・アメリカ議会図書館は、日本の国会図書館のようにアメリカ国内の書籍や新聞、オーディオ、映像といったさまざまな資料を収集している図書館です。しかもこの図書館の凄いところは、アメリカ国内に限らず、世界各地のさまざまな言語の資料を網羅的に、そして継続的に収集しているところにあります。それため、アメリカ研究以外の研究者にとっても、非常に使い勝手のよい図書館であると言えるでしょう。
*Library of Congressのウェブサイトは、次の通り:https://www.loc.gov/
・しかも、利用は無料であるため、気軽にアクセスできることも大きな利点です。既にアメリカ議会図書館の利用案内については、下記のものがコンパクトにまとまっていて、非常に使い勝手のよいものとなっています。なので、まずは下記のページを参照して頂くと、概況がわかりやすいのではないかと思います。
*アーカイブ情報あれこれ: Library of Congress(米国議会図書館):https://guides.lib.kyushu-u.ac.jp/c.php?g=774809&p=5559951
・他方で後述するように、中東・イスラーム研究を行う筆者のような立場の研究者からは、また異なった視点での見方ができることも事実でしょう。特に、イスラーム諸国の観光現象を研究対象とする筆者にとって、言語や地域を横断して研究を行っているがゆえに、それぞれの国の図書館や書店で、個別に資料を地道に探し続けることは、資金的にも、それ以上に時間的な労力という意味でも非常に負担となるものです。その点で、もちろんすべてではないものの、地域や言語を横断する形である程度まとまった資料を収集しているアメリカ議会図書館は、非常に助かる存在であると言えるでしょう。実際、2024年3月に筆者がはじめて議会図書館を訪問した際には、英語の他にもアラビア語、ペルシア語、インドネシア語、マレー語の資料を横断的に閲覧していて、そのなかでの発見も数多くありました。その点からも、地域横断的な研究を行っている研究者が、現地の図書館・書店とは異なった視点で資料に触れることが可能としてくれるアメリカ議会図書館は、ぜひとも活用して欲しい図書館の一つになります。
・以下は筆者の個人的な体験談に基づきつつ、利用案内を書き記していきたいと思います(間違い等があった場合には、適宜変更していく予定です。もし記載ミス等があった場合には、「お問い合せ」の欄から連絡して頂けたら幸いです)。
2-1 交通アクセス
・地下鉄メトロの最寄り駅については、Capital South(Orange, Silver, Blue Line)で下車して、エレベータを上がり、駅を出て坂道をのぼり切ったところの正面がJefferson Buildingになります。
・筆者はせっかくの機会だということで、ホテルから徒歩30分強かけて歩いていました(前半は南側の官庁街のホテルで、後半は北側の再開発エリアを使っていました)。ワシントンの街並みはどこも面白く、議会図書館からの行き帰りも楽しみながら過ごすことができることです。
・あるいは、最近ではuber等でシェアライドも気軽に利用できることから、自転車でワシントンの街中を走り抜けるのもいいかもしれません(ただし、日本と違って右側通行なのをお忘れなく!)。
2-2 建物・図書室の配置
・建物は大きく3つ(Jefferson Building、Adams Building、Madison Building)に分かれています。メインとなるのはJefferson Buildingですが、資料の内容によってはAdams buildingとMadison buildingの図書室も活用することになるので、大体の配置等を覚えておくとよいかと思います。
*建物の配置については、次を参照のこと:https://www.loc.gov/visit/maps-and-floor-plans/
* 各図書室の配置については、次を参照のこと:https://www.loc.gov/rr/hours.html
2-3 開館時間・各図書室の場所
・開館時間は、図書室によって異なりますが、大体が月~金の9:00~17:00の時間帯です(Main Reading Room他の一部の図書室は、曜日によっては異なった時間帯となるところもあります)。なお、入口とクロークは開館時間に合わせて開いています。
*各図書室の開館時間については、次を参照のこと:https://www.loc.gov/rr/hours.html
・以前より議会図書館ではデジタル化を推し進めていたそうですが、COVID-19の影響もあり、デジタル化を進めて、さまざまな資料を公開するようにもなっています(古いものから新しいものまで)。なので、自分の欲しい資料がオンライン上にあるのかどうか、オンライン・カタログ等で調べてみるとよいでしょう。
*オンライン・カタログのサイトは、次を参照のこと:https://catalog.loc.gov/
・その他にも、テーマに応じた検索案内も充実しています。まずはこちらを参照すると、自分の調べたいテーマについて概観することができ、研究上のヒントも多く得ることができるのではないでしょうか。
