第3回

英語授業デザイン研究会
  Report 
2023年度

2023年1219日(

学校法人聖学院では2020年度から聖学院小学校、女子聖学院中高、聖学院中高の駒込3校で連携して教育を研究し、推進しており、その一つに英語・グローバル教育があります。聖学院の建学の精神は「神を仰ぎ 人に仕う」です。社会や世界に貢献できる人材育成を目指しています。それゆえ英語は必須となります。特に課題解決のための自分の考えを相手に伝える力、アウトプットは非常に重要です。まず中高で、アウトプットをより強化した聖学院らしい英語の授業を研究し、途切れない英語教育を実現するために小学校とも共有していく。そのための研究会です。

「対話的で深い学び」の実現のために

対話的な授業と男女の中高の共通の評価軸を作る

現在の日本の英語教育においてアウトプットの弱さが課題になっています。文部科学省の新学習指導要領においても、これからの社会を生きていく力として自ら考え表現する力が重視され「対話的で深い学び」を推奨しています。

聖学院はアクティブラーニングをはじめ、かねてよりアウトプット主体の授業を展開していますが、駒込3校、特に男子と女子の中高の連携によりさらに強化することを目指しています。そこでCLIL※にヒントを得た対話中心の聖学院らしい授業デザイン法と、聖学院中高・女子聖学院中高共通の評価軸の研究が始まりました。これが「英語授業デザイン研究会」です。研究会には、アクティブな授業デザイン手法とその著作で知られる和田玲先生を監修として迎え、専門的で客観的な目線でのご指導もいただいています。

※英語以外の教科を英語で学び、そのテーマについて議論するヨーロッパ発祥の手法です。

和田玲先生(監修)

ウィーン大学教育言語学研究員。それ以前は、順天中学校・高等学校で20年間英語教員を務める。他にも全国各地の様々な教育研究機関で教員研修セミナー講師、大学で英語教授法関係の特別講義や教育実習講義を担当。塾・予備校での講師経験もある。

対話的な授業を作る「CDFs」
Cognitive Discourse Functions(認知的談話機能)

英語授業デザイン研究会では「CDFs」という評価モデルを導入しています。生徒の学びの深度は、生徒がその事柄を自分の言葉でどう説明できたかで計れます。しかし言語機能ゆえに可視化しなければ評価することもできません。生徒の発言を「分類」「定義」「描写」「評価」「説明」「探索」「報告」の7項目で可視化していくツールが「CDFs」です。「この生徒は今評価した」「この生徒は描写している」と教員の中に客観的な軸ができます。逆にこの7項目を意識して授業に盛り込めば、発言量や議論の機会を増やすことができます。生徒の思考が活性化され、対話的で深い学びの場が実現します。また、他の評価モデルと組み合わせることで育てたい生徒像に合わせたルーブリック(評価軸)を作成することも可能です。

例)サブプライムローン問題をテーマとした授業デザイン

●サブプライムローン問題とは何か「定義」させる

●なぜ起こったのか「説明」させる

●世界経済に与えた影響を「描写」させる

●その影響を緩和させるために考案された様々な対処法を「評価」させる

 ...(中略)

これらの問いを中心に授業をデザイン

例)ICEモデルを組み合わせたルーブリックで学びを可視化

※ICEモデルとはIdeas(知識)、Connections(つながり)、Extensions(発展)の頭文字をもった言葉。生徒が知識をもっているだけか、他の知識を組み合わせて考えられるか、さらにそこから発展があるか、生徒の学びの深さを可視化する評価モデルです。

研究会でデザインされた授業例

  聖学院高校2年生 11/29の授業  

教科書の「クジラのコミュニケーション」を題材に

CDFsデザインをもちいて対話的にアプローチ

教科書にはクジラ同士のコミュニケーションと、その研究が人間への応用までは至っていないという事実だけが書かれています。授業では人間に適用できる部分はどこなのかを探索しました。

伊藤大輔先生

聖学院中高に勤めて11年目、英語科主任、国際教育部副部長、宗教部副部長。受験だけでなく将来使える英語力を身につけてもらうために日々授業しています。

イントロダクション(動物の分類)

まず人間を含む数種類の動物を生徒に提示。生徒に自分なりに分類させ、次に説明を求めました。同じグループに選んだもの同士には共通点があることになります。その共通点から学ぶものがあるはずであり、それが後に出てくるクジラのコミュニケーションの人間への応用につながります。

リーディング(リテリング)

リテリングとは、英語で書かれた文章をそのまま読み上げるのではなく、頭で一旦理解し、自分なりの言葉(英語)で再アプトプットすることです。言語習得には効果的で、この授業では教科書のセンテンスを用いてこのリテリングを行いました。

extentions(探索的視点)

