環オホーツク圏ネットワーク事業

令和5年度

短波海洋レーダーによって観測された宗谷暖流の長期経年変動   
教授 江淵直人,教授 大島慶一郎,教授 三寺史夫,教授 西岡純,技術専門職員 高塚徹

Interannual variations of the Soya Warm Current observed by HF radar
N. Ebuchi, K. I. Ohshima, H. Mitsudera, J. Nishioka, T. Takatsuka

 宗谷海峡域に設置した3局の短波海洋レーダーによって観測された表層流速場のデータを解析し,2003~2022年の19年間の宗谷暖流の経年変動の実態を明らかにした.宗谷暖流の勢力について,これまでは稚内-網走間の水位差を指標として議論することが多かったが,経年変動について,稚内-網走間の水位差は,夏季に宗谷暖流の変動を正しく反映していないことが明らかになった.これに対し,衛星高度計と沿岸潮位の観測データで推定した流れを横切る方向の水位差の偏差は,宗谷暖流の経年変動を1年を通してよく表すことを示した.また,沿岸潮位の長期変動のデータを利用する際には,地殻変動の影響を補正する必要があることを明らかにした。

 <利用施設,装置等> HF レーダー表層潮流観測システム


完新世、最終氷期、最終間氷期におけるベーリング海周辺の気候変動の特性の解明
准教授 関宰

Climate variability around the Bering Sea region during the Holocene, Last Glacial and Last Interglacial
SEKI Osamu

 気候の安定性は気候状態に依存することが知られている。しかしその実態はよくわかっていない。本研究ではベーリング海で採取された海底堆積物コアを用いて、最終間氷期、最終氷期および完新世における気候変動を有機地球化学的手法により復元し、異なる気候状態における気候の安定性を調べた。その結果、気候は現在の間氷期(完新世)が最も安定であり、寒冷な最終氷期で最も不安定化するが、現在よりわずかに温暖であった最終間氷期でも現在に比べて気候が不安定化していたことが明らかになった。なお、本研究は環オホーツク連携予算で実施された。

利用装置:ガスクロマトグラフ、ガスクロマトグラフ同位体質量分析計


寒冷域感潮河川の水・物質循環に関する研究
准教授 白岩孝行、博士研究員 史穆清、大学院生 丁曼卉(D3)、雫田まき(M1)(環境科学院)

Hydrological and material cycles in boreal tidal river
T. Shiraiwa, S. Muqing, M. Ding, M. Shizukuda

 厚岸湖・厚岸湾に流入する河川由来の懸濁粒子は、栄養塩供給と土砂流出という二つの側面によって汽水域の漁業に影響を与える。この懸濁粒子が別寒辺牛川流域のどの支流、どのような土地被覆・土地利用から供給されるのかを解明するため、季節を変えて別寒辺牛川全流域を対象に採水を行い、懸濁物質(SS)濃度と濁度の測定を実施した。その結果、中流域のいくつかの地点で相対的にSS濃度が高い地点が存在することがわかったが、土地被覆・土地利用との関係は明瞭ではない。また、SS濃度と濁度の相関が必ずしも良くないことも判明し、今後も観測を継続する。本研究の遂行にあたっては、環オホーツク連携予算と低温科学研究所 共同研究(開拓型21K001)経費を使用し、利用施設としては分析棟環オホーツク実験室1を使用した。

 

世界自然遺産知床における漂着ごみの研究
准教授 白岩孝行、大学院生 西川穂波(D2)、伊原希望(M2)、小林工真(M2)、坂口大晴(M1)(環境科学院)

Marine litters in the World Natural Heritage Shiretoko
T. Shiraiwa, H. Nishikawa, N. Ihara, T. Kobayashi, T. Sakaguchi

平成30年11月から継続してモニタリングを実施している知床半島ルシャ地区の海岸に漂着した海洋ごみを本年度もUAVを用いたSfM多視点ステレオ写真測量によって6月と10月に計測した。また、これまで調査を実施していなかった知床岬先端部の海岸においても同様な測量を実施して、漂着ごみの実態を明らかにした。ルシャ海岸の漂着ごみは、5年間のモニタリングによって、その堆積・移動・流出過程が沖合の波高によって規定されていることが判明し、変化する時期は流氷着岸直前の1-2ケ月であることが判明した。なお、本研究の遂行にあたっては、環オホーツク連携予算ならびに環境省環境研究総合推進費(代表 三寺史夫)を使用した。

