フランス中世建築用語集

画像:モー大聖堂の内陣聖歌隊席見上げ(2021年9月、撮影:川瀬さゆり)

フランス中世建築は、日本でも比較的早くから研究の対象となってきましたが、そのため/それにもかかわらず、専門用語の訳語は統一されているとは言い難い状況です。ここでは中世建築をおおまかに読み解くために必要となる主な用語について、説明を交えつつ紹介します。(嶋﨑)

一部の用語は→参考図にも示されています。

参考文献:パウル・フランクル著、ポール・クロスリー校訂『ゴシック建築大成』佐藤達生、辻本敬子、飯田喜四郎訳、中央公論美術出版、2011年。Pérouse de Montclos, Jean-Marie. Architecture : description et vocabulaire méthodiques. Nouvelle éd. Paris: Éd. du Patrimoine-Centre des monuments nationaux, 2011.

A

Abaque : アバクス (柱頭の上部にある方形、多角形あるいは円形の板状の部分)→トリフォリウム各部名称

Abside : アプス (教会堂東端部の、半円形や多角形に曲がった部分)→アミアン大聖堂平面図

Absidiole : 円形祭室 (内陣ないしトランセプトに付属する、円形に近い平面をもつ祭室。その配置により放射状祭室、東向祭室などとも呼ばれる)

Arc : アーチ

Arcade : アーケード (アーチとそれを支える柱の連続によって構成された開口部)→トリフォリウム各部名称

Arcature : 飾りアーケード (小さなアーケード)

Arcature aveugle : めくらアーケード (ブラインド・アーケードとも。開口部が壁でふさがれている飾りアーケード)(→ラン大聖堂内部立面図

Autel : 祭壇 (ミサを行うために聖別された台。内陣の中心部に置かれる、教会堂の主たる祭壇は主祭壇として区別される)

Avant-nef : ナルテクス (教会堂正面入口に直結した、外陣より手前の部分)


B

Bague : シャフト・リング (シャフトを区切る金属製の輪、ないし円盤状の板材)

Baie : 開口部、窓 (窓や扉などの開口部)

Balustrade : 欄干 (壁際に設置される欄干、手すり)

Bas-côté : 側廊 (教会堂の身廊から大アーケードで区切られた両側の空間)→アミアン大聖堂平面図

Beffroi : 鐘楼 (中世都市において鐘を鳴らしたり見張りに使われたりした塔。教会堂の一部になったものは一般にClocherと呼ばれる)パリ・ノートル=ダム立面

Berceau : トンネルヴォールト (半円筒形のヴォールト)


C

Chapelle : 祭室、礼拝堂

Chapiteau : 柱頭 (柱の柱身の上に置かれ、アーチやまぐさとの間を仲介する、しばしば装飾的な彫刻の施された部材)トリフォリウム各部名称

Chevet : 後陣 (内陣のアプスより東の部分)→アミアン大聖堂平面図

Chœur : 内陣 (主祭壇が置かれる、教会堂内の奥まった部分。交差部より東の部分)→アミアン大聖堂平面図

Cintre : 仮枠 (アーチやヴォールトを建設する際、迫石を置くために仮設的に設置され、建設後は取り外される木製の枠)

Claire-voie : クリアストーリー、高窓 →アミアン大聖堂断面透視

Claveau : 迫石(せりいし)(アーチやヴォールトを作る石材で、通常楔形に成形されたもの)トリフォリウム各部名称

Clef : 要石(かなめいし)(アーチやヴォールトの頂点にある迫石)

Clocher : 鐘楼 (教会堂の一部をなす塔で、内部に鐘を擁しているもの)

Cloisée : 交差部 (教会堂内において外陣、内陣、トランセプトの各身廊が交わる四角形の部分)→アミアン大聖堂平面図

Colonne : 円柱 (断面が(ほぼ)円形をした柱。一般には柱頭や柱基を備える)

Colonnette : 小円柱 (小さな円柱)

Contrefort : 控え壁、バットレス (壁体を強化するため、壁から直角方向に突出して設けられる柱状の壁)

Corniche : コーニス (壁を水平に区切る、突出した細い帯)

Crypte : 地下祭室、クリプト (地下ないし半地下に設けられる教会堂内の副次的空間。礼拝や埋葬に用いられる)

Culée : キュレ (控え壁の上で、飛梁を受けるマッシブな組積)→アミアン大聖堂断面透視


D

Déambulatoire : 周歩廊 (内陣のアプスの周囲をめぐって設けられた側廊)→アミアン大聖堂平面図

Dosseret : ドッスレ (ピラスターや半円柱が表面に付属した、四角い断面の部分)


