む(4)由斉
83. 沙羅咲いて一と日を惜しむ隠れ宿 (1)さくら
96. 亡き姉の小袖未だに土用干 (2)正恵
<準佳作>
2. ディンギーの帆を傾けて雲の峰 (1)吉博
25. 晩年よ雨後の紫陽花いきいきと (1)博子
50. 句碑涼しおおむらさきを遊ばせて(3)隆道
53. あしらひの酢漬けらつきよう母の膳 (1)留美子
57. 遠雷や王手と打って立つ厠(2)吉博
72. 空爆に町も吾が家も消えし夏(2)遊
94. 蹈鞴ふみ茅の輪をくぐる日和下駄(3)吉博
<特選>
4. 彼方より「やあ」と師の声夏の雲(6)Miiko
・此の句を読んでいますと、ふつと瞼に師の顔が浮かんで「はっ」と致しました。さぞかし師もよろこんでいる事と思います。
<秀句>
15. 早々に玻璃戸の客と天道虫(3)祥
<佳作>
8. 梅干に目覚む胃袋動き出す(1)遊
19. 波飛沫かぶり還暦泳ぎけり (1)留美子
26. 虎杖の花埋め尽くす裏参道 (2)広斉
45. 在りし日の風雅説く君てまり花 (3)博子
51. 水鉄砲打たれ上手に子の笑顔 (3)由斉
61. 遥かより船音とどく夏の海 (2)Miiko
76. 日焼けして見極め難き孫の顔 (1)正恵
88. 鱧料理京都祇園の今宵膳(1)正恵
<特選>
20. 梅雨寒や師を喪ひし身の置き処 (5)絢子
・六月に鍵和田秞子先生がご逝去されてより多くの俳人が悲しみに暮れる日々を送られているのではないでしょうか。作者も又その一人と推察されます。季節外れの冷雨に悲しみと喪失感が重なり押しつぶされそうなその胸の内がひしひしと伝わってきます。
<秀句>
92. 触れし手にはんなり重し手毬花 (6)隆道
<佳作>
14. 海峡の風芒野に来て騒ぐ (3)隆道
39. 釣り船の沖つ波間に夏を曳く (2)Miiko
41. 草いきれゴルフボールを探す昼(2)広斉
45. 在りし日の風雅説く君てまり花 (3)博子
57. 遠雷や王手と打って立つ厠 (2)吉博
69. 緑陰を出て新しき影を踏む (4)由斉
72. 空爆に町も吾が家も消えし夏 (2)遊
85. 夏掛や薄くなりたる夫の嵩(4)絢子
<互選>
1. 初蝉や洗濯干す手滑りゆく (1)
5. 山門前水打ち夜の店用意 (1)
21. 古茶なれど丁寧に入れ朝迎ふ(1)
24. 悲しみに終はりなき夏師の天へ (2)
34. つかの間の曾孫と遊びさくらんぼ(2)秀
40. 帆を張れば風すぐ生れヨット航く (2)
46. 炎天に校庭広く猫と鳥(1)
48. ジグソーパズルコロナを避けて水中花 (1)
62. はは恋へば七月の井戸水の音 (1)
74. 海の日やモンローウオークの熱き砂 (1)
75. 向き合ひて会話つるつる心太 (1)
79. 裸の父風通る部屋大の字に(1)
97. 水打ちて客の好みの髪結び (1)
投句一覧(7月21日)
初蝉や洗濯干す手滑りゆく
ディンギの帆を傾けて雲の峰
一抹の不安梅雨茸蹴ってみる
彼方より「やあ」と師の声夏の雲
山門前水打ち夜の店用意
瀬戸大橋月の海峡繋ぎけり
衣更ようやくさがす白ズボン
梅干に目覚む胃袋動き出す
逝きし師よ今とめどなき夏落葉
コロナ太り遍く鬱の梅雨怠惰
探し物刻過ぎゆきて茄子育つ
ちょっとそこまで夕焼け雲の黄金下
ゆかた賞結ひ上ぐ項の幼きや
海峡の風芒野に来て騒ぐ
早々に玻璃戸の客と天道虫
夏空に色散りばめて熱気球
百日紅咲きて浦曲の朝明るし
太陽の螺子巻き初むる時計草
波飛沫かぶり還暦泳ぎけり
梅雨寒や師を喪ひし身の置き処(ど)
古茶なれど丁寧に入れ朝迎ふ
沢蟹も寂し砂浜閉ざされて
神宿る木々の一本づつ涼し
悲しみに終はりなき夏師の天へ
晩年よ雨後の紫陽花いきいきと
虎杖の花埋め尽くす裏参道
白南風や往き交ふ船は異国船
元気問ふ師の声若く半夏生
嬰逃ぐる金魚すくひにあるまいに
思ひ出をひとり見てをり月見草
網戸ごし良くぞ男に生まれけり
日向水幼の声の昂りて
古風鈴短冊を変へ過去零す
つかの間の曾孫と遊びさくらんぼ
ペディキュアは真紅自粛の更衣
海水着と言えば真黒戦前派
軒風鈴物売りの声遠き声
行水や水の掛け合い郷の宵
釣り船の沖つ波間に夏を曳く
帆を張れば風すぐ生れヨット航く
草いきれゴルフボールを探す昼
初蝉に不意を衝かれてしまひけり
遥かより透る師の声蛍の夜
再会のならず友去るソーダ水
在りし日の風雅説く君てまり花
炎天に校庭広く猫と鳥
海見ゆるベランダに待つ宵ビール
ジグソーパズルコロナを避けて水中花
梅雨晴れ間碧一枚の讃岐空
句碑涼しおおむらさきを遊ばせて
水鉄砲打たれ上手に子の笑顔
明けやらず蝉啼くまでの庭仕事
あしらひの酢漬けらつきよう母の膳
令和夏コロナマスクに皺隠し
二メートル先よりふつとシャネル五番
忘れたき友の一言水を打つ
遠雷や王手と打って立つ厠
雨の中茄子艶々と紺放つ
町焼けて瀬戸の海見ゆ敗戦日
悔いありて打ち水やたら若女将
遥かより船音とどく夏の海
はは恋へば七月の井戸水の音
吊ればすぐ風鈴に風寄つて来る
釣荵静かに光る水滴
百日紅風に魂ゆさぶりて
梅漬けし香のひたひたと胸充たす
マイバッグ提げて涼しき伊達男
落とし文開いて見たや彼いかと
緑陰を出て新しき影を踏む
雨上がり風にゆらゆら風鈴草
茗荷の子香る朝膳老い極む
空爆に町も吾が家も消えし夏
松葉牡丹鬱憤晴らす下校の児
海の日やモンローウオークの熱き砂
向き合ひて会話つるつる心太
日焼けして見極め難き孫の顔
ウイルスを払はん団扇アマビエ絵
燕の子攫はれ羽毛の一つあり
裸の父風通る部屋大の字に
暑気払ひ友の笑顔と田舎汁
今日元気大夕焼けに願ふ明日
道の駅周囲に光る土用波
沙羅咲いて一と日を惜しむ隠れ宿
片陰を拾ひつ急ぐ医者通ひ
夏掛や薄くなりたる夫の嵩
いさら川小魚釣りて舟料理
溝浚へ在りし日の父町内会
鱧料理京都祇園の今宵膳
バラックに点す明りや終戦す
夕風吹く風呂上がり待つ心太
雨やみて天に合奏蝉集団
触れし手にはんなり重し手毬花
打ち水に日暮れが下りて馴染み客
蹈鞴ふみ茅の輪をくぐる日和下駄
雨上がり車道ころころ落とし文
亡き姉の小袖未だに土用干
水打ちて客の好みの髪結び
打ち水し塩盛り上げて常連を
選者4名(I・K・G・M)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
33. 風鈴の思案を払ふ音色かな (3)遊
・一昔前までは風鈴を吊るす家も多く、風の強い日は鳴り過ぎて夏苦しく思ったものですが、間合いよく鳴る風鈴は涼味を感じ、この作者の風鈴も何か考え事をしている時に、涼し気に鳴りその一瞬を敏感に捉えて良く出来た句と共鳴しました。
<秀句>
14. 師を悼む茅花流しのそのなかに (5)美知子
<佳作>
4. レノンにはなれぬ漢のサングラス (9)美知子
19. 説法の堂の百畳若葉風 (6)隆道
46. 霊山に悟りのごとく朴ひらく (4)Miiko
57. たんぽぽの黄金の光り老いに活 (1)村山
64. 新茶汲みあの世の友に愚痴ひとつ (9) 村山
70. 田を植ゑて原風景の仕上がりぬ (1)さくら
81. 讃岐路の雨の六月人は田に (1)吉博
96. 黒焦げの亡骸跨ぐ戦火の夏(2)村山
K
<特選>
87. ギター背に負ひて君来る立葵 (5)美知子
・やさしい言葉で素直に詠まれ、映像が浮かびます。季語の立葵がいいですね。明るく若々しい御句です。このコロナウイルス騒ぎの鬱陶しい空気が払われるような感じがします。
<秀句>
2. 入梅や磨いて透かす切子皿 (3)吉博
<佳作>
14. 師を悼む茅花流しのそのなかに (5)美知子
32. うずたかき本に埋もれ梅雨に入る (3)美知子
39. 胸に挿すくちなしの花淡き恋 (2)美知子
58. 選別をさるる命や草を引く (4)さくら
72. 着馴らして母の容にあつぱつぱ (1)留美子
77. 筍の一と日見ぬ間の今日の丈 (3)隆道
80. 奔放に生きて懺悔の髪洗ふ (3)さくら
96. 黒焦げの亡骸跨ぐ戦火の夏 (2)村山
<準佳作>
47. まだ色を明かさぬ蕾花菖蒲 (2)隆道
84. 藤房を揺す翁の謡ひかな (2)祥
90. 紫に虚空を染めて桐の花 (3)由斉
94. 子島来る一人暮らしを四十年 (2)村山
G
<特選>
64. 新茶汲みあの世の友に愚痴ひとつ (9)村山
・今年も新茶の最盛期となりました。出来は上々だが人手不足に悩まされています。手伝いに来て下さいと愚痴をつぶやいている姿が目に浮かびます。
<秀句>
4. レノンにはなれぬ漢のサングラス (9)美知子
<佳作>
14. 師を悼む茅花流しのそのなかに (5)美知子
26. 昼寝覚外出自粛の檻の中 (1)さくら
32. うずたかき本に埋もれ梅雨に入る (3)美知子
39. 胸に挿すくちなしの花淡き恋 (2)美知子
60. おぼえたてのひらがなおどる暑中見舞 (2)留美子
73. 無聊なる髯の面撫す男梅雨 (2)吉博
85. 葉桜やもはや五感の賞味きれ (1)由斉
94. 子島来る一人暮らしを四十年 (2)村山
<特選>
4. レノンにはなれぬ漢のサングラス (9)美知子
・40歳という若さで悲惨な最期を遂げたジョンレノン。多くの若者を虜にしたビートルズのリーダーとして又政治活動や平和主義運動とその生き方に共感を覚え影響を受けた人は多い。せめて格好だけでもレノンに。季語のサングラスは丸メガネに違いない。
<秀句>
1. 酔ひ醒めの如く夏立つ遠白帆 (5)隆道
<佳作>
3. 万緑の中の一幹考の影 (3)由斉
17. 引っ越しは雨の日曜かたつむり (1)吉博
19. 説法の堂の百畳若葉風 (6)隆道
27. 青梅のポタポタ落ちて少子の世 (1)隆道
32. うずたかき本に埋もれ梅雨に入る (3)美知子
59. 一〇〇 年を生きてみるぞと草いきれ (2)村山
64. 新茶汲みあの世の友に愚痴ひとつ (9)村山
73. 無聊なる髯の面撫づ男梅雨 (2)吉博
<互選>
5. 緑蔭に異国の言葉乳母車 (1)
11. 夏日燦白きタオルに塩を吹く (1)
12. アマリリス硝子戸越しに艶放つ (1)
16. 住所録十年一日紙魚はしる (3)秀
18. 一人居のもろ手に包む夏茶碗 (1)
20. 丸腰で渡るこの世やなめくぢら (3)
22. 山帽子小人何人同居やら (1)
35. 花蜜柑に波音とどく島湊 (1)
36. プランターのトマト色付き自粛解く (1)
52. 馬鈴薯の花に降る雨ひとりの午後 (1)
55. 良き事のありてハミング柿若葉 (2)
56. テレワーク男寡の黴と髯 (1)
93. さんさんの日に咲くしようぶ五濁消ゆ (2)
先生方の気掛かりな点
67. 「や」と「かな」 切字が二つ
86. 中8
89. 中8
95. 中8
投句一覧(6月16日)
酔ひ醒めの如く夏立つ遠白帆
入梅や磨いて透かす切子皿
万緑の中の一幹考の影
レノンにはなれぬ漢のサングラス
緑蔭に異国の言葉乳母車
誘はれて老の向き合ふ夏衣
凋落の未央柳になほ野心
山帽子あたり落ち着き失ひて
梅雨晴間母のシャツ揺るグループホーム
大鳥居や化粧直して青葉中
夏日燦白きタオルに塩を吹く
アマリリス硝子戸越しに艶放つ
うばたまや夜中の窓を開け放ち
師を悼む茅花流しのそのなかに
あかときの風鈴なれり目覚をり
住所録十年一日紙魚はしる
引っ越しは雨の日曜かたつむり
一人居のもろ手に包む夏茶碗
説法の堂の百畳若葉風
丸腰で渡るこの世やなめくぢら
四葩咲く一優晴らす詣で路
山帽子小人何人同居やら
夏日燦身体に乗るや家さがし
額づくごと芍薬玉の崩れけり
吹き上げの海になだれて波の綺羅
昼寝覚外出自粛の檻の中
青梅のポタポタ落ちて少子の世
陋巷の路地に匂へる蕗煮かな
麦秋や尺貫法にわれ生きん
集行く単衣の裾に海の風
草いきれ雀百羽のど根性
うずたかき本に埋もれ梅雨に入る
風鈴の思案を払ふ音色かな
誘はれて列に加はリ蟻の道
花蜜柑に波音とどく島湊
プランターのトマト色付き自粛解く
白玉の明るき魂を我が友と
樟脳や母が仕立てし雨コート
胸に挿すくちなしの花淡き恋
蝸牛今日はコロナに閉ぢこもり
悶絶の足の指突く五月闇
海境へ夏日きらめく白き舟
万緑を登山電車の大空へ
梅雨明けや赤ぺン走るホワイトボード
虹の中少年走る百階段
霊山に悟りのごとく朴ひらく
まだ色を明かさぬ蕾花菖蒲
あぢさいやまだ葉の色にまぎれをり
今日生きて夏蒼空に巡り会ふ
香煙に手甲白し夏遍路
コロナ闇続く日々なり桐の花
馬鈴薯の花に降る雨ひとりの午後
初夏や更地に動く雲の影
ハンモック慌てて立ちて袋鼠
良き事のありてハミング柿若葉
テレワーク男寡の黴と髯
たんぽぽの黄金の光り老いに活
選別をさるる命や草を引く
一〇〇年を生きてみるぞと草いきれ
おぼえたてのひらがなおどる暑中見舞
簾戸に入れ替ふ座敷尼の影
娘にと考の植えたる桐太し
風鈴の音色違へど懐かしき
新茶汲みあの世の友に愚痴ひとつ
日焼けとて完全武装してをんな
夏椿華恋盛りあぐ宵灯
道問はる訛り言葉や夏日かな
渾身の緋色の牡丹崩れけり
蛍狩り裾巻き上げて走りしたる
田を植ゑて原風景の仕上がりぬ
瑠璃蜥蜴の尻尾斬りたる悪童
着馴らして母の容にあつぱつぱ
無聊なる髯の面撫す男梅雨
変はりなく天界渡る夏の月
集りてひと日ひと時夏の宵
魂の炎ひらひら牡丹燃ゆ
筍の一と日見ぬ間の今日の丈
読みかへす俳誌の重さ梅雨に入る
馬車に乗る高野の涼気馬いばゆ
奔放に生きて懺悔の髪洗ふ
讃岐路の雨の六月人は田に
石庭の波紋眩しく夏盛り
残生の眼差しで追ふ天蓋花
藤房を揺す翁の謡ひかな
葉桜やもはや五感の賞味きれ
松原に入れば走り出す夏の海
ギター背に負ひて君来る立葵
独り居の退屈しのぐ金魚玉
美人画展見てより若葉の街にでる
紫に虚空を染めて桐の花
羽抜け鳥人とコロナの知恵くらべ
短夜の俳句談義や閉ぢこもり
さんさんの日に咲くしようぶ五濁消ゆ
子島来る一人暮らしを四十年
白玉や色白娘の膝小僧
黒焦げの亡骸跨ぐ戦火の夏
青柿や同姓多き郷あたり
選者4名(I・K・G・M)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
24. 黎明の若葉の光生まれたて(6)さくら
・若葉「や」を若葉「の」に直して頂きました。若葉のつやつやしたみどりは指先で撫でたくなる程さわやかな彩をして、昨今のコロナに汚れた世に、朝日の出るあけがたに、若葉のひかりを生まれたてと表現できた感性に共鳴しました。
<秀句>
63. 葱坊主ふらつと兄の来るやうな(5)美知子
<佳作>
7. 薫風や北岳岩稜天を衝く(4)吉博
34. 火蛾狂ふ机のメモに草田男句(6)村山
50. 花の名を思ひ出せずに夏の野辺(3)村山
60. ビー玉の中の宇宙や子供の日(7)吉博
66. コロナ禍中深く祈るや夏遍路(2) 祥
71. 万緑や父に負はるる安堵感(2)村山
84. 光る汗作業着の知事最前線(4)留美子
103. コロナの世我関せずと蟻の列(4)由斉
<準佳作>
44. 碧眼のゴッホの自画像麦の秋(2)吉博
99. 鍬疵のふかき筍道の駅(6)Miiko
104. いつの世も真つ直といふ今年竹(1)灯
K
<特選>
24. 黎明の若葉や光生まれたて(6)さくら
・「生まれたて」の措辞でこの時ならではの若葉の美しさ、荘厳なあたりの空気感まで新鮮に伝わります。長い目で見れば常に繰返される大自然の営みの一瞬ですが、その力に感応したしなやかな感覚が光ります。
<秀句>
60. ビー玉の中の宇宙や子供の日(7)吉博
<佳作>
4. 黄も白も風のひとひら夏の蝶(7)さくら
14. 峡谷にぽつり一軒桐の花(3)由斉
20. 取的のめし椀小さき穀雨かな(2)吉博
25. おおどかに菩薩見返る春の闇(3)隆路
28. 若者の風おこし過ぐ萩若葉(3)遊
29. 先達の弾む白足袋開山祭(5)吉博
32. 指先にうつる香りや柏餅(3)村山
91. 河風を腹一杯に鯉のぼり(2)広斉
<準佳作>
41. 賄ひの筍小さき夕餉膳(3)遊
81. 白牡丹ひらと日に揺れ無量光(2)由斉
95. 忍者屋敷あちらこちらに七変化(1)広斉
110. 河の風うましうましと五月鯉(1)広斉
G
<特選>
84. 光る汗作業着の知事最前線(4)留美子
・今やコロナ禍に日本全土が脅かされています。知事は作業服姿で県民の安全の願い日々先頭に立ち指揮している姿が目に浮かびます。
<秀句>
4. 黄も白も風のひとひら夏の蝶(7)さくら
<佳作>
13. 耕や手足に学ぶ農の嫁(3)留美子
21. 朝新茶急須に薫り生くる幸(4)村山
29. 先達の弾む白足袋開山祭(5)吉博
31. かかり藤丈を極めて揺れ止まず(2)灯
38. 天地をおおふウイルス苔の花(1)留美子
66. コロナ禍中深く祈るや夏遍路(2)祥
88. 風光るこの身も一瞬風になる(2)遊
103. コロナの世我関せずと蟻の列(5)由斉
<特選>
99. 鍬疵のふかき筍道の駅(6)Miiko
・まだ慣れない人が掘ったのであろうか。それとも何かの拍子に手元が狂ったのか、筍に深く入った鍬跡がある。スーパーやデパートの食品売り場では見られないそんな筍も並べられているのも道の駅ならではの事だろう。疵があっても確かに朝掘りの新鮮な筍に間違いない道の駅の野菜売り場である。
<秀句>
47. 陶器市叩き売りして春惜しむ(3)隆路
<佳作>
7. 薫風や北岳岩稜天を衝く(4)吉博
34. 火蛾狂ふ机のメモに草田男句(6)村山
41. 賄ひの筍小さき夕餉膳(3)遊
46. 文字摺草らせん階段花の塔(1)灯
60. ビー玉の中の宇宙や子供の日(7)吉博
63. 葱坊主ふらつと兄の来るやうな(5)美知子
73. 感傷の糸は紫藤の花(3)由斉
109. 紫陽花の陰にほほえむ濡れ仏(4)祥
<互選>
8. 疫病の街閑散とつつじ咲く(2)
9. 白球を余寒もろとも打ち返す(2)
36. 若楓光の層と風の層(2)
45. 白玉や閉ぢこもる日々空青し(2)秀
48. 木苺に在りし日のははふと脳裏(1)
49. 垂れ垂れて輝きそめし神の藤(2)
52. 暁闇の空へ孤高の桐の花(3)秀
55. 残生の眼差しで追ふ夏の蝶(1)
68. 古茶新茶絡み合わない会話かな(3)
75. コロナ自粛是非に迷へる夕薄暑(2)
79. 推敲に重ねがさねしヒヤシンス(2)
86. 夕虹や傘をかついで下校の児(2)秀
90. 夏あざみ母は無口なひとなりき(1)
94. 合歓咲くや風が奏づる子守歌(1)
96. 手の内を見透かされゐてサングラス(2)
97. 鯉のぼり大口開けて海風を(2)
100. コロナの世見えぬ芥に昼寝爺(2)秀
101. 夏立つや少女の腕健やかに(1)
105. 吹く風を己が色としモネ睡蓮(1)
108. 蒼天へ綺羅弾ませて七変化(3)秀
112. 石庭の波紋まぶしき夏の池(2)
先生方の気掛かりな点
64. 説明になってしまっている
74. 無季語
83. 三段切、順序を変える方がよい(城跡に群るる土筆で袴取る)
投句一覧(5月19日)
ぱりんと割る瓦せんべい旅遍路
姫女苑揺れ咲く径(こみち)歩す小径
春疾風帷子なびく詣道
黄も白も風のひとひら夏の蝶
ガラス戸へつばめ返しの初燕
ウイルスの戦略勝り花の散る
薫風や北岳岩稜天を衝く
疫病の街閑散とつつじ咲く
白球を余寒もろとも打ち返す
自転車で通ふ我が身にはたた神
増えてゐる一尾隣の鯉のぼり
マーガレット庭のオブジェに白き猫
耕や手足に学ぶ農の嫁
峡谷にぽつり一軒桐の花
突風の解くリボンや花水木
咲く薔薇に少し嫉妬の鋏入れ
風呂の窓灯せど動かぬ守宮ゐて
煽られるたびに芽吹くや風の揄
たかんなに地面押し上げ力声
取的のめし椀小さき穀雨かな
朝新茶急須に薫り生くる幸
ウイルスに右往左往や木下闇
桐の花むらさきの鈴天に和す
黎明の若葉や光生まれたて
おおどかに菩薩見返る春の闇
反抗期たてこもりゐる夏の陣
相見ての月と太陽初夏の朝
若者の風おこし過ぐ萩若葉
先達の弾む白足袋開山祭
閉ぢこもり過ぎにし日々をはたた神
かかり藤丈を極めて揺れ止まず
指先にうつる香りや柏餅
黄金の麦の穂波や父の声
火蛾狂ふ机のメモに草田男句
落ち花の香りに仰ぐ桐の花
若楓光の層と風の層
句に迷ふ我を詩へと蟻一匹
天地をおおふウイルス苔の花
高階の窓響かせてはたた神
糠雨の庭になじむや七変化
賄ひの筍小さき夕餉膳
藍ふかし酸土好みの七変化
娘の欲りし薫りのたかき薔薇を剪る
碧眼のゴッホの自画像麦の秋
白玉や閉ぢこもる日々空青し
文字摺草らせん階段花の塔
陶器市叩き売りして春惜しむ
木苺に在りし日のははふと脳裏
垂れ垂れて輝きそめし神の藤
花の名を思ひ出せずに夏の野辺
葡萄の花門のアーチに薫る朝
暁闇の空へ孤高の桐の花
現世のひつつくりかへるはたた神
聴く耳を持たぬ嫗の夏座敷
残生の眼差しで追ふ夏の蝶
ばらの香やわが家の庭の空気吸ひ
何するも先づ探しもの夏ぼうけ
母の日や足るを知ること存分に
薄命の弟忍ぶ遠花火
ビー玉の中の宇宙や子供の日
自己自選一人満悦遠花火
紫陽花の空に弾みて天の蒼
葱坊主ふらつと兄の来るやうな
青葉の簾庭の木々映へ風蒼し
亀甲の豪気溢るる若緑
コロナ禍中深く祈るや夏遍路
葉桜や既に賞味の期限切れ
古茶新茶絡み合わない会話かな
目瞑ればこの世は秘色夏始め
金魚玉揺れて金魚が踊り出す
万緑や父に負はるる安堵感
首すじのこりなでてゆく青葉風
感傷の糸は紫藤の花
トロッコのゆるゝも楽し嵯峨峡谷
コロナ自粛是非に迷へる夕薄暑
モネ公園憩ひの森に夏を織る
のぼり坂杖の一歩にある薄暑
合はす手に青梅一つははかとも
推敲に重ねがさねしヒヤシンス
馬車に乗る高野の虚空杉の花
白牡丹ひらと日に揺れ無量光
走り梅雨軒に届かぬ段梯子
袴取る城跡に群る土筆かな
光る汗作業着の知事最前線
夏光リぐいと引き寄せ太極拳
夕虹や傘をかついで下校の児
緑さす身内清しく老い忘れ
風光るこの身も一瞬風になる
風白きマーガレットの朝の庭
夏あざみ母は無口なひとなりき
河風を腹一杯に鯉のぼり
緑さす一日をつくる深呼吸
濃く薄く富士山麓の若緑
合歓咲くや風が奏づる子守歌
忍者屋敷あちらこちらに七変化
手の内を見透かされゐてサングラス
鯉のぼり大口開けて海風を
忘れ名草思ひを胸に今日を生く
鍬疵のふかき筍道の駅
コロナの世見えぬ芥に昼寝爺
夏立つや少女の腕健やかに
胸覆ふ紫陽花抱く長き髪
コロナの世我関せずと蟻の列
いつの世も真つ直といふ今年竹
吹く風を己が色としモネ睡蓮
しやくとりの今日も計るや木の生命
夏めくや老犬しやんと立ちあがる
蒼天へ綺羅弾ませて七変化
紫陽花の陰にほほえむ濡れ仏
河の風うましうましと五月鯉
緑ふく比叡の光摩天楼
石庭の波紋まぶしき夏の池
選者4名(I・K・G・M)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
94. うららかや桐下駄を選る大男(5)村山
・最近では下駄を履く人は特殊な職業の人位かなと思いますが、桐の下駄を選んでいる。それも体格の良い男性とあれば、どんな人だろうと想像させる。うららかやの季語が良く働いていると思いました。
<秀句>
80. 日永かな厨に貝の欠伸する(7)村山
<佳作>
21. 露座仏の細き御目や若葉風(10)うた子
27. 蓋あけて春のとびだす曲げ輪つぱ(4)留美子
55. 見送らる離任の港島の春(2)Miiko
59. 監督を宙に胴上げ卒業す(2)由斉
79. おかつぱの頭刈りたて入学す(2) 美知子
88. 卒業を目の前にして特攻兵(1)村山
102. 魚売り女花咲く下に荷を解く(3)広斉
106. はは忌日あかおけに浮く花一片(1)広斉
<準佳作>
19. 籠り居てコロナのニュース春寒し(3)祥
34. 逢引は塀の上なり鳥の恋(1)さくら
47. 結界のなきウイルスや春の闇(7)うた子
53. さぬき路は溜池多し風光る(1)隆路
78. 寄り添ひて水のなすまま花筏(2)広斉
108. どの店もガーゼ品切れ春の闇(2)Miiko
K
<特選>
21. 露座仏の細き御目や若葉風(10)うた子
・ウイルス禍に揺れる世界。不安がいっぱいの時です。ストレートにこの不安を詠むのも俳句ですが、こんな時にも四季は周り、美しいものもたくさん。身の回りに見逃しがちになっています。今ならではの輝く若葉風に露座仏は目を細めていらっしゃると詠まれ、移ろう時は惜しんでいらっしゃるのが分かります。
<秀句>
102. 魚売り女花咲く下に荷を解く(3)広斉
<佳作>
4. たんぽぽの道明日へと手をつなぐ(3)美知子
11. 菜めし食べ六腑に春を沈めけり(7)村山
35. 切り株の年輪緩み春深し(1)広斉
59. 監督を宙に胴上げ卒業す(2)由斉
80. 日永かな厨に貝の欠伸する(7)村山
86. 菜飯炊きははの匂ひを噴きこぼす(5)村山
94. うららかや桐下駄を選る大男(5)村山
111. 四月憂し半透明の日々続き(2)由斉
G
<特選>
47. 結界のなきウイルスや春の闇(7)うた子
・今世界中がコロナウイルスで恟恟している日々に増えゆく患者に恐れおののく世界の人々の姿が春の闇と言う言葉で良く表されています。
<秀句>
61. 卒業や嬉しさの奥不安百(2)由斉
<佳作>
11. 菜めし食べ六腑に春を沈めけり(7)村山
19. 籠り居てコロナのニュース春寒し(3)祥
55. 見送らる離任の港島の春(2)Miiko
70. お手植ゑの松蒼空の春掴む(1)由斉
81. 春日傘差す手にこもる力かな(2)留美子
95. 春暁に目覚めし老にある一歩(1)うた子
108. どの店もガーゼ品切れ春の闇(2)Miiko
<特選>
80. 日永かな厨に貝の欠伸する(7)村山
・日が長くなったなぁと情趣に浸る心を上5に据えて具象へと繋げている。のんびりとした時間が流れている厨のボールの中で貝は水を吐いている。その貝の様子を欠伸していると比喩的に描写し想像力豊かな軽妙な一句となった。
<秀句>
9. 花冷えや吾を歪に道路鏡(3)隆路
<佳作>
11. 菜めし食べ六腑に春を沈めけり(7)村山
14. 夕桜映画帰りの無人駅(2)留美子
21. 露座仏の細き御目や若葉風(10)うた子
74. 春霞魔性の女住むかとも(1)村山
82. 春憂ふ月の欠けゆく独りの夜(2)由斉
86. 菜飯炊きははの匂ひを噴きこぼす(5)村山
94. うららかや桐下駄を選る大男(5)村山
111. 四月憂し半透明の日々続き(2)由斉
<互選>
1. コロナ戦避くる「三密」亀の鳴く(2)秀
2. 新築のポーチ明るし花ミモザ(1)
7. 養花天京都大原悲恋の尼(1)
13. 蝶の翳こぼるる蒼天を見上ぐ(3)秀
15. 憎しみもやがて癒ゆると花の雨(2)秀
20. 緊張の握る母の手入学児(1)
25. 走り来て春を蹴り上ぐサッカー児(3)
29. 食らひつく毛虫一心風走る(1)
38. 囀りや登り詰めれば海青し(3)秀
39. 春昼やケアハウスの廊長し(1)
49. カラフルな新入生のランドセル(3)秀
54. 自転車を立ち漕ぎ登る春うらら(1)
57. 春コート淡きときめき転勤地(1)
62. 青い鳥来るか来ないか春の空(2)秀
65. ものの芽や踏んづけられて生気湧き(1)
68. それぞれの花それぞれに天に綺羅(1)
77. 春霞老いの虚を放りたし(1)
83. 日の新樹風の新樹にある翳り(2)
90. 躁と鬱風になびかせ菜種花(1)
91. 愚直なる事が身上四月馬鹿(2)
113. 藻の花や彷徨ひながら俳の道(2)
先生方の気掛かりな点
28. 中8
39. 中6
50. 無季語
投句一覧(4月21日)
コロナ戦避くる「三密」亀の鳴く
新築のポーチ明るし花ミモザ
桜散る規則正しく美しく
たんぽぽの道明日へと手をつなぐ
フリージア香る朝庭鳥集ふ
コロナ風邪空も鈍色朝寝しよ
養花天京都大原悲恋の尼
桜しべ降るや紅茶へ砂時計
花冷えや吾を歪に道路鏡
早咲きを選ぶ生け花あらせいとう
菜めし食べ六腑に春を沈めけり
花菜漬コロナ驚異のニュース又
蝶の翳こぼるる蒼天を見上ぐ
夕桜映画帰りの無人駅
憎しみもやがて癒ゆると花の雨
花は葉に命尊ぶ未来かな
出番待つ蓬山づみ割烹着
朝の庭黄色立ちあげフリージア
籠り居てコロナのニュース春寒し
緊張の握る母の手入学児
露座仏の細き御目や若葉風
桐下駄を抱きて頬笑むははの春
薔薇の芽に話しかくるは朝の夫
新型コロナ春の列島攻め登る
走り来て春を蹴り上ぐサッカー児
潔く散りくる花の迷ひ無く
蓋あけて春のとびだす曲げ輪つぱ
夕桜煩悩断ち切る風に揺る
食らひつく毛虫一心風走る
山頂の樹々の隙間の春の空
和服着てお茶席通ひ過ぎにし日
結願寺へ行くかと問はれ春の風
積む石に春光綺羅と針の像
逢引は塀の上なり鳥の恋
切り株の年輪緩み春深し
ウイルスの戦略勝り花の散る
残花には残花のおもひ負けられぬ
囀りや登り詰めれば海青し
春昼やケアハウスの廊長し
腰痛話縁に弾みて山笑ふ
類句
春疾風まづ襲ひけり駐輪場
日日のうがひ手洗ひ下萌ゆる
針供養何の因果か板こんにゃく
夜ざくらを顎尖らせて仰ぎけり
草餅噛むははの影追ふ今更に
結界のなきウイルスや春の闇
桐の花むらさきの鈴天に和す
カラフルな新入生のランドセル
人攫ふ見えぬ外敵令和危機
寒戻り紅のショール身を包む
下萌えに我が影やはき山の家
さぬき路は溜池多し風光る
自転車を立ち漕ぎ登る春うらら
見送らる離任の港島の春
ハグをして門のアーチの葡萄の芽
春コート淡きときめき転勤地
どや顔の恋猫なれど甘き声
監督を宙に胴上げ卒業す
うららかや老身うかと伸びをして
卒業や嬉しさの奥不安百
青い鳥来るか来ないか春の空
山肌の彩り変へる木芽雨
若草を無残に踏みて下校の児
ものの芽や踏んづけられて生気湧き
春愁を流すいさらの音清し
祖父まねて折紙遊び良寛忌
それぞれの花それぞれに天に綺羅
姥桜の日々を愛づるや通ひ路
お手植ゑの松蒼空の春掴む
限りなき森羅万象風光る
目の前の見へぬ外敵令和春
山紅や花の雲中遙か拝す
春霞魔性の女住むかとも
剪定の音パチパチと鳶舞ふ
自転車で通ひし我に春時雨
春霞老いの虚を放りたし
寄り添ひて水のなすまま花筏
おかっぱの頭刈りたて入学す
日永かな厨に貝の欠伸する
春日傘差す手にこもる力かな
春憂ふ月の欠けゆく独りの夜
日の新樹風の新樹にある翳り
底なしの天持ちあげて終の花
ふらここに揺れ残したる愁ひかな
菜飯炊きははの匂ひを噴きこぼす
桜草広野を画布と富士描く
卒業を目の前にして特攻兵
口尖る利き酒といふ大試験
躁と鬱風になびかせ菜種花
愚直なる事が身上四月馬鹿
急き立てし人みな遠し春の芝
花なづな吟行疲れの足元に
うららかや桐下駄を選る大男
春暁に目覚めし老にある一歩
迷ひなくまた来年と散る桜
花の散る未曾有国難人信ず
潤む眼で令和二年の花送る
春雨に老い松の瘤涙して
等閑か折り合ひ探る春別れ
液晶のパネルとびたつ揚羽蝶
魚売り女花咲く下に荷を解く
モノクロとなりて讃岐の花の雲
デイケアの庭に二畝豆の花
ペタル踏む落下を背なに今日を生く
はは忌日あかおけに浮く花一片
屈むれば音符の様に土筆かな
どの店もガーゼ品切れ春の闇
花を見る閉ぢこもる日々ちと破り
やはらかき若菜をゆらす通り風
四月憂し半透明の日々続き
女体宮へ花の鳥居を潜りけり
藻の花や彷徨ひながら俳の道
選者4名(I・K・G・M)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
6. 十三参りははの手機の絹衣(6)村山
・この季語は古くから京都に残る風習で法輪寺の虚空蔵菩薩に十三歳になった子供が参詣するとある。母上の作られた絹の着物を着てとても嬉しかった事が思い出として残っており京都の華やかな様子が見えて来ます。
<秀句>
8. セーラー服の白線眩し麦青む(5)美知子
<佳作>
2. 重きほどしだるる梅花道真忌(2)MIiiko
39. 春寒し出窓に猫の貌貌貌(2)美知子
40. 春の宵いつもの口笛通りゆく(2)遊
46. 詩心流し近づく春の滝(4)村山
54. 廃屋や風のみがきしこぶし咲く(3) 祥
57. 元気かと一年振りの蕗の薹(3)由斉
70. 寄せ書きに師の似顔絵や卒業す(3)さくら
71. こぶし咲く免許取り立て初路上(2)留美子
<準佳作>
18. あたらしき楽譜広げて春の風(4)留美子
21. 下萌ゆる老いの足裏も軽やかや(3)村山
84. 北窓を開けて心の窓開くる(3)さくら
92. 木蓮や白き小舟の浮かぶ夜(2)さくら
K
<特選>
97. 春嵐蹴やぶるやうに呱呱の声(4)留美子
・春嵐の最中に産声をあげた元気な赤ちゃん。類想のない中七の表現が、いかにも強い生命力を詠って荒々しくも素朴な喜びの噴き出したような御句。
<秀句>
4. 啓蟄や足裏くすぐる獣道(5)由斉
<佳作>
6. 十三参りははの手機の絹衣(6)村山
8. セーラーの白線眩し麦青む(5)美知子
20. まほろばの一水光り涅槃西風(4)隆路
36. つくし和へ年に一度のおすそ分け(3)村山
38. 沈丁花の香を門前に尼若し(3)村山
54. 廃屋や風のみがきしこぶし咲く(3)祥
65. 菩提寺の土が揉み出すつくづくし(2)隆路
70. 寄せ書きに師の似顔絵や卒業す(3)さくら
<準佳作>
45. 賑やかに菜花パスタの七十路会(2)Miiko
48. 湧き水のふふむ音あり諸子光る(3)広斉
69. 燦々の陽に咲く花や五濁消ゆ(2)由斉
82. 襁褓まだ取れぬ子も振る補虫網(2)隆路
G
<特選>
86. 夕日背に今日を打ち終へ老遍路(5)祥
・老いし一人の遍路が今日を予定の札所を打ち終えて夕日を背ナに受けながらてくてくと遍路宿に向かう姿が良く表されています。
