北海道大学低温科学研究所

環オホーツク観測研究センター

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研究トピック

81mのアイスコアから 145 年間のエアロゾルの変動を解析
ヒマラヤ山脈が大気汚染物質の輸送パターンを分断
(環オホーツク観測研究センター関係者: 助教 的場澄人、對馬あかね

【本研究のポイント】
・氷の試料「アイスコア」中の硝酸イオンとカルシウムイオンの季節変動から、145 年分の年代を決定。
・1883 年のクラカタウ火山噴火や 1963 年の核実験シグナルを検出し、年代の正確性を確認。
・アイスコアの相互比較により、ヒマラヤ山脈の南面と北面で大気中を漂う微粒子「エアロゾル」の変動パターンが異なることを発見。
・春季の気圧配置の違いが、この南北差を生み出している可能性を指摘。
・ヒマラヤ山脈による大気の流れへの影響が、これまで考えられていた以上に複雑であることを示唆。

名古屋大学大学院環境学研究科の藤田 耕史 教授を中心とする研究グループは、ネパール・ヒマラヤのトランバウ氷河(標高約 6000m)から採取した 81m のアイスコアを分析し、1875 年から 2019 年までの過去 145 年間のエアロゾルの変動を復元しました。1990 年代に近隣のヒマラヤ北面で掘削されたアイスコアとの比較により、北大西洋振動(NAO)や南方振動(SOI)などの気候変動の指標とエアロゾルとの関係が、南北のアイスコアで逆のパターンを示すことを見出しました。これにより、わずか 40km 離れただけの場所であっても、ヒマラヤ山脈の南面と北面では、大気汚染物質の輸送パターンが大きく異なることが明らかになりました。

【論文情報】
雑誌名:Journal of Geophysical Research: Atmospheres
論文タイトル:Contrasting Responses of Ion Concentration Variations to Atmospheric Patterns in Central Himalayan Ice Cores

著者:
對馬 あかね(長崎大学 大学院総合生産科学研究科 技術職員)
江刺 和音(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 博士後期課程学生)
的場 澄人(北海道大学 低温科学研究所 助教)
飯塚 芳徳(北海道大学 低温科学研究所 准教授)
植村 立(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 准教授)
足立 光司(気象研究所 全球大気海洋研究部 第三研究室 主任研究官)
木名瀬 健(海洋研究開発機構 北極環境変動総合研究センター ポストドクトラル研究員)
平林 幹啓(国立極地研究所 アイスコア研究センター 特任助教)
川上 薫(北海道大学 低温科学研究所 博士研究員)
Rijan B. Kayastha(カトマンズ大学 理学部 教授)
藤田 耕史(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 教授)

DOI: 10.1029/2024JD042392
URL: https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2024JD042392

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研究集会:陸海結合システム:沿岸域の生物生産特性を制御する栄養物質のストイキオメトリーに関する研究集会

日時:2024116日(10:00-16:00
場所:低温科学研究所会議室

プログラム

研究論文:宇宙から海氷を測る

Toyota, T. (2024): Measuring sea ice from space. In "Reference Module in Earth Systems and Environmental Sciences", Eayrs, C.(Ed.), Elsevier, ISBN: 9780124095489, https://doi.org/10.1016/B978-0-323-85242-5.00023-3 (in press)

(豊田)

研究集会:砕氷巡視船そうやを用いたオホーツク海の海氷(流氷)観測研究の次期 10 年構想

北海道大学低温科学研究所では1996年より海上保安庁第一管区と共同研究を実施し、砕氷巡視船「そうや」を用いた冬季南部オホーツク海の海氷域の観測を四半世紀を超えて継続して来た。これまでに国 内の多くの研究者がこの観測機会を生かし、海氷の関わる海洋物理と生物地球化学過程や、季節海氷域 が気候に与える影響など数々の成果に結びつけてきた。さらに「そうや」観測を活かした研究から,数々 の研究が南極・北極の両極域の研究に発展した.2025年にこの「そうや」観測が発足後30年を迎える。 本研究集会では、「そうや」観測を利用してきた関係者が一堂に集まり、「今後どのように「そうや」 観測を維持し発展させ次世代の研究に活かしていくのか」を議論し、次の10年スケールで「そうや」観 測を利用して展開できる季節海氷域のサイエンスを話し合う。

日時:2024年10月22日(13:00-17:30
場所:低温科学研究所会議室+オンライン

北大低温そうやWS2024.pdf

研究トピック

高緯度と熱帯からの遠隔影響がオホーツク海氷の年々変動を引き起こす親潮・磯口ジェット合流域が混合水域に栄養塩を供給することを発見
サンマなどの幼魚の育成場に栄養が供給されるシステムを解明
(低温科学研究所 教授 西岡 純

