教育で平和をつくるーー国際教育協力のしごと
キーワード:教育
「平和をつくる」ための国際協力について、著者のコソボでの教育行政官として、ボスニア・ヘルツェゴヴィナでの教育アドバイザーとして、また教育研究者としての様々な経験・事例が記された一冊である。「平和」とはただ戦争がない状態ではなく、公正にすべての人が自分の権利を享受することができる状態である。そして教育は人が持つ権利の一つであり、平和な社会の構築に欠かせないものである。本書を通じて国際教育協力の実際を知ると同時に、紛争地域の子どもたちの状況を知ることができる。著者が「実務者」として実際に体験したこと、感じたことなどがリアルに綴られており、途上国の実情や国際協力を自分事として捉えることができた。
桃井ココ(総合人間科学部教育学科)
【書誌情報】小松太郎, 2006, 『教育で平和をつくる――国際教育協力のしごと』岩波書店.
アミーラの日記――スーダンの革命と紛争
キーワード:紛争, 難民, 絵本
「いつになったら、こんなひどいことが終わるの?」——植民地支配、軍事政権、そして紛争。スーダンを取り巻く複雑な構図の中で生きる少女、アミーラのシンプルな問いかけに考えさせられる一冊。スーダンでは、政治・経済・民族といった複合的な要因が絡み合う中で紛争が続き、人々は「ホッリーヤ、サラーム、アダーラ(自由、平和、正義)」を求め、日々危機的な状況を生き抜いている。紛争という国際問題の大きな語りの中で埋もれてしまいがちなこの現実は、多くの私たちにとって「彼らの闘い」として、どこか遠い異国の物語に感じられるかもしれない。しかし本書では、アミーラの言葉を通じて、日常の声なき声が輪郭を表すことで、読者に当事者性を思い起こさせる。スーダンにおける紛争は「私たちの闘い」でもある——そのことに気づかせてくれる一冊である。
島田花梨(総合グローバル学部総合グローバル学科)
【書誌情報】リーム・アジール/ホイットニー・ウォーレン, 2025, 『アミーラの日記――スーダンの革命と紛争』黒川智恵美監訳, Amazon.
現代世界の紛争解決学――予防・介入・平和構築の理論と実践
キーワード:紛争
【書誌情報】オリバー・ラムズボサム/トム・ウッドハウス/ヒュー・マイアル, 2009, 『現代世界の紛争解決学――予防・介入・平和構築の理論と実践』宮本貴世訳, 明石書店.
国際平和協力入門――国際社会への貢献と日本の課題
キーワード:平和協力, 平和活動
本書は、日本の国際平和協力の歴史的変遷と現状の課題を、豊富な具体事例を通じて明らかにしている。特に日本の憲法と国連憲章との関係、そして国際平和活動 とのずれが、自衛隊派遣にどのような制約を与えてきたということを丁寧に描いている。第一部では、国際社会が統合化・積極化へと進むなかで、日本がその潮流にどう追従しようとしたということを述べている。第二部 では具体的事例を分析しているが、その中で政治的理由や法的根拠に触れているため、制約がある中でどのように国際平和協力を行ってきたかを理解しやすい構成となっている。国際平和協力を真剣に考える人にとって、まさに必読の一冊である。
【書誌情報】上杉勇司・藤重博美編, 2018, 『国際平和協力入門――国際社会への貢献と日本の課題』ミネルヴァ書房.
平和構築を支援する――ミンダナオ紛争と平和への道
キーワード:ミンダナオ
本書は、ミンダナオ紛争を題材にリベラル平和構築論の限界を現地の視点から明らかにした実践的研究である。著者は歴史資料などの関連文献を幅広く調べ、長期間の現地調査を行いながら、国家・反政府勢力・有力クランの三者間の複雑な関係を分析している。特にイスラーム王国・植民地政府・フィリピン政府による統治の変遷と、それに伴うクランや「ダトゥ」の政治的役割の変化を描き出し、単純な二項対立では説明しきれない紛争の実態に迫っている。また、現地社会における権力構造の可視化を通じて、外部支援アクターが無自覚に紛争を助長する危険性も指摘されている。理論と実践をつなぐ本書は、平和構築に携わる人々にとって役立つものである。
【書誌情報】谷口美代子, 2020, 『平和構築を支援する――ミンダナオ紛争と平和への道』名古屋大学出版会.
平和構築の志――東ティモールでの平和構築から学んだ教訓
キーワード:東ティモール
本書は、筆者・長谷川祐弘氏が国連事務総長特別代表として、紛争後の東ティモール復興に尽力した経験から得た教訓を記録したものである。インドネシアの占領から解放された東ティモールでは、過去の悲劇に囚われて旧宗主国を非難するのではなく、前を向いて良好な関係を築く姿勢が求められていた。東ティモールが平和構築に成功した背景には、指導者たちのアプローチはそれぞれ異なっていても、未来志向であり、新たな志を共有していたという共通点があった。持続可能な発展を実現するためには、自らの欲望を抑え、自律の精神を備えたリーダーの存在こそが最も重要であるということを、筆者は繰り返し強調している。この教訓は、東ティモールに限らず、他国の平和構築にも応用可能なものである。
【書誌情報】長谷川祐弘, 2020, 『平和構築の志――東ティモールでの平和構築から学んだ教訓』創成社.