Nakamura, T., Ueda, J., Kono, T. et al. High-turbidity bottom mixed-layer water on the shelf off Hokkaido in the Okhotsk Sea: distribution, seasonal variations, and spreading. J Oceanogr (2025). https://doi.org/10.1007/s10872-025-00755-x
北海道のオホーツク海沿岸と千島海盆は、物質循環による栄養塩供給に支えられた高い一次生産を示している。この循環の一環として、我々は北海道沖の棚とその広がりにおける底層混合層(BML)の高濁度水に注目した。
春と秋の観測では、棚を横断する厚い高濁度BMLが観測され、その大部分は宗谷海峡に由来し、知床半島と千島海盆に向かって流れていた。過去の観測データと海洋モデルの出力を解析した結果、この厚いBMLは年間を通じて存在しており、高濁度海水が継続的に供給されていることが示唆された。BMLの厚さと密度は春に最も高く、冬に最も低く、宗谷暖流の沖合でピークを示した。モデル出力を用いて、BML水のラグランジュ追跡を行った。密度の低いBML海域は、大部分が北海道付近の浅い海峡を通って速やかに北太平洋に流入したが、密度の高いBML海域は千島海盆に広がり、そこに長く留まった後、最終的に深い海峡を通って北太平洋に流入した。また、主に密度変動によって引き起こされる季節変動、流れ場の変動に関連した経年変化、沈降粒子の沈降速度に対する感度を示した。
この結果は、オホーツク海の北海道沖の高濁度底層水が千島海盆や北太平洋に輸送され、物質循環や生態系に影響を与えている可能性を示唆している。特に、26.7σθより軽い高濁度海域の海水は、冬季の混合によって富栄養帯に取り込まれ、翌春のブルームに寄与する可能性がある。
(中村、植田純生、西岡、三寺、伊藤薫)
Nakanowatari, T., Nakamura, T., Mitsudera H, Nishioka, J., Nishikawa, H., Kuroda, H. and Uchimoto, K. (2025): Decadal-scale reduction in net primary production in the western subarctic North Pacific: impact of lateral transport of dissolved iron from the Sea of Okhotsk. Environ. Res. Lett., 20, 054027
北太平洋亜寒帯域(SNP)は高栄養低クロロフィル海域であり、溶存鉄(dFe)と主要栄養素のデカップリングが一次生産を制御する上で不可欠である。本研究では、10年スケールの気候変動がSNPの純一次生産量(NPP)に与える影響を、鉄循環を含む単純な生物地球化学モデルと氷海洋結合モデルを用いた1979-2016年のヒンディキャスト実験によって評価した。シミュレーションの結果、1990年代以降、亜熱帯-亜寒帯ジャイア境界(SGB)域でNPPが顕著に減少していることが示された;その傾向は-48mgC m-2 d-1/37年であり、その大きさは気候学的平均NPPの14.3%であった。SGBにおけるNPPの減少は春に顕著で、これは春のブルームが弱まっていることを示している。シミュレーションデータの診断分析から、SGBにおけるNPPの減少は、dFeと光利用可能性の両方の減少によって説明できることが明らかになった。感度実験から、風による循環変動は主に貧栄養の亜熱帯水の北への拡大を通じてdFeの減少と光利用能の減少の両方を説明するが、オホーツク海の熱塩循環の変化もdFeの減少に無視できない影響を与えることが示された。我々の数値モデルによるシミュレーションの結果は、SNPにおけるNPPの10年スケールの変化に対するdFeの横方向及び鉛直方向の移流の重要性を示唆している。
(中村、三寺、西岡、西川はつみ、黒田)
Huailing Deng, Koji Suzuki, Ichiro Yasuda, Hiroshi Ogawa, and Jun Nishioka (2025): Phytoplankton community structure in relation to iron and macronutrient fluxes from subsurface waters in the western North Pacific during summer. Biogeoscience, 22, 1496-1508