<秀句>
91. むらさきに虚空持ち上げ桐の花(3)由斉
<佳作>
3. 春さむし熱き朝粥身を通る(3)遊
25. 芹摘むや郷の香りとははの影(2)村山
29. 百歳の姉の笑顔や冴返る(4)村山
42. 昨日とは違う風の香沈丁花(2)さくら
47. 無人家の竹藪風や初音聞く(3)祥
54. 廃屋や風のみがきしこぶし咲く(3)祥
66. 雛飾る永久(とこしへ)にあれ平和の世(3)美知子
97. 春嵐蹴やぶるやうに呱呱の声(4)留美子
<特選>
80. とほき恋いま黄水仙盛りなり(3)美知子
・香水の原料に用いられるほど黄水仙は高い香りを放つと共に鮮やかな黄色が美しい。そんな黄水仙の花言葉は「もう一度愛してほしい」である。今を盛りと咲き誇っている黄水仙に若かりし日の恋がふと切なく蘇ってきたのではないだろうか。
<秀句>
18. あたらしき楽譜広げて春の風(4)留美子
<佳作>
4. 啓蟄や足裏くすぐる獣道(5)由斉
5. 今日一と日女医にはあらずサングラス(3)隆路
24. 京言葉添えてださるる煮大根(2)Miiko
37. 生身魂佛も鬼も棲み賜ふ(4)隆路
53. 混沌の世を彷徨ひて紅椿(2)広斉
71. こぶし咲く免許取り立て初路上(2)留美子
86. 夕日背に今日を打ち終へ老遍路(5)祥
93. 鳥雲に青空深く残りたり(1)広斉
<互選>
7. 無為に時流るる日々や春寒し(2)
13. 夜半めざめなぜと自問の春の夢(1)
26. シクラメン庭下駄さがす通り雨(1)
28. 目貼剥ぎ秘めゐし心覗きみる(1)
34. 雛納母在りし日のなつかしき(1)
35. しりきれの一日一句やひこばゆる(1)
43. 落ちる陽の讃岐白波冴返る(1)
51. 村一つ呑んでダム湖の水澄めり(5)秀
64. 過ぎし日々思いて居れば春驟雨(1)
72. ゆりゆるる瀬戸の透明九十路坂(1)
73. コロナ感染願ふ終息のマスク(1)
75. 籠り居て野良猫のぞく春愁かな(1)
83. 結願の鐘響かせて九十路坂(1)
89. 春風やうつのくすぶる髪すきて(2)秀
90. 晩節の身体こきこき春寒し(1)
96. ははの袖にくるまれし日よ春寒し(1)
先生方の気掛かりな点
17. 季重なり(咳、春)
21. 軽やかや→軽やかに(最後に「や」の切字は失敗が多い)
23. 愛らしや→愛らしき
24. 添えて→添へて
29. 冴返るの使い方、ほかの季語に
31. 掛けているがよく解りませんでした
40. 中8
51. よく出来た御句でしたが「水澄めり」は秋の季語
64. 思いて→思ひて、思うて
72. 無季語
83. 無季語
88. 春秋→春愁
投句一覧(3月17日)
野育ちの水仙の香娘のみやげ
重きほどしだるる梅花道真忌
春さむし熱き朝粥身を通る
啓蟄や足裏くすぐる獣道
今日一と日女医にはあらずサングラス
十三参りははの手機の絹衣
無為に時流るる日々や春寒し
セーラーの白線眩し麦青む
日が走り温風走り花ふふむ
ぶつつけに下ろす筆ペンふきのたう
明け明星鶯の声とどきしや
菊根分け花咲く迄の命乞ふ
夜半めざめなぜと自問の春の夢
春めくにマスクマスクに鳥笑ふ
子の帰郷赤い車や風光る
リラの花見たさにパリへ若き日よ
咳すれば涙一筋春老いて
あたらしき楽譜広げて春の風
ウイルスの気がかりなれど芹を摘む
まほろばの一水光り涅槃西風
下萌ゆる老いの足裏も軽やかや
春雨に水漬きて見ゆ角二軒
天井より吊るす雛の愛らしや
京言葉添えてださるる煮大根
芹摘むや郷の香りとははの影
シクラメン庭下駄さがす通り雨
真青な讃岐大空花の雲
目貼剥ぎ秘めゐし心覗きみる
百歳の姉の笑顔や冴返る
春愁や寝過ぎる程に眠る日々
春三月ピーターパンの掛けている
雲を越ゆ高さに莟寒紅梅
谷渡る鶯の声夢に載る
雛納母在りし日のなつかしき
しりきれの一日一句やひこばゆる
つくし和へ年に一度のおすそ分け
生身魂佛も鬼も棲み賜ふ
沈丁花の香を門前に若き尼
春寒し出窓に猫の貌貌貌
春の宵いつもの口笛通りゆく
明けやらず頬白の声夢現つ
昨日とは違う風の香沈丁花
落ちる陽の讃岐白波冴返る
常連らママさん口説く春の宵
賑やかに菜花パスタの七十路会
詩心流し近づく春の滝
無人家の竹藪風や初音聞く
湧き水のふふむ音あり諸子光る
春休み山で遊んですってんころり
頬白へ老いの一筆駈けたしと
村一つ呑んでダム湖の水澄めり
空見るも海見るもよし藪椿
混沌の世を彷徨ひて紅椿
廃屋や風のみがきしこぶし咲く
一本の雪割草に風纏ひ
春愁や不消化のもの好きで食み
元気かと一年振りの蕗の薹
階段を一段とばし春疾風
啓蟄や入院の友窓に顔
屋島より吹く春風に未来乞ふ
室咲きの花にシャンソン調べかな
春疾風鳥どち木々にしがみつき
見し人と声をかけ合ふ彼岸会
過ぎし日々思いて居れば春驟雨
菩提寺の土が揉み出すつくつくし
雛飾る永久(とこしへ)にあれ平和の世
鶯啼く一人暮らしの四十年
庭の梅色づくころや孫が住む
燦々の陽に咲く花や五濁消ゆ
寄せ書きに師の似顔絵や卒業す
こぶし咲く免許取り立て初路上
ゆりゆるる瀬戸の透明九十路坂
コロナ感染願ふ終息のマスク
国難今塩田に落つ紅椿
籠り居て野良猫のぞく春愁かな
春愁やプラスチックの波に載る
心より師に捧ぐ香冴返る
見舞客も検温消毒コロナ風邪
欲望を満たし過ぎしか春の風邪
とほき恋いま黄水仙盛りなり
老い松の頑固あふるる若緑
襁褓まだ取れぬ子も振る補虫網
結願の鐘響かせて九十路坂
北窓を開けて心の窓開くる
弥生三月リセットしたき二十年
夕日背に今日を打ち終へ老遍路
人力車すみれ踏んづけ走り去る
春秋や役目終へたるランドセル
春風やうつのくすぶる髪すきて
晩節の身体こきこき春寒し
むらさきに虚空持ち上げ桐の花
木蓮や白き小舟の浮かぶ夜
鳥雲に青空深く残りたり
三代の女系家族や藪椿
路線沿ひ風の形に草萌ゆる
ははの袖にくるまれし日よ春寒し
春嵐蹴やぶるやうに呱呱の声
普通にも世代世代やかぎろへる
山々の寝相さまざま鳥雲に
選者4名(I・K・G・M)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
7. 夕暮に漕ぐ鞦韆のハイヒール(4)Miiko
・最近は公園で遊ぶ子供の声もあまり聞かなくなった。この句は夕暮にぶらんこを漕いでいる、ハイヒールなので成人の女性を想像する。年度変わりの今の時季、こもごもを内包した句だと思い共鳴します。
<秀句>
71. よく笑ふ白杖の友春隣(5)美知子
<佳作>
13. かまくらの白き闇へと絵蝋燭(3)さくら
17. カーリング女子の笑顔や春近し(1)美知子
37. いつ逝くも悔なき齢春立ちぬ(2)遊
48. 花冷えや文珠菩薩のうす瞼(4)Miiko
53. 日向ぼこ琥珀の中の虫となり(6) 隆路
73. かまくらの中は子供のレストラン(1)さくら
88. いつしんに歌う園児やクロッカス(3)美知子
98. 予科練の像に教え子風光る(4)村山
K
<特選>
53. 日向ぼこ琥珀の中の虫となり(6)隆路
・日向ぼこの御句として新鮮、類想が無い。独創的な思い切った表現で琥珀色の日光に包まれている幸せな感覚が生きています。詩的で美しい御句。
<秀句>
48. 花冷えや文珠菩薩のうす瞼(4)Miiko
<佳作>
7. 夕暮に漕ぐ鞦韆のハイヒール(4)Miiko
13. かまくらの白き闇へと絵蝋燭(3)さくら
23. 石垣に日の斑散らして迎春花(1)さくら
28. 菜の花や畑のなかに父母の墓(3)美知子
35. 窓のそと春の雪なり中也恋ふ(4)美知子
61. のど飴のミントの味や浅き春(3)美知子
71. よく笑ふ白杖の友春隣(5)美知子
88. いつしんに歌う園児やクロッカス(3)美知子
<準佳作>
42. 冬耕や見ざる聞かざる言はざる日(1)留美子
64. 髪切つて春の装ひウインドに(2)祥
70. 梅花散る玉砂利の道杖友に(1)祥
98. 予科練の像に教え子風光る(4)村山
G
<特選>
66. 春昼や嬰の喃語と祖母遊び(3)遊
・春の昼下がり日当りの良い縁側でまだ片言まじりの嬰児と遊ぶ祖母の姿が目に浮かんで来ます。長閑かな春の風景が良く表されています。
<秀句>
79. 永らへてコロナウイルス春寒し(3)村山
<佳作>
5. 飾られて茶屋の光陰語る雛(5)さくら
21. 里の宿まづ草もちのおもてなし(1)Miiko
34. 無人駅梅ふつくらと客を待つ(2)村山
46. 天神に良き絵馬かかる梅の花(1)祥
60. ただ霞む宙の一切消へ失せて(2)村山
64. 髪切つて春の装ひウインドに(2)祥
92. あかときの公園の春鳥と吾(1)村山
93. 独居の部屋のはなやぎ寒椿(1)祥
<特選>
35. 窓のそと春の雪なり中也恋ふ(4)美知子
・何気なく窓に向けた視線の先には思いがけない春の雪が舞っている。ふと「よごれちまった・・・」詩の一節が口をついて出るとともに中也への想いが溢れてくる。中也を慕う作者の心が投影された一句である。
<秀句>
61. のど飴のミントの味や浅き春(3)美知子
<佳作>
9. 一羽来て二羽来て駅の寒雀(1)祥
25. 冬日向ソーラー時計充電す(3)留美子
28. 菜の花や畑のなかに父母の墓(3)美知子
48. 花冷えや文珠菩薩のうす瞼(4)Miiko
53. 日向ぼこ琥珀の中の虫となり(6)隆路
62. 風光る明治のははの手織機(2)村山
78. 銘刀を受くる如くに破魔矢受く(1)隆路
85. 千年の宮に身を伏す臥竜梅(1)Miiko
<互選>
2. からまりを解くも楽しさ毛糸編む(1)
3. 長者めく君子蘭咲き主留守(5)秀
6. 節分の豆のとどかぬ庭の闇(2)
8. 春待つにぼたぼたと降る冷雨かな(2)秀
11. 着ぶくれてつい口にせりどつこいしよ(1)
18. 眩しきや青空に浮く花の雲(1)
19. 凍蝶の吾を通せし二枚翅(1)
22. 師の遺句集返し読みして冬籠り(3)
44. 枯蓮影を落して縺れ合ふ(2)
45. 揺らめきて銀光天に猫柳(1)
50. 緑立つ屋島山上七色に(1)
51. 枝先の空はみづいろ春時雨(1)
54. 青海苔の岩を被りてゆらゆらと(1)
57. 晩年の有り余る刻いぬふぐり(2)
67. 水仙の集まりなだれ崖真白(1)
84. 蝋梅の聞く風の音波の音(1)
87. 八戸霞宙埋め尽くしただ真白(2)秀
94. 枝垂梅祇園舞妓のだらり帯(1)
投句一覧(2月18日)
春一番犬の尻尾も揺さぶらる
からまりを解くも楽しさ毛糸編む
長者めく君子蘭咲き主留守
巡礼の鈴の音島に春を呼ぶ
飾られて茶屋の光陰語る雛
節分の豆のとどかぬ庭の闇
夕暮れに漕ぐ鞦韆のハイヒール
春待つにぼたぼたと降る冷雨かな
一羽来て二羽来て駅の寒雀
畦窪み令和の星降るいぬぐり
着ぶくれてつい口にせりどつこいしよ
蒼空に花の雲積み鳶の笛
かまくらの白き闇へと絵蝋燭
鉄橋の脚に巻き付く若布かな
「鬼は外」明治生れの父に就き
元気かと師の声若し寒見舞
カーリング女子の笑顔や春近し
眩しきや青空に浮く花の雲
凍蝶の吾を通せし二枚翅
北国の旅の海岸波の花
里の宿まづ草もちのおもてなし
師の遺句集返し読みして冬籠り
石垣に日の斑散らして迎春花
乱れ菊焼く朝の庭無念の香
冬日向ソーラー時計充電す
寒の日矢空気の塵を浮き出し
風光る卒業生の顔顔も
菜の花や畑のなかに父母の墓
幽玄の遊び心や枝垂梅
春菊を洗ひ夕餉の鍋用意
風に数雨に数増す落椿
蝋梅の庭に香りを鳥の群
一山の淡く香りて梅日和
無人駅梅ふつくらと客を待つ
窓のそと春の雪なり中也恋ふ
空蒼く梅の蕾のふふむ昼
いつ逝くも悔なき齢春立ちぬ
梅の香の狭庭を満たし鳥集ふ
お茶室の侘びぽつぽつと梅真白
蝋梅の修徳なりや色の褪せ
白梅の尼寺覗く昼下り
冬耕や見ざる聞かざる言はざる日
明るくて風の喜ぶ猫柳
枯蓮(はちす)影を落して縺れ合ふ
揺らめきて銀光天に猫柳
天神に良き絵馬かかる梅の花
も草生ふはは手作リの餅の味
花冷えや文珠菩薩のうす瞼
蝋梅や夢の亡夫に泣かされし
緑立つ屋島山上七色に
枝先の空はみづいろ春時雨
明るくて水と恋仲猫柳
日向ぼこ琥珀の中の虫となり
青海苔の岩を被りてゆらゆらと
春の土かみて子のくつピンク色
ほろ苦き春菊吾の昨日今日
晩年の有り余る刻いぬふぐり
春暁や幼の写真に気力得て
人参の赤を我が身に老心
ただ霞む宙の一切消へ失せて
のど飴のミントの味や浅き春
風光る明治のははの手織機
若布の香沸き立つ岩場鳶の輪
髪切つて春の装ひウインドに
春憩ふピーチョロピーと天心へ
春昼や嬰の喃語と祖母遊び
水仙の集まりなだれ崖真白
きげんよく節をまはせる日永かな
遠近に牡蠣の土手鍋被爆の地
梅花散る玉砂利の道杖友に
よく笑ふ白杖の友春隣
伊勢参り始めて見たる蒼い海
かまくらの中は子供のレストラン
春菊や豆腐屋の声里の夕
小六の修学旅行伊勢参り
歳月やしばし風花手にうけて
鶯啼く肺炎騒ぎ闇の旅
銘刀を受くる如くに破魔矢受く
永らへてコロナウイルス春寒し
きさらぎや白髪しとらせ梳る
税申告鶯谷を渡りけり
春月や丸る顔染めて屋島嶺
初鏡吾の顔にも父祖の影
蝋梅の聞く風の音波の音
千年の宮に身を伏す臥竜梅
梅蕾開く日待ちつ床に臥す
八戸霞宙埋め尽くしただ真白
いつしんに歌う園児やクロッカス
庭の梅匂ふありあけ空茜
俯瞰する湖の藍色冴返る
青海苔の岩の窪みに青光リ
あかときの公園の春鳥と吾
独居の部屋のはなやぎ寒椿
枝垂梅祇園舞妓のだらり帯
鶯啼く肺炎騒ぎ旅の船
庭の梅ほのぼの匂ひ日の溢れ
災害の後は肺炎春寒し
予科練の像に教え子風光る
如月のコロナウイルスクルーズ船
選者4名(I・K・G・M)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
37. 冬オリオン仰ぐ中村医師悼み(8)美知子
・昨年アフガニスタンで犠牲になられた中村哲医師の事件は本当に痛ましいことで憤りを覚えました。冷え切った冬の夜空に光るオリオンを仰ぎ、きれいな心の中村医師を思われた。思い出に残る一句だと思いました。
<秀句>
12. 公園の砂入れかへて日脚伸ぶ(4)留美子
<佳作>
16. 山奥の一人居を守る松飾り(3)由斉
45. 金婚の夫婦寡黙に雑煮餅(2)隆路
63. 綿菓子に春光を巻き学園祭(5) 村山
76. 七種をははと摘みたる昭和かな(3)村山
78. 残月へ蝋梅の香のふくいくと(3) 村山
84. 鳶一羽容れて冬空がらんどう(4)由斉
K
<秀句>
25. 手を挙げて考の来さうな里の春(3)村山
<佳作>
14. 打ち止めの鐘おんおんと冬の空(2)Miiko
16. 山奥の一人居を守る松飾り(3)由斉
29. 己がため粥炊く母の小正月(3)美知子
31. 熱燗や額の写真へまづ一献(3)Miiko
55. 寒薔薇白に極むる気魄かな(3)さくら
84. 鳶一羽容れて冬空がらんどう(4)由斉
<準佳作>
12. 公園の砂入れかへて日脚伸ぶ(4)留美子
37. 冬オリオン仰ぐ中村医師悼み(8)美知子
40. 山茶花の一樹くれなゐの狂乱(2)さくら
77. ひたすらに走る襷に淑気満つ(6)Miiko
G
<特選>
58. 七草粥九十年余賜りて(4)遊
・作者は百才に近い方であろうか。九十年余年をしかと七草粥を噛み締めて生き来られた感謝の気持が良く表され清々しくさわやかな気持にさそわれます。
<秀句>
26. 句の女神微笑み給へ初句会(4)さくら
<佳作>
9. 初春や嬰は家族の王子様(1)遊
11. 竹馬に乗るはじゃじゃ馬娘かな(2)さくら
31. 熱燗や額の写真へまづ一献(3)Miiko
51. 凩や音は聞こえずケアハウス(1)遊
73. 手をつなぐ娘に支へられ初詣(1)祥
81. 初御空昭和平成令和生き(1)遊
<特選>
30. リハビリの折鶴一羽冬ぬくし(4)祥
・リハビリの指に一羽一羽命を吹き込むように鶴を折る。色とりどりの鶴が卓上に舞う。「冬ぬくし」の季題にリハビリを見守る暖かい視線が伝わってくる。
<秀句>
63. 綿菓子に春光を巻き学園祭(5)村山
<佳作>
12. 公園の砂入れかへて日脚伸ぶ(4)留美子
16. 山奥の一人居を守る松飾り(3)由斉
58. 七草粥九十年余賜りて(4)遊
71. 見えぬ荷の一つや二つ久女の忌(2)遊
77. ひたすらに走る襷に淑気満つ(6)Miiko
78. 残月へ蝋梅の香のふくいくと(3)村山
<互選>
1. 歌姫は真っ赤なドレス冬の薔薇(1)
3. 古市や江戸彩放つ雑煮椀(2)
5. 初空やかしこみ結ぶ凶神籤(1)
7. 御来光握りしめたる赤子の手(2)秀
18. 突っ走れ胸板厚きラガーマン(2)
22. 風邪の児を抱きたる母も風邪心地(1)
24. 茹卵挟めばにげるおでん鍋(1)
47. 葉がくれに珊瑚のごとき実万両(1)
52. 荒れる世を覗く藁屋の寒牡丹(2)
53. まだまだとおのれ励ます帰り花(1)
67. 禍ひの口に寒紅のくれなゐ(1)
69. 鴨ねむる千里飛び来し思ひ溜め(3)秀
83. 過ぎし日を想ひてをれば初日の出(2)
先生方の気掛かりな点
6 . 冬ばれ→冬晴れ(の方がよいかと思います)
13. 心中に→胸中に
27. 季重なり
44. 季重なり
投句一覧(1月21日)
歌姫は真っ赤なドレス冬の薔薇
年賀状に託す日頃の不沙汰詫び
古市や江戸彩放つ雑煮椀
鴨の陣しくや平家の舟隠し
初空やかしこみ結ぶ凶神籤
冬ばれに塩田整備スロベニア
御来光握りしめたる赤子の手
初霜を犬のほじくる苔の庭
初春や嬰は家族の王子様
賑やかに同胞集ひ松飾
竹馬に乗るはじゃじゃ馬娘かな
公園の砂入れかへて日脚伸ぶ
松飾り立てて日本を心中に
打ち止めの鐘おんおんと冬の空
大霜の野草蹴散らし離れ犬
山奥の一人居を守る松飾り
山茶花の奢り三日に踏まれけり
突っ走れ胸板厚きラガーマン
寒牡丹一つ開きて顔三つ
初詣母の形見の根付け着け
寒林を駆け込み寺へ老夫婦
風邪の児を抱きたる母も風邪心地
凍て土に犬の滑りて子の笑顔
茹卵挟めばにげるおでん鍋
手を挙げて考のきさうな里の春
句の女神微笑み給へ初句会
煮凝りや去年ありし些事閉じ込めて
着ぶくれて骨と心の細りけり
己がため粥炊く母の小正月
リハビリの折鶴一羽冬ぬくし
熱燗や額の写真へまづ一献
ぎりぎりの命大事と冬薔薇
飛行機雲ひろがる朝や鳥渡る
ならい吹く浜を歩けば旅の人
通学路児らのぞきみる焚火かな
寒村の墓数多く鰤起し
冬オリオン仰ぐ中村医師悼み
我が道と元旦よりの詩を詠み
寒牡丹蕾密かに藁屋中
山茶花の一樹くれなゐの狂乱
短日や句帳開けば夕日おつ
娘と孫のお客のごと来初笑ひ
ガラス越しの陽射しを背中に冬うらら
初暦最後の旅と富士登山
金婚の夫婦寡黙に雑煮餅
玉の春賢者の顔して亀天を
葉がくれに珊瑚のごとき実万両
実千両活けて一と年締めくくる
娘と孫の去りてしづかさ凍りけり
山茶花の咲きしは何時か散り初むる
凩や音は聞こえずケアハウス
荒れる世を覗く藁屋の寒牡丹
まだまだとおのれ励ます帰り花
日当たりの寺園溢るる冬紅葉
寒薔薇白に極むる気魄かな
落ち葉して広き陽だまり鳩雀
初夢の手足かるがる宇宙かな
七草粥九十年余賜りて
枯れ柳祇園女将のお越しやす
年賀状の曾孫の笑顔年ひとつ
翳りくる日を覗き見る寒牡丹
綿菓子に春光を巻き学園祭
冬草を踏みて泥つくスニーカー
予定表に検査日記す松の内
朴の樹の梢に昇る冬北斗
禍ひの口に寒紅のくれなゐ
煩悩の焔どんどんどんど焼き
鴨ねむる千里飛び来し思ひ溜め
仮の世を走り続けて初日の出
見えぬ荷の一つや二つ久女の忌
寒の雨雫の落ちぬ程なれど
手をつなぐ娘に支へられ初詣
いくらでも風に吹かれて枯れ木立つ
ラグビーのやうにはいかぬノーサイド
七種をははと摘みたる昭和かな
ひたすらに走る襷に淑気満つ
残月へ蝋梅の香のふくいくと
振り返り振り返りして冬の虹
大波にをどり現れ初日の出
初御空昭和平成令和生き
初電話白杖の友前向きや
過ぎし日を想ひてをれば初日の出
鳶一羽容れて冬空がらんどう
選者4名(I・K・G・M)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
61. 凍星やラーゲリの書の掌に熱く(5)妙子
・ラーゲリの書とは私には初めての言葉だったので年長の主人に話を聞きました。第二次大戦で日本の兵士60万余がソ連に連行された強制収容所をラーゲリと云ったと聞き敗戦当時を思い、作者も当時を思い句にされた。凍星の季語が適切な表現だと思いました。
<秀句>
86. 釣竿のぴしりと冬の虚空打つ(8)さくら
<佳作>
8. 冬の星学びをすてて継ぐ生家(4)留美子
25. ちやんちやんこ下駄からころとポストまで(5)隆路
28. ねんねこに残る面影考と妣(1) 村山
34. 湯豆腐や鍋の主役の崩れをり(1)Miiko
39. 廃屋と覗けば匠紙を漉く(3) 由斉
50. 修道女銀杏落葉に裳裾引く(2)由斉
77. 教皇の供花や慰霊碑冬日濃し(4)妙子
78. 冬三日月紙で切りたる指疼く(5)村山
101. 介護なく冬風呂に入る老いの幸(2)村山
102. 茶の花や南京錠のかたく錆び(3)村山
K
<特選>
53. 冬夕焼長き影曳き列車行く(3)妙子
・束の間の冬夕焼へ向かって走る列車は長々と影を曳いている。映像にはかない美しさを追う情感までも見える感じがある。言いすぎず読み手に感じさせる佳い御句。
<秀句>
78. 冬三日月紙で切りたる指疼く(5)村山
<佳作>
7. 廃航路決まりしフェリー冬ざるる(6)美知子
19. 柳枯れオフィス街にしなる風(1)由斉
25. ちやんちやんこ下駄からころとポストまで(5)隆路
38. アフガンの地の塩果てつ冬の空(5)妙子
70. 漆椀の艶を重ねし年用意(1)Miiko
91. ねんねこや隣家の母の幼顔(2)村山
96. 小鬼めく逢魔が時の冬の蝶(1)妙子
102. 茶の花や南京錠のかたく錆び(3)村山
104. 実石榴の一喝ありて閻魔堂(1)由斉
<準佳作>
15. バス停に受くる差し傘夕時雨(3)祥
46. 五濁消ゆ井戸の畔の実千両(1)村山
49. 土工等の薬缶でこぼこ焚火の輪(3)隆路
86. 釣竿のぴしりと冬の虚空打つ(8)さくら
G
<特選>
77. 教皇の供花や慰霊碑冬日濃し(4)妙子
・二十年ぶりに日本を訪れた教皇。先ず長崎広島原爆慰霊碑に参拝され犠牲者の霊を慰められた教皇の姿がつぶさに表されています。
<秀句>
7. 廃航路決まりしフェリー冬ざるる(6)美知子
<佳作>
2. 晩学のキャンパスに燃ゆ冬紅葉(3)妙子
15. バス停に受くる差し傘夕時雨(3)祥
33. 冬椿の紅の華やぐ明の窓(1)祥
41. 切り干しの香り懐かしははを恋ふ(1)広斉
51. 沙汰のなき子より青森りんご来る(1)祥
68. 日溜まりによろめき這つて冬の蜂(2)美知子
83. 癒ゆる日を待つ子の寝顔クリスマス(1)留美子
95. 大事なく令和元年暦果つ(2)美知子
<特選>
13. 極月の波に揉まるる詩心(3)留美子
・クリスマスや忘年会そして新年を迎える用意にと慌ただしいく過ぎて行く日々。句心もそんな慌ただしい時の流れに巻き込まれている。
俳人ならではの師走の捉え方である。
<秀句>
60. 啄木の歌みなかなし檸檬噛む(3)美知子
<佳作>
3. 元気かとたばこ屋老爺十二月(2)祥
11. 雪安居恋に破れし友尼僧(3)村山
25. ちやんちやんこ下駄からころとポストまで(5)隆路
40. 終活や一度も着ずに売る毛皮(2)留美子
48. 雲動き冬の日射しを零しけり(2)広斉
78. 冬三日月紙で切りたる指疼く(5)村山
100. 薄暗き紙漉き工房冬に入る(2)由斉
102. 茶の花や南京錠のかたく錆び(3)村山
<互選>
5. 一茎に命吹き込み老菊師(1)
6. 冬夕焼けいつしか消へて黒き船(1)
9. 海の色しづかに変はる冬夕焼(1)
12. 切り株に野良猫集ひ日向ぼこ(1)
21. 隠し事なく晴渡る冬の瀨戸(1)
30. 鳶一つ容れて冬空がらんどう(3)秀
31. 夜景見て冬満月浴びもう寝るか(1)
56. 白菜の大海原に出会ひけり(2)
57. 黄落の幹黒々と大銀杏(1)
75. 核後遺なだめすかして春支度(1)
先生方の気掛かりな点
1. 無季語
4. 捧げ渡せし→捧げて渡す(現在形の形の方が)
6 . 消へて→消えて
10. 嫁を通して→通しぬ(の方がよいのでは)
31 . 中8
35. 無季語
54. 冬霞み→冬霞
69. 無季語
74. 残菊と残しでは重複感がある
99. 寒風と数へ日→季重なり
投句一覧(12月17日)
山寺の空へ散華の大銀杏
晩学のキャンパスに燃ゆ冬紅葉
元気かとたばこ屋老爺十二月
湯浴み児を捧げ渡せし聖夜かな
一茎に命吹き込み老菊師
冬夕焼けいつしか消へて黒き船
廃航路決まりしフェリー冬ざるる
冬の星学びをすてて継ぐ生家
海の色しづかに変はる冬夕焼
控へめな嫁を通して枇杷の花
雪安居恋に破れし友尼僧
切り株に野良猫集ひ日向ぼこ
極月の波に揉まるる詩心
ヒュウヒューと木枯らしの音一人の夜
バス停に受くる差し傘夕時雨
柴漬(ふしづけ)に小魚光る郷小川
山畑の焚火たのしや老二人
冬木立シェパード犬を連れて立つ
柳枯れオフィス街にしなる風
山嶺の空へ吹き散る大銀杏
隠し事なく晴渡る冬の瀨戸
寒蜆の漁船連なる宍道湖畔
また延びてゐる短日の打合せ
石蕗の花崖を強きに首伸して
ちやんちやんこ下駄からころとポストまで
捨て難くロッカー塞ぐミンクコート
早起きの窓に珍客冬の蝶
ねんねこに残る面影考(ちち)と妣(はは)
藤袴アサキマダラのお旅所や
鳶一つ容れて冬空がらんどう
夜景見て冬満月浴びもう寝るか
かう見えて昔は酒豪年忘
冬椿の紅の華やぐ明の窓
湯豆腐や鍋の主役の崩れをり
大銀杏の副木幾本吾も杖に
綿虫や娘にも秘めたる愛ありき
過去を追ふ吾を許さぬ冬夕焼
アフガンの地の塩果てつ冬の空
廃屋と覗けば匠紙を漉く
終活や一度も着ずに売る毛皮
切り干しの香り懐かしははを恋ふ
冬夕焼け旅の次へと湯の香へと
治療終へ家路を急かす時雨かな
雨の降り雨に馴染みて残り菊
白山茶花にほとけの匂ひ女坂
五濁消ゆ井戸の畔の実千両
宍道湖の寒蜆待つ岸辺かな
雲動き冬の日射しを零しけり
土工等の薬缶でこぼこ焚火の輪
修道女銀杏落葉に裳裾引く
沙汰のなき子より青森りんご来る
人参を引き青空を仰ぐ昼
冬夕焼長き影曳き列車行く
奥の院下に母待つ冬霞み
てきぱきとギフト包装クリスマス
白菜の大海原に出会ひけり
黄落の幹黒々と大銀杏
闇汁会闇に掬ひぬ闇の塊
洗い機に人参踊る瀬戸の村
啄木の歌みなかなし檸檬噛む
凍星やラーゲリの書の掌に熱く
ねんねこにははの愛情遥かな日
庭の柿食べ頃と撫ずケアハウス
切り干しのプロも驚く嫁の味
人気なき子らの遊び場寒烏
眠る山覚ましD51力走す
幾たびも震ふ地球や冬の星
日溜まりによろめき這つて冬の蜂
大銀杏拾へば以外葉の小さき
漆椀の艶を重ねし年用意
くれなゐに裏と表や寒薔薇
秋太りの顔丸々と声高し
有名人次から次へ冬スバル
残菊や裏参道に香を残し
核後遺なだめすかして春支度
にこにこの母を囲みてずわい蟹
教皇の供花や慰霊碑冬日濃し
冬三日月紙で切りたる指疼く
響きたる師走の空に第九合唱
吹く風や暗き宇宙の寒の星
屋島嶺へ屋根を伝へば行けさうな秋
柴漬(ふしづけ)を上げる老爺の足もつれ
癒ゆる日を待つ子の寝顔クリスマス
天上へ知人の旅や十二月
瀬戸の闇屋島嶺を呑み鴨を呑み
釣竿のぴしりと冬の虚空打つ
まどかなる瀨戸の山山冬霞み
寒蜆待つ宍道湖や味噌香る
天狼の光の中の亡夫の顔
山茶花の残る一輪庭の風
ねんねこや隣家の母の幼顔
初春や絵手紙講座たのしまん
寒星の燦たる光り吾の明日
花枇杷の大木そこそこ小花の香
大事なく令和元年暦果つ
小鬼めく逢魔が時の冬の蝶
一年の生き様刻む古暦
朝飼まつ窓に鬼の子揺れてをり
寒風のぶつかり合ひて数へ日へ
薄暗き紙漉き工房冬に入る
介護なく冬風呂に入る老いの幸
茶の花や南京錠のかたく錆び
無住寺に石榴口論始まりぬ
実石榴の一喝ありて閻魔堂
炬燵船城堀り巡る松江城
選者4名(I・K・G・M)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
84. 軍歌唄ひ小学校へ息白し(5)村山
・思い出を詠まれた句だと思いました。戦争時代に育った私も、男の子が元気に軍歌を唄い、ランドセルを躍らせながら走っていく姿を懐かしくなりました。「息白し」の季語がよく働いている句だと思います。
<秀句>
88. 屋島嶺に雲一つ浮く秋日和(4)遊
<佳作>
7. 古代墓をあまた抱きて山眠る(5)妙子
12. 草の戸や猪の子の餅に土間灯り(4)村山
17. 組体操いま冬天へ立ち上がる(4) 隆路
34. むかし蔵ここにありけり榠樝の実(2)Miiko
51. 木に吊す目に入む一句小六月(1) 由斉
53. 藪陰に茶花の香りははの影(3)村山
62. 冬満月令和時代を寿ぎて(1)祥
70. トンネルの闇のあと先照紅葉(2)Miiko
92. 金髪に下駄はかせたる案山子かな(4)Miiko
100. 特攻と散りし教え子返り花(3)村山
K
<特選>
69. 霜月の湯舟にきしむ骨の音(5)遊
・ある年齢になれば誰でも経験することですが、この季ならではの冷静さで我が身にも心にも向き合う姿勢がうかがわれる御句です。無駄のない言葉で表現し、ギクッと鳴った時の気持ちのゆらぎ、沁み方までが読み手に伝わります。
<秀句>
100. 特攻と散りし教え子返り花(3)村山
<佳作>
7. 古代墓をあまた抱きて山眠る(5)妙子
9. 湯豆腐や長らふ命模糊として(3)村山
35. 投げ入れし小石の波紋より秋思(2)さくら
44. ペン止めて聞く口笛や長き夜(3)由斉
77. 褒めるには言葉要らざる新酒かな(2)隆路
79. 目瞑れば此の世は秘色日向ぼこ(5)村山
83 枯野行くフェルメールめく耳飾り(2)妙子
96. 秋の昼玩具の鳥を鳴かせみる(2)遊
<準佳作>
16. ベルリンの祈りのリボン冬銀河(5)妙子
70. トンネルの闇のあと先照紅葉(2)Miiko
G
<特選>
2. 令和祝ぐ永久に弥栄鶴来る(3)Miiko
・新しき天皇の即位も無事に終わり年号も令和となり言祝ぐがことに鶴が飛来し永久の弥栄を願う心が如実に表されている。
<秀句>
38. 冬遍路どつと押しかくうどん店(3)祥
<佳作>
9. 湯豆腐や長らふ命模糊として(3)村山
26. 憂きことは風に流せと芒ゆれ(2)遊
52. もののけに足すくわれさう神無月(1)Miiko
61. 便りめく紅葉一片朝の窓(4)妙子
68. おでん屋の屋台漢の本音吐く(4)美知子
83. 枯野行くフェルメールめく耳飾り(2)妙子
87. 銀杏散る黄金を宙に宏高と(1)村山
92. 金髪に下駄はかせたる案山子かな(4)Miiko
<特選>
68. おでん屋の屋台漢の本音吐く(4)美知子
・場所は屋台のおでん屋。心の許せる仲間と肩を並べておでんをつまみにコップ酒を酌み交わしている。接待ではなく自分の為のおでん屋。ついつい愚痴とも言える本音が口をつく。頷いてくれる仲間。中間管理職の悲哀と共にどこかユーモアを感じてしまうのは句の持っている力だろうか。
<秀句>
79. 目瞑れば此の世は秘色日向ぼこ(5)村山
<佳作>
7. 古代墓をあまた抱きて山眠る(5)妙子
16. ベルリンの祈りのリボン冬銀河(5)妙子
49. 朝光に濡れてほどけて枯尾花(1)隆路
50. 揺り椅子に猫と居眠り小六月(3)妙子
61. 便りめく紅葉一片朝の窓(4)妙子
63. 霊宿る古刹の庭の雪椿(5)広斉
69. 霜月の湯舟にきしむ骨の音(5)遊
88. 屋島嶺に雲一つ浮く秋日和(4)遊
<互選>
3. 太陽に朝の含差霜の花(3)秀
4. 高山へケーブルカーの紅葉狩り(2)
6. 晩秋や空うごくかに雲のゆく(3)秀
18. かさかさと天よりの声枯葉散る(1)
19. 蟷螂の正客におり野点席(1)
20. 湯豆腐の崩れやすきを我が身とも(1)
23. 時雨るるや別れのことば言はぬまま(4)秀
24. 冬の蜂よろよろ我を見つめをり(3)
40. 句作りの常に初心と吾亦紅(1)
54. 秋日濃し川の堤の地蔵尊(1)
56. 客の如箒に乗れり冬の蝶(1)
57. 茶の花や等身大がちょうどいい(1)
60. 故郷へ繋がる空の冬めけり(1)
71. 旅先の土間の灯りや猪の子餅(2)
72. 一湾に光閉ぢ込め島小春(4)
73. 四季揺らぎいつ見頃かと紅葉待つ(1)
74. 積雪の富士を眺めて馬刺し肉(1)
76. 寒蘭のか細き香り友星と(1)
78. 刈田へと注ぐ陽射しの柔らかや(1)
80. 潮の風天の日を受け柿甘し(1)
81. 白墨の線路はみだす冬日向(1)
82. 惜しまずに裸の大樹銀杏散る(1)
90. 塀隙間ちらと光るや鼬の目(1)
98. 尉鶲来たりて楽し冬耕す(2)
投句一覧(11月19日)
冷まじやかずら橋とはよく揺るる
令和祝ぐ永久に弥栄鶴来る
太陽に朝の含差霜の花
高山へケーブルカーの紅葉狩り
痛み止め脳の循環凍つ衝撃
晩秋や空うごくかに雲のゆく
古代墓をあまた抱きて山眠る
老眼鏡小さき文字追ふ冬日向
湯豆腐や長らふ命模糊として
林檎の皮上手にむけてもう大人
小春日和又の出会ひを鎌倉路
草の戸や猪の子の餅に土間灯り
落鮎や茶店に呷るコップ酒
反省の愚痴も飛び交ふおでん酒
萩寺の縁に戴くおはぎかな
ベルリンの祈りのリボン冬銀河
組体操いま冬天へ立ち上がる
かさかさと天よりの声枯葉散る
蟷螂の正客におり野点席
湯豆腐の崩れやすきを我が身とも
秋日射す廃校空と海と島
朝日見ゆ命ありきと根深汁