*検索テーマについては、次を参照のこと:https://guides.loc.gov/
・研究者の利用でわからないことについては、下記のサイトに色々と記してあるので、あらかじめ読んでおくと色々と勉強になるかと思います。
*初心者用の利用案内:https://www.loc.gov/rr/gettingstarted.html
・さらにわからない場合には、メールや現場で思い切ってコンタクトを取ってみるのも手段です。かなり親切に教えてくれるのと、スタッフによってはそこから更に関連資料を提示してくれたり、あれこれと世話を焼いてくれます。
4-1 入館証(Reader Identification Card)の事前登録について
・現場でも入館証の作成はできますが、議会図書館のウェブサイトと通じて事前にもできるようになっています。なお、写真はどのみち現場で撮るので、事前でも現場ででも、どちらでも問題ないです。
*入館証の説明については、次の参照のこと:https://www.loc.gov/rr/readerregistration.html
*事前登録のサイトは、次を参照のこと:https://reader-registration.loc.gov/readerreg/remote/
・必要事項を入力していきますが、基本的に日本の住所等の情報を入力していくことになります(アメリカのホテルの情報ではないので注意)。
・Stateのところは無視しても問題ないです。電話番号については、+81をつけて、日本の電話番号を記載しておくのが無難かと思います。
・事前登録が終わったら、入館時に登録の現場に行きましょう(登録場所については、後述します)。
4-2 図書室のオンライン予約の必要性
・基本的にはそれぞれの図書室にふらりと行っても、よほどのことがない限り席は確保されているし、断られることもないので、まずは現場に行ってみるのがいいかと思います。
*事前の予約については、次を参照のこと:https://research-appointments.loc.gov/
・ただし、オンラインで予約することによって、事前に研究内容や欲しい本を取り揃えておいてくれる、等々の便宜が図られて、時間のロスが少なくなるという利点があります。事前相談もメールでかなり早いレスポンスをしてくれるので、安心して相談することができます。しかも、こちらのつたない英語でもキチンと対応してくれるので、英語が苦手だと思う人は、ChatGTPやDeepLといったソフトを使いながら、英文メールを書くことも重要かと思います。こういう文明の利器をうまく活用することも、現代の研究の現場においては重要です。
4-3 持ち込める荷物
・基本的には入館証だけあればいいのですが、スキャンしたデータを保存するUSBは、必ず自分のものを持参することを強くお勧めします。
*私の場合には、ノートPC(ラックトップ)、USB、ノート・筆記用具を毎回持ち込んでいました(オンラインでの請求やスキャンデータの保存のため)。
・なお、議会図書館内は無料のwifiが飛んでいるので、ルーター等は気にすることはありません。
*その他持込可能なものについては、次を参照のこと:https://www.loc.gov/rr/personalbelongings.html
・研究者用の入口は、Jefferson BuildingとMadison Buildingにあります(多分、Adams Buildingにもあるとは思いますが、筆者は確認していません)。観光客向けのVisitor Entranceとは異なって、その隣に研究者用の入口があるので、注意すること(入口に、Researcher Entranceと書いてあります)。
*Jefferson Buildingについては、G階が入口になります。
*Madison Buildingは、そもそも研究者用の入口しかないので、正面から堂々と入りましょう。案内板もあります。
・入口を入ったら、荷物等のセキュリティ・チェックを受けます。その時に一般の観光客と間違われたとすれば、研究者(researcher)であることを主張するとよいです。なお、初回の場合には、「研究者用の入館証(Reader Identification Card)を作成したい」と主張すれば、場所を案内してくれます。
・実際にカードを作成する前に、荷物をクロークに預けます(これは、実際に図書室で作業する際も同様)。クロークの場所はJefferson Buildingに2か所、Madison Buildingに1か所(1階のLM140)あります。なお、実際に使うようになってから、このクロークは毎回使うことになるので、場所は覚えておくとよいかと思います。
*クロークの場所については、次を参照のこと:https://www.loc.gov/visit/maps-and-floor-plans/other-locations/cloak-rooms/
*持ち込める荷物については、次を参照のこと:https://www.loc.gov/rr/personalbelongings.html