教科書を読み終えた後、生徒に「クジラのコミュニケーションから人間が学べることはなんでしょうか?」という問いを投げかけ、教材より発展したさらに深い学びに挑戦しました。

【授業解説】

この授業のどこにCDFsが使われ、対話的な授業が実現したのかを和田先生の解説をもとに説明します。

授業構成

イントロダクションではCDFsの「分類」「定義」「説明」が盛り込まれ、リテリングでは生徒が「理解→要約→説明」という手順を踏むことになり、音読より強度の高い学びになっています。extentionsの部分でも「描写」と「探索」の要素があります。授業の全ての段階に生徒の発言の機会があり、授業全体が対話的になっています。

発話支援

生徒が発言するには、話す内容を考え、それを外国語で言語化し、リハーサルをする3つのステップが必要という理論があります。教員は各ステップを支援することで生徒の心理的ハードルを下げることができます。この授業では話す内容を考える時間を必ず設け、例文を提示して言語化も支援していたので、生徒の活発な発言につながっていました。

フィードバック

教員は生徒の発言に適切にフィードバックを返していました。「要約」し生徒の発言を整え、「評価」し生徒の意見に肯定的な価値をつけ、「説明」しその価値の根拠づけを一つ一つの発言に対して行っていました。これにより発言に価値期待が生まれ、他の生徒の発言を促すことに成功しています。

教室対話

イントロダクションの最後に教員の分類例を生徒に提示します。そしてこの分類の定義は何かを生徒に投げかけます。生徒はすでに自分なりの定義を持っているので、違う意見が出てくると自己関連性という好奇心が出てきます。正解は「超音波」だったのですがその難しい言葉も対話的なため生徒に入って行きやすく理解が深まります。

研究会レポート

今回で第3回となる研究会は、聖学院中高の伊藤大輔先生が和田玲先生の協力を得て設計し、研究会に先立つ11/29に実施された授業を考察する形で行われました。参加者は聖学院中高・女子聖学院中高の教員19名。まず伊藤大輔先生から授業の目標、授業の内容と流れの説明がありました(「研究会でデザインされた授業例」参照)。その後和田先生から「CDFs」や授業の解説が、ワークショップ形式で行われました。

授業の最後の「クジラのコミュニケーションをどう人間に応用するか」の問いについては答えられる生徒がいなく、伊藤先生自ら「生徒をそれぞれの考えに導くもっと良いアプローチがあったのではないか」と問題定義がありました。これに対し様々な意見が飛び交い、最終的には具体的な改善策もその場で生まれました。

和田先生はワークショップ自体に「CDFs」、発話支援やフィードバック等のテクニックを盛り込み、参加した先生方が体験できるように解説を進めていました。話や資料だけではなく、授業を受ける側として効果を実感できる、とても有意義な研究会となりました。

  英語の授業の集大成 

聖学院SDGsコンテスト 英語スピーチ部門

学校法人聖学院では、SDGsを推進、周知するため毎年「SDGsコンテスト」を開催しています。その中の英語スピーチ部門ではSDGs的な視点をもった英語のスピーチコンテストを行っています。聖学院に通う中学生以上の生徒・学生が参加できるイベントです。2023年は、タイの貧しい村の課題とその解決をテーマとした聖学院高校3年の下口素輝さんのスピーチが最優秀賞を受賞しました。

受賞者コメント


聖学院高等学校

下口素輝
3

学校が主催する「タイ研修旅行」で訪れた現地のボランティア財団と、その財団の経営的自立支援についてスピーチしました。その財団は、生活が困難な子どもたちを助ける活動をしていて、コロナの影響で経営難に陥っていました。彼らが立ち行かなくなると子どもたちが危険な状態に晒されます。スピーチでは彼らの実情が伝わるようにストーリー性を持たせることに注力しました。またクラウドファンディングで彼らに資金を提供したのですが、これでは一時凌ぎにしかならないので、持続可能になるよう自立支援も同時に行いました。この持続可能性の重要性についてもスピーチで重視した点です。内容が伝わるよう原稿を何度も作り直したので、受賞はとてもうれしかったです。将来は海外の貧困ボランティアに興味がある人の後押しをし、世界の貧困課題に貢献したいと思っています。

審査員コメント


主張の明確さ、具体的実践が示されている

素晴らしいスピーチ

下口くんのスピーチは、タイの無国籍の子どもたちやその親を保護する財団でのボランティア活動がベースになっています。彼のスピーチの素晴らしい点はその構成です。体験を通して何を感じたか、そして問題の分析と抽象化をしたこと、どうしたら解決できるのかを提案し、実際に行動、新たな課題発見と感想。とても主張が明確です。また寄付だけに頼らず、現地の人たちの力で実現できる持続可能な解決策まで提示しています。世界の問題を自分の問題として捉え、解決のために頭と手を動かしている人しかできないスピーチでした。

(審査員 飯塚直輝先生)