時雨るるや別れのことば言はぬまま
冬の蜂よろよろ我を見つめをり
大門へ銀杏落葉の黄金降る
憂きことは風に流せと芒ゆれ
松茸山縄張りの鈴ご退屈
紅葉も色とりどりに山朗ら
炬燵船城堀巡る島根城
草野球秋刀魚のような投手立つ
朴落葉じやれ合う猫にばさと降る
孫にむく林檎の皮の切れぬよう
赤札とうたふ商店冬夕焼
むかし蔵ここにありけり榠樝の実
投げ入れし小石の波紋より秋思
小春日や誓子の碑より瀬戸の海
河豚汁のねぎの引き立つ祇園街
冬遍路どつと押しかくうどん店
疊替へ心新に夢抱く
句作りの常に初心と吾亦紅
柚子色づく酒盃に浮かべ癒ゆ心
茶の花や白無垢光々城園婚
こつこつと雑事雑用冬灯す
ペン止めて聞く口笛や長き夜
萩くくるゆるし心に支へほし
遠くより秋思の流る風の音
冬日向ひと休みする園ベンチ
片時雨我を濡らして知らぬ顔
朝光に濡れてほどけて枯尾花
揺り椅子に猫と居眠り小六月
木に吊す目に入む一句小六月
もののけに足すくわれさう神無月
藪陰に茶花の香りははの影
秋日濃し川の堤の地蔵尊
母が良き顔して蟹の鍋かこむ
客の如箒に乗れり冬の蝶
茶の花や等身大がちょうどいい
誤字続き悲願と気合ひ竹の春
松葉蟹いつの間にやら高値の花
故郷へ繋がる空の冬めけり
便りめく紅葉一片朝の窓
冬満月令和時代を寿ぎて
霊宿る古刹の庭の雪椿
天高し子供野球の町小園
冬夕焼かげふみじようず女の子
木の実落つ青年進路定まりぬ
救急車止り顔々冬の窓
おでん屋の屋台漢の本音吐く
霜月の湯舟にきしむ骨の音
トンネルの闇のあと先照紅葉
旅先の土間の灯りや猪の子餅
一湾に光閉ぢ込め島小春
四季揺らぎいつ見頃かと紅葉待つ
積雪の富士を眺めて馬刺し肉
銀杏散る長閑な花の昼さがり
寒蘭のか細き香り友星と
褒めるには言葉要らざる新酒かな
刈田へと注ぐ陽射しの柔らかや
目瞑れば此の世は秘色日向ぼこ
潮の風天の日を受け柿甘し
白墨の線路はみだす冬日向
惜しまずに裸の大樹銀杏散る
枯野行くフェルメールめく耳飾り
軍歌唄ひ小学校へ息白し
裾上げし足湯にぎわし小春日や
放置林猪にもそつぽ向かれけり
銀杏散る黄金を宙に宏高と
屋島嶺に雲一つ浮く秋日和
晶子の歌かみしめ見上ぐ銀杏黄葉
塀隙間ちらと光るや鼬の目
永らえし今日を微笑み銀杏散る
金髪に下駄はかせたる案山子かな
剥落の磁気カード目に冬に入る
冬の夜半闇を揺るがす救急車
冬座敷陽気の揺れにも気が動く
秋の昼玩具の鳥を鳴かせみる
湯豆腐や我身の余生薄明かり
尉鶲来たりて楽し冬耕す
香とともに母しのびをり枇杷の花
特攻と散りし教え子返り花
選者4名(I・K・G・M)
句の後ろの数字は選者(特3点, 秀2点, 佳1点)および互選(秀2点, 佳1点)の合計点数
<特選>
84. 台風や氾濫かなし千曲川(3)美知子
・15号、19号と台風が続き、テレビで見ているとつらくなります。藤村は「千曲川旅情の歌」など、少女時代あこがれた頃を思い共鳴しました。自然が早く元に戻りますようにと祈るばかりです。
<秀句>
27. 流されし荒野にかすか雁の声(6)広斉
<佳作>
4. 露の玉ぐるりと景を丸め込む(8)隆路
7. 長き夜を虜にしたる一書かな(12)雅子
33. 真つ直ぐに生きるも難し黄落期(3) 村山
47. 自問して答は見えず蚯蚓鳴く(5)遊
53. 柿好きはわが血筋なり柿を剥く(1) 美知子
69. 椿の実熟れて命の弾けけり(3)由斉
75. 葉隠れに美男葛の紅うれし(3)Miiko
97. 立てる今歩ける今をと秋遍路(3)村山
K
<特選>
1. この先は六道の辻曼珠沙華(9)Miiko
・曼珠沙華は天上に咲く花の名である一方、その美しく妖しい花は有毒で死人花、幽霊花等とも呼ばれ、他の草花とは異なる印象がある。この御句は六道の辻の前に、この花が六道の分かれ目の印のように見えて面白い。季語がたいへん効果的に生きている。
<秀句>
8. 露けしや風化にまかす寺の磴(3)さくら
<佳作>
4. 露の玉ぐるりと景を丸め込む(8)隆路
5. 霧の瀬を轟き落つる水の音(2)妙子
12. 前髪をきれいに揃へ菊日和(2)留美子
27. 流されし荒野にかすか雁の声(6)広斉
42. いづこより薫る木犀朝の露地(4)妙子
46. 浮かびては消ゆる一句や秋の雲(1)留美子
70. 天蓋に五色の紅葉三千院(4)村山
92. 水音を秋の声とも裏参道(3)村山
<準佳作>
35. 神様の前でカラオケ秋祭り(1)三香穂
49. 碧空へ紅葉の心音秋動く(1)亜希子
60. 夕茜に魔女の針とも赤蜻蛉(5)村山
61. 赤のまま井戸の畔りに妣の影(1)村山
85. 生きのびて紅葉の山に溺れけり(2)亜希子
G
<特選>
7. 長き夜を虜にしたる一書かな(12)雅子
・秋である。読書の季節である。ちょうど佳境に入った所であろうか夜の更けるのも忘れて読書に励んでいる姿が眼に浮かぶ。
<秀句>
2. 臥す吾に今立上がる秋の声(6)由斉
<佳作>
9. 夢で会ふ亡き師の笑顔十三夜(2)祥
16. 朝まだき小さき鈴ふる草ひばり(3)妙子
42. いづこより薫る木犀朝の露地(4)妙子
47. 自問して答は見えず蚯蚓鳴く(5)遊
83. 傾ける大樹の先の初紅葉(2)由斉
88. 小流れの波切石に秋の声(2)村山
97. 立てる今歩ける今をと秋遍路(3)村山
98. 黄金色四方に広げて秋祭り(1)由斉
<特選>
7. 長き夜を虜にしたる一書かな(12)雅子
・長い秋の夜一冊の本を手にした途端その面白さに夢中になってしまった。推理小説なのか恋愛小説なのかいづれにせよその一冊の本の虜になってしまったのだ。結末がわかるまではやめられない。ページをめくる音が聞こえてくるような静けさの中から昂りが伝わってくる。
<秀句>
28. 秋祭り大漁旗のひるがへる(4)広斉
<佳作>
1. この先は六道の辻曼珠沙華(9)Miiko
5. 霧の瀬を轟き落つる水の音(2)妙子
16. 朝まだき小さき鈴ふる草ひばり(3)妙子
42. いづこより薫る木犀朝の露地(4)妙子
47. 自問して答は見えず蚯蚓鳴く(5)遊
50. 活けられて風まつやうなすすきかな(2)遊
60. 夕茜に魔女の針とも赤蜻蛉(5)村山
92. 水音を秋の声とも裏参道(3)村山
<互選>
6. 世の五欲遠ざけ寺の萩巡る(1)
10. 言ひ忘れひと言秋の日の別れ(1)
11. 青レモン青春遠き歌となる(1)
19. 一叢であれど花野や高野径(1)
34. 人生の放課後となり銀杏散る(1)
38. ソネットは十四行詩木の実降る(2)
44. 木の実落つ苔の褥へまたひとつ(4)
56. 忌ごころにあまりに眩し秋の天(3)秀
57. 言の葉を銜へ小鳥の来る窓辺(3)
63. 草紅葉かかはりうすきケアハウス(1)
65. 秋天の青さに心とかれけり(2)
68. 蓑虫鳴く九十路の媼ゆらす宵(4)秀
72. 滑石のバッカス佇てる葡萄園(1)
77. 地球今温暖化危機石榴爆づ(3)秀
81.盆の風並木の梢ゆれやまず(2)秀
87. 武者返し秋蝶の影やはらかし(2)
95. 壊れゆく脳に不安や菊の渦(2)秀
投句一覧(10月21日)
この先は六道の辻曼珠沙華
臥す吾に今立上がる秋の声
露の玉ぐるりと景を丸め込む
霧の瀬を轟き落つる水の音
世の五欲遠ざけ寺の萩巡る
長き夜を虜にしたる一書かな
露けしや風化にまかす寺の磴
夢で会ふ亡き師の笑顔十三夜
言ひ忘れひと言秋の日の別れ
青レモン青春遠き歌となる
前髪をきれいに揃へ菊日和
デパ地下の皿盛買ふも秋祭
老木に蔓を預けて烏瓜
溢る川浮かぶ林檎の何語る
朝まだき小さき鈴ふる草ひばり
留守家守る妣の遺影や秋深し
未曾有の豪雨爪跡身に入みぬ
一叢であれど花野や高野径
脚を組み逆さに秋の蝉骸
谷川に紅葉流して天青し
秋の声うたたねの耳くすぐりて
岩肌に磨崖仏見え素秋かな
雲の上黒き竿影雁渡る
蓮の実の飛びたる虚に雨雫
天災を免れ讃岐豊の秋
流されし荒野にかすか雁の声
秋祭り大漁旗のひるがへる
金閣寺天染め上げて大紅葉
睦まじき夫婦の鵜をり浜の夕
短日の雑踏のなか別れけり
仲秋の日差しつかの間野のほとけ
真つ直ぐに生きるも難し黄落期
人生の放課後となり銀杏散る
神様の前でカラオケ秋祭り
忙しき一日を閉づる秋刀魚かな
湧きあがる担ぎて競ふ秋祭
ソネットは十四行詩木の実降る
視野限り碧空深く天高し
台風過安否問ふ先数多なる
百年を生きてみよぞと天高し
いづこより薫る木犀朝の露地
宅地化へ重機の音や刈田跡
木の実落つ苔の褥へまたひとつ
秋深し屋島の銃の今虚ろ
浮かびては消ゆる一句や秋の雲
自問して答は見えず蚯蚓鳴く
一枚のチラシに迷ふ夜長かな
碧空へ紅葉の心音秋動く
活けられて風まつやうなすすきかな
酔ひ覚めに呑む水うまし桔梗揺る
葛橋渡りきりたり風の秋
柿好きはわが血筋なり柿を剥く
美人画展出でしバス停秋澄めり
秋の蚊のよろめきつつもチクリ刺し
忌ごころにあまりに眩し秋の天
言の葉を銜へ小鳥の来る窓辺
長停車窓に入りたる銀杏黄葉
スニーカーの足投げだして秋の空
夕茜に魔女の針とも赤蜻蛉
赤のまま井戸の畔りに妣の影
遊び田に植ゑて三年蜜柑生る
草紅葉かかはりうすきケアハウス
客の如紅葉一枚箒目に
秋天の青さに心とかれけり
しかられて轆轤をまはす秋思かな
ぽきぽきと折れば野が鳴く曼珠沙華
蓑虫鳴く九十路の媼ゆらす宵
椿の実熟れて命の弾けけり
天蓋に五色の紅葉三千院
貰ひ来し通草あんぐり口明けて
滑石のバッカス佇てる葡萄園
残る鴨淋しげなるもむつまじく
世界今痛み晩秋斑雲
葉隠れに美男葛の紅うれし
豊かさやひとりの時の金木犀
地球今温暖化危機爆ぜ石榴
介護士の奇跡とさけぶ虹のはし
菜虫とるてふも保護色なる難儀
朝より夕の紫式部の実
盆の風並木の梢ゆれやまず
雨上がり園児とびだす運動会
傾ける大樹の先の初紅葉
台風や氾濫かなし千曲川
生きのびて紅葉の山に溺れけり
草叢をとび出したくて跳ぶばつた
武者返し秋蝶の影やはらかし
小流れの波切石に秋の声
風立ちて揺るる参道萩の散る
秋の蚊の飄々として吾の腕
案山子訪ふ人の賑やか祖谷の里
水音を秋の声とも裏参道
車椅子揃ひ公園秋日和
出不精の老いも紅葉に引かれけり
壊れゆく脳に不安や菊の渦
花びらの欠けて長らふ野菊かな
立てる今歩ける今をと秋遍路
黄金色四方に広げて秋祭り
小さき字にルーペかかせぬ秋なりき
昼食のうすきカレーや庭紅葉
選者4名(I・K・G・M)
句の後ろの数字は選者および互選の合計点数(特3点,秀2点,佳1点)
<特選>
32. 秋深む予備校寮の窓灯り(6)村山
・この作者も受験生をお持ちでしょうか。親元を離れて予備校に通う若者のことを思いやって頑張れよ、と窓の灯りを見上げながら帰途につく作者の様子が見えて来るようです。
<秀句>
14. 扇置く調べ変るや精気満つ(3)祥
<佳作>
18. 甘えぬまま母は逝きたりおしろい花(5)美知子
35. 岩肌に梵字苔むし秋あかね(2)Miiko
41. 手に包む秋蝶伝へ来る鼓動(3)隆道
49. 草の実や二代を癒す小児科医(2)留美子
59. 残業の我に友あり月見草(4) 広斉
70. 宿題の最後は写生鶏頭花(3)美知子
76. 満月を真上に仰ぎ通夜灯(4)由斉
77. 半額のサンダルを買ふ残暑かな(2)留美子
81. 威し銃鳴らねば淋し峡の村(3)隆路
88. 蔓の先天を掴むや秋深し(3)広斉
<特選>
86. 永らへて顔黄昏るる彼岸花(3)村山
・ほんの短い間に一斉に咲く鮮やかな緋の曼珠沙華と、様々な経験をしつつ永く生きて来た人との対比が際立つ。「顔黄昏るる」で精神的な翳りまでも表現され、人生の深みを感じさせる秀句。
<秀句>
20. みざくろや一語一語を噛みしむる(5)さくら
<佳作>
1. シナリオの無き人生や露の道(8)さくら
13. ペン止めて聞く口笛や秋の宵(3)広斉
25. 身に入むや日々出来ぬ事増え行きて(4)村山
28. 野仏の風化身に入む九十路坂(3)村山
47. 風人の一歩一興蚯蚓鳴く(1)Miiko
64. 浮雲へ秋思の視線定まりぬ(1)さくら
67. 白波の船虫洗ひ岩洗ひ(3)由斉
89. 持て余す風の残骸破れ芭蕉(3)さくら
95. 秋霖や玻璃に映るは吾が目鼻(1)遊
97. 高階の窓に今宵の月満たす(3)由斉
<準佳作>
10. 静かさに慣れて一人居長き夜(3)村山
81. 威し銃鳴らねば淋し峡の村(3)隆路
G
<特選>
1. シナリオの無き人生や露の道(8)さくら
・人生には台本も脚本もなく、何事をするにも自分の力で切り開いていかなければならない。少しでも油断をすれば他人に攫われてしまう。又すぐに消えてしまう露の玉の様な人生がよく表されている。
<秀句>
31. 秋風鈴風遊ばせて主は留守(2)祥
<佳作>
12. 浮雲や広き更地は草紅葉(3)遊
16. 風といふ友だちありて里の萩(2)Miiko
20. みざくろや一語一語を噛みしむる(5)さくら
39. 振り返りたくなき過去や水澄めり(1)さくら
60. 山門へひれ伏すごとく寺の萩(3)Miiko
68. 並木道抜けゆく風や秋来る(1)祥
75. 遠き日の四つ身の着物秋海棠(3)Miiko
89. 持て余す風の残骸破れ芭蕉(3)さくら
<特選>
5. やつちやばの土間の明け方虫一つ(3)隆路
・太陽の上がる前から動き出す青物市場に足を踏み入れると、土間の片隅にいる一匹の虫に気がついた。夜を徹して鳴き続けた虫の一匹であろうか。夜の静寂からこれからの喧騒の時間へと動き出す狭間を詩的に掬いとった一句です。
<秀句>
91. ながらへて以下省略の生身魂(5)村山
<佳作>
10. 静かさに慣れて一人居長き夜(3)村山
22. 百姓に今日が始まる露の空(3)隆路
43. 島渡船白き波たて瀬戸の秋(1)祥
55. 県境の乏しき日差し蕎麦の花(3)隆路
60. 山門へひれ伏すごとく寺の萩(3)Miiko
76. 満月を真上に仰ぎ通夜灯(4)由斉
77. 半額のサンダルを買ふ残暑かな(2)留美子
96. 朴の樹にクライマックス法師蝉(1)美知子
<互選>
4. 草むらのオーケストラや虫すだく(1)
6. 逆さ富士湖に綺羅を秋旱(1)
9. 聴診器とてポキポキ折りて曼珠沙華(3)秀
15. 友去りて揺り椅子微か夜の秋(1)
19. 遠くより秋思の流る笛の音(1)
27. 明けやらず精霊バッタ穂を巡る(1)
34. 異常気象万物迷路秋暑し(1)
38. 何につけ身に入む日々や永らへて(1)
50. 芋の子の箸を嫌ひてつき刺され(2)
51. 秋簾ささくれ立つを猫がじゃれ(1)
65. 秋茄子や日差しは長く奥深く(1)
80. 曼珠沙華毒と言はれし日の遥か(1)
83. 無花果や郷に仏のやうな兄(1)
87.朝一の友のメールや今日の月(1)
92. こつぜんと思惟の隠るる虫時雨(1)
93. 身一つ渓流住家と銀やんま(2)秀
投句一覧(9月18日)
シナリオの無き人生や露の道
竜神の棲むてふ滝の水しずか
講座終へ師の後影秋日傘
草むらのオーケストラや虫すだく
やつちやばの土間の明け方虫一つ
逆さ富士湖に綺羅を秋旱
紙皿に小さきあしがた敬老日
社より秋思を吹ける笛微か
聴診器とてポキポキ折りて曼珠沙華
静かさに慣れて一人居長き夜
ははの下駄じっと見つむる長き夜
浮雲や広き更地は草紅葉
ペン止めて聞く口笛や秋の宵
扇置く調べ変るや精気満つ
友去りて揺り椅子微か夜の秋
風といふ友だちありて里の萩
カーテンを膨らせ入る秋風神
甘えぬまま母は逝きたりおしろい花
遠くより秋思の流る笛の音
みざくろや一語一語を噛みしむる
ひと休み頭上撫ぜゆく秋の風
百姓に今日が始まる露の空
里帰り送る爺婆秋思かな
いわし雲土壇場いつか独壇場
身に入むや日々出来ぬ事増え行きて
脱会の日の珈琲やちちろ鳴く
明けやらず精霊バッタ穂を巡る
野仏の風化身に入む九十路坂
立ち読みて身に入む一語脳よぎる
里に来て身に入む話友星と
秋風鈴風遊ばせて主は留守
秋深む予備校寮の窓灯り
纏はりつく仔猫やんちゃや秋暑し
異常気象万物迷路秋暑し
岩肌に梵字苔むし秋あかね
破蓮豪雨もなんの天を突く
ママチャリやばったも乗り来らんらんらん
何につけ身に入む日々や永らへて
振り返りたくなき過去や水澄めり
なんて子と思ひし吾子が大向日葵
手に包む秋蝶伝へ来る鼓動
高き塀我が物顏に零余子這ふ
島渡船白き波たて瀬戸の秋
床下に羽摺り合はす虫の声
土あれば風と遊べる猫じやらし
風人の一歩一興蚯蚓鳴く
ぱらぱらと雨は霞と橋渡る
草の実や二代を癒す小児科医
芋の子の箸を嫌ひてつき刺され
秋簾ささくれ立つを猫がじゃれ
芋の露コロコロ転げ鬼ごっこ
子守歌夜半の目覚めや秋暑し
貝割れ草鉢植よりの贈り物
県境の乏しき日差し蕎麦の花
門アーチの葡萄一樹に心癒ゆ
妖しさも曼珠沙華の造形美
オリーブの実葉陰に顏を清し朝
残業の我に友あり月見草
山門へひれ伏すごとく寺の萩
紫蘇の葉の紫愛し母したふ
短夜や秒針音なく明日へと
庭たずみ子鳥集ひて朝化粧
浮雲へ秋思の視線定まりぬ
秋茄子や日差しは長く奥深く
残る蚊のいういうと吾を渡るかな
白波の船虫洗ひ岩洗ひ
並木道抜けゆく風や秋来る
何気なくあるく岩下を舟虫散る
宿題の最後は写生鶏頭花
鵜飼船昔愛せし彼の横
通し鴨親の後追ふ山の池
台風来る下枝上下に揺れはじむ
遠き日の四つ身の着物秋海棠
満月を真上に仰ぎ通夜灯
半額のサンダルを買ふ残暑かな
千枚田の畦に炎と曼珠沙華
浮草や流れに添ひて花かざる
曼珠沙華毒と言はれし日の遥か
威し銃鳴らねば淋し峡の村
無花果や郷に仏のやうな兄
一本の紅の冠曼珠沙華
畦道を繁華街にと曼珠沙華
永らへて顔黄昏るる彼岸花
朝一の友のメールや今日の月
蔓の先天を掴むや秋深し
持て余す風の残骸破れ芭蕉
裏山にちらほら色や秋深む
ながらへて以下省略の生身魂
こつぜんと思惟の隠るる虫時雨
身一つ渓流住家と銀やんま
急ぎ行く師の影を追ふ秋時雨
秋霖や玻璃に映るは吾が目鼻
朴の樹にクライマックス法師蝉
高階の窓に今宵の月満たす
選者4名(I・K・G・M)
句の後ろの数字は選者および互選の合計点数(特3点,秀2点,佳1点)
<特選>
105. 蓑虫啼く独りの不安ゆるる宵(6)村山
・最近蓑虫もあまり見なくなったけれど蓑虫が鳴くのかと不思議に思った。古くは清少納言の「枕草子」の時代から云われた言葉で枝にぶら下がって寂しそうな様子が俳人の連想から来た。その季語と気持の表現がぴったりで共鳴しました。
<秀句>
100. なぐさめの言葉にまさる団扇風(8)隆道
<佳作>
10. 桐咲くや遠き人へのひとり言(3)遊
12. 風鈴や音色重なり合ふ出店(2)祥
15. 盆の僧見て来たやうに彼の世説く(4)隆道
19. 新豆腐光る角より崩れけり(4)留美子
47. 木の実落つ第二の人生始まれり(8) 由斉
49. 風鈴やあやされつかれ嬰眠る(4)遊
57. 珍しく空も泣きたり広島忌(2)広斉
65. 滴れる吉野の山の大伽藍(1)美知子
73. 干し梅をつまみ囓りてやんちやな児(1)美知子
81. 鯵干して瀨戸まんだらの風を呼ぶ(1)隆道
90. 元気かと息子のメール青葉木菟(3)村山
97. 住職も襷がけして草を刈る(3)村山
110. はづれ句に愛着のあり鰯雲(3)広斉
<特選>
100. なぐさめの言葉にまさる団扇風(8)隆道
・なんでもない御句ですが、たいへん悲しいとき、また落ち込んでいる時、何も言わず、優しく団扇で風を送ってくれるのが何よりのなぐさめになる時がある。心を動作で表す優しさが伝わってきます。
<秀句>
48. ひた走る大文字の火天を衝く(2)由斉
<佳作>
1. ほとけ彫る石工の背に盆の月(4)隆道
3. 老い松の厚き翼を秋天へ(3)村山
13. 火蛾狂ふ机の上に未完の句(10)由斉
32. 初生りの茘枝仏と分かち合ふ(2)祥
50. 秋扇閉ぢて開きて思ひごと(2)留美子
62. 心意気揃ひ弾ける踊連(2)雅子
72. 疎開てふ言の葉遥か花南瓜(4)村山
78. 蝉時雨指揮棒下りるかにラスト(3)留美子
105. 蓑虫啼く独りの不安ゆるる宵(6)村山
G
<特選>
44. 校門を閉ざす鉄扉やカンナの緋(7)さくら
・夏休み誰もいない校舎、固く閉ざされた鉄扉の校門にカンナの花があざやかに咲いて人をなごませている光景が眼に浮かぶ様である。
<秀句>
13. 火蛾狂ふ机の上に未完の句(10)由斉
<佳作>
4. かりゆしの背のたくましき薄暑かな(2)Miiko
22. ネオンの灯遥かに蛙呼び合へり(2)由斉
32. 初生りの茘枝仏と分かち合ふ(2)祥
68. 残光を惜しみくきくき秋津群れ(3)村山
74. 一筋の風疑はず今朝の秋(2)由斉
83. 廃校の大樹に蝉の大合唱(1)広斉
86. 自販機やアイスコーヒー音を吐く(1)祥
107. 余韻なほ天に炎の大文字(2)広斉
<特選>
19. 新豆腐光る角より崩れけり(4)留美子
・収穫されたばかりの新大豆で作った新豆腐は甘い風味があってとても美味しい。
水底に沈められた新豆腐を掌で掬いあげた時であろうか。又は皿に盛られた新豆腐なのであろうか。
白く輝く光の角が崩れたのである。崩したのか崩れたのか。いずれにせよ確かな実感となって伝わってくる。
<秀句>
13. 火蛾狂ふ机の上に未完の句(10)由斉
<佳作>
7. 絵手紙に添へる一言牽牛花(1)祥
15. 盆の僧見て来たやうに彼の世説く(4)隆道
47. 木の実落つ第二の人生始まれり(2)由斉
49. 風鈴やあやされつかれ嬰眠る(4)遊
74. 一筋の風疑はず今朝の秋(2)由斉
78. 蝉時雨指揮棒下りるかにラスト(3)留美子
92. あけやらぬ空へ孤高の白蓮(4)村山
105. 蓑虫啼く独りの不安ゆるる宵(6)村山
<互選>
2. ながらへし苦労話や盆の客(3)
14. 叩きみて納得三個目の西瓜(1)
17. 初秋や一筆箋のインク青(1)
23. 手招きに過客の吾も踊り人(1)
24. 鼓動めく光りと熱や瀨戸の秋(1)
26. 青梅や頼り甲斐ある父の肩(2)
28. グラジオラス一千本の大合唱(2)秀
29. ほのと香をこぼして過ぐる秋日傘(1)
30. 湯の街のそろひの浴衣ハイヒール(1)
31. 夏日燦大縄跳びに引つかかり(1)
34. やや泣けば皆手を出すも盆休み(3)
36. 喝采の野外ライブや蝉時雨(2)秀
37. カンナ燃ゆ鄙びた駅に降り立ちぬ(1)
42. 良き形と期待の瓢風浚ふ(1)
45. 夢醒めて濁世のわれに盆の月(1)
51. 女坂くの字に曲がり秋暑し(1)
52. くびること忘れ地に着く長瓢箪(1)
58. 風に寄せ白雲に寄せ秋心(1)
60. 仏桑花真つ赤を広め老いに活(1)
61. 風に色山路案内の夕黄菅(2)秀
63. 一山を裂いて梅雨滝どど、どどと(2)
64. 夕立に出会ひ清しき夜を迎ふ(1)
66. 海水浴一番のりは猿の群れ(1)
71. 風吹いてきなこ飛び行く心太(1)
75. 故郷の夕日の色や枇杷届く(1)
79. 雨粒のダイヤ真珠や七変化(1)
80. 峡谷の波切石に秋の声(1)
82. 被爆者の著作輪読原爆記(2)秀
87. 朝風や植田は水の小宇宙(1)
91. 終戦忌燃えぬ芥を山積みに(1)
93. AI俳句老いの昼寝に愛の鞭(2)
94. 水甁の銭亀動き雲揺るる(1)
98. 蜉蝣や十九で散りし特攻兵(2)秀
99. 飛石の影に梅雨茸下駄の音(1)
103. 今生の鳴らんばかりの秋朝日(1)
104. 客のごと紅葉一枚石庭に(1)
108. 岩つたふ水音耳に素麺流し(1)
投句一覧(8月19日)
ほとけ彫る石工の背に盆の月
ながらへし苦労話や盆の客
老い松の厚き翼を秋天へ
かりゆしの背のたくましき薄暑かな
三日三夜踊り痴れたる朝の寂
のびきつたゴム紐となる夏の猫
絵手紙に添へる一言牽牛花
秋暑しひとふんばりの台所
なんとまあ箱入西瓜四角なり
桐咲くや遠き人へのひとり言
雨を待つ寺の紫陽花拝みけり
風鈴や音色重なり合ふ出店
火蛾狂ふ机の上に未完の句
叩きみて納得三個目の西瓜
盆の僧見て来たやうに彼の世説く
盆の僧上背高き四代目
初秋や一筆箋のインク青
かけ抜けし夕立にむせるビル谷間
新豆腐光る角より崩れけり
帰省子や先ずは茶漬けと糠探る
敗戦日遺影の叔父は水兵さん
ネオンの灯遥かに蛙呼び合へり
手招きに過客の吾も踊り人
鼓動めく光りと熱や瀨戸の秋
朝風や植田の水の小宇宙
青梅や頼り甲斐ある父の肩
手折りたく後ろ髪ひく釣鐘草
グラジオラス一千本の大合唱
ほのと香をこぼして過ぐる秋日傘
湯の街のそろひの浴衣ハイヒール
夏日燦大縄跳びに引つかかり
初生りの茘枝仏と分かち合ふ
大文字待つ加茂川原初の恋
やや泣けば皆手を出すも盆休み
夕顔や夫と二人の家なりし
喝采の野外ライブや蝉時雨
カンナ燃ゆ鄙びた駅に降り立ちぬ
盆休み降り立つ駅に父の影
魔法かと細き蔓より大瓢箪
八月や獅子唐赤く吾が命
独り身の息子帰らず夏水仙
良き形と期待の瓢風浚ふ
天を衝く勢ひ踊りの心意気
校門を閉ざす鉄扉やカンナの緋
夢醒めて濁世のわれに盆の月
窓風や茘枝葉薫り部屋清し
木の実落つ第二の人生始まれり
ひた走る大文字の火天を衝く
風鈴やあやされつかれ嬰眠る
秋扇閉ぢて開きて思ひごと
女坂くの字に曲がり秋暑し
くびること忘れ地に着く長瓢箪
法師蝉鳴かせて杜の異空間
お彼岸や妣の数珠手に寺参り
よき詩生れ喉元すべる心太
登山口「地の涯」といふ山ホテル
珍しく空も泣きたり広島忌
風に寄せ白雲に寄せ秋心
はじまりは音一点の蝉時雨
仏桑花真つ赤を広め老いに活
風に色山路案内の夕黄菅
心意気揃ひ弾ける踊連
一山を裂いて梅雨滝どど、どどと
夕立に出会ひ清しき夜を迎ふ
滴れる吉野の山の大伽藍
海水浴一番のりは猿の群れ
人住まぬ長屋の路地や鳳仙花
残光を惜しみくきくき秋津舞ふ
庭青葉卒寿の膝に嬰乗せる
また一つ友の席空く花蓮
風吹いてきなこ飛び行く心太
疎開てふ言の葉遥か花南瓜
干し梅をつまみ囓りてやんちやな児
一筋の風疑はず今朝の秋
故郷の夕日の色や枇杷届く
極暑来る捩れ戻らぬセロテープ
白木槿落花きれいに縒りをかけ
蝉時雨指揮棒下りるかにラスト
雨粒のダイヤ真珠や七変化
峡谷の波切石に秋の声
鯵干して瀨戸まんだらの風を呼ぶ
被爆者の著作輪読原爆記
廃校の大樹に蝉の大合唱
夏蝶や止まり木求む九十路坂
登山部の乙女逞しお花畑
自販機やアイスコーヒー音を吐く
朝風や植田は水の小宇宙
佇むや蓮花のポンと和ぐ心
湖澄む風に宴なき葉月かな
元気かと息子のメール青葉木菟
終戦忌燃えぬ芥を山積みに
あけやらぬ空へ孤高の白蓮
AI俳句老いの昼寝に愛の鞭
水甁の銭亀動き雲揺るる
俳徒一心四葩の色に染まりては
傷む身の睡眠剤に過ぐ葉月
住職も襷がけして草を刈る
蜉蝣や十九で散りし特攻兵
飛石の影に梅雨茸下駄の音
なぐさめの言葉にまさる団扇風
犬寄りき祖母待つ山家夏休み
蝉時雨絶え絶えに聴く雨模様
今生の鳴らんばかりの秋朝日
客のごと紅葉一枚石庭に
蓑虫啼く独りの不安ゆるる宵
初蓮華ながらふ煩悩捧げたし
余韻なほ天に炎の大文字
岩つたふ水音耳に素麺流し
明日合ふ友のいる幸老いの秋
はづれ句に愛着のあり鰯雲
選者4名(I・K・G・M)
句の後ろの数字は選者および互選の合計点数(特3点,秀2点,佳1点)
<特選>
43. 海紅豆島の夕日の濃かりけり(3)Miiko
・海紅豆の大きな木に花が一杯咲いているのを東京夢の島を吟行した時に、真紅の彩が印象的でした。島の夕日の濃いのと、花の彩が響き合って佳い句だと思います。
<秀句>
33. 夏草や城址かをる律の風(4)村山
<佳作>
24. 早や声を立てて笑ふ児桃の花(1)隆道
25. 万緑を割る一川や魚光る(3)由斉
26. 甲板に大パノラマや航涼し(3)雅子
39. 渋団扇あおげば昭和の風が来る(4)隆道
58. 高跳びの棒突き放す雲の峰(8) 隆道
67. 梅雨曇り五体の痛む老いの日々(3) 村山
71. 透き通る小川にめだか追ひし日よ(2)村山
84. 蛍火に誘はれ友を見失ふ(1)由斉
87. 草笛を吹いて逝きたる兄偲ぶ(4)広斉
97. 思考止り苛立つ一夜守宮の目(1)広斉
104. 夜濯に今日の憂きこと流しけり(2)雅子
108. なに思ふ引き返す蟻大急ぎ(1)悠姫
<特選>
58. 高跳びの棒突き放す雲の峰(8)隆道
・季語の雲の峰が良いですね。棒高跳びの棒を放す一瞬の感覚がリアルに伝わり、季語と相俟って、若々しく夏ならではの秀句になっています。
<秀句>
18. 海鳴りや崖を掴みて黒き百合(4)村山
<佳作>
5. 夏草や水面は見えず水の音(2)雅子
11. 緑陰にセールスマンの一眠り(2)広斉
27. 一瞬に遺品となりしサングラス(4)村山
31. 梅雨闇や診療室の奥の黙(4)留美子
39. 渋団扇あおげば昭和の風が来る(4)隆路
55. 白南風やサンダルを手に砂を蹴る(1)美知子
85. 風鈴や夕陽に染まる厨窓(4)祥
94. 白桃を剥いて夜空をしたたらす(2)隆道
<準佳作>
15. 七夕や宇宙旅行の夢ゆるる(2)悠姫
57. 卯の花や涙を溜める道祖神(2)由斉
110. 舌長く吐く息荒し夏の犬(1)由斉
G
<特選>
36. 汗光る十秒の壁アスリート(4)美知子
・百米十秒をきる公式新記録を世界のアスリート達が競い合っているがなかなか破れない。オリンピックに向かって十秒の壁を破るべく日々努力を重ねている姿が如実に現われている。
<秀句>
26. 甲板に大パノラマや航涼し(3)雅子
<佳作>
1. 夏枯れの幹どっしりと大師の池(2)由斉
5. 夏草や水面は見えず水の音(2)雅子
10. 獣道なりとて可憐草の花(1)由斉
41. 空蝉の気魂脱がざる爪の先(1)さくら
47. 薫風や湖面に綺羅を逆さ富士(3)村山
49. 一匹はリズムはずれに啼く蛙(2)広斉
62. 水たまりけとばすをさな梅雨晴間(1)留美子
65. 卯の花や山の庵に尼の影(1)広斉
76. 旱梅雨池を見下す男の背(2)遊
95. さるものは追はず未来へ更衣(2)広斉
104. 夜濯に今日の憂きこと流しけり(2)雅子
<特選>
2. 釣舟や瀨戸の真夏を曳いて行く(5)Miiko
・小さな釣舟が真夏という大きな力を曳いて行くとは言い得て妙。一湾の風景が絵画の様に描かれている。
<秀句>
45. 朝風や植田は水の小宇宙(3)遊
<佳作>
31. 梅雨闇や診療室の奥の黙(4)留美子
51. 夏帽のひよいと石段飛びにけり(1)留美子
54. 桃食ぶる愚痴の滴垂る午後三時(5)村山
58. 高跳びの棒突き放す雲の峰(8)隆道
76. 旱梅雨池を見下す男の背(2)遊
83. 夏蝶や父母の名記す母子手帳(1)留美子
85. 風鈴や夕陽に染まる厨窓(4)祥
105. 恙なき日々にも不安梅雨の入り(2)由斉
<互選>
4. 梅雨の犬眉のあたりが哲学者(3)
7. 空蝉の虚を埋めゆく杜の風(5)秀
8. 桐咲くや遠き人へのひとり言(4)秀
13. 意識なき夫へ必死の団扇風(1)
14. 霧のでて日光きすげ滲みけり(1)
17. 暑き日や下校兒童の日の匂ひ(1)
19. 夏草や畦道急ぐ赤き杖(2)
20. 鬼々の世を丸く丸くと濃紫陽花(2)
22. 逢へるはず逢へぬ不安の汗となる(2)秀
40. 夏萩や古刹の庭に紅の塵(1)
42. 緑陰に赤いリボンの一輪車(1)
44. 野石菖小流れの水かがやけり(1)
50. 酷暑急メルトダウンの老いの坂(1)
60. 清清し空気生まるる植田かな(1)
64. 旭日旗掲げイージス夏制す(1)
66. 烈しき時代母にもありて凌霄花(1)
70. 破るまじ結界蜘蛛の糸光る(1)
74. 苦瓜の蔓の迷ひや乱る宙(1)
78. 結願寺納むる杖に夏の風(1)
81. 優しさは消えぬ遺産とほととぎす(1)
86. 夏椿しづくを引きて落ちる明け(1)
93. 夏雷にしがみつきたる腕白兒(1)
106. 街騒の真中すつぽり蝉時雨(2)秀
109. 核後遺の視力に悩む梅雨曇(2)
投句一覧(7月16日)
夏枯れの幹どつしりと大師の池
釣舟や瀨戸の真夏を曳いて行く
宮の森犬と茅の輪をくぐりけり
梅雨の犬眉のあたりが哲学者
夏草や水面は見えず水の音
額の花亡夫好みの藍に染む
空蝉の虚を埋めゆく杜の風
桐咲くや遠き人へのひとり言
梅雨晴やベランダ先の車椅子
獣道なりとて可憐草の花
緑陰にセールスマンの一眠り
おじぎそう吾にお帰り里の径
意識なき夫へ必死の団扇風
霧のでて日光きすげ滲みけり
七夕や宇宙旅行の夢ゆるる
日盛りや土にまみれし鍵遠目
暑き日や下校兒童の日の匂ひ
海鳴りや崖を掴みて黒き百合
夏草や畦道急ぐ赤き杖
鬼々の世を丸く丸くと濃紫陽花
千尋なる海のまほろば蜻蛉舞ふ
逢へるはず逢へぬ不安の汗となる
鐘音を毬に沈めて七変化
早や声を立てて笑ふ児桃の花
万緑を割る一川や魚光る
甲板に大パノラマや航涼し
一瞬に遺品となりしサングラス
夏草や物の際より生え初むる
狂ひ蛾の駆け込み寺に迷ひ込み
雨だれにははの声聴く半夏生
梅雨闇や診療室の奥の黙
綿菅の穂先の揺れに胸騒ぐ
夏草や城址かをる律の風
朝顔や深夜のラジオ童唄
夕菅や薫りの誘ふ愛の時
汗光る十秒の壁アスリート
真つ青な夏葱育つ讃岐潮
卯の花や山野おちこち泡の雲
渋団扇あおげば昭和の風が来る
夏萩や古刹の庭に紅の塵
空蝉の気魂脱がざる爪の先
緑陰に赤いリボンの一輪車
海紅豆島の夕日の濃かりけり
野石菖小流れの水かがやけり
朝風や植田は水の小宇宙
潮光る胸の小踊る海開き
薫風や湖面に綺羅を逆さ富士
甲板に驟雨過ぎたる風涼し
一匹はリズムはずれに啼く蛙
酷暑急メルトダウンの老いの坂
夏帽のひよいと石段飛びにけり
河鹿啼く久しき友と佇みて
いかづちや朝刊を待つバイク音