https://doi.org/10.5194/bg-22-1495-2025
中層水から供給される栄養物質量とその化学量論比が、表層の珪藻類の増殖を制御することを発見しました。気候変動による海洋の変化に対する海洋炭素循環や生態系の変化の予測に貢献します。
(Deng, 西岡)
【本研究のポイント】
・氷の試料「アイスコア」中の硝酸イオンとカルシウムイオンの季節変動から、145 年分の年代を決定。
・1883 年のクラカタウ火山噴火や 1963 年の核実験シグナルを検出し、年代の正確性を確認。
・アイスコアの相互比較により、ヒマラヤ山脈の南面と北面で大気中を漂う微粒子「エアロゾル」の変動パターンが異なることを発見。
・春季の気圧配置の違いが、この南北差を生み出している可能性を指摘。
・ヒマラヤ山脈による大気の流れへの影響が、これまで考えられていた以上に複雑であることを示唆。
名古屋大学大学院環境学研究科の藤田 耕史 教授を中心とする研究グループは、ネパール・ヒマラヤのトランバウ氷河(標高約 6000m)から採取した 81m のアイスコアを分析し、1875 年から 2019 年までの過去 145 年間のエアロゾルの変動を復元しました。1990 年代に近隣のヒマラヤ北面で掘削されたアイスコアとの比較により、北大西洋振動(NAO)や南方振動(SOI)などの気候変動の指標とエアロゾルとの関係が、南北のアイスコアで逆のパターンを示すことを見出しました。これにより、わずか 40km 離れただけの場所であっても、ヒマラヤ山脈の南面と北面では、大気汚染物質の輸送パターンが大きく異なることが明らかになりました。
【論文情報】
雑誌名:Journal of Geophysical Research: Atmospheres
論文タイトル:Contrasting Responses of Ion Concentration Variations to Atmospheric Patterns in Central Himalayan Ice Cores
著者:
對馬 あかね(長崎大学 大学院総合生産科学研究科 技術職員)
江刺 和音(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 博士後期課程学生)
的場 澄人(北海道大学 低温科学研究所 助教)
飯塚 芳徳(北海道大学 低温科学研究所 准教授)
植村 立(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 准教授)
足立 光司(気象研究所 全球大気海洋研究部 第三研究室 主任研究官)
木名瀬 健(海洋研究開発機構 北極環境変動総合研究センター ポストドクトラル研究員)
平林 幹啓(国立極地研究所 アイスコア研究センター 特任助教)
川上 薫(北海道大学 低温科学研究所 博士研究員)
Rijan B. Kayastha(カトマンズ大学 理学部 教授)
藤田 耕史(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 教授)
DOI: 10.1029/2024JD042392
URL: https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2024JD042392
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国⽴極地研究所の東久美⼦特任教授を中⼼とする研究グループは、グリーンランド北⻄部で掘削したアイスコアを、改良型ブラックカーボン分析装置とアイスコア連続融解分析装置を組み合わせたシステムを⽤いて分析し、過去 350 年間のブラックカーボン(BC)の濃度と粒径を⽉単位で復元しました。これにより、冬と夏の BC 濃度の経年変化パターンが⼤きく異なることを明らかにしました。主に北⽶の化⽯燃料の燃焼によって発⽣した BC の影響で、冬の BC の濃度は 19 世紀後半から増加して、20 世紀初頭にピークを迎えた後減少し、近年は産業⾰命以前のレベルにまで低下しました。⼀⽅、北⽶などの森林⽕災から発⽣した夏の BC の濃度には、若⼲の減少傾向が⾒られました。また、本研究により、産業⾰命以前からの BC の粒径を世界で初めて復元したことで、化⽯燃料起源の BC の⽅が、森林⽕災起源の BC よりも粒径が⼤きかったという、定説とは異なる事実が明らかになりました。
【論文情報】
掲載誌 :Atmospheric Chemistry and Physics
