プレスリリース「西部北太平洋の植物プランクトン群集組成を制御する栄養物質供給機構の解明」を掲載しました(2025.4.10)
黒田寛准教授が赴任されました。(2025.4.1)
令和7年度のメンバーを掲載しました。
2024年度修士論文、博士論文を掲載しました。(2025.3.12)
低温科学 第82巻 「環オホーツク圏の科学 — 環オホーツク観測研究センター20年目の歩み —」の発行のお知らせ
環オホーツク観測研究センターのFacebookはこちらです。
オホーツク海北海道陸棚における高濁度底層混合水:分布、季節変動、拡散(4/15)
北太平洋西部亜寒帯域における純一次生産量の10年規模での減少(4/15)
西部北太平洋の植物プランクトン群集組成を制御する栄養物質供給機構の解明(4/10)
81mのアイスコアから 145 年間のエアロゾルの変動を解析(3/20)
アムール川中流域へ溶存鉄と溶存有機炭素を供給する永久凍土湿地の役割(10/4)
地衡流シアー応力が卓越する沿岸フロントにおける陸棚上の鉛直循環(6/30)
無次元パラメータδによって分類される内部重力波-安定渦相互作用の 3 つのレジーム: Scattering, Wheel-Trapping, 渦の変形を伴うSpiral-Trapping(6/30)
環オホーツク自己点検評価2019を掲載しました。(出版物のページへ)
砕氷型巡視船「そうや」による観測(2020年2月)を掲載しました。(最新情報、「そうや」観測ページ)
Nakamura, T., Ueda, J., Kono, T. et al. High-turbidity bottom mixed-layer water on the shelf off Hokkaido in the Okhotsk Sea: distribution, seasonal variations, and spreading. J Oceanogr (2025). https://doi.org/10.1007/s10872-025-00755-x
北海道のオホーツク海沿岸と千島海盆は、物質循環による栄養塩供給に支えられた高い一次生産を示している。この循環の一環として、我々は北海道沖の棚とその広がりにおける底層混合層(BML)の高濁度水に注目した。
春と秋の観測では、棚を横断する厚い高濁度BMLが観測され、その大部分は宗谷海峡に由来し、知床半島と千島海盆に向かって流れていた。過去の観測データと海洋モデルの出力を解析した結果、この厚いBMLは年間を通じて存在しており、高濁度海水が継続的に供給されていることが示唆された。BMLの厚さと密度は春に最も高く、冬に最も低く、宗谷暖流の沖合でピークを示した。モデル出力を用いて、BML水のラグランジュ追跡を行った。密度の低いBML海域は、大部分が北海道付近の浅い海峡を通って速やかに北太平洋に流入したが、密度の高いBML海域は千島海盆に広がり、そこに長く留まった後、最終的に深い海峡を通って北太平洋に流入した。また、主に密度変動によって引き起こされる季節変動、流れ場の変動に関連した経年変化、沈降粒子の沈降速度に対する感度を示した。
この結果は、オホーツク海の北海道沖の高濁度底層水が千島海盆や北太平洋に輸送され、物質循環や生態系に影響を与えている可能性を示唆している。特に、26.7σθより軽い高濁度海域の海水は、冬季の混合によって富栄養帯に取り込まれ、翌春のブルームに寄与する可能性がある。
(中村、植田純生、西岡、三寺、伊藤薫)
Nakanowatari, T., Nakamura, T., Mitsudera H, Nishioka, J., Nishikawa, H., Kuroda, H. and Uchimoto, K. (2025): Decadal-scale reduction in net primary production in the western subarctic North Pacific: impact of lateral transport of dissolved iron from the Sea of Okhotsk. Environ. Res. Lett., 20, 054027