 

河川水中における湿原由来の鉄の起源に関する研究
准教授 白岩孝行

Studies on sources of riverine iron in wetland
T. Shiraiwa

 湿原を流域に有する北方河川では、河川水中の溶存鉄濃度が極めて高いことが知られており、その鉄は還元的な環境の湿原から供給されていると考えられている。ところが、湿原の表層水、土壌水、地下水が河川への鉄供給に果たす役割はまだよくわかっていない。また、近年の気候変化によって、北方湿原の凍結環境や積雪条件の変化が、この鉄供給過程に及ぼす影響も未解明である。このため、令和5年度から低温科学研究所共同研究として大西健夫教授(岐阜大学)と共同で、北海道北部の猿払川流域に位置する丸山湿原において、6mから1mの井戸を掘削し、それぞれの井戸から定期的に採水することで、湿原内の溶存鉄の挙動を観測することにした。令和5年度は地温観測も実施し、秋から冬季にかけの湿原内の地温変化の観測に成功した。本研究の遂行にあたっては、環オホーツク連携予算と低温科学研究所 共同研究(一般共同研究 23G014)経費を使用した。


日本海上の降雪雲の日周期変動の研究
助教 川島正行、 教授 渡辺力、 助教 下山宏、大学院生 高野茉依(環境科学院)

Diurnal variations of snow clouds over the Sea of Japan :
M. Kawashima, T. Watanabe, K. Shimoyama, M. Takano

2) 冬の北西風卓越時、日本海側の降雪は明瞭な日変化を示し、早朝に強まるという報告が古くからあるが、これらの報告は陸上の定点降雪観測に基づくもので、日本海上を含めた広域の雲・降水の日変動について調べた研究はない。本研究では、気象衛星データなどを用いて、日本海上および沿岸域の降雪雲の日変動特性を把握し、そのメカニズムについて考察した。解析の結果、日本海上全域において、明け方に雲頂温度が低く雲量が多くなるという日変化が見られ、これは雲放射加熱の日変動に起因するものと推測された。この変動に加え、海上を南東方向に伝播する1日・半日周期のシグナルが雲量と雲頂温度に確認され、大陸上の境界層大気の日変化の影響が、日本の沿岸部にまで到達していることが示唆された。なお、本研究の一部は環オホーツク連携事業予算で実施した。


研究課題:ビデオ画像解析から探るオホーツク海南部のアイスアルジ分布特性
Characteristics of the geographical distribution of sea ice algae in the southern Sea of Okhotsk, observed from video image analysis: 

助教 豊田威信、教授 西岡純、博士研究員 久賀みづき、学術研究員 村山愛子
T. Toyota, J. Nishioka, M. Kuga, A. Murayama

オホーツク海南部の春季ブルームに影響を与えるアイスアルジの分布特性を調べることを目的として、2014~23年の10年間の毎年2月に巡視船「そうや」を用いて記録したビデオ画像の解析を行った。解析ではアイスアルジと推定される有色氷を抽出し、その起源を海氷氷流速データセットから探った。その結果、1)有色氷の氷厚は平均して無色氷に比べて約20 cm厚く大半が30~100 cmであり、2)有色氷が多くみられる海域は北海道沿岸から少し離れた沖合で、その多くの起源はテルペニヤ湾とアニワ湾沿岸やクリル海盆周辺と推定された。なお、本研究は環境研究総合推進費および環オホーツク連携事業予算で実施した。


海氷上の積雪からのエアロゾル放出過程
助教 的場澄人、原圭一郎(福岡大学 助教)、倉元隆之(東海大学 准教授)

Aerosol emission processes from snowpack on sea ice
S. Matoba, K. Hara, T. Kuramoto

2) 極域の冬季から春季の極夜あけの大気中光化学反応は、極域の大気中の物質循環過程において重要な過程であるが、その中で海氷上から放出されるエアロゾルに関しては質、量とも不明な点が多い。その実態を解明するために、2024年2月にサロマ湖上にて積雪から放出されるエアロゾルを風送チャンバーを用いて観測した。観測されたエアロゾルの粒径分布はグリーンランドの海氷上で観測データを再現していることがわかった。