タイトル :High-resolution analyses of concentrations and sizes of refractory black carbon particles deposited in northwestern Greenland over the past 350 years –Part 2: Seasonal and temporal trends in refractory black carbon originated from fossil fuel combustion and biomass burning
著者 :
東 久美⼦(国⽴極地研究所 アイスコア研究センター 特任教授)
塚川 佳美(元国⽴極地研究所 アイスコア研究センター 学術⽀援技術専⾨員)
福⽥ かおり(国⽴極地研究所 アイスコア研究センター 学術⽀援技術専⾨員)
藤⽥ 耕史(名古屋⼤学 ⼤学院環境学研究科 地球環境科学専攻 教授)
平林 幹啓(国⽴極地研究所 アイスコア研究センター 特任助教)
Remi Dallmayr(Alfred Wegener 極地海洋研究所 研究員)
尾形 純(国⽴極地研究所 アイスコア研究センター 特任助⼿)
茂⽊ 信宏(東京都⽴⼤学 ⼤学院理学研究科 化学専攻 准教授)
森 樹⼤(慶応義塾⼤学 理⼯学部 応⽤化学科 助教)
⼤畑 祥(名古屋⼤学 宇宙地球環境研究所 助教)
近藤 豊(国⽴極地研究所 国際北極環境研究センター 特任教授)
⼩池 真(東京⼤学 ⼤学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 准教授 )
的場 澄⼈(北海道⼤学 低温科学研究所 助教)
⾨⽥ 萌(元北海道⼤学⼤学院環境科学院 修⼠課程⼤学院⽣)
對⾺ あかね(⻑崎⼤学⼤学院総合⽣産科学研究科 技術職員)
永塚 尚⼦(海洋研究開発機構 地球環境部⾨ 副主任研究員)
⻘⽊ 輝夫(国⽴極地研究所 国際北極環境研究センター 特任教授)
URL:https://doi.org/10.5194/acp-25-657-2025
DOI:10.5194/acp-25-657-2025
論⽂公開⽇: 2025 年 1 ⽉ 17 ⽇
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Toyota, T. (2024): Measuring sea ice from space. In "Reference Module in Earth Systems and Environmental Sciences", Eayrs, C.(Ed.), Elsevier, ISBN: 9780124095489, https://doi.org/10.1016/B978-0-323-85242-5.00023-3 (in press)
(豊田)
北海道大学低温科学研究所では1996年より海上保安庁第一管区と共同研究を実施し、砕氷巡視船「そうや」を用いた冬季南部オホーツク海の海氷域の観測を四半世紀を超えて継続して来た。これまでに国 内の多くの研究者がこの観測機会を生かし、海氷の関わる海洋物理と生物地球化学過程や、季節海氷域 が気候に与える影響など数々の成果に結びつけてきた。さらに「そうや」観測を活かした研究から,数々 の研究が南極・北極の両極域の研究に発展した.2025年にこの「そうや」観測が発足後30年を迎える。 本研究集会では、「そうや」観測を利用してきた関係者が一堂に集まり、「今後どのように「そうや」 観測を維持し発展させ次世代の研究に活かしていくのか」を議論し、次の10年スケールで「そうや」観 測を利用して展開できる季節海氷域のサイエンスを話し合う。
日時:2024年10月22日(火)13:00-17:30
場所:低温科学研究所会議室+オンライン
西部北太平洋を含む日本周辺海域は生物生産が高く,世界でも有数の水産資源が豊富な海である。この豊かな恵みを生み出している背景には,日本海,オホーツク海,東シナ海などの縁辺海と,それらを繋ぐ黒潮・親潮の海流が関わる海洋循環と栄養物質の循環が密接に関わっていると考えられる。しかし縁辺海を繋ぐ物質循環については,観測からの定量的な裏付けに乏しい状況であり,日本周辺を繋ぐ視点をもった縁辺海と日本周辺の海流系で最新の精密な化学分析技術を用いた観測計画を立案する。
日時:2024年5月24日(金)9:00-17:30
場所:低温科学研究所講堂+オンライン
全文ダウンロード(85MB)
北海道大学学術成果コレクション(HUSCAP):個々の論文のダウンロードができます。