北太平洋亜寒帯域(SNP)は高栄養低クロロフィル海域であり、溶存鉄(dFe)と主要栄養素のデカップリングが一次生産を制御する上で不可欠である。本研究では、10年スケールの気候変動がSNPの純一次生産量(NPP)に与える影響を、鉄循環を含む単純な生物地球化学モデルと氷海洋結合モデルを用いた1979-2016年のヒンディキャスト実験によって評価した。シミュレーションの結果、1990年代以降、亜熱帯-亜寒帯ジャイア境界(SGB)域でNPPが顕著に減少していることが示された;その傾向は-48mgC m-2 d-1/37年であり、その大きさは気候学的平均NPPの14.3%であった。SGBにおけるNPPの減少は春に顕著で、これは春のブルームが弱まっていることを示している。シミュレーションデータの診断分析から、SGBにおけるNPPの減少は、dFeと光利用可能性の両方の減少によって説明できることが明らかになった。感度実験から、風による循環変動は主に貧栄養の亜熱帯水の北への拡大を通じてdFeの減少と光利用能の減少の両方を説明するが、オホーツク海の熱塩循環の変化もdFeの減少に無視できない影響を与えることが示された。我々の数値モデルによるシミュレーションの結果は、SNPにおけるNPPの10年スケールの変化に対するdFeの横方向及び鉛直方向の移流の重要性を示唆している。
(中村、三寺、西岡、西川はつみ、黒田)
北太平洋の中層⽔から表層に湧き上がる栄養物質の供給量を観測から⾒積もることに成功。
中層⽔から供給される栄養物質量とその化学量論⽐が、表層の珪藻類の増殖を制御することを発⾒。
気候変動による海洋の変化に対する海洋炭素循環や⽣態系の変化の予測に貢献。
北海道⼤学低温科学研究所附属環オホーツク観測研究センターの⻄岡 純教授、同⼤学⼤学院地球環境科学研究院の鈴⽊光次教授、東京⼤学⼤気海洋研究所の⼩川浩史教授、安⽥⼀郎教授(研究当時)らの研究グループは、北太平洋の中層⽔から供給される鉄(Fe)やケイ素(Si) 、窒素(N)などの栄養物質量とその化学量論⽐が、表層の植物プランクトン群集組成を制御することを明らかにしました。
これまで、オホーツク海やベーリング海などの北⽅圏縁辺海から北太平洋に繋がる中層の循環によって植物プランクトンの増殖に⽋かせない Fe や Si や N などの栄養物質が移送され、北太平洋の⽣物⽣産を⾼めていることが分かっていました。しかしこれらの栄養物質が、どこで、どのような物理的メカニズムを経て北太平洋中層から表層に供給されて、この海域の海の恵みをもたらす珪藻類の増殖を制御しているのかは分かっていませんでした。
本研究では、これまでに集めてきた北太平洋の栄養物質の化学的データセットと、同時に観測した乱流混合のパラメータの観測データを、表層の植物プランクトン群集組成の情報とともに解析しました。その結果、北太平洋の亜寒帯循環域と親潮―⿊潮移⾏域において中層⽔から表層に供給される Fe や Si 量やその化学量論⽐によって、珪藻類の現存量が制御されていることが⽰されました。
本研究で⾒えてきた北太平洋の珪藻類の増殖を制御する機構は、我が国の⽔産資源の維持機構や地球規模の炭素循環プロセスの理解を⼤きく進めます。また、現在起こりつつある⽔温上昇や、⿊潮や親潮勢⼒の強化・弱化などの気候変動に起因する海の変化に対して、海洋⽣態系や炭素循環がどのように応答するかを理解する上で⽋かせない知⾒となります。
本研究成果は、2025 年 3 ⽉ 19 ⽇(⽔)公開の Biogeosciences 誌にオンライン掲載されました。
論文名:Phytoplankton community structure in relation to iron and macronutrient fluxes from subsurface waters in the western North Pacific during summer(⻄部北太平洋における表層下から供給される鉄や栄養塩フラックスと植物プランクトン群集組成の関係)
Deng Huailin1,2、鈴⽊光次 3、安⽥⼀郎 4、⼩川浩史 4、⻄岡 純 2
(1 北海道⼤学地球環境科学研究院、2 北海道⼤学低温研究所附属環オホーツク観測研究センター、3 北海道⼤学地球環境科学研究院、4 東京⼤学⼤気海洋研究所)
雑誌名 Biogeosciences(欧州地球科学連合による⽣物地球化学に関する国際誌)
https://doi.org/10.5194/bg-22-1495-2025
公表⽇ 2025 年 3 ⽉ 19 ⽇(⽔) (オンライン公開)
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三寺史夫教授の最終講義と退職祝賀会が行われました。
【本研究のポイント】
・氷の試料「アイスコア」中の硝酸イオンとカルシウムイオンの季節変動から、145 年分の年代を決定。
・1883 年のクラカタウ火山噴火や 1963 年の核実験シグナルを検出し、年代の正確性を確認。
・アイスコアの相互比較により、ヒマラヤ山脈の南面と北面で大気中を漂う微粒子「エアロゾル」の変動パターンが異なることを発見。
