透析患者さんが日々の生活で最も辛いと感じることの一つが、「水分制限」ではないでしょうか。制限が苦痛なのは、「喉の渇き」を強く感じるからです。
なぜ透析患者さんはこんなにも喉が乾くのでしょうか?そして、どうすればこの辛い渇きを乗り越えられるのでしょうか?
原因を知り、賢く対策することで、水分制限の苦痛は必ず和らぎます。
塩分の摂りすぎ
食事で塩分(ナトリウム)を多く摂ると、体は塩分濃度を薄めようとして水分を欲します。これが喉の渇きの最大の原因です。計算上、塩8.2gにつき水1Lが必要とされます。
塩分摂取 → 血中のナトリウム濃度上昇 → 脳が水分を欲する → 強い喉の渇き
喉の渇きを我慢するのではなく、根本的な原因を取り除く、または渇きを和らげる工夫をしましょう。
コツ 1:徹底的に「減塩」する
コツ 2:少量を「のどが乾いたときに口に含む」
制限された水分量を、一度に飲むのではなく、少量(氷1〜2個分)をのどが乾いたときに口に含みましょう。
氷やフローズンフルーツ: 水を凍らせた氷や、少量であればフローズンフルーツを舐めることで、口の中でゆっくり溶けて、喉の渇きが長く和らぎます。(ただし、カリウムの多い果物は控えてください。)
コップの大きさを小さい物にするのも役に立ちます。
コツ 3:口腔内を保湿・清潔に保つ
口の中が乾燥すると、より強い渇きを感じます。
うがい・歯磨き: こまめにうがいや歯磨きをして、口の中のネバつきや不快感を取り除きましょう。
保湿剤の活用: 口腔保湿ジェルや保湿スプレー、無糖の飴などを活用して、唾液の分泌を促し、口の中の乾燥を防ぎましょう。
コツ 4:適温の飲食物を選ぶ
人によって、冷たい物を飲んだ方がのどの渇きが少なくなったり、逆に温かい物を飲んだ方がのどの乾きが少なくなったりするようです。どちらがいいというのは諸説あるようです。ご自分が、よりのどの乾きが抑えられると感じられる温度の飲み物を摂取されると良いでしょう。
水分制限は大変ですが、無制限に水分を摂りすぎると、心臓に大きな負担がかかり、体調を崩す原因になります。
当院では、患者さんの体重増加量をしっかり管理し、無理のない水分摂取を維持できるようサポートしています。水分管理で困っていること、試したいことがある場合は、私たちスタッフにご相談ください。一緒に最適な方法を見つけましょう。
透析患者さんにとって、食事は栄養管理の要であり、同時に楽しみでもあります。しかし、「外食は危険」「コンビニ食は添加物が多くてダメ」と、外出先での食事が大きな不安になることがあります。
結論から言えば、ポイントを押さえれば、外食もコンビニ食も十分に楽しむことができます。
特に注意が必要な「カリウム」と「リン」を、外食・中食(コンビニなどで購入した食事)で賢くコントロールするための具体的な選び方と工夫をご紹介します。
カリウムは、野菜や果物に多く含まれますが、外食やコンビニ食では調理法などに落とし穴が潜んでいます。
落とし穴①麺類の汁(スープ)
なぜカリウムが多いか:魚介や肉、野菜からスープに大量のカリウムが溶け出しています。
対策・選び方のコツ:汁は絶対に飲まない! 具だけを食べるようにしましょう。
落とし穴②生野菜サラダ
なぜカリウムが多いか:生の野菜は、カリウムがそのまま残っています。
対策・選び方のコツ:食べる量を少量に抑える。温野菜や炒め物を選ぶことで、調理中にカリウムが流れ出ます
落とし穴③カレー・シチュー
なぜカリウムが多いか:トマトやジャガイモなどの野菜を長時間煮込むため、カリウムが溶け出しています。
対策・選び方のコツ:ルーを少なめにし、具材(特に芋類)の摂取量を控える。
落とし穴④果物が入ったデザート
なぜカリウムが多いか:特にバナナ、メロン、キウイなどはカリウムが多いです。
対策・選び方のコツ:ゼリーやプリンなど、果物以外のデザートを選びましょう。
リンは、肉や魚、乳製品にも含まれますが、特に注意すべきは「加工食品」に含まれるリンです。加工食品に使われる「食品添加物(リン酸塩)」は無機リンと呼ばれ、天然のリン(有機リン)よりも体内に吸収されやすいため、注意が必要です。