環オホーツク観測研究センター(以下センター)は,2004年4月に北海道大学低温科学研究所の附属施設として,それまで紋別にあった流氷研究施設を改組する形で設置された.当センターは,オホーツク海を中心とする北東ユーラシアから北太平洋,北極圏から亜熱帯にわたる地域(環オホーツク圏)が地球規模の気候変動に果たす役割を解明すること,また同地域における気候変動のインパクトを正しく評価することを目的とし,環オホーツク圏環境研究の国際拠点となることを目指して活動してきた. 2013年には改組を行い,分野横断的なテーマを対象とした2つの研究分野「気候変動影響評価分野」,「流域圏システム分野」を設け,さらに国内外との共同研究ネットワークを強化するために「国際連携研究推進室」を設置した.この3つを横断的に機能させることで,環オホーツク圏の科学的研究を強く推進してきた
センターは2024年3月で発足後20年を迎える.政治的背景のために観測が困難でデータの空白域であった環オホーツク圏の実態を明らかにすることを目指し,国内,ロシア,中国,米国など50以上の大学や研究・行政機関と連携し,研究機関ネットワークと観測網の構築を行い,数多くの国際共同研究プロジェクトを実施してきた.センターではこれまでにロシア極東海洋気象学研究所(Far Eastern Region Hydro-meteorological Research Institute; FERHRI)との共同研究を立ち上げ継続し,ロシアの調査船を使用した共同観測を実施してきた.この共同観測はロシアの排他的経済水域内における海洋観測の事実上唯一の機会となり,多数の国内外の研究者が参加し,当海域の海洋循環・物質循環の解明や古気候の復元などの成果に繋げてきた.また,アムール川河川流域の水文・物質循環の観測,サハリン北部の海氷・気象・沿岸観測,カムチャツカ半島の森林動態調査,エアロゾルモニタリング,山岳氷河研究などが,ロシア科学アカデミー極東支部太平洋地理研究所,同水生態学研究所,同火山地震学研究所などの研究機関との連携によって実施されてきた.宗谷暖流の研究では,海洋短波海洋レーダー,ドップラーレーダーの運用や,衛星観測,船舶観測,現場調査等を通し,道内水産試験場,漁業組合などと地域機関と連携し,環境変動モニタリングを進めてきた.また低温科学研究所が1996年より進めてきた海上保安庁との共同研究である砕氷巡視船「そうや」を用いた冬季南部オホーツク海の海氷域観測を,当センターが引き継ぎ,継続し実施している.この希少な海氷域の観測の結果,海氷の消長に関わる物理学的な知見や,オホーツク海の海氷長期変動,海氷が関わる海洋循環や生物地球化学的過程などが明らかになっている.これら海洋観測で得られた知見は,「環オホーツク情報処理システム」を用いた将来予測なども含めた数値シミュレーション研究の展開に利用されている.陸域山岳氷河観測では,国際共同研究として米国のアラスカ,ロシアのカムチャッカ半島においてアイスコア掘削を行い,水物質循環メカニズムの変遷を理解するための研究に用いられた.これらの氷河研究はその後,ヒマラヤやグリーンランドにおけるアイスコア研究へと発展し展開されている.また,「知床科学委員会」など国や地方が進める環オホーツク地域の自然理解と環境保全に対して積極的な貢献を行い,世界自然遺産「知床」周辺の海洋や陸面の観測を主体としたプロジェクトを立ち上げ,この地域の陸海相互作用の仕組みと変遷の理解を目指して研究を進めた.この知床周辺の取り組みでは,ゴミ問題などの社会学的な視点も含めて研究が進められた.このようにセンターでは,環オホーツク圏の理解を深化するための研究プロジェクトを牽引・推進し,その地球環境システムにおける役割を明らかにする点で成果を上げてきた.この20年間の研究で,環オホーツク圏では温暖化が進み,シベリア高気圧の急速な弱化にともない,オホーツク海季節海氷域の減少,海洋中層の温暖化と循環の弱化,オホーツク海から北太平洋への物質移送と生物生産,陸域雪氷圏の面的変化などにその影響が鋭敏に現れていることを示した点は重要な発見と言えるだろう.
本号の「低温科学」では,当センターが20年間で実施してきた数々の研究で得られた主な成果の一部と,当センターで始められた研究が発展し全国や世界を舞台に展開された研究などを,現センターに在職する研究者およびセンターを卒業し現在は第一線の研究者として活躍しているOB/OGによって執筆することにした.本稿の読者に,この20年間で広くセンターで実施してきた研究の軌跡と,その後,発展的に進められた研究について紹介できれば嬉しく思う.
