薬品製造化学研究室
Laboratory of Organic and Medicinal Chemistry
薬品製造化学研究室
Laboratory of Organic and Medicinal Chemistry
アレンを基盤とする新しい環状化合物合成法の開発
1,2-ジエンであるアレンは分子の中に2つの二重結合部位があることから、どちらの二重結合が反応するかによって異なる生成物が得られる可能性があります。私たちはルテニウム触媒を用いてアレンとアルキンの反応を検討したところ、反応条件を変えるだけで全く異なる骨格を持つ環状化合物を作り分けることに成功しました。
1,7-アレンインの環化二量化反応
1,7-アレンインを2価ルテニウム錯体Cp*RuCl(cod)触媒存在下でトルエン中で反応させたところ、アレンの内側の二重結合とアルキンが反応して生成したType Iルテナサイクルを経由し、2つの5員環と3つの4員環が縮環した5環式化合物が単一の立体異性体として得られることを見出しました(反応1)。
・Saito, N.; Tanaka, Y.; Sato, Y. Organometallics 2009, 28, 669-671.
アレン-イン-エンの[2+2+2]環化反応
アルキン上にアルケンテザーを持つアレンインを上記の反応条件に付したところ、[2+2+2]環化反応が進行し、鎖状化合物から一挙に3環式化合物を合成することに成功しました(反応3)。
・Saito, N.; Ichimaru, T.; Sato, Y. Chem. Asian J. 2012, 7 (7), 1521-1523.
[2+2]環化反応への展開
環化二量化反応の検討の途上、溶媒をメタノールに変えるとアルケンの外側の二重結合が反応しType IIルテナサイクルを与え、ビシクロオクタジエン誘導体が生成することを見出しました。本反応では中性の2価ルテニウムからカチオン性の2価ルテニウム錯体が生成していることも明らかにしました(反応2)。また本反応の活性種であるカチオン性ルテニウム錯体をイオン液体(IL)に固定化することで、触媒リサイクル型反応へと展開し、触媒を含むILを最高10回再利用することに成功しました。
・Saito, N.; Tanaka, Y.; Sato, Y. Org. Lett. 2009, 11, 4124-4126.
・Saito, N.; Koyama, M.; Sato, Y. Heterocycles 2018, 97, 696.
求核剤の付加を伴う環化反応
上記の[2+2]環化反応の検討の過程で基質を1,6-アレンインに変えたところ、Type IIルテナサイクルへのメタノールの付加を伴う環化反応が進行し、ビスアルキリデンシクロペンタン誘導体が得られることを見出しました(反応4)。
・Saito, N.; Kohyama, Y.; Tanaka, Y.; Sato, Y. Chem. Commun. 2012, 48, 3754-3756.
またこの反応で水を求核剤とすることで1-アシルシクロペンテンが合成できることを明らかにするとともに、フラノセスキテルペン系天然有機化合物ある(+)-myomontanoneの短工程での不斉全合成にも成功しました(反応5)。
・Katagiri, K.; Kodera, H.; Tayu, M.; Saito, N. Chem. Lett. 2019, 48, 768-770.
現在これらの反応を利用した天然有機化合物の全合成研究や、新しい骨格を持つ反応素子の開発研究を進めています。