3) 分析棟積雪試料室、環オホーツク連携予算、イオンクロマトグラフィー


札幌の積雪における融解水流出過程の解明とモデル化
助教 的場澄人、准教授 飯塚芳徳、大学院生 西野沙織(環境科学院後期博士課程)、庭野匡思(気象研究所・主任研究官)、大河原望(気象研究所・所長)、谷川朋範(気象研究所・主任研究官)、

Elucidation and modeling of melt water runoff process in Sapporo snowpack
S. Matoba, Y. Iizuka, S. Nishino, M. Niwano, N. Ohkawara, T. Tanikawa

2) 積雪アルベド陸面モデルの精度向上を目的に、低温研気象観測露場において冬季に放射、気象の連続観測を行った。また、積雪断面観測を週2回の頻度で実施し、積雪物理量を計測し、表面積雪に含まれる黒色炭素と不溶性微粒子濃度を測定した。加えて、今シーズンは融雪期の積雪表面への不純物の濃縮過程を明らかにする観測を行った。

3) 分析棟積雪試料室、環オホーツク連携予算


気象観測露場及び積雪断面観測露場を利用した共同研究
助教 的場澄人

Collaborative research on meteorological observation and snowpack observation field.
S. Matoba

2) 2002年から計測されている気象データと気象観測データを公開するとともに、観測露場にて気象、積雪に関する共同研究を実施している。本年度はSnow Particle Counterによる飛雪の観測(富山大 杉浦幸之助)、新型積雪重量センサーの試験(気象研、クリマテック)、新型スペクトルアルベドメータの試験(気象研・大河原望ほか)、新型風速計の試験(都立産業技術高専・真志取秀人ほか)を行った。

3) 気象観測露場、環オホーツク連携予算


富良野盆地における降積雪の特性〜 furano bonchi powder project
助教 的場澄人、白川龍生(北見工業大学・准教授)、橋本明弘(気象研究所・室長)、furano bonchi powder project

Characteristics of snowfall in the Furano Basin
S. Matoba, T. Shirakawa, A. Hashimoto, furano bonchi powder project

2) 富良野盆地に積もるパウダースノーの特徴を明らかにするために、降積雪の観測を実施し、また、積雪の精密構造を測定するための試料採取を行った。降雪のパウダースノーを示す「ふわサラ度」が降雪の雪水比をもとに提案され、その検証と予報に使われる気象データの再現性について検討した。

3) 環オホーツク連携予算


北海道内における降積雪の観測
助教 的場澄人、大学院生 黒﨑豊、西野沙織(環境科学院後期博士課程)、荒川逸人(防災科研雪氷防災研究センター・特別研究員)

Investigations of snowfall and snowpack in Hokkaido
S. Matoba, Y. Kurosaki, S. Nishino, H. Arakawa

2) 北海道内の陸別、北見、釧路、中札内、苫小牧にて降積雪の観測を行った。道東の陸別、北見、釧路ではシモザラメ雪の通気度に着目した観測を行い、中札内では降雪の結晶形と水同位体比、不純物との関係に焦点をあてた観測を行った。

3)環オホーツク連携予算、分析棟積雪試料室


海氷融解水が南部オホーツク海の栄養物質循環と春季ブルームに与える影響の解明
(教授 西岡純、技術専門職員 小野数也、学術研究員 村山愛子、講師 中村知裕、教授 三寺史夫、教授 大島慶一郎)

Effects of sea ice melt water on nutrient circulation and spring bloom in the southern Sea of Okhotsk
(Jun Nishioka, Kazuya Ono, Aiko Murayama, Tomohiro Nakamura, Humio Mitsudera, Keiichiro Ohshima,)

