ここでは、透析知識がさらに深まる記事や、透析患者さんの耳寄り情報を定期的に発信します。
透析治療を長く続けていくうえで、ご自身に合った施設選びは非常に重要です。以下のポイントを参考に、後悔のない施設選びをしてください。
●アクセス:通院のしやすさ(自宅からの距離、交通手段、送迎サービスの有無など)
●透析時間・曜日:ご自身の生活リズムに合った透析スケジュールを組めるか
●設備・アメニティ:最新機器の有無、快適に過ごせる環境(食事、TV、Wi-fiなど)
●医療体制:医師やスタッフの専門性、緊急時の対応、他の医療機関との連携体制
●サポート体制:心理的サポート、栄養指導、社会福祉士による相談対応など
●施設の雰囲気:スタッフの対応、患者さんの様子など
以下にPDF資料で透析施設を選ぶポイントを詳しくまとめました。クリックでご覧いただけますので、参考にしてください。
透析治療を始めたばかりの方、あるいは長く続けている方の中にも、「週3回、毎回4時間以上というのは長いな…」と感じている方は少なくないでしょう。
拘束時間が長いため、仕事や趣味、家事との両立を考えると、少しでも時間を短縮したいと思うのは当然の気持ちです。
しかし、この「4時間(以上)」という治療時間には、あなたの安全と長期的な健康を守るための、科学的かつ医学的な根拠があります。
この記事では、標準的な透析時間の根拠を解説し、時間を短くすることの具体的なリスク(老廃物除去不足、透析中の血圧低下)についてご説明します。
腎臓が健康な場合、私たちの体は24時間365日かけて、血液中の老廃物をろ過し、水分量を調整しています。
一方、透析治療(血液透析:HD)は、この腎臓の機能を週に3回、1回あたり4〜5時間で代行しています。
つまり、週に約168時間働く腎臓の役割を、たった12~15時間で集中的に行わなければなりません。すなわち1週間の仕事を半日でやってしまおうとしているということです。
この限られた時間の中で、安全かつ効果的に血液をきれいにするために、現在の「4時間」という治療時間が、医学的に確立された最低限のラインとなっているのです。
「もっと性能の良い機械で、時間を半分にできないの?」という疑問を持つかもしれません。技術は進化していますが、時間を短縮できない最大の理由は、血液をきれいにする仕組みと、体への負担にあります。
① 老廃物除去に時間がかかる理由(拡散の原理)
透析治療では、老廃物を血液から透析液へ移動させるために「拡散(かくさん)」という現象を利用しています。
拡散とは: 濃度が高い方(老廃物が多い血液)から、濃度が低い方(きれいな透析液)へ、物質がゆっくりと移動する性質です。
この拡散の作用は、お風呂にインクを一滴垂らしたときに、全体に広がるのに時間がかかるように、濃度が薄くなるほど、移動のスピードも遅くなります。
つまり、治療の後半になるほど、血液はきれいになりますが、その分、残った老廃物を除去するためにはより長い時間が必要になるのです。
② 体への負担を減らす理由(除水速度の調整)
透析治療では、溜まった余分な水分(体重増加分)を体外へ取り除く「除水」も同時に行います。
体への負担: 透析と透析の間に溜まった水分を、一度に急いで抜こうとすると、血液中の水分が急激に減り、心臓や血管に大きな負担がかかります。
時間をかけてゆっくりと除水することで、体内の水分の移動をスムーズにし、体液量の急激な変動を防ぐことができます。これは、透析中のショックや血圧低下を防ぐための、最も重要な安全対策です。
もし、自己判断や安易な考えで透析時間を短縮してしまうと、以下のような深刻な健康リスクにつながります。
⚠️ リスク1:老廃物除去不足による合併症の悪化
透析時間が短いと、特に除去が難しい中分子量の老廃物が体内に残りやすくなります。
具体的な症状:
倦怠感・疲労感: 体内に残った尿毒素が原因となり、透析後にだるさが残ることがあります。
皮膚のかゆみ: 中分子量の物質が原因となることが多く、日常生活の質(QOL)が大きく低下します。
動脈硬化の進行: リンなどのミネラルが十分に除去できず(老廃物除去不足)、血管に沈着して動脈硬化を早め、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めます。(※ブログNo.28残薬問題参照)
⚠️ リスク2:透析中の急激な血圧低下
治療時間を短くすると、同じ量の水分を除水するために、除水速度を速める必要があります。
血圧低下: 血管内の水分が急激に抜けることで、透析中に血圧が下がり、吐き気やけいれん、気分不良を引き起こします。
心臓への負担: 頻繁な血圧低下は、長期的に心臓へ大きなダメージを与え、心不全のリスクを高めることがわかっています。
透析時間が長く感じられるのは当然です。しかし、その時間は、あなたの体から腎臓が処理しきれなかった老廃物と水分を、安全かつ確実に取り除くために必要な「命を守る時間」です。
時間を短縮するということは、治療の効率を下げ、将来的な合併症や透析中の危険な症状(血圧低下など)のリスクを自ら高めることにつながります。
当クリニックでは、患者さんの安全を最優先とし、必要な透析時間を確保しています。治療時間が長く退屈に感じるときは、無料Wi-Fiを活用して読書や動画視聴を楽しむなど、時間を「自分だけの贅沢な休息時間」に変える工夫をおすすめします。
ご自身の透析時間や体調について不安な点があれば、いつでも医師やスタッフにご相談ください。
透析患者さんの高血圧は、心臓や脳血管疾患の最大のリスクです。しかし、高血圧の原因は一つではないため、それに応じた対策が必要です。
「透析中の高血圧」と「非透析日の高血圧」の原因と、患者さんがご自身でできる対策をご紹介します。
水分の過剰な蓄積(最多の原因):
対策: 厳格な塩分制限および水分制限を徹底し、透析間の体重増加(ドライウェイトの増加)を抑えることが最も重要です。
レニン・アンジオテンシン系の異常:
対策: 透析患者さんなどでは、腎臓で分泌されるホルモンが正常に働かなくなり、血圧のコントロールに異常を来たします。適切な降圧薬の使用によって、血圧をコントロールします。
高リン血症、動脈硬化:
対策: リン吸着剤の服用と食事管理を徹底します。血液検査でリンの値が高い「高リン血症」は動脈硬化に繋がり、高血圧の原因となります。
透析患者さんの高血圧対策は、「水分と塩分を制すること」から始まります。毎日の体重測定と塩分控えめの食事を徹底することで、血圧は安定します。自己判断で降圧薬を中止せず、医師と相談しながら最適な管理を目指しましょう。