「2025年2月 巡視船「そうや」海氷観測速報」を掲載しました。(出版物ページ)
「ロシア極東・シベリアを知るための70章」(明石書店)を出版物に掲載しました。(2025.9.8)
研究業績を更新しました(2024年度分追加)
プレスリリース「産業革命から現在までの大気硝酸量の変遷を北極アイスコアから復元~人為窒素酸化物の排出量と大気中の硝酸の存在形態が北極の大気硝酸量を制御することを解明~」を掲載しました。(2025.9.6)
「オホーツク海 “流氷渡り鳥” の旅 〜北海道からサハリン,カムチャッカさらに北極海へ〜」白澤邦男を公開しました。(出版物のページ)
令和7年度のメンバーを更新しました。大学院生の菊入夏海さん、仲美紀さんが、環オホーツクセンターのメンバーに加わりました。(2025.7.22)
黒田寛准教授が赴任されました。(2025.4.1)
低温科学 第82巻 「環オホーツク圏の科学 — 環オホーツク観測研究センター20年目の歩み —」の発行のお知らせ
環オホーツク観測研究センターのFacebookはこちらです。
オホーツク海北海道陸棚における高濁度底層混合水:分布、季節変動、拡散(4/15)
北太平洋西部亜寒帯域における純一次生産量の10年規模での減少(4/15)
西部北太平洋の植物プランクトン群集組成を制御する栄養物質供給機構の解明(4/10)
砕氷型巡視船「そうや」による観測(2020年2月)を掲載しました。(最新情報、「そうや」観測ページ)
・日時:10月31日(金) 31st Oct(Fri) 13:00~14:30
・場所:低温研講堂 Auditorium of ILTS N302
・発表者:トウカイリン (Deng Huailin)
・論文題目: Biogeochemical cycles in the western North Pacific and its marginal sea: Quantitative evaluation of nutrient supply and particle export fluxes
(北西太平洋及び縁辺海における生物地球化学的サイクル:栄養物質の供給と粒子態物質の輸出フラックスの定量評価)
・ 主査: 西岡純 (Jun Nishioka)
・日時:11月20日(木) 20th Nov(Thu) 15:45-17:10
・場所:環境科学院 D201
・発表者:今井望百花
・論文題目:Iron Supply and Transport Processes in the Southern Sea of Okhotsk and the Coastal Oyashio Region, and Their Contribution to Spring Bloom Development
(南部オホーツク海と沿岸親潮域における鉄の供給輸送過程と春季ブルームの発達への寄与)
・ 主査候補: 西岡純 (Jun Nishioka)
・日時:11月26日(水) 26th Nov(Thu) 時間 10:00-12:00
・場所:低温研講堂
・発表者:丁 曼卉 (Ding Manhui)
・論文題目:A simple approach for estimating freshwater discharge from a tidal wetland stream to a brackish lake
(湿原を流域に有する感潮河川から汽水湖への簡便な流出量推定)
・ 主査候補: 白岩孝行 (Takayuki Shiraiwa)
北海道自然エネルギー研究会会報誌「北海道 自然エネルギー研究」第19号より
【本研究のポイント】
●グリーンランドのアイスコアから、産業革命から現在までの大気硝酸量の変遷を高確度に復元。
●人為窒素酸化物(NOx)の排出量とアイスコアの硝酸塩量の変化にタイムラグがあることが判明。
●タイムラグが大気酸性度に依存した大気硝酸の長距離輸送のされやすさの変化に起因することを解明。
北海道大学低温科学研究所の飯塚芳徳准教授、的場澄人助教、金沢大学の石野咲子助教、中国南京大学の服部祥平准教授、名古屋大学大学院環境学研究科の藤田耕史教授らの研究グループは、グリーンランドのアイスコアに記録された産業革命から現在までの大気硝酸濃度と、人為窒素酸化物(NOx)の排出量の変化との間にタイムラグがあり、そのタイムラグが大気酸性度に依存した大気硝酸の長距離輸送のされやすさの変化に起因することを解明しました。
