ソフト指し対応

月光戦におけるソフト指しへの対応について

基本的な考え方

月光戦は、全くの個人(Arjuna @innerc0re)が趣味の範疇で主催し運営を行っているネット棋戦・twitter棋戦です。

「交流促進・棋力向上」を表に掲げているとおり、指す将同士の交流のきっかけとなるような対局の場を設けること、棋力を強化しようというモチベーションとなるような競争の場を設けることを開催目的としています。本音をいえば主催者自身がその過程を楽しむことが唯一の目的であるということは特段隠し立てしませんが……それはさておき、やはり交流の面においても競争の面においても参加者が多いに越したことはありませんので、なるべく多くの方に参加いただけるように、こまめな更新と発信を心がけて運営にあたっています。


さて、言うまでもなく「ソフト指し」は絶対に許せない行為です。将棋に対する学習思考の努力を放棄して「プロより強い」ソフトに安易な答えを求め、不当な勝利という形で対局と競争の相手を踏みにじる行為は、主催者個人も一人の指す将として認めるわけにはまいりませんし、それは多くの参加者にとっても同じであると信じます。「参加者は多いほうがいい」としても、ソフト指しを行う者は一切不要です。

「疑わしきは罰せず」

月光戦の開催にあたっては、主催者は参加者全員の善意を信じ、ソフト指しは一切行われていないものと仮定して運営を進めています。そうでなくては実際のところ個人の労力をもってこのような大会の進行を務めることはできません。

また、ソフト指しへの対応方針としても、推定無罪、すなわち「疑わしきは罰せず」を規定に記しています。

法的には、冤罪は深刻な人権侵害をもたらすためこれを防ぐべく規定されている刑事裁判の大原則、だそうです。指す将にとってもソフト指しの事実認定は非常に重いものですし、せっかく縁を持つことになった一人の参加者を間違った事実認定により追い出すことは望みませんので、月光戦でもこの考え方を取り入れています。

しかしこの言葉の意味を「処罰には100%の立証と確信を要する」と解釈してしまえば、ソフト指しへの対処は事実上不可能となります。すなわち、一般論としてネット将棋におけるソフト指しを100%立証することは(ほとんどの場合)不可能といわれるところで、まさに「100%」を処分の条件としてしまえば、ほぼ全てのケースで不正行為を認定し処分を下すことができないということです。これでは、1%でも疑いが晴れる要因をあえて残すよう巧妙にソフト指しを行った、悪意ある、最も許されざる者に利を与え、至極真っ当に自力で将棋を指すほとんどの善良な参加者に害を与える結果となってしまいます。

よって「ソフト指しは無かったのではないか」と仮定する立場から検証を行い、一定の確証が得られるまでは事実認定と一切の処分を行わないこと、しかし一定の材料が得られればそれが100%でなくともクロ』の判断から逆転の目がないと主催者が決心した場合はソフト指しに対する事実認定と処分を執行することを、月光戦における「疑わしきは罰せず」の定義(解釈)とします。


検討方法の概要

24ソフト指し取締委員会」で公開されている「取締方法」を参考に、月光戦においてもソフト指しの疑いが発生した場合は主に「ソフト一致率」について検討します。

(上からの受け売り)仮に2通りの指し手が可能な局面が30手続いた場合、他者(ソフト)と指し手が完全に一致する確率は約10億分の1(2の30乗は約10億)です。これは偶然の一致であると見做すにはあまりにも小さすぎる確率です。実際の将棋では「一直線の進行」はあるとしても、度々訪れる分岐で指せる手が2通りどころではないのもまた事実でしょう。


「推定無罪」の立場から、どうしても一致率が高くなるような範囲については検討対象とは致しません。

すなわち、将棋の内容を見て、あるいは一旦解析して、序盤の「定跡の一部である」「研究が可能な範囲である」と見做せる範囲や、中終盤の典型的な攻め筋、最善手が現れやすい終盤の詰みや寄せの範囲は基本的に対象から除外し、除外が難しい場合でも可能な限り検討範囲全体に対する比率を考慮して検証を行います。主に「手の広い」中盤を検証すると解釈していただいて構いません。

一方で、あまりに難解長手数の詰み手順や詰むとしても分岐の多い局面でさらっとソフト最善手を指されているようなケースも考えられますので、単純に一切を除外するとは申し上げません。

時間の使い方については、あまりにも「あからさま」である場合は判断根拠としますが、基本的には偽装可能なものであると見做しています。「ソフト指しは"ちょっと一手だけ"でも原則ダメ」ですので、この点は誤解なきようお願い致します。


ウォーズ級位程度である主催者個人が将棋の内容について判断することは基本的には力不足であろうと認識しておりますので、検討の際は加盟団体『twitter棋戦同盟』と、同盟を通じて現役(*)奨励会員にも見解を求めます(* 本稿執筆当時)

取締の手順

基本的には、参加者あるいは第三者の通報をもって調査を開始します。通報者が誰であるかは、調査協力者を除く第三者に対しては一切秘匿します。通報においては、通報者なりの根拠を示していただく必要があります(調査には多大な時間と労力がかかりますので、どうかご理解ください)

調査の対象は「月光戦の対局として行われた将棋の指し手・進行のみ」です。ウォーズ通常対局や他の棋戦による友達対局など、月光戦以外の対局は調査対象とは致しません。また、段級位の変動状況、「勝ち過ぎている」「強い相手に勝っている」などといった曖昧な事実を示されたとしても、調査対象や根拠と見做すことはできません。これらは正当な調査対象に対して疑いが強まった場合に傍証として用いる場合はありますので、通報の際には遠慮なくおっしゃっていただいて構いません。


