(日本語訳:桜井俊彦)
スズメですら知っています。東京は巨大な都市である ことを。-人、人、人は日夜往来し、首都の心臓は目 と耳を刺激するごとく躍動しています。建物の前にはネ オンの看板があふれ、絵や文字がきらきらと縦横にかす め去ります。地下鉄の駅の雑踏の中から通りに出るや、 大きなスクリーンに圧倒されます。道路の騒音は、いろ いろな雑音に幾倍も高められます。商店から、カフェか ら、レストランから流れる音楽は、バスや駅、デパート の中のアナウンスによって打ち消されます。その騒音の 中で、露店商は「いらっしゃい、いらっしゃい」と叫び ながら、客を呼び込んでいます。
私はたいへん幸せです。大都市の混雑から遠く離れて、 東京の中心部の周りのおおよそ田舎のような情景に住ん でいるからです。豊島区南長崎は、池袋・新宿・渋谷の ような有名な現代的な町から、10~30分の「猫の跳 躍」のような近さにあります。そこには、日本人と外国 の学者、教師、学生らおよそ15人が住んでいる建物が あります。
“真々園”-不思議な所に不思議な名前。漢字を組 み合わせたその意味を説明することは、日本人にとって も難しい。なぜなら、真々園は、日本でただ一つで、昔 から有名な親鸞宗(浄土真宗)の一員の櫻井鎔俊師によっ て40年前にできました。自由な言い方をさせてもらえ ば、真々園は真実の場所と言われます(字の意味からも、 実践の意味からも)。寺院などのような仏教的でもっぱ ら葬式をする施設に対して、真々園は(本来の仏教精神 にかえり)この世の人間の生活を重視しています。
ちょうど22年前(40年前の昭和22年)、真々園 は従来の寺院制度から独立しました。そして、信仰のあ る仏教徒のために特別な道場が設立されて、そこに彼ら は月に1回3日間集まり、朝から晩まで如来に対して念 仏を称え、生活における問題が解決されるのに必要な援 助を願っています(問題解決にたまわる如来の智慧と、 すでに与えられている如来の大きな慈悲に感謝して念仏 を称えています)。
現実に生きる仏教を実践する日本でただ一つの所(と 園主が言っている)と、87歳の園主の息子さんの桜井 俊彦さんは私に言いました。外観の立派な寺院に比べて、 素朴で質素な印象を受けます。外からまったく目立たな いように位置しているおよそ40㎡ほどの大きさの畳の 部屋は、修錬のために十分です。その部屋には仏像が一 つもありますせん。
あらゆる独立組織のように、真々園もつねに経済的問 題がつきまとっています。ふつうは、葬式や墓地の維持 費というのが豊富な収益です。(死者供養に重点をおく) 豊かな寺院が日本(とくに都会)には多いです。礼拝堂 を維持するために、真々園の櫻井師は、ほかの収入源を 思慮しなければなりません。それで学精寮を設立しまし た。信者の自由に捧げるご法礼のほかに、学精寮の収益 が真々園を支えています。
この学精寮の存在のおかげで、日本人のみならず外国 人も真々園に住んでいます。9年前、最初の外国人が入 りました。それはドイツ人でした。たまたま彼はこの真々 園に入りました。東京の案内書(住宅紹介所)に、真々 園は安く住める所として紹介されていました。それ以来、 絶えず外国人が留まるようになりました。OBの個人的 紹介(*たいてい1~2年滞在)や学生のあっせんは、 東京での比較的安い学生生活を可能にしてきました。 毎日私は窓から外を眺めて景色を楽しんでいます。一方 には小さな手入れの行き届いた庭、他方は地平線にそび え立つ新宿の超高層ビル。「対立のままで調和」。真々 園は、大都会の雰囲気と農村的ロマンチックが一つに調 和する接点にあります。
◇ ◇
写真説明:
写真上【政府交換留学生と桜井俊彦氏。右後ろあごひげ の人が最初の外国人】
写真下【真々園の小さな庭と中央に建つ接続部分の会堂】
◇ ◇
《ドイツ語圏(ドイツ・スイス・オーストリア)で発 行されている雑誌、
『JAPAN aktuell』1988年2月号記 事より》
翻訳者より:
Ute Schullerさんは、真々園に2度、通算約1年間住 んでいた才媛。文芸的文章なので、直訳では意味のと おりにくいところは、なるべく筆者の気持ちに添うよ う意訳しました。なお、訳文は、真々園に3度、通算 1年3カ月住んでいたMarks Ruttermannさんに添削し ていただきました。
*印を除く( )内は、翻訳段階で補いました。
写真は、1985年の筑波万国博覧会のドイツ館前で、政 府交換留学生たちと撮影。3年後、右端のAndreas Ku ppersさんは、ドイツの旅行社でこの雑誌を見て自分 が写っているのに驚いたという。
真々園は、1993年に建て替えられ、学精寮はなくなり ました。
「対立のままで調和」西洋の二元論を超越した仏教の 一元論が日本文化の根底にあり、そこに平和のカギが あることを筆者は暗示している。
(2006.10.3)
〒171-0052
東京都豊島区南長崎4-12-18 真々園
TEL/FAX 03-3952-3776