QUESTION1
恋人に何の前触れもなくシースルーナースの着用を迫られた時の正しいリアクションと、その後のプレイングについて答えよ。【文字制限なし/配点100】
キバナは頭を抱えていた。一応袖は通したものの、一体ダンデに何を求められているか分からない。スカートの裾をたくし上げ、ベッドの上で胡坐をかいてキバナは悩みに悩んだ。サイズはばっちり。裾も肩も腰回りもぴったりで遊びがない。男で、この高身長をカバーできる衣装なんてそうそうない。それがシースルーナースなんて代物ならなおさら。明らかにフルオーダーメイドだ。なんてものに金かけてるんだ。どこでサイズを知ったんだ。色々言いたいことはあったが、それよりももっと重要な問題があった。
なぜナース。なぜシースルー。
片方だけならまだ分かった。ナースならちょっとえっちなナースに迫られたいのか、迫りたいのかのどっちかだ。どっちでもタイミングを見計らっておっぴろげて「お注射ください♡」とか言っておけば何とかなる。強く当たって後は流れで。流れさえ間違えなければ及第点くらいは余裕だろう。だがそれは白とかピンクとか、淡いブルー系だとかそういう現実味のありそうなナース服に限る。そういう分かりやすいので良ければ、キバナとて全身全霊で応えてたっぷりとサービスしてやるくらいの覚悟はある。主導権は一度たりとも渡してやらない。そういう風になんでもないコスチュームプレイに走れたら良かったのに。そういうセックスに至れるなら、キバナとしては一番有難かっただろう。それはもうノリノリでド淫乱になりきってやったと言うのに。だというのに、はじめて渡されたコスプレがまさかのシースルーナース。一体恋人に何を求めているのだ。
剥き身で渡された瞬間に、もう少し段階を踏めと罵らなかったことをキバナは後悔していた。普通はシースルーナースの前にお互いの趣味とか趣向とか、プレイ中にどの程度演技するとかそういう匙加減を探るプロセスがあるはずなのだ。普通は。それがいきなりぶっ飛んでシースルーナース。どうしろと言うのだ。いっそどうして欲しいかも詳細に注文していってほしかった。それだというのに、ダンデは爽やかに笑って「じゃあ、楽しみにしてるぜ!」の一言だけ投げつけてシャワーを浴びに行った。残されたキバナは、とりあえず渡されたものを着て大人しくベッドの上で思考を続ける。
シースルーナースに求められているプレイとは?普通のナースと同じで良いのか?そんな訳はない。きっとシースルーである必要性があるはずだ。キバナはそれを延々と思索している。ダンデがシャワーから帰って来るまでが勝負だ。キバナは恋人の要求にはパーフェクトに応えたかった。滅多にないダンデからのプレイの要求だ。これを着ることに羞恥は感じたが、それでもダンデから求められているという方に軍配が上がった。着てやった。ここまでやるからには、今日は『流石は俺の恋人だ』と賞賛してもらい、惚れ直してもらう。そのためにも、ダンデが求めているであろう理想的なシースルーナース・セックスをシミュレーションする必要があった。
キバナ的にはコスチュームプレイの肝は『非日常的な、でも実際にこんなことがあったら(性的に)嬉しいシチュエーションの体験』だと思っている。実際にあったらというのが肝だ。ほんの少しの現実味がスパイスになる。だからこそシースルーナースと言う選択肢はキバナ的には絶対にありえなかった。現実にこんな露出狂ナースは絶対にいない。疑う余地すらない。そんな非実在性存在になって一体どんなセックスをしろと言うのだ。コスチュームプレイの肝を殺してまで致す行為とは?シースルーを着せられたことに恥じらうのが正解なのか?しかしそれだとナースの必要性とは?淫乱っぽい積極的な感じになってみるとか?その場合ナース要素をどう取り入れるのが正解だ?どういう反応を求めてダンデはキバナにこれを着ろと言ったのか?考えれば考えるほど分からない。