※有機リンで、植物性のものは20ー40%、動物性のものは40-60%、無機リンはほぼ100%吸収されると言われます。
危険な食品①練り物、加工肉
なぜリンが多いか:ソーセージ、ハム、ちくわなど。食感や風味を良くするためにリン酸塩が使われがちです。
対策・選び方のコツ:成分表示を確認し、リン酸塩が含まれていないもの、または天然の肉に近いものを選びましょう。
危険な食品②インスタント食品
なぜリンが多いか:カップ麺やレトルト食品などのインスタント食品には食品添加物が多く含まれます。
対策・選び方のコツ:麺類は汁を残す。茹でこぼせるならば茹でこぼす。頻繁には食べない。
危険な食品③乳製品
なぜリンが多いか:チーズ、牛乳、ヨーグルト。タンパク質と同時にリンも多めです。
対策・選び方のコツ:食べる量を制限する。特にチーズ類は少量にとどめましょう。
危険な食品④パン
なぜリンが多いか:イーストフードや膨張剤にリン酸塩が使われることがあります。
対策・選び方のコツ:食パンよりもご飯を選ぶ方が安心です。
【外食編】
定食を選ぶ: 丼ものや麺類ではなく、ご飯・主菜・副菜が分かれている定食を選び、汁物や小鉢の量を調整しましょう。
調味料は「別添え」: 醤油やソースはかけずに、小皿で提供してもらい、「ちょい付け」で塩分を抑えます。
調理法を工夫: 野菜料理は、「煮物」よりも「炒め物」の方が、カリウムが流れ出ており安心です。
【コンビニ編】
おにぎりを選ぶ: 味付けご飯や調理パンよりも、梅や鮭などシンプルな具材のおにぎりが減塩しやすいです。
野菜は「ゆで・炒め」の惣菜を: 生野菜サラダよりも、きんぴらごぼうやひじきの煮物など、調理でカリウムが流れ出ている惣菜を少量選びましょう。
低リン食品を活用: 腎臓病食コーナーがある場合は、低リン・低塩のお弁当を積極的に選びましょう。
外食やコンビニ食は、上手に活用すれば、日々の献立に変化と楽しみをもたらしてくれます。しかし、不安な点や迷う点があるのは当然です。どうぞお気軽にご相談ください。
「塩気がなくても満足できる」味付けには、ちょっとした工夫が必要です。以下のテクニックをぜひ取り入れてみてください。
塩味の代わりに、「酸味」や「香り」を味の主役にしましょう。
酸味: レモン、酢、かんきつ類の果汁は、少ない塩分でも全体をキリッと引き締め、満足感を与えます。
香り: ショウガ、ニンニク、ネギ、大葉、みょうが、カレー粉、ハーブ(コショウも含む)などを積極的に使うと、塩気がなくても風味豊かに仕上がります。
日本料理の基本である「だし」には、塩分がなくても満足できる「うま味」が凝縮されています。
濃いだし:市販の顆粒だしではなく、かつお節や昆布、煮干しで丁寧に濃いだしを取ると、薄味でも美味しく感じられます。
素材の味:きのこ類や海藻類、野菜のうま味を煮物や味噌汁に活かしましょう。
調味料の使い方を見直すだけで、塩分摂取量は大きく変わります。
「ちょい付け」の徹底: 醤油やソースは、料理全体にかけるのではなく、食べる直前に小皿で少量つけて食べるようにしましょう。
香りを立てる: 塩や醤油は、加熱する途中で加えるよりも、完成直前に少量加える方が、味を感じやすくなります。
スーパーなどで売られている「減塩醤油」や「減塩味噌」は、通常の製品に比べて塩分が約半分に抑えられています。
ただし、これらの製品の一部は、塩分を減らした代わりにカリウムを加えて味を補っている場合があります。カリウム制限が厳しい方は、栄養成分表示や原材料を必ず確認し、医師や栄養士に相談して活用しましょう。
人間の味覚は、慣れることができます。最初は薄味に抵抗があっても、2週間ほど続けると、濃い味付けを「しょっぱい」と感じるようになります。焦らず、少しずつ塩分を減らす練習をしましょう。
食事の工夫を通じて水分管理が安定すれば、透析中の体の負担も減り、より快適な透析ライフを送ることができます。塩分コントロールで困ったことがあれば、スタッフにお気軽にご相談ください。
透析患者さんにとって、食事管理は非常に重要です。当センターでは、おいしく、かつ健康的な食事を続けていただくためのヒントを提供しています。
日々の生活できをつけたい食事のポイントを2枚のスライドにまとめました。