国立大学法人東京海洋大学(学長:井関 俊夫、以下「東京海洋大学」)で受け入れている日本学術振興会特別研究員の矢部いつか博士、東京海洋大学学術研究院の長井健容准教授、東京大学大気海洋研究所の伊藤進一教授らの研究グループは、北西太平洋の親潮と磯口ジェットの合流域で発生する湧昇が栄養塩豊富な海水を表層付近へ供給する引き金となることを明らかにしました。

磯口ジェットと隣接する親潮との間には亜寒帯フロントが存在し、フロントとその下流域は小型浮魚類注 5)の好漁場として知られています。特にフロントの南に位置する磯口ジェットは黒潮を起源とし高水温なため、多くの小型浮魚類の幼魚たちの生育場となっています。しかし磯口ジェットは黒潮を起源とするため栄養塩が乏しく、ジェット周辺の幼魚たちの餌を含む生物生産を支える栄養塩がどのように供給されているのか不明でした。

本研究グループは、磯口ジェットを横断する観測を複数年にわたり実施し、親潮と磯口ジェットの合流域にどの年でも強い湧昇流が発生することを示しました。また、合流 域では磯口ジェットの高温・高塩な海水の下に栄養塩豊富な亜寒帯水が流れ込み、湧昇によってジェット内部に栄養塩が供給されることを明らかにしました。

今回の発見は、磯口ジェット周辺が多くの小型浮魚類の幼魚の生育場となっている要因を解明しただけでなく、世界中に分布する同様な海流の合流点の重要性を示すもの で、海洋保護区の選定などに必要な科学的知見となることが期待されます 。

 本研究は、水産研究・教育機構の筧茂穂主任研究員、北海道大学低温科学研究所の西岡純教授と共同で行いました。

本研究成果は、2024年 7 月30日(英国時間)に科学誌「Scientific Reports」の オンライン版で公開されました。

論文名:Steady nutrient upwelling around a biological hotspot of the confluence between the quasi-stationary jet and the Oyashio in the western North Pacific

URL:https://doi.org/10.1038/s41598-024-68214-z

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研究集会:環オホーツク陸海結合システムの冠動脈:対馬暖流系の物質循環

日時:2024年7月2日(火)13:00-17:30、7月3日(水)10:00ー12:45
場所:低温科学研究所講堂+オンライン

プログラム

研究集会:縁辺海を繋ぐ物質循環研究にむけて

西部北太平洋を含む日本周辺海域は生物生産が高く,世界でも有数の水産資源が豊富な海である。この豊かな恵みを生み出している背景には,日本海,オホーツク海,東シナ海などの縁辺海と,それらを繋ぐ黒潮・親潮の海流が関わる海洋循環と栄養物質の循環が密接に関わっていると考えられる。しかし縁辺海を繋ぐ物質循環については,観測からの定量的な裏付けに乏しい状況であり,日本周辺を繋ぐ視点をもった縁辺海と日本周辺の海流系で最新の精密な化学分析技術を用いた観測計画を立案する。

日時:2024年5月24日(金)9:00-17:30
場所:低温科学研究所講堂+オンライン

プログラム

 環オホーツク観測研究センター(以下センター)は,2004年4月に北海道大学低温科学研究所の附属施設として,それまで紋別にあった流氷研究施設を改組する形で設置された.当センターは,オホーツク海を中心とする北東ユーラシアから北太平洋,北極圏から亜熱帯にわたる地域(環オホーツク圏)が地球規模の気候変動に果たす役割を解明すること,また同地域における気候変動のインパクトを正しく評価することを目的とし,環オホーツク圏環境研究の国際拠点となることを目指して活動してきた. 2013年には改組を行い,分野横断的なテーマを対象とした2つの研究分野「気候変動影響評価分野」,「流域圏システム分野」を設け,さらに国内外との共同研究ネットワークを強化するために「国際連携研究推進室」を設置した.この3つを横断的に機能させることで,環オホーツク圏の科学的研究を強く推進してきた

