学名:Ipomoea batatas (L.) Lam.
起源:南米のメキシコやペルー(諸説あり)
形態:地下部のイモは根が肥大した器官であり、塊根と呼ばれる。地上部は蔓(茎)と葉で構成されている。また、花も咲かせるが本州ではあまり見られず、沖縄といった熱帯・亜熱帯地域ではよく開花する。
特徴:雨風や日照り、乾燥といった厳しい環境下でも負けず、どこでも誰でも比較的簡単に栽培することができる。
(編集者 山浦)
琉球王国におけるサツマイモの歴史
16世紀後半、メキシコからフィリピンへ、フィリピンから中国へと伝播した「アヘス」(甘藷)は、はじめ、船中の食糧として利用されています。その後1605年、野国総官という人物が中国との貿易でこれを琉球王国の野国邑(現在の嘉手納町字野國)で広めました。
1608年、儀間真常という人物が野国総官から「蕃薯( はんす)」(甘藷)の栽培法に関する知識と苗を譲り受け、1614~1620年琉球全土に苗の配布や正しい栽培技術の普及、奨励しました。
1691~1696年ごろにこれまでの「蕃薯(はんす)」よりも優れた品種である「黄蕃薯(きはんす)」「黄色蕃薯(きいろはんす)」が導入され、これが18世紀に青木昆陽という人物によって本土に広がり、「薩摩芋(さつまいも)」と呼ばれるようになりました。その後、琉球王国では、18世紀には「古知屋芋(こちやうむ)」が、19世紀には「大黒芋(うふくるうむ)」が育種されています。
育種のほか、法司官蔡温によって甘藷の栽培法、加工法、貯蔵法などが研究され、それらの技術が農民に普及するころには琉球の人口は7~8万人に達していました。
(編集者 池間)
甘藷(サツマイモ)が普及する以前、琉球王国は気象災害などによって安定した食料が確保できず、飢えに苦しんでいました。この救荒作物である甘藷(サツマイモ)が普及したおかげで琉球王国の人民は飢えから救済されました。
その後の甘藷(サツマイモ)の歴史を日本全土でみていきます。
時は江戸時代にさかのぼり、第8代将軍徳川吉宗は薩摩藩から種いもを取り寄せ、青木昆陽に命じて関東あたりで、甘藷(サツマイモ)の栽培を推奨したといわれています。これにより関東以北でも飢餓者が著しく減ったといわれています。
近年では太平洋戦争末期から戦後にかけて、甘藷(サツマイモ)は多くの日本人を飢餓から救いました。その時に活躍したのは「沖縄100号」という品種です。名の通り沖縄で開発された「沖縄100号」は水っぽく食味があまりよくないイモでしたが、早く大きくなり多収であることから全国で栽培されていました。当時の国会議事堂の前の畑にもこちらの「沖縄100号」が植えられていたといわれています。
現在の日本では、甘藷(サツマイモ)はスイーツなどの嗜好品として食べられる機会が多くなりました。ほくほく系からねっとり系へと甘味が強い品種が好まれるようになったり、食べ方もそのままではなく加工したりなど、その品種や食べ方も多様になっています。
元々、救荒作物として日本全国の「飢え」から救済するために普及してきた甘藷(サツマイモ)は今では嗜好品として楽しまれるようになり、人々の甘藷(サツマイモ)に対する価値観や存在は時代とともに変化していったのです。
(編集者 山浦)
「サツマイモ」は世界各国で食べられている農作物です。大まかに、現在でも主食として食べられている国は、伝統的にサツマイモを食している国(パプアニューギニア)や貧しいアフリカ諸国などです。その他の大部分の国が日本と同様に、スイーツとして食しています。また、先進国では健康機能性食品として、健康や美容のために普及しようとしています。
世界全体の生産量としては、約1億トンで推移しています。その大部分はアジア、というよりも中国がその7割を占めています。その中国ですが、用途としては食用ではなく、デンプン加工や家畜の飼料、バイオエタノール等が中心です。
サツマイモは飢餓や貧困を救う主食としての面と、スイーツなどの嗜好的な面、バイオエタノールや家畜の飼料としての産業的な面、健康や美容などの機能的な面と国や地域によって様々な顔ぶれを見せています。
(編集者 山浦)
サツマイモの栽培品種は、全世界で2000~3000点ほどあるといわれています! 我々が、意識していないだけでこんなにも種類があるのです。その用途は様々で、食用であったり、原料(でん粉・焼酎)用、加工用、飼料用、観賞用など多岐にわたります。それぞれに特化するべく、品種改良がおこなわれ、用途に適した新たな品種が生まれています。こと、沖縄に注目してみると、主に生産されている紅芋の用途のほとんどが、紅芋タルトなどで用いる加工用であり、沖縄県の生産量のおよそ7割を占めています。
サツマイモの品種ではありませんが、同じイモとしてジャガイモとはどのような関係性なのか説明します。端的に言うと、サツマイモとジャガイモは全くの別物です! というのもサツマイモのいもは「根」でジャガイモのイモは「茎」がそれぞれ肥大化したものです。これらから分かる通り、植物分類学上の科も全く異なり、サツマイモはヒルガオ科、ジャガイモはナス科に分類されています。
(編集者 山浦)
サツマイモは、日本をはじめとする先進国やアジア諸国を中心に健康機能性について研究が進められています。具体的な機能性について以下にまとめてみました。
・優良なカロリー源!
