この論文は、政府が発行した国債は、返済期限が来ても新しい国債に置き換えていくことで、長い間ずっと回し続けられるのかを扱います。国債の借り換え自体は珍しい話ではありませんが、重要なのは、借り換えを続けても国の財政がいずれ行き詰まらないかという点です。本論文の結論は、借り換えが持続可能かどうかは、単に長期金利と成長率の大小だけでは決まらず、国債の満期の組み合わせと、景気局面によって金利の動き方が変わることが大きな鍵になるというものです。
まず、よく知られた単純な見方では、経済の成長率が金利を上回っていれば、債務残高が増えても国全体の所得に対する比率は薄まりやすく、借り換えが続けやすいと説明されます。しかし現実には、長期金利が成長率より高い時期も低い時期もあり、どちらが普通だとは断言できません。論文でも、長期金利が成長率を上回る観測例があることに触れています。そこで本論文は、金利と成長率の関係に強く頼らない形で、借り換えを続ける仕組みを作れないかを問います。
重要な条件は、国債が一種類だけではなく、満期の異なる複数の国債が同時に存在していることです。満期が違うと金利も違いますし、その違い方は景気によって変わります。たとえば、平常時は長期の金利が相対的に高くなりやすいのに、不況や危機の局面では逆の形になる、といった変化が起こり得ます。論文の数値例でも、平常時と危機時で利回りの並びが反対方向になるケースが示されています。
このように、景気局面によって満期ごとの金利の並び方が変わると、借り換えの負担も満期によって違います。すると、ある満期の国債は危機のときに借り換えが相対的に楽になる一方で、別の満期は平常時に相対的に有利になるといった組み合わせが生まれます。本論文が示すのは、こうした満期ごとのズレを利用して、満期の違う国債をうまく組み合わせることで、毎期の資金繰りが赤字にならないように設計できる、ということです。ここで大切なのは、満期の組み合わせを各期ごとに細かく変えるのではなく、固定した配分で持ち続けられる形が作れる点です。
また、この仕組みは、いわゆるリスクなしで儲かる抜け道を使っているわけではありません。ポイントは、好況が続きやすい、あるいは危機が続きやすいといった性質が金利に反映されると、満期の違いによって利回りのズレが生まれ、そのズレが借り換え設計に使えるという点です。論文では、景気の状態がある程度続くときに、金利の動きが満期ごとに違ってくることが鍵だと述べています。
後半では、平常時には税収と支出がほぼ釣り合っているが、危機のときだけ支出が増えて赤字が大きくなるという状況を想定して具体例を示します。世界金融危機や感染症の拡大のように、突然の不況で財政支出が急増する局面を念頭に置いています。そして、平常時と危機時で金利の並びが大きく変わるとき、満期の異なる国債を組み合わせた固定の配分によって、危機時の赤字を賄いつつ借り換えを回し続けられる可能性が示されます。さらに、その場合でも債務残高の対所得比が発散するのではなく、一定の範囲に収まる形になり得ることが強調されます。
このように、本論文は、借り換えが無限に続けられるかどうかを金利と成長率の大小だけで判断するのではなく、満期構成と、景気局面ごとに金利の形がどう変わるかに注目すべきだと示しています。国債の種類が複数あり、しかも局面によって満期別の金利の動きが十分に違うなら、借り換えを続けながら財政の持続性を保つ設計が理論上は可能であるということです。
出典: Morimoto, K., 2025, "Term structure, debt revenue, and infinite rollover in general equilibrium" SSRN, abstract_id=5231455.
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※研究実施および論文公刊にあたり、科学研究費補助金(基盤(C)・課題番号24K04895)および科学研究費補助金(基盤(B)・課題番号23K25535)の助成を受けました。