教職大学院は,2006 年 7 月の中央教育審議会の答申において教員養成・免許制度の改革の具体的方策のひとつとして,その制度の創設が提言されました。そして,2007 年 4 月に「専門職大学院設置基準等の一部を改正する省令」等が施行されることとなりました。教職大学院は,高度専門職業人養成としての教員養成に特化した専門職大学院です。「実践的指導力の育成に特化した教育内容,事例研究や模擬授業など効果的な教育方法,これらの指導を行うにふさわしい指導体制などを有すること」を,その特色としています(文部科学省)。
教職大学院の指導体制については,そのスタッフに「高度な実務能力を備えた実務家教員」の 配置が義務付けられています(必要専任教員数の 4 割以上を占める)。その力量が教職大学院の組織的教育力に大きな影響を及ぼすことは衆目の一致するところでしょう。 教師教育の研究領域において,教職大学院の実務家教員(以下,「実務家教員」)は「教師教育者」に位置づくと考えられます。それゆえ,実務家教員は,自らの教育実践等を対象化して追究する実践研究者であると把握できるでしょう。
我が国においても,実務家教員が備えるべき力量についての議論は少なくありません。教職大学院の創設を唱えた上記答申において,その在り方・役割は「(前略)教職大学院における指導内容が, 実践の構造化,臨床的な実証研究の構築であることから,実務家教員には,事例や事例知識等をコーディネートしていく役割とともに,理論と実践の架橋を体現する者として,研究的省察を行い,リードする役割が求められる(後略)」と述べられています。
けれども,この「研究的省察」 を行うことは簡単ではありません。前記の在り方・役割が必ずしも実体化していないことが,「国立教員養成大学・学部,大学院,附属学校の改革に関する有識者会議」の報告書においても,「(前略) 特に教職大学院の実務家教員には,実践力のみならず,実践を理論に照らして深く問い返し,それを実践研究論文として発表し,また,その成果に基づいた教育を行う資質・能力も求められる」 と指摘されているのです。 このように,「実務家教員」が「教師教育者」として教育実践研究を企画・運営し,それを論文化等により発表する能力を有することの必要性は明らかです。しかし,それをどのように進めるかについての知見は極めて限られていると言えるでしょう。
このWebは,これまでの科研の成果をベースに,「実務家教員」が教育実践研究の方法論を学び,「教師教育者」として教育実践研究を論文化するために参考となるコンテンツを提供することを目的としています。
これまでの学会等で定義されてきた教育実践研究を超えて,「実務家教員」,「教師教育者」ならではの教育実践研究,教育実践研究論文とは何かを,このWebを参照していただいた皆様と一緒に探究していきたいと考えています。