ネパールの人身売買サバイバーの当事者団体から学ぶ――家族、社会からの排除を越えて
キーワード:ジェンダー
本書はネパールにおける人身売買の問題に着目し、その人身売買の当事者達によって構成された団体について、構成員のライフストーリーを交えて紹介することによって当事者団体の存在意義と役割を示している。人身売買や性暴力によって社会的スティグマを抱えた人々が地域社会や家族との関係を修復するのがいかに難しいのかが強調され、そのような困難を乗り越えた人々が次はロール・モデルとして支援を行うことの重要性が述べられている。また、当事者達が団体として立ち上がるために直面した困難とそれをどう乗り越えたかについても描かれ、課題解決 に向けて我々の社会がどう当事者達をサポートしていくべきかを考えさせられた一冊である。
臣川舜阿(総合グローバル学部総合グローバル学科)
「当事者たちの繋がりによる支援の在り方」
本書は、人身売買の被害にあったネパールの女性たちと、彼女たちが立ち上げた当事者団体「シャクティ・サムハ」の歩みを描いた一冊である。被害を受けた彼女たちは基本的人権すらも奪われているという視点は、支援の在り方を考える上で非常に重要であることを認識した。当事者が支援の担い手となることで、信頼関係が築きやすく、また被害者自身も未来を描くことができるという当事者団体の利点が明確化する一方、団体内部の対立や排除の問題にも触れられており、支援の現場が抱える複雑さも学ぶことができる。人身売買によって心身に深い傷を負い、社会復帰の際には差別や偏見にさらされる現実を知るとともに、「支援する・される」という一方向的な構図を越えた、当事者主体の支援のかたちに強く心を動かされた。
小林凜々(総合グローバル学部総合グローバル学科)
【書誌情報】田中雅子, 2017, 『ネパールの人身売買サバイバーの当事者団体から学ぶ――家族、社会からの排除を越えて』上智大学出版/ぎょうせい.
支援・発想転換・NGO――国際協力の「裏舞台」から
キーワード:社会開発
近年、日本や世界の各地で災害や紛争などが生じている中で、国際協力の必要性が高まっている。本書では、「支援をする際の対象への接近」「対象者の絞り込み」「住民参加の促進」「支援成果の把握」という4つの支援プロセスの局面に合わせて、支援のあり方を取り上げている。支援者は当面のニーズに応じるだけでなく、根本となっている問題にも目を向けることが重要であると示されている。地域に特有の事情や関係性を理解せず、外部から介入することは、支援の実効性を損なう可能性がある。そのため、地元社会の政治、経済、社会状況を把握することはもちろん、住民と対等の立場で、協力し合いながら問題に向き合う姿勢も重要だ。本書は、住民との連携や活動の中で必要な視点や方法を示しており、支援従事者に読んで欲しい一冊である。
丸地菜月(総合人間科学部看護学科)
【書誌情報】真崎克彦, 2010, 『支援・発想転換・NGO――国際協力の「裏舞台」から』新評論.