調査の結果、ソフト指しの疑いが強く、いわゆる「クロ」という判断を下した場合は、第一にソフト指しを行った疑いのあるご当人にその事実を通知し、反論を待ちます。反論があった場合はその内容を考慮して最終判断を行います。一定時間(個別に通知)反論がない場合はクロを最終判断とします。


最終判断もいわゆるクロであった場合は当該人は当棋戦から除名処分とし、その事実、すなわち当該人の所属や登録名等・調査の結果ソフト指しが行われた可能性が高い対局の棋譜・処分の内容をタイムラインで公表します。(月光戦は参加者専用チャットなどを持たず、全ての告知をタイムラインで行っています)


最終判断がシロであった場合、通報者には個別に回答する以外は、通報・調査が行われた事実の一切を伏せます。


公開できないこと

通報者が誰であるかは、調査協力者以外には一切公開しません(ご本人が公表される場合は除く)。

また調査協力者を(twitter棋戦同盟のメンバーであるとしても)個人名指しで公表することもありません(同上)。


そして下記のような「ソフト指しを判定するための基準」については、公開した場合はこれらの条件を回避して巧妙にソフト指しを行う者が現れることが懸念されるため一切公開できません


  • 一致率をみるソフトには何をどれだけ使用するか

  • ソフトの解析条件、すなわちPCの性能や設定するノード数や時間などはどうか

  • 一致率は何%が基準か(アマチュアの普通の将棋で該当することはほとんど無いといえるほど非常に高い数値です)

などの詳細は一切公開できません。


また「個々の事案」については、結果のシロかクロかを問わず、

  • どんなソフトをどんな条件で動かして検討を行ったか

  • 一致率は何%だったのか

  • 何手目から何手目までを検討対象としたか

などは、判定基準を推定されるおそれがありますので一切公開できません。


すなわち、個々の事案についていわゆる「証拠」といえるようなもののほとんどは一般には公開できないことになります。

より多くの方々の納得を得ながら「1件だけ」のソフト指し事案に対処するには証拠を開示した方がよいのは当然だとしても、「次」の発生を予防し、しかし実際起こってしまったときに対処するためには、証拠を開示するというある意味簡単な方法がどうしても採れないことをご理解いただければ幸いです。

調査・処分の対象となった将棋の棋譜は必ず公開しますので、ご自分で解析・検討を行うなどして各自でご判断ください。各位のそれがこちらと異なる判断結果となっても、基本的にはそれを尊重致します。


ソフト指し判定へのご批判・反論について

ソフト指し行為を認定し処分しながらも、その判断基準や証拠を原則開示しないという方針によって、月光戦によるソフト指し認定の信憑性が薄れ、批判や反論の対象となるおそれがあることは十分に承知しております。

批判・反論・または質問がある場合は、@gekko_sen にメンションやリプライ、DMでお送りください。

お送りいただいたものには一通り目を通し、ときには回答しときには参考にさせていただきますが、参加者であれ第三者であれ個別に全て回答すること、全ての求めに応ずることは、全くお約束しません。特に非参加の第三者には基本的に回答も反応もしません。**

特に「○○○だからシロではないか」「こんな点は考慮したか」というご反論には、メッセージを返すとしても再反論を行うことは原則としてありません。再反論には概ね証拠の開示が要求されますが、繰り返し述べている理由により棋戦を継続するためにそれはできないからです。また月光戦における事実の認定と処分の執行は主催者の専権事項ですので、基本的には他の誰かに対してこちらの正しさを証明する必要は無いと考えるからでもあります。

「批判や反論を全く受け付けない」というわけではありません。こちらの認識が誤っていたと思うような新事実が示されれば判断を覆すこともあります。ただ「推定無罪」の原則を取るなかで、そして主催者として一人の参加者を疑うこと、誤った処分により失うことを避けたいという思いのなかで、「シロ」を主張するような論点については概ね考慮済みです。また「ちょっとソフトにかけてみて」出てくるような一致率は当然知っています。このことをご理解になった上でご指摘をいただければ幸いです。


** 月光戦の運営方針について

冒頭に記した通り、月光戦は、いち将棋ファンの個人(Arjuna @innerc0re)が趣味の範疇で運営しているものです。本業その他の優先事項やその他の趣味に対して限られた時間を、集まった参加者と自分が楽しむため、正常な進行のために出来る限り使い、協賛費や参加費などの見返りを得たり求めたりせずに運営しているいわば自己満足ですので、参加者各位に一定の敬意をもってはおりますが「お客様(は神様)」だなどとは思っておりませんし、いわんや非参加者をおいてをや

このような対応にご納得いただけない方は(月光戦に相応しくないとは言わぬまでも)ご参加をお取りやめいただくのはご自由ですし、当棋戦や主催者個人に対するご評価などについては(それを高めることが目的ではありませんので)どれだけ下げていただいても結構です。しかし正当な批判の範疇を超えた誹謗中傷等がぶつけられた場合や、こういった関係性を弁えない態度での物言いを受けた場合は、こちらも「個人」としてそれ相応の態度で応じることもあります。その際は「ご了承ください」などという丁寧な言葉遣いはしないかと存じますので、その点ご了承ください。