センターは2024年3月で発足後20年を迎える.政治的背景のために観測が困難でデータの空白域であった環オホーツク圏の実態を明らかにすることを目指し,国内,ロシア,中国,米国など50以上の大学や研究・行政機関と連携し,研究機関ネットワークと観測網の構築を行い,数多くの国際共同研究プロジェクトを実施してきた.センターではこれまでにロシア極東海洋気象学研究所(Far Eastern Region Hydro-meteorological Research Institute; FERHRI)との共同研究を立ち上げ継続し,ロシアの調査船を使用した共同観測を実施してきた.この共同観測はロシアの排他的経済水域内における海洋観測の事実上唯一の機会となり,多数の国内外の研究者が参加し,当海域の海洋循環・物質循環の解明や古気候の復元などの成果に繋げてきた.また,アムール川河川流域の水文・物質循環の観測,サハリン北部の海氷・気象・沿岸観測,カムチャツカ半島の森林動態調査,エアロゾルモニタリング,山岳氷河研究などが,ロシア科学アカデミー極東支部太平洋地理研究所,同水生態学研究所,同火山地震学研究所などの研究機関との連携によって実施されてきた.宗谷暖流の研究では,海洋短波海洋レーダー,ドップラーレーダーの運用や,衛星観測,船舶観測,現場調査等を通し,道内水産試験場,漁業組合などと地域機関と連携し,環境変動モニタリングを進めてきた.また低温科学研究所が1996年より進めてきた海上保安庁との共同研究である砕氷巡視船「そうや」を用いた冬季南部オホーツク海の海氷域観測を,当センターが引き継ぎ,継続し実施している.この希少な海氷域の観測の結果,海氷の消長に関わる物理学的な知見や,オホーツク海の海氷長期変動,海氷が関わる海洋循環や生物地球化学的過程などが明らかになっている.これら海洋観測で得られた知見は,「環オホーツク情報処理システム」を用いた将来予測なども含めた数値シミュレーション研究の展開に利用されている.陸域山岳氷河観測では,国際共同研究として米国のアラスカ,ロシアのカムチャッカ半島においてアイスコア掘削を行い,水物質循環メカニズムの変遷を理解するための研究に用いられた.これらの氷河研究はその後,ヒマラヤやグリーンランドにおけるアイスコア研究へと発展し展開されている.また,「知床科学委員会」など国や地方が進める環オホーツク地域の自然理解と環境保全に対して積極的な貢献を行い,世界自然遺産「知床」周辺の海洋や陸面の観測を主体としたプロジェクトを立ち上げ,この地域の陸海相互作用の仕組みと変遷の理解を目指して研究を進めた.この知床周辺の取り組みでは,ゴミ問題などの社会学的な視点も含めて研究が進められた.このようにセンターでは,環オホーツク圏の理解を深化するための研究プロジェクトを牽引・推進し,その地球環境システムにおける役割を明らかにする点で成果を上げてきた.この20年間の研究で,環オホーツク圏では温暖化が進み,シベリア高気圧の急速な弱化にともない,オホーツク海季節海氷域の減少,海洋中層の温暖化と循環の弱化,オホーツク海から北太平洋への物質移送と生物生産,陸域雪氷圏の面的変化などにその影響が鋭敏に現れていることを示した点は重要な発見と言えるだろう.

 本号の「低温科学」では,当センターが20年間で実施してきた数々の研究で得られた主な成果の一部と,当センターで始められた研究が発展し全国や世界を舞台に展開された研究などを,現センターに在職する研究者およびセンターを卒業し現在は第一線の研究者として活躍しているOB/OGによって執筆することにした.本稿の読者に,この20年間で広くセンターで実施してきた研究の軌跡と,その後,発展的に進められた研究について紹介できれば嬉しく思う.

「低温科学」 第82巻編集委員会

西岡 純・三寺史夫・白岩孝行・中村知裕・的場澄人・篠原琴乃



 環オホーツク地域とは、オホーツク海を中心とし、西は北東ユーラシアから東は北太平洋、北は北極圏から南は亜熱帯域にわたる地域と捉える。この環オホーツク地域では、近年温暖化が進み、シベリア高気圧の急速な弱化、オホーツク海季節海氷域の減少、海洋中層の温暖化、陸域雪氷圏の面的変化としてその影響が鋭敏に現れている。当センターは、環オホーツク地域が地球規模の環境変動に果たす役割を解明すること、また気候変動から受けるインパクトを正しく評価することを目的とし、その国際研究拠点となることを目指して設立された。これまで、短波海洋レーダの運用や、衛星観測、船舶観測、現地調査等を通し、オホーツク海及びその周辺地域の地球科学的研究と環境変動モニタリングを進めてきた。また、ロシアをはじめとする海外との国際的な研究ネットワーク構築を進め、国際的な観測がほとんど行われたことの無かった環オホーツク地域の陸域・海域・空域の研究を推進してきた。環オホーツク地域に存在する多分野にまたがる地球科学的な課題に挑戦するためには、分野を超えた研究を進める必要があり、当センターでは、専門の異なる研究者間が分野をまたいで有機的に連携し研究に取り組んでいる。当センターではこのような体制のもと、国内外の研究者とともにプロジェクトや共同研究を立ち上げ、牽引し、科学的課題に挑戦し、研究成果に結びつけることを目指し活動している。 

センター長   西岡 純

お問い合わせ

〒060-0819 札幌市北区北19条西8丁目

北海道大学低温科学研究所 環オホーツク観測研究センター

E-mail: porc-info at pop.lowtem.hokudai.ac.jp

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