「低温科学」 第82巻編集委員会
西岡 純・三寺史夫・白岩孝行・中村知裕・的場澄人・篠原琴乃
知床をはじめとするオホーツク海の海氷-海洋-物質循環-生態系の連関を明らかにするため、ここ数年南部オホーツク海の現場観測を集中的に実施してきた。本集会では、これらの研究結果を持ち寄って新しい知見を共有し、今後の方針を議論する。オホーツク海の多様で豊かな海洋環境が成り立つメカニズムの理解を目指す本研究集会の枠組みは、国連開発計画のSDG14「海の豊かさを守ろう」に掲げられた「海洋生態系の保全と持続的な海洋資源利用」の方向性を探る研究にもつながる。
日時:2023年11月27日(月)13:30-17:00
28日(火) 9:00-17:00
場所:低温科学研究所講堂+オンライン
Tashiro, Y., Yoh, M., Shesterkin, V. P., Shiraiwa, T., Onishi, T. and Naito, D. (2023), Permafrost wetlands are sources of dissolved iron and dissolved organic carbon to the Amur-Mid River in summer. J. Geophys. Res.-Biogeosciences, https://doi.org/10.1029/2023JG007481
アムール川がオホーツク海に輸送する溶存鉄の供給源として、永久凍土をもつ湿地が重要であり、気候変動によって永久凍土が変化することによって河川に流出する鉄も変化する可能性があることを現地での観測から見出しました。
(白岩)
Yuan, N and Mitsudera, H. (2023): Cross-shelf overtuning in geostrophic-stress-dominant coastal fronts. J. Oceanogr., https://doi.org/10.1007/s10872-022-00661-6
沿岸域としては比較的深い大陸棚端において、深い混合層が発達するメカニズムが、大陸棚上の鉛直循環によるものであることを、数値モデルと論理的考察から見出しました。
(原、三寺)
Ito, K. and Nakamura, T. (2022): Three Regimes of Internal Gravity Wave–Stable Vortex Interaction Classified by a Nondimensional Parameter δ: Scattering, Wheel-Trapping, and Spiral-Trapping with Vortex Deformation J. Phys. Oceanogr.53, 1087–1106, https://doi.org/10.1175/JPO-D-21-0309.1
内部重力波と力学的に安定した渦の相互作用について理論的な解析と幅広いパラメータでの数値実験を行い、ビーム状の散乱、周回軌道をとる捕捉、入射波が螺旋状に変形される捕捉の3つの力学レジームに分類されること、この力学に支配的なパラメータδを見出した。これらのレジームは後のものほど非線形性が強くなり、入射波のエネルギーの散逸や渦の変形による混合を引き起こすことがわかった。また、これらの現象が現実に起こりうるのかOFESの結果を用いて示した。
(伊藤、中村)
Kurosaki, Y. et al. (2022): Increased oceanic dimethyl sulfide emissions in areas of sea ice retreat inferred from a Greenland ice core. Commun. Earth Envion., https://doi.org/10.1038/s43247-022-00661-w
グリーンランドSE-Dome アイスコア中の夏のメタンスルホン酸が2002年以降増加していることを検出し、海氷融解時期に早期化による植物プランクトンの増殖と連動していることを示しました。
(黒﨑豊、的場澄人)
2022年11月29日(火)-30(水)
会場:北海道大学低温科学研究所 3階講堂およびオンライン
主催:低温科学研究所共同研究集会:郭 新宇(愛媛大学 沿岸環境科学研究センター)、西岡 純(北大低温研環オホーツク)
知床をはじめとするオホーツク海の海氷-海洋-物質循環-生態系の連関を明らかにするため、ここ数年南部オホーツク海の現場観測を集中的に実施してきた。本集会では、これらの研究結果を持ち寄り、海洋海氷物理学、気候力学、生物地球化学、海洋生物学、海洋生態学について新しい知見を取りまとめ、新たな仮説や次に調べるべき具体的課題を共有して、今後の方針を議論する。オホーツク海の多様で豊かな海洋環境が成り立つメカニズムの理解を目指す本研究集会の枠組みは、国連開発計画の SDG14「海の豊かさを守ろう」に掲げられた「海洋生態系の保全と持続的な海洋資源利用」の方向性を探る研究にもつながる。
2022年6月9日(木)〜10日(金)
会場:北海道大学低温科学研究所 3階講堂およびオンライン
・北太平洋移行領域は,中緯度の気候,海洋生態系にとって重要な海域。
・移行領域の黒潮水と親潮水の動向が海底地形と密接に結びついていることを可視化。
・流れの時間変動が,移行領域への黒潮水供給に重要な役割を果たしていることを明示。
Nishikawa, H., Mitsudera, H. at al. (2021):Surface water pathways in the subtropical-subarctic frontal zone of the western North Pacific. Progress in Oceanogr., 199, 102691. https://doi.org/10.1016/j.pocean.2021.102691
(西川はつみ、三寺史夫)
Iizuka et al. (2021): Ice core drilling and the related observations at SE-Dome site, southeastern Greenland Ice Sheet, Bull. Glaciol. Res., 39, 1-12. https://doi.org/10.5331/bgr.21R01
2021年5-7月にかけて行われた、グリーンランド氷床南東ドームでのアイスコア掘削、雪氷・気象観測の報告です。(的場澄人)
Tanikawa. T. et al. (2021): Spectral degree of linear polorization and neutral points of poloarization in snow and ice surface. J. Quant. Spectroscopy and Radiative Transfer, 273, 107845. https://doi.org/10.1016/j.jqsrt.2021.107845
