英語・グローバル教育/教育探究ユニット
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目的
聖学院のICEモデルを完成させる
聖学院の法人共通のICEモデルルーブリックを完成させ、英語の授業を通じて「Only One for Others」を体現した生徒を育てることを目指します。ICEモデルは知識を得るだけで終わらず、その知識を他の知識、教科、個人の経験とつなげ、さらに発展させることを生徒に求めます。さらにCDFsと呼ばれる7つの談話機能を用いた評価軸を加えることで、生徒のアウトプットが増え、文部科学省が推奨する「主体的で対話的な深い学び」が実現できます。
マインド
人間形成につながる再現性あるルーブリック
ICEモデルのConnections(つながり)、Extensions(発展)の過程において、生徒は知識とつながる自分の中にあるものを見つめます。その際に自分の過去の価値や存在意義、使命に気づき、また一見価値がないように見えるものにも価値を見出せるようになります。ここに聖学院のスクールモットーがあり、人間形成につながる授業づくりがあります。そしてエビデンスを重視したルーブリック作りをすることで、再現性があり、誰もが深い学びにつながる授業設計をできるようにしたいと考えています。
実績
生徒の発話意欲が向上
生徒の英語談話能力が向上
教員主導→生徒中心の授業にシフト
生徒が即興で自分のメッセージを打ち出せるようになった
当ユニットの活動は聖学院中高の伊藤大輔先生中心となり、英語教授法の研究者である和田玲先生の指導のもと、CDFsを組み合わせた聖学院のICEモデル作りを進めてきました。理想と問題の特定から始まり、試行、成果検証、再設計のサイクルを反復して現在に至ります。実証は実際の授業にて行い、和田先生が生徒へのインタビューも行なって成果を定量的・定性的に評価してきました。その結果、生徒の発話量(アウトプット)が増え、複雑多様かつ自主的な回答が可能となり、ICEモデルとCDFsの観点からも授業設計の成熟が見られるようになりました。一定の成果を収めています。
展望
ICEモデルを他教科へ展開
英語という一つの教科で成果が出せたため、今後は他の教科への展開を考えていきます。語学とそれ以外の教科では教授法に違いがあるものの、CDFsを用いたICEモデルとはどういうものでなぜ有効なのかという概念の部分はレガシーとして活かせるはずです。今回ほど大規模ではないものの、ICEモデルを授業に取り入れた他教科の例もあります。当ユニットの成果をそれらの例とつなげ、全教科でエビデンスに基づいた授業ができるようになることが理想です。
ICEモデル活用ワークショップ
ICEモデル+CDFsを用いた授業のポイント
出題資料:「discrimination-差別」という青山学院大学の入試問題。
病院に運ばれた女性の大学教授に対する医療スタッフの対応が、一人の患者だった時と、ステータスが分かった後とで変わるという話
題材文の登場人物についてguessという単語を使って生徒に意見を求めたり、ワンシーンを描写させることで理解を求める(「I」)。次に自分が関係者だったらという質問で、自分とのつながりで発話させる(「C」)。それからこの文章の中に含まれる差別について問う(「E」)。その後、実際の入試問題を見ていく。生徒は対話形式で考えながら読み進めたのですぐに答えられました。
テキストの内容を深掘りしていく。生徒にテキストの内容を要約させ、「discrimination」とはどんな意味なのかを考えさせる(「I」)。次に自分のステータスや、自分と関わりがある差別経験について問う(「C」)。それから得た教訓や人に伝えたいことをプレゼンテーション(「E」)。最後に伊藤先生が用意しておいたモデルプレゼンテーションを行ない、生徒の理解を促進し、学びの深化につなげました。
主体性とは「積極的挑戦意欲」のことで、それを生徒から引き出すことを意識。生徒の回答に対するフィードバックの時に、ルーブリックを用いて生徒同士で評価とその評価についての説明をさせる。またプレゼンテーションを2回行い「もう一回チャンスがある」ことで生徒たちから挑戦意欲を引き出した。これにより生徒たちが積極的に発話する環境が醸成されました。
ワークショップ主催者 / 聖学院中高教諭
●profile
聖学院中高に勤めて12年目、中学1年学年主任、国際教育副部長。受験だけでなく、将来使える英語力を身につけてもらうために日々授業しています。
和田玲先生(監修)の解説
授業研究の大前提として、育てたい生徒像(理念)が必要です。その手段として授業が存在します。しかし、理念と手段にギャップが生まれることがあります(知識の獲得を重視してしまう等)。教員はそのギャップを埋める必要があります。その際、うまくいっていることとハードルになっていることを抽出し、実行可能性と実現可能性が高いことから着手していきます。これが授業研究の基本的な考え方です。
昨年度は、生徒の発話意志、談話能力の向上などが見られたものの、まだ教員のコントロールが強く、授業計画通りに進むことにとらわれ、生徒の談話に注目できていませんでした。そこで今年度は生徒に考える準備を与え、段階的な発話指導、気づきを促す指導を重視、ペアでフィードバックさせるなどにより、生徒中心の授業づくりにシフトできました。さらに生徒が即興でテーマを要約し自分の経験とつなげてメッセージを打ち出せるようになり、生徒にも授業づくりにも明確な成長が確認できました。
監修
●profile
ウィーン大学教育言語学研究員。長崎大学教育学部助教。それ以前は、順天中学校・高等学校で20年間英語教員を務める。他にも全国各地の様々な教育研究機関で教員研修セミナー講師を務める。大学では、英語科教育法関連の講義や教育実習講義を担当。塾・予備校での講師経験もある。
ICEモデルとはIdeas(知識)、Connections(つながり)、Extensions(発展)の頭文字をとったルーブリック(評価モデル)です。生徒が知識をもっているだけか、他の知識を組み合わせて考えられるか、さらにそこから発展があるか、生徒の学びの深さを可視化でき、同時に、そのステップで生徒を誘導することで深い学びを実現できます。
人の思考は「分類」「定義」「描写」「評価」「説明」「探索」「報告」の7つに分類できます。それらに基づく学びのデザインツールを認知的談話機能(CDFs)と呼びます。学びを推進するデザインツールです。授業デザインを行う際に、この7項目を盛り込むことで、生徒の言語能力を上達させることができます。また、ICEモデル同様、評価軸としても活用でき、生徒が今どの項目を使えているのか判断することができます。ルーブリックを作ることも可能です。
中学3年生の卒業研究では「自らの問いを科学的に実証せよ」というミッションを生徒に課しました。理科をICEモデルに落とし込むと以下のようになります。卒業研究のミッションはExtensionsにあたります。生徒が考えた問いには「卵はどの角度が一番割れやすいか?」「地球を丸く感じる高さはどれくいらいか?」などがあり、自らの問いに結論づけるまでの過程にもIdeas/connections/Extensionsがあります。1年次からスモールステップで授業にExtensionsを取り入れてきた結果、3年次に自らの問いにチャレンジして結論まで至れるようになりました。
・Ideas=教科書に書いてある実験を実施できる
・Connections=与えられた問いを知識を使って実証できる
・Extensions=自ら問いに対してチャレンジできる