Information feedback in relative grading: Evidence from a field experiment

掲載日:2021年3月11日

大学などの教育機関で行なわれている成績評価の中間フィードバックは、学生の学習誘因を刺激するのでしょうか。この問い社会的にとても重要であると考えられますが、とりわけ教育関係者の人々は強い関心を持っていると思われます。少なくとも、その一人です。そこで、今回、教育現場で上記の問いを検証することにしました。具体的には、相対評価制度のもとで中間試験の得点順位に関する情報提供が以後の学修パフォーマンスに与える影響を調べることとし、ある大学の実際の授業科目においてランダム化比較実験を実施しました。

 実験の概略は次の通りです。対象となる授業科目では、中間試験と期末試験の得点を加重平均して最終成績が決められます。学生には合否を分けるボーダーラインが最終成績の分布によって決まると告知します(自分と他人の相対的位置を考慮してボーダーラインを読むことが一大関心事となります)。実験参加に同意する学生を募り、中間試験が終わると、同意した学生(254人)を中間試験の得点に加えて順位情報を通知されるグループ(処置群、124人)と得点だけしか通知されないグループ(制御群、130人)に分けます。そして、この両群の間で期末試験の得点に差があるかどうかを調べます。

 このような実験をしたところ、順位情報を得た処置群の学生は、それを持たない制御群の学生と比較して、期末試験の得点が平均的に3.5点ほど高かったという結果が得られました。その原因を探るためデータを細かく見ていくと、期末試験を放棄した学生に関して、処置群は制御群の1/3しかいないことが分かりました。こは、順位情報を与えられたことで処置群の学生の中で科目の単位取得を諦める学生が減ったことによるものと解釈できます。

 以上のように、順位情報が現実の環境で学生の学習誘因を引き出す事例を示すことできました。では、この発見に何の意義があるのでしょうか。そもそも学生の学習誘因を引き出す方法はいろいろなものが考案され実験されています。代表的なものとして、例えば、学習成果に対してお金などの報酬を渡すという直接的な方法があります。また、空間・時間的に視野を広げた議論ですが、進学による便益を十分認知する人を増やすため特別なキャリア教育や進学支援を行なうことで個人に学習を促すという方法も研究されています。しかし、こうした施策には、仮にその望ましさが社会的に認められたとしても、莫大な費用がかかるという問題があります。つまり、社会全体での大規模な実施は現実的に難しいと考えられます。それに対して、順位情報の提供は、費用をとても小さく抑えることができ、また教育現場に掛かる負荷も相対的に小さいと考えられます。このようにして、実行可能性が十分に見出せる方法である順位情報の通知効果を検証したのが今回の研究です。

※この研究は、研究実施大学における研究倫理審査を経て実施されました。

出典:Kajitani, S., Morimoto, K., Suzuki, S., 2020, "Information Feedback in Relative Grading: Evidence from a Field Experiment," PLoS ONE 15(4): e0231548

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