*Jefferson Buildingについては、Researcher Accessを通り抜けた先にあるクロークが混雑していないので活用しやすい。
・荷物を預けたら、入館証の作成を行います。場所は2か所、Jefferson Building1階のLJ139か(Main Reading Roomの入口の向かい側になる)、Madison Buildingの新聞図書室(LM136)です。個人的にはJefferson Buildingは観光客で溢れているので、Madison Buildingの方を落ち着いているのでオススメしますが、敢えてメインの建物でやることも可。
*Jefferson Buildingの場合には、エレベーターか階段で1階に上がって、Main Reading Roomの入口の反対側の部屋になります。警備員が必ず立っているので、聞くと話が早い。
*Madison Buildingの場合には、1階の新聞資料の部屋(LM136)に入ってすぐ右側のスペースが該当します。
・入館証は事前登録をしている場合にはID(パスポート)のチェックをして、写真を現場で撮ってすぐに作成されます。パスポートを持参しましょう。
*事前登録をしていない場合には、現場でPCの前で行います。そこまで難しいものではないので、落ち着いて入力すれば大丈夫です。もしわからなければ、スタッフは基本的にみんな優しいので、どんなに基本的なことでも聞くとよいかと思います。
・入館証を作ったら、実際に資料を調べに行ってみよう。
*なお、入館証の有効期限は2年間であるので、有効期限後にはまた同様の作業を行うことになります。
・オンライン・カタログ上で膨大なデータベースが作成されているので、そこから実際に依頼することになります。
*資料の探し方を解説したものは、次を参照:https://www.loc.gov/rr/video-tutorials.html
*各図書室のPCから請求する形でもよいし、自分のPC、携帯からでも行える。
・欲しい資料を見つけたら、どこの図書室で受け取るのかを記したうえで(ただし、選択肢は資料によって限られる)、その図書館で受け取ることになります。
・資料によっては請求できない場合があります。その際は、実際に所蔵されている図書室まで行って、そこでスタッフにお願いすると請求できます。スタッフが請求して用意してくれます。
・請求した資料が到着したら、メールでお知らせが届く。あるいは、議会図書館のマイページにログインをすると、資料の請求状況がみられる。
*開架書庫のものだと90~120分程度、閉架書庫に保管されているものは、1日はかかるようなので、早めに依頼をしておくとよい。あるいは、予約段階で事前にスタッフと相談しておくのも手段です。
・既に説明した通り、議会図書館は3つの建物に分かれています。それぞれの建物は地下通路で繋がっていて、建物の間を移動するために、大いに活用することになります。
・なお、建物によって微妙に階数が違うので注意(Jefferson BuildingではCに、その他はGが相当する)。
*Jefferson Buildingのエレベーターはよくわかりにくく、正面玄関側のエレベーターに乗ってしまうと、1階・2階に着いたら観光客に揉みくちゃにされる、ということが起こります。ただ、落ち着いてスタッフに道を聞くか、正面玄関に出れば何とかなるので、焦らずに覚えていきましょう。筆者も何度も間違えて、滞在の最後ぐらいでようやく覚えました…。
・基本的には案内版に従っていけばその場所に辿り着くが、Jefferson Buildingが構造上少しわかりにくくなっています。間違えて観光客のスペースに出ても、焦らずにスタッフに聞きながら目的の場所まで行くとよいかと思います。
・特に日本人研究者が使うことが多いと思われるAsian Reading Roomについては、Jefferson Buildingの観光客があふれているスペースを横切らないといけないので、戸惑うことも多いでしょう。でも仕方ないので、横切りましょう(グーテンベルグの聖書の展示の横をすり抜けていく感じである)。ちなみに、私は普通に研究者だけのスペースに入っていったら、(別に問題はないのですが)観光客たちにぎょっとされました…。
・中東研究者である筆者は、African & Middle Eastern Reading Roomに通い詰めることになりました。おそらくそのような形で、自分の通い詰める図書室ができるはずです。
・なお、特に分野ごとの専門の図書室には、それぞれの援護に精通したサブジェクト・ライブラリアンが存在します。もし現場にいない場合でもバックヤードにいたり、後日に対応してくれることもあるので、困ったことがあったら担当者を読んでもらうのも手です(実際、私はアラビア語担当者を読んでもらって、色々と相談していました)。
・それぞれのReading Roomでは、入館証を見せるとともに、紙の名簿にも必要事項を記載します。
*途中退出して再度入室する際には、その旨を言えば記載しなくてもいいようです。そこら辺は、現場スタッフの裁量。
