皆さんは著作権ということばを聞いたことがありますよね。「なんとなく知っているけれど,詳しいことはわからない」という人がほとんどではないでしょうか。
「著作権」は自分が創作した作品を,「他人に勝手に使われない」ようにするための「作者の権利」です。「著作権法」という法律で規定されていますから,これに違反すると罰則を受ける可能性があります。
曲や小説,漫画などの盗作,いわゆる「パクリ」が著作権侵害のわかりやすい例ですが,次の例はわかりますか?
このほか,いろいろ迷うケースが考えられます。「まあ,いいか」と思わず,他者の権利侵害とならないよう,疑問に思ったら調べたり,詳しい人に聞いてみたリすることが大事です。
他人の著作物に対して,パクリ以外にしてはいけないことは何でしょうか?
無断でマネをして自分の作品として発表したり,勝手に複製(コピー)して販売したりするのはもちろん,勝手に無料で配布したり,公開したりすることも禁止されています。
こんな例についてどう思いますか?
友達がとても素晴らしいイラストを描いたのに「恥ずかしいから他の人には見せない」と言っていたとします。あなたは,「もったいない。これはもっと多くの人に見てもらわなければ!」と,その子の作品をネットに公開しました。そのイラストはとてもたくさんの「いいね!」がついて,その子も有名になりました。でもその子はちょっと戸惑っているようです。。。
残念ながら上記の例では,あなたのしたことは著作権侵害にあたってしまいます。著作権とは,作品の内容そのものの権利だけでなく,「公表するか,しないか」,「公表するときに氏名を表示するか,しないか」なども著作者の権利とされています。このような権利を「著作者人格権」といいます。
その子のためを思って公表してあげて,結果的に評判は良かったかもしれませんが,「公表したくない」,「名前を出したくない」のも作者の大事な権利(著作者人格権の中の「公表権」「氏名表示権」)なのです。尊重してあげないといけませんね。
また,既存の作品のキャラクターなどを用いて,新たな話に作り変えて発表するのはどうでしょうか。オリジナルストーリーを新たに考えるのだから問題ないのでしょうか。実はこれも著作者人格権の侵害となってしまいます。作品には作者の「世界観」があり,それを勝手に作り変えるのは作者の権利の侵害となります(著作者人格権のうちの「同一性保持権」の侵害)。すでに有名な作品のパロディなど,そのような作品もイベント等で多く目にすることがありますが,許可を得ているもの以外は違法性があると認識した方がよいでしょう。
それでは,他者の「著作物」は,一切利用することはできないのでしょうか。
他者の著作権があったとしても,全く利用できないということはありません。利用の目的に対して著作権者の「許諾」が得られれば利用できます。その際に使用料が発生したりする場合もあります。許諾の条件はさまざまなので,きちんと調べましょう。
他者の著作物であっても,許諾の必要なく利用できる場合もあります。
例えば,「私的複製」は認められています。音楽でも,漫画でも,小説でも,自分自身(同居の家族などごく近しい人)が楽しむためだけであれば,権利者に無断でコピーすることができます。また,入場料を取ったり,報酬を支払うことがなければ,上演,演奏,上映等をすることもできます。ですから,自分でテレビ番組を録画して何度も見たり,趣味で他者の絵画やイラストを模写したり,入場料を取らずにプロの曲をコピーしてバンドで演奏したりするのは,問題ありません。
また,著作権は永久に存続するものではありません。作者の死後70年経つと,著作権は消滅します。夏目漱石や芥川龍之介の作品が,インターネット等で無料で公開されて誰でも読めるようになっているのはそのためです。
皆さんが使っているスマートフォンは文字,写真,動画などマルチメディアが扱え,インターネットも日常的に利用するので,著作権にも関係が深い機器といえますね。
例えばスマートフォンで撮った写真を Instagram 等で簡単に世界に向けて公開できるようになったことは,とても素晴らしいことです。写真を撮るときにも被写体はもちろん,アングルやフィルタの色合いなど,いろいろ工夫しているのではないでしょうか。ステキな写真が撮れたら,誰かに見てほしいですよね。
つまり現代は,誰もが表現者であるのです。あなたが工夫して撮った写真にも,当然著作権があります。自分の作品と権利を守り,他人の作品にもリスペクトを忘れず,楽しく利用してください。
授業や大学の講義の時にも,スマートフォンのカメラを使うことがありませんか?
