Research

研究テーマ

1.イスラミック・ツーリズムをめぐる思想的展開と社会変容

 イスラミック・ツーリズムと呼ばれる、イスラーム的価値規範に基づいた観光実践は、国際観光市場のなかでさまざまな形で展開されています。特に近年では、「ハラール・ツーリズム(Halal Tourism)」や「ムスリム・フレンドリー・ツーリズム(Muslim-friendly Tourism)」といったムスリム観光客に特化した観光形態が隆盛しています。それだけでなく、宗教観光と呼ばれる巡礼・参詣の産業化の動きや、イスラーム文明遺産の保全と活用をめぐる動きも出てきています。また、イスラミック・ツーリズムの発展は、世界各地のムスリム社会や、イスラームの考えそのものも変容してきていると言えます。本研究室では、イスラミック・ツーリズムがもたらす社会変容について、世界各地の観光地や観光実践を対象に、その思想的・実証的な研究を進めていきます。


ex.安田慎. 2016.『イスラミック・ツーリズムの勃興 宗教の観光資源化』ナカニシヤ出版.

2.中東観光史と観光メディアを巡る研究

 中東諸国では巡礼・参詣の他にも、学問探求や商業、外交といったさまざまな文脈で旅行文化が形成されるとともに、その体験を書き記す旅行記の文化も発展してきました。更に、19世紀以降は西洋社会における大衆観光の形成と中東観光の発展のなかで、「トラベル・ライティング」と呼ばれる商業出版の旅行記が多数出版された他にも、観光ポスターやガイドブックを流通を通じて、人びとの中東イメージの形成や、更なる旅行喚起のメディアとして機能し、現代に至るまで読み継がれています。この旅行記の伝統や文化を紐解いていくなかで、時代・地域に埋め込まれた社会的心性や、時代・地域を超える人や社会の想いを読み解いていくことを目指しています。


ex. 千葉悠志・安田慎(編). 2021.『現代中東における宗教・メディア・ネットワーク』春風社.

3.観光政策をめぐる思想と理論研究

 世界的な観光産業の隆盛は、国家や地域レベルでのさまざまな観光政策を推進する契機となってきました。それにともない、世界各地でさまざまな観光政策の事例が蓄積され、共有されるようになっています。

 他方で、観光政策をめぐる理念や理論といった、学術上のモデル化の動きは必ずしも進んでいる訳ではありません。各地の事例に基づく実証研究を行いながらも、それらの事例を理論化していくとともに、理念を解明していくことを目指しています。

4.宗教観光をめぐる理論研究と実証研究

 世界各地で巡礼・参詣活動はさまざまな形で継続する一方で、近年では観光産業との繋がりを強め、宗教観光という形態を取りながら市場経済の一部として発展していたりします。また、宗教観光市場をめぐってさまざまな主体が関与するようになるなかで、軋轢や協調関係が生み出されるようになっています。

 宗教観光をめぐる理論的な研究を、文化人類学や社会学の理論を参照しながら考えていく一方で、世界各地の事例を比較することを通じて、現代社会における役割についてさらに考察していくことを目指しています。


ex. Yasuda, S., Raj, R. & Griffin, K. Religious Tourism in Asia: Tradition and Change through Case Studies and Narratives (CABI Religious Tourism and Pilgrimage Series). Wallington: CABI.

5.ツーリズムにおけるパフォーマンス・アプローチをめぐる研究

 近年の観光研究やモビリティ研究が発展するなかでは、観光地や観光実践におけるモビリティを取り巻く環境や制度に対する注目が集まっています。特に、「パフォーマンス・アプローチ」と呼ばれる、観光実践を「パフォーマンス」として捉える動きが出てきています。この観光実践を取り巻く外部環境や他者との相互交渉やコミュニケーションを分析していくなかで、観光地を取り巻く実践や景観、価値がいかに再帰的に構築されていくのかを解明しています。


ex. 安田慎. 2017.「観えないオーディエンスとステージを演じる 観光研究におけるパフォーマンス論的転回をめぐる考察 」『帝京経済学研究』50(2): 53-66.

6.観光におけるデジタル技術の発展と社会変容をめぐる研究

 ウェブ空間やスマートフォン、デジタル・カメラに見られるデジタル・デバイスの普及は、観光行動のあり方や観光経験の語り方にも変容をもたらしています。特に、一連のデジタル技術が大衆化した結果、観光情報の発信の仕方や、観光メディアのあり方、観光経験の語り方も大きく変貌しています。ここでは、フィールドワークに基づく具体的な事例に基づきながら、デジタル・デバイスの普及が観光に何をもたらすのか、その実態を解明していくことを目指しています。


ex. 安田慎. 2019.「共有されない空間、参照されるリズム-デジタル空間における宗教経験のおリズム・フローをめぐる観光学的考察 」『観光学評論』7(1): 21-36.

詳しくは、reseachmap もご参照下さい。