桃食ぶる愚痴の滴垂る午後三時
白南風やサンダルを手に砂を蹴る
朝顔や秘めしその色好きな藍
卯の花や涙を溜める道祖神
高跳びの棒突き放す雲の峰
夕立に叩かれ耐ゆる苑浮き葉
清清し空気生まるる植田かな
逆さ富士横切るボート藪睨み
水たまりけとばすをさな梅雨晴間
免れぬ命の末期流れ星
旭日旗掲げイージス夏制す
卯の花や山の庵に尼の影
烈しき時代母にもありて凌霄花
梅雨曇り五体の痛む老いの日々
朝虹や災害地へと山男
渡し舟眠る棹先赤蜻蛉
破るまじ結界蜘蛛の糸光る
透き通る小川にめだか追ひし日よ
夏草に繭を残して消ゆる虫
泡ひとつ金魚の吐息なりしかな
苦瓜の蔓の迷ひや乱る宙
若葉下すがしき風の通り道
旱梅雨池を見下す男の背
夏夕焼け港に白き豪華船
結願寺納むる杖に夏の風
冷ややかに昔を語る博物館
優しさは消えぬ遺産とほととぎす
蜘蛛の巣にたじろぎつつの庭掃除
夏蝶や父母の名記す母子手帳
蛍火に誘はれ友を見失ふ
風鈴や夕陽に染まる厨窓
夏椿しづくを引きて落ちる明け
草笛を吹いて逝きたる兄偲ぶ
若き日の夫真つ直ぐやアカンサス
稚児眠り吾の時間とスマホ打つ
山の畑茄子の笑ひて鳥の群
夏帽子リボン水色恋初めし
夏雷にしがみつきたる腕白兒
白桃を剥いて夜空をしたたらす
さるものは追はず未来へ更衣
夏草や塗装剥がれしガードレール
思考止り苛立つ一夜守宮の目
鐶抜けば瀑布のやうな恵み水
スリッパを脱ぎてすつきり夏足裏
でで虫やそこは日あたる寺の塀
行列の蟻黒々と羽一片
万緑や山野をたたく雨と風
夏夕陽空一面を紅に
夜濯に今日の憂きこと流しけり
恙なき日々にも不安梅雨の入り
街騒の真中すつぽり蝉時雨
病葉の沈む蹲踞なまぬるき
なに思ふ引き返す蟻大急ぎ
核後遺の視力に悩む梅雨曇
舌長く吐く息荒し夏の犬
選者4名(I・K・G・M)
句の後ろの数字は選者および互選の合計点数(特3点,秀2点,佳1点)
<特選>
71. 闇と息合はせ魚信を待つ夜釣(6)さくら
・夜釣の場所は海でしょうか、川でしょうか。闇と息合わせの表現が良かったです。夜釣の経験は私はないのですが、魚信の手応えがあった瞬間のうれしさ等想像の広がる楽しい作品でした。
<秀句>
66. 孑孑が浮いて令和の世を覗く(6)隆路
<佳作>
2. 子つばめの朝のざわめき通学路(5)祥
10. 緑蔭や異国の人の乳母車(4)Miiko
22. 夏草や一日のばしの古書整理(4)留美子
35. 衣更歳時記カバー新しく(4)祥
45. 老いてなほ深入り癖の梅雨の底(3) 村山
49. 手擦れたる青春の書や朴若葉(5) 美知子
76. 雨を受けオリーブの実のすくすくと(2)由斉
94. 屋島嶺にピンクのベール夏夜明(5)由斉
103. 無住寺のしづかな庭の新茶摘む(3)広斉
106. 天の夫恋へば睡蓮かうべ振る(3)村山
108. 薫風や新任医師の両笑くぼ(7)村山
<特選>
50. 月下美人白炎となりて夜を尽くす(7)祥
・月下美人の句はよくありますが、あの白い花を炎と見た句はあまりないのではと思います。発想が良いので頂きました。
<秀句>
71. 闇と息合はせ魚信を待つ夜釣(6)さくら
<佳作>
17. ひらかれしままのバイエル夕立来る(5)隆路
25. 軽鳧の子の群抜け走る好奇心(3)雅子
33. 空きビルを雁字搦めに夏の蔓(4)村山
48. 皇后の笑みに植樹のみどり立つ(5)村山
66. 孑孑が浮いて令和の世を覗く(6)隆路
70. 犬乗せし手押車に日からかさ(2)雅子
85. 一灯の虚空に滲む夜釣舟(7)さくら
89. 家計簿に遺る母の字鴨足草(1)美知子
<準佳作>
1. 黒南風の捲る葉裏の白さかな(4)さくら
22. 夏草や一日のばしの古書整理(4)留美子
44. いつせいにたたむ日傘や柩出る(5)隆道
57. みどり中甌穴の泡るると光る(2) 村山
108. 薫風や新任医師の両笑くぼ(7) 村山
G
<特選>
48. 皇后の笑みに植樹のみどり立つ(5)村山
・全国植樹祭の皇后様のお姿であろう真っ白な手袋にショベルを持ちにこやかに植樹された皇后様の姿が眼に浮かぶようである。
<秀句>
25. 軽鳧の子の群抜け走る好奇心(3)雅子
<佳作>
2. 子つばめの朝のざわめき通学路(5)祥
28. 一匹の蝿女子寮に乱入す(1)さくら
33. 空きビルを雁字搦めに夏の蔓(4)村山
52. 皺の手に血圧計や梅雨ぐもり(3)遊
72. 片陰り選りて歩けり一万歩(2)由斉
80. ビル狭間の一枚の田に蛙鳴く(4)広斉
94. 屋島嶺にピンクのベール夏夜明(5)由斉
108. 薫風や新任医師の両笑くぼ(7)村山
<特選>
44. いつせいにたたむ日傘や柩出る(5)隆道
・一読して情景が浮かぶ歯切れの良い句である。日傘をたたむ音の数々、柩を見送る人々の姿が巧みに切り取られている。
<秀句>
50. 月下美人白炎となりて夜を尽くす(7)祥
<佳作>
6. 黒南風や人魚伝説残る村(3)美知子
17. ひらかれしままのバイエル夕立来る(5)隆道
22. 夏草や一日のばしの古書整理(4)留美子
23. 柿の花落ち尽くすかと風に聞く(5)村山
49. 手擦れたる青春の書や朴若葉(5)美知子
66. 孑孑が浮いて令和の世を覗く(6)隆道
73. 梅雨寒や猫がまた乗る夫の膝(4)美知子
74. 車椅子押す夫の顔汗光る(3)由斉
<互選>
4. 大鳴門夏の大潮船回す(1)
8. 子燕の羽搏く空の無限かな(1)
12. 袋取る香りと色を枇杷の鈴(1)
13. ひらと揺れ芍薬崩る今朝の風(1)
18. 西暦で生きてゆきます夏薊(1)
21. 潮を浴び幼子夢中遠き日よ(1)
26. 風鈴の音に目覚めたり明けの六つ(1)
29. 咲くは天使散るは吾が息薔薇の花(2)秀
42. 集ひ居て心さまざま七変化(1)
54. 一山にかかる紙四手五月闇(1)
55. 梅の実の一つぽとりと雨続く(1)
59. 枇杷熟るる隣りの婆の寝込み入る(2)秀
61. 草なぞへ心もとなき梅雨の道(2)
68. ゆる抜きといふ放水の瀑布かな(2)
69. 越して来し庭に枇杷の香溢れたり(1)
88. 百本の脚を無駄なく百足這ふ(2)
93. 昼寝覚め此の世しばらく夢うつつ(2)
95. 塀の上空彩りて枇杷ゆるる(1)
96. 足音を聞き分けてゐる闇新樹(1)
99. 両手つき見上ぐ蛙と目の合へり(3)
100. 滴れる光る狭庭の清き風(3)
104. 息長き子の縄跳びや夏日燦(1)
投句一覧(6月18日)
黒南風の捲る葉裏の白さかな
子つばめの朝のざわめき通学路
葉の蔭に力を溜めて梅は實に
大鳴門夏の大潮船回す
卯月曇りリセットしたき二十年
黒南風や人魚伝説残る村
若竹やぐんぐん進む床工事
子燕の羽搏く空の無限かな
ベランダは吾の菜園蝶の舞ふ
緑蔭や異国の人の乳母車
菖蒲園めぐりて憩ふお茶処
袋取る香りと色を枇杷の鈴
ひらと揺れ芍薬崩る今朝の風
葉柳の遣らずの雨に川面撫づ
雨の止み止めおく車更衣
多災の世我に友あり柿の花
ひらかれしままのバイエル夕立来る
西暦で生きてゆきます夏薊
柿の花揺れる此の世も友多し
すさまじき都市の変貌薄暑かな
潮を浴び幼子夢中遠き日よ
夏草や一日のばしの古書整理
柿の花落ち尽くすかと風に聞く
梅漬けぬ世代となりぬ庭の梅
軽鳧の子の群抜け走る好奇心
風鈴の音に目覚めたり明けの六つ
木の実落つ令和の現世始まりぬ
一匹の蝿女子寮に乱入す
咲くは天使散るは吾が息薔薇の花
雷鳴に走行車中ざわめきぬ
柚子の花香る狭庭に鳥集ひ
半年の命育む枇杷甘し
空きビルを雁字搦めに夏の蔓
寅さんになりきって夫バナナ剥く
衣更歳時記カバー新しく
草の花身分わきまへ畦飾る
梅雨寒や年に一度の歯科受診
息つめてはつしと一打蠅を打つ
晴れ漢梅雨も遠のく旅立つ日
親の実の落ちて梅雨時子の実生る
放埓に夏日さんさん瀬戸の海
集ひ居て心さまざま七変化
母の日や聞き流しつつする話
いつせいにたたむ日傘や柩出る
老いてなほ深入り癖の梅雨の底
待ちわびた緑を叩く霖(ながあめ)かな
夏蝶におとがめなしの桜田門
皇后の笑みに植樹のみどり立つ
手擦れたる青春の書や朴若葉
月下美人白炎となりて夜を尽くす
紫陽花に身内しつとり潤さる
皺の手に血圧計や梅雨ぐもり
永らへて青き目赤き目七変化
一山にかかる紙四手五月闇
梅の実の一つぽとりと雨続く
雨模様紫陽花嬉々と彩放つ
みどり中甌穴の泡るると光る
夏草や一行読みて詠む至福
枇杷熟るる隣りの婆の寝込み入る
十薬を刈りて干しゐし祖母の手や
草なぞへ心もとなき梅雨の道
芍薬の窓辺誇りて紅解く
緑濃き大き葉陰に実の覗く
赤とんぼ羽伏せとまる草の先
切り株の命惜しみて緑吹く
孑孑が浮いて令和の世を覗く
パトサイレン過ぎて無言の夏の夜半
ゆる抜きといふ放水の瀑布かな
越して来し庭に枇杷の香溢れたり
犬乗せし手押車に日からかさ
闇と息合はせ魚信を待つ夜釣
片陰り選りて歩けり一万歩
梅雨寒や猫がまた乗る夫の膝
車椅子押す夫の顔汗光る
風鈴や日陰より来る風の緑
雨を受けオリーブの実のすくすくと
梅雨晴間庭の水滴きらめけり
風鈴や固結び解く姉妹
今朝の庭鳥の集ひ来枇杷つつく
ビル狭間の一枚の田に蛙鳴く
霖雨待つ古刹紫陽花黄昏るる
雨上りて朝の人波青葉照る
腰痛む身動きならず梅雨近し
仰天す読む本の上守宮落ち
一灯の虚空に滲む夜釣舟
庭になる初枇杷甘く香る日々
潮浴びて岩艶やかに虫すべる
百本の脚を無駄なく百足這ふ
家計簿に遺る母の字鴨足草
日を返し銭荷影置く水の面
老いの日々美味食求め穀象虫
潮浴びし嘗ての磯は防波堤
昼寝覚め此の世しばらく夢うつつ
屋島嶺にピンクのベール夏夜明
塀の上空彩りて枇杷ゆるる
足音を聞き分けてゐる闇新樹
仏飯のきれいに盛られ立夏かな
ビル街のかりゆし映ゆる薄暑かな
両手つき見上ぐ蛙と目の合へり
滴れる光る狭庭の清き風
卓上に初捥ぎ枇杷を五個盛りて
夜来の雨に山野の青葉意気高し
無住寺のしづかな庭の新茶摘む
息長き子の縄跳びや夏日燦
百寿なんぞ燃ゆるばかりの夏朝日
天の夫恋へば睡蓮かうべ振る
草の花何処も己が自衛権
薫風や新任医師の両笑くぼ
選者4名(I・K・G・M)
句の後ろの数字は選者および互選の合計点数(特3点,秀2点,佳1点)
<特選>
33. からだごと笑ふ乙女の立夏かな(9) 隆路
・この作品を見てすぐに思い出したのが西東三鬼の「おそるべき君等の乳房夏来る」の句でした。テレビでも、学校帰りの若い子は本当によく笑います。健全に育っていく乙女の将来がたのしみな句です。
<秀句>
10. わすれなぐさ散りたる人は少年兵(3)村山
<佳作>
21. 庭育ち遺影の前の夏蜜柑(2)祥
23. 門川の速き流れや田植時(3)雅子
43. 好奇心駆け出して行く夏帽子(6)雅子
54. 園児送りげんげ田に坐す主婦三人(3)村山
56. 花みかん香る浜風豪華船(5) 広斉
85. 母の日も常と変はらぬわが暮し(2) 美知子
94. 少年の如く真つ直ぐ今年竹(1)美知子
104. ミルク飲む朝の囀り聴きながら(1) 美知子
<特選>
65. 若竹や太古に還る空の青(6)遊
・若竹の真っ直ぐ伸びた姿はそれだけで気持ちのよいものですが、太古の空を感じられたのはスケールが大きく更に深みが加わりました。
<秀句>
5. 特攻くづれ卒寿を生きて麦を刈る(6)隆路
<佳作>
15. 四世代は生きた家系図蜆汁(2)留美子
33. からだごと笑ふ乙女の立夏かな(9)隆路
63. 若葉風がぶりと呑んで鯉沈む(1)隆路
64. 朝影の掬ぶむらさき花楝(2)さくら
73. 梅雨めくや路地行く人の声重し(1)祥
80. 母の日や「元気」かの声子も老いて(1)村山
89. 夜ざくらを顎尖らせて仰ぎけり(2)隆路
92. 令和日和風に乗り行く巣立ち鳥(2)村山
<準佳作>
6. 朝市を巡るや汗の旅衣(1)さくら
31. 詠み疲れ緑陰に吾が影を脱ぐ(2)広斉
84. 夏蝶来る昨日の吾を恋ふ如く(1)広斉
105. 夏草や天に命を預けたる(2) 由斉
108. 麦秋やゴッホも画さしこの光(5) 美知子
G
<特選>
9. 翠巒を映す山湖や夏燕(5)雅子
・広大な緑に染め上げられた連山を山湖があふれんばかりに映し出している。夏燕が一羽二羽水面すれすれに飛び交う姿が眼に浮かんでくる。
<秀句>
100. 春風駘蕩令和の夕陽天染める(2)由斉
<佳作>
15. 四世代は生きた家系図蜆汁(2)留美子
31. 詠み疲れ緑陰に吾が影を脱ぐ(2)広斉
39. 揺りゆるる海月の透明九十路坂(4)村山
43. 好奇心駆け出して行く夏帽子(6)雅子
48. 世の色に染まぬ古刹の白牡丹(3)広斉
61. 人の世めき離合集散花筏(2)Miiko
76. 花満開令和世紀の一行目(3)由斉
92. 令和日和風に乗り行く巣立ち鳥(2)村山
<特選>
58. パン焼けしパン屋の軒に燕の巣(3)遊
・甘く香ばしい匂いが漂うパン屋の軒に燕の巣がある。それを見守る作者の優しい眼差し。若々しくリズムの良い句である。
<秀句>
5. 特攻くづれ卒寿を生きて麦を刈る(6)隆路
<佳作>
8. 身一つ運ぶが辛き夏に入る(2)村山
14. 不器量の犬も家族や聖五月(2)美知子
23. 門川の速き流れや田植時(3)雅子
33. からだごと笑ふ乙女の立夏かな(9)隆路
43. 好奇心駆け出して行く夏帽子(6)雅子
49. ゆつくりとひと匙づつのゼリーかな(1)留美子
95. わすれなぐさ特攻兵の兄の魂(1)村山
98. 深山路に風の白引く花水木(2)由斉
<互選>
3. 少年と犬の駆け足夏の月(1)
4. 借りる宿鉄線二輪紅零す(1)
7. スカートの斜めに歩む春嵐(1)
11. 一瞬の一生背負ふ蟻地獄(1)
12. 長閑さや赤子の欠伸宙つかむ(3)
13. 牧草を食む牛面に夏の蝶(2)
17. 新緑の青空揺すり風の啼く(2)
20. 五月闇殺気ひしひし羽撃つ音(1)
22. 一匹の蝶の舞ひ舞ふ草の畑(1)
25. 紫は鎮魂の色花菖蒲(1)
28. 風鈴や書院の軒に風の棲む(3)
29. 踏み石の留め蒲公英ポコポコと(2)
37. 鬼百合の一片欠けて包み紙(1)
38. 老い運転奪ふ妻子や五月闇(1)
50. 加茂川の風にあまへて川柳(1)
52. みつ豆の大鉢卓にお仲人(1)
60. 竜天に忽ち街に夏あられ(1)
66. 万緑や白足袋光る大茶会(1)
69. 新樹伸ぶ日々縮みゆく老い背丈(1)
77. 書に倦みし目には眩しき柿若葉(1)
78. 偕老のゆるマラソンの清和かな(3)秀
79. 高級でなくともよろし新茶汲む(1)
82. 足の萎へ永き一日夏に入る(1)
83. 正面の島を繋ぎて夏朝日(1)
87. 健やかと妹迎ふ駅夏来る(1)
91. 色褪せる野いちご土手に過疎進む(2)
97. 躓きて手を置く石に初夏の風(1)
102. テーブルに朝日がでんと夏来る(1)
107. 文字乱る句作乱るる夏雷雨(2)
110. 発心の坂登り行くゆく蟻の列(3)秀
投句一覧(5月21日)
遠山の稜茫々と春動く
風鈴の音にほぐるる肩のこり
少年と犬の駆け足夏の月
借りる宿鉄線二輪紅零す
特功くづれ卒寿を生きて麦を刈る
朝市を巡るや汗の旅衣
スカートの斜めに歩む春嵐
身一つ運ぶが辛き夏に入る
翠巒を映す山湖や夏燕
わすれなぐさ散りたる人や少年兵
一瞬の一生背負ふ蟻地獄
長閑さや赤子の欠伸宙つかむ
牧草を食む牛面に夏の蝶
不器量の犬も家族や聖五月
四世代は生きた家計図蜆汁
カーネーショングラスひとつに飾る卓
新緑の青空揺すり風の啼く
遠近の山の絨毯つつじの彩
平成の平和を永久に白牡丹
五月闇殺気ひしひし羽撃つ音
庭育ち遺影の前の夏蜜柑
一匹の蝶の舞ひ舞ふ草の畑
門川の速き流れや田植時
電車待つホームに眺む百日紅
紫は鎮魂の色花菖蒲
神棚に受賞の知らせ朴の花
蚊一つうたたねの頬赤い点
風鈴や書院の軒に風の棲む
踏み石の留め蒲公英ポコポコと
母の日の居場所を得たる句会かな
詠み疲れ緑陰に吾が影を脱ぐ
水鏡水の精とも花菖蒲
からだごと笑ふ乙女の立夏かな
春光のあふるる光り后の笑
山藤の池にむらさき鯉の口
空き缶に蟻黒々と浜の隅
鬼百合の一片欠けて包み紙
老い運転奪ふ妻子や五月闇
揺りゆるる海月の透明九十路坂
卒業期農を学んで農継がず
母の日やカーネーションの赤燃ゆる
空青く街夕影に夏きざす
好奇心駆け出して行く夏帽子
負ふ子とひとり急きゆく街薄暑
犬ふぐり直ちに仲間作り上げ
つね若し師の声偲ぶ藤見会
世の色に染まぬ古刹の白牡丹
ゆつくりとひと匙づつのゼリーかな
加茂川の風にあまへて川柳
あさぼらけ蜜蜂放ち爺の去る
みつ豆の大鉢卓にお仲人
薔薇真紅狭庭に演歌こぼしけり
園児送りげんげ田に坐す主婦三人
高階に住み遠き山野も夏の色
花みかん香る浜風豪華船
オートロック開けてあいさつ夏手套
パン焼けしパン屋の軒に燕の巣
置き去りにせし尾五センチほど蜥蜴
竜天に忽ち街に夏あられ
人の世めき離合集散花筏
薔薇アーチ潜り香りの只中へ
若葉風がぶりと呑んで鯉沈む
朝影の掬ぶむらさき花楝
若竹や太古に還る空の青
万緑や白足袋光る大茶会
見慣れしも令和書き初む聖五月
仏足石指は短き沙羅の花
新樹伸ぶ日々縮みゆく老い背丈
新緑や己の影の闇作り
葉桜や我が身いよいよ賞味切れ
魂の炎ひらひら花菖蒲
梅雨めくや路地行く人の声重し
火蛾狂ふ机上のメモに未来の句
隅隅に朝日が届き初夏明けし
花満開令和世紀の一行目
書に倦みし目には眩しき柿若葉
偕老のゆるマラソンの清和かな
高級でなくともよろし新茶汲む
母の日や「元気」かの声息子も老いて
サルビヤと聞きてめくりぬ古アルバム
足の萎へ永き一日夏に入る
正面の島を繋ぎて夏朝日
夏蝶来る昨日の吾を恋ふ如く
母の日も常と変はらぬわが暮し
揺るる世も只一筋に蟻の道
健やかと妹迎ふ駅夏来る
吹き流し吾子の未来を風の引く
夜ざくらを顎尖らせて仰ぎけり
憲法に国家のみゆる令和夏
色褪せる野いちご土手に過疎進む
令和日和風に乗り行く巣立ち鳥
なにもかも忘れ朝風呂老鶯
少年の如く真つ直ぐ今年竹
わすれなぐさ特功兵の兄の魂
瀨戸夜明け島々光る夏朝日
躓きて手を置く石に初夏の風
深山路に風の白引く花水木
初蝶を追いかけ填(はま)る幼の日
春風駘蕩令和の夕陽天染める
新世紀来る日本は春の光
テーブルに朝日がでんと夏来る
新茶汲む香と色に茶摘女を
ミルク飲む朝の囀り聴きながら
もう天に預けし命夏の草
勿忘草のブレスレットを七十年
文字乱る句作乱るる夏雷雨
麦秋やゴッホの絵にもあるひかり
発心の坂登り行くゆく蟻の列
選者4名(I・K・G・M)
<特選>
55. 白帆出て朧の海のなほ朧 さくら
・瀬戸内の海を思い出しますが、色々な船が行き交う海白帆の船が港から出て行く夕暮れ朧の中に遠くなる船が音を残して朧に消えていく春の海の様子が見えて来ます。朧の季語が効いています。
<秀句>
67. タンポポや土やはらかき杖の先 祥
<佳作>
3. 令和元年昭和遠のく花吹雪 遊
17. 初蝶の地を恋ひ翳を恋ふ高さ さくら
22. 空廣く又深くなる巣立鳥 隆路
63. 天女めく巫女来て開くる花の門 隆路
76. 結界よりやあと師の声島雲に Miiko
87. 引越しの終りは荷台の櫻餅 由斉
90. 舟唄を乱す櫓の先花筏 隆路
98. 香り濃きははの草餅今一度 村山
104. フランスはわれには遠し花ミモザ 美知子
<準佳作>
39. ホワイトディ子等の笑顔や赤い杖 祥
91. 臥す日々や会ひたき見たき平成花 村山
<特選>
1. 咲くを待つ日々のときめき庭桜 雅子
・日本人にとって桜は特別の花。本当に心が騒ぐ。そして庭桜となると朝な夕なに咲く前からそわそわとする気持ちがよくわかります。素直にそのまま詠んで共感を呼びます。
<秀句>
7. 主なき庭に散り敷く花の塵 美知子
<佳作>
17. 初蝶の地を恋ひ翳を恋ふ高さ さくら
41. いちまいの薄氷押せば天傾ぐ 隆路
47. 青空の透く白雲や紫木蓮 遊
51. 一山の千の彩り木々芽吹く 雅子
67. タンポポや土やはらかき杖の先 祥
75. 一人づつ宣ぶる未来図卒業す 雅子
76. 結界よりやあと師の声島雲に Miiko
100. 幼児の一語詩となる桃の花 隆路
104. フランスはわれには遠し花ミモザ 美知子
108. 不言不語独り居の日々涅槃西風 村山
G
<特選>
108. 不言不語独り居の日々涅槃西風 村山
・話しをする相手もなく話し掛ける相手もなく独り居の身に浄土からの風と言われる涅槃西風が身を包む。老いの寂しさが良く表されていると思います。元気で行きましょう。
<秀句>
1. 咲くを待つ日々のときめき庭桜 雅子
<佳作>
17. 初蝶の地を恋ひ翳を恋ふ高さ さくら
25. 宴果てし後の虚ろや夕桜 雅子
43. 葉桜やけさも元気と繰る雨戸 留美子
51. 一山の千の彩り木々芽吹く 雅子
53. 幽玄の遊び心や春の夢 由斉
66. 染め上げて櫻並木の遊歩道 由斉
76. 結界よりやあと師の声島雲に Miiko
79. たんぽぽの軸笛鳴らず泣きし日よ 由斉
89. 戻られぬ九十路の春の高嶺星 村山
<特選>
25. 宴果てし後の虚ろや夕桜 雅子
・楽しかった宴も果てて静かな時の流れに身を置いた時に感じる言いようのない虚脱感。そんな気持ちを夕桜と言う季語の持つもの寂しさに語らせて幽玄な一句となった。
<秀句>
65. 山盛りの春菜の光る道の駅 由斉
<佳作>
32. 水門へ花筏のせ雲をのせ 遊
36. 握り飯持ちてふたりの花の宴 美知子
50. 滅罪の寺やぼうたん崩れたる Miiko
63. 天女めく巫女来て開くる花の門 隆路
70. 幾重にも緋の色かさね落椿 美知子
88. こひのぼり口あんぐりと見上ぐる児 美知子
100. 幼児の一語詩となる桃の花 隆路
109. いさら川花の筏の大渋滞 村山
<互選>
6. 菜の花の川中仕切る中州かな(1)
9. 春の風ひらりひらりと光り載せ(1)
11. ワイヤーも加はる鳥の巣雲走る(1)
12. ダーイ好きと笑顔に開く桜かな(1)
13. 主婦の枷忘れ賑はふ花筵(1)
15. 小犬抱く婆のベンチも花吹雪(3)秀
19. 川縁の櫻芳し哲学路(1)
20. 日永かな聞き飽く話老い三人(2)
21. 手作りの草餅みどりほんのりと(1)
24. さくら咲く各自の思ひケアハウス(1)
28. 雨晴れて碧き大空春の雲(1)
29. 広芝へ雨の捺したる花の屑(1)
30. 囀りや朝日きらめく庭の木々(2)
33. 春蘭咲く遠慮がちなるはは偲ぶ(1)
34. 一水に沿ふて花屑踏めば思惟(1)
35. 平成の努力みのりて春の空(1)
40. 都踊り見続け九十路欲の湧く(1)
44. 空仰ぐきつかけ雲雀揚がりけり(1)
49. 囀りに目醒めし朝の大気吸ふ(1)
52. たんぽぽや土みつければ根を下ろし(2)
58. 腰に手を膝まげ仰ぐ朝桜(1)
60. ほの白く息を殺して夕桜(1)
69. 新港白き杖聞く春の声(1)
71. キャンピングカー余生楽しむ春の旅(2)
77. タバコ屋や爺の居眠る花日和(1)
78. 足萎へて着ることのなき春帽子(2)秀
80. 春色のネオンさまざま闇の街(1)
82. 平成の終はり見届く花吹雪(1)
86. 凸凹の石段高く落椿(1)
95. 石垣を掻き鳴らしゆく跣の子(2)秀
99. ロボットの旗振る交差春渡る(1)
101. 囀りや軒先からや梢から(2)秀
106. 土筆煮て幼の日々を語り合ふ(1)
投句一覧(4月15日)
咲くを待つ日々のときめき庭桜
打ち返す波の光りに春の夢
令和元年昭和遠のく花吹雪
お土産の赤いバケツの春落葉
貞淑を秘めてひたすら白牡丹
菜の花の川中仕切る中州かな
主なき庭に散り敷く花の塵
一生の職の定まり花八分
春の風ひらりひらりと光り載せ
春塵を払ふ吾が職笑顔の日々
ワイヤーも加はる鳥の巣雲走る
ダーイ好きと笑顔に開く桜かな
主婦の枷忘れ賑はふ花筵
春しぐれ隧道の先日さんさん
小犬抱く婆のベンチも花吹雪
お握りに花一片や和む昼
初蝶の地を恋ひ翳を恋ふ高さ
口開けて花入れよと腕白児
川縁の櫻芳し哲学路
日永かな聞き飽く話老い三人
手作りの草餅みどりほんのりと
空廣く又深くなる巣立鳥
過疎嫌と街を彷徨ふ猿に会ふ
さくら咲く各自の思ひケアハウス
宴果てし後の虚ろや夕桜
AIの介護ヘルパー春うらら
返却の鍵の一本春うれひ
雨晴れて碧き大空春の雲
広芝へ雨の捺したる花の屑
囀りや朝日きらめく庭の木々
春の雲選手のサイン流れ良く
水門へ花筏のせ雲をのせ
春蘭咲く遠慮がちなるはは偲ぶ
一水に沿ふて花屑踏めば思惟
平成の努力みのりて春の空
握り飯持ちてふたりの花の宴
お洒落して花菜パスタの七十路会
花満開吹く風白く雲を曳く
ホワイトディ子等の笑顔や赤い杖
都踊り見続け九十路欲の湧く
いちまいの薄氷押せば天傾ぐ
春塵を払ひ笑顔の客に悦
葉桜やけさも元気と繰る雨戸
空仰ぐきつかけ雲雀揚がりけり
桜植ゑへ山に情あり艶やかに
虎杖に喉潤しし幼の日
青空の透く白雲や紫木蓮
我が庭に光る一本朝桜
囀りに目醒めし朝の大気吸ふ
滅罪の寺やぼうたん崩れたる
一山の千の彩り木々芽吹く
たんぽぽや土みつければ根を下ろし
幽玄の遊び心や春の夢
ぼけ封じの代参古刹春深し
白帆出て朧の海のなほ朧
花満開陶然といて駄句しるし
青空をますます青く花盛り
腰に手を膝まげ仰ぐ朝桜
ただいまと帰る母校や花菜風
ほの白く息を殺して夕桜
電柱に近き庭木に鴉の巣
有漏の身の古代ぼたんに洗はるる
天女めく巫女来て開くる花の門
花の下手を繋ぎ笑む道祖神
山盛りの春菜の光る道の駅
染め上げて櫻並木の遊歩道
タンポポや土やはらかき杖の先
咲き満つる花の下なる異空間
新港白き杖聞く春の声
幾重にも緋の色かさね落椿
キャンピングカー余生楽しむ春の旅
新任地名古屋の街に春光る
タンポポや通学に射す朝日光
無人駅さくら駅長洞いだく
一人づつ宣ぶる未来図卒業す
結界よりやあと師の声島雲に
タバコ屋や爺の居眠る花日和
足萎へて着ることのなき春帽子
たんぽぽの軸笛鳴らず泣きし日よ
春色のネオンさまざま闇の街
一握の春の土より地のぬくみ
平成の終はり見届く花吹雪
枕木に止る初蝶電車音
物思へば見上ぐ大空鳥渡る
春の雲チコちやんテレビ硝子越し
凸凹の石段高く落椿
引越しの終りは荷台の櫻餅
こひのぼり口あんぐりと見上ぐる児
戻られぬ九十路の春の高嶺星
舟唄を乱す櫓の先花筏
臥す日々や会ひたき見たき平成花
一刷毛の雲なき朝や谷鶯
苦虫を殺す父親娘の自立
供華切る飛び立つ蜂のわが声に
石垣を掻き鳴らしゆく跣の子
入学の母に安堵と期待湧く
香り濃きははの草餅今一度
ロボットの旗振る交差春渡る
幼児の一語詩となる桃の花
囀りや軒先からや悄から
たんぽぽや黄光広め存在感
山桜空を謳歌し鳥唄ふ
フランスはわれには遠き花ミモザ
朝日光平成艶か朝桜
土筆煮て幼の日々を語り合ふ
春愁やメモの整理思ひ付く
不言不語独り居の日々涅槃西風
いさら川花の筏の大渋滞
瀨戸の海春風の線走り行く
選者4名(I・K・G・M)
<特選>
9. 受験子の黙に本気の気迫かな 雅子
・受験シーズン遠い昔を思い出しました。詰襟の男子が青色くなって真剣な表情をしてすれ違う姿を思い浮かべます。「黙に本気」の表現が良かったと思います。
<秀句>
95. しやぼん玉階上坊やの贈り物 村山
<佳作>
19. 寄り添ふと言ふ安らぎや紅白梅 村山
25. 蒼天を突く大木の芽吹く声 村山
54. 垣根の外明るき声や卒業生 村山
81. 木の芽晴いのち宙へと立ち上がる 隆路
86. 日々萎えし背筋鼓舞して青き踏む 由斉
89. 男子とも女子とも握手卒業す 美知子
101. 買はざるもときめく心苗木市 雅子
103. 真青なる空に万朶のしだれ梅 遊
104. 賜りし余生の自由山桜 村山
<特選>
34. 長靴の子のよたよたと春の泥 美知子
・幼児の春泥に足を取られそうになりながら、でも踏むたい様子が「よたよた」のオノマトペで映像としてよく見えます。気持ちも伝わってまいりました。
<秀句>
3. 橋脚をどどと春潮大鳴戸 隆路
<佳作>
2. 春光を呑み込む城の忘れ井戸 さくら
9. 受験子の黙に本気の気迫かな 雅子
22. 揺らぎつつ飛び立つ鳥や春疾風 隆路
41. 端座せる古老のやうに梅古木 御井子
50. 掌に掬ふ水春光を零しけり 村山
102. 一山の芽吹きに光り溢れけり 広斉
106. 夫恋へば髪を梳きゆく涅槃西風 遊
112. ひとり居のひとりの歩幅はなみずき 留美子
<準佳作>
21. 我独り影また一人青き踏む さくら
26. 郷愁や雲雀空突くウィーンの森 由斉
65. 山ヶ家は雪に閉ざれ濁り酒 隆路
<特選>
46. 咲き満ちて白木蓮闇を寄せつけず 雅子
・今満開の白木蓮その穢れなき純白の白、闇の暗さも何のその其処だけは真昼のごとき白色の明るさを振りまいている。其の姿が良く表されている。
<秀句>
9. 受験子の黙に本気の気迫かな 雅子
<佳作>
14. 囀りやグーチョキパーの稚児の声 悠姫
19. 寄り添ふと言ふ安らぎや紅白梅 村山
29. 咲き揃ふ梅花にもあり柔と硬 由斉
34. 長靴の子のよたよたと春の泥 美知子
50. 掌に掬ふ水春光を零しけり 村山
86. 日々萎えし背筋鼓舞して青き踏む 由斉
103. 真青なる空に万朶のしだれ梅 遊
113. 白木蓮散りて濁世の色に染む 雅子
<特選>
46. 咲き満ちて白木蓮闇を寄せつけず 雅子
・高さ5メートルにも達する白木蓮は自ら光を発して大きな白い花を結ぶ。まるで闇を従えるかの様に浮かび上がる一樹が見事に描かれている美しい一句である。
<秀句>
9. 受験子の黙に本気の気迫かな 雅子
<佳作>
34. 長靴の子のよたよたと春の泥 美知子
57. 紙雛残して友の旅立ちぬ 祥
70. 余生てふゆとりの旅路青き踏む 雅子
81. 木の芽晴いのち宙へと立ち上がる 隆路
99. 春愁や小猫が眠るカレンダー 遊
102. 一山の芽吹きに光り溢れけり 広斉
112. ひとり居のひとりの歩幅はなみずき 留美子
113. 白木蓮散りて濁世の色に染む 雅子
<互選>
6. 啓蟄や痩せたる蛇の庭渡る(2)
10. 風強し咲くをためらふ薄紅梅(3)
17. 水温む話込みたる棚田畦(1)
27. 一生をやさしき笑みに樺の花(1)
28. 東風吹かば午後のコーヒー熱くして(1)
31. おいしいね春の日向の稚児二人(2)
33. 皆帰り泣き出しさうな雪だるま(1)
37. 愛求め呼び合ふ雲雀碧深し(2)秀
40. 車椅子並べて見上ぐ枝垂れ梅(2)
45. 春泥の径の先へと好奇心(4)
47. 長居して馳走賜る春障子(2)
48. 介護住居話相手の欲し二月(1)
52. 切り株に坐り授乳や愛の春(1)
59. 旅人の零す鈴の音風うらら(4)秀
60. 戦争の無き世続けと桃の花(3)秀
63. 幾年を美しきまま古雛(2)秀
68. 春落葉介護住居に腰据ゑん(1)
75. 東風吹かば菅公の詩身を抜くる(2)
83. 懸命に上げし釣糸鯵小さし(1)
84. 渦潮や群青巻き込み春廻す(2)
91. 昔はと話が弾む春炬燵(1)
92. 電車待つアート絵楽し春の旅(1)
93. 山しずく躓きつつの春の水(2)
97. 手洗ひの薄氷光り笑みこぼす(1)
108. 地虫出づ輪番制にくじ引きに(1)
投句一覧(3月18日)
あけやらぬ聞こゆる調べ芽吹く息
春光を呑み込む城の忘れ井戸
橋脚をどどと春潮大鳴戸
相輪塔春光集め金の華
春の雨過去しとしとと啜りけり
啓蟄や痩せたる蛇の庭渡る
インフルエンザ食堂封鎖一週間
足腰の衰へ早く白木蓮
受験子の黙に本気の気迫かな
風強し咲くをためらふ薄紅梅
花ミモザ夢の中まで黄金色
のどけしや肉好き夫婦の太鼓腹
雨上がり一番駆けの恋の猫
囀りやグーチョキパーの稚児の声
余命またあなた任せに涅槃西風
戻りこよ夢に生きたる遥か春
水温む話込みたる棚田畦
箱入りの鰤一本に上機嫌
寄り添ふと言ふ安らぎや梅紅白
返り花ラブラドールの尾のゆれて
我独り影また一人青き踏む
揺らぎつつ飛び立つ鳥や春疾風
春ヨット讃岐の青き風切つて
垣根越し聞こゆる話花便り
蒼天を突く大木の芽吹く声
郷愁や雲雀空突くウィーンの森
一生をやさしき笑みに樺の花
東風吹かば午後のコーヒー熱くして
咲き揃ふ梅花にもあり柔と硬
香煙に師の霊昇り緑吹く
おいしいね春の日向の稚児二人
守られて娘は母となり古雛
皆帰り泣き出しさうな雪だるま
長靴の子のよたよたと春の泥
七回忌訪ふ門生ふ松の花
うららかや板ぎれのごと亀の浮く
愛求め呼び合ふ雲雀碧深し
母と子のしやがみて春の町公園
寺領池山影映し残る鴨
車椅子並べて見上ぐ枝垂れ梅
端座せる古老のやうに梅古木
鳥帰る法の池日々姿変へ
瓦礫積む被災地見舞ふ夕桜
雲低くいつ上がるやら雲雀待つ
春泥の径の先へと好奇心
咲き満ちて白木蓮(はくれん)闇を寄せつけず
長居して馳走賜る春障子
介護住居話相手の欲し二月
夢色に竜天に登る寝釈迦像
掌に掬ふ水春光を零しけり
なの花や災地返せと鳶の舞ふ
切り株に坐り授乳や愛の春
霾るやゴルフ散々二万余歩
垣根の外明るき声や卒業生
強東風や土鳩よろめく浅草寺
囀りに目覚めて清し朝の幸
紙雛残して友の旅立ちぬ
雲雀鳴く底なき天を目指せよと
旅人の零す鈴の音風うらら
戦争の無き世続けと桃の花
残る鴨二羽のさざなみ寺領池
水色のランドセル行く弥生尽
幾年を美しきまま古雛
啓蟄や今日はどの服ロッカー開け
山ヶ家は雪に閉ざれ濁り酒
春塵も積み込みさらば四トン車
春光や黒雲急に山の端に
春落葉介護住居に腰据ゑん
春雪や老いの身内を滅多打ち
余生てふゆとりの旅路青き踏む
春泥を風に跳ね上げカーチェイス
ヨーロッパ雲雀来たりて春を知る