*なお、Main Reading Roomは入る手前の警備員の横に紙の名簿があります。チェック欄は可能ならすべてにチェックするのが無難です。
・既に資料が到着している場合には、到着棚を見る、あるいはスタッフに訪ねて資料を受け取る。
*もしもこれから請求する場合には、図書室のPCや自分のPC等から請求するか、スタッフにお願いする。なお、それぞれの図書室のスタッフでないと請求できない資料もかなり存在するので、うまくいかない場合には迷わず請求番号を見せて、スタッフにお願いする方が早い。
・資料を受け取った後は、空いている机に座って実際に作業をしましょう。他の利用者たちも、思い思いの形で作業をしています。
・使い終わった資料については、返却場所に返却するか、スタッフに渡す(運用は、それぞれの図書室によって異なる…)。
・数日にわたって読みたい場合には、スタッフにその旨を申し出ると、紙に書いて保管してくれる。なお、5日間が貸出の限界のようである。
・それぞれの図書室には、必ずコピー機とスキャンの機械がある。コピー機については各部屋にあるが、個人的にはスキャンの方が色々と楽でした(そして、スタッフにもそちらを進められる)。
*紙がいいかスキャンデータがいいかは個人の好みの問題なので、それぞれに合わせて活用するとよいかと思う。
*部屋によっては写真撮影可のところもある。各図書室におけるコピー・スキャンをめぐる基準は、次を参照のこと:https://www.loc.gov/rr/copying.html
・著作権については、もちろんアメリカ合衆国のものが適用されるので、各自で参照されたいところです。
*ただし、日本の国会図書館のようにひとつひとつキチンとチェックする体制には必ずしもなっていない。
・スキャンは持参したUSBに保存することが可能です。もしない場合にはスタッフに聞くと、図書室のものを一時的に貸してくれます。でも、持参した方が圧倒的によいかと思います(借りたものだと、そのあとのデータ送付作業があります)。
・スキャンデータについては、持参したUSBに保存するのが一番です。私の場合には、さらに自分のPCに映して識別可能かどうかをチェックしていました(そして、時々失敗していることがあった…)。
・基本的に館内は指定された場所以外での飲食は厳禁です。水飲み場が廊下等にあるので、そちらで水を飲むことは可能です。
・食事ができるところは、Madison Buildingの地下にはSubwayとDuskin Donutsがあり、昼間の時間帯は営業しています。その他にも、飲料や軽食を売っています。
・また、Madison Buildingの6階にはカフェテリアがあり、ここでは昼食を食べたり、コーヒー(スターバックス)を頼んだりすることができます。
*野菜や中華の量り売りや、和食メニューもあるので、個人的にはここで野菜をたくさん接種する感じであった。なお、値段は気にしてはいけない…(私の場合、お腹いっぱいになるぐらいの量+ジュースで、毎回15ドル強ぐらいであった)。
・なお、だいたいが16時には閉まるので、時間には注意すべし(曜日に寄っても異なる)。
・その他、建物間の地下には、ちょっとした軽食を売っているキオスクもあります。こちらは人が溜まっていて、意外に人気のようです。
・とにかくスタッフの皆さんは親切なので、どんなに小さいことでも、わからないことがあったら気軽に聞いてみよう。
・議会図書館では木曜日の夕方を中心にライブ・イベント等を行っています。それに参加するのもいいのではないでしょうか。
・筆者が食にあまり興味関心がないこともあり、ワシントンDC滞在中はレストランや地元名物を食べ歩くこともなく、スーパーで買ったものを食べる日々でした…。周辺の美味しいもの情報については、様々な人たちがレポートしているので、そちらを参照してください。
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デジタル化が進んだ今時、わざわざ時間とお金をかけて図書館の現場に行くことの意義は改めて問われている訳ですが、現場のスタッフや一緒の場所で調べものをしている訪問者たちとのコミュニケーションをしていく過程で、思いもしなかった資料が発見されたり、研究の話が進んで進展があったりと、思わぬ展開がよくあります。むしろこうしたところにこそ、現代において図書館を活用する意義があるのではないでしょうか。皆さんにもぜひ現場で色々と悪戦苦闘して欲しいという思いを強く持った議会図書館の滞在でした。
また、本を読みながらじっくりと一つのことに集中して考える時間というのは、意外に貴重だったりします。その点ではもちろんお金や労力はかかるのですが、大量の資料がある環境でひたすら目の前の資料に集中する時間というのは、それはそれで研究を進めるうえでは貴重な時間なのではないでしょうか(特に、日本においてさまざまな事柄に追われていくなかで十全に研究ができる環境が確保できないなかでは、大変貴重な時間であると言えます)。
その他、適宜追加・修正していく予定であるので、気が向いた時に読んでいただけると助かる。