中札内とサロマ湖での観測から明らかになった裸氷表面の偏光スペクトル特性を明らかにしました。この成果は、雪氷圏の人工衛星観測の解釈に重要です。
(的場澄人)
2014、2018年にロシア極東海洋気象学研究所との共同で実施されたプロフェッサー・マルタノフスキー号による海洋観測の成果です。東カムチャツカ海流、カムチャツカ海盆、北東部大陸棚斜面、アナディル海流で観測された鉄と栄養塩のデータ解析から以下のことなどが解明された。
鉄の供給はカムチャツカ半島からの淡水供給と関係があり、東カムチャツカ海流のカムチャツカ半島沿岸で栄養塩の枯渇を引き起こす。
カムチャッカ半島太平洋側のEKCにおける中層水の化学的性質は、主にアリューシャン列島南東部から流れる西亜寒帯ジャイアの循環の影響を受け、EKC沿岸側のカムチャッカ海峡を流れるカムチャッカ盆地の水の影響は少ない。
Nishioka, J., Hirawake, T. Nomura, D., Yamashita, Y., Ono, K., Murayama, A., Shcherbinin, A., Volkov, Y. N., Mitsudera H., Ebuchi, N., Wakatsuchi, M. and Yasuda, I., 2021. Iron and nutrient dynamics along the East Kamchatka Current, western Bering Sea and Gulf Anadyr. Prog. Oceanogr., 198, 102662. https://doi.org/10.1016/j.pocean.2021.102662
(西岡純、村山愛子、三寺史夫、江淵直人、若土正曉;小野数也(低温研技術部);ユーリ・ボルコフ、アレクセイ・シェルビニン(ロシア極東海洋気象学研究所)
冬季の極域海洋に現れる海氷のアイスバンドの形成プロセスを説明する、新しい連続成層海洋モデル理論を発表しました。
Saiki, R. at al. (2021): Mechanism of ice-band pattern formation caused by resonant interaction between sea ice and internal waves in a continuously stratified ocean. Progress in Oceanogr., 190, 102474. https://doi.org/10.1016/j.pocean.2020.102474
(佐伯立、三寺史夫、豊田威信、中村知裕)
Nakanowatari, T. et al. (2021) Interannual and decadal variability of phosphate in the Oyashio region: Roles of wind-driven ocean current and tidally induced vertical mixing in the Sea of Okhotsk, Progress in Oceanogr., 197, 102615. doi:10.1016/j.ocean.2021.102615
(中村知裕、三寺史夫、西岡純)
Shu, H-W, Mitsudera, H., Yamzaki, K., Nakamura, T., Kawasaki, T., Nakanowatari, T., Nishikawa, H., and Sasaki, H. (2021). Tidally modified western boundary current drive interbasin exchange between the Sea of Okhotsk and the North Pacific, Sci. Rep., 11, 12037, https://doi.org/10.1038/s41598-021-91412-y
(Hung-Wei, Shu、三寺史夫、中村知裕、西川はつみ)
アイスコア中に保存された融解層厚との統計的な関係から夏の復元する試みは1970年代から行われてきましたが、本研究は、融解層の形成に関わる熱収支を元に融解層厚から夏の気温を推定する新しい方法を提唱しました。環オホーツク卒業生の對馬あかねさんの博士論文、現在在学中の黒﨑君の修士論文の一部が含まれています。(的場、黒﨑、對馬)
Fujita, K., Matoba, S., Iizuka, Y., Takeuchi, N., Tsushima, A., Kurosaki, Y., & Aoki, T. (2021). Physically based summer temperature reconstruction from melt layers in ice cores. Earth and Space Science, 8, e2020EA001590. https://doi.org/10.1029/2020EA001590
(的場澄人、黒﨑豊、對馬あかね)
Chou, Hung Wei
Impacts of tides on large scale wind driven boundary currents in climate sensitive regions
(気候敏感海域における潮汐による大規模風成境界流へのインパクト)
August 5th (Thur) 13:30-15:00
SPV Mitsudera, Fumio
Nagatuka, N., Goto-Azuma, K., Tsushima, A., Fujita, K., Matoba, S., Onuma, Y., Dallmayr, D., Kadota M., et al., 2021, Variations in mineralogy of dust in an ice core obtained from northwestern Greenland over the past 100 years. Climate of the Past, 17, 1341-1362, https://doi.org/10.5194/cp-17-1341-2021
卒業生の門田萌さんの修士論文研究の一部が論文になりました。SIGMAプロジェクトにてグリーンランドで採取したアイスコア中の鉱物粒子の解析から環境変動を議論した論文です。
(門田萌、對馬あかね、的場澄人)
Shi, M., Shiraiwa, T., Mitsudera, F. and Muravyev, Y. D. Estimation of freshwater discharge from the Kamchatka Peninsula to its surrounding oceans. J. Hydrology; Regional Studies, doi.org/10.1016.j-ejrh.2021.100836.