キバナは残念ながらシチュエーション系のAVにあまり興味がなかったために、シースルーの良さがさっぱり分からなかった。たぶん、着衣なのに『見えている』のが良いのだろうと当たりはつけた。でもキバナは着衣なら見えない方が良いと思う。ダンデとはその辺りのフェティッシュがすれ違っている可能性が高い。だってシースルーナースだ。ぜんぜん理解出来ない。そうなるとダンデにとっての正解は思わぬ方向にあるのかも知れない。
ヒント。ヒントがどこかにあるはずだ。
キバナは忙しなくベッドサイドに視線を走らせる。いつものローション。いつものスキン。ピアスを入れるための小物入れ。いつも通りの顔ぶれだ。そこにはラブグッズもなければ聴診器のような医療器具の類もない。なるほど、診察プレイの線は消えた。じゃあ本当に何がしたいんだ。シースルーナースに、人は一体何を求めるんだ。キバナは悶絶した。考えろ、考えるんだ。
「………もう少し可愛らしく待てなかったのか?その恰好で胡坐はやめてくれ」
気付けば、シャワーから上がったダンデが髪を拭きながら帰ってきていた。キバナは慌ててシーツをかぶって首から下を覆い隠しておく。
「待てダンデ!今こっちくんな!」
「は?」
ダンデは困惑も顕わにベッドの前で立ち止まる。
「今正解を導き出してる途中だ。ちょっと離れて待ってろ、お前の要求には完璧に応えてみせる」
「……いやもうその反応が不正解なんだが」
「不正解!?」
このキバナさまが!?と叫びそうになった。実際叫んだ。これまでの人生で貰ったことがない評価だ。それが、ベッドの上で、しかも恋人から下されるとは思いもよらなかった。布団を引っぺがされて、シースルーナースのキバナが晒される。
「君の自己肯定感はどこから湧き上がってくるんだ……」
「よし、やり直す。10分後にもう一回来てくれよ。それまでにお前が大満足する対応を編み出してやる」
「だから、そういうこと言ってるから0点なんだぞ」
「0点!?」
言うに事欠いて、0点。不正解でも大変不本意なのに、その上点数まで付けて、あまつさえ0点と来た。驚きだ。生涯無縁だった響きを一日で二度もこのキバナ様にぶつけてくるとはコノヤロウ。オレさまを捕まえておいて、シースルーナースにしておいて一体何の不満があると言うのだ。
「ああ、もう。裾もたくしあげてるし……。なんでちゃんと着てないんだ」
ぐいぐいと裾を引かれて直される。そんなに力を入れたら破れるだろ、と声をかけようとして、やめた。そういうプレイなのかもしれない。AVなんかでプレイ途中でコスチュームを破くのを見たような気がする。キバナは徹頭徹尾理解できなかったが、それに興奮する輩もいるのだろう。だがコスプレエッチだって言ってるのだからちゃんと生かせとキバナは言いたい。脱がせるなんてもってのほか。着せるだけ着せて普通のセックスしてるんじゃねえぞと声を大にして言いたい。
「着ても着なくても見えてるんだから同じだろ」
直されたスカートがぴっちりと太腿を覆う。肌にまとわりつく布の感触が気持ち悪い。スカートを履く女性は年中こんな感じなのか。こんなに変な感じでずっと生活しているのかと愕然とする。しかしダンデはダンデで、キバナの発言に愕然としていた。
「君、本気で全然分かってないな。これなら全裸にレインコートだけ着せて転がしておいた方が良かったぜ」
「レインコート以下!?」
ここまでさせておいて、レインコート以下。女装だぞ。ナースだぞ。シースルーだぞ。全部ダンデが望んだことだって言うのに、キバナはそれに全力で応えようとしているだけなのに、なんて言い草だ。衝撃に打ち震えていると、ダンデがぐいぐい押し倒してくる。あまりの力の強さに負けて、ベッドに雪崩れ込む。
「え、うそ。0点なのにヤんの」
「勃った」
ぐい、と押し付けられた下半身は、確かに申告通りの硬度と質量があった。0点なのに?文句ばっかり言ってたのに?全裸レインコートで転がっとけとか言うくせに?もう全然理解できない。お前どこに勃たせたんだ、意味が分からない。今後の参考にするから、そういうのは詳細に言ってほしい。
「お前、ホントに意味わかんない」
「悪いがちょっと黙っててくれ。萎える」
じゃあ実際に萎えさせてみろよ!と吼える間もなく、口を塞がれる。ぬるりと分厚い舌が割り込んでくる。
途中で普通に脱がされたし、本当にいつもどおりの普通のセックスをした。