途上国世界の教育と開発ーー公正な世界を求めて
キーワード:教育
本書は、国際教育開発学を学び、考えるための必読書である。歴史的な教育開発の経緯を踏まえつつ、持続可能な発展における教育の役割を多角的に考察している。
第一部「途上国世界の教育:四つの視点」では、国際教育協力が途上国の内発的発展を促すための準備段階として有効であることを指摘し、第二部「途上国世界の教育分析レベル」では、その教育開発の評価軸を整理している。第三部「国際教育協力のアプローチ」では、国際機関やNGOなど多様なアクターがどのように関与し、教育支援を実施しているかを考察している。第四部「途上国世界の教育課題」では、教育を取り巻く複合的な問題に対する具体的なアプローチを、実例を交えながら論じている。
本書の各章の終わりに設けられた問いかけは、読者に教育や公平な社会について主体的に考えるきっかけを与えてくれる。地球市民の一員として、公正な世界を共に築きたいと願う全ての人々へ、ぜひ手に取っていただきたい一冊である。
山下曜(総合グローバル学部総合グローバル学科)
【書誌情報】小松太郎編, 2016, 『途上国世界の教育と開発――公正な世界を求めて』ぎょうせい.
月経の人類学――女子生徒の「生理」と開発支援
キーワード:ジェンダー
「月経」についての理解を深めるための必読書である。本書では、国際開発の場における月経衛生対処(Menstrual Hygiene Management・MHM)という概念を軸として、フィールドワーク調査をもとに様々な地域での「月経」に関する現状を詳述している。パプアニューギニア・インドネシア・カンボジアなどの月経観や月経教育、支援について言及されたのち、日本の月経教育についても記されている。MHMを巡る課題が国際開発の場だけの議論ではなく、日本で暮らす私たちの問題でもあるということを認識できるような内容になっている。今まで不可視化され、「当たり前だから」と我慢していたものを問い直すきっかけとなるだろう。
秋山帆香(総合グローバル学部総合グローバル学科)
【書誌情報】杉田映理・新本万里子編, 2022, 『月経の人類学――女子生徒の「生理」と開発支援』世界思想社.
はじめてのジェンダーと開発――現場の実体験から
キーワード:ジェンダー
「現場の声に学ぶジェンダーと開発支援」
本書は、開発の現場におけるジェンダー視点を、専門家たちの実体験に基づいて多角的に論じている。近年、JICAなどの国際機関では、ジェンダーの視点 を前提とした開発支援が進められているが、現場では地域性、宗教、伝統的な家族観などを背景に、さまざまなコンフリクトが生じている。本書は、それらの事例を分類しながら、インタビュー形式で具体的に紹介している。こうした ジェンダー課題は、途上国に特有のものではない。日本国内にも、機会の不平等や構造的なジェンダー問題は依然として存在している。本書は、発展段階や社会の枠組みにとらわれず、ジェンダーの交差性や開発における適切なアプローチを理解するうえで、有益な入門書といえるだろう。
橋本野意(総合グローバル学部総合グローバル学科)
【書誌情報】田中由美子・甲斐田きよみ・高松香奈編, 2017, 『はじめてのジェンダーと開発――現場の実体験から』新水社.
「近代化」は女性の地位をどう変えたか――タンザニア農村のジェンダーと土地権をめぐる変遷
キーワード:ジェンダー
本書は、農村の土地制度の変化を通じて、「近代化」が女性の地位にどのような影響を与えたのかを考察している。法制度は女性の権利拡大を掲げるものの、実際には家父長制的な慣習や地域の秩序が強く残り、女性が土地を実際に使うことは難しいままである。著者は、法律上の「持つ権利」と、日々の暮らしの中で「使えるかどうか」という差に注目し、制度と現実のズレを明らかにしている。制度だけではなく、地域社会の慣習や人々の実践にも目を向けた分析は、ジェンダーと開発の課題を考えるうえで多くの示唆を与えてくれる。
矢部令奈(総合グローバル学部総合グローバル学科)
本書は、開発政策・事業をどのように構築していくべきであるかについて検討するきっかけとなる一冊である。多様な「価値観」の実現に向けて、国際協力の実践的な問いについて考えることは必須である。著者田中は、タンザニアの農村地域に住む女性の土地に関わる権利に着目し、彼らが「価値あると思うこと」を選択し、行動できることの実現可能性を検討している。キリマンジャロ州では、女性と彼らを取り巻く地域社会が、土地を所有することに価値を見出した結果、女性の土地権の拡大が生じた。田中は、開発政策・事業を、当事者が考える「価値あると思うこと」の延長線上で実施していく必要性を主張している。
久山さくら(総合グローバル学部総合グローバル学科)
【書誌情報】田中由美子, 2016, 『「近代化」は女性の地位をどう変えたか――タンザニア農村のジェンダーと土地権をめぐる変遷』新評論.