いわずもがな、サツマイモは主食として食べられるほど、優良なカロリー源として知られています。米と比較すると、重さあたりのカロリー量としては若干劣りますが、栽培面積に対する収量重量が米の三倍であることからもその優良さが伺えます。
・食物繊維たっぷり!
サツマイモは第六の栄養素ともいわれる、食物繊維が豊富に含まれています。葉野菜などと比べると嵩(かさ)があるので、一度に多くの食物繊維を取りやすいです。食物繊維により抗菌作用や整腸作用などが期待できます。また、サツマイモの表面近くに分布する乳白色のヤラピンには緩下作用があり、食物繊維とともに便通を促進する効果が期待されます。
・ビタミン・ミネラルが豊富!
サツマイモにはビタミンCやビタミンB群、カロテンなどのビタミンや、鉄やカリウム、マグネシウムといったミネラルがバランスよく含まれています。これらは緑黄色野菜にも引けを取らないほどです。中でもイモの中身がオレンジ系の品種ではカロテンが多く含まれています。こんなにもカロリー源となりつつ栄養素をバランスよく含んでいる作物はサツマイモの他にないといえるでしょう。
・ポリフェノールがたっぷり!
日本は深刻な高齢化社会となっています。高齢化によって、血管の老化や認知症、さらにはガンなど体の酸化が引き金となり起こる病気が数多くあります。そんな中、ポリフェノールには抗酸化作用があり、サツマイモにはそれが多く含まれています。中でも、紫イモはポリフェノールの一種であるアントシアニンが多く含まれていたり、サツマイモの葉(沖縄の方言でカンダバー)には野菜の中でもトップクラスにポリフェノールが含まれています。
サツマイモは穀物の持つエネルギー源的要素と野菜の持つ栄養素的要素を併せ持つリアル二刀流なのです。
(編集者 山浦)
現在、サツマイモ生産はある病気によって深刻な被害を受けています。それはサツマイモ基腐病という病気です。この病気は字の通り、茎の根元の部分から腐り始め、やがてイモ自体を腐敗させてしまうという恐ろしい病気です。2018年ごろから沖縄や九州の鹿児島、宮崎で確認され、そこから瞬く間に感染していき、全国各地で確認されるようになりました。農林水産省によると、サツマイモの作付面積日本1位の鹿児島県では、21年の収量が前年比約2万4千トン減の19万トンとなり過去最低の収量となりました。沖縄でも紅芋の仕入れ量が20年、21年と19年に比べ半分近くに落ち込んでいます。
この病気の蔓延には、サツマイモの長所である「栽培のしやすさ」が背景にあると考えられます。サツマイモは誰でもどこでも簡単に栽培することができるため、知らず知らずのうちに感染してしまったサツマイモを次の種イモや苗として使ってしまったり、行き届いた生育管理がなされなかったがためにこのような爆発的な広がり方を見せたのです。この基腐病を広がらせないために、未発生地域では、病気に感染してしまった苗を「持ちこまない」、発生地域では、生育管理を見直し「増やさない」「残さない」を徹底させることがとても大事です。
(編集者 山浦)
参考文献
金城鉄男, 2009. "沖縄 甘藷ものがたりー「サツマイモ」の伝来と普及のいきさつ”, 社団法人 農山漁村文化協会, 1pp~5pp, 89pp~113pp.
財団法人いも類振興会, 2010. "サツマイモ辞典”, 財団法人いも類振興会(発行)全国農村教育協会(発売) 三松堂 株式会社(印刷), 29pp, 44~46pp, 59pp, 276~279pp, 321pp.
山川 理, 2017. "サツマイモの世界 世界のサツマイモ - 新たな食文化のはじまり”, 現代書館 株式会社, 9~12pp, 38~46pp, 67~89pp, 211~219pp.