2019 年 4 月 15 日にパリのノートル=ダム大聖堂で大規模な火災が発生してから早くも3年が経過しました。この火災により、大聖堂の屋根全体*1と、19 世紀の建築家ヴィオレ=ル=デュクが建設した交差部尖塔は完全に焼失するに至りました。2022年10月現在も、ノートル=ダムの失われた上部の再建に向けて各方面における懸命な活動が続けられています。
この火災の翌日、フランス内外の研究者たちからなる非営利学術団体(Scientifiques Notre-Dame, ノートル=ダム・ド・パリ修復のための学術連盟)が創設されました。この連盟の目的は、「歴史的建造物を研究対象とする専門家たちを結集し、フランス国立科学研究センター(CNRS)によって組織化された研究チームに協力すること」「一般市民や報道機関を対象とした情報発信・知識普及活動を通じて、その学識や技術をノートル=ダム・ド・パリの修復に役立てること」にあります。この目的に照らして、連盟では公式ウェブサイトに会員が執筆したノートル=ダム・ド・パリの歴史とそれに関連する様々なテーマの専門記事ならびに論文(仏語)を公開し専門的知見を提供しています。また、一部の会員は火災後の現場調査や今後の具体的な再建計画の立案などにも中心的に関わっています。
上記活動の一環として、今後は一層幅広い国際的な情報発信を目指し、連盟の公式ウェブサイトに掲載する仏語の記事と論文を英語と日本語へ翻訳する奉仕事業が2020年 2 月の会合で決定されました。これを受けて、同連盟会員である嶋﨑礼と川瀬さゆりの二人が日本語翻訳担当を表明し、同年 5 月に本プロジェクトが発足しました。
本プロジェクト開始に際しては、翻訳しなければならない記事の分量の多さとその内容の多様性から、より多くの専門分野の研究者の協力が必要であると判断し、私たちと共にこの膨大な翻訳作業に取り組んで下さる有志を募ることにしました。その結果、日本とフランスで活動中の建築史や美術史を専門とする四名の若手研究者と中世建築を専門とするベテラン研究者四名が本プロジェクトの活動に参加して下さることになりました。
本プロジェクトの主な目的は、「連盟のウェブサイトで公開された仏語記事・論文の日本語翻訳を行い、日本国内の研究者や一般市民に向けてノートル=ダム・ド・パリに関する知見提供と今後の修復活動に関する情報発信を行うこと、そしてノートル=ダム・ド・パリ修復に関する日仏間交流窓口の役目を果たすこと」にあります。また、当該ノートル=ダムだけでなくフランスのゴシック建築全般についての日本人の関心や理解を深めるべく、様々な活動を予定しています。
本プロジェクトが、日本の多くの方々に少しでもノートル=ダム・ド・パリやフランスのゴシック建築についての理解を深めて頂く一助となり、当該ノートル=ダムの再建および建築遺産全般の継承に対する関心や問題意識を深めて頂くきっかけとなるならば、訳者一同幸甚に存じます。引き続きノートル=ダム・ド・パリの今後の動向にご関心を寄せて下さいますよう、本プロジェクトを代表して日本の皆様には何卒よろしく御願い申し上げます。
2022年11月30日
川瀬さゆり・嶋﨑礼
*1 13 世紀に建設された小屋組、19 世紀に設置された鉛製屋根と鉛製棟飾り