Shi Muqingさんの博士課程研究の一部が発表されました。(Shi Muqing, 白岩孝行、三寺史夫)
飯塚芳徳、的場澄人、宮﨑雄三、アイスコアー極域海洋ー海洋エアロゾル研究の新展開、大気化学研究、44
大気化学研究44のトピックス「雪氷圏と大気化学」に総説が掲載されました。低温研の飯塚芳徳さん、宮崎雄三さんと共著です。(的場澄人)
Kondo, Y., R. Bamba, H. Obata, J. Nishioka, S. Takeda, Distinct profiles of size-fractionated iron-binding ligands between the eastern and western subarctic Pacific, Sci. Rep., doi.org/10.1038/s41598-021-81536-6, (2021).
卒業生の馬場梨世さんの研究の一部が論文になりました。白鳳丸KH-17-3次航海の成果です。北太平洋中層水によって鉄が運ばれる際にコロイド態の鉄が重要になることを示した論文です。OMIXおよびGEOTRACESプロジェクト、低温科学研究所共同利用の成果です。(馬場梨世、西岡純)
Yamashita, Y., T. Tosaka, R. Bamba, R. Kamezaki, S. Goto, J. Nishioka, I. Yasuda, T. Hirawake, J. Oida, H. Obata, H. Ogawa, Widespread distribution of allochthonous fluorescent dissolved organic matter in the intermediate water of the North Pacific, Prog. Oceanogr. 191, doi.org/10.1016/j.pocean.2020.102510, (2021).
OMIX成果、2014年と2018年に実施したロシア船マルタノフスキー号観測の成果です。オホーツク海から溶存有機物が太平洋に広く運ばれている様子を捉えた論文です。ロシア極東海洋気象学研究所との国際共同研究、低温科学研究所共同利用、開拓型研究成果(西岡純)
Matoba, S., Hazuki, R., Kurosaki, Y. and Aoki, T., 2020: Spatial distribution of the input of insoluble particles into the surface of the Qaanaaq Glacier, northwestern Greenland. Front. Earth Science, 11, https://doi.org/10.3389/feart.2020.542557
2018年に修士課程を修了した羽月稜君の修士研究が論文として出版されました。 2017年にグリーンランドカナック氷帽で観測した成果です。(的場澄人、羽月稜、黒﨑豊)
SIGMA-2プロジェクト、ArCS
Kondo, Y., R. Bamba, H. Obata, J. Nishioka, S. Takeda, Distinct profiles of size-fractionated iron-binding ligands between the eastern and western subarctic Pacific, Sci. Rep., doi.org/10.1038/s41598-021-81536-6, (2021). 査読有
Kawaguchi, K., Nishioka, J., Nishino, S., Fujio, S., Lee, K., Fujiwara, A., Yanagimoto, D., Mitsudera, H. and Yasuda, I., 2020: Cold water upwelling near the Anadyr Strait: Observations and simulations. Journal ofGeophysical Research: Ocean. https://doi.org/10.1029/2020JC016238
2018年に実施したロシアとの共同研究航海の成果が論文になりました。主著者は東大川口さんで環オホーツク観測研究センター出身です。ベーリング海と北極海の繋がりを解明する重要な研究成果です! (西岡純、三寺史夫)2020.9.18
OMIXプロジェクト、ArCS、低温科学研究所共同研究
Tanikawa, T., Kuchiki, K., Aoki, T.,Ishimoto, H., Hachikubo, A.,Niwano, M., et al. (2020). Effects of snow grain shape and mixing state of snow impurity on retrieval of snow physical parameters from ground-based optical instrument. Journal ofGeophysical Research: Atmospheres,125, e2019JD031858. https://doi.org/10.1029/2019JD031858
(的場澄人)2020.8.25
SIMGA2 プロジェクト、ArCS II、北大低温研気象積雪観測露場
Kurosaki, Y., Matoba, S., Iizuka, Y., Niwano, M., Tanikawa, T., Ando, T., et al. (2020). Reconstruction of sea ice concentration in northern Baffin Bay using deuterium excess in a coastal ice core from the northwestern Greenland Ice Sheet. Journal of Geophysical Research: Atmospheres, 125, e2019JD031668. https://doi.org/ 10.1029/2019JD031668
