研究トピック
札幌の積雪中に存在する光吸収性粒子が融雪に与える影響を国内・国外由来に分離して推定しました(助教 的場澄人)
気象研究所は、積雪地域における気象・放射・雪氷物理状態を詳細に観測す るために、北海道大学低温科学研究所と共同で札幌に観測拠点を設置していま す。本研究グループが札幌で実施した先行研究によると、札幌における消雪の 時期は、積雪中のブラックカーボンや鉱物性ダストといった太陽光を吸収する 不溶性粒子(元々は大気中にエーロゾルとして存在し、様々なプロセスを経て 積雪中に取り込まれたもの)の存在によって早められることが分かっていま す。しかし、それらの積雪中光吸収性粒子の由来については十分理解されてい ませんでした。そこで、本研究では、気象研究所で開発している世界的に見て も詳細な積雪変質モデルと領域気象化学モデルを組み合わせて活用し、2011- 2012冬期(11~4月)の札幌に到達して積雪に沈着した国内・国外由来の光吸 収性粒子量をシミュレートし、融雪に対する両者の相対的影響を評価しまし た。積雪中光吸収性粒子の由来を正確に把握することは、効果的な環境保護対 策(排出量規制など)を考えるうえで有効な情報となり得ます。
研究の結果、研究対象期間に札幌に到達して積雪に沈着したブラックカーボ ンと鉱物性ダストに国外由来の粒子が占める割合は、それぞれ約82%と約94%に 達することが分かりました。また、札幌における全積雪中光吸収性粒子は融雪 を15日早める効果を持っており、そのうち国外由来の積雪中光吸収性粒子の寄 与が約7割(10日)に達したことが明らかになりました。さらに、積雪中光吸 収性粒子による雪面での放射強制力を評価したところ、12~2月の厳冬期の全 放射強制力は約12 W m-2であり、そのうち約60%が国外由来の積雪中光吸収性粒 子によることが分かりました。一方3月の融雪期になると、全放射強制力は約 30 W m-2に急増し、国外由来の積雪中光吸収性粒子の寄与も約80%にまで上昇することが明らかになりました。この寄与率の明瞭な変化は、我が国周辺における厳冬期と融雪期の気象条件の違いによって説明することが出来ます。
本研究は1冬期分の成果ではありますが、今後は、札幌における知見を積み 重ねると同時に国内他地点にも本手法を適用することを通して、我が国の効果 的な環境保護対策に資する基礎情報の蓄積に貢献していくとともに、気候変動 に関する政府間パネル(IPCC)の報告書に反映する等、国際社会にも知見を共 有することを目指します。
また、気象庁の発表する解析積雪深・解析降雪量といった雪に関する情報の高度化にも繋げていきます。
この研究成果は、2021年8月21日付けでアメリカ地球物理学連合が発行する 科学誌「Geophysical Research Letters」に公開されました。
詳細はこちら(北海道大学プレスリリース)
Niwano, M. et al. (2021): Quantifying relative contributions of light-absorbing particles from domestic and foreign sources on snow melt at Sapporo, Japan during the 2011-2012 winter, Geophys. Res. Lett., https://doi.org/10.1029/2021GL093940