2023年9月に海洋研究開発機構研究船「新青丸」KS-23-15航海において、南部オホーツク海の海氷の無い時期である秋季集中観測を実施した。年間を通じた南部オホーツク海の水塊構造と植物プランクトン群集組成や有機物生産量を把握するために、2022年5月に設置した、クリル海盆斜面域で海洋物理・生物地球化学をリンクさせたセジメントトラップ係留計観測の回収を実施した。今後、回収予定の係留計データも合わせて解析していく。これまでの観測結果から、これまで未知であった冬季を含めた南部オホーツク海の栄養塩濃度季節変動が明らかとなった。なお、本研究の一部は環オホーツク連携事業予算で実施した。

・本研究には博士1年の今井望百花氏、修士1年の岩元勇太氏が貢献している。
・利用した本研究所の施設名:プロジェクト実験室クリーンルーム


知床周辺海域の海洋循環と水塊構造およびその変動
講師 中村知裕、教授 三寺史夫、教授 西岡純、学術研究員 伊藤薫、知床財団 野別貴博、道総研 嶋田宏、

Ocean circulation, water mass structure, and their variability around the Shiretoko area:
T. Nakamura, H. Mitsudera, J. Nishioka, K. Ito, T. Nobetsu, T. Misaka,

知床周辺海域は、季節海氷の到来と豊かな海洋生態系・生物多様性に特徴づけられる。世界自然遺産に登録され、水産業と観光業も盛んである。だからこそ、科学的知見に基づく「海洋生態系の保全」と「持続的な海洋資源利用」の両立、および「地球温暖化が知床の海氷に与える影響」と「海氷消失が生態系に与える影響」の解明が求められている。これらの基盤とするため、同海域の海洋循環と水塊構造およびその変動を調べる。今年度は、(1) 知床沿岸で海洋モニタリング網の維持、(2) 既存の公開データと未公開データを合わせて解析を行った。

<利用施設、装置> 低温研情報処理システム


環オホーツク域における鉄・ケイ素・リン循環の数値シミュレーション 
講師 中村知裕、教授 西岡純、教授 三寺史夫、博士研究員 張振龍、学術研究員 伊藤薫

Numerical simulation of Fe, Si, and P circulations in the Pan-Okhotsk region:
T. Nakamura, J. Nishioka, H. Mitsudera, Z. Zhang, K. Ito

環オホーツク域(ここではオホーツク海・北太平洋亜寒帯・ベーリング海)では、植物プランクトン増殖の律速に鉄が重要であり、ケイ素が豊富なため植物プランクトンは珪藻が優占するといった特徴を持つ。本研究では、数値的アプローチから鉄などの栄養物質循環を調べる。本年度は、鉄の循環に焦点を当てて解析した。

<利用施設、装置> 低温研情報処理システム


令和4年度

オホーツク海における海氷の融解量及び融解に伴う熱塩輸送量の推定
教授 大島慶一郎、メンサビガン(特任助教)、教授 西岡純、大学院生 本田茉莉子(環境科学院)

Estimations of sea ice melt and associated heat/salt transport in the Sea of Okhotsk
K. I. Ohshima, M. Honda, V. Mensah, J. Nishioka 

海氷融解過程は不均一で複雑なため、海氷融解量を見積もる研究はどの海氷域でもほとんど行われていなかった。本研究は、オホーツク海において、海氷融解後の塩分プロファイルから表層の塩分欠損を海氷融解によるとして、利用可能な全海洋データから海氷融解量を推定した。その結果、オホーツク海南部における海氷融解量は、海氷の厚さに換算すると平均で約80cmとなり、海氷融解に伴う淡水供給量はアムール川からの年平均流出量に匹敵することが示された。また、オホーツク海南部での海氷融解量は過去40年間で15%、海氷の厚さにすると11cmの減少トレンドを示していた。これらの変動は、周辺地域の気候にも影響し、淡水供給減少に伴う成層弱化等により生物生産にも影響を与える可能性がある。なお、本研究の一部は環オホーツク連携事業予算で実施した。

<利用施設、装置>環オホーツク情報処理システム


巡視船「そうや」を用いたオホーツク海南部の海氷調査
助教 豊田威信、教授 西岡純、技術専門職員 小野数也、博士研究員 久賀みづき、館長 山崎友資(蘭越町貝の館)、大学院生 大谷若葉、高野響生、森吉紘己(環境科学院M1)、町田柾志 (理学部4年)