オランダは花の国とふヒヤシンス
中空に朝日迎ふや春の月
東風吹かば菅公の詩身を抜くる
香を放ち空の重しと白木蓮
春愁や目覚め一人の身づくろい
初乗りの稚児の自転車斑雪
しだれ梅身上ぐる人の小さく見ゆ
地虫出づベランダに置く放置鉢
木の芽晴いのち宙へと立ち上がる
山椒の芽朝餉の汁の吸い口に
懸命に上げし釣糸鯵小さし
渦潮や群青巻き込み春廻す
銀世界平成最後の建国日
日々萎えし背筋鼓舞して青き踏む
白梅や師の魂宿し蕊光る
春蘭や丸髷姿のはは忍ぶ
男子とも女子とも握手卒業す
春の日の優雅な遊び吟行会
昔はと話が弾む春炬燵
電車待つアート絵楽し春の旅
山しずく躓きつつの春の水
春暁や無理と知りつつ地図広げ
しやぼん玉階上坊やの贈り物
しでこぶし父の余命を告げられて
手洗ひの薄氷光り笑みこぼす
跳上がり熊の餌食と氷下魚
春愁や小猫が眠るカレンダー
春暁の千年仏の顔寂し
買はざるもときめく心苗木市
一山の芽吹きに光り溢れけり
真青なる空に万朶のしだれ梅
賜りし余生の自由山桜
猪も鹿も食して森の春来る
夫恋へば髪を梳きゆく涅槃西風
はにかみし父の遺影や花なづな
地虫出づ輪番制にくじ引きに
詩詠むと山に向かへば山笑ふ
梅東風や血圧記録も七ヶ月
春の風邪ふりきつて出る同窓会
ひとり居のひとりの歩幅はなみずき
白木蓮散りて濁世の色に染む
諳じし啄木歌集麦青む
選者4名(I・K・G・M)
<特選>
94. 村人の悲を閉じこめて滝凍る 由斉
・平成30年は日本列島災害の多い年でした。今まで災害等なかった地方までも悲しい事のあった年でした。「悲を閉じこめて」に万感の思いが現われていて滝を見ながら感じ取られた事が成功でした。
<秀句>
91. 津波禍の泥田の水も温み初む 村山
<佳作>
10. 悴める手を暖めて診察す 隆路
12. 春風にのりてドラの音旅心 広斉
13. 北山杉天心に向け冴返る 村山
26. 振り向かず手を振る別れ冬帽子 隆路
44. 月高しまたも出でゆく猫の恋 美知子
58. 菜の花越し見ゆる燈台荒磯波 村山
67. 丸まりて鎮座久しき種茄子 御井子
74. 紙風船持つて富山の薬売 村山
<特選>
26. 振り向かず手を振る別れ冬帽子 隆路
・あえて振り向かないでどんな表情をしているのでしょうか。冬帽子が淋しそうですね。読み手に色々想像させる御句で魅かれました。後姿が見えます。
<秀句>
10. 悴める手を暖めて診察す 隆路
<佳作>
2. 好々爺にならぬ漢や寒の梅 美知子
5. 梅古木決意の如く白を解く さくら
18. 天上の風の手応へ凧の糸 由斉
21. 春近し玻璃に張りつく空磨く 広斉
52. 羽のごとみどりご抱きて春浅し 留美子
65. 三万本菜の花光る過疎の村 由斉
91. 津波禍の泥田の水も温み初む 村山
102. 冬晴や視線遥かに白き船 広斉
<特選>
30. 百歳の姉の笑顔や寒牡丹 村山
・百歳ともなると幾多の皺が顔を被う。その笑顔を寒牡丹と対比百歳の姉の生々と寒牡丹のように輝いている笑顔が眼に浮かぶ。
<秀句>
18. 天上の風の手応へ凧の糸 由斉
<佳作>
29. 惜しまずに冬ざる景の三千院 由斉
35. 崩れつつ大とんどの火御空這ふ 由斉
58. 菜の花越し見ゆる燈台荒磯波 村山
65. 三万本菜の花光る過疎の村 由斉
67. 丸まりて鎮座久しき種茄子 御井子
75. 旅疲れ春の風邪へと傾れ込む さくら
96. 三寒四温我が身にもあり迷ふ日々 祥
104. 季節問ふ朝餉の膳や冬苺 祥
<特選>
91. 津波禍の泥田の水も温み初む 村山
・災害に見舞われた泥田の水も温んできた。前を向いて進まなければと決意を新たにする心が現れた一句となった。
<秀句>
26. 振り向かず手を振る別れ冬帽子 隆路
<佳作>
10. 悴める手を暖めて診察す 隆路
18. 天上の風の手応へ凧の糸 由斉
45. 春光に讃岐島々アートめく 広斉
49. うららかや長き鼻振る象の芸 慶子
56. 木枯しや一と日隠りて一と日老ゆ 隆路
57. 落椿始末に困る古写真 村山
86. 退屈の日々が幸せ冬の声 広斉
102. 冬晴や視線遥かに白き船 広斉
<互選>
1. 五六片散りて山茶花どつと散る(2)秀
4. 梅真白恩師ひたすら俳一途(2)
6. 山の端を染め海を染め冬落暉(2)
7. 京東寺骨董市に着ぶくれて(1)
14. 山茶花の散るにも負けぬ物忘れ(2)
16. 寒風を厭はぬ稚児追ひ息のきれ(1)
22. 立春の花屋赫々光り満つ(2)
23. 春光を飛ばす釣糸乞ふ期待(1)
28. 赤燈台守る一群寒鴉(1)
36. 村統べる子ども歌舞伎の冬日和(2)
38. 寒茜川添歩道を車椅子(2)秀
42. 独りごち闇にとかして枯木星(2)
50. 尼寺や切り干し大根垣根とし(1)
51. ぶつぶつと何かつぶやく落椿(2)
53. 初雪や三角帽の里の富士(1)
59. 冬一日独りのたつき句に残し(2)秀
63. 近道へ角を曲がれば寒椿(1)
64. 島中の風を虜に水仙花(2)
69. ぐんぐんと茜広げて冬夕陽(1)
70. ちぐはぐな心と言葉春寒し(2)
72. 凍蝶や今日ある迄を振り返り(2)秀
76. 菜の花や足音に散る雀百(2)
77. さらさらと雨後の葱畑光る波(1)
80. 育つ子ら砂場ふらここすべり台(1)
83. ベランダの小松菜間引く春の光(1)
93. 寒鴉夕陽の中を一直線(3)
110. 紅梅の香りを背に走る兒等(1)
投句一覧(2月15日)
五六片散りて山茶花どつと散る
好々爺にならぬ漢や寒の梅
永らへて五感衰へ春寒し
梅真白恩師ひたすら俳一途
梅古木決意の如く白を解く
山の端を染め海を染め冬落暉
京東寺骨董市に着ぶくれて
追ひ書きの「孫は動画で」寒見舞
寒雀土が欲しいと遠眼鏡
悴める手を暖めて診察す
何処迄も続く神苑梅三分
春風にのりてドラの音旅心
北山杉天心に向け冴返る
山茶花の散るにも負けぬ物忘れ
箱出しの緋色深まる土雛
寒風を厭はぬ稚児追ひ息のきれ
大寒や香月泰男の絵の男
天上の風の手応へ凧の糸
一言に心ざわめく室の花
駄賃抱き本屋に迷ふ春の蝶
春近し玻璃に張りつく空磨く
立春の花屋赫々光り満つ
春光を飛ばす釣糸乞ふ期待
燃え盛る左義長の炎に願ひこめ
冬満月成約あとのレストラン
振り向かず手を振る別れ冬帽子
城堀の白鳥に見る夢世界
赤燈台守る一群寒鴉
惜しまずに冬ざる景の三千院
百歳の姉の笑顔や寒牡丹
故郷の紅梅一枝壺にかな
登る陽を吾もわれもと梅蕾
開眼の香のうつりゆく春霞
干大根生れ変はる喜の有りて
崩れつつ大とんどの火御空這ふ
村統べる子ども歌舞伎の冬日和
ひたひたと長寿の倶存着膨れて
寒茜川添歩道を車椅子
炭焼きの煙真つ直ぐ里近し
さまざまな風嬲り行く枯尾花
倦怠や師を失ひて冬ごもり
独りごち闇にとかして枯木星
水仙の島を灯台までてくてく
月高しまたも出でゆく猫の恋
春光に讃岐島々アートめく
子に譲る屏風を探す雛の市
冬薔薇土産に友の佳き報せ
朝風呂を覗く鶯佳き日かな
うららかや長き鼻振る象の芸
尼寺や切り干し大根垣根とし
ぶつぶつと何かつぶやく落椿
羽のごとみどりご抱きて春浅し
初雪や三角帽の里の富士
冬の声明るき友のたのみかな
空の碧春を引き寄せ生く力
木枯しや一と日隠りて一と日老ゆ
落椿始末に困る古写真
菜の花越し見ゆる燈台荒磯波
冬一日独りのたつき句に残し
手を振りて春オリオンを送るかな
急勾配海迄続く葱畑
柚子風呂に庭の柚子もぐ薫り濃し
近道へ角を曲がれば寒椿
島中の風を虜に水仙花
三万本菜の花光る過疎の村
先發の勇気ひたひた冬の山
丸まりて鎮座久しき種茄子
梅日和萎ふ足を撫で過去を問ふ
ぐんぐんと茜広げて冬夕陽
ちぐはぐな心と言葉春寒し
木の葉散る全山揺れて枝ゆれて
凍蝶や今日ある迄を振り返り
黄の蕊に秘めしおもひや白き梅
紙風船持つて富山の薬売
旅疲れ春の風邪へと傾れ込む
菜の花や足音に散る雀百
さらさらと雨後の葱畑光る波
郷帰り角を曲がれば藪椿
暗がりの夜道を灯す水仙花
育つ子ら砂場ふらここすべり台
マスクに眼鏡皺を隠して老いやおら
水仙の蒼き莟に娘の成人
ベランダの小松菜間引く春の光
どんど焼き庭に一輪祝卆寿
御殿庭梅の香流れ人流れ
退屈の日々が幸せ冬の声
城址に武士の化身か乱水仙
各々に雪を背に来る車列
はんなりと紅梅の咲く古家の庭
山茶花のはらはら散りて苑の地図
津波禍の泥田の水も温み初む
寒暖の身をいとしみて庭の梅
寒鴉夕陽の中を一直線
村人の悲を閉じこめて滝凍る
あの時の思ひ出あらた枯木立
三寒四温我が身にもあり迷ふ日々
のぞかさの中の一隅老い不安
湧水に碧き光りの菫花
冬温し屋島山稜朝あかね
初孫の雛選る夫婦四十代
降る雪や最後の友の逝く報せ
冬晴や視線遥かに白き船
「惚ける」の言葉恐ろし冬夜長
季節問ふ朝餉の膳や冬苺
晴れ曇り一喜一憂流氷期
青空に疑問符うちて枝垂れ梅
スマホ打つ個々の集ひて堀炬燵
春一番瀨戸海波の声あぐる
初雪や色美しき一文菓子
紅梅の香りを背に走る兒等
選者4名(I・K・G・M)
<特選>
64. 土佐和紙をやさしく広げ筆初め 隆路
・昔雅仙紙に太筆で王羲之の文字等を書いたのを懐かしく思い出します。この句の場合「やさしく広げ」なので細字用の土佐和紙にさらさらと書かれる様子が見えて、和紙作りの生活も見えて、お正月らしい良い句になりました。
<秀句>
42. 初夢を見ているらしき稚の笑み さくら
<佳作>
5. 屋島嶺は母艦のごとし冬の海 隆路
22. 遥かなる師の影抱き初句会 村山
26. 繭玉や揺るるにまかせみる余生 さくら
36. 祖母と見し真夜の星空ちやんちやんこ 美知子
38. 退いてなほ嵩なす賀状楽しまん 留美子
43. 初笑ひ垣根隙間に鼬鼠の貌 村山
59. 七草を打つははの声御空より 村山
61. 寒雀ここは天国大師の掌 村山
66. 春来ると走つてみたき今一度 村山
97. ねんごろに願ひ石撫づ千代の春 Miiko
99. 思ひ出づねんねこの背子の寝息 美知子
<特選>
47. 岩を裂き食込む根元寒椿 由斉
・岩場の過酷な条件の中で精一杯頑張って咲く寒椿の様がしっかり写生され表現されています。
<秀句>
73. 初日いま海はなれんとして揺らぐ 隆路
<佳作>
5. 屋島嶺は母艦のごとし冬の海 隆路
7. 侘助や鎮守の森のほの明かり 美知子
9. 初鏡我生き様を我に問ふ さくら
17. 独り居の夜のしじまの霜の音 村山
29. 大年や師と定めたる星仰ぐ 村山
32. 山風にピシリと立ちぬ黒手套 留美子
42. 初夢を見ているらしき稚の笑み さくら
66. 春来ると走つてみたき今一度 村山
<特選>
36. 祖母と見し真夜の星空ちやんちやんこ 美知子
・うすら寒の晩秋の真夜、祖母と眺める幾万幾百万とも知れぬ星の空、只只宇宙の不思議を身を持って感じている。ちゃんちゃんこの季語が最高に生かされている一句である。
<秀句>
61. 寒雀ここは天国大師の掌 村山
<佳作>
9. 初鏡我生き様を我に問ふ さくら
22. 遥かなる師の影抱き初句会 村山
31. 躓いてばかりの人生着ぶくれて さくら
50. 女正月笑ひ弾ける母の部屋 広斉
55. 永らへて皺の手に受く初手水 村山
75. 落葉風杖持ち直す日暮れかな 祥
84. 猫好きも犬好きもゐて日向ぼこ 美知子
102. どんど焼き一日一句の意を新た 遊
<特選>
55. 永らへて皺の手に受く初手水 村山
・元旦の朝清らかな若水を掬ぶ手は長く歳月を刻んできた崇高な手である。気高くそして穏やかな一年が始まる一時を感慨深く詠まれた心惹かれる句である。
<秀句>
24. 閼伽桶の忘れ柄杓に初氷 隆路
<佳作>
5. 屋島嶺は母艦のごとし冬の海 隆路
33. 冬銀河わが行く先を問ふ夕べ 亜希子
61. 寒雀ここは天国大師の掌 村山
64. 土佐和紙をやさしく広げ筆初め 隆路
73. 初日いま海はなれんとして揺らぐ 隆路
83. 初手水竜の口より賜はりて 由斉
84. 猫好きも犬好きもゐて日向ぼこ 美知子
101. 冬木立独りの姿完成す 遊
<互選>
2. 旅の湯に置くわだかまり松の内(2)
6. はは好みし帯締めポンと初鏡(3)秀
8. 朝焼けや大音立てて氷柱落つ(1)
10. 正月やゲーム三昧憚らず(1)
12. 五重の塔雪載せ京の時とまる(1)
19. 駅伝のつなぐ襷の淑気かな(3)
21. 正月やなんとなく母美しき(1)
25. 参詣や支へらる子の手の温し(1)
28. 神苑に畏み樽の寒日和(1)
30. 蝋梅や無口の考を慕ひけり(2)秀
51. 蝋梅に文化のかをり過去を問ふ(1)
54. 御手洗の指先凍つる身も凍つる(2)秀
56. 屋根よりの雪解水を日の払ひ(1)
58. はみ出すを切りて刺されり枯茨(4)秀
60. 松の内過ぎて猛進年女(1)
62. 悴む手弁当作り二十年(1)
68. 子を迎ふ卓の紅冬薔薇(1)
71. 錆色の衣を纏ひ山眠る(3)
74. 冬夕焼け宙くれなゐに日は赫赫(1)
78. しょうが湯に独り居癒し長き夜(1)
79. 棘のみを頼みと一花寒薔薇(7)秀
90. 風神のゆさぶる紙垂の淑気かな(2)
98. いしだたみ破魔矢落ちたる鈴ひびく(1)
105. 不安負ひされど未来と大旦(3)秀
投句一覧(1月15日)
冬日向婆三人の犬自慢
旅の湯に置くわだかまり松の内
師の賀状読めぬむなしさ空仰ぐ
年男頑張りますと賀状くる
屋島嶺は母艦のごとし冬の海
はは好みし帯締めポンと初鏡
侘助や鎮守の森のほの明かり
朝焼けや大音立てて氷柱落つ
初鏡我生き様を我に問ふ
正月やゲーム三昧憚らず
菜園に白帽並ぶ初の雪
五重の塔雪載せ京の時とまる
初詣三社二仏顔馴染
生涯の一句欲しいと初詣で
湯豆腐の湯気の向かふに鬼の面
初夢の出口に夢を置いてきし
独り居の夜のしじまの霜の音
室の梅蕾ほどける狭間かな
駅伝のつなぐ襷の淑気かな
子育ての頃思い出す賀状かな
正月やなんとなく母美しき
遥かなる師の影抱き初句会
仏壇の方位逡巡冬の夜
閼伽桶の忘れ柄杓に初氷
参詣や支へらる子の手の温し
繭玉や揺るるにまかせみる余生
帰り咲き枯木に寄りて空青し
神苑に畏み樽の寒日和
大年や師と定めたる星仰ぐ
蝋梅や無口の考を慕ひけり
躓いてばかりの人生着ぶくれて
山風にピシリと立ちぬ黒手套
冬銀河わが行く先を問ふ夕べ
女正月俳句に追はれ季語繰るも
皺見ずに二十若いと女医御慶
祖母と見し真夜の星空ちやんちやんこ
仮面はずし本音で生きよと大旦
退いてなほ嵩なす賀状楽しまん
寒風や猿電線を綱渡り
蝋梅の一つ二つと日を奪ひ
割れしより「汁次」と知る木葉髪
初夢を見ているらしき稚の笑み
初笑ひ垣根隙間に鼬鼠の貌
産室の扉開きて初明かり
宿下がり峠越せばと気のはやる
父と子に芽吹きの夜明け鳥唄ふ
岩を裂き食込む根元寒椿
枯れ芙蓉話上手な姑思ふ
藁帽子似合ひ笑み合ふ寒牡丹
女正月笑ひ弾ける母の部屋
蝋梅に文化のかをり過去を問ふ
一曲の施設訪問初明かり
捨て人形北風に髪宙に舞ふ
御手洗の指先凍つる身も凍つる
永らへて皺の手に受く初手水
屋根よりの雪解水を日の払ひ
蝋梅や未来先んじ透き通る
はみ出すを切りて刺されり枯茨
七草を打つははの声御空より
松の内過ぎて猛進年女
寒雀ここは天国大師の掌
悴む手弁当作り二十年
郷の土産紅一輪の梅香かな
土佐和紙をやさしく広げ筆初め
寒鴉我が顔を見てそつぽ向き
春来ると走つてみたき今一度
元旦やラジオ体操毎日と
子を迎ふ卓の紅冬薔薇
成人式晴着賑はふ街カフエ
咲き初むる蝋梅二輪双子歌手
錆色の衣を纏ひ山眠る
年迎ふ水子地蔵の風車
初日いま海はなれんとして揺らぐ
冬夕焼け宙くれなゐに日は赫赫
落葉風杖持ち直す日暮れかな
父の忌日好む蝋梅咲き初むる
近道になごみをもらふ寒椿
しょうが湯に独り居癒し長き夜
棘のみを頼みと一花寒薔薇
蔓繋ぐ裸木の山厳しきや
寒鴉もの乞ふ声と聞こへけり
寒の蘭かぼそく薫り娘の嫁ぐ
初手水竜の口より賜はりて
猫好きも犬好きもゐて日向ぼこ
初詣日々流さじと大拍手
成人式終へて帯解き趺坐つ娘
冬曇吾の終りを空に問ふ
時の花や師の影さがす初句会
返り花ケヤーハウスの朝の庭
風神のゆさぶる紙垂の淑気かな
初灯明消えんとするや妣の笑み
山家守る婆爺訪ね寒雀
脱ぎおきし母の晴着の温かし
還暦の赤き甚平去年今年
残り福ならでの人出なりしかな
冴える空をカラス啼き会ふ里遠し
ねんごろに願ひ石撫づ千代の春
いしだたみ破魔矢落ちたる鈴ひびく
思ひ出づねんねこの背子の寝息
はき慣れぬ靴にかまれて堀炬燵
冬木立独りの姿完成す
どんど焼き一日一句の意を新た
花八ツ手他所に見かけて懐かしく
日に開き日影の小さき梅つぼみ
不安負ひされど未来と大旦
選者4名(I・K・G・M)
<特選>
91. 氷面鏡老いの命の透きとほる 村山
・氷の傍題になっている氷面鏡は氷の表面が鏡のように光ってる状態を云う。
その氷面鏡を見ているうちに自己の老いの体の来し方が見えて来て、感じ取った時に出来た句だと思い共鳴しました。
<秀句>
80. 飛石の丸と四角の寒さかな 政子
<佳作>
20. 赤ちやんとポインセチアとちひろの絵 美知子
25. みくじ引き友の笑顔や冬櫻 祥
38. ふるさとの訛り行き交ふ冬の駅 留美子
40. 葱雑炊ははの情の風邪薬 村山
54. 日溜りや雀の集ふ十二月 祥
55. 闇汁の闇に隠せし謀 さくら
64. 駄句秀句季語も煮込みておでん酒 村山
87. 背伸ばせと冬鷺頭上に脚伸ばす 村山
<特選>
98. 霧氷林白光天に無尽なり 由斉
・霧氷林は本当にこの世とも思えぬ清らかな美しさです。その放つ白光が天に無尽と言い切ったところがよいと思いました。
<秀句>
76. 瀬戸に日矢里富士に日矢冬温し 隆路
<佳作>
31. 枯れしもの皆輝いて神送る 隆路
32. マリアさまも星の子役も聖夜劇 留美子
33. 霧氷咲く吾が故郷は無人境 由斉
38. ふるさとの訛り行き交ふ冬の駅 留美子
56. 大地より金噴き上げて福寿草 村山
77. 一山の青き日溜まり冬菜畑 さくら
85. 大仏の膝に冬日のひかり跳ね 由斉
91. 氷面鏡老いの命の透きとほる 村山
<準佳作>
10. 目瞑れば現世秘色日向ぼこ 由斉
64. 駄句秀句季語も煮込みておでん酒 村山
65. 不器用な煤逃げ漢古本屋 由斉
80. 飛石の丸と四角の寒さかな 政子
82. 大空へ木々の心音春近し 村山
<特選>
38. ふるさとの訛り行き交ふ冬の駅 留美子
・何年振りかに佇つ故郷の駅のホーム、早々と耳にするのが言葉の訛りである。なつかしい少年少女時代の思い出が昨日のように蘇って来る。
<秀句>
64. 駄句秀句季語も煮込みておでん酒 村山
<佳作>
2. 紅葉散る風に負けじと子等元気 祥
14. 世の外に曝す身たたく師走風 由斉
21. 極月や未だ終止符打てぬ過去 さくら
23. みどり兒のきらめく瞳冬の星 留美子
48. 団塊の友も逝きたり冬茜 美知子
55. 闇汁の闇に隠せし謀 さくら
91. 氷面鏡老いの命の透きとほる 村山
95. 冬芽立つ山を守りて四代目 広斉
<特選>
82. 大空へ木々の心音春近し 村山
・厳しい冬も終わりを告げるかに寒さの中にも春の気配が感じられるようになると、尖っていた冬芽も緩み始めてくる。暖かい日差しに膨らむ未来への希望を「木々の心音」と叙した趣のある一句である。
<秀句>
95. 冬芽立つ山を守りて四代目 広斉
<佳作>
5. 枯芝に園児と犬の弾む声 広斉
10. 目瞑れば現世秘色日向ぼこ 由斉
20. 赤ちやんとポインセチアとちひろの絵 美知子
29. 山門に終の命を冬の蝶 村山
30. 酔ふほどに女にぎやかおでん鍋 Miiko
68. 表裏なき裸木ならぶ裏参道 広斉
76. 瀬戸に日矢里富士に日矢冬温 隆路
91. 氷面鏡老いの命の透きとほる 村山
<互選>
1. ハロウイン銀座は不夜城魔女来る(3)
3. オリーブ油つけて艶はだ豊の秋(3)
4. 炬燵して終日庭の風を見る(2)
7. 洗ふ手に頬ふっくらと冬あさし(2)
8. なりゆきの文筆修業寒灯下(2)
18. 神留守と知りつつ祈願百度踏む(1)
22. ポインセチア友の愛燃ゆ独り居や(1)
27. 平成の最後の賀状見本来る(2)
34. 定まらぬ季節に惑ふ冬支度(1)
39. 冬日低く部屋中朝日歩みけり(1)
41. 仏恩に抱かれ枯れてゆく蓮(2)
43. 人を恋ふ迷ひ犬ゐて冬木立(2)秀
45. 脳年齢健康年齢福達磨(1)
50. ななかまど馬刺つまみに富士見酒(2)
52. 実南天赤赤燃えて明日の夢(2)秀
53. 活けられて煩悩隠し彼岸花(2)
59. シエパードの老犬とゐて日向ぼこ(2)
61. シャンシャンの竹春にして独り立ち(2)
65. 不器用な煤逃げ漢古本屋(1)
66. 茶の花や町内いつか爺と婆(2)秀
81. 平成の終焉惜しむ除夜の鐘(1)
84. 寒薔薇や孤高と孤独裏表(1)
88. 年用意てふも年々大雑把(1)
99. 不安負ひ生きる世となり冬木の芽(2)秀
投句一覧(12月18日)
ハロウイン銀座は不夜城魔女来る
紅葉散る風に負けじと子等元気
オリーブ油つけて艶はだ豊の秋
炬燵して終日庭の風を見る
枯芝に園児と犬の弾む声
平成を忘れじ二輪返り花
洗ふ手に頬ふっくらと冬あさし
なりゆきの文筆修業寒灯下
黄落や銀髪のひと美しき
目瞑れば現世秘色日向ぼこ
枯芝や猫と同居のダンボール
山伏の姿に見惚る雪シャンシャン
古い物みんな捨てちやへ百日紅
世の外に曝す身たたく師走風
冬蝶の夢は花園虚空かな
花八つ手頬の尖りのいつ消えし
一雨ごと冬の色増し鳥膨れ
神留守と知りつつ祈願百度踏む
陣痛の娘の背さする息白し
赤ちやんとポインセチアとちひろの絵
極月や未だ終止符打てぬ過去
ポインセチア友の愛燃ゆ独り居や
みどり兒のきらめく瞳冬の星
なまはげの雄たけび届く文化遺産
みくじ引き友の笑顔や冬櫻
枯芝に犬と戯れ余生かな
平成の最後の賀状見本来る
猫のゐる出窓にポインセチアかな
山門に終の命を冬の蝶
酔ふほどに女にぎやかおでん鍋
枯れしもの皆輝いて神送る
マリアさまも星の子役も聖夜劇
霧氷咲く吾が故郷は無人境
定まらぬ季節に惑ふ冬支度
新暦年号五月より無印に
冬清水音の明るく山間を
早々と吾の出番と猪街へ
ふるさとの訛り行き交ふ冬の駅
冬日低く部屋中朝日歩みけり
葱雑炊ははの情の風邪薬
仏恩に抱かれ枯れてゆく蓮
長き夜朝かと目覚め夜中二時
人を恋ふ迷ひ犬ゐて冬木立
黄昏れや木の葉散る音鳴り止まず
脳年齢健康年齢福達磨
悪しき過去燃し忘年の火となせり
借景の時雨の色や新居かな
団塊の友も逝きたり冬茜
裸の木尼寺の空開け放し
ななかまど馬刺つまみに富士見酒
四方碧し庭の日溜り福寿草
実南天赤赤燃えて明日の夢
活けられて煩悩隠し彼岸花
日溜りや雀の集ふ十二月
闇汁の闇に隠せし謀
大地より金噴き上げて福寿草
骨董店煤逃げ男集ひけり
風花や一と日一時ひたすらに
シエパードの老犬とゐて日向ぼこ
納得のははの牡蠣飯九人家族
シャンシャンの竹春にして独り立ち
煤逃げの亡夫思ひて独り笑み
時雨受け着換への窓の日射しかな
駄句秀句季語も煮込みておでん酒
不器用な煤逃げ漢古本屋
茶の花や町内いつか爺と婆
激痛の走る夜中や長き夜
表裏なき裸木ならぶ裏参道
禅寺や思案を破る石蕗の花
夜のテラス梟頭づき淋しいか
髪の毛に香り残して落葉焚き
50と同句
混沌の世も平成の返り花
凍滝を打つ突風や鬱天下
兄妹の仲良く村の枯芝と
瀬戸に日矢里富士に日矢冬温し
一山の青き日溜まり冬菜畑
麗しき刻を刻みて紅葉山
安芸の国牡蠣を頬ばり船遊び
飛石の丸と四角の寒さかな
平成の終焉惜しむ除夜の鐘
大空へ木々の心音春近し
倦怠や堀炬燵守る婆と猫
寒薔薇や孤高と孤独裏表
大仏の膝に冬日のひかり跳ね
倦怠や仮病の朝寝年の暮
背伸ばせと冬鷺頭上に脚伸ばす
年用意てふも年々大雑把
凍蝶の逝くや古刹の砂波に
枯れ芝に夕日消えゆくしづごころ
氷面鏡老いの命の透きとほる
振り返り先を野老に委ねたり
冬霧の一切覆ひ只真白
年輪の緊張極み霜柱
冬芽立つ山を守りて四代目
冬菫むらさき二輪日溜りに
団栗を掌に転がせて星の友
霧氷林白光天に無尽なり
不安負ひ生きる世となり冬木の芽
選者4名(I・K・G・M)
<特選>
13. 重さが愛し母の手製の綿布団 政子
・今は羽毛蒲団も多くなっていますが、子供の頃は綿の蒲団でした。「重さが愛し」で母親の余る程の愛情が分かります。歳時記に布団の文字もありますが殆ど蒲団になっています。
掛布団でもよかったかなと思いました。
<秀句>
86. 唐黍の高穂が騒ぐオスプレイ 隆路
<佳作>
4. 鍛錬の脚こそ命秋の空 由斉
12. 冬夕焼け青春惜しむ哲学道 広斉
37. 己が踏む落葉の音に振り返り 村山
40. 冬薔薇朝日をしかと巻きこめり 広斉
42. 味噌汁を好みの味に冬温し 村山
51. コスモスのうすき影あり白き部屋 遊
56. 冬日和龍馬の海の水平線 遊
65. おれ様は元気溌剌花八手 三香穂
<準佳作>
63. 蓑虫も気になる災に貌を出し 留美子
98. 紅葉狩り渓流下りに老い忘れ 村山
<特選>
30. 独りにはひとりの音や冬に入る 隆路
・人は常に物音をたてながら暮らしていますが、大方は常の音として慣れ気にも止めません。この御句では独りだからこそ感受する、この季ならではのさびしさ、厳しさを言い止め表現されたところに感心しました。
<秀句>
13. 重さが愛し母の手製の綿布団 政子
<佳作>
1. 行住に座臥に朝寒夜寒かな 隆路
6. 立冬に蝉の声聞くニュースかな 遊
23. 過去帳に記す父の名十三夜 由斉
26. 身の内をふつと風すぐ夕すすき 遊
27. 聞き上手傍らに居て冬ぬくし さくら
37. 己が踏む落葉の音に振り返り 村山
46. 大輪の菊のひとひらより寂ぶる さくら
86. 唐黍の高穂が騒ぐオスプレイ 隆路
<準佳作>
80.鐘一打古刹の紅葉宙に舞ふ 由斉
<特選>
32. 木の葉髪ひつつめ教師三十年 さくら
・教師生活三十年木の葉髪を簡単にひっつめて結い颯爽と学校へと向かう女教師の姿が眼に浮かぶようである。
<秀句>
43. 万歩計先づは千歩よ天高し 祥
<佳作>
4. 鍛錬の脚こそ命秋の空 由斉
15. 柿供ふもう言葉なき父母遺影 祥
26. 身の内をふつと風すぐ夕すすき 遊
37. 己が踏む落葉の音に振り返り 村山
48. 遠近の山腹染めて初紅葉 祥
68. 足腰の機嫌のよくて落葉掃き 村山
80. 鐘一打古刹の紅葉宙に舞ふ 由斉
96. 独り居の無心に仰ぐ冬の月 村山
<特選>
91. 長生きの仲間となりて茱萸の酒 隆路
・「九日赤き袋に茱萸を入れて酒にひたして飲む人は邪気を受けずまた長寿なり」と記されている。長生きの仲間とはおいくつなのであろうか。茱萸の酒をいただき益々お元気で豊かな人生が約束された事と思われる。
<秀句>
94. おつくうの身にはりつきて堀炬燵 村山
<佳作>
1. 行住に座臥に朝寒夜寒かな 隆路
14. 活けられて芒は風の修羅忘る 隆路
23. 過去帳に記す父の名十三夜 由斉
26. 身の内をふつと風すぐ夕すすき 遊
30. 独りにはひとりの音や冬に入る 隆路
37. 己が踏む落葉の音に振り返り 村山
79. 背を曲げて両手ポケット冬の人 村山
97. 朝寒や玻璃を横切る黒き鳥 由斉
<互選>
2. 里富士に雲重なりて時雨れ来る(1)
10. 永らへて余生重たき澁き柿 (2)
16. 鯉の吐く紅葉一葉や御殿池 (1)
22. 落葉踏み孤独の音を踏む真昼 (3)
34. 視界越へ彩の波うつ秋桜(3)秀
45. 落葉踏む郷の光りを踏みしめり (3)
52. からつぽのあけびの実あり吾ひとり (1)
55. 峡谷をくだり白波冬鴎 (1)
69. 水面には冬天映る芝離宮 (1)
73. 災の地の瓦礫の上に冬の月 (1)
83. 秋深し今や古稀にて不惑なり (2)
90. 二毛作生きる知恵保つ峡の秋 (1)
92. 十六夜に家路忘れて立ち尽くす (1)
95. 澄みに澄む峪水つなぎ柴漬や (1)
投句一覧(11月20日)
行住に座臥に朝寒夜寒かな
里富士に雲重なりて時雨れ来る
天心の緊張緩びゆく小春
鍛錬の脚こそ命秋の空
山海の里をつなぎて秋の幸
立冬に蝉の声聞くニュースかな
付箋はるギフトカタログわが夜長
御手洗いの柄杓虜に初氷
潮匂ふ霜夜の河口聞く汽笛
永らへて余生重たき澁き柿
ライトアップ徹夜紅葉に遠梵鐘
冬夕焼け青春惜しむ哲学道
重さが愛し母の手製の綿布団
活けられて芒は風の修羅忘る
柿供ふもう言葉なき父母遺影
鯉の吐く紅葉一葉や御殿池
山と海珍味の幸や秋讃岐
日ひと日色づく紅葉天帝や
星月夜みんな違つてみんなよい
臨月の娘の腹なでる秋日和
吊り橋を渡る風音瀬音かな
落葉踏み孤独の音を踏む真昼
過去帳に記す父の名十三夜
折れた傘窓に五日や時雨寒
忌中はがき眺む長き夜雨匂ふ
身の内をふつと風すぐ夕すすき
聞き上手傍らに居て冬ぬくし
耽耽と捨て身美しきよ冬の滝
自転車に孤独抜け出す秋の暮
独りにはひとりの音や冬に入る
白壁に枯れ蔦アート日に照りて
木の葉髪ひつつめ教師三十年
水輪たつ時雨し芝の離宮かな
視界越へ彩の波うつ秋桜
伝説や悲喜こもごもの紅葉峪
水通す産着の光り秋の空
己が踏む落葉の音に振り返り
熱引きて睡る赤児に冬朝日
赤ん坊の寝顔は天使幸運ぶ
冬薔薇朝日をしかと巻きこめり
里よりの川を下れば冬鴎
味噌汁を好みの味に冬温し
万歩計先づは千歩よ天高し
谿風に煽られ紅葉宙返り
落葉踏む郷の光りを踏みしめり
大輪の菊のひとひらより寂ぶる
白き鴨一羽大花と御殿池
遠近の山腹染めて初紅葉
果てしなき彩の絨毯コスモス園
臨月の拾ふ木の実の未来かな
コスモスのうすき影あり白き部屋
からつぽのあけびの実あり吾ひとり
高階の玻璃に撃突老い梟
冬蜜蜂花粉も消えて深眠り
峡谷をくだり白波冬鴎
冬日和龍馬の海の水平線
万両や老いの集る日射し石
紅葉狩り奇岩怪岩猿の貌
プレパパの手縫ひのベアー冬ぬくし
枕辺に冬ばらの散る夜の不吉
紅葉散る弔鐘なるか暁鐘か
落葉徑修行僧連の小走りに
蓑虫も気になる災に貌を出し
三色の紅葉の散華とんび舞ふ
おれ様は元気溌剌花八手
廃屋を我が家と帰燕忘れたり
故郷は心安らぐ山の秋
足腰の機嫌のよくて落葉掃き
水面には冬天映る芝離宮
神苑の冬の古木に過去偲ぶ
野猪入る殿公園の捕獲劇
雨粒や今に土にと枯蟷螂
災の地の瓦礫の上に冬の月
苔地蔵木の葉のしとね日暮れ来る
猪出るの立て札のあり紅葉狩り
天高し医師の指示受く万歩計
白雲に考の横顔冬ぬくし
麦芽ふく馬柵越し見ゆうどん県
背を曲げて両手ポケット冬の人
鐘一打古刹の紅葉宙に舞ふ
冬暁やお喋り少女だんまりて
ばらばらと降りて散り立つ寒雀
秋深し今や古稀にて不惑なり
急流や千の紅葉は渦を巻く
コスモスに風の命令右左
唐黍の高穂が騒ぐオスプレイ
戸を繰りて射止むる眼十六夜
冬薔薇好意渦巻き再会を
井戸端の万両真つ赤ははの声
二毛作生きる知恵保つ峡の秋
長生きの仲間となりて茱萸の酒
十六夜に家路忘れて立ち尽くす
新米と赤き幟の峠茶屋
おつくうの身にはりつきて堀炬燵
澄みに澄む峪水つなぎ柴漬や
独り居の無心に仰ぐ冬の月
朝寒や玻璃を横切る黒き鳥
紅葉狩り渓流下りに老い忘れ
小雪載せ恥じらふ頬や実南天
初氷指先ちょいと笑む少女
選者4名(I・K・G・M)
<特選>
85. 防人の歌碑に煌煌月あかり 恵美子
・防人の歌で思い出すのは戦時中に育った年代ですので、「今日よりは顧みなくて大君の・・・。」を一番に思い出します。防人の人達が思いを歌にして歌碑に残してある事に思いを改し、作者は月明かりの中に目に止まった一瞬を句にされた。感銘しました。
<秀句>
11. 山霧に阿蘇の放牛見失ふ 村山
<佳作>
21. 秋風や鍬打つ婆の丸き背 政子
38. 台風の倒伏稲田泣く農夫 恵美子
44. 生きて居る今日を万歳秋祭 村山
55. 枸杞の実の透ける赤さやははの恩 村山
57. 秘話哀話秘めし古城に霧流る 隆路
76. 赤とんぼ幼き頃に戦火あり 恵美子
96. 初時雨ほど良く褪せて藍のれん 隆路
97. 赤とんぼ記憶の底の焼夷弾 恵美子
<特選>
15. 天高し馬術部の馬柵越ゆる 広斉
・毛並みの美しい元気な馬術部の馬が柵を超える姿が目に浮かびます。「天高し」の季語で成り立っています。気持ちの良い御句ですね。
<秀句>
16. 捨案山子雲の去来を見て倦まず さくら
<佳作>
39. 男郞花雨滴に光る海女の墓 政子
44. 生きて居る今日を万歳秋祭 村山
52. 赤とんぼぴしりぴしりと向き変へる 隆路
54. 大地震続くみづうみ白鳥来る 由斉
63. 鎮魂や瓦礫の中の鶏頭花 村山
81. コスモスや山のあなたへ飛行雲 遊
85. 防人の歌碑に煌煌月あかり 恵美子
99. 痛みをも友と迎へて夜長かな 慶子
<特選>
97. 赤とんぼ記憶の底の焼夷弾 恵美子
・秋の夕空を赤とんぼがところ狭しと群れて飛んでいる。其の姿をみてふと頭に浮かんだのが昭和30年8月4日高松空襲である。火の雨を降らした焼夷弾を遁れて逃げ廻った思い出である。二度ときてほしくありませんね。
<秀句>
63. 鎮魂や瓦礫の中の鶏頭花 村山
<佳作>
1. 彼岸花の供花ほほを染め地蔵尊 祥
16. 捨案山子雲の去来を見て倦まず さくら
20. 無人駅とろりと青き十三夜 恵美子
29. 破れ蓮風の墓標となりし池 さくら
44. 生きて居る今日を万歳秋祭 村山
60. 穂すすきや車社会の風にゆれ 遊
79. 物差しで背掻く婆や菊日和 村山
84. 木犀や命のありて苦も消えず 遊
93. 庭叩き書院に座して一句成す Miiko
<特選>
20. 無人駅とろりと青き十三夜 恵美子
