2021年12月4日−12月18日に開催された法政大学国際文化学部・国際文化情報学会で、遠藤瑞宜さんと矢野広人さんがそれぞれみなとメディアミュージアム2020→2021で実施したプロジェクト「My Place」で行った作品制作に関する発表を行った。遠藤さんは那珂湊の訪問やインタビューから知った那珂湊の歴史を抽象化し制作した作品「salvage」について、矢野さんは那珂湊の人々の語った那珂湊の思い出に関して、その光景を実際の空間に即した形で表現した「Nakaminato miniature diorama」の制作プロセスについて、それぞれがその制作ドキュメント映像を学会発表した。
コロナ禍での緊急事態宣言で十分な現地取材が難しく、唯一の手がかりである那珂湊の人々のインタビュー映像から、那珂湊での人々の体験や記憶をそれぞれの想像力で捉え直し、作品を制作したプロセスがよくわかるドキュメントとなっている。
毎年、11 月・12 月の土曜日に開催される国際文化情報学会は 、学部 、大学院の理念に則り、「情報文化コース」「表象文化コース」「言語文化コース」「国際社会コース」の各コースの講義やゼミ、 SA を通じて得た知見や経験を生かした研究、創作の発表の場です。学部生や大学院生に広く参加を呼びかけて、行われる学会は卒業研究、卒業制作、修士論文の中間発表の場としても活用できますし、日頃の研究、創作活動の成果を学部、院の内外に問う機会となります。
同級生や上級生の発表に刺激を受け、研究、創作活動への取り組みのモチベーションを高めていきます 。(学部ウェブサイトより)
2020年の新型コロナウィルス感染拡大以降、国際文化情報学会はオンラインで開催されています。2021年度は12月4日ー12月18日に開催されました。(会期終了となりましたので、現在閲覧することができません。)
MMMプロジェクトに関する記録とジオラマ作品制作
新型コロナウィルス感染拡大前の2020年から現在までの期間、稲垣ゼミはアートプロジェクト「みなとメディアミュージアム2020→2021(以下、MMM)」に参加した。そこで、私はプロジェクトに関連して制作した自身の作品について発表したい。
はじめに、MMMとは茨城県ひたちなか市那珂湊地区を中心に開催する地域芸術祭であり、毎年全国からアーティストが参加し、作品を出展する。毎年8月〜9月に行われ、那珂湊の駅や街中を中心に作品が展示される。2021年はコロナウイルス拡大の影響により那珂湊に赴くことができなかったため、稲垣ゼミは大学構内で2021年11月3日〜5日にサテライト展示と特設ウェブサイト上での作品掲載を行った。
2021年4月、初めて那珂湊を訪問した。実際に訪れたことでWEB上では知り得ない街の魅力を知ることができた。那珂湊を走っているひたちなか海浜鉄道が、廃線の危機を乗り越えて列車を走らせていること。高台から見える、海の近くにある魚市場の鮮やかな黄色と青の建物。海を近くに感じられる浜辺。那珂湊駅で住人が集まり、団欒している様子などだ。また、2021年7月には11名の住民を対象に那珂湊での日々の暮らしに関するインタビューを行なった。対象者は年齢や性別、職業などランダムに選ばれた。そのインタビューの中で私は、那珂湊の歴史について話している住民に着目した。昔大火があり街の様子が一変してしまったことや、東日本大震災で被害を受けた時のことを話されていた。
現地訪問やインタビューを通して、那珂湊の辿ってきた歴史や街の魅力を知ることができた。しかし同時に、那珂湊のことを知ろうとするきっかけがなければ、街の表面的な魅力しか知ることができないとも感じた。観光目的で街を訪れる人にとっては、那珂湊について深く知る機会は得難い。そこで私は観光客や外部の人間が「那珂湊を知るきっかけを得られることを目的とした作品を制作しようと考えた。製作する作品はジオラマ模型を選択した。街の魅力や歴史を模型として具象化することで、鑑賞者の年代を問わず、那珂湊という街が理解されやすくなると考えたためだ。サテライト展示中、作品と合わせてインタビュー内容を記載することでより興味・関心を深めてもらえると想定した。
模型は忠実に街並みを再現するのではなく、現地訪問やインタビュー内容から知った那珂湊の歴史を抽象化して製作した。模型の真ん中には海浜鉄道の列車があり、上を目指して走っている。これは鉄道が廃線の危機を乗り越えた経緯を意味している。大火や震災などは牙の生えた巨大魚で表現した。また、海と共に生きる「港町」という側面を表したいと思い、模型に透明度の高いレジンを流し込んでいる。作品を通して、外部の人には「単なる港町」としてではなく「那珂湊」という街とそこに住む人々が紡いできた歴史、そして街で暮らすことの良さを一つでも多く作品から感じとってもらいたい。
私は、茨城県ひたちなか市那珂湊の人々の那珂湊での暮らしに関するインタビューを基にして、ジオラマ作品を制作した。
私の所属している稲垣ゼミでは地域プロジェクト「みなとメディアミュージアム2020→2021」に参加、その那珂湊の現地の人々に那珂湊での暮らしに関するインタビューを行った。私は那珂湊の人々の語った那珂湊の思い出に関して、その光景を実際の空間に即した形で表現することが思い出を最もイメージしやすく、心に残る表現方法だと考え、ジオラマアート立体的に制作することを考えた。
このNakaminato miniature dioramaは鉄道模型などで見られるようなミニチュアジオラマ用の資材を使用し製作した。使用する草木の模型の色、建物の風合いなどにもこだわり、できるだけ実物に近い形でジオラマを作成できるよう試行錯誤した。このジオラマ作品の中には3つの那珂湊でのエピソード、場面が再現されている。1つ目は港町である。那珂湊は漁師街として栄えた街である。かつてはたくさんの漁師が毎日のように漁に出て、那珂湊はとてもせわしない場所であった。そのような背景を踏まえ、漁港らしきコンクリートの弊と海を組み立て、那珂湊の港町の部分を再現した。2つ目は鉄道である。那珂湊の鉄道会社の社長にインタビューを行った際、那珂湊の鉄道は車両も駅も古く懐かしい雰囲気を漂わせていると語っていた。そこで私はその懐かしくもどこか温かみのある雰囲気を再現したいと思い、鉄道と駅舎のミニチュアを作成した。海のジオラマのすぐそばにあり、那珂湊の鉄道は海浜鉄道であるという側面も表現している。3つ目は那珂湊に複数ある木造の倉庫である。他の地域ではあまり見ないような大きな木造の倉庫がとても印象に残った。このような存在感のある倉庫が那珂湊という地域の独特な懐かしい雰囲気を作る要素の一つになっていると感じたため、この建物は欠かせないと思い、一番後ろにはっきりと見える形で設置することにした。
このように幾つかの那珂湊でのエピソード、場面をコンパクトに1つのミニチュアジオラマに収めることで、一目で那珂湊がどのような街なのか思いを巡らせ、その街の雰囲気を感じることができる作品に仕上がった。また、自分自身もこの那珂湊を舞台にしたジオラマを想像しながら製作することで、より那珂湊という町への理解が深まったと感じたのである。