Sea ice observations with PV“Soya”in the southern Sea of Okhotsk:
T. Toyota, J. Nishioka, K. Ono, M. Kuga, T. Yamazaki, W. Otani, H. Takano, H. Moriyoshi, M. Machida 

オホーツク海南部で毎年2月に巡視船「そうや」を用いた海氷観測を継続的に実施している。今回取り組んだ主要テーマは、1海氷がオホーツク海の生物化学環境に及ぼす影響に関する研究、2オホーツク海南部におけるハダカカメガイ類の水塊指標種の可能性に関する研究、3海氷と波浪の相互作用および海洋表層流に関する観測研究であった。1ではドローンによる採水観測が昨年から継続して行われた。1は海上保安庁、2は蘭越町貝の館、3は東京大学大気海洋研究所、台湾国立中央大学との共同研究として実施された。なお、本研究は環オホーツク連携事業予算で実施した。


オホーツク海結氷期の氷況年々変動の地域特性
助教 豊田威信、特任研究員 木村詞明(東京大学大気海洋研究所)、教授 西岡純、特任研究員 伊藤優人(国立極地研究所)、准教授 野村大樹(北海道大学・北方生物圏フィールド科学センター)、教授 三寺史夫

The interannual variability of the ice conditions in the southern Sea of Okhotsk and its likely factors
T. Toyota, N. Kimura, J. Nishioka, M. Ito, D. Nomura, H. Mitsudera

 1996年以来四半世紀にわたってオホーツク海南部で巡視船「そうや」を用いて実施してきた海氷観測で取得したデータと衛星データを合わせてオホーツク海南部(北緯46度以南)の海氷の年々変動の特性とその要因について、特にオホーツク海の他海域との比較に焦点を当てて解析を行った。その結果、オホーツク海南部の海氷域変動には力学的な変形過程が重要な役割を果たすという点で他海域とは異なる特性をもち、変形過程の再現には適切なパラメタリゼーションの必要性が明らかになった。論文執筆の他、データアーカイブ化にも力を注いだ。なお、本研究の一部は環オホーツク連携事業予算で実施した。


北太平洋亜寒帯における植物葉ワックスの安定炭素同位体比を規定する要因
准教授 関宰、教授 力石嘉人、教授 山本正伸 (地球環境科学研究院)

Factors controlling stable carbon isotope ratios of plant leaf wax in the subarctic zone
O. Seki, Y. Chikaraishi, M. Yamamoto

 植物葉ワックスの成分である長鎖アルカンの安定炭素同位体比(δ13C)は、植物が生育する環境を反映するため、過去の環境変動の復元に広く利用されている。本研究では、北太平洋亜寒帯域において植物長鎖アルカンのδ13Cが主に反映する環境情報を明らかにするため、札幌と斜里岳にて、それぞれ季節的・高度毎の植物サンプリングを実施した。植物長鎖アルカンのδ13Cは全天日射量や高度と高い正の相関を示すなど、堆積物記録を解釈する上で有用な新知見が得られた。なお、本研究は環オホーツク連携予算で実施された。


南部オホーツク海における冬季海氷域の栄養物質循環研究
教授 西岡純、助教 豊田威信、技術専門職員 小野数也

Winter nutrient circulation in sea ice area in the southern Sea of Okhotsk
Jun Nishioka, Takenobu Toyota, Kazuya Ono

 環オホーツク観測研究センターでは、オホーツク海における海氷の生成・移送・融解に伴う栄養物質循環と生物応答を、季節変化・経年変化を含めて把握することを目指し、冬季(2月)の南部オホーツク海において海上保安庁の砕氷船そうやを用いた観測を毎年継続して実施している。2023年2月にも南部オホーツク海氷域の観測航海を実施し、海氷および海氷下の海水に含まれる重金属や栄養物質などの化学物質環境の情報を収集するためにサンプル採集を実施した。なお、本研究は環オホーツク連携事業予算で実施した。・本研究には研究補助員村山愛子が協力している。

<利用施設、装置等>プロジェクト実験室クリーンルーム


海氷融解水が南部オホーツク海の栄養物質循環と春季ブルームに与える影響の解明
教授 西岡純、講師 中村知裕、教授 三寺史夫、教授 大島慶一郎、技術専門職員 小野数也、学術研究員 村山愛子、大学院生 今井望百花

