Tax evasion and optimal corporate income tax rates in a growing economy

G7諸国の法定法人税率

(KPMG corporate tax rates tableよりデータ取得)

OECD諸国の平均法定法人税率

KPMG corporate tax rates tableよりデータ取得)

図をご覧ください。近年、主要国の法人税率はほとんど一貫して引き下げられています(ここに挙げた先進国以外も同様です)。2021年10月に最低税率を15%とする国際協調が実現するなど歯止めをかける動きがあるものの、かなり鮮明な低下トレンドを持っているのは事実です。この背景には法人税が企業の投資・参入を阻むことで経済成長を抑制してしまうという考え方があり、企業活動の活性化による経済成長を是とする現代では支配的な見方となっています。一方、法人課税が経済成長に与える効果は他にも考えられます。すなわち、法人税収がインフラ整備や公共サービス供給に利用され生産性向上に寄与するという正の効果です。現代の法人税をめぐる議論は、主に前者が強調される傾向が強いのですが、これは後者の存在も考慮したトレードオフ関係を的確に捉えていない可能性があります。

また、上記のような基本的トレードオフに加えて、法人課税を検討するうえで大事なことがあります。やや突飛ですが、脱税がその一つです。脱税というと摘発の報道を稀に見かける程度だから、取るに足らないことだと思われるかもしれません。しかし、例えば2016年の米国歳入庁の推計によると、米国では法人部門だけで年平均440億米ドル程度のタックス・ギャップ(予想される税収と実際に得られた税収の差)が発生しており、法人税の適切な徴収は重要課題の一つであるとされています。440億米ドルは約5兆円に相当しますから、米国の経済規模を考慮しても、それだけ税収が増えれば有意義な政策の一つや二つは実行できるはずです。もちろん、当局は正確な税の捕捉ができていない事態を重く見ているのですが、資源的制約があり、徹底した査察で脱税を一掃することは事実上不可能です。実際、査察が行なわれるのは対象事業所の2%にも満たないのが現状です(ただし企業規模が大きいほど査察確率は高くなります)。つまり、脱税行為の是非については論じるまでもありませんが、それが現実にある程度行なわれていることを受け入れたうえで政策を考えることが必要なわけです。

このような背景のもと、今回の研究では、企業が脱税という選択肢をもつ経済をモデル化し、最適な法人税率について次の手順で分析しています。まず、企業は申告利潤に基づいて法人税を納税するものの、一定の範囲で経営の実態を隠して利潤を過少申告できると設定し、それを考慮した企業の投資が経済成長に与える影響を調べます。次に、法人税率と企業の脱税パターンの関係を明らかにし、経済成長率および社会厚生を最大化する法人税率の特徴を数学的に分析します。最後に、構築したモデルを先進国の経済データとフィットするように調整して、具体的な最適税率の水準を計算します。その最適税率と脱税を考慮しない標準的モデルの最適税率を比較することによって、脱税の存在が法人税率の選択に与えるインパクトを測ります。

得られた結果は、次の通りです。

1.については、当たり前だと思うかもしれませんね。脱税があるから実質的にかけられる税率(有効税率といいます)がその分だけ下がっているので、失われた税率を埋めるのに必要なだけの高い税率を最初から設定すれば良いという考え方で。しかし、実際はそれだけではなく、脱税がある経済の最適な有効税率は、脱税がない経済の最適税率よりも高いことが証明されます。その理由は、脱税がある経済では、脱税によって民間投資資金の一部が確保されるため、法人課税は思ったよりも企業の投資活動を阻害しないので、高税率・高税収で公共支出を充実させることの社会的リターンが大きくなるからです。2.は、この効果が量的に見てとても大きいことを示しており、脱税の存在を考慮した法人税率の選択が現実的に重要であることを主張しています。

このように、近年注目されている法人税率については、徴税の執行状況やマクロ経済への影響を十分に考慮した議論を行なう必要があります。今回は脱税と経済成長という側面に注目しましたが、他にも考えるべき要素はたくさんあるように思われます。日本において法人税収は税収全体の20%ほどですが、法人課税が企業行動を通じて経済変動に与える影響はとても大きく、しっかりとした経済学的分析が求められます。興味がある人は、一緒に研究しましょう。

出典:Hori, T., Maebayashi, N., Morimoto, K., "Tax evasion and optimal corporate income tax rates in a growing economy," Macroeconomic Dynamics, 27(3), pp. 743-769..

この論文の詳細については、こちら をご覧ください。