北極のアイスコアは大気質や気候に影響を及ぼす大気硝酸量を過去から現在まで連続して記録しています。これまで分析されたグリーンランド中央部のアイスコアでは、日射による硝酸の光分解損失の影響が大きく、不確実な記録しか提示できていませんでした。研究グループは、グリーンランド氷床南東部ドームで採取したアイスコアが硝酸塩の復元に適していることを見出し、産業革命から現在まで(1800年から2020年にかけて)の連続した硝酸塩量を復元しました。220年間のアイスコアの硝酸塩量はNOxの排出量の変動と概ね一致していました。しかし詳細に解析すると、アイスコアの硝酸塩濃度のピーク期の出現はNOx排出汚染のピーク期(1970年代)よりも遅く、またNOx排出制限が導入された1990年代以降にも高濃度を維持するというように、NOx排出量とアイスコア硝酸塩濃度の変化にタイムラグがあることが分かりました。全球大気化学輸送モデルを用いた解析により、1970年代以降の大気酸性度の中和に応じて、硝酸の形態が沈着しやすいガス状から輸送されやすい粒子状へと部分的に変化したことで、長距離輸送に有利になり、この観測されたタイムラグが生じていることをつきとめました。本研究成果は、今後の大気質の緩和策の策定や気候変動予測の精度向上に貢献することが期待されます。
なお、本研究成果は、日本時間2025年5月19日(月)公開のNature Communications誌に掲載されました。
論文名:Acidity-driven gas-particle partitioning of nitrate regulates its transport to Arctic through the industrial era(大気酸性度により駆動される硝酸塩のガス-粒子分配は産業時代を通じて北極への硝酸塩輸送を制御している)
URL:https://doi.org/10.1038/s41467-025-59208-0
詳細はこちら
ドローンを用いて氷縁域における細かな氷盤の大きさや形状分布の観測に成功。
氷縁域の氷盤分布には自己相似性の特徴があることや融解過程の仕組みを解明。
季節海氷域の融解過程の理解と定量化を通して気候変動の予測への応用に期待。
北海道大学低温科学研究所の豊田威信助教、西岡 純教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科の早稲田卓爾教授、国立極地研究所の伊藤優人研究員らの研究グループは、オホーツク海南部海氷域氷縁域の氷盤分布の特徴を明らかにして氷縁域における融解過程の仕組みを解明しました。
現在、オホーツク海を含む世界の海氷域は減少傾向にあります。気候変動予測を行うためには、気候モデルの中で海氷融解を正しく再現する必要があるのですが、海氷の融解過程は未だに十分理解されておらず、最新の気候モデルでも融解期の海氷域の再現性は低い状況にありました。
オホーツク海のような季節海氷域の後退を制御するのは氷縁域の融解速度です。氷縁域には波によって破砕された氷盤が数多く存在し、これらの氷盤が春先の日射により温められた氷盤間の海水から熱を効率よく吸収して一気に消失します。同じ海氷面積に対して氷盤が小さいほど海水に接する面積が大きいため、氷縁域の融解過程を理解するうえで氷盤の大きさや形状の実態把握が鍵となります。
本研究では、ドローンを用いてオホーツク海南部氷縁域の氷盤の統計的な性質を調べることにより、大きさ約1m以上の氷盤には自己相似性の特性があること、それ以下の氷盤は熱力学的な破砕効果が融解を促進する様子などの実態を明らかにしました。これらの結果は汎用性があり、数値モデル化することにより融解期の季節海氷域の変動予測の改善に貢献することが期待されます。
なお、本研究成果は、2025年5月31日(土)公開のPolar Science誌にオンライン掲載されました。
論文名:Melting processes of the marginal ice zone inferred from floe size distributions measured with a drone in the southern Sea of Okhotsk(オホーツク海南部のドローン観測により得られた氷盤サイズ分布から推測される氷縁域の融解過程)