Effects of sea ice melt water on nutrient circulation and spring bloom in the southern Sea of Okhotsk
Jun Nishioka, Tomohiro Nakamura, Humio Mutsuedera, Keiichiro Ohshima, Kazuya Ono, Aiko Murayama, Momoka Imai

 2022年5月に海洋研究開発機構研究船「新青丸」KS-22-6航海において、南部オホーツク海の春季集中観測を実施した。年間を通じた南部オホーツク海の水塊構造と植物プランクトン群集組成や有機物生産量を把握するために、クリル海盆斜面域で海洋物理・生物地球化学をリンクさせたセジメントトラップ係留計観測を実施した。KS-22-6航海では、2020年12月に設置した係留計の回収と新たな係留計の設置を行った。現在投入している係留計は、2023年秋に回収する準備を進めている。今後、回収予定の係留計データも合わせて解析していくことで、海氷到来期や海氷融解期を含めて水塊構造と植物プランクトン群集組成がどのようなタイミングで変化しているのかを理解する。なお、本研究の一部は環オホーツク連携事業予算で実施した。・本研究には修士課程2年の今井望百花氏が貢献している。

・本研究には研究補助員村山愛子が協力している。<利用施設、装置等>プロジェクト実験室クリーンルーム


知床をはじめとするオホーツク海南部の海氷海洋変動予測の研究
三寺史夫、中村知裕、西岡純、白岩孝行、的場澄人、豊田威信、佐伯立(博士研究員)

Sea ice and ocean prediction in the southern region of the Sea of Okhotsk
H. Mitsudera, T. Nakamura, J. Nishioka, T. Shiraiwa, S. Matoba, T. Toyota, R. Saiki (PD)

オホーツク海の海氷変動機構解明と、その変動予測を目指した研究である。今後の温暖化によっては北海道周辺海域でも海氷域が消失する可能性があり、その条件を導き出すことを目的とする。R4年度は海氷予測を目指し、オホーツク海モデルと北海道海域モデルの開発、およびこれらのモデルを用いた温暖化実験を行った。温暖化シナリオとして、第6期気候変動モデル相互比較プロジェクト(CMIP6)の解析結果を用いた。その結果、北海道近傍の海氷は、2050年にほぼ1/3程度になることが予測された。CMIP6による温暖化シナリオは、植田教授・井上博士(筑波大)が解析したものを用いた。また、モデル開発は、黒田博士・中野渡博士(水産研究所)との共同研究として実施した。本研究の一部は環オホーツク連携事業予算を用い実施された。さらに、知床地域科学委員会をとおして、知床世界自然遺産管理への貢献を目指している。<利用施設、装置等>低温研情報処理システム


北太平洋亜寒帯循環における塩分躍層および大陸からの淡水供給の研究
三寺史夫、白岩孝行、中村知裕

Studies on the freshwater discharge in the North Pacific continents and its impacts on haloclines in the subarctic gyre
H. Mitsudera, T. Shiraiwa, T. Nakamura

北太平洋亜寒帯循環の塩分躍層の分布および形成過程について研究した。北米沿岸表層における低塩層の形成メカニズム解明に向けて、北米の大陸氷河からアラスカ湾への河川を介した淡水流入量の推定を進めた。その結果、アラスカンストリームの塩分とアラスカ河川からの淡水供給量との間に有意な相関があることが示された。また、大陸河川からアラスカンストリームへの淡水供給経路として、アラスカ沿岸流が重要な役割を果たしていることがわかった。この研究には、Yuan(D3)、Xin(D1)が貢献した。また、本研究の一部は環オホーツク連携事業予算を用い実施された。


北太平洋亜熱帯-亜寒帯循環循環間の海水交換に関する研究
三寺史夫、中村知裕、松田拓朗(学術振興会特別研究員)

Studies on the subarctic-subtropical sea water exchange in the North Pacific Ocean
H. Mitsudera, T. Nakamura, T. Matsuta (JSPS PD)親潮フロントに沿い黒潮続流から派生する準定常ジェットは、背の低い海底地形に効果的に捕捉されながら