続・入門社会開発――PLA:住民主体の学習と行動による開発
キーワード:社会開発
本書では、開発において住民の主体的な参加によってボトムアップ形式をとる、PLAの実践に向けて、人々がパラダイム転換することの必要性を明らかにしている。開発は、開発専門家から住民へトップダウン形式で技術移転を行うものだと考えられてきた。科学的かつ学問的に正しいと判断された、開発専門家の「リアリティ」だけを根拠に開発の手段が決定されていた。しかし、本書のケーススタディから、知識、経験、価値観を通じて形成される住民の「リアリティ」が、開発の成功に不可欠であるとわかる。PLAアプローチの成功例をもとに情報交換と相互学習を促進させ、「住民に教える」から「住民とともに学ぶ」へと開発のあり方を変化させることが求められる。
水野萌(総合グローバル学部総合グローバル学科)
【書誌情報】プロジェクトPLA編, 2000, 『続・入門社会開発――PLA:住民主体の学習と行動による開発』国際開発ジャーナル社.
反転する環境国家――「持続可能性」の罠をこえて
キーワード:環境行政, 東南アジア
【書誌情報】佐藤仁, 2019, 『反転する環境国家――「持続可能性」の罠をこえて』名古屋大学出版会.
障害と文化――非欧米世界からの障害観の問いなおし
キーワード:障害者, 人類学
【書誌情報】ベネディクト・イングスタッド/スーザン・レイノルズ・ホワイト編, 2006, 『障害と文化――非欧米世界からの障害観の問いなおし』中村満紀男/山口惠里子監訳明石書店.
Development: A Very Short Introduction
キーワード:開発史
『Development: A Very Short Introduction』では、開発という概念が経済成長だけでなく、教育、健康、ジェンダー、公正、制度、法の支配、環境といった幅広い要素を含むことが示されている。本書、関連動画「10 things to know about development」から、なぜ国や人に貧富の差があるのか、過去の成功例が他国で通用しない可能性、そして急速に変化する時代への対応の必要性が説明されている。また、アマルティア・センの提唱する「ケイパビリティ・アプローチ」によって、人々の選択の幅を広げることの重要性が指摘されている。さらに、紛争が開発を妨げることや、災害などが起きたときに貧困層が最も大きな影響を受ける点も強調されている。
【書誌情報】Goldin, Ian, 2018, Development: A Very Short Introduction, Oxford University Press.
水危機神話を越えて――水資源をめぐる権力闘争と貧困、グローバルな課題(人間開発報告書2006)
キーワード:水資源開発
私たちの生活にとって水は基本的人権に含まれる欠かすことのできない資源である。世界には、安全な水にアクセスできない人々が今も数多く存在する。本書では、グローバルな水危機の本質が水の物理的な絶対量不足ではなく、その根源は、権力、貧困、不平等、そして不適切な水管理政策にあると明らかにしている。特に水が政治的優先課題とされない現状や貧困層や女性、子どもの声が反映されない点に持続可能で公平な水政策の必要性を指摘し、国際的な協調と国家戦略による抜本的解決を強調する。本書は、水資源をめぐる不平等の根源を地球市民一人ひとりが深く考え、公正な世界の実現に向けた行動を促す必読の一冊である。
【書誌情報】横田洋三・秋月弘子・二宮正人監修, 2007, 『水危機神話を越えて――水資源をめぐる権力闘争と貧困、グローバルな課題(人間開発報告書2006)』国際協力出版会.
