デートのプラン練ってるのって、なんでこんなにワクワクするんだろ?
オレさまは浮かれてた。楽しみすぎて何にも手に付かない。ヤバい。「日帰りお出かけスポット特集!」みたいな見出しの雑誌をぱらぱら見ながら、ページの端を片っ端から折っていく。これじゃあ印付ける意味ないなって分かってるよ。でも、どうしても止められない。なんてったってダンデとの初デートだぜ。全力で楽しむしかないじゃんか。だから、あっちも、こっちもって目移りして、最終的には全部チェック入れることになる。これじゃ、日帰りどころか一週間休みをもらっても回りきれない。
オレさまはちょっと冷静になって、ふう、と溜息を吐いた。
その拍子に、隣で雑誌読んでいたダンデが顔を上げる。オレさまが柄にもなく溜息なんか吐いたから、ちょっと訝しんでる顔だ。ダンデの読んでた表紙がちらっと見える。タイトルはよく読めなかったけど、バトル系の雑誌だとすぐに分かった。
……うーん、オレさま、ダンデがその手の雑誌読む意味あんのかなっていつも思うんだよなあ。だって、ガラルのバトル系雑誌って大体ダンデのバトルレビューとか解説が中心じゃんか。それ、本人が読んで勉強になったりするもんかな? オレさまの経験則から言うと、あんまり参考にならない記憶しかないんだけど。まあ、本人がやりたいようにやれば良いけどさ。
オレさまはダンデの手から雑誌を引き抜くと、遠慮なくどすんとダンデの膝に乗り込む。ダンデも抵抗せずにオレさまを受け止めてくれた。ダンデのぶっとい太腿は独特の弾力があって気持ちいい。ダンデの体温高くて安心するし。オレさま、こうやってるの、結構好きなんだよな。
オレさまは自分の持ってた雑誌をダンデに見せながら、ダンデを見上げた。ダンデは少し小首を傾げて、オレさまをじっと見つめていた。その顔は穏やかで静かだ。スタジアムに立ってる時の顔と全然違う。別人みたいだ。でも、オレさまはどっちのダンデも好き。
「なあなあ、今度のデートどこ行く?」
オレさまは言いながら、適当にページを開く。ルミナスメイズの森の外れにある花畑の写真が大きく取り上げられていた。なだらかな丘に一面黄色い花が咲いている。遊歩道に添って、ゆっくりと歩いて花を見て回る観光客。
なんだか懐かしい風景だ。絵葉書みたいで綺麗で、確かに写真映えする。昔、ダンデと入り浸っていた秘密の場所に少し似てるな。まあ、あそこはもっと人が少なかったけど。だからこそ二人のお気に入りの秘密の場所って感じがあって良かった。あそこ、今どうなってるかな。
デートするんだったら、こういう静かなところも良いかもしれない。ダンデと手を繋いで、穏やかに話しながら歩くだけって言うのもいつかはやってみたいデートのひとつだ。想像して自然と顔が綻ぶ。でも、それは次回以降だ。今回はもうちょっと違うデートプラン練ってるんだ。その証拠に、このページはドッグイヤーをしていない。
「うーん……。キバナはどうしたい?」
ダンデは周囲をさっと見回してから、眉尻を下げてみせた。困ってる。バトル以外に望むものが少ないヤツだから、こういう質問が苦手なのは知ってるけど。でもあんまり情けない顔するから、ちょっと笑ってしまった。いや、知ってて質問してるんだから、オレさまも意地が悪いなーとは思う。思ってはいるんだけど、でもこういう弱った顔も好きなんだよ。この、ちょっと弱ったダンデの顔を見上げてるって言うのはオレさまにとってはすごく特別な時間だ。こうして引っ付いてないと、オレさまがダンデを見上げるって機会も少ないし。こういうレアな顔をレアな角度で鑑賞するって言うのも楽しいことだ。普通のデートじゃなくても、こうやってるだけでもオレさま結構幸せだとは思ってる。
でもそれはそれとして、堂々とデートしたいって願望は別にある。それはもう、しょうがないじゃん?
