選者 今村博子
吉岡御井子
小高和子
村山由斉
選者は特選一句(選評)、秀句一句、佳作五句を選びます。
投句一覧
見なれたる唇あらた涼新た
いつの間に卒寿を過ぎて花野ゆく
軒下の母のむつきや夜長星
種採の季節は楽し次を観る
秋茄子神の為したる紫紺かな
草泊阿蘇の裾野に牛帰る
耳元に鈴振るやうや虫時雨
人間に等級がつく文化の日
いとけなき水子仏の辺こぼれ萩
芝山のまろきに薫る律の風
金木犀碑文の文字を黄に染めて
果てしなきナースコールの夜長かな
紫苑ゆえ吹き惑う今我知らず
長くして野菜の秋の蒔時は
虫干しの歌舞伎衣裳や島の華
ダム満々悠々馳せる鰯雲
どんぐりや童ごころを転がせて
夏草ののび放題と格闘す
百年の荒波越えて秋澄めり
街道の人恋しげな曼殊沙華
桑括る季節を感じ命生く
今日薫り明日は藻屑の金木犀
錆止めの赤屋根迫る残暑かな
金木犀枝垂るる先も咲き満ちて
鍬肩につるべ落としの畦辿る
しづかなるグー握りしめ秋の空
笑まひけり泥んこまみれ運動会
秋高し医師の言葉に励まされ
小流れに萩ゆつたりと影落とす
季節を観て球根植へし狭き庭
折詰にちさき醤油や紅葉晴
秋繭の淋しき最後残る家
五寸杭打って厄日の窓鎖す
晩節や夕べ紅葉のあかあかと
何にでも風船葛どこにでも
おぼつかぬ老いの歩みに秋しぐれ
人語なき岬たゆたふあきあかね
青瓢容器色々有機の世界
池の水抜かれて虚ろ秋の声
水澄めり六十余年を連れ添ひて
次世代の牡丹の根分何故に
天高し古誘ふ時の鐘
枝豆をはんぶんこして別れけり
鷹打は鳥と鳥ゆえ日々循環
射的小屋振袖で打つ秋祭
松茸や香り残して隠れんぼ
虫蝕いの採れたて野菜処暑の膳
薬掘る古の山今は踏み場なし
柿すだれ夜眼にもほのか薄明かり
闇道にひかり編み込む女郎蜘蛛
小鷹狩小さき自分されど自分
窓越しのピアノの夕べ吊し柿
露けさやしつとりと重き朝刊
釣舟ゆく九月の空の尽きるまで
流星や遠くて近き姉妹
冬立てり父の介護は父似の子
手明かりや夜なべの妻の鼻眼鏡
秋茄子に一杯の酒共に味わう
胡麻叩くかほど小さき実りかな
犬の息顔にかかりて秋暑し
庭箒とれば蟋蟀居たりけり
馬鈴薯の何故に馬ヨーロッパ
退院を待つ日コスモス揺れてをり
大夕焼け影絵となりて鳥渡る
新米のどんぶり飯の卵かけ
粟刈りて五穀を愛でる懐かしき
手を広げポーズとる子や大花野
おほひなき唇行き来涼新た
塩スプーンのイグ・ノーベル賞雲の峰
解体の影を残さず秋灯
朝寒やリスの掠める宿の軒
月見の由来はいつも中華なり
秋うらら街のテラスに椅子二つ
茶亭よりみはるかす庭秋日和
葦火の日働くことの意味は今
雨風の跡かや野辺の秋桜
わが街に空家新築文化の日
どんぐりや村の若者皆兵に
探して行くは秋の野遊び柵ばかり
虫売りがいた頃の屋台今の虫
草の花老体の身を写されて
外出の妻に腕かすつくつくし
小春日や足裏くすぐる旅心