URL:https://doi.org/10.1016/j.polar.2025.101215
詳細はこちら
Nakamura, T., Ueda, J., Kono, T. et al. High-turbidity bottom mixed-layer water on the shelf off Hokkaido in the Okhotsk Sea: distribution, seasonal variations, and spreading. J Oceanogr (2025). https://doi.org/10.1007/s10872-025-00755-x
北海道のオホーツク海沿岸と千島海盆は、物質循環による栄養塩供給に支えられた高い一次生産を示している。この循環の一環として、我々は北海道沖の棚とその広がりにおける底層混合層(BML)の高濁度水に注目した。
春と秋の観測では、棚を横断する厚い高濁度BMLが観測され、その大部分は宗谷海峡に由来し、知床半島と千島海盆に向かって流れていた。過去の観測データと海洋モデルの出力を解析した結果、この厚いBMLは年間を通じて存在しており、高濁度海水が継続的に供給されていることが示唆された。BMLの厚さと密度は春に最も高く、冬に最も低く、宗谷暖流の沖合でピークを示した。モデル出力を用いて、BML水のラグランジュ追跡を行った。密度の低いBML海域は、大部分が北海道付近の浅い海峡を通って速やかに北太平洋に流入したが、密度の高いBML海域は千島海盆に広がり、そこに長く留まった後、最終的に深い海峡を通って北太平洋に流入した。また、主に密度変動によって引き起こされる季節変動、流れ場の変動に関連した経年変化、沈降粒子の沈降速度に対する感度を示した。
この結果は、オホーツク海の北海道沖の高濁度底層水が千島海盆や北太平洋に輸送され、物質循環や生態系に影響を与えている可能性を示唆している。特に、26.7σθより軽い高濁度海域の海水は、冬季の混合によって富栄養帯に取り込まれ、翌春のブルームに寄与する可能性がある。
(中村、植田純生、西岡、三寺、伊藤薫)
三寺史夫教授の最終講義と退職祝賀会が行われました。
全文ダウンロード(85MB)
北海道大学学術成果コレクション(HUSCAP):個々の論文のダウンロードができます。
環オホーツク観測研究センター(以下センター)は,2004年4月に北海道大学低温科学研究所の附属施設として,それまで紋別にあった流氷研究施設を改組する形で設置された.当センターは,オホーツク海を中心とする北東ユーラシアから北太平洋,北極圏から亜熱帯にわたる地域(環オホーツク圏)が地球規模の気候変動に果たす役割を解明すること,また同地域における気候変動のインパクトを正しく評価することを目的とし,環オホーツク圏環境研究の国際拠点となることを目指して活動してきた. 2013年には改組を行い,分野横断的なテーマを対象とした2つの研究分野「気候変動影響評価分野」,「流域圏システム分野」を設け,さらに国内外との共同研究ネットワークを強化するために「国際連携研究推進室」を設置した.この3つを横断的に機能させることで,環オホーツク圏の科学的研究を強く推進してきた
センターは2024年3月で発足後20年を迎える.政治的背景のために観測が困難でデータの空白域であった環オホーツク圏の実態を明らかにすることを目指し,国内,ロシア,中国,米国など50以上の大学や研究・行政機関と連携し,研究機関ネットワークと観測網の構築を行い,数多くの国際共同研究プロジェクトを実施してきた.センターではこれまでにロシア極東海洋気象学研究所(Far Eastern Region Hydro-meteorological Research Institute; FERHRI)との共同研究を立ち上げ継続し,ロシアの調査船を使用した共同観測を実施してきた.この共同観測はロシアの排他的経済水域内における海洋観測の事実上唯一の機会となり,多数の国内外の研究者が参加し,当海域の海洋循環・物質循環の解明や古気候の復元などの成果に繋げてきた.また,アムール川河川流域の水文・物質循環の観測,サハリン北部の海氷・気象・沿岸観測,カムチャツカ半島の森林動態調査,エアロゾルモニタリング,山岳氷河研究などが,ロシア科学アカデミー極東支部太平洋地理研究所,同水生態学研究所,同火山地震学研究所などの研究機関との連携によって実施されてきた.