2018年に修士課程を修了した黒﨑君の修士研究が論文として出版されました。SIGMA-Aアイスコアの水同位体比から海氷変動を議論した論文です。
(黒﨑豊、的場澄人)2020.8.18
SIMGA2 プロジェクト、ArCS II
Hara, K., K. Osada, M. Yabuki, S. Matoba, M. Hirabayashi, S. Fujita, F. Nakazawa, T. Yamanouchi (2020): Atmospheric sea-salt and halogen cycles in the Antarctic. Environ. Sci.: Processes Impacts. doi: 10.1039/d0em00092b
(的場澄人)2020.8.7
Ohshima, K. I., N. Tamaru, H. Kashiwase, S. Nihashi, K. Nakata, and K. Iwamoto, 2020: Estimation of sea ice production in the Bering Sea from AMSR-E and AMSR2 data, with special emphasis on the Anadyr polynya. Journal of Geophysical Research, 125, doi:10.1029/2019JC016023.
(大島慶一郎)2020.8.6
Mensah, V., K. I. Ohshima, 2020: Variabilities of the sea surface height in the Kuril Basin of the Sea of Okhotsk: Coherent shelf-trapped mode and Rossby Normal Modes. Journal of Physical Oceanography, 50, 2289-2313, doi:10.1175/JPO-D-19-0216.1.
(大島慶一郎)2020.8.6
Onishi, T. and Shiraiwa, T. (2020) Land and ocean connection through iron transport by rivers -the case of the Amur-Okhotsk ecosystem (Giant Fish-Breeding Forest). In Nagothu, U.S.(ed.) The Bioeconomy Approach-constrains and opportunities for sustainable development-, Routledge, 45-64.
(白岩孝行)
Ito, M., Y. Fukamachi, K. I. Ohshima, K. Shirasawa (2020) Observational evidence of supercooling and frazil ice formation throughout the water column in a coastal polynya in the Sea of Okhotsk. Continental Shelf Res., 196, http://doi.org/10.1016/j.csr.2020.104072
(大島慶一郎、白澤邦夫)
Nishimura, M., T. Matsunaka, W. Junbo, S. Matoba, A, Tsushima, L. Zhu, Y. Izutsu (2002): Sources and behaviors of monsoon air masses in the low-latitude region on the Tibetan Plateau, and their paleoclimatic implications, Palaeogeogr. Palaeroclim. Palaecol., http://doi.org/10.1016/j.palaeo.2020.109750
(的場澄人、對馬あかね)
Nishioka, J., H. Obata, H. Ogawa, K. Ono, Y. Yamashita, K. Lee, S. Takeda, I. Yasuda (2020), Subpolar marginal seas fuel the North Pacific through the intermediate water at the termination of the global ocean circulation, PNAS, http://doi.org/10.1073/pnas.2000658117
OMIXプロジェクト、ArCS、低温研共同研究
(西岡 純、小野和也(技術部))
Kanna, N., D. Lannuzel, P. van der Merwe, J. Nishioka, (2020), Size fractionation and bioavailability of iron released from melting sea ice in the subpolar marginal sea, Marine Chemistry, doi.org/10.1016/j.marchem.2020.103774.
オーストラリアとの国際共同研究、開拓型研究成果
プレスリリース「オホーツク海の豊かな生態系を育む流氷の役割を解明 〜生物に必要な鉄分を流氷が運ぶ」
(西岡 純、漢那直也)
Yamashita, Y., J. Nishioka*, H. Obata, and H. Ogawa (2020) Shelf humic substances as carriers for basin-scale iron transport in the North Pacific. Scientific Reports, 10, 4505, https://doi.org/10.1038/s41598-020-61375-7
ロシア極東海洋気象学研究所との国際共同研究、低温科学研究所共同利用、開拓型研究成果
プレスリリース「北太平洋の生態系を潤す、鉄分の海洋循環メカニズムを解明 〜有機物にくっついてオホーツク海から亜熱帯へ、4,000kmの旅〜」
(西岡 純)