・華やかな十五夜とは違い秋の深まりの中まだ歪な月を仰ぐ。とろりと青いという借辞がそこはかとなき侘しさを絵画のように美しく浮かびあがって心惹かれる一句である。
<秀句>
70. 晩年へ時の急流霧の弥撒 村山
<佳作>
5. 曼珠沙華燃えて夕日を滴らす 隆路
11. 山霧に阿蘇の放牛見失ふ 村山
37. あきらめる事多くなり草の花 由斉
48. 仮設住ひ災を労ひ小鳥来る 村山
52. 赤とんぼぴしりぴしりと向き変へる 隆路
57. 秘話哀話秘めし古城に霧流る 隆路
92. 厚き雲海より開け月の宴 由斉
97. 赤とんぼ記憶の底の焼夷弾 恵美子
<互選>
3. 丸木橋詩心を綴り秋落輝(2)
4. 秋晴の竿に小袖のははの香や (2)
7. 山気濃し朝の宿坊初紅葉 (2)秀
19. 朝風呂に檜の香り秋清 (1)
23. 便箋に師の影よぎる秋の虹(1)
24. 鬼ごつこ目隠し取れば秋さやか (1)
28. 母の声せなに流して秋巷 (1)
31. 水澄みて濠の水深欺きぬ (1)
40. 師の句碑のお名くっきり萩の寺 (1)
41. 山椒の実妣の一言とこしへに (1)
45. むくむくと夢盛り上げて鰯雲 (1)
68. 月光の天に戻らず紅葉散る (2)
71. 破天荒の横綱逝くや秋深し (3)
72. 秋草の一つが揺れて野が揺れる (1)
87. いろは坂きらきら碧き秋の海(1)
90. マラソンの襷を渡す秋の風 (2)秀
91. 思い出も反古にやむなく焼き秋刀魚 (1)
投句一覧(10月16日)
彼岸花の供花ほほを染め地蔵尊
満月の濡れて鏡の己が顔
丸木橋詩心を綴り秋落輝
秋晴の竿に小袖のははの香や
曼珠沙華燃えて夕日を滴らす
爽やかや富士見橋より富士眺め
山気濃し朝の宿坊初紅葉
起き抜けの颱風警報只慌て
コスモスの色で揺れをり畑の絵図
鴨居より微笑む遺影菊日和
山霧に阿蘇の放牛見失ふ
切り株の年輪数ふ老いの秋
終活や亡夫のアルバム秋思かな
日行き人行き日々の城址に秋深む
天高し馬術部の馬柵越ゆる
捨案山子雲の去来を見て倦まず
吐息せば紅色揺れし酔芙蓉
芒原今日の憂ひを穗の風に
朝風呂に檜の香り秋清
無人駅とろりと青き十三夜
秋風や鍬打つ婆の丸き背
会議終へコンビニおでん食らふべし
便箋に師の影よぎる秋の虹
鬼ごつこ目隠し取れば秋さやか
長き夜あの日の夢に酔ひしびれ
鱗雲尖る山上累累と
青空に白浪重ね鰯雲
母の声せなに流して秋巷
破れ蓮風の墓標となりし池
蕎麦刈るや入り日に冷ゆる阿波の国
水澄みて濠の水深欺きぬ
日溜りに揺るるコスモス望郷や
老いどちの吾が葬語る秋夕べ
捨て猫となりて自由や秋麗
寂光院きざはし登る秋の蝶
長き夜やのばす手迷ふ睡眠剤
あきらめる事多くなり草の花
台風の倒伏稲田泣く農夫
男郞花(おとこえし)雨滴に光る海女の墓
師の句碑のお名くっきり萩の寺
山椒の実妣の一言とこしへに
蟋蟀の老いてよろよろ膝に寄る
掛け声に女担ぎ手秋の息
生きて居る今日を万歳秋祭
むくむくと夢盛り上げて鰯雲
杉の枝切り落とす音天高し
千枚田都会家族の稲穂刈
仮設住ひ災を労ひ小鳥来る
遍路鈴くさ叢過ごし野菊晴
野菊咲く道の辺歩しぬ今朝の幸
柵付きのベットの窓は鰯雲
赤とんぼぴしりぴしりと向き変へる
赤燈台放つ灯秋思かな
大地震続くみづうみ白鳥来る
枸杞の実の透ける赤さやははの恩
山葡萄沼にこぼれて鯉の口
秘話哀話秘めし古城に霧流る
代ものの獅子頭舞ふ村祭り
又一人友の先立ち身に入むや
穂すすきや車社会の風にゆれ
綱渡り野趣満つ赤や通草の実
疎まれて先へ先へと葛かづら
鎮魂や瓦礫の中の鶏頭花
村祭り一文菓子の夢の色
明け鴉群れなし高く秋唄ふ
秋冷やふはりと顔に黒い羽
石榴爆ぜ赤鬼相や猿笑ふ
月光の天に戻らず紅葉散る
鳩三羽落穂つつくか里静か
晩年へ時の急流霧の弥撒(みさ)
破天荒の横綱逝くや秋深し
秋草の一つが揺れて野が揺れる
さくさくと寺の奥まで落葉踏む
パイプオルガン綾なし開けし秋の闇
コスモスも忘れ姑の無心かな
赤とんぼ幼き頃に戦火あり
爽やかや媼に映る白スラックス
杉山の梳き目を透る秋日陰
物差しで背掻く婆や菊日和
明日へと心を残し薄紅葉
コスモスや山のあなたへ飛行雲
水垢離の「お辻」の井戸や黙す秋
秋まつり日和気にする老い元気
木犀や命のありて苦も消えず
防人の歌碑に煌煌月あかり
災人形泥の目開く秋天へ
いろは坂きらきら碧き秋の海
しがらみを解くかに村の虫送り
御手洗の柄杓ことりと秋の声
マラソンの襷を渡す秋の風
思い出も反古にやむなく焼き秋刀魚
厚き雲海より開け月の宴
庭叩き書院に座して一句成す
秋光を背に乗せ覗く脱衣婆
大漁旗秋空煽り鐘太鼓
初時雨ほど良く褪せて藍のれん
赤とんぼ記憶の底の焼夷弾
蒼天へ小鳥の咥へきし楽譜
痛みをも友と迎へて夜長かな
台風に道をゆずると物しまふ
選者4名(I・K・G・M)
<特選>
66. 露草の青に癒さる被災の地 村山
・今年は特別災害の多い年でした。テレビで見て、もどかしさを覚えます。
崩れた山壊れた住宅を見るにつけ、けなげに残っている露草の青に目がとまり、ほっとした気持ちになれた。露草の花がしっかり見えます。
<秀句>
70. 爽やかや切り株に笑む老い二人 村山
<佳作>
1. 学徒兵たりし吾も老い終戦忌 隆路
6. 今日もまた痛む骨々虫の闇 村山
8. しなやかに颱風かはすオリーブ林 由斉
20. 菜をまびく海山千里晴渡り 恵美子
32. 百幹の青の世界や竹の春 さくら
55. わたつみや記憶は永久に終戦日 恵美子
57. 災害も生きるチャレンジ生身魂 由斉
77. 師の句碑に先に来て居り秋あかね Miiko
<特選>
42. 秋天へ辻芸人の刃の手玉 小松
・休日の町の広場等で一年中よく見かける光景ですね。見たままを素直に詠まれていますが、この句は何より「秋天」の季語が生きています。澄んだ青空へ投げ上げては巧みに取るジャグリングのナイフのきらめきが映像として見え秋気まで伝わってきます。
<秀句>
74. 銀に烟る吊り橋秋の潮 さくら
<佳作>
1. 学徒兵たりし吾も老い終戦忌 隆路
11. 師の句碑に凭れかかりて萩の紅 Miiko
31. 秋霖や屋島血の池錆の浮く 村山
57. 災害も生きるチャレンジ生身魂 由斉
60. 雨音に和して虫の音あけやらず 広斉
67. 雨束ね山野攻め行く野分かな 祥
73. かみ合はぬ過去ほろほろと萩の散る 村山
75. 千枚田天まで登る曼珠沙華 由斉
<特選>
35. 核後遺五官奪はる虫の闇 村山
・1945年8月屋島、長崎に落とされた原子爆弾。何万人という人が今なお後遺症で苦しんでいる。作者も其の一人であろうか何も知らない虫達は気持ち良く秋の夜をころころと鳴き合い楽しんでいる。
<秀句>
6. 今日もまた痛む骨々虫の闇 村山
<佳作>
20. 菜をまびく海山千里晴渡り 恵美子
26. 疎遠なる友の声聞く颱風過 祥
32. 百幹の青の世界や竹の春 さくら
44. 師の句碑に語りかけるやちちろ鳴く Miiko
53. 鶏頭の重みや忽と師の逝けり 遊
57. 災害も生きるチャレンジ生身魂 由斉
65. 明日知れぬ命かかへて虫すだく 広斉
83. 瀬戸はるか重き霧笛のロマンかな 政子
<特選>
1. 学徒兵たりし吾も老い終戦忌 隆路
・終戦から73年。学徒兵として出陣された作者は筆舌に尽くし難い人生を送られた事と思われる。
齢を重ねられ平和な日々を過ごされている作者だが決して忘れられない戦争の時代。
静かな語りの中に作者の心情が迫って来る。
<秀句>
40. 穢土浄土見て来たやうに盆の僧 隆路
<佳作>
22. 初秋や古書の声聞く亡夫の間 村山
23. 霊域の蝶もからまる萩日和 Miiko
33. 葉隠れに薄紅さして椿の実 Miiko
42. 秋天へ辻芸人の刃の手玉 小松
44. 師の句碑に語りかけるやちちろ鳴く Miiko
52. 向かひ風いつか追ひ風野路の秋 遊
65. 明日知れぬ命かかへて虫すだく 広斉
80. 秋天の販売員の愛想かな 小松
<互選>
2. 食べ頃と捥ぎる手太し無花果や(1)
3. 弓なりの愛を宇宙に赤蜻蛉(2)
9. 雨傘に隠れて隠せざる秋思(2)
14. 萩詠めと師の声ふはり吾諭す(1)
18. 床下は虫の学園夜を徹し(1)
21. 救急車過ぎゆき虫の声途絶ふ(1)
24. 捕虫網城址を走る夏休み(2)
25. 曇り空墓への道は萩あかり(1)
54. 稲妻や神の鉾杉皆尖る(2)秀
63. 終戦日教へ子散るは三日前(1)
64. 小鳥来る樹齢三千年の樟(1)
86. しがらみを解くかにゆるる萩の里(2)
89. 花ことば知るや亡夫の藤袴(1)
90. 蓮の実飛ぶ永かりし過去空ろなり(3)秀
投句一覧(9月20日)
学徒兵たりし吾も老い終戦忌
食べ頃と捥ぎる手太し無花果や
弓なりの愛を宇宙に赤蜻蛉
大颱風宙ゆらゆらと五重の塔
鵙猛る崖の欅の天辺に
今日もまた痛む骨々虫の闇
秋涼しコップ溢るる地酒の味
しなやかに颱風かはすオリーブ林
雨傘に隠れて隠せざる秋思
初秋や古書の句集を紐ときて
師の句碑に凭れかかりて萩の紅
百姓に今日が始まる露の空
ちびっこの花火見あぐる顔力
萩詠めと師の声ふはり吾諭す
照りつける日差しのまろみ秋近し
新たなる出会ひと別れ水の秋
人奢り万流転の大厄日
床下は虫の学園夜を徹し
南京切るレンジ無き世のはは偲ぶ
菜をまびく海山千里晴渡り
救急車過ぎゆき虫の声途絶ふ
初秋や古書の声聞く亡夫の間
霊域の蝶もからまる萩日和
捕虫網城址を走る夏休み
曇り空墓への道は萩あかり
疎遠なる友の声聞く颱風過
近道に架かる木の橋秋時雨
干梅は紫蘇を纏ひて売られゆき
季の変はり風ひやひやとまどろめり
朝冷や上着を数に旅用意
秋霖や屋島血の池錆の浮く
百幹の青の世界や竹の春
葉隠れに薄紅さして椿の実
天怒り狂ふ強風瓢落つ
核後遺五官奪はる虫の闇
ホームまで結婚報告敬老日
湿原の草に爪たてヤンマの羽化
床下の虫の混声里ごころ
秋冷えや長閑さしんと背を走る
穢土浄土見て来たやうに盆の僧
祖の墓を浄めし水に風給ふ
秋天へ辻芸人の刃の手玉
様変り田舎の駅や蜻蛉舞ふ
師の句碑に語りかけるやちちろ鳴く
それぞれに書を読み耽る良夜かな
露はらり置きたき朝のサラダかな
竹の春嵯峨野へ急ぐ人力車
望月夜隠れ家捜す白兎
雲隠る人声遠し今朝の秋
納戸より見送る遺影鉦叩き
虫時雨夜明け励まし大合唱
向かひ風いつか追ひ風野路の秋
鶏頭の重みや忽と師の逝けり
稲妻や神の鉾杉皆尖る
わたつみや記憶は永久に終戦日
無駄話馬鹿話して秋の院
災害も生きるチャレンジ生身魂
赤蜻蛉縺れてあやす水子仏
鳴き声を陽に奪はれて虫睡る
雨音に和して虫の音あけやらず
国宝もおかまひなしと大颱風
川向かう秋呼び寄する芒の穂
終戦日教へ子散るは三日前
小鳥来る樹齢三千年の樟
明日知れぬ命かかへて虫すだく
露草の青に癒さる被災の地
雨束ね山野攻め行く野分かな
デニム干す時間の長さ秋の雲
夜を徹し鳴く虫必死命繫ぐ
爽やかや切り株に笑む老い二人
師の句碑にくすくす笑ふ萩の花
秋日和雲に死の香を重ねけり
かみ合はぬ過去ほろほろと萩の散る
銀に烟る吊り橋秋の潮
千枚田天まで登る曼珠沙華
急階段登る夢覚め律の風
師の句碑に先に来て居り秋あかね
月孤独吾も孤独と仰ぎけり
なぜかよと野分の後のざんざ雨
秋天の販売員の愛想かな
眩しきは今朝の屋島嶺敬老日
五分座し五分寝転ぶ夏疲れ
瀬戸はるか重き霧笛のロマンかな
二時間の句座の苦痛や夏疲れ
故郷の畦にわんさと曼珠沙華
しがらみを解くかにゆるる萩の里
破蓮冨を返して無の行者
傾くこと粋に映りて赤蜻蛉
花ことば知るや亡夫の藤袴
蓮の実飛ぶ永かりし過去空ろなり
選者4名(I・K・G・M)
<特選>
67. 音立てて戻る巻き尺よもぎの香 隆路
・しばらく空き地になっていた土地に新しい家でも出来るのでしょうか。測量が始まって巻尺が音立てて戻るのが、期待を持って待つ心がよく現れていて、蓬が伸びていて蓬のよい香りと未来の明るい予感のする良い句です。
<秀句>
47. 干瓢をさみどりに干し湖の村 井上
<佳作>
11. 拾はれし犬の目嬉々と夏祭り 由斉
19. 町焼けて線路の目立つ敗戦日 遊
24. 我が青春曝すが如く書を曝す 隆路
37. 黴の香の詩集に若き吾に逢ふ 隆路
56. 秋の声今日は歩くとスニーカー 由斉
64. 捩れ佇つ被爆柳や広島忌 隆路
74. 竹箒掃く新涼の音立てて 隆路
89. 原発の先は真つ赤な爆ぜ石榴 村山
103. 夜店の灯子は小使ひを握り締め 政子
<特選>
47. 干瓢をさみどりに干し湖の村 井上
・好天の早朝、湖風に干される千瓢がさみどりとは美しいですね。うっすら緑がかっているのがそのまま見えるようです。村の日常が素直に生き生き詠まれています。
<秀句>
17. いさら川水押し戻す竹落葉 広斉
<佳作>
38. 故郷の瓦礫と変る秋出水 由斉
39. 新涼の風に棹さしゆく和船 さくら
42. 蜘蛛の糸払ひ払ひて母を訪ふ 由斉
60. 夏川の綺羅の中なる観世音 村山
65. 老い松に蜩の声里心 広斉
74. 竹箒掃く新涼の音立てて 隆路
85. 蜩や又会えぬ人一り増ゆ 村山
91. 露草や解体を待つ路地長屋 村山
103. 夜店の灯子は小使ひを握り締め 政子
104. 懐かしきははの小言や鶏頭花 政子
<準佳作>
45. 郷愁や夜店のあかりに金魚玉 Miiko
<特選>
5. 鎮魂の海に雨降る終戦日 さくら
・今日は終戦記念日である。遠き日の戦争に於いて尊い命を失った兵士達の霊を慰めるがごと雨が降る。正に鎮魂の雨である。戦の為に尊い命を失った兵士達の想いが切実に表されている。
<秀句>
27. 大文字加茂の河原の恋模様 由斉
84. 天然の色香盛り上ぐ夏料理 村山
<佳作>
14. したたかに戦中戦後夾竹桃 さくら
29. 相傘に老いも若やぐ夏の雨 村山
32. 師に逝かれ小さき青柿風に落つ 村山
34. 夏霞みフェリー呑み込む瀬戸の海 広斉
41. 新涼や目覚めて今日の身の加減 祥
57. 生き御霊などと呼ばれて古稀であり さくら
82. 老齢を覚ゆる日々や蚯蚓鳴く 村山
85. 蜩や又会えぬ人一り増ゆ 村山
104. 懐かしきははの小言や鶏頭花 政子
105. 漆黒に星の清音熱帯夜 政子
<特選>
24. 我が青春曝すが如く書を曝す 隆路
・自分の生き方に大きな影響をもたらした愛読書に風を通す。なつかしき熱き青春の日々が甦ってくる。情景と共に作者の心情が伝わってくる。
<秀句>
64. 捩れ佇つ被爆柳や広島忌 隆路
89. 原発の先は真つ赤な爆ぜ石榴 村山
<佳作>
38. 故郷の瓦礫と変る秋出水 由斉
43. 枝も幹も隠れて茂りゆたかなり 小松
47. 干瓢をさみどりに干し湖の村 井上
49. 遠郭公風の閉ぢたる勝手口 広斉
67. 音立てて戻る巻き尺よもぎの香 隆路
77. 竹落葉きりきり舞ひの昨日今日 広斉
98. 紙芝居飴しやぶりつつ日焼けの児 村山
<互選>
1. 稚児の裳にひらひら寄り添ひ夏の蝶(2)
6. 秋の蠅世を点々と繋ぎをり(2)
12. 足鍛え生きながらえし阿波踊り(2)
16. AIと居間に寝転ぶ薄衣(3)秀
20. 裏参道竹の落葉に色の風(2)
21. 絶壁を覗く山行鳥渡る(1)
26. 脱け殻の下に闇あり秋の蝉(2)
28. 竹落葉日の入り込む隙もなし(2)
30. 石畳は夏日に灼けて納骨堂(2)
31. 解きまくる因数分解風涼し(1)
33. 滴りを溜めて透かせば空蒼し(2)
36. 渡り鳥行く道遥か雲に消ゆ(1)
46. 思ひ出歌謡独り聞く夜や夏の月(1)
54. 万葉の歌碑に恋歌木下闇(1)
55. 独り身の愚痴聞かですむ蝸牛(1)
58. 黄泉平坂恩師歩まん雲の峰(1)
61. 台風の進路の異常闇の未来(3)秀
66. 大雨止み水ぶねに浮く夏の月(2)
79. 送り火に石積み重ね川地蔵(1)
81. 今朝の蝉網戸に弱き声放つ(1)
90. 空蝉の風に散らじとしたたかや(1)
93. 引きし手の今日は引かれて墓参り(3)
投句一覧(8月21日)
稚児の裳にひらひら寄り添ひ夏の蝶
故郷の駅はむらさき秋の雨
若き医師齢と指摘暑気あたり
竹落葉さらさら嵯峨の人力車
鎮魂の海に雨降る終戦日
秋の蠅世を点々と繋ぎをり
体温を越ゆる熱暑や命の危
敗戦日空と海と焼跡と
青田減り人工減るに住宅化
蜻蛉舞ふ光りを背ナに燦燦と
拾はれし犬の目嬉々と夏祭り
足鍛え生きながらえし阿波踊り
涼風や夜半に目覚めて窓を閉め
したたかに戦中戦後夾竹桃
大空にがつんと触れてゴーヤの芽
AIと居間に寝転ぶ薄衣
いさら川水押し戻す竹落葉
秋近し枕に纏ふ毛の日々に
町焼けて線路の目立つ敗戦日
裏参道竹の落葉に色の風
絶壁を覗く山行鳥渡る
盆参り子に引かれての郷の道
空襲を終はると思ふ敗戦日
我が青春曝すが如く書を曝す
短夜や数会はせする締め切り日
脱け殻の下に闇あり秋の蝉
大文字加茂の河原の恋模様
竹落葉日の入り込む隙もなし
相傘に老いも若やぐ夏の雨
石畳は夏日に灼けて納骨堂
解きまくる因数分解風涼し
師に逝かれ小さき青柿風に落つ
滴りを溜めて透かせば空蒼し
夏霞みフェリー呑み込む瀬戸の海
のうぜん花喋り過ぎしと帰り道
渡り鳥行く道遥か雲に消ゆ
黴の香の詩集に若き吾に逢ふ
故郷の瓦礫と変る秋出水
新涼の風に棹さしゆく和船
滴りの岩の隙間の艶やかや
新涼や目覚めて今日の身の加減
蜘蛛の糸払ひ払ひて母を訪ふ
枝も幹も隠れて茂りゆたかなり
残る蚊の一騎に神経苛立てり
郷愁や夜店のあかりに金魚玉
思ひ出歌謡独り聞く夜や夏の月
干瓢をさみどりに干し湖の村
吾が域を守り通して睡蓮花
遠郭公風の閉ぢたる勝手口
命食む繋がり愛でて鱧の膳
古ピアノ屋移りをして秋の風
啼く虫を詩にと身内鎮まれり
転送不要しまふ抽出し胡桃材
万葉の歌碑に恋歌木下闇
独り身の愚痴聞かですむ蝸牛
秋の声今日は歩くとスニーカー
生き御霊などと呼ばれて古稀であり
黄泉平坂恩師歩まん雲の峰
地下出口待つは炎帝身の不安
夏川の綺羅の中なる観世音
台風の進路の異常闇の未来
落雷に身の飛び上がる朝まだき
緑陰や吾子に乳やり母になる
捩れ佇つ被爆柳や広島忌
老い松に蜩の声里心
大雨止み水ぶねに浮く夏の月
音立てて戻る巻き尺よもぎの香
繊細な京の匠に紫蘇届く
岩滴り受くる掌碧き水
生命の連鎖の不思議蚯蚓鳴く
萎ゆる気をジュワッと豚の大葉巻き
核執の霧散と消ゆる原爆忌
台風過ぐ災害数多暗き日々
竹箒掃く新涼の音立てて
雨粒の沁みゆく大地涼新
古刹塀紅ゆさゆさと百日紅
竹落葉きりきり舞ひの昨日今日
植田涼しケアハウスの兄見舞ひ
送り火に石積み重ね川地蔵
吟行のペン先よぎる天道虫
今朝の蝉網戸に弱き声放つ
老齢を覚ゆる日々や蚯蚓鳴く
溜池無数稲穂を守る讃岐農
天然の色香盛り上ぐ夏料理
蜩や又会えぬ人一り増ゆ
竹落葉基地に戻れぬヘリコプター
蜻蛉の舞ふ本堂や解かれゐて
盆参り私の寿命問ひてみる
原発の先は真つ赤な爆ぜ石榴
空蝉の風に散らじとしたたかや
露草や解体を待つ路地長屋
湧水のきらきら小川コガネグモ
引きし手の今日は引かれて墓参り
炎暑中お構ひなしとゴルフ狂
津波跡はは恋ひ低く夏の蝶
山百合の頭重しと黙定め
盆休み子等集ひ来て悲喜こもごも
紙芝居飴しやぶりつつ日焼けの児
台風に家族の揃ふ夕餉かな
新盆の辛党人に酒供ふ
新松子老いても固き意志三つ
夜店の火帯なし客を社殿へと
夜店の灯子は小使ひを握り締め
懐かしきははの小言や鶏頭花
漆黒に星の清音熱帯夜
選者4名(I・K・G・M)
<特選>
20. 大白蓮宙へ孤高の夜明けかな 村山
・すがすがしい気持ちの良い句です。私は早起きが苦手なので夜明けの蓮の開花には会っていませんが、「宙へ孤高」の表現で景が見えるようです。
<秀句>
43. 海の日の千波万波師を忍ぶ 政子
<佳作>
5. 千の薔薇に脳も混乱老俳徒 道子
16. 夜店待つ児の下駄の音門前町 由斉
29. 俎板にリズムをのせて胡瓜切る 政子
46. 舟虫の岩滑り落つ昼さがり 村山
52. 七夕の色紙はみ出す子の願ひ さくら
60. 形代へ深く吐きたる古稀の息 さくら
75. さ緑の斧ふりかざす子蟷螂 田淵
81. 篠笛に詩歌を添へて天の川 Miiko
<準佳作>
13.窓越しの両手バイバイ夏帽子 小松
14.組みたてて祇薗祭りの晴姿 村山
<特選>
16. 夜店待つ児の下駄の音門前町 由斉
・夜店の支度をしている夕方の門前町。もう待ちきれない子供達が浴衣姿ではしゃいでいる様子が下駄の音から伝わってきます。
<秀句>
73. 師の喪礼読経かき消す暴れ梅雨 祥
<佳作>
6. 単衣着て母の神妙稚児の列 Miiko
7. ジャスミンや落暉の海の異国めく さくら
9. 梅雨けむる駆け込み寺に老夫婦 村山
46. 舟虫の岩滑り落つ昼さがり 村山
63. 亡夫愛でし夏帽今も吾を守る 祥
69. 四方廻し人連れ廻し祇薗祭 村山
82. 夏潮の晩夏奏づる人麻呂碑 節子
90. 水打つやすぐに寄り添ふ夕の風 広斉
<特選>
89. 磊落な兜太もゆけり雲の峰 田淵
・日本の俳句会に兜太ありと言わんばかりの豪快なテレビ解説ぶりの姿が今も脳裏に浮かびあがる。其の姿を磊落ととらえた所が見事である。
<秀句>
32. キリシタン世界遺産に二重虹 Miiko
<佳作>
1. 高階の風に戸惑ふ軒風鈴 祥
5. 千の薔薇に脳も混乱老俳徒 道子
11. 井戸の西瓜ははの影浮く里の昼 村山
21. 五月雨や浮かびては消ゆ句のかけら 遊
29.俎板にリズムをのせて胡瓜切る 政子
42. 蜜柑の花香る讃岐路碧き海 由斉
53. 自分史を閉じ込めし闇黴匂ふ さくら
55. 愚に染まず孤高の色の白菖蒲 道子
<特選>
72. 先触れの雨粒一つ大夕立 村山
・空が暗くなり雨粒がひとつ顔に当たったかと思うと急に降りだし大粒の雨が地面を叩く。雨を避けて散ってゆく人達。夕方の後の涼しさや虹がかかったかも知れない空等一粒の雨から広がってゆく景色が見えてくる。
<秀句>
20. 大白蓮宙へ孤高の夜明けかな 村山
<佳作>
8. 頑張れと遺影の大き目額の花 遊
13. 窓越しの両手バイバイ夏帽子 小松
37. 箱膳の昭和忍べり祇薗祭 村山
46. 舟虫の岩滑り落つ昼さがり 村山
71. 黒南風の塗装現場に満つ匂ひ 小松
73. 師の喪礼読経かき消す暴れ梅雨 祥
82. 夏潮の晩夏奏づる人麻呂碑 節子
84. 蓮莟むすでに仏心深く抱き 洋子
<互選>
3. 天空に錦を広め大夕焼け(2)秀
4. 番犬の四肢を投げだし大昼寝(1)
12. やがて死ぬ野山変らず蝉の声(1)
18. 新酒酌み光りもろともぐいと呑む(1)
22. 木々の息重く積もれり梅雨曇(1)
24. 夏の月頬染め熱き夜明けかな(2)秀
26. 大雨も知らぬが仏蝸牛(1)
27. 集ひたるうからも老いて初鰹(1)
44. ケアハウス世間は遠し梅雨の月(2)
49. きやらぶきの辛みを馳走ひとり飯(1)
51. 宝石めきピカと夜店の林檎飴(2)
58. 婆睡るレジャーテントの涼しさに(1)
61. 晩節やすらりと今朝の紺菖蒲(1)
64. 隣合ふ箸淡々と冷や素麺(1)
77. 刻きざむ子の石棺や青嵐(2)秀
投句一覧(7月17日)
高階の風に戸惑ふ軒風鈴
師の黄泉へ宙に溢るる梅雨大雨
天空に錦を広め大夕焼け
番犬の四肢を投げだし大昼寝
千の薔薇に脳も混乱老俳徒
単衣着て母の神妙稚児の列
ジャスミンや落暉の海の異国めく
頑張れと遺影の大き目額の花
梅雨けむる駆け込み寺に老夫婦
若葉雨木々の歓声ひたひたと
井戸の西瓜ははの影浮く里の昼
やがて死ぬ野山変らず蝉の声
窓越しの両手バイバイ夏帽子
組みたてて祇薗祭りの晴姿
熱帯夜の朝の鏡の八十路顔
夜店待つ児の下駄の音門前町
一筋の朝日にポンと蓮の花
新酒酌み光りもろともぐいと呑む
浄土かと見る蓮の池紅の風
大白蓮宙へ孤高の夜明けかな
五月雨や浮かびては消ゆ句のかけら
木々の息重く積もれり梅雨曇
雨模様四葩ふるふる黄昏と
夏の月頬染め熱き夜明けかな
蓮の葉の禪問答や青き風
大雨も知らぬが仏蝸牛
集ひたるうからも老いて初鰹
時あれど句作は難し薄衣
俎板にリズムをのせて胡瓜切る
あめんぼう独り暮しを宝運と
父の日や神を白亜の波尖る
キリシタン世界遺産に二重虹
朝な夕な猪口一杯の一夜酒
冷房や浄土に安堵の師のお顔
帰り来て扇風機前坐り込み
蟻地獄瓦礫抜け出す日の遥か
箱膳の昭和忍べり祇薗祭
ベランダの胡瓜の気儘鳥笑ふ
夏至の雨明るさ少し残し消ゆ
梅雨曇り関わり薄ケアハウス
明日咲くと香りたばぬる撫子や
蜜柑の花香る讃岐路碧き海
海の日の千波万波師を忍ぶ
ケアハウス世間は遠し梅雨の月
旭日旗の日矢をはなてり紅睡蓮
舟虫の岩滑り落つ昼さがり
夏の風開きてすすむ自転車よ
夕立止み草の香四方に深き息
きやらぶきの辛みを馳走ひとり飯
名園やほんに色よき杏つ子
宝石めきピカと夜店の林檎飴
七夕の色紙はみ出す子の願ひ
自分史を閉じ込めし闇黴匂ふ
外灯の心もとなし梅雨の窓
愚に染まず孤高の色の白菖蒲
台風来雨風毒す列島を
突風のさらひし夏帽一張羅
婆睡るレジャーテントの涼しさに
にっこりとチョキする指に夏の光
形代へ深く吐きたる古稀の息
晩節やすらりと今朝の紺菖蒲
神妙に出る汗稚児の手を曳けば
亡夫愛でし夏帽今も吾を守る
隣合ふ箸淡々と冷や素麺
寄せ植の山河潤ふ梅雨雫
夏帽子階段見上げ思案顔
此処は故郷祇薗祭りの考の肩
海神の魔法解けざる夜行虫
四方廻し人連れ廻し祇薗祭
碧き海目の前にしてプール込み
黒南風の塗装現場に満つ匂ひ
先触れの雨粒一つ大夕立
師の喪礼読経かき消す暴れ梅雨
夏惜しむ自販機光る塾帰り
さ緑の斧ふりかざす子蟷螂
夏至の日の手引き歩行の婆の笑み
刻きざむ子の石棺や青嵐
真偽通す閻魔の鏡の夏埃
蓮波にふはり浮きたし天女のごと
句談議の一門清し葭障子
篠笛に詩歌を添へて天の川
夏潮の晩夏奏づる人麻呂碑
百合の花あふるるほどに忌を修す
蓮莟むすでに仏心深く抱き
線香花火今昔繋ぐ家族愛
実梅落つ百寿の母の小言かと
姫女菀のさ揺れ明るき万葉句碑
韮の花手折るや咎の指匂ふ
磊落な兜太もゆけり雲の峰
水打つやすぐに寄り添ふ夕の風
選者4名(I・K・G・M)
<特選>
104. 朝の陽に男ひとりの田植かな 遊
・田植の季節になりました。男性ひとりの田植の姿、今の世の高齢化をよく表現出来ていて、若人は都会に出ており高齢の親の世代が農業を支えている様子、景色が見えて来ます。朝の陽に救われています。
<秀句>
51. 睡蓮てふ小さき幸せ水に置く 政子
<佳作>
21. 終末を自問自答や梅雨の夜 遊
29. 児の髪のカールも愛し柿若葉 武田
43. 大地茫々ゴッホの色の麦の秋 Miiko
46. 一本の線に繋がる夜店の灯 広斉
52. マロニエの紅き花房天を指す 三香穂
79. 茄子漬けの見事な藍に和む朝 村山
84. 水草生ふ母郷は水も日もやさし 田淵
102. 夏苔に余生のごとく甕坐り Miiko
<特選>
40. 山に嫁し山に老いゆく朴の花 恵美子
・さらっと詠まれていますが、この方の人生が窺われます。縁あって嫁いだ山の生活には山ならではの厳しさがあり、それを受け入れ、努めて馴染みつつ年を重ねて来られたのでしょう。この朴の花は山の神か天からの贈物のようではありませんか。
<秀句>
10. パナマ帽かぶせて棺を閉ざしけり 田淵
43. 大地茫々ゴッホの色の麦の秋 Miiko
<佳作>
22. 団子虫掌に反抗児梅雨の庭 村山
24. 短夜や母の寝姿見ずじまい 田淵
26. 家といふ枷を背負ひて蝸牛 さくら
47. 仮り住みを終の住家に額の花 遊
84. 水草生ふ母郷は水も日もやさし 田淵
93. それぞれの本音呑み込むビヤガーデン 村山
99. 家流れ汚泥の庭に額紫陽花 村山
<特選>
26. 家といふ枷を背負ひて蝸牛 さくら
・蝸牛は自分の住居という殻を背負いて生まれてくる。一刻も離れずに行動しなければならない、便でもあり不便でもある。
「家と言ふ枷」が言い得て妙である。
<秀句>
45. 石庭の砂紋乱るるついりかな さくら
<佳作>
2. 妣を仰ぐ高さにひらき桐の花 Miiko
14. 夏野菜の荷へ糶市の声が飛ぶ 恵美子
22. 団子虫掌に反抗児梅雨の庭 村山
51. 睡蓮てふ小さき幸せ水に置く 政子
64. 子供たりし頃の塩浜茨咲く 芙美子
76. 手枕のうたた寝破る日雷 村山
93. それぞれの本音呑み込むビヤガーデン 村山
109. 艱難辛苦の世を生き八十路麦の秋 恵美子
<特選>
49. 先づ一つ袋を外す庭の枇杷 祥
・果実を鳥や風の害から守る為に一つ一つ手間をかけて袋を被せる。その袋を外す時のワクワク感が伝わって来る。
立派に育った枇杷が見えて来ました。
<秀句>
9. 短夜や乏しき会話夫として 政子
<佳作>
10. パナマ帽かぶせて棺を閉ざしけり 田淵
46. 一本の線に繋がる夜店の灯 広斉
65. 溜池の青空辷るあめんぼう 広斉
68. 紫陽花の毬に隠れし魔除け札 恵美子
72. 夏瘠せに動く度鳴る骨の音 村山
76. 手枕のうたた寝破る日雷 村山
84. 水草生ふ母郷は水も日もやさし 田淵
93. それぞれの本音呑み込むビヤガーデン 村山
<互選>
1. 汀へと鳴き砂を踏む夏の朝(2)
3. 日傘かげもらひ和みてバスを待つ(1)
7. 鈴蘭の切らるる事の無き未来(2)秀
12. 車洗ふ水のしぶきの小さき虹(1)
18. 月下美人今夜開くと回覧板(1)
20. 新緑に溺れさうなり街公園(3)
25. 青天へ節も百歳今年竹(1)
30. 咲き終へてぎゆつと拳の花菖蒲(2)
31. 十薬の匂ひ満ち満つ老いの坂(2)
32. 愛しさや梅雨の小鳩の頷き来る(1)
33. スリーブレス着れぬ老い腕夏悲し(1)
35. 見ざる聞かざる言葉失せ行く涅槃西(3)秀
38. 憎きかな蚊取り線香捜す夜半(1)
41. 大朝焼け高階の吾彩の中(2)秀
42. メダカ追ふ夢の楽しやさ朝寝坊(1)
50. 隠滅の出来ぬ証や桑の実食ぶ(1)
56. ゆっくりと時を辿りて蝸牛(3)秀
62. 夜店にて遊びし友も今は星(1)
73. 蓮池の栄枯盛衰青芽伸ぶ(3)
74. 炎天下盲導犬の舌長し(2)秀
78. 花咲けば竹は死にゆく不思議かな(1)
80. 子を連れてゆつくり遊ぶ夜店かな(1)
85. 蜘蛛の糸壊れ門灯虜にし(1)
87. 五風十雨一山きらきら滴れり(1)
89. 梅雨冷えの朝の戸惑ひ傘寿かな(1)
92. 神さぶや地に着きさうに藤の糸(1)
94. 亡き娘育てるやうに桜守り(2)秀
98. 炎天に噴水虹の光り撒く(1)
100. 芒種待つ水面に注ぐ風一波(1)
103. 世事遠く殻に眠りて蝸牛(1)
108. 釣りし魚小さきも工夫夏料理(1)
投句一覧(6月12日)
汀へと鳴き砂を踏む夏の朝
妣を仰ぐ高さにひらき桐の花
日傘かげもらひ和みてバスを待つ
雨蛙空を見上げて泪かな
梅の実や婿頼もしき公文書
香る杜青空極む泰山木の花
鈴蘭の切らるる事の無き未来
うばら咲く淋漓と水なき小流れに
短夜や乏しき会話夫として
パナマ帽かぶせて棺を閉ざしけり
筍やかんぽの宿をたづねゆく
車洗ふ水のしぶきの小さき虹
梅雨続く腰痛目覚む昨日今日
夏野菜の荷へ糶市の声が飛ぶ
大ものを釣らんと舟に夏の海
友逝きて此の世の吾は梅雨雲
雨蛙雨のきざしか声高し
月下美人今夜開くと回覧板
夏落葉車道ころころ風の追ふ
新緑に溺れさうなり街公園
終末を自問自答や梅雨の夜
団子虫掌に反抗児梅雨の庭
薄闇の石垣隙間に瑠璃蜥蜴
短夜や母の寝姿見ずじまい
青天へ節も百歳今年竹
家といふ枷を背負ひて蝸牛
泣き笑ひ嵯峨急流の舟遊び
雨蛙じつと静かに何を待つ
児の髪のカールも愛し柿若葉
咲き終へてぎゆつと拳の花菖蒲
十薬の匂ひ満ち満つ老いの坂
愛しさや梅雨の小鳩の頷き来る
スリーブレス着れぬ老い腕夏悲し
薔薇園を見えつ隠れつはしやぐ声
見ざる聞かざる言葉失せ行く涅槃西
梅雨の窓起重機終日働きて
開ききり過去の美遙か紫木蓮
憎きかな蚊取り線香捜す夜半
御開帳秘仏の背負ふ五月闇
山に嫁し山に老いゆく朴の花
大朝焼け高階の吾彩の中
メダカ追ふ夢の楽しやさ朝寝坊
大地茫々ゴッホの色の麦の秋
庭一面白百合の夢被昇天
石庭の砂紋乱るるついりかな
一本の線に繋がる夜店の灯
仮り住みを終の住家に額の花
路地奥とてびつしりぴかぴかプチトマト
先づ一つ袋を外す庭の枇杷
隠滅の出来ぬ証や桑の実食ぶ
睡蓮てふ小さき幸せ水に置く
マロニエの紅き花房天を指す
黒南風に南洋の香も湿りけり
古葉書の文字なつかしき薄暑かな
屍に泣き伏す友や梅雨滂沱
ゆっくりと時を辿りて蝸牛
何も彼も窓の外とし梅雨ごもる
推敲に重ね推敲夜の短か
野草展小さきすみれに身に留る
平成の御代を言祝ぐ松の芯
老いの坂登りつめたる朴の花
夜店にて遊びし友も今は星
夏夕焼け羽衣空に旅支度
子供たりし頃の塩浜茨咲く
溜池の青空辷るあめんぼう
狭間田に蛙の恋や啼く子犬
花菖蒲黄金色なる新品種
紫陽花の毬に隠れし魔除け札
釣り揚げし魚の美味や夏夕餉
梅雨晴間こころ弾めど足たたず
空豆や味見と手ひら妣想ふ
夏瘠せに動く度鳴る骨の音
蓮池の栄枯盛衰青芽伸ぶ
炎天下盲導犬の舌長し
菖蒲園起伏を繋ぐ風の色
手枕のうたた寝破る日雷
花菖蒲ベンチの風を七色に
花咲けば竹は死にゆく不思議かな
茄子漬けの見事な藍に和む朝
子を連れてゆつくり遊ぶ夜店かな
餡蜜や積もる話の山とあり
夏満月眠る吾子守る若き母
梅雨晴れや卒寿に案内クラス会
水草生ふ母郷は水も日もやさし
蜘蛛の糸壊れ門灯虜にし
八つ橋を飾り瑠璃濃き杜若
五風十雨一山きらきら滴れり
花万朶老の心をもも色に
梅雨冷えの朝の戸惑ひ傘寿かな
夜店にてポンポン船を日の遙か
葉隠れに重たき数の実梅かな