宗谷暖流の研究では,海洋短波海洋レーダー,ドップラーレーダーの運用や,衛星観測,船舶観測,現場調査等を通し,道内水産試験場,漁業組合などと地域機関と連携し,環境変動モニタリングを進めてきた.また低温科学研究所が1996年より進めてきた海上保安庁との共同研究である砕氷巡視船「そうや」を用いた冬季南部オホーツク海の海氷域観測を,当センターが引き継ぎ,継続し実施している.この希少な海氷域の観測の結果,海氷の消長に関わる物理学的な知見や,オホーツク海の海氷長期変動,海氷が関わる海洋循環や生物地球化学的過程などが明らかになっている.これら海洋観測で得られた知見は,「環オホーツク情報処理システム」を用いた将来予測なども含めた数値シミュレーション研究の展開に利用されている.陸域山岳氷河観測では,国際共同研究として米国のアラスカ,ロシアのカムチャッカ半島においてアイスコア掘削を行い,水物質循環メカニズムの変遷を理解するための研究に用いられた.これらの氷河研究はその後,ヒマラヤやグリーンランドにおけるアイスコア研究へと発展し展開されている.また,「知床科学委員会」など国や地方が進める環オホーツク地域の自然理解と環境保全に対して積極的な貢献を行い,世界自然遺産「知床」周辺の海洋や陸面の観測を主体としたプロジェクトを立ち上げ,この地域の陸海相互作用の仕組みと変遷の理解を目指して研究を進めた.この知床周辺の取り組みでは,ゴミ問題などの社会学的な視点も含めて研究が進められた.このようにセンターでは,環オホーツク圏の理解を深化するための研究プロジェクトを牽引・推進し,その地球環境システムにおける役割を明らかにする点で成果を上げてきた.この20年間の研究で,環オホーツク圏では温暖化が進み,シベリア高気圧の急速な弱化にともない,オホーツク海季節海氷域の減少,海洋中層の温暖化と循環の弱化,オホーツク海から北太平洋への物質移送と生物生産,陸域雪氷圏の面的変化などにその影響が鋭敏に現れていることを示した点は重要な発見と言えるだろう.
本号の「低温科学」では,当センターが20年間で実施してきた数々の研究で得られた主な成果の一部と,当センターで始められた研究が発展し全国や世界を舞台に展開された研究などを,現センターに在職する研究者およびセンターを卒業し現在は第一線の研究者として活躍しているOB/OGによって執筆することにした.本稿の読者に,この20年間で広くセンターで実施してきた研究の軌跡と,その後,発展的に進められた研究について紹介できれば嬉しく思う.
「低温科学」 第82巻編集委員会
西岡 純・三寺史夫・白岩孝行・中村知裕・的場澄人・篠原琴乃
環オホーツク地域とは、オホーツク海を中心とし、西は北東ユーラシアから東は北太平洋、北は北極圏から南は亜熱帯域にわたる地域と捉える。この環オホーツク地域では、近年温暖化が進み、シベリア高気圧の急速な弱化、オホーツク海季節海氷域の減少、海洋中層の温暖化、陸域雪氷圏の面的変化としてその影響が鋭敏に現れている。当センターは、環オホーツク地域が地球規模の環境変動に果たす役割を解明すること、また気候変動から受けるインパクトを正しく評価することを目的とし、その国際研究拠点となることを目指して設立された。これまで、短波海洋レーダの運用や、衛星観測、船舶観測、現地調査等を通し、オホーツク海及びその周辺地域の地球科学的研究と環境変動モニタリングを進めてきた。また、ロシアをはじめとする海外との国際的な研究ネットワーク構築を進め、国際的な観測がほとんど行われたことの無かった環オホーツク地域の陸域・海域・空域の研究を推進してきた。環オホーツク地域に存在する多分野にまたがる地球科学的な課題に挑戦するためには、分野を超えた研究を進める必要があり、当センターでは、専門の異なる研究者間が分野をまたいで有機的に連携し研究に取り組んでいる。当センターではこのような体制のもと、国内外の研究者とともにプロジェクトや共同研究を立ち上げ、牽引し、科学的課題に挑戦し、研究成果に結びつけることを目指し活動している。
センター長 西岡 純
〒060-0819 札幌市北区北19条西8丁目
北海道大学低温科学研究所 環オホーツク観測研究センター
E-mail: porc-info at pop.lowtem.hokudai.ac.jp