Information use and the Condorcet jury theorem

掲載日:2021年6月14

この研究では、委員会の最適人数について、協調ゲームと呼ばれるゲーム理論のモデルを用いて分析しています。集団的意思決定における規模とパフォーマンスの関係は、政治学・経済学・法学における古典的問題の一つです。その最も基本的な結果は、「投票者が自分の持つ情報を素直に使用するならば、集団規模を大きくするほど意思決定の正しさはどんどん向上する」というもので、コンドルセ定理と呼ばれています。その理由は簡単で、個人が持つ必ずしも正確でない情報も、皆で持ち寄って総合すれば正確になっていくからです。


ところが現実には、往々にして、投票者が素直な投票をおこなわない状況が生じます。大事な例として、近年その設計が重要課題となっている、政府・中央銀行などが構成する諮問委員会を考えましょう(企業の専門家集団も同様です)。こうした組織では、情報透明性のために情報公開制度が整備される中、個人のキャリア形成意識などを背景とした意図的な同調や反駁がおこなわれる可能性があることが理論的・実証的に分かってきました。これは大雑把にいうと、委員会での発言を他者に評価されることを見越して、(本当は必ずしも正しくないと知りながら)わざと周囲の空気を読んだ発言に終始したり、逆に不必要に奇抜な発言をしたりする可能性があるということです。一般の集団でも十分ありそうなことですね。このように、委員の行動に歪みがある場合には、コンドルセ定理の前提が成り立たず、委員会に最適規模がある可能性が出てきます。


 そこで、今回の研究では、理論的に同調と反駁の両方の可能性を考え、こうした歪みが委員会の意思決定に与える影響を数学的モデルで分析し、委員会の最適規模を考察しました。まず、委員が反駁的な行動をとる場合(目立ちたがり屋の委員がいる場合)は、委員会の人数を増やせば増やすほど正確な意思決定に至ることが分かりました。つまり、コンドルセ定理の結論が成立するということです。理由は次の通りです。反駁的な委員は、周囲に反して目立ちたいので、常識など皆が共有する情報よりも自分だけが持つ情報に過剰依存した行動をとります。これ自体は非効率的な行為なのですが、個々人の奇を衒ったバラバラな行動による歪みは、大人数での投票によって相殺されるので、大した問題にならないのです。

概念図:同じ情報はどれだけ足しても同じ、間違っていれば間違ったまま...

ところが、委員が同調的な場合は、周囲の空気を読んで常識的な判断に偏った行動を皆がとるため、その常識の誤りは改善しません。つまり、常識という共有情報の誤りは、(皆が同じように間違っているため)投票の情報集約機能によって消し去ることができず、そのまま集団としての誤りとなるのです。皆で空気を読み合って本来言うべきことを言わないでいるとどうなってしまうのか、とりわけ私たち日本人にはとても理解しやすいことではないでしょうか。このような場合は、人数を増やすことによる情報集約の促進と同調的行動の歪みという便益・費用をバランスするような、適当な人数にとどめておくのが最適です。


 さらに今回の研究では、新ケインズ派モデルというマクロ経済モデルを用いて、上記のメカニズムを金融政策委員会のデザインに応用しました。そして、金融政策委員会の最適人数の分析に加えて、金融政策委員会の人数と物価上昇率の分散がU字型の関係にあるという実証的事実の説明にも成功しました。

出典:Morimoto, K., 2021, "Information Use and the Condorcet Jury Theorem," Mathematics, 9(10), 1098.

この論文に関する詳しい情報は こちら をご覧ください(論文全文を誰でも無料で読むことができます)。


※研究実施および論文公刊にあたり科学研究費補助金(若手(B)・課題番号16K17122「政策担当者のインセンティブと金融政策委員会のデザイン」)および明治大学海外発信支援事業の助成を受けました