神さぶや地に着きさうに藤の糸
それぞれの本音呑み込むビヤガーデン
亡き娘育てるやうに桜守り
落雷におごる我が身を振り返る
青東風やモンロー腰の松の幹
母の日や無駄話にも光るもの
炎天に噴水虹の光り撒く
家流れ汚泥の庭に額紫陽花
芒種待つ水面に注ぐ風一波
うばら咲く淋漓と水なき小流れに
夏苔に余生のごとく甕坐り
世事遠く殻に眠りて蝸牛
朝の陽に男ひとりの田植かな
米中韓外つ国寄せる花の宴
塀登り隣合はせの朝顔よ
我ここに天にむかひて桐の花
釣りし魚小さきも工夫夏料理
艱難辛苦の世を生き八十路麦の秋
雑音をすっぽり閉ざし睡蓮花
選者4名(I・K・G・M)
<特選>
47. 豆飯や母の絣の白光る 村山
・今の季節豆御飯がおいしいですね。私ももう二回作りました。一家団欒の声まで聞こえて来るようで、お母さんの甲斐甲斐しい絣の着物姿まで見えて来ます。
<秀句>
54. ひなげしや風に心を広げ合ひ 広斉
<佳作>
10. 麦笛の鳴らず泣きたる妣の膝 村山
11. 春雷の不意の一撃決断す 武田
15. 石室の奥に潜みぬ五月闇 さくら
66. 山を染め絵本の世界山躑躅 村山
70. 湿原に無言貫く座禅草 由斉
71. 新緑に今朝の心を整へし 政子
<特選>
4. 面影や俯きぐせにえごの花 芙美子
・俯きぐせで面影が見えるのと、作者のその方へ寄せる情熱が表れているので頂きましたが、一句として、えごの花が俯きぐせとするより(花の形で見えているので)面影が俯きぐせとした方がむしろよろしいかとも思いました。
面影の俯きぐせやえごの花
<秀句>
37. 応援歌はじき合ふかに若葉風 村山
<佳作>
15. 石室の奥に潜みぬ五月闇 さくら
28. 花みかんの酸味けむれる文学碑 芙美子
51. 腸までつらぬく冷や心太 御井子
53. 老鶯や眼なじり深き九品仏 武田
59. 五月闇鎖渡しの行者道 さくら
84. 墳山の木々唄ふかに若葉風 芙美子
<準佳作>
39. 傘ささず若葉滴に染まる朝 由斉
62. 筍の鍬疵深きを貰ひけり 御井子
77. いさら川波打ち石に夏の蝶 村山
83. 新樹雨烟るかに降り地を濡らす 三香穂
<特選>
11. 春雷の不意の一撃決断す 武田
・あれこれと考え決め兼ねている時、一天掻き曇り不意を撃つ雷の一撃に心は決まったのである。不意の一撃が良い。
<秀句>
43. 青空を持ち上ぐピンク山躑躅 広斉
<佳作>
15. 石室の奥に潜みぬ五月闇 さくら
36. 陽炎や残る月日も句を愛し 遊
62. 筍の鍬疵深きを貰ひけり 御井子
64. 立て看の消ゆる街角新樹光 小松
76. 松落葉集め風呂たく杣住ひ 村山
82. 夏落葉諸行無常の世に生きて 光
<特選>
53. 老鶯や眼なじり深き九品仏 武田
・里を離れ山に入った鶯は鳴き声も澄んで大きく活発になる。笹子から老鶯になってゆく過程に自分の生きざまを重ねて考えさせられる一句である。老鶯と九品仏の取り合わせが絶妙。
<秀句>
11. 春雷の不意の一撃決断す 武田
<佳作>
24. 若葉目に染み入るほどの村に住み 田淵
31. 追慕つと橋の袂の花あやめ 政子
62. 筍の鍬疵深きを貰ひけり 御井子
70. 湿原に無言貫く座禅草 由斉
71. 新緑に今朝の心を整へし 政子
82. 夏落葉諸行無常の世に生きて 光
<互選>
2. お手前の僧の青き眼沙羅散華(4)秀
3. 風五月光の中へ招かるる(3)秀
5. 梅雨の庭降るを確む水たまり(1)
6. 京北山杉ふかぶかと五月闇(2)
8. トンネルの上をピンクにつつじ吼ゆ(1)
12. 休憩所監視カメラに緑さす(1)
14. どの枝も風見過ごさぬ杜若葉(1)
18. 届きたるホ句の朗報春爛漫(1)
21. 菖蒲湯に子の笑み二つ絡み合ひ(1)
33. 見えぬ眼の眼鏡を探す五月闇(1)
38. 髪束ね夏めく朝の厨妻(2)
41. 袋かけ落とす実惜しむ庭果実(2)
48. 母の日のプリザーブド花溜まりゆく(1)
52. 光陰を止めるすべなく五月闇(1)
58. 高階に居座り暮るる五月雨(1)
67. 閘抜けば怒涛のごとし大師の池(2)
74. 思うこと仏にゆだね苺狩り(2)秀
81. 若葉風犬も坐りて動かざり(1)
85. 晩年の先はまぼろし白菖蒲(2)秀
投句一覧(5月15日)
母の日の娘のおとずれや外は雨
お手前の僧の青き眼沙羅散華
風五月光の中へ招かるる
面影や俯きぐせにえごの花
梅雨の庭降るを確む水たまり
京北山杉ふかぶかと五月闇
お目出度の続く未来図新樹光
トンネルの上をピンクにつつじ吼ゆ
四世代のねぐら違へど昭和の日
麦笛の鳴らず泣きたる妣の膝
春雷の不意の一撃決断す
休憩所監視カメラに緑さす
早起の風を喜ぶ鯉のぼり
どの枝も風見過ごさぬ杜若葉
石室の奥に潜みぬ五月闇
今日明日と姿変へゆく青葉山
麦畑自転車並ぶ駅の前
届きたるホ句の朗報春爛漫
山笑ひ結願大師の慈悲まなこ
一品の役目黙もく冷奴
菖蒲湯に子の笑み二つ絡み合ひ
金泥に繕ひありし古茶の壺
たんぽぽの草笛競ふ下校の児
若葉目に染み入るほどの村に住み
烏麦垂れる姿をいとおしむ
処何へとおしやれ男の夏帽子
背ナ光る山女追ひたる日の遥か
花みかんの酸味けむれる文学碑
野良着脱ぎ暮れゆく平野麦畑
春色の山に茅葺き日暮亭
追慕つと橋の袂の花あやめ
夫の居て麻のエプロンしめなほす
見えぬ眼の眼鏡を探す五月闇
早々と朝のざわめきつばめ来る
何処へ行くどちら向いても麦畑
陽炎や残る月日も句を愛し
応援歌はじき合ふかに若葉風
髪束ね夏めく朝の厨妻
傘ささず若葉滴に染まる朝
つつじ燃ゆ古い駅舎や母の影
袋かけ落とす実惜しむ庭果実
貞淑の白さひらひら白牡丹
青空を持ち上ぐピンク山躑躅
永らへば夫の新盆ねんごろに
アイリスのむらさき映ゆる尼の寺
みどり照る山坂緩と老夫婦
豆飯や母の絣の白光る
母の日のプリザーブド花溜まりゆく
種々雑多鳥声響く青葉山
散歩群の声に起さる初夏の朝
腸までつらぬく冷や心太
光陰を止めるすべなく五月闇
老鶯や眼なじり深き九品仏
ひなげしや風に心を広げ合ひ
五月晴むすびに目鼻ののぼりかな
虞美人草修学旅行の駅ホーム
手を合す地蔵を撫づる夏の蝶
高階に居座り暮るる五月雨
五月闇鎖渡しの行者道
詩詠むやはなむけのごと夏の蝶
海亀来る浜に活気や観てあかず
筍の鍬疵深きを貰ひけり
寧日を風人と洒落緑陰に
立て看の消ゆる街角新樹光
天の水や色はなやぎぬ庭つつじ
山を染め絵本の世界山躑躅
閘抜けば怒涛のごとし大師の池
若葉燃ゆ早起き雀姦しや
裸婦像の肩に一滴新樹雨
湿原に無言貫く座禅草
新緑に今朝の心を整へし
山女釣り一つの盤に兄妹
風に揺るひなげし招く朝散歩
思うこと仏にゆだね苺狩り
今生の最後と仰ぐ沙羅散華
松落葉集め風呂たく杣住ひ
いさら川波打ち石に夏の蝶
句作一途句帳に滴る青葉雨
誘惑の彩ひらひらと虞美人草
薄命の刻を盛んにえご散れり
若葉風犬も坐りて動かざり
夏落葉諸行無常の世に生きて
新樹雨烟るかに降り地を濡らす
墳山の木々唄ふかに若葉風
晩年の先はまぼろし白菖蒲
選者3名(I・K・M)
<特選>
42. 玄関に溢る春泥島診療 由斉
・島の診療所の玄関の靴の泥に気付いて医療機関も少なく家庭的な診療所で老若の病人の靴に気がつき出来た句だと思います。白衣の先生、小さい子供達の様子等想像の広がる良い句でした。
<秀句>
76. 花吹雪みな幸せな顔にみえ 遊
<佳作>
16. 自転車に空気いつぱい春の風 小松
19. 盛る器選るも喜び花菜和へ 政子
41. 紙芝居待ちし昭和や春うらら 村山
49. 筍の土を破りて世をちらと 村山
80. 散りてなほ川面をいやす桜花 広斉
81. 木の芽吹く物言ひたげに天を突く 村山
97. 風呂敷を二枚広げて花の下 村山
98. 子遍路の両手にあまるお接待 田淵
<特選>
46. 下校の児押し合ひ覗く蝌蚪の紐 広斉
・写生が効いていて児童の様子が生き生き見え、声まで聞こえてきそうです。学校帰りにこんな所があるのは幸せですね。
<秀句>
98. 子遍路の両手にあまるお接待 田淵
<佳作>
11. 風に日に移ろい易き花の刻 さくら
24. 梵鐘に返す鈴の音徒遍路 藤
28. 湖うらら光の侏儒跳ね遊ぶ 洋子
39. 日を抱きて梢の鼓動春動く 村山
61. 一閃の音を遠くに春の雷 村山
71. 花冷や甕の細ひび袈裟懸けに 田淵
99. 花筏川幅うめて橋くぐる 遊
100. 光陰を重ね老桜洞を抱く 村山
<準佳作>
43. 身の内にこの白さ欲し利久梅
53. 綾取りの糸を操る指うらら
64. 花乱舞口あけ走る男の児
76. 花吹雪みな幸せな顔にみえ
<特選>
7. 葉桜やいつかてふ日は来ぬままに 芙美子
・「又いつかね」と先延ばしにしてしまった。そのいつかははや来る事の無いままに花は散り葉桜となってしまった。深い後悔に繋がる一事があったのかも知れない。
<秀句>
33. 花吹雪ぞつこん浴びて晩年へ 武田
<佳作>
3. 花乱舞閉校となる小学校 由斉
38. 花冷や身より心に泌みるもの Miiko
46. 下校の児押し合ひ覗く蝌蚪の紐 広斉
49. 筍の土を破りて世をちらと 村山
61. 一閃の音を遠くに春の雷 村山
81. 木の芽吹く物言ひたげに天を突く 村山
86. 春日や光まみれの花婿に 芙美子
91. 囀りを吸ひ込む洞や神の樟 由斉
<互選>
1. 友の訃報メガネに滲む落椿(1)
4. 川の声聞きつつ登る花の山 (1)
5. 受験子の落ちて鼻唄とまどへる(3)秀
6. 日向ぼこ猫を相手に愚痴一つ(1)
8. 老いの身に寒の戻りぞ骨に沁む(1)
9. 春釣りや期待の魚に餌取られ(1)
21. 三千院女独りの花見旅(2)
23. それぞれに光集めて花の散る(1)
30. 春光をたたむ階奥の院(3)
36. 花冷の甕をめぐれる罅あまた(1)
45. 春潮に此の世の汚濁浮き沈み(1)
52. 蒲公英の穂絮夢のせ大空へ(3)秀
54. 便箋のうすきピンクや春立てり(2)
55. 山桜の社を包みて風遊ぶ(1)
56. 生きているつぶやき楚々と春の土(2)
57. 蒲公英は誰にも負けぬ黄を掲げ(3)
60. 一人旅のホームの時計ははの笑み(1)
65. 春光の辷り落ち行く杉の谷(2)秀
69. 花冷や絹糸ほどの甕の罅(1)
75. 木の芽風ホームに溢れ発車ベル(1)
77. 恋鳩のくくとくぐもる園の春(1)
84. 空映る川面の鯉に花吹雪(1)
90. 桜散る人の饒舌もてあまし(1)
93. 春愁は犬にもありや目を細め(1)
95. 裏庭に老のよすがや初音きく(1)
投句一覧(4月17日)
友の訃報メガネに滲む落椿
鶴亀の松ほのと濡らして春の雨
花乱舞閉校となる小学校
川の声聞きつつ登る花の山
受験子の落ちて鼻唄とまどへる
日向ぼこ猫を相手に愚痴一つ
葉桜やいつかてふ日は来ぬままに
老いの身に寒の戻りぞ骨に沁む
春釣りや期待の魚に餌取られ
新緑の低き乍らも山美しき
風に日に移ろい易き花の刻
松籟を聴く句に一輪白侘助
庭潦子雀三羽朝化粧
5・7・5に命刻みて花を詠む
世の奈落ものとも花は輝きて
自転車に空気いつぱい春の風
友の葬ふり返る道白木蓮
もてあます五体にせまる春の雨
盛る器選るも喜び花菜和へ
名園の歴史訪ねば亀鳴けり
三千院女独りの花見旅
民芸館奉公人形も冷えのぼせ
それぞれに光集めて花の散る
梵鐘に返す鈴の音徒遍路
桜吹雪川沿ひを行く母と児に
五千本宙ゆる花の吉野山
万緑のかもす不安や人の性
湖うらら光の侏儒はね遊ぶ
白珠の馬酔木ほろほろひそか雨
春光をたたむ階奥の院
産土や夫添ふ如く春の風
葬送や友の思ひの春の雨
花吹雪ぞつこん浴びて晩年へ
空気入れしこしこ踏める遅日かな
散りゆける残んの花に風の私語
花冷の甕をめぐれる罅あまた
春眠や体の調定まらず
花冷や身より心に泌みるもの
日を抱きて梢の鼓動春動く
春光や鼉太鼓の鼉の怪しき字
紙芝居待ちし昭和や春うらら
玄関に溢る春泥島診療
身の内にこの白さ欲し利久梅
花筏のぞけば鯉の寄りて来て
春潮に此の世の汚濁浮き沈み
下校の児押し合ひ覗く蝌蚪の紐
さくらさくら曼荼羅なして山暮るる
春眠や定期便の音夢破る
筍の土を破りて世をちらと
花粉症病むにまかせて市民権
春風を纏ひひたすらウキながむ
蒲公英の穂絮夢のせ大空へ
綾取りの糸を操る指うらら
便箋のうすきピンクや春立てり
山桜の社を包みて風遊ぶ
生きているつぶやき楚々と春の土
蒲公英は誰にも負けぬ黄を掲げ
梨の花の実はいつか問ふ園の児ら
聞き直す句友の死別落椿
一人旅のホームの時計ははの笑み
一閃の音を遠くに春の雷
花見頃回り道する亡夫の郷
桜散る名優の船燃え盛る
花乱舞口あけ走る男の児
春光の辷り落ち行く杉の谷
日曜市のトマトよる母年季入る
しなやかに白球投ぐ子雪柳
春帽子に靴も合して街闊歩
花冷や絹糸ほどの甕の罅
へんろ笠の奥からハロー異人さん
花冷や甕の細ひび袈裟懸けに
いつ花一花蕾立ちあぐ白木蓮
春休み垣根飛び来るボール多々
白木蓮莟うきたつ日は西に
木の芽風ホームに溢れ発車ベル
花吹雪みな幸せな顔にみえ
恋鳩のくくとくぐもる園の春
さくら照るライトアップの人出中
寒の戻り奉公さんのほてり顔
散りてなほ川面をいやす桜花
木の芽吹く物言ひたげに天を突く
荷の端に置かれし虎杖母は亡く
あまき香に風も酔ひたり桃の花
空映る川面の鯉に花吹雪
吾が長き影と共々夕遍路
春日や光まみれの花婿に
アイスクリーム欲りて石段杖の婆
千尋を垂れて花の瀧となる
青空に白光放ち雪柳
桜散る人の饒舌もてあまし
囀りを吸ひ込む洞や神の樟
太陽をつかみ合ひして白木蓮
春愁は犬にもありや目を細め
諦めて引き寄す綱に大海月
裏庭に老のよすがや初音きく
鴨引いて波は光とランデブー
風呂敷を二枚広げて花の下
子遍路の両手にあまるお接待
花筏川幅うめて橋くぐる
光陰を重ね老桜洞を抱く
・アスファルトわれめに土筆ピンと立つ
・風吹いてスズメの子供落ちてきた
・瀬戸の風集めてヨット一列に
・叩かれて野火の一気に燃え上がる
選者3名(I・K・G)
<特選>
105. 土筆摘み好きな叔母待つ幼き日 村
・高齢になると思い出が多くなり土筆の出る季節になると幼き日に姉や姉の友達と土筆を摘んだ思い出があります。「好きな叔母待つ」が良かったですね。
<秀句>
54. 杖変へて気持あらたに梅見会 祥
<佳作>
15. 晩節を汚さぬやうに青き踏む 芙
28. 木々芽吹く運の強さに永らへて 村
36. さよならと振る手凍てつく比叡山 由斉
38. 天上の便りせつせつ春の雪 Miiko
77. 竹垣の竹の濃みどり濃紅梅 Miiko
80. 一輪車少女の笑みとたんぽぽと 村
95. 春炬燵ものの一つのやうな爺 芙
100. 梅守の今日の地下足袋真新なる 恵美子
<特選>
83. フリージヤの香りを残しバス降りる 祥
・素直な、そのままを詠んだようですが、季語のフリージャがとても生き生き感じられて、よく解ります。
<秀句>
69. 直線を貫き通し竹の秋 政子
<佳作>
15. 晩節を汚さぬやうに青き踏む 芙
25. 古巣抱く庭の黒松芽吹き初む 由斉
27. 風花を追ひかけ追ひかけ夜行バス Miiko
40. 満開の梅の香も入れシャッター切る 澄子
44. 車椅子の野点の人や梅日和 祥
46. 財布に鳴る小鈴ちりりと朝の梅 Miiko
56. 百までの予定表くみ山笑ふ 村
101. 鮨握るに指よくしなふ梅の宿 恵美子
<特選>
76. 春の月山の目覚めを誘ひ落つ 祥
・東の空は今まさに夜明けのきざしあり山々は眠りから覚めその姿を今表さんとしている。月は山々の目覚め大地の目覚めを促しつ静かに落ちて行く夜明けの姿が良く表されている。誘い落つに引かれた。
<秀句>
13. 老いが老い看取る春愁渕深き 由斉
<佳作>
2. 氷上演技の双手は翼春を舞ふ Miiko
6. じっくりと推敲の夜の風信子 Miiko
40. 満開の梅の香も入れシャッター切る 澄子
51. 落日の独りは淋しさくらもち 村
56. 百までの予定表くみ山笑ふ 村
58. 銀盤を跳ねて舞ふ宙冴返る Miiko
80. 一輪車少女の笑みとたんぽぽと 村
95. 春炬燵ものの一つのやうな爺 芙
<互選>
1. 芹を摘む武蔵野跳ねる鳥の声(1)
3. 昼風呂に駄句を沈ませ春うらら (1)
4. 偕老のそろりそろりと花見園(2)
7. もてなしの極意満ちたる春の膳(1)
8. 啓蟄や猫あたりまへに塀歩く(2)秀
9. お抹茶の春告げる味京老舗(2)秀
11. 香に揺れて思惟ふはふはと梅の空(1)
14. 冷蔵庫に開く菜の花独り居や(1)
16. 老いの家に賃貸はなし春怒濤(2)
20. 個性あり華あり園の梅千本(3)
22. 木の芽張る山下る水さはさはと(1)
24. 老いの身も赤き血ながる木の芽時(4)秀
41. 今日を生き今日残さんと落ち椿(1)
45. 啓蟄や朝のお粥のふきこぼれ(1)
64. 一年振りと裏の畦道つくしんぼ(1)
66. 景石に生きとし生きる地虫出づ(2)
68. 二万本の梅に動かぬ足動き(1)
70. 津波あと救ひの光りいぬふぐり(3)秀
74. 枝垂梅性に従ひさからはず(3)秀
75. 五感にぶり如何に生きむと永き日や(1)
78. 鳥曇われの心も墨色に(2)
88. 蒼天を懸け晴着の如きしだれ梅(5)秀
93. 紅梅のほのと香りて思惟の道(3)
99. 啓蟄や老いの虚ろの埋めきれず(2)
104. 梅林真中女王のごとき濃紅梅(1)
投句一覧(3月13日)
芹を摘む武蔵野跳ねる鳥の声
氷上演技の双手は翼春を舞ふ
昼風呂に駄句を沈ませ春うらら
偕老のそろりそろりと花見園
ドアを閉め指先残り泣きの春
じっくりと推敲の夜の風信子
もてなしの極意満ちたる春の膳
啓蟄や猫あたりまへに塀歩く
お抹茶の春告げる味京老舗
陰影の美の凝縮や利休の忌
香に揺れて思惟ふはふはと梅の空
部屋住みの鉢の古木新芽生ゆ
老いが老い看取る春愁渕深き
冷蔵庫に開く菜の花独り居や
晩節を汚さぬやうに青き踏む
老いの家に賃貸はなし春怒濤
春の風聞こへぬ耳の扉押す
今際の友脳裏離れず春愁や
古古木時告ぐ如く梅二輪
個性あり華あり園の梅千本
氷上に無限の力未来光
木の芽張る山下る水さはさはと
柳の芽洗ふ加茂川堰とうとう
老いの身も赤き血ながる木の芽時
古巣抱く庭の黒松芽吹き初む
屋島山芽吹きの色増す目路限り
風花を追ひかけ追ひかけ夜行バス
木々芽吹く運の強さに永らへて
都大路行き交ふ人のみんな春
膝に開く風呂敷づつみ櫻餅
木の芽和永らふ過去を振り返り
青空に胸を広げて花を待つ
三月の白き光りに目を細め
茶の花や女子は控えめ昭和の言
春風や肥料袋摘む猫車
さよならと振る手凍てつく比叡山
愚詠愚作吹き吹き消ゆるシャボン玉
天上の便りせつせつ春の雪
りゅうの玉生命線に光り添へ
満開の梅の香も入れシャッター切る
今日を生き今日残さんと落ち椿
さくら餅仄かなピンクははの頬
鶯の次の声待つ老いの坂
車椅子の野点の人や梅日和
啓蟄や朝のお粥のふきこぼれ
財布に鳴る小鈴ちりりと朝の梅
天よりの使者かと庭のいぬふぐり
芽吹き初む一枝ゆらげば命ゆるる
春月に過去反省し未来乞ふ
目を細む猫縁側に日永かな
落日の独りは淋しさくらもち
母娘らのはなしはカフエや鳥曇
啓蟄や主の白蛇天上這ふ
杖変へて気持あらたに梅見会
結願寺近づけば増ゆ徒歩遍路
百までの予定表くみ山笑ふ
梅が香の天満宮の庭遊び
銀盤を跳ねて舞ふ宙冴返る
梅探る生涯の句と古刹坂
茶屋裏にあだな枝振りうす紅梅
犬の鼻しっとり濡れて物芽道
また雨の降り来て木の芽走りだす
目路限り白光宙に蝶々舞ふ
一年振りと裏の畦道つくしんぼ
見頃とて梅の不機嫌蕾締め
景石に生きとし生きる地虫出づ
豪華船見送る港春しぐれ
二万本の梅に動かぬ足動き
直線を貫き通し竹の秋
津波あと救ひの光りいぬふぐり
春暁や傷み忘れて旅マップ
蕨摘み春の香りの悦にいる
白き陽を載せてブランコ独りぼち
枝垂梅性に従ひさからはず
五感にぶり如何に生きむと永き日や
春の月山の目覚めを誘ひ落つ
竹垣の竹の濃みどり濃紅梅
鳥曇われの心も墨色に
ふらふらと啓蟄の坂婆下る
一輪車少女の笑みとたんぽぽと
足元に土筆の迎へ郷の径
はるかよりはるかの空へ鳥帰る
フリージヤの香りを残しバス降りる
三寸の雪のポストに投函す
生垣に孤を楽しみて落ち椿
若き母思ひ出すなり桃の花
振り返り見る紅梅のより綺麗
蒼天を懸け晴着の如きしだれ梅
紅梅下男の子とママの握り飯
啓蟄や細く軽き身風に浮く
又転び齢と言はる春寒き
碧空と梅万本に山ラッシユ
紅梅のほのと香りて思惟の道
はぎの芽に気づく朝餉の日射かな
春炬燵ものの一つのやうな爺
春光を円く描く空鳶舞ふ
ほどほどに介護士育て凍ゆるむ
さきがけの春菜の色香箸進む
啓蟄や老いの虚ろの埋めきれず
梅守の今日の地下足袋真新なる
鮨握るに指よくしなふ梅の宿
風花やははのつぶての如くとも
遺伝子の指示か園湖に鴨集ふ
梅林真中女王のごとき濃紅梅
土筆摘み好きな叔母待つ幼き日
選者4名(I・K・G・M)
<特選>
80. 大屋根に光りとなりて鳥の恋 広斉
・大屋根(の)の方が広がりが見えるように思います。どこか大きな寺院の屋根かと思いますが、鳥の恋を光と表現した比喩がこれから良い季節の春を待つ気持ちがよく出ていると思いました。
<秀句>
13. 京言葉添へて出されし煮大根 Miiko
<佳作>
3. 朝市や瀬戸の香りの野水仙 祥
4. バスを待つ項に消ゆる六花かな 村
24. はうれん草茎に残りし土の味 さくら
26. 時空越へ旧藩邸の梅薫る Miko
32. ごみ出し日寒鴉と人の知恵比べ 由斉
69. 筆かめば墨の香ほのと今朝の春 恵美子
100. 雪の窓想へば遠き人ばかり 遊
109. 雪の形自在不思議と見てあかず 遊
<特選>
36. 春近し光の削る波の角 さくら
・波の角を光が削るという表現が、無駄な言葉を省き、近づく春を感じさせて良い御句と思いました。
<秀句>
69. 筆かめば墨の香ほのと今朝の春 恵美子
<佳作>
1. いぬふぐり野に展げたる星座盤 さくら
18. せめぎ合ふ真潮逆潮春寒し 恵美子
28. 一岩に喰い込む根元藪椿 村
45. 路地裏に意地のかたまり残り雪 村
80. 大屋根に光りとなりて鳥の恋 広斉
99. 盆梅に頑固通せし父の影 村
103. 寒雀ついに一と日を話さずに 村
111. 初雪や朝日に照りて濡れてゆく 遊
<特選>
2. いちはやく春がきてをり人形店 恵美子
・正月を過ぎれば人形店のウインドウ及び室内には、桃の花桜の花に所狭しと雛人形等が飾られまさに春真っ盛りである。いち早く春が来ており、まさしく其の通りである。
<秀句>
92. 笹鳴きや寸莎あらはなる山の寺 節子
<佳作>
17. 坂道に一と息つけば梅匂ふ 霧
25. 二十歳の門出スマホスマホの春嵐 Miiko
30. 辞書の字の見えぬ苛立ち春寒し 薫
37. 春寒やひたすら黙し托鉢僧 Miko
64. 春光に窓辺の花のファンファーレ 霧
77. 永らへて黒髪の失せ年の豆 霧
82. 日本列島麻痺や爆弾低気圧 恵美子
99. 盆梅に頑固通せし父の影 村
<特選>
69. 筆かめば墨の香ほのと今朝の春 恵美子
・うっすらと墨が残っている筆先を噛んでおろす。私もする行為です。その時の舌先から伝わって来る墨の味、薫りを季語が詩情豊かに語っています。
<秀句>
18.せめぎ合ふ真潮逆潮春寒し 恵美子
<佳作>
2. いちはやく春がきてをり人形店 恵美子
41. 春寒やピアノの上の薄埃 由斉
54. 早春の風に乗りくる笑い声 政子
56. 自己信じ時を惜しみて寒稽古 村
68. 残雪を蹴りて鬱憤晴らしけり 京
74. 日溜りに悴む心捨てにけり 広斉
93. 雪解けの飛騨の朝市赤蕪 由斉
97. 出来ぬこと日毎増えゆく古暦 村
<互選>
6. 今少し眠り足らずと二月の木(3)
8. 我が庭に萌黄美人や蕗の薹 (1)
10. 水仙の群れて持ち上ぐ今日の白(2)秀
12. 万葉の詩人虜にして野梅(1)
15. 樫の実や父母逝きて夫も又(1)
16. 手作りのははの味をと恵方巻(1)
21. 雪景の静寂を愛ぜ三千院(1)
22. 日を忘れ事に追わるる冬の暮(1)
22. 始発バスマスクの並ぶ高速道(1)
23. 山頂やいま素裸の枯木立(2)
27. 土の香を携へ薄目蕗の薹(3)
29. 白磁器に梅のねじ切り京老舗(1)
31. 学問の神のせかさる梅二月(1)
33. 臘梅の香りゆたかや哲学路(1)
35. 春寒の光りは白し潦(2)秀
38. 満天星の瑞の冬芽に日の匂ひ(1)
39. 春寒や反りと硬化の足の爪(1)
42. 宅配便白息ともに急ぎ足(1)
44. 不安負ひ生きる齢や冬木の芽(4)秀
46. 梅三分緋鯉真鯉のこぜり合(1)
47. 目覚む時妙案一つ寒卵(2)
48. 大松に声のみ見せて寒鴉(2)
49. 布袋像の膝を喜び小雪舞ふ(1)
50. 寒風に溺れていたり鴉二羽(1)
51. 久方と手袋ぬげば紅き爪(1)
63. 腰下ろす古刹の庭石凍にけり(2)
65. 老いの身を寒に負けじと春を待つ(1)
66. 梅薫る前に置かるるパイプ椅子(1)
67. 一鳥の声ひとしきり枯木中(1)
70. て、に、を、は、で変る人生春近し(1)
76. 静かなる力盛り上げ梅一輪(2)
81. 頼るるは自己と紅吐く冬薔薇(1)
83. 足もとに群がる星座いぬふぐり(1)
85. 遺伝子のなせる技かも鴨来たる(2)秀
86. 灯消す冬の満月独り占め(1)
87. 卆寿とて悟りに遠く鬼やらい(3)
88. 屋根の雪消ゆる間際を輝けり(1)
91. 鏡なか妣の顔かと桃の花(1)
94. 煤柱父の魂魄梅真白(2)
105. 卆寿とて悩みはありと毛糸編む(2)秀
108. 寒禽の声の降りくる潦(3)秀
112. 駅伝の青息吐息白き息(1)
投句一覧(2月13日)
いぬふぐり野に展げたる星座盤
いちはやく春がきてをり人形店
朝市や瀬戸の香りの野水仙
バスを待つ項に消ゆる六花かな
枝先に濡るる一輪春寒し
今少し眠り足らずと二月の木
大雪にスマホ片手のあせり顔
我が庭に萌黄美人や蕗の薹
父に似し凍雲はやもゆるびけり
水仙の群れて持ち上ぐ今日の白
侮れぬ力を秘めて春の雪
万葉の詩人虜にして野梅
京言葉添へて出されし煮大根
番号札貼られし梅の凛乎たり
樫の実や父母逝きて夫も又
手作りのははの味をと恵方巻
坂道に一と息つけば梅匂ふ
せめぎ合ふ真潮逆潮春寒し
雪載せて朝の讃岐路くるま遅々
感傷に浸る黄昏仏の座
雪景の静寂を愛ぜ三千院
日を忘れ事に追わるる冬の暮
山頂やいま素裸の枯木立
はうれん草茎に残りし土の味
二十歳の門出スマホスマホの春嵐
時空越へ旧藩邸の梅薫る
土の香を携へ薄目蕗の薹
一岩に喰い込む根元藪椿
白磁器に梅のねじ切り京老舗
辞書の字の見えぬ苛立ち春寒し
学問の神のせかさる梅二月
ごみ出し日寒鴉と人の知恵比べ
臘梅の香りゆたかや哲学路
父母恋の踏めば泣きます霜柱
春寒の光りは白し潦
春近し光の削る波の角
春寒やひたすら黙し托鉢僧
満天星の瑞の冬芽に日の匂ひ
春寒や反りと硬化の足の爪
細き波織りなす山湖春寒し
春寒やピアノの上の薄埃
宅配便白息ともに急ぎ足
涙目の老婆と猫の日向ぼこ
不安負ひ生きる齢や冬木の芽
路地裏に意地のかたまり残り雪
梅三分緋鯉真鯉のこぜり合
目覚む時妙案一つ寒卵
大松に声のみ見せて寒鴉
布袋像の膝を喜び小雪舞ふ
寒風に溺れていたり鴉二羽
久方と手袋ぬげば紅き爪
過ぎしこと皆楽しみと春うらら
焼山に王者の如く一人佇つ
早春の風に乗りくる笑い声
庭落葉苔をはがさぬように掃く
自己信じ時を惜しみて寒稽古
二ン月の光りは此処と梅の花
春寒に皆既月食見とどけし
前庭は小鳥の楽園みかん挿す
見上げれば碧きひかりの冬の滝
つぶやけば白息からむ吟行会
ねんごろに日輪集め梅満開
腰下ろす古刹の庭石凍にけり
春光に窓辺の花のファンファーレ
老いの身を寒に負けじと春を待つ
梅薫る前に置かるるパイプ椅子
一鳥の声ひとしきり枯木中
残雪を蹴りて鬱憤晴らしけり
筆かめば墨の香ほのと今朝の春
て、に、を、は、で変る人生春近し
寒鴉もつれ飛ぶ二羽窓に絵と
雛飾る童ぐ一と日ケアハウス
厳寒の三日月冴えてしづまれり
日溜りに悴む心捨てにけり
傷む葉をいたはり紅き冬薔薇
静かなる力盛り上げ梅一輪
永らへて黒髪の失せ年の豆
感性の鈍りし齢鳥雲に
うつしよの霜踏む足裏むずかゆき
大屋根に光りとなりて鳥の恋
頼るるは自己と紅吐く冬薔薇
日本列島麻痺や爆弾低気圧
足もとに群がる星座いぬふぐり
梅ふふむははの慈愛をひしひしと
遺伝子のなせる技かも鴨来たる
灯消す冬の満月独り占め
卆寿とて悟りに遠く鬼やらい
屋根の雪消ゆる間際を輝けり
父忌日読経に和する匂い鳥
一枝の雪解けバサと被りけり
鏡なか妣の顔かと桃の花
笹鳴きや寸莎あらはなる山の寺
雪解けの飛騨の朝市赤蕪
煤柱父の魂魄梅真白
七人の兄弟逝きて寒の月
立冬の月や余生に夢を持つ
出来ぬこと日毎増えゆく古暦
降る雪に嬉嬉と遊びし日の遠く
盆梅に頑固通せし父の影
雪の窓想へば遠き人ばかり
極寒の踏みとどまりて街暗し
バスを待つ風のささやき春近し
寒雀ついに一と日を話さずに
春寒の光りを広げ切手門
卆寿とて悩みはありと毛糸編む
咲き初むる園の真中の濃紅梅
風の音ひとりの部屋に毛糸玉
寒禽の声の降りくる潦
雪の形自在不思議と見てあかず
探鳥の一団梅の園巡る
初雪や朝日に照りて濡れてゆく
駅伝の青息吐息白き息
選者3名(I・K・G)
<特選>
21. 火縄銃音噴き寒風崩さるる 政子
・火縄銃はテレビで見るのみですが寒風が銃の音に崩れて行くすさまじい音の様子が感覚的によく判ります。
<秀句>
27. 苦も生きる力に風の蔦若葉 遊
<佳作>
6. 祝詞あぐ庭の寒禽相和せり
36. 渦を巻く潮は狼冬の海
46. 寒月下俳句に溺る古机
53. 水揚げの波よりまぶし白魚よ
53. 初産の牛に新藁敷きつめて
71. 千代姫の亡き世咲きつぎ姫椿
75. 厚着して犬と散歩の無欲かな
78. 梅の下行儀正しく児の茶会
<特選>
8. オルガンの音に解けゆく寒の堂 政子
・オルガンの和音の暖かさが、寒の聖堂のピンと張りつめた冷たい空気をほぐし、やわらげる感じが伝わりました。言葉を練ればもっとよくなる御句
<秀句>
74. 訪ふたびに妣のおもかげ寒桜 節子
<佳作>
3. 高階の窓より冬月掴めさう
13. 紺碧の海になだるる水仙郷
20. さざれ石の幣もま白や小正月
40. つま立ちて供ふ御神酒初うぐいす
46. 寒月下俳句に溺る古机
51. 冬天に光重ねて城の松
63. 初産の牛に新藁敷きつめて
73. 明日ありや眠るを惜しみ寒復習(ざらえ)
<特選>
21. 火縄銃音噴き寒風崩さるる 政子
・毎年元旦に行われている城苑での火縄銃の空砲試し撃ち轟音と共にたちまちにして寒風の崩されて行く思いであった。火縄銃と寒風の取り合わせが巧妙である。
<秀句>
32. 喪の家に遠山並の初景色 遊
<佳作>
7. 我と影独り住ひの日向ぼこ
10. 藁屋よりちらと貌出す寒牡丹
13. 紺碧の海になだるる水仙郷
38. 日溜りの鉢に一輪返り花
40. つま立ちて供ふ御神酒初うぐいす
49. 俳語る師の語彙(ごい)熱し初吟行
74. 訪ふたびに妣のおもかげ寒桜
83. 天守なき城垣冬日粲々と
<互選>
1. 七草粥二杯目の声母元気(2)
2. 三家族集ふ母許松の中 (3)
4. 風呂吹で六腑温(ぬく)めむ今宵の餉(1)
5. 吾が影を流さず流る紅葉川(2)
12. 日向ぼこ猫と出窓に共に老ふ(1)
14. 籾殻の中の渋柿変身す(1)
15. 布袋の像に五トンの笑ひ春立てり(1)
18. 眠る山今日は目覚めて人を呑む(2)
22. 始発バスマスクの並ぶ高速道(1)
25. おめでとう初春の響き空蒼し(2)
26. 大鳥居くぐれば集ふ初雀(2)
28. 寄せ墓のまろく重なる菊日和(2)
29. 俳句てふ伴走ありて年迎ふ(3)
31. 娘逝く咲くや散りゆく紅山茶花(1)
39. 源平の海を遥かに柿簾(3)
43. 雪深き高野に馬車の嘶きや(2)
47. 受験室咳を噛みしめ頬紅し(1)
48. 日溜まりの小庭が好きで寒雀(3)
50. 七草粥戦時は庭の草を食ぶ(2)
52. 独楽いらいら廻す親ごの眉間皺(1)
58. 新春や地酒いろいろ道の駅(2)
65. 木枯らしの玻璃に頭突きを繰り返す(2)
67. 二階より竹馬乗りし兄遥か(1)
69. 初氷とじこめられし亀二匹(1)
72. 餌咥へ鷺の一瞥冬水城(1)
77. 不穏の世燃ゆる火の中淑気めく(1)
81. 木枯しに永らふ生の今を知る(3)
84. あら玉の金の布袋に金の息(1)
投句一覧(1月16日)
七草粥二杯目の声母元気
三家族集ふ母許松の中
高階の窓より冬月掴めさう
風呂吹で六腑温(ぬく)めむ今宵の餉
吾が影を流さず流る紅葉川
祝詞あぐ庭の寒禽相和せり
我と影独り住ひの日向ぼこ
オルガンの音に解けゆく寒の堂
藁囲ひ我が城と守る寒牡丹
藁屋よりちらと貌出す寒牡丹
飾り焚く祈る尼僧の極まれり
日向ぼこ猫と出窓に共に老ふ
紺碧の海になだるる水仙郷
籾殻の中の渋柿変身す
布袋の像に五トンの笑ひ春立てり
大寒や人影欲しく灯しけり
今生は輪廻転生白たんぽぽ
眠る山今日は目覚めて人を呑む
日溜りや子福桜の二三輪
さざれ石の幣もま白や小正月
火縄銃音噴き寒風崩さるる
始発バスマスクの並ぶ高速道
顔ぶれに愛でやぐ社初読会
双六の上りの近く一本道
おめでとう初春の響き空蒼し
大鳥居くぐれば集ふ初雀
苦も生きる力に風の蔦若葉
寄せ墓のまろく重なる菊日和
俳句てふ伴走ありて年迎ふ
金五百万の献石冷ゆる神の庭
娘逝く咲くや散りゆく紅山茶花