先生の板書が多いとき,スマホで写真を撮っておくこともあると思います。この行為について著作権的な視点から考えてみましょう。
まず,先生の板書が著作物か?ということですが,先生は板書するにあたり,どんな言葉を書くか,その配置や色,簡単な手描きの図などを組み合わせ,工夫しながら書いていくものですから,確かに「著作物」といえるかもしれません。ですから,撮った板書の写真を先生に無断でインターネット上に公開するとか,コピーして広く配布する,などの行為は問題になると考えられます。
皆さんは,その場ではノートに書き取りきれない,あるいは自分の復習などのために写真で残しておくという行為はよく行っているかもしれませんね。
しかし,もし先生の板書に第三者の著作物が含まれていたら・・・先生の行為は著作権法第35条の範囲内で許されますが,学生がその板書を更に撮影で複製することによって「私的な複製」とはならない可能性があります。
講義の前などに,先生に板書の写真を撮ってもよいかどうか,了承を得ておいた方が良いでしょう。
もちろん,他人の論文を自分のものとして発表することは絶対にしてはいけません。論文やデータの盗用は,学者などの学術界では,もっとも悪質な行為とみなされます。学生についても卒業論文等で盗用が見つかったら,学位をはく奪されるかもしれません。
しかし,論文などを執筆する際,他者の論文から「引用」することは全く問題ありません。自分の論文中に,他者の論文からの引用個所がわかるようにして,引用部分をそのままの形で書き(勝手に言葉を変えて要約するなど,文章を勝手に変えてはいけません),参考文献に引用した論文の情報について記します(出典の明示)。
研究とは過去の先行研究の成果から,新たな知見を求めて行うものです。過去の研究がどんなものであったのか,その成果とどのように関連・発展した研究を自分が行っていくのかを記述することが大切です。つまり,「引用」のない論文は,その研究自体の意義が問われてしまいます。
他人の研究成果を自分のものと偽ることが問題なのです。これまでの他者の研究成果をきちんと引用して,自分の研究に生かしていくことが必要です。ルールに則って正しく「引用」をしましょう。
友達とちょっと遠くに遊びに行くときのことを想像してみてください。
どこかおいしいお店にでも行きたいですよね。どこに行こうか,何を食べようか,と考えているとき,ふと本屋でその行先が特集されている雑誌を見つけました。でもその雑誌の他の部分には全く興味がありません。
そこで,その雑誌に載っている「おいしいお店」の記事の部分だけ何ページかスマホで写真を撮っておくことにしました。
さて,この行為についてどう思いますか? ほんのちょっと読みたい部分があるだけなのに,まるごと1冊雑誌を買うのはお金がもったいないと思ってしまうかもしれません。この行為は,著作権法的にはどう思いますか?
実は,撮った写真をネット上に公開するわけでなく,後で自分のお店選びの参考にするだけであれば,それは「私的複製」にあたり,著作者の許諾を得ずに利用できると考えられます。
しかし,上記に関わらず,もし本屋さんに「撮影禁止」などと明示されていた場合は問題となる可能性があります。お店は商品を管理する権利がありますから,「ペット入店禁止」や「触らないで下さい」といったことを客に示すことができます。同じように,書店は「撮影禁止」と客に示すことができます。もし,これを破って書籍を撮影した場合は,お店の権利を侵害し迷惑をかけたことになるので,著作権法に関係なく,損害賠償請求を受ける可能性があります。何度も繰り返すなど悪質な場合は,書店の客としてみなされず,窃盗罪や建造物侵入罪が該当することもあり得ます。(なお,「デジタル万引き」という表現は行き過ぎだとして,現在は日本雑誌協会でも使わないこととなっています。)
雑誌を作っている人,売っている人は,本や雑誌が商品として売れることで生活が成り立っています。無料で「内容だけ」持っていかれてしまっては商売が成り立ちません。つまり,これは法律だけの問題ではないのです。
物体としてのカタチはありませんが,「情報」は価値のあるものです。その価値に対して,あまりに軽々しい扱いをしないように行動しましょう。
平成30年の著作権法改正で創設された「授業目的公衆送信補償金制度」について,当初の予定を早め,令和2年4月28日から施行。
学校の授業等での他者が創作した著作物のインターネット送信が,個別の許諾を要することなく可能となりました。ただしSNS等で多数に公開することはできません。あくまで学校の先生や学生の授業等での行為に限られています。