第287回 三崎談話会

第287回 三崎談話会

日時:2018年7月5日(木)16時00分〜

場所:東京大学大学院理学系研究科・附属臨海実験所・セミナー室

講演者:宮川一志(宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センター)、進士淳平(東京大学大学院理学系研究科・附属臨海実験所)

懇親会: 18時30分〜 宿泊棟食堂にて



宮川一志(宇都宮大学バイオサイエンス教育研究センター)

「ミジンコにおける昆虫ホルモン〜その生合成、シグナル伝達、および生物学的機能について〜」


 淡水性甲殻類であるミジンコは好適環境下では単為生殖によって爆発的に増殖する。その一方で、周囲を取り巻く環境の変化に適応するために、環境に応じて表現型を様々に切り替える能力も有している。特に、秋口の低温短日刺激などに応答したオスの産生(環境依存型性決定)と、天敵の存在下における防御形態の形成(誘導防御)はミジンコの見せる最もダイナミックな環境応答の例である。講演者はこれまで上記の環境応答を始めとするミジンコの複雑な生活史特性がどの様な分子メカニズムで制御されているかを解明すべく研究を行ってきた。その結果近年では、脱皮ホルモンや幼若ホルモンといったいわゆる「昆虫ホルモン」がミジンコの体内において様々な生命現象の制御に主要な機能を果たしていることが明らかになりつつある。本講演では湖沼生態系を支えるミジンコが見せる巧みな環境応答とそれを制御する内分泌機構について現在までにわかっていることを概説するとともに、昆虫類の知見と比較することで節足動物の進化に内分泌系が果たしてきた役割について議論したい。



進士淳平(東京大学大学院理学系研究科・附属臨海実験所)

「遺伝子からみた十脚甲殻類の胸脚の再生機構の進化」


 現在に至るまで300年あまりの間、一部の生物が示す高い再生能力は、生物学者たちの興味をひきつけてきました。特に、神経、筋肉および骨格など異なる組織から成る体の構造をまるごと再生できる能力は、それそのものが捕食者に対処するための適応の一部となっていることが珍しくありません。エビやカニなどの一部の甲殻類もまた、そのような高い再生能力を基盤とした捕食者への対処手段をもつ生物の一群です。そこで私は、飼育と繁殖が容易な淡水棲ザリガニをモデルケースとし、甲殻類の脚の再生に働く遺伝子の解明に取り組んできました。本発表では、これまでの研究成果と現在進行中の研究の一部をご報告いたします。