E

Ébrasements : 厚みのある扉口や窓の断面にある、斜めの部分

Écoinçon : スパンドレル、三角小間 (隣接する2つのアーチに挟まれた三角形の部分)ラン大聖堂立面図

en délit : アン・デリ (切石を石目が垂直になるように(つまり切り出される前の状態から石を90度回転させて)積むこと。しばしば、付随する石積みから分離して施工されている)


F

Fenêtres hautes : クリアストーリー、高窓 (バシリカ式教会堂において、窓が並ぶ身廊の最上階部分)→アミアン大聖堂断面透視図

Flèche : 尖塔 (塔の頂部に載せられる、急勾配の錘形の屋根)

Formeret : 壁付アーチ (交差リブ・ヴォールトが壁にぶつかる部分で、ヴォールト内輪に沿ってつけられるアーチ)ラン大聖堂内部立面図

Fût : 柱身、シャフト (丸い断面をもつ垂直の細長い部材)


G-H-I-J-K-L

Gâble : 切妻、破風 (切妻屋根の側面にある三角形の壁、あるいはそれをかたどった形)

Gargouille : ガーゴイル (雨水の排出口で、しばしば怪物をかたどり、軒から突出している部分)

Grandes arcades : 大アーケード (教会堂の身廊と側廊を区切るアーケード)→アミアン大聖堂断面透視図

Jubé : 内陣仕切 (内陣と外陣を区切る、装飾のついた仕切り)

Linteau : まぐさ (開口部の上に渡される水平の梁)


M-N

Maçonnerie : 組積、石積み

Massif de façade : ファサードブロック (教会堂西側の、塔を含む塊部分)→アミアン大聖堂平面図

Meneau : 方立、マリオン (開口部において垂直に走る直線状の材)

Moellon : 割石 (全体が四角く成形されていない、多くは小さな石材)

Moulure : コーニスやリブ、柱基など長く線状に突出した部分。特定の断面をもつ。

Mur gouttereau : 軒壁 (身廊外壁の頂部、屋根を支える軒下の部分の壁)

Nef : 外陣 (教会堂の入口から交差部に至るまでの部分)→アミアン大聖堂平面図

Nervure : リブ


O-P-Q-R

Oculus : オクルス、円窓

Ogive : 対角線アーチ (交差リブ・ヴォールトの対角線を結ぶアーチ)

Piédroit : 側壁 (開口部の両側の垂直な壁部分)

Pile : 柱 (多くは、円柱や方立などではない柱を指す)

Pilier : 支柱 (主構造をなす組積造の支柱)

Pinacle : ピナクル、小尖塔 (建物の外側各部の頂点に配される小さな塔の形をした装飾)→アミアン大聖堂断面透視図

Profil : 刳り型 (コーニスやリブ、柱基など長く線状に突出した部分の断面形状)

Remplage : トレーサリー (一般に窓の桟として働く、装飾的な石組み)


S-T-U

Sommier : 迫元 (側壁や柱の直上に置かれた迫石)

Transept : トランセプト、袖廊 (教会堂の主軸に直行し、外陣と内陣の間におかれる空間。トランセプトから交差部を除いた部分を袖廊と呼ぶこともある)→アミアン大聖堂平面図

Travée : ベイ、柱間 (4本の支柱で囲まれた1区画の平面、立面、空間ユニット)

Tribune : トリビューン (側廊の上に設けられた二階部分)→ラン大聖堂立面・断面図

Triforium : トリフォリウム (クリアストーリーの下に設けられる背の低いアーケードで、通路状になった部分)→アミアン大聖堂断面透視図

Trumeau : 2つの開口部を隔てる平らな壁面。ピラスターや半円柱が付属することもある。

Tympan : タンパン (開口部のまぐさ(水平な梁)と、その上のアーチの間に挟まれた部分)パリ大聖堂ファサード


V-W-X-Y-Z

Vaisseau central : 身廊 (バシリカ式教会堂の中央を占める最も天井の高い部分)→アミアン大聖堂平面図

Vitrail : ステンドグラス 

Voussure : アーキヴォルト (アーチに沿って設けられる刳り型)パリ・ノートル=ダム立面

Voûtain : ヴォールト小間、セル (交差リブ・ヴォールトのリブの間を占める曲面状のパネル部分)

Voûte : ヴォールト (曲面天井。形状によって、トンネルヴォールト、交差ヴォールトなどと区別される)→アミアン大聖堂断面透視図