薬品製造化学研究室
Laboratory of Organic and Medicinal Chemistry
薬品製造化学研究室
Laboratory of Organic and Medicinal Chemistry
電子豊富な多重結合をプラットフォームとする分子変換法の開発
窒素や酸素などのヘテロ原子が直接結合した多重結合は、ヘテロ原子上の非共有電子対が多重結合へ非局在化するため、単純な多重結合性化合物に比べ非常に電子が豊富です。特に、ヘテロ原子のβ位は負の部分電荷を持つため求核性を示します。私たちはこのヘテロ原子が結合した多重結合である、イナミド、アリールオキシアルキンおよびアレナミドをプラットフォームとした分子変換法の開発を進め、多様な化合物を合成することに成功しました。
イナミドを基盤とする分子変換
ニッケル触媒によるアルデヒドおよびシランとの位置及び立体選択的三成分連結反応によるγ-シロキシエナミド合成法(反応1)、ルテニウム触媒によるエチレンとの形式的ヒドロビニル化による2-アミノ-1,3-ジエン合成法(反応2)、パラジウム触媒による高位置選択的シラホウ素化による多置換エナミド合成法(反応3)の開発、ニッケル錯体による二酸化炭素の位置選択的固定化反応の開発とβ-アミノ酸不斉合成へ応用(反応4)。また、分子内に2つのアルキン部位を持つイナミドの遷移金属触媒を用いた[2+2+2]環化反応によりインドール骨格を一挙に構築し、さらに 抗腫瘍活性を持つ(-)-Herbindole A、BおよびCの天然体としての初の全合成を達成しました(反応5)。最近では、カチオン性ルテニウム錯体を用いて末端イナミドから生じたビニリデン中間体を経由する新規インドール骨格構築法の開発にも成功しています(反応6)。
反応1: Saito, N.; Katayama, T.; Sato, Y. Org. Lett. 2008, 10, 3829. Saito, N.; Katayama, T.; Sato, Y. Heterocycles 2011, 82, 1181.
反応2: Saito, N.; Saito, K.; Sato, Y. Org. Lett. 2011, 13, 2718.
反応3: Saito, N.; Saito, K.; Sato, Y. Adv. Synth. Catal. 2013, 355, 853.
反応4: Saito, N.; Abdullah, I.; Hayashi, K.; Hamada, K.; Koyama, M.; Sato, Y. Org. Biomol. Chem. 2016, 14, 10080.
反応5: Saito, N.; Ichimaru, T.; Sato, Y. Org. Lett. 2012, 14, 1914.
反応6: Tayu, M.; Watanabe, R.; Isogi, S.; Saito, N. Adv. Synth. Catal. 2021, 363, 1147.
総説: 齋藤 望, 佐藤美洋 有機合成化学協会誌, 2018, 76, 699.
N-O結合をもつ新規イナミドの創製
窒素-酸素結合をもつ化合物は有機合成における重要な合成素子です。私たちはイナミドの窒素原子上の置換基としてアシロキシ(RCOO–)基をもつ、これまで誰も合成したことのないN-O結合を有するイナミドを世界に先駆けて合成することに成功しました。本反応では超原子価要素化合物から炭素同素体の1つである”C2”が発生し、それがN-アシロキシアミドとラジカルカップリングすることで目的物を与えることを明らかにしています。
Kagami, K.; Liang, X.; Ishibashi, N.; Ohrui, S.; Tayu, M.; Saito, N. Chem. Commun. 2023, 59, 8274.
アレナミドへの位置選択的二酸化炭素固定化反応
0価ニッケル錯体はアルキンやアルケンなどの炭素-炭素多重結合および二酸化炭素と反応しニッケララクトンと呼ばれる錯体を与えることが知られています。私たちは本反応を利用し、窒素原子がアレンの炭素原子に直接結合したアレナミドへの二酸化炭素の固定化反応を開発しました。本反応ではアレン上の置換基によって位置選択性が変化することを明らかにしました(反応9および10)。
Saito, N.; Sugimura, Y.; Sato, Y. Synlett 2014, 25, 736.
アリールオキシアルキンへの二酸化炭素固定化を経由するβアリールオキシカルボン酸の不斉合成
上記の0価ニッケル錯体を用いた二酸化炭素固定化反応をアリールオキシアルキンへ適用したところ、高位置選択性でβアリールオキシアクリル酸誘導体を合成することができました。この化合物を基質とし、光学活性ロジウム触媒を用いる不斉水素化反応に付したところ、様々な生物活性化合物の構成ユニットであるβアリールオキシプロピオン酸誘導体を高収率・高エナンチオ選択的に合成することに成功しました。
Saito, N.; Sun, Z.; Sato, Y. Chem. Asian J. 2015, 10, 1170.
現在も、特にイナミドをプラットフォームとする触媒的分子変換法の開発研究を進めています。