「そうだなー……」
やりたいことはたくさんある。映えるスイーツ食べ歩きして、写真をいっぱい撮って、ショッピングして、百貨店でやってるポケモンの写真の展覧会に行って、映画見て、それから。けど一番オレさまがやりたいことって言ったらひとつしかない。ダンデとデートするなら。それも、初めてのデートって言うなら。
「ダンデを見せびらかして歩く!」
そう。オレさまはこれだけは初めから決めてたんだよ。ダンデと腕組んで往来を歩いて、オレさまのですって皆に見せびらかす! これしかないと思うんだよ。
街でデートするって言うなら、どんなに二人でお忍びスタイルにしたって絶対どっかでバレて大騒ぎになる。だったらさ、最初から大騒ぎにしてやろうじゃんって思うんだよな。誰にも遠慮せず、堂々とデートする。逃げも隠れもしないし誤魔化しもしない。次の日の朝刊の大見出しはオレさまとダンデの熱愛デート報道で決まりだ。そのくらいの覚悟をしてでも、オレさまは街中デートに燃えていた。
「オレさま、待ち合わせからSNSトレンド入り狙うから」
オレさまが不敵に笑って宣言すると、ダンデは一瞬ぽかんとした顔をした。それから、くすくす笑いながらオレさまに抱き着いて来た。そして、痛いくらいにぎゅっと抱きしめる。
「……いいな、それ。最高のデートだ」
耳元で響くダンデの声が弾んでるのが分かる。その声だけで、胸がじわって温かくなる。オレさまは持ってた雑誌を放り出して、ダンデの背中に腕を回した。
「だろ?」
「俺もキバナを見せびらかしていいのか?」
「良いぜ!」
オレ様が即答すると、ダンデは目を眇めて笑った。それから、ますます強く抱きしめられる。胸が圧迫されてくるしい。でも、すげえ嬉しい。ダンデもオレさま見せびらかして歩きたかったんだって。同じ気持ちだったんだって分かって、自分の全部が満たされてる感じがする。ダンデの高い体温がオレさまを包む。ダンデの方が身長低いのに、体が分厚いせいかなんだか包まれてるような感じがするのが不思議だ。
オレさまはもぞもぞ手を移動させて、ダンデの髪を撫でる。ちょっとごわついた毛先が指先で引っかかる。それを優しく解してやってると、ダンデの身体がゆっくりと離れていった。遠ざかる体温がちょっと寂しい。
ダンデはそんなオレさまのことを分かってるのか、軽く頭を撫でてきた。
「なら、当日は二人ともユニフォームで行こう」
「え?」
ユニフォーム? オレさま、結構いろんなデート服シミュレーションしてたんだけどな。オレさまが首を傾げると、ダンデは悪戯っぽく笑う。それに少し腹が立って、オレさまもダンデの顎に触れて―――軽く髭を引っ張った。いて、と軽い抗議の声が上がる。それに笑って、オレさまは許しを求めるように鼻先に軽いキスをした。ダンデはくすぐったがって身を捩る。
「トレンド入り、目指すんだろ。ユニフォーム着てデートしたら、きっと皆びっくりするぜ。大注目間違いなしだ」
そりゃそうだ。想像してみる。オレさまとダンデが、ユニフォームのまま街に繰り出して、腰を抱き合って歩くところ。そのまま街を歩いて行って、ウィンドウショッピングをしたり、オープンテラスのカフェで一休みしたりする。そんなオレさまたちを皆驚いた顔をして見て、それからきっとカメラを向けるだろう。それにオレさまたちは笑顔でサービスしてやる。どうぞ、どうぞって言って自分たちからポーズをして笑って。それからまた二人の時間に戻っていく。人目を憚らず、何にも遠慮せずに、二人っきりの時と同じように振舞って見せつける。
―――良いかもしれない。言われてから目から鱗が落ちた。私服よりもインパクトがある。それに、オレさまが一番好きなダンデを見せびらかせる。
「……サイコーじゃん」
口から零れるみたいに言葉が出てきた。それにダンデがにやっと笑う。
「決まりだな」
ダンデはそう言うと素早くオレさまの顎をとって、それからキスをした。驚いたけど、ゆっくりと目を瞑るだけにした。ダンデの分厚い舌が、べろりとオレさまの唇を舐めた。その無骨な動きに、思わず笑ってしまう。それをどう思ったんだろう。ダンデがオレさまの腰を抱いて、静かにソファに沈めようとしてくる。オレさまはそれに抵抗せず、ダンデの首に手を回した。
(2023/03 ダキ恋 無配)