亜寒帯循環へと侵入することが明らかとなってきた。R4年度は、特に亜熱帯循環-亜寒帯循環境界の移行領域の水塊形成に注目した研究を行った。移行領域形成には、シャツキーライズから北に伸びる背の低い地形が重要であることが分かった。また、ラグランジュ的流れの解析の結果、黒潮水の移行領域への侵入には、親潮フロントの時間変動や渦が重要な役割を担っていることがわかった。これは、美山博士(JAMSTEC)との共同研究である。本研究の一部は環オホーツク連携事業予算を用い実施された。<利用施設、装置等>低温研情報処理システム


世界自然遺産知床における漂着ごみの研究
准教授 白岩孝行、助教 的場澄人、大学院生 西川穂波、伊原希望 (環境科学院)

Marine litters in the World Natural Heritage Shiretoko
T. Shiraiwa, S. Matoba, H. Nishikawa, N. Ihara 

世界自然遺産知床の海岸に漂着するごみは、世界自然遺産内の生物多様性の保全にとって支障となるばかりでなく、保全地域の海岸の美観を損ねる要因となっている。漂着ゴミのモニタリングは、リアルキネマティックGNSSと連動した測量用UAVによる複数回の写真撮影と、SfM多視点ステレオ写真測量で面積と体積を計測することによって経時変化を定量化した。また、タイムラプスカメラを用いた撮影によって、漂着ごみの動態観察も実施した。その結果、2021年12月下旬から2022年1月中旬の流氷到来直前に高波が2回発生し、これによって調査地域の海岸では、前浜の漂着ごみの流出、波による後浜へのごみの付加が観測された。前年度までに得られていた結果に加え、漂着ごみの動態の詳細が判明し、漂着ごみ回収に向けた方策の策定に着手できる状況となった。本研究は、環オホーツク連携予算および環境省環境研究総合推進費(代表三寺史夫)の支援を受けて実施された。


積雪アルベド陸面モデル改良のための積雪物理量及び熱収支に関する観測的研究
助教 的場澄人、准教授 飯塚芳徳

An observation study of physical property of snow and heat balance for the improvement of Snow Metamorphism and Albedo processes (SMAP) model.
S.Matoba, Y. Iizuka

積雪アルベド陸面モデルの精度向上を目的に、低温研観測露場において冬季に放射、気象、エアロゾルの連続観測を行った。また、積雪断面観測を週2回の頻度で行い、積雪物理量を計測し化学試料を採取した。化学試料を用い、積雪中のブラックカーボン、不溶性微粒子量、溶存化学種濃度を測定した。本年度は、これらの結果を用いて、日本国内を対象とした広域の大気−積雪モデルに関する論文が発表された。<利用施設、装置>低温研気象観測露場、分析棟積雪試料室、イオンクロマトグラフィー、環オホーツク連携予算


気象観測露場および積雪断面観測露場を利用した共同研究
助教 的場澄人

Collaborative researches using meteorological observation fields and snow pit observations
S. Matoba

 気象観測露場及び積雪断面観測露場において2002年から計測されている気象データと積雪観測データを公開するとともに、観測露場を用いて共同研究を実施している。本年度は、Snow Particle Counterによる飛雪の観測(富山大学・杉浦幸之助)と自作測器による積雪重量測定法の検討、光量センサーの制作と試用(都立産業技術高専・高崎和之、鈴木杜人)、積雪重量センサーの試用(気象研究所)を行った。<利用施設、装置>低温研気象観測露場、分析棟積雪試料室、環オホーツク連携予算


小口径軽量ハンドオーガーの開発
助教 的場澄人、助教 箕輪昌紘、技術専門職員 森章一、佐藤陽亮、技術職員 斎藤史明

Development of a small-diameter and light-weight hand auger
S. Matoba, M. Minowa, S. Mori, Y. Sato, F. Saito 

氷床や氷河上を移動しながらアイスコアを採取することを目的とした口径が小さく軽量なハンドオーガー(手動ドリル)の開発を行った。昨年度試作したハンドオーガーを中山峠と立山室堂にてテストした。2023年 3月にグリーンランド・カナック氷帽にて試料採取に用いた。

<利用施設、装置>環オホーツク連携予算