開発協力白書2024
キーワード:開発協力大綱
本書は、日本の開発協力の1年間の概要を報告するものである。地球規模課題に対し、日本が国際社会の責任ある一員として行ってきた取組の他、政府開発援助(ODA)に対する国民の理解を得るという視点からもそのあり方が検討されている。2015年開発協力大綱の旧版からの改訂により、SDGsの採択やパリ協定が発効されるなどの国際動向を踏まえた取組が特徴的である。また、日本のODA政策や協力に対する民間企業や公的金融機関などのパートナーと新たな社会価値を共に創り出す「共創」に対する期待や、連携の重要性が繰り返し協調されている。日本が国際社会における多様なアクターと構築する関係性やODAの取組を網羅した一冊である。
【書誌情報】外務省, 2025, 『開発協力白書2024』外務省.
知っておきたい水問題
キーワード:水問題
本書は、グローバルとローカルの両視点から水資源問題を分析し、水問題を総合的に扱う入門書である。筆者は水資源を考える際の視点の多様さを重要とした上で、水だけでなくエネルギー、食料を三位一体で捉え、「持続可能な社会」へ向けた水資源の現状と課題を幅広く議論する。水文学者である沖は、結論として日本の長期的な「国土のコンパクト化」の必要性を指摘した上で、水資源に関わるステークホルダーのうち、企業による取り組みの先進性を強調する。一方、沖も本文内で述べているが、水をめぐる世界情勢が目まぐるしく変わる中で、本書における取水量や用途ごとの割合等の数値や先進性を持って紹介される内容が、最新のものではない点には留意が必要である。
藤崎まどか(総合グローバル学部総合グローバル学科)
【書誌情報】沖大幹・姜益俊編, 2017, 『知っておきたい水問題』九州大学出版会.
バングラデシュの飲料水問題と開発援助――地域研究の視点による分析と提言
本書は、バングラデシュの飲料水問題を巡る地域住民の実態に焦点を当て、丁寧なフィールドワークと聞き取り調査を踏まえることで、開発援助を行う上での現場のすれ違いを赤裸々に描いている。地域研究の視点から援助を再検討する構成は新鮮であり、現地の人々の暮らしや考え方に寄り添った支援のあり方が具体的に示されているのが特徴的だ。「開発援助」と聞くと、「援助を行う側」と「援助を受ける側」という主従関係がイメージされてしまいがちであるが、「援助を行う側」の善意だけではどうしようもならないこと、現地の人々の実情を考慮してこその開発援助であることを再認識することができた。
津久井春(総合グローバル学部総合グローバル学科)
【書誌情報】山田翔太, 2023, 『バングラデシュの飲料水問題と開発援助――地域研究の視点による分析と提言』英明企画編集.
社会開発の福祉学――社会福祉の新たな挑戦
キーワード:社会開発
【書誌情報】ジェームス・ミッジリィ, 2003, 『社会開発の福祉学――社会福祉の新たな挑戦』萩原康生訳, 旬報社.
国際開発論――貧困をなくすミレニアム開発目標へのアプローチ
キーワード::社会開発
この本では国際機関の動きやこれまでの国際開発の動向を論理立てて学ぶことができる。国際開発における貧困、保健医療、公衆衛生、教育などの様々な課題について、各執筆者が経験をもとに解説する。また、開発途上国を取り巻く様々な課題は相互に影響し合っている。この本を読めば、国際開発は一分野だけでなく多分野からの包括的なアプローチが必要であることがわかるだろう。この本には様々な分野についての知りたかった知識が一冊に詰め込まれている。国際協力を目指す人が自分の専攻分野だけでなく、多様な視点を得ることのきっかけになる本だといえる。
落合知沙(総合人間科学部看護学科)
【書誌情報】勝間靖編, 2012, 『国際開発論――貧困をなくすミレニアム開発目標へのアプローチ』ミネルヴァ書房.