シミュレーション

シミュレーション

シミュレーション(simulation)とは、研究するシステムや現象を模したモデルを構築し、そのモデルにさまざまな入力を与えることによって、実際の状況を実現することである。

オペレーションズ・リサーチの主要なアプローチの一つであり、計算機の性能向上と利用普及によって軍事学の研究でも幅広く採用されている。シミュレーションを目的として開発された装置、設備、ソフトウェアなどをシミュレータと呼ぶ。

概要

シミュレーションの基本的な目的は、研究対象に対する正しい理解を得ることにあるが、軍事学の研究においては武器の調達計画や作戦計画の最適化、あるいはシナリオ分析に基づく予測に使用される。そのため、シミュレーションで研究を進めるためには、計画の段階で(1)どのようなモデルを構築するべきか(モデルの選択、開発)、(2)そのモデルの挙動は研究対象に合致しているのか(妥当性検証)、(3)コンピュータでモデルをどう動かすのか(正当性検証)、(4)さらに実験を効率的に行い、出力されたデータをどう処理すべきか(実験計画法)を検討することが求められる。またシミュレーションは教育訓練のために使用される場合も多い。その場合は(4)の実験計画を教育計画と置き換えて考慮する必要がある。この中で特に重要なのはシミュレーションで使用するモデルを適切に選択する段階である。

モデル選択

通常、軍事シミュレーションは使用するモデルが扱う部隊の単位に応じて戦略レベル、作戦レベル、戦術レベルに区別される。戦略レベルのシミュレーションは詳細度が低いものの、戦域における部隊の行動を地球規模、あるいは戦域規模で捉え、戦争全体の経過を研究することに適している。作戦レベルのシミュレーションは中程度の詳細度で戦域、あるいは戦闘における部隊の行動を把握するものである。戦術レベルのシミュレーションは最も詳細度が高く、個別の部隊や装備の交戦に着目することに適当である。このような区別が重要な理由は、どのような論理的特性を持つモデルを選択すべきかが、大きく変化するためである。戦術レベルのシミュレーションを実施するなら武器の性能が正確に再現されることが重要であるため、物理学に依拠し、使用された火器の弾道学的な特性が再現できるモデルが望ましい。しかし、戦略レベルのシミュレーションでは個別の交戦で使用される武器の性能を詳細に再現することは必ずしも重要ではない。また、軍事行動に付随する不確実性を考慮に入れることも必要になる。

妥当性検証

さらに、選択したモデルの妥当性と正当性を検証しなければ、そのシミュレーションから信用できる結果を導き出すことはできない。ただし、妥当性と正当性の検証は一定の決まりきった手順で処理できるような単純な問題ではない。そのモデルの目的は何か、その目的を達成するためにモデルの出力値にどの程度の正確さが求められているのか、モデルを使用するために利用可能なデータはどのようなものかなどを詳細に理解していなければならない。その上でモデルの結果が可能な限り正確に現実の結果と合致するように、理論的な前提やパラメータの値を修正し、あるいは実務に精通した専門家からの助言を得ることが重要である。「すべてのモデルは間違っている。しかし、役に立つものもある」という言葉でも示されているように、あらゆるモデルは正確さと便利さを妥協させた産物であることを理解しておかなければならない。

参考文献

  • Andreas Tolk. 2012. Engineering Principles of Combat Modeling and Distributed Simulation. Wiley.