透析患者さんのための防災対策と心構え
透析患者さんにとって、災害時の備えは命を守るための絶対条件です。この記事では、発災時の初動から避難生活の自己管理、そしてクリニックとの連携まで、具体的な行動と知識を解説します。
1. 災害時の「3つの命綱」と初動の行動
大地震発生直後の初動と、その後の透析継続のために、命綱となる情報と行動を理解しておきましょう。
A. 揺れを感じた瞬間の「命を守る3つの行動」(クリニック内)
透析中に地震が発生した場合、スタッフの指示があるまで、絶対に自己判断で動かないでください。
① 頭部を守る: 布団やクッションを頭までかぶり、落下物から身を守りましょう。
② 回路を握る: 血液回路を握れる方は、しっかりと握って抜針を防ぎましょう。
③ 揺れが収まるまで待機: ベッドにしがみつける場所を見つけ、静かに待ちましょう。
B. 緊急離脱と避難の順番
揺れが収まった後、スタッフが状況を確認し、避難が必要な場合は順次、離脱(抜針)を行います。
緊急離脱の基本: 基本的に抜針(針を抜くこと)による対応です。一刻を争う場合は回路切断による迅速な離脱を行うことがあります。
避難の順番: スタッフの誘導のもと、自立できる患者様から先に避難していただき、その後、スタッフが自立困難な患者様(車椅子、ストレッチャーなど)の避難をサポートします。
C. 地震以外の緊急事態(停電・火災・有毒ガス)の対応
停電時: ベッドサイドの機械はバッテリーで動くためすぐに停止しません。落ち着いてスタッフの指示を待機してください。
火災時: スタッフの指示に従い離脱し、避難時は姿勢を低くし、濡れタオルなどで口や鼻を覆いながら避難してください。
有毒ガス時: 塩素ガスは空気より重いため、避難時は姿勢を低くせず、高い姿勢で避難してください。
2. 患者さん自身で備えるべきもの(自助の徹底)
大災害が発生した直後は、行政による支援(公助)が始まるまでに時間がかかります。生存率を上げるためには「自助(自分で備える力)」が最も重要です。
A. 命綱となる!透析患者のための「持ち出し7品」
災害時にまず持ち出すべき非常用持ち出し袋に、以下の「命に関わる重要物品」を忘れずに入れましょう。常に持ち歩くか、すぐに持ち出せる場所にまとめてください。
① 常備薬:降圧剤、リン吸着薬など。最低3日分
② お薬手帳:処方内容を他院に伝えるために必須。
③ 透析状況カード、記録:支援透析を受ける際の命綱です。咲花透析センターでは希望される方にお配りできるように、現在作成しております。
④ 健康保険証:医療を受けるための証明書。
⑤ 身体障害者手帳:コピー可。避難所でのサポートに必要。
⑥ 現金:災害時はキャッシュレス決済が使えないことがあります。
⑦ 止血ベルト:万が一の場合の緊急止血に使用。
B. 災害時の食事ポイントと備蓄
被災後は、透析治療が不十分になる可能性があるため、日頃以上に水分・塩分・カリウムの摂取に注意が必要です。
透析患者向け非常食の備蓄: 避難所で配られる一般の非常食は不向きです。透析患者向けのレトルト食品などを、最低3日分はご自身で準備しましょう。(ローリングストック法が有効)
災害時の食事4つの「鉄則」:
水分を厳しく控える: 飲水量はいつも以上に(目安:500ml/DAY以下)厳重に管理が必要です。
カリウムの多い食品は避ける: 不整脈を引き起こす恐れのある果物、牛乳、野菜ジュースなどは避けてください。
塩分を極力カット: 即席めんのスープは残すなど、徹底した減塩対策を。
エネルギー不足に注意: ご飯やパンなど、効率よくエネルギー補給できる食品は適度に食べましょう。
C. 在宅避難の判断基準とトイレの備え
家屋の安全が確保できている場合は、感染症リスクの低い「在宅避難」が推奨されます。
危険な条件の見極め: 家屋の倒壊リスク、長期のインフラ停止、生活必需品の確保が困難な場合は、迷わず避難所へ向かいましょう。
災害後の水洗トイレの鉄則: 配管の安全が確認できるまで、水洗トイレに水を流さないでください。汚水が逆流し、集合住宅でトラブルの原因となります。水洗トイレが使えない場合は、災害用トイレキットを利用しましょう。
3. クリニックとの連携と情報確保
A. 当院の災害時対応と情報発信
当院の被災情報、透析利用の可否など、生命に関わる重要な情報については、当院では、以下の手段で発信を行います。他施設をご利用の方は、施設の方に問い合わせておくと、いざというときに役立ちます。
災害伝言171: 安否確認の電話が集中するのを避けるため、当院からの発信にも利用します。
SNS(X, Facebook, tiktokなど): リアルタイムな情報を発信します。日頃から当院のSNSアカウントをフォローし、情報源として確保しておきましょう。
ホームページ: 復旧の目処や、今後の透析受け入れ方針など、詳細な情報を掲載します。
B. 家族と安否を確認し合うための手段
大規模災害発生時は、一般の電話回線がパンクします。電話以外の手段を事前に決めておくことが重要です。
LINE安否確認: 震度6弱以上で赤いタブが自動表示されます。「無事」「被害あり」などのステータスで家族や友人に知らせることができます。
災害用伝言ダイヤル「171」: 電話でメッセージを録音・再生できるサービスです。
災害用伝言板(Web171): インターネット版の伝言板で、テキストで安否情報を登録・確認できます。
C. 他院で支援透析を受けるための心構え
ご自分の通われる施設で透析治療が困難になった場合、他院で支援透析を受ける必要があります。
透析条件カードの重要性: 支援先で安全な透析を受けるためには、透析条件カード(血液型、感染症の有無、DW、治療条件などが記載されたもの)が命綱です。必ず持ち出し袋の最も取り出しやすい場所に入れておきましょう。
送迎は原則困難: 遠隔地への送迎はできない可能性が高いため、ご自身またはご家族で移動手段を確保する心構えが必要です。