・春季の気圧配置の違いが、この南北差を生み出している可能性を指摘。
・ヒマラヤ山脈による大気の流れへの影響が、これまで考えられていた以上に複雑であることを示唆。
名古屋大学大学院環境学研究科の藤田 耕史 教授を中心とする研究グループは、ネパール・ヒマラヤのトランバウ氷河(標高約 6000m)から採取した 81m のアイスコアを分析し、1875 年から 2019 年までの過去 145 年間のエアロゾルの変動を復元しました。1990 年代に近隣のヒマラヤ北面で掘削されたアイスコアとの比較により、北大西洋振動(NAO)や南方振動(SOI)などの気候変動の指標とエアロゾルとの関係が、南北のアイスコアで逆のパターンを示すことを見出しました。これにより、わずか 40km 離れただけの場所であっても、ヒマラヤ山脈の南面と北面では、大気汚染物質の輸送パターンが大きく異なることが明らかになりました。
【論文情報】
雑誌名:Journal of Geophysical Research: Atmospheres
論文タイトル:Contrasting Responses of Ion Concentration Variations to Atmospheric Patterns in Central Himalayan Ice Cores
著者:
對馬 あかね(長崎大学 大学院総合生産科学研究科 技術職員)
江刺 和音(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 博士後期課程学生)
的場 澄人(北海道大学 低温科学研究所 助教)
飯塚 芳徳(北海道大学 低温科学研究所 准教授)
植村 立(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 准教授)
足立 光司(気象研究所 全球大気海洋研究部 第三研究室 主任研究官)
木名瀬 健(海洋研究開発機構 北極環境変動総合研究センター ポストドクトラル研究員)
平林 幹啓(国立極地研究所 アイスコア研究センター 特任助教)
川上 薫(北海道大学 低温科学研究所 博士研究員)
Rijan B. Kayastha(カトマンズ大学 理学部 教授)
藤田 耕史(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 教授)
DOI: 10.1029/2024JD042392
URL: https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2024JD042392
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Toyota, T. (2024): Measuring sea ice from space. In "Reference Module in Earth Systems and Environmental Sciences", Eayrs, C.(Ed.), Elsevier, ISBN: 9780124095489, https://doi.org/10.1016/B978-0-323-85242-5.00023-3 (in press)
(豊田)
北海道大学低温科学研究所では1996年より海上保安庁第一管区と共同研究を実施し、砕氷巡視船「そうや」を用いた冬季南部オホーツク海の海氷域の観測を四半世紀を超えて継続して来た。これまでに国 内の多くの研究者がこの観測機会を生かし、海氷の関わる海洋物理と生物地球化学過程や、季節海氷域 が気候に与える影響など数々の成果に結びつけてきた。さらに「そうや」観測を活かした研究から,数々 の研究が南極・北極の両極域の研究に発展した.2025年にこの「そうや」観測が発足後30年を迎える。 本研究集会では、「そうや」観測を利用してきた関係者が一堂に集まり、「今後どのように「そうや」 観測を維持し発展させ次世代の研究に活かしていくのか」を議論し、次の10年スケールで「そうや」観 測を利用して展開できる季節海氷域のサイエンスを話し合う。
日時:2024年10月22日(火)13:00-17:30
場所:低温科学研究所会議室+オンライン
親潮と磯口ジェットの合流域には継続的な湧昇ポイントが存在し、その下流で栄養塩濃度が上昇することを明らかにしました。
有光層注 1)への栄養塩供給がサンマなどの小型浮魚類の餌環境の向上に貢献することが期待されます。
