委員会や審議会では、「人数が多いほど、いろいろな情報が集まって判断が正確になる」という直感があります。これはコンドルセの陪審定理(Condorcet Jury Theorem, CJT)の有名な結論で、各人の判断が不完全でも、多数で集約すれば正しい決定に近づく、というものです。しかし現実の委員会では、メンバーが互いに独立に判断しているとは限りません。とくに、(1) 周囲と足並みを揃えようとする同調が働くこと、(2) そもそもメンバーが最初から偏った見方を持っていること、の2点は金融政策委員会などの現実の委員会でよく観察される事実です。本論文は、この2つが同時にあるとき、人数を増やせば必ず改善するというCJTの単調な結論が崩れ得ることを理論的に示し、さらに委員会の作り方そのもの(誰をどう選び、いつ人数を確定するか)が委員会の情報集計機能に大きく影響することを明らかにします。
分析の中心は、投票を「自分の情報に基づいて正しく当てたい」だけでなく、「周囲の平均的な判断から外れたくない」という動機も同時に持つ状況として捉える点です(美人投票といいます)。この環境では、同調が強いほど各人は平均に寄せる方向に行動し、少数派が持つ情報が平均判断に反映されにくくなります。さらに本論文では、メンバーが複数タイプに分かれ、タイプごとに事前の思い込み(主観的な平均見通し)が異なると仮定します。つまり、同じデータを見ても、もともとの見方が違う人が混ざっている委員会です。すると、同調は単に情報利用を悪化させるだけでなく、偏った事前見通しを自分が思う平均的な判断へ関連付けてしまう役割も持ちます。全体として平均的な偏りがあると、それが委員会の平均判断に残りやすくなり、人数を増やすことが必ずしも望ましくなくなります。
本論文はまず、静学的な設計(サイズを最初に固定)で、メンバー選抜ルールの違いがどれだけ重要かを比較します。ポイントは次の対比です。
固定配分:母集団のタイプ比率どおりに、機械的に人数を割り当てる(たとえば「この属性は全体の25%なので委員会でも25%」のように、比率を固定して作る)。この場合、母集団の平均的な偏り(平均見通しのズレ)がサイズとともにそのまま積み上がるため、比較的弱い同調でも増やしすぎると悪化する=最適人数が有限になる可能性が広がります。
ランダム抽出:候補者を独立にランダムで引く(各段階で同じ母集団比率に従ってタイプが生成される)。この場合、たまたま偏った構成になることもありますが、人数が増えるほど構成の偏りは平均化されやすい。結果として大人数の情報集約メリットが残りやすく、期待値としてCJTの単調改善が保たれやすい、という対照が得られます。
本論文の中心は、動学的な設計(逐次追加して、途中で止める)です。候補者を一人ずつランダムに追加し、現在のタイプ構成を観察しながら「いま投票に進むか(stop)/もう一人追加するか(continue)」を選ぶ問題として、最適停止問題として定式化します。二タイプで偏りが対称的な場合には、委員会構成の「偏りの度合い」(片寄り)が大きいほど期待損失が悪化しやすい一方、追加によって偏りが是正される可能性も大きくなるため、最適な行動は 「偏りが小さいなら早めに確定し、偏りが大きいなら追加する」という閾値型のルールで表せることが示されます。
また、数値シミュレーションによって、静学設計で得られる最適人数と、動学設計で生まれる停止人数の分布が大きく異なり得ることが示されます(動学設計では実際に選ばれた委員の構成はサンプリング次第で変わるので停止する人数もその結果に依存して確率的に変わります)。場合によっては、停止人数が小さい領域と最大サイズ付近に山が二つできる(双峰性)など、単に平均的に何人が良いかだけでは捉えにくい設計含意が現れます。
要するに、同調と偏った先入観が無視できない世界では、委員会設計の論点は医院を何人にするかだけでは足りません。どのルールでメンバーを集めるか(固定配分か、ランダム抽出か)、そして いつ人数を確定するか(構成を見て止めるか)が、情報集約の精度を大きく左右します。
出典:Morimoto, K., 2025, "Information aggregation with conformity and biased beliefs: Static and dynamic committee design," SSRN, abstract_id=5944934.
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※研究実施にあたり、科学研究費補助金(基盤(C)・課題番号24K04895)および科学研究費補助金(基盤(B)・課題番号23K25535)の助成を受けました。