続いては,社会貢献を強く意識した研究です.高齢化社会に不可欠な研究プロジェクトとして,国から予算を頂いてます.
※以下,「自転車(じてんしゃ)」と「自動車(じどうしゃ)」の字面が紛らわしいので,ご注意ください.
下図のように,自動車が,自転車を追い越す状況を考えます.
まず,老若男女を問わず,走行中の自転車は,左右に揺れています.
その揺れ方は不規則です.なおかつ,持続的な小さな揺れのなかに,大きな揺れが突発する特徴をもっています.
大きな揺れの頻度と振幅は,高齢者ほど大きくなります.(道端で観察してみてください)
この研究プロジェクトでは,この大きな揺れの発生を,自動運転自動車に予測させて,接触事故を減少させる方法を開発します.
例えていうなら,台風の予測円 てあるじゃないですか,あれの自転車版を作ろうとしています.
基礎的なデータを得るために,次のような走行実験を実施しました.いきなり高齢者に走行して頂くのは危ないので,まずは研究室の学生に走行してもらいました.
「3本ローラ」と呼ばれる競技用のサイクルトレーナーを用いました.自転車を固定しないので,実走行と同様のふらつきが得られます.
初年度の試みとして,自転車のロール角(左右の倒れ角)のデータを取得しました.下図のθがロール角です.
測定データの一例を,下図に示します.横軸が時間で,上段が角度の時間変化,下段が角速度の時間変化です.これらは,ドローンに使われるジャイロセンサで測定しました.
小刻みな振動のなかに,大きなスパイクが断続的に生じています.これは,走行中の自転車が,断続的にグラッと傾いては戻り,またグラッときては戻る様子を表しています.
本研究のような予測技術には,数理モデル(運動方程式)が不可欠です.そこで,自動車のしゃくり振動 のときと同様の AI 技術を用いて,自転車の不規則な揺れをモデル化してみました.
その結果がこちらです.
出典 https://doi.org/10.3390/app9102154 ※学生と書いた論文です(著名な論文誌に掲載されました)
灰色が実験データ,赤が数理モデルの結果です.ほとんど一致してますよね!
これらの関数は,確率密度関数といいます.左の横軸は角度,右の横軸は角速度です.縦軸は,それぞれの発生頻度を表しています.
ヒストグラムって分かりますか? ヒストグラムの縦軸の目盛を変えたものを,確率密度関数といいます.
以上,我々が開発した数理モデルは,実験の確率密度関数を,そっくり真似することができました.
では,そのときの振動波形は,どの程度似ているのか? これを検証したのが次の結果です.上段が実験,下段が我々の数理モデルです.