国立大学法人東京海洋大学(学長:井関 俊夫、以下「東京海洋大学」)で受け入れている日本学術振興会特別研究員の矢部いつか博士、東京海洋大学学術研究院の長井健容准教授、東京大学大気海洋研究所の伊藤進一教授らの研究グループは、北西太平洋の親潮と磯口ジェットの合流域で発生する湧昇が栄養塩豊富な海水を表層付近へ供給する引き金となることを明らかにしました。
磯口ジェットと隣接する親潮との間には亜寒帯フロントが存在し、フロントとその下流域は小型浮魚類注 5)の好漁場として知られています。特にフロントの南に位置する磯口ジェットは黒潮を起源とし高水温なため、多くの小型浮魚類の幼魚たちの生育場となっています。しかし磯口ジェットは黒潮を起源とするため栄養塩が乏しく、ジェット周辺の幼魚たちの餌を含む生物生産を支える栄養塩がどのように供給されているのか不明でした。
本研究グループは、磯口ジェットを横断する観測を複数年にわたり実施し、親潮と磯口ジェットの合流域にどの年でも強い湧昇流が発生することを示しました。また、合流 域では磯口ジェットの高温・高塩な海水の下に栄養塩豊富な亜寒帯水が流れ込み、湧昇によってジェット内部に栄養塩が供給されることを明らかにしました。
今回の発見は、磯口ジェット周辺が多くの小型浮魚類の幼魚の生育場となっている要因を解明しただけでなく、世界中に分布する同様な海流の合流点の重要性を示すもの で、海洋保護区の選定などに必要な科学的知見となることが期待されます 。
本研究は、水産研究・教育機構の筧茂穂主任研究員、北海道大学低温科学研究所の西岡純教授と共同で行いました。
本研究成果は、2024年 7 月30日(英国時間)に科学誌「Scientific Reports」の オンライン版で公開されました。
論文名:Steady nutrient upwelling around a biological hotspot of the confluence between the quasi-stationary jet and the Oyashio in the western North Pacific
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-024-68214-z
詳細はこちら
日時:2024年7月2日(火)13:00-17:30、7月3日(水)10:00ー12:45
場所:低温科学研究所講堂+オンライン
西部北太平洋を含む日本周辺海域は生物生産が高く,世界でも有数の水産資源が豊富な海である。この豊かな恵みを生み出している背景には,日本海,オホーツク海,東シナ海などの縁辺海と,それらを繋ぐ黒潮・親潮の海流が関わる海洋循環と栄養物質の循環が密接に関わっていると考えられる。しかし縁辺海を繋ぐ物質循環については,観測からの定量的な裏付けに乏しい状況であり,日本周辺を繋ぐ視点をもった縁辺海と日本周辺の海流系で最新の精密な化学分析技術を用いた観測計画を立案する。
日時:2024年5月24日(金)9:00-17:30
場所:低温科学研究所講堂+オンライン
全文ダウンロード(85MB)
北海道大学学術成果コレクション(HUSCAP):個々の論文のダウンロードができます。
環オホーツク観測研究センター(以下センター)は,2004年4月に北海道大学低温科学研究所の附属施設として,それまで紋別にあった流氷研究施設を改組する形で設置された.当センターは,オホーツク海を中心とする北東ユーラシアから北太平洋,北極圏から亜熱帯にわたる地域(環オホーツク圏)が地球規模の気候変動に果たす役割を解明すること,また同地域における気候変動のインパクトを正しく評価することを目的とし,環オホーツク圏環境研究の国際拠点となることを目指して活動してきた. 2013年には改組を行い,分野横断的なテーマを対象とした2つの研究分野「気候変動影響評価分野」,「流域圏システム分野」を設け,さらに国内外との共同研究ネットワークを強化するために「国際連携研究推進室」を設置した.この3つを横断的に機能させることで,環オホーツク圏の科学的研究を強く推進してきた
センターは2024年3月で発足後20年を迎える.政治的背景のために観測が困難でデータの空白域であった環オホーツク圏の実態を明らかにすることを目指し,国内,ロシア,中国,米国など50以上の大学や研究・行政機関と連携し,研究機関ネットワークと観測網の構築を行い,数多くの国際共同研究プロジェクトを実施してきた.センターではこれまでにロシア極東海洋気象学研究所(Far Eastern Region Hydro-meteorological Research Institute; FERHRI)との共同研究を立ち上げ継続し,ロシアの調査船を使用した共同観測を実施してきた.この共同観測はロシアの排他的経済水域内における海洋観測の事実上唯一の機会となり,多数の国内外の研究者が参加し,当海域の海洋循環・物質循環の解明や古気候の復元などの成果に繋げてきた.