喪の家に遠山並の初景色
転がせば逃げる早さに団栗よ
こだはりて友のみやげの寒卵
シクラメンつぎつぎ子孫増やす日々
渦を巻く潮は狼冬の海
曲がりかど雪の達磨と道祖神
日溜りの鉢に一輪返り花
源平の海を遥かに柿簾
つま立ちて供ふ御神酒初うぐいす
永別ののちの日数も年の内
寒晴れや身の透明なればいい
雪深き高野に馬車の嘶きや
杭に立つ一本脚や冬の河
娘に借りる赤きマフラー夜の街
寒月下俳句に溺る古机
受験室咳を噛みしめ頬紅し
日溜まりの小庭が好きで寒雀
俳語る師の語彙(ごい)熱し 初吟行
七草粥戦時は庭の草を食ぶ
冬天に光重ねて城の松
独楽いらいら廻す親ごの眉間皺
水揚げの波よりまぶし白魚よ
一月のきら滑りそむ砂時計
しらじらと子福桜の返り花
大型の重機おちこち冬田圃
国憂ふ冬の星々唸る夕
新春や地酒いろいろ道の駅
久びさに衣擦れの音松の内
餡餅雑煮久しぶりの三年目
古城めぐる師走の風を身にまとひ
考と来し大寒の橋幻と
初産の牛に新藁敷きつめて
イベントの空砲ドンと肝冷ゆる
木枯らしの玻璃に頭突きを繰り返す
淑気かな天を伺ふ金の龍
二階より竹馬乗りし兄遥か
悠久の彼方なりけり枯れ葉散る
初氷とじこめられし亀二匹
初御空見栄の婆娑羅の竜の像
千代姫の亡き世咲きつぎ姫椿
餌咥へ鷺の一瞥冬水城
明日ありや眠るを惜しみ寒復習(ざらえ)
訪ふたびに妣のおもかげ寒桜
厚着して犬と散歩の無欲かな
初夢に青春時代よみがえり
不穏の世燃ゆる火の中淑気めく
梅の下行儀正しく児の茶会
寒風下歩き初めたる赤児の笑み
木枯しに永らふ生の今を知る
潔よき師走風来る水手門
天守なき城垣冬日粲々と
あら玉の金の布袋に金の息
解体の生家泪の冬帽子
手のひらに白湯の温み山眠る
別れ住む疎開体験山眠る
「祈り」てふ講演に感寒の入
エンデイングノートの附録日記買ふ
我が身内通る雪解や祈るのみ
選者4名(I・K・G・M)
<特選>
10. かわらけを投げて遊ぶも小春かな
・このお句を見てすぐに金毘羅さんのかわらけ投げを思い出しました。若い時職場の人達と、あの高い所からかわら投げをした事を懐かしく思いしました。小春の季語が効いています。
<秀句>
35. 長生きをしすぎたやうな冬の霧
<佳作>
29. 冬怒濤対岸に見る原発基地
31. 冬銀河昨日話せし友逝きぬ
32. 好日や風呂好きの身に柚子届く
45. 世の五欲遠ざけ寺の紅葉坂
84. 魂魄の漂ふ気配冬の海
97. 母逝きて幻のごと寒桜
104. 山水画の極みぞ霧の満濃池
106. 泥つき藷抱え園児ら来る小春
<特選>
80. 雨渡る山湖に眠る浮き寝鳥
・眠ると浮寝鳥は重なるところが惜しいのですが風景が見え、その場の(雨渡る)で空気蔵と作者の気持を景で語る点が良いと思います。
<秀句>
59. 大根抜く穴に気流の湧く如し
<佳作>
11. 遠き日の面子ビー玉冬夕焼け
26. 底冷や修業者めきてきし正座
49. 冬耕や働きづめの父なりし
50. 柿すだれ山の日ざしのひたひたと
63. 菊月や永らへし手のうらおもて
67. 憂きことはばさりと捨てよ大根切る
97. 母逝きて幻のごと寒桜
105. 宿坊の冬日を満たす小豆粥
<特選>
86. 風よりも夕日の似合ふ枯れ尾花
・ほうほうと風に吹かるる姿も良いが赤々と夕日に染まり幾多影置く姿は絵の様である。枯れ尾花の姿が脳裏に浮かぶ。
<秀句>
11. 遠き日の面子ビー玉冬夕焼け
<佳作>
1. 霊薬のごとくぴかぴか菊の露
19. 我が身一つ持て余す日々枯芒
32. 好日や風呂好きの身に柚子届く
43. 陽に染まり紅葉地上に輪廻かな
45. 世の五欲遠ざけ寺の紅葉坂
67. 憂きことはばさりと捨てよ大根切る
80. 雨渡る山湖に眠る浮き寝鳥
109. 削られし肌をあらはに山眠る
<特選>
10. かわらけを投げて遊ぶも小春かな
・山頂より投げたかわらけは風に翻りながら谷に吸い込まれ行く。小春日と紅葉山の美しさが浮かび上がってきます。
<秀句>
63. 菊月や永らへし手のうらおもて
<佳作>
11. 遠き日の面子ビー玉冬夕焼け
19. 我が身一つ持て余す日々枯芒
35. 長生きをしすぎたやうな冬の霧
51. 揺るる影揺るがぬ陰や冬に入る
55. とぢし目の裏に戦火の冬ありし
64. ほの甘きバリュウムのやや冷たかり
102. 喪の庭に白き山茶花散りしけり
105. 宿坊の冬日を満たす小豆粥
<互選>
2. 闇汁や不思議な味を呑み込みぬ(1)
3. 今日こそと硝子戸磨く寒戻り (2)
7. 乗り会ひて老師の笑顔小春かな(2)
8. 着ぶくれし老婆の小走り風の追ふ(1)
9. 戦火くぐる兄三人の冬夜空(2)
16. 石蕗の花石垣灯し暮れ残る(2)
20. 天楽を奏づる如き冬昴(2)
18. うつしみの静寂なれや枯れ落葉(2)
23. 有相無相乗せて自転や年暮るる(2)
33. 噂話ききあく婆の日向ぼこ(3)
41. 内止めの水に霊気や寒の寺(3)
44. 風花や帽子ころころ逃げゆけり(2)
57. 大師の池裂けんばかりに秋光る(2)
61. 迷いごとひらひら消ゆる銀杏黄葉(2)
70. 四畳半障子閉ざせば我の世界(2)
71. 塔見えて道は一本紅葉寺(1)
73. 鳥渡る讃岐連山まろまろと(2)
75. 着ながしの漢一礼神の留守(2)
76. 紅葉葉を栞と拾ふ旅心(2)
78. 一切を波に語らせ冬の海(3)
82. 小夜時雨黒枠はがき重なりて(2)
85. 天空を千手に支ふ冬枯木(3)
98. 只今と這入る高階冬独り(2)
99. 柿枝垂る雨戸ひらかぬ峡の家(1)
100. 落日に金まき散らす銀杏黄葉(1)
投句一覧(1月16日)
七草粥二杯目の声母元気
三家族集ふ母許松の中
高階の窓より冬月掴めさう
風呂吹で六腑温(ぬく)めむ今宵の餉
吾が影を流さず流る紅葉川
祝詞あぐ庭の寒禽相和せり
我と影独り住ひの日向ぼこ
オルガンの音に解けゆく寒の堂
藁囲ひ我が城と守る寒牡丹
藁屋よりちらと貌出す寒牡丹
飾り焚く祈る尼僧の極まれり
日向ぼこ猫と出窓に共に老ふ
紺碧の海になだるる水仙郷
籾殻の中の渋柿変身す
布袋の像に五トンの笑ひ春立てり
大寒や人影欲しく灯しけり
今生は輪廻転生白たんぽぽ
眠る山今日は目覚めて人を呑む
日溜りや子福桜の二三輪
さざれ石の幣もま白や小正月
火縄銃音噴き寒風崩さるる
始発バスマスクの並ぶ高速道
顔ぶれに愛でやぐ社初読会
双六の上りの近く一本道
おめでとう初春の響き空蒼し
大鳥居くぐれば集ふ初雀
苦も生きる力に風の蔦若葉
寄せ墓のまろく重なる菊日和
俳句てふ伴走ありて年迎ふ
金五百万の献石冷ゆる神の庭
娘逝く咲くや散りゆく紅山茶花
喪の家に遠山並の初景色
転がせば逃げる早さに団栗よ
こだはりて友のみやげの寒卵
シクラメンつぎつぎ子孫増やす日々
渦を巻く潮は狼冬の海
曲がりかど雪の達磨と道祖神
日溜りの鉢に一輪返り花
源平の海を遥かに柿簾
つま立ちて供ふ御神酒初うぐいす
永別ののちの日数も年の内
寒晴れや身の透明なればいい
雪深き高野に馬車の嘶きや
杭に立つ一本脚や冬の河
娘に借りる赤きマフラー夜の街
寒月下俳句に溺る古机
受験室咳を噛みしめ頬紅し
日溜まりの小庭が好きで寒雀
俳語る師の語彙(ごい)熱し 初吟行
七草粥戦時は庭の草を食ぶ
冬天に光重ねて城の松
独楽いらいら廻す親ごの眉間皺
水揚げの波よりまぶし白魚よ
一月のきら滑りそむ砂時計
しらじらと子福桜の返り花
大型の重機おちこち冬田圃
国憂ふ冬の星々唸る夕
新春や地酒いろいろ道の駅
久びさに衣擦れの音松の内
餡餅雑煮久しぶりの三年目
古城めぐる師走の風を身にまとひ
考と来し大寒の橋幻と
初産の牛に新藁敷きつめて
イベントの空砲ドンと肝冷ゆる
木枯らしの玻璃に頭突きを繰り返す
淑気かな天を伺ふ金の龍
二階より竹馬乗りし兄遥か
悠久の彼方なりけり枯れ葉散る
初氷とじこめられし亀二匹
初御空見栄の婆娑羅の竜の像
千代姫の亡き世咲きつぎ姫椿
餌咥へ鷺の一瞥冬水城
明日ありや眠るを惜しみ寒復習(ざらえ)
訪ふたびに妣のおもかげ寒桜
厚着して犬と散歩の無欲かな
初夢に青春時代よみがえり
不穏の世燃ゆる火の中淑気めく
梅の下行儀正しく児の茶会
寒風下歩き初めたる赤児の笑み
木枯しに永らふ生の今を知る
潔よき師走風来る水手門
天守なき城垣冬日粲々と
あら玉の金の布袋に金の息
解体の生家泪の冬帽子
手のひらに白湯の温み山眠る
別れ住む疎開体験山眠る
「祈り」てふ講演に感寒の入
エンデイングノートの附録日記買ふ
我が身内通る雪解や祈るのみ
投句一覧(12月12日)
霊薬のごとくぴかぴか菊の露
闇汁や不思議な味を呑み込みぬ
今日こそと硝子戸磨く寒戻り
逝きし夫の思い出胸に冬ごもり
ねんねこを引き摺り来る子吾そっぽ
冬怒濤喘息の日々生にがし
乗り会ひて老師の笑顔小春かな
着ぶくれし老婆の小走り風の追ふ
戦火くぐる兄三人の冬夜空
かわらけを投げて遊ぶも小春かな
遠き日の面子ビー玉冬夕焼け
老いの身にみどり眩しき新松子
初恋の彼の朝夢羽蒲団
道迷ふ旅人同士紅葉山
蓄へし火輪地上に落葉時
石蕗の花石垣灯し暮れ残る
霜柱踏みて感謝の朝の道
俳句てふ友と歩むや冬の山
我が身一つ持て余す日々枯芒
天楽を奏づる如き冬昴
狐火の並ぶ堤の謎いまだ
家裏に青菜三畝や山眠る
有相無相乗せて自転や年暮るる
山茶花大樹散り敷き天地一如にす
取り敢へず噛んで呑み込む闇汁会
底冷や修業者めきてきし正座
ゲートボールの音に小春や喜寿傘寿
閉索の老婆の悲鳴冬の雷
冬怒濤対岸に見る原発基地
晩学の迷ふI・T冬に入る
冬銀河昨日話せし友逝きぬ
好日や風呂好きの身に柚子届く
噂話ききあく婆の日向ぼこ
名水に白鴨一羽いぢめふと
長生きをしすぎたやうな冬の霧
栗拾ふ丈夫に生きろと考の声
今日咲くか明日開くかと冬薔薇
晩成を気長に期待山眠る
なるやうになれと裏山眠りけり
出しぬけに樹上の大声寒鴉
内止めの水に霊気や寒の寺
冬朝日今燦々と榧の中
陽に染まり紅葉地上に輪廻かな
風花や帽子ころころ逃げゆけり
世の五欲遠ざけ寺の紅葉坂
醜雲走る霊峰石槌冬に入る
家移りの友の助けや十二月
一本の紅葉の庭のバーべキュウ
冬耕や働きづめの父なりし
柿すだれ山の日ざしのひたひたと
揺るる影揺るがぬ陰や冬に入る
昭和はや昔むかしに山眠る
霜夜読む恩師の句集頷きつ
赤い傘赤い長靴初時雨
とぢし目の裏に戦火の冬ありし
住みなれし庭の山茶花日の玉に
大師の池裂けんばかりに秋光る
鬼の子にクリスマスツリーの輝きて
大根抜く穴に気流の湧く如し
失敗は三度許さぬ返り花
迷いごとひらひら消ゆる銀杏黄葉
冬三日月とんがり怒る煌煌と
菊月や永らへし手のうらおもて
ほの甘きバリュウムのやや冷たかり
山茶花や自転車こげば影くっきりと
竜田姫仏の帽に緋の一と葉
憂きことはばさりと捨てよ大根切る
水に乗り青空うつす初氷
もみぢ狩り写メールの来る友元気
四畳半障子閉ざせば我の世界
塔見えて道は一本紅葉寺
名園に白き鴨来る見にゆかむ
鳥渡る讃岐連山まろまろと
冬嵐や新居の夜夢壊す
着ながしの漢一礼神の留守
紅葉葉を栞と拾ふ旅心
一寺抱き錦の粧ひ女体山
一切を波に語らせ冬の海
いろは坂鈴音支へに冬遍路
雨渡る山湖に眠る浮き寝鳥
光陰や冬苔匂ふ結願寺
小夜時雨黒枠はがき重なりて
秋岬といふ名を負ひて鳶真澄
魂魄の漂ふ気配冬の海
天空を千手に支ふ冬枯木
風よりも夕日の似合ふ枯れ尾花
菩提樹の異様な素肌冬の声
明月に祝福されて晩年へ
冬山に丸石積みて未来乞ふ
遠吠への犬声流る冬昴
大空の里の小春や日の動き
丸くなる犬の寝姿冬に入る
保存木の山茶花かなめに門前町
悲喜こもごも散りてやまざる雑木山
山葡萄母許見ゆる獣道
初冠雪無心に眺む富士見橋
母逝きて幻のごと寒桜
只今と這入る高階冬独り
柿枝垂る雨戸ひらかぬ峡の家
落日に金まき散らす銀杏黄葉
疲れ果て手枕の耳夕霰
喪の庭に白き山茶花散りしけり
今朝の庭鳥の餌食と実南天
山水画の極みぞ霧の満濃池
宿坊の冬日を満たす小豆粥
泥つき藷抱え園児ら来る小春
古希の坂越へて喜(たのし)も野は小春
なぜ急ぐ気ずけば我も師走かな
削られし肌をあらはに山眠る
選者4名(I・K・G・M)
<特選>
26. 捜し物ふと思ひ出す鵙の贄
・小さい蜥蜴を庭の木の枝で見つけた事がありますが「捜し物を思い出す」感覚と通じる物がありこの感じ方に私も共鳴しました。
<秀句>
71. 山国の空軽くして蕎麦の花
<佳作>
14. 秋天を鳳凰制し金閣寺
15. ゆるやかな光のカーブ湾小春
44. 野菊に沿ひ小径歩めばははの声
53. 鳶発ちて秋を大きく一巡り
64. 月白や白銀の穂も趣を添へて
77. 冬菊の黄色は己が心の灯
<特選>
22. 結願寺の冷気ゆるがせ鐘一打
・「冷気ゆるがせ」に結願の心の有り様が表現されていると思いました。鐘のひびきが聞こえるようです。
<秀句>
73. 野仏のうすき瞼や照紅葉
<佳作>
12. 六十兆の細胞統べて咳ひとつ
27. 夜もすがらせせらぐ音や紅葉宿
44. 野菊に沿ひ小径歩めばははの声
56. 小春日の一と日をたたむ海の綺羅
67. 泡立草の黄色けぶれる合戦址
77. 冬菊の黄色は己が心の灯
<特選>
57. 細りゆく髪よ視力よ昼の虫
・加齢と共に髪は薄く眼は衰へて行く淋しく鳴く昼の虫の声に気力も沈む様子が如実に表されている。
<秀句>
8. 健脚の過去かえらずや紅葉晴
<佳作>
1. 隣り合う孤高と孤独冬薔薇
22. 結願寺の冷気ゆるがせ鐘一打
37. 歩き初む吾子の笑顔や石蕗の花
45. 抽んでる石蕗の黄色へ日の雫
62. 時を止め時を満たして寺の秋
68. 小春日や枯れ山水の石に鳥
<特選>
12. 六十兆の細胞統べて咳ひとつ
・思い切った表現に咳の激しさが伝わってきます。
<秀句>
83. 手のひらの日溜まり惜しむ菊日和
<佳作>
52. 縁小春ちちの残せし家に住む
60. 山すでに眠りにつけり結願寺
65. 硝子戸に我が影うすく庭紅葉
74. 蓑虫のこの世をちらと閉ぢこもる
75. 初牡蠣と張り紙の店瀬戸入り江
79. 山の道ふいに拓けて石蕗の花
<互選>
2. かなかなや一打一魂椎の斧(1)
3. うたごころ添はせ古刹の寒露踏む (2)
4. 初紅葉ふわりと古刹の風を抱く(3)
6. 渓流に散りし紅葉の狼狽へり(2)
7. 御手洗や心つながる秋の水(1)
10. 小春日を迎へ老舗の藍暖簾(1)
17. 天高しすめらぎの気のゆるびなく(1)
18. うつしみの静寂なれや枯れ落葉(2)
20. 天平の礎石に遊ぶ秋の風(2)
24. 酔ひ申す一樹も寺の百日紅(1)
25. 俳諧の紅葉坂なり膝笑ふ(1)
29. 日に抱かれ心空つぽ小六月(3)
35. スマホの黙運ぶ電鉄窓小春(5)
39. 今日からは切り株となり秋日盛る(1)
40. 反古破り思はな音す冬隣(1)
43. 限界の茅屋にちらと草紅葉(1)
50. 紅葉もゆ救急車音丁々と(1)
51. 奥山に刻をきざみて添水鳴る(1)
54. 入賞菊苦と愛丸め今日のはれ(1)
58. 蜜柑一つ頂きますと鈴ならす(1)
69. 野に返る田圃の続く秋遍路(1)
80. 恍惚とすがる蟷螂平家塚(2)
投句一覧(11月14日)
隣り合う孤高と孤独冬薔薇
かなかなや一打一魂椎の斧
うたごころ添はせ古刹の寒露踏む
初紅葉ふわりと古刹の風を抱く
風去りて残る月映ゆ街しずか
渓流に散りし紅葉の狼狽へり
御手洗や心つながる秋の水
健脚の過去かえらずや紅葉晴
晩節や信心せよと鵙猛る
小春日を迎へ老舗の藍暖簾
踏切の音の懐かし夕紅葉
六十兆の細胞統べて咳ひとつ
南無南無と垂れつぐ萩や観世音
秋天を鳳凰制し金閣寺
ゆるやかな光のカーブ湾小春
小春日や声出して読む「高瀬船」
天高しすめらぎの気のゆるびなく
うつしみの静寂なれや枯れ落葉
冬天を突きぬかんかに大錫杖
天平の礎石に遊ぶ秋の風
災多き地球案じつ林檎剥く
結願寺の冷気ゆるがせ鐘一打
バス停の父子と遊ぶ秋の蝶
酔ひ申す一樹も寺の百日紅
俳諧の紅葉坂なり膝笑ふ
捜し物ふと思ひ出す鵙の贄
夜もすがらせせらぐ音や紅葉宿
かさかさと落葉踏みゆく徒歩遍路
日に抱かれ心空つぽ小六月
風立ちて方位失ふ寺の萩
裏参道静かな野菊日和かな
秋日燦たずみに雀毛繕い
荷台に積む郷の土産の柿まろか
日陰れば芒の風とみゆるかな
スマホの黙運ぶ電鉄窓小春
役目終へ草を褥に案山子かな
歩き初む吾子の笑顔や石蕗の花
来客の白歯さみしい秋果かな
今日からは切り株となり秋日盛る
反古破り思はな音す冬隣
小春日や発電メーター加速する
鎌あげて敵意あらはすいぼむしり
限界の茅屋にちらと草紅葉
野菊に沿ひ小径歩めばははの声
抽んでる石蕗の黄色へ日の雫
咳き込みて語らず仕舞い今日の鬱
水揚げの魚ぴんぴん鰯雲
小春日や猫縁側に背を伸ばす
冬へんろ瀬戸風背に後二番
紅葉もゆ救急車音丁々と
奥山に刻をきざみて添水鳴る
縁小春ちちの残せし家に住む
鳶発ちて秋を大きく一巡り
入賞菊苦と愛丸め今日のはれ
通学は案山子伽に昭和の子
小春日の一と日をたたむ海の綺羅
細りゆく髪よ視力よ昼の虫
蜜柑一つ頂きますと鈴ならす
新宿にハロウインの人溢れ
山すでに眠りにつけり結願寺
晩秋の一村統べる農歌舞伎
時を止め時を満たして寺の秋
虫食いの柿の葉一枚俳鼓動
月白や白銀の穂も趣を添へて
硝子戸に我が影うすく庭紅葉
独り居の夜の暗さやちちろ啼く
泡立草の黄色けぶれる合戦址
小春日や枯れ山水の石に鳥
野に返る田圃の続く秋遍路
銀杏散る満足なりと大振舞
山国の空軽くして蕎麦の花
竜となり秋の堂守る大樹木
野仏のうすき瞼や照紅葉
蓑虫のこの世をちらと閉ぢこもる
初牡蠣と張り紙の店瀬戸入り江
風運ぶ秋刀魚の煙犬の鼻
冬菊の黄色は己が心の灯
小春日や杖を支えに犬自慢
山の道ふいに拓けて石蕗の花
恍惚とすがる蟷螂平家塚
秋朝日屋島山嶺美の宝庫
新酒先ず亡夫にと笑みの見え隠れ
手のひらの日溜まり惜しむ菊日和
土瓶蒸し一回きりに冬近し
姪の逝く代はれぬ憂い酢牡蠣たぶ
選者3名(I・K・M)
<特選>
オカリナに霧の晴れゆく気配かな(I)
・オカリナの音は素朴で澄んだきれいな音なので好きな楽器です。「霧のはれゆく」の表現と響き合っていて佳い句と思いました。
風湧くや香る郷路の山椒の実(M)
・風が立ち、山椒の実がさっと香った。それが郷里の路といふ体感が共感を誘いました。
ひよいと立ちふらつく身体そぞろ寒(K)
・何気無く立ち上がっ時、ふらりと身体がふらついた。その時訳もなく不安が胸をよぎった。その思いを見事に そぞろ寒 という季語に語らせている。
<秀句>
稲刈るやあまた飛ぶもの逃ぐるもの(K)
天平の石のくぼみに秋の雨(I・M)
<佳作>
憔悴を隠すすべなき種茄子(K)
捨て猫の貌すりよする芒原(K)
耳鳴りのふっと消え失せ虫の声(I・K)
相席や話す糸口庭の萩(I)
曼珠沙華そばえに畦の艶めけり(K)
くれなゐの泪なりけり阿の石榴(M)
閻魔堂闇の奥より秋立ちぬ(M)
敗荷や空映りゐて水深む(K)
秋彼岸欣求浄土の身とならむ(K)
霊山をなほも遥かに霧襖(K)
秋の蝶無縁仏の墓碑に舞ふ(I)
亡夫の衣まとひ案山子は田の主役(I・M)
国境有耶無耶にして葛かずら(M)
稲刈るやあまた飛ぶもの逃ぐるもの(M)
使徒のごと秋の蝶くる水子尊(I)
晩秋や余生の一と日詩に暮れ(M)
抱くおさな指さすところ曼珠沙華(I)
鋭くて親しまなざし解夏の僧(M)
色変へぬ松のトンネル札所寺(I)
ひよいと立ちふらつく身体そぞろ寒(K)
落葉踏む過去の汚点を消す如く(M)
名月やまだまだこの世紡ぎたし(I)
<互選>
覗きたき禁断の闇虫の闇
風湧くやいさらにぽとり栃の実落つ
置かれ居る世界飛び出す蓮の実
詠みかぬる句碑に影置く秋の蝶
野仏の染みがこくなる石蕗日和
想ふこと多し夕べや藤袴
立ち位置のどこか曖昧秋薔薇
豪華船我が夢載せて秋の海
ぽつくりの鈴音ゆかし宮小春
秋茄子の鈴生りに熟れ村消ゆる
邂逅に四方山話秋祭り
沖の青解きて均して秋の空
秋霖や赤き合羽の遠ざかる
花芒一川覆ひ銀の風
山装う無尽駅にも人の波
すぐそこにありし自由や草の絮
柿たわわ夕日と競ふ日々の赤
草虱いずこからより道連れと
残生や芙蓉かたくなに紅まるめ
祖母作の案山子まだ居る納屋の隅
彼岸墓ひとの帰るを待つ鴉
老いの腰のばして守る里祭り
里祭りみこし御番や酒を汲む
晩秋や余生の一と日詩に暮れ
口達者巧みは指の毛糸編む
秋霖や三本締めで会果つる
門出でて深き一礼秋遍路
選句結果(10月20日):選者の特選句[特]・秀句[秀]・佳作[佳]、互選(点数を表記しています。)
覗きたき禁断の闇虫の闇(2)
風湧くやいさらにぽとり栃の実落つ(1)
憔悴を隠すすべなき種茄子([佳]・2)
捨て猫の貌すりよする芒原([佳]・3)
耳鳴りのふっと消え失せ虫の声([佳]・6)
置かれ居る世界飛び出す蓮の実(4)
相席や話す糸口庭の萩([佳]・3)
詠みかぬる句碑に影置く秋の蝶(4)
野仏の染みがこくなる石蕗日和(3)
曼珠沙華そばえに畦の艶めけり([佳]・4)
想ふこと多し夕べや藤袴(1)
くれなゐの泪なりけり阿の石榴([佳]・1)
オカリナに霧の晴れゆく気配かな([特]・7)
閻魔堂闇の奥より秋立ちぬ([佳]・1)
立ち位置のどこか曖昧秋薔薇(1)
敗荷や空映りゐて水深む([佳]・1)
秋彼岸欣求浄土の身とならむ([佳]・1)
豪華船我が夢載せて秋の海(1)
ぽつくりの鈴音ゆかし宮小春(1)
秋茄子の鈴生りに熟れ村消ゆる(2)
邂逅に四方山話秋祭り(1)
沖の青解きて均して秋の空(3)
秋霖や赤き合羽の遠ざかる(1)
花芒一川覆ひ銀の風(2)
霊山をなほも遥かに霧襖([佳]・2)
秋の蝶無縁仏の墓碑に舞ふ([佳]・1)
山装う無尽駅にも人の波(1)
すぐそこにありし自由や草の絮(1)
柿たわわ夕日と競ふ日々の赤(2)
亡夫の衣まとひ案山子は田の主役([佳]・3)
草虱いずこからより道連れと(2)
風湧くや香る郷路の山椒の実([特]・3)
残生や芙蓉かたくなに紅まるめ(5)
祖母作の案山子まだ居る納屋の隅(1)
国境有耶無耶にして葛かずら([佳]・3)
彼岸墓ひとの帰るを待つ鴉(1)
老いの腰のばして守る里祭り(1)
稲刈るやあまた飛ぶもの逃ぐるもの([秀]・5)
使徒のごと秋の蝶くる水子尊([佳]・4)
里祭りみこし御番や酒を汲む(1)
晩秋や余生の一と日詩に暮れ(2)
口達者巧みは指の毛糸編む(1)
抱くおさな指さすところ曼珠沙華([佳]・3)
秋霖や三本締めで会果つる(1)
鋭くて親しまなざし解夏の僧([佳]・1)
色変へぬ松のトンネル札所寺([佳]・2)
門出でて深き一礼秋遍路(1)
天平の石のくぼみに秋の雨([秀]・4)
ひよいと立ちふらつく身体そぞろ寒([特]・4)
落葉踏む過去の汚点を消す如く([佳]・1)
名月やまだまだこの世紡ぎたし([佳]・3)
選者3名(I・K・M)
<特選>
住みなれし京の着倒れ萩の花(M)
・京の雅な気品が浮かび上がって来てなお滑稽味がある句になっています。
新盆や兵隊手帳の残されて(I)
・大戦に出征された方の手帳だと思いました。主人の父親の軍人手帳何冊かトランクにあり持ち帰り読みました。びっしりと書いてあるのを思い出しました。
近道は獣径なり葛嵐(K)
・葛嵐という季語のありようがよく現れていると思います。見えるようです。
<秀句>
一寺抱き金剛不壊の夏の山(M)
煎りたてのコーヒー香る今朝の秋(K)
近道は獣径なり葛嵐(I)
<佳作>
巡礼と背中合わせに心太(K・M)
新盆や兵隊手帳の残されて(K・M)
布団より百足這ひ出す山の家(M)
秋思への一歩吊り橋揺らしけり(I)
爽やかやいずくよりとも話声(I)
倒木の水漬く流れや台風圏(I・K)
月光のベランダに置く椅子一つ(K・M)
捨つるラジオ叩き聞き入る終戦日(K)
額縁の写真に一献新走り(I)
鶏頭花未練の多き老いの日々(K)
読経めき息ととのへて虫時雨(I)
煎りたてのコーヒー香る今朝の秋(I・M)
老いの歩にあまる飛石あきつ舞ふ(I)
生身魂真つ赤な服で闊歩する(M)
コスモスの風の愉悦や足かろし(I)
蟻の列しづかに城をほしいまま(K・M)
秋天や赤灯台に波の華(K)
露の世や城の系図の十五代(M)
<互選>
新盆や兵隊手帳の残されて(特選)
近道は獣径なり葛嵐(特選)
選句結果(9月22日):選者の特選句[特]・秀句[秀]・佳作[佳]、互選(点数を表記しています。)
台風の警報響く独りの夜(1)
乱世を生き抜く青春雲の峰(2)
友手縫いの部屋着めで居り残暑かな(0)
住みなれし京の着倒れ萩の花([特]・5)
ドライブにいつか相乗る秋の蝶(0)
巡礼と背中合わせに心太([佳]・4)
新盆や兵隊手帳の残されて([特]・6)
蜘蛛の囲に朝日一燦銀の花(0)
日暮れ時転居の友よ萩の花(0)
雨雫までも炎や曼珠沙華(2)
みなしごと思ふ今年の月の庭(0)
結界もなんどと自由萩の花(1)
雨止みて闇夜の宴の虫時雨(4)
一寺抱き金剛不壊の夏の山([秀]・5)
夫の骨いだき七月尽の五日月(0)
一粒に満ちたる美(うま)さ大葡萄(1)
布団より百足這ひ出す山の家([佳]・2)
躁鬱のはざまに咲けり花菖蒲(0)
千枚田の宙を炎に曼珠沙華(0)
蛍袋揺れて偲ばる母ふところ(0)
母回向郷への径の秋深し(1)
秋思への一歩吊り橋揺らしけり([佳]・3)
音もなく吾を恋ふごと吾亦紅(0)
爽やかやいずくよりとも話声([佳]・2)
小さき蛇風呂の蛇口に北山家(0)
台風の跡形もなし今日の空(0)
朝冷や懐の手の母の声(0)
鰯雲不安積みあぐ核実験(1)
倒木の水漬く流れや台風圏([佳]・3)
黙ひとつ庭にひよつこり糸蜻蛉(0)
釣り船のみな大漁なれ鰯雲(2)
台風の目のやうな孫今朝帰る(1)
月光のベランダに置く椅子一つ([佳]・3)
停車場のセキレイの影我ひとり(0)
チョンチョンともみじの手あはせ盆の墓(0)
ひたひたとひたひたと水台風来(2)
秋の椅子涙の滲むコンサート(0)
捨つるラジオ叩き聞き入る終戦日([佳]・2)
イギリスの田舎より来し盆の客(0)
食卓の替りて萩の庭と空(0)
額縁の写真に一献新走り([佳]・2)
大花火にしつぽ丸める大型犬(0)
流されし学校跡の赤蜻蛉(0)
つた紅葉の廃家のかたち整へり(0)
厨の灯消して夜長の灯を灯す(3)
鶏頭花未練の多き老いの日々([佳]・2)
砂時計返さずままに秋彼岸(4)
側溝に一本の糸蜘蛛眠る(0)
大夕焼け過疎の村にはりつきし(0)
栃の実の落つるを待ちし山の端で(0)
読経めき息ととのへて虫時雨([佳]・2)
猛暑日や肺の奥まで煮えさうな(1)
煎りたてのコーヒー香る今朝の秋([秀]・5)
老いの歩にあまる飛石あきつ舞ふ([佳]・3)
雨雫ぽとり秋思へ誘ひ込む(0)
生身魂真つ赤な服で闊歩する([佳]・2)
橡の実を村おこしにと山ン姥(0)
月今宵信楽狸の大徳利(1)
蘇鉄林ぬけくる風は秋の色(0)
稲妻の切り裂く屋島鴉鳴く(2)
さかさ富士湖底に沈め雲の秋(3)
万歩計止りしままの秋の雨(1)
蔭深し鳩の抱卵秋の空(0)
近道は獣径なり葛嵐([特]・6)
コスモスの風の愉悦や足かろし([佳]・1)
縛られて尚も暴れる乱れ萩(2)
秋立つと心弾めど足の萎へ(2)
眼に見えぬ風のすがしや今朝の秋(0)
山峡の日ざしに和み早稲の花(2)
蟻の列しづかに城をほしいまま([佳]・4)
台風や逸れて安堵のカレーライス(1)
覆ふ雲脱ぎ捨て葉月の屋島山(0)
秋天や赤灯台に波の華([佳]・1)
新涼の風のつまづく関守石(3)
露の世や城の系図の十五代([佳]・3)
蔓延(はびこ)るも淋し面影姫女苑(1)
放置林色変えぬ松消え去りし(0)
むらさきのつんつん立ちて沢桔梗(0)
母恋ひの驚きやすき目高の子(0)
枯れゆくを止め得ぬ生き身芒原(2)
選者3名(I・K・M)
<特選>
屋根葺きの親方老ゆる夏の雲(I)
鳴らぬ日の夕日は重し軒風鈴(K)
海は今夏満月の大器(M)
<秀句>
盆唄の遠くに聞きてふたなのか(M)
シャンシャンと老骨に沁む朝の蝉(K)
残暑なほ手あかの浮きし糸車(I)
<佳作>
夏満月ともに呑み込む大ジョッキ(K)
金木犀留守がちの家に風入れて(M)
津波禍の家屋を尚も夏豪雨(I)
手に重き手作り茶碗青林檎(M)
焦げ付きし鍋持て余す酷暑かな(K・M)
白き帆を鴎追ひゆく夏の海(K)
夏草といたちごつこや農に生く(M)
恐怖より背に哀感を残す蛇(M)
犬よろこび庭下駄探す帰省の子(I)
渡り切れぬ大交差点汗滂沱(K)
思考ゼロするする啜る冷素麺(I・M)
朝顔の一つ一つにある夜明け(K)
苦しみも生きる気力と夾竹桃(I)
遺影数に思ひそれぞれ盆仕度(I)
<互選>
お喋りに割り込みきたるはたた神
鳴らぬ日の夕日は重し軒風鈴(特選)
海は今夏満月の大器(特選)
選句結果(8月25日):選者の特選句[特]・秀句[秀]・佳作[佳]、互選(点数を表記しています。)
お喋りに割り込みきたるはたた神(6)
夏満月ともに呑み込む大ジョッキ([佳]・3)
大向日葵頭重しとご臨終(1)
花いばら七十余年の苦楽みち(1)
夏潮を来し流木の山の果や(2)
何もかもゆるぶことなき炎暑日々(2)
金木犀留守がちの家に風入れて([佳]・3)
風遊ぶ軒の風鈴となり留守(0)
炎天へ踏み出す一歩足重し(2)
お手植え松の下や涼風存分に(3)
夏満月待つ闇空や独りの夜(1)
足の萎え気力失ふ老いの夏(0)
津波禍の家屋を尚も夏豪雨([佳]・2)
藍色の空に煌煌夏満月(0)
手に重き手作り茶碗青林檎([佳]・2)
蚊柱やまもなく見えてわが家郷(1)
一夜泊り波瑠の蜩何処へや(0)
蝉の声吾が泣く声の思ひして(1)
蓮池や思ひのままの風の道(2)
金魚すくふ掬ひ方にも一家言(1)
句碑の辺に風の明かせし走り萩(5)
盆唄の遠くに聞きてふたなのか([秀]・2)
シャンシャンと老骨に沁む朝の蝉([秀]・3)
紅椿陽の射す庭の実も赤し(0)
屋根葺きの親方老ゆる夏の雲([特]・4)
焦げ付きし鍋持て余す酷暑かな([佳]・3)
介護する身に容赦なき残暑かな(0)
白き帆を鴎追ひゆく夏の海([佳]・3)
後悔の小言を宙に遠花火(2)
夏草といたちごつこや農に生く([佳]・3)
布団より百足這ひ出す山の家(0)
山暮し臆病となる青大将(0)
深呼吸に雑念沈め心太(0)
閘抜けば怒涛のごとし大師の池(1)
恐怖より背に哀感を残す蛇([佳]・1)
狛犬のたゆむ紙四手夏の雲(1)
就中杜に鳴きゐる法師蝉(0)
残暑なほ手あかの浮きし糸車([秀]・3)
逝く魂もみませ進化す大花火(0)
犬よろこび庭下駄探す帰省の子([佳]・1)
夕焼けを切りて聳ゆる滑り台(1)
渡り切れぬ大交差点汗滂沱([佳]・1)
災の身を残暑の鞭のうち続く(0)
思考ゼロするする啜る冷素麺([佳]・4)
鳴らぬ日の夕日は重し軒風鈴([特]・6)
蓮葉遊ぶ風の意のままひる返る(0)
高温に蝉声ひそむ樹々の中(2)
色変へぬ松の雄姿や御殿あと(3)
初潮や荒磯に松の傾ぎ癖(3)
夏まけや無駄に動くと叱らるる(0)
大風和(な)ぎ雲間渡らふ月おもて(3)
夕立の匂ひを傘に閉じ込めり(3)
電工夫の言葉荒れたる残暑かな(2)
古障子やそのうち洗ふ納屋の中(0)
大文字夜空に縷々と鴨大橋(1)
蝉逝くや波瑠に激突夕灯(2)
海は今夏満月の大器([特]・6)
ストレスを宙に降り撒く大花火(2)
夏満月引き籠もる吾誘ひ出す(2)
露の世へ浮かびあがりし磨崖仏(0)
見送りて安堵の一夜仏法僧(1)
ははの声空耳なして盆の月(0)
朝涼の鈴振るごとき鳶の声(1)
枝のべてお手植松に夏がらす(0)
朝顔の一つ一つにある夜明け([佳]・4)
苦しみも生きる気力と夾竹桃([佳]・3)
酷暑湖にアヒルぼうつと待ちぼうけ(2)
七色の夜明けの空を青き鷺(0)
詰将棋覗く顔々夕端居(4)
朝顔に吾が内緒言巻き込みて(3)
遺影数に思ひそれぞれ盆仕度([佳]・1)
夏の蝶朽ちかく歌碑に舞ひ舞ひて(0)
魂迎へ般若心経夕空へ(0)
宅配の伝票ポストに昼寝中(2)
老い老いのとげ抜き地蔵鰻の香(0)
盆過ぎてがらんどうの仏間かな(1)
灯篭流し心の隅に川汚染(0)
潮風に耐へ来し老松新松子(0)
つまくれなゐ姫たち多き隠里(1)
新涼や光り色々アート展(0)
2017年7月の特選句・秀句
<特選句>
岩清水一会の人と分ちあひ
ヨットの帆光となりて傾げたり
階上のピアノレッスン蚊喰鳥
光切り光に消ゆる夏つばめ
冷奴活断層のあばれだし
<秀句>
お四国や御詠歌ひびく梅雨晴間
娘去ぬ座卓に大き桃一つ
姉妹ガラスの風鈴吊しをり
全長を風に晒して蛇の衣
風鈴に溶けゆく今日のわだかまり
風鈴や彼の世の風も交じる夜半
父の手の温みなつかし蛍の夜
愛犬の吠えて大暑の家を守り
風鈴の時に忙しく不穏の世
夏山湖風のつくりし波の皺
吊り橋のゆられゆらゆら合歓の花
雨音は蓮の葉上に始まれり
遠き日の父の背広し蛍狩
底知れぬ沼に踏ん張るあめんぼう
2017年6月の特選句・秀句(旧「お楽しみ句会」)
<特選句>
飛び込まぬことには泳ぎはじまらず
一川の光を砕き南吹く
梅花藻の白に癒さる服喪かな
見えてゐる奈落みえざる蟻地獄
限界の集落蛍乱舞する
<秀句>
流暢な和尚の英語遍路宿
河骨や気付きて淋し独り言
散り敷いて薔薇の矜持のまだ褪せぬ
青空に亀裂が走り大夕立
青田風ゆつたり一両電車過ぐ
天道虫草間弥生の魂のごと
夏草は戦の匂ひ子等走る
残りたる目高一匹呼べば来る
無愛想な蟇の訪れ勝手口
赤き月梅雨の晴間の山の端に
置くやうに色とりどりの未草
天網は越えざる高さ揚げ雲雀
片ちびの下駄に素足の作務衣かな
汗をして得るもののみのまことかな
十薬の花の黄昏れ尼僧ゆく