また,アムール川河川流域の水文・物質循環の観測,サハリン北部の海氷・気象・沿岸観測,カムチャツカ半島の森林動態調査,エアロゾルモニタリング,山岳氷河研究などが,ロシア科学アカデミー極東支部太平洋地理研究所,同水生態学研究所,同火山地震学研究所などの研究機関との連携によって実施されてきた.宗谷暖流の研究では,海洋短波海洋レーダー,ドップラーレーダーの運用や,衛星観測,船舶観測,現場調査等を通し,道内水産試験場,漁業組合などと地域機関と連携し,環境変動モニタリングを進めてきた.また低温科学研究所が1996年より進めてきた海上保安庁との共同研究である砕氷巡視船「そうや」を用いた冬季南部オホーツク海の海氷域観測を,当センターが引き継ぎ,継続し実施している.この希少な海氷域の観測の結果,海氷の消長に関わる物理学的な知見や,オホーツク海の海氷長期変動,海氷が関わる海洋循環や生物地球化学的過程などが明らかになっている.これら海洋観測で得られた知見は,「環オホーツク情報処理システム」を用いた将来予測なども含めた数値シミュレーション研究の展開に利用されている.陸域山岳氷河観測では,国際共同研究として米国のアラスカ,ロシアのカムチャッカ半島においてアイスコア掘削を行い,水物質循環メカニズムの変遷を理解するための研究に用いられた.これらの氷河研究はその後,ヒマラヤやグリーンランドにおけるアイスコア研究へと発展し展開されている.また,「知床科学委員会」など国や地方が進める環オホーツク地域の自然理解と環境保全に対して積極的な貢献を行い,世界自然遺産「知床」周辺の海洋や陸面の観測を主体としたプロジェクトを立ち上げ,この地域の陸海相互作用の仕組みと変遷の理解を目指して研究を進めた.この知床周辺の取り組みでは,ゴミ問題などの社会学的な視点も含めて研究が進められた.このようにセンターでは,環オホーツク圏の理解を深化するための研究プロジェクトを牽引・推進し,その地球環境システムにおける役割を明らかにする点で成果を上げてきた.この20年間の研究で,環オホーツク圏では温暖化が進み,シベリア高気圧の急速な弱化にともない,オホーツク海季節海氷域の減少,海洋中層の温暖化と循環の弱化,オホーツク海から北太平洋への物質移送と生物生産,陸域雪氷圏の面的変化などにその影響が鋭敏に現れていることを示した点は重要な発見と言えるだろう.
本号の「低温科学」では,当センターが20年間で実施してきた数々の研究で得られた主な成果の一部と,当センターで始められた研究が発展し全国や世界を舞台に展開された研究などを,現センターに在職する研究者およびセンターを卒業し現在は第一線の研究者として活躍しているOB/OGによって執筆することにした.本稿の読者に,この20年間で広くセンターで実施してきた研究の軌跡と,その後,発展的に進められた研究について紹介できれば嬉しく思う.
「低温科学」 第82巻編集委員会
西岡 純・三寺史夫・白岩孝行・中村知裕・的場澄人・篠原琴乃
環オホーツク地域とは、オホーツク海を中心とし、西は北東ユーラシアから東は北太平洋、北は北極圏から南は亜熱帯域にわたる地域と捉える。この環オホーツク地域では、近年温暖化が進み、シベリア高気圧の急速な弱化、オホーツク海季節海氷域の減少、海洋中層の温暖化、陸域雪氷圏の面的変化としてその影響が鋭敏に現れている。当センターは、環オホーツク地域が地球規模の環境変動に果たす役割を解明すること、また気候変動から受けるインパクトを正しく評価することを目的とし、その国際研究拠点となることを目指して設立された。これまで、短波海洋レーダの運用や、衛星観測、船舶観測、現地調査等を通し、オホーツク海及びその周辺地域の地球科学的研究と環境変動モニタリングを進めてきた。また、ロシアをはじめとする海外との国際的な研究ネットワーク構築を進め、国際的な観測がほとんど行われたことの無かった環オホーツク地域の陸域・海域・空域の研究を推進してきた。環オホーツク地域に存在する多分野にまたがる地球科学的な課題に挑戦するためには、分野を超えた研究を進める必要があり、当センターでは、専門の異なる研究者間が分野をまたいで有機的に連携し研究に取り組んでいる。当センターではこのような体制のもと、国内外の研究者とともにプロジェクトや共同研究を立ち上げ、牽引し、科学的課題に挑戦し、研究成果に結びつけることを目指し活動している。
センター長 西岡 純
〒060-0819 札幌市北区北19条西8丁目
北海道大学低温科学研究所 環オホーツク観測研究センター
E-mail: porc-info at pop.lowtem.hokudai.ac.jp