メッセージ

学会長あいさつ

日本海洋教育学会の最初の会長として選任されました、茅根 創です。

 

海洋は、四面を海に囲まれた我が国にとって、隣国との境界や、水産・海運などを通じて生活や社会にとって重要な場です。経済的な価値だけでなく、海洋は、生命を育み、気候を調節して、地球を生存可能な惑星に維持しています。

この海洋が現在、海ゴミや温暖化によって危機的な状況にあります。このままでは、2050年には、海ゴミが海洋生物の重量を上回り、表面水温がさらに1度上昇して気候や生態系に後戻りできない影響が及ぶことが危惧されています。

一方で海洋は、海洋エネルギーやブルーカーボンなど、危機を回避して、新しい価値を産み出す場にもなることが期待されています。

海洋の価値とその危機を正しく知り、その解決策を、2050年には社会の担い手になる児童・生徒と一緒に考えることができる海洋教育を創ることを、この学会として目指したいと思います。


理科・社会など様々な教科横断的な学習の対象として、生活や社会・経済に関わる実利的な対象として、あるいは地球の生存可能性を支える場として、海洋教育の必要性を説明することもできます。

しかしそれ以上に、海辺に立って望む広大な海、素潜りで目にする海中の世界、未知の深海への感動、さらには津波への怖れまで海は人の生きる力を呼び覚ますすばらしい存在です。

「学会」ときくと、研究者の集まりではないかと思われるかもしれません。教育学と海洋学をつなぐ研究を深めることは学会の目的の一つではありますが、私たちは海洋教育の幼児教育・初等中等教育・社会教育の場での実践が、なにより重要であると思っています。

学校教育の場で実践されている教員、水族館など社会教育施設の方々、NPOなどで活動されている方々、さらには未来を担う児童・生徒の皆さんなど、幅広い分野の方々との情報共有・発表の場として、産まれたばかりのこの学会を一緒につくって下さるようお願いいたします。


最初の会長として、学会をぶじ出港させることに力を尽します。

会長あいさつ

初等中等教育分野  宮城県利府高等学校 中村亮

日本をはじめ、多くの国や文明にとって、海は国境です。そして地球という環境にとって、海は地面や大気と直接接するために活発な物質の反応が起きる境界でもあります。

こういった物やエネルギーが絶えず行われる海洋という場は、時に環境変動や人間活動の問題が起きる最前線になり得ると同時に、変動する環境を真っ先にとらえたり、新しい価値観や人との出会いを享受できる最前線でもあります。

これまで社会から求められてきた学校教育では物質は物質、エネルギーはエネルギー、経済は経済と、そこで完結する閉鎖的な分野や教科で分けられた体系になりがちでした。しかし年々変わりゆくこの世界では、浮上してきた問題に対し一つの分野・一つの専門家集団・一つの思想だけで最適解を求めることはとうに不可能になっています。

初等中等教育分野担当として、海を舞台とした地球環境への深い理解を、全国や周辺国・地域の学校の場で共有し広げていきたいと願っています。また、幅広い立場の皆様のご意見や協働実践を、立場の違いを超えてつなげていく一助になれればと思っています。

海はすべてを水平にします。しかし表面は静かであっても、動くときにそのエネルギーは莫大なものとなります。是非この日本海洋教育学会で新しい環境の取り組みを皆様で考えつつ積極的な交流を通じ、ともに行動していきませんか?

社会教育分野 フリーランス 浪崎直子

海の環境を守る仕事がしたいと思い、琉球大学大学院でサンゴ礁生態学を学び、NPOや国立環境研究所、東京大学で海の教育の仕事をしてきました。私が海に興味をもったのは、高校の生物の先生がダイバーで、授業でよく海の話をしてくれたことがきっかけでした。大学生になりダイビングのライセンスをとって初めて見に行ったサンゴ礁は、高水温により世界規模でサンゴが白化した直後で、壊滅的な状態でした。魚は住み場所を失い激減、地元の人は漁業や観光業では生計が立てられなくなったと聞き、海が人の生活に直結していることを知りました。

あれから20年、世界の海は気候変動や生物多様性の損失、プラスチックごみ問題などいくつもの問題が重なり、ますます厳しい状況になっています。一方で、海の環境保全への社会の意識は高まっており、日本各地で保全活動も行われています。海の環境を守るためには、何よりも多くの方に海に関心をもっていただくことが必要だと思います。私が高校の先生に出会い海の虜になったように、海洋教育を通じて、海に関心をもつ方を増やしていきたい。そしてこの学会で、海に関心をもつさまざまな立場の方、異なる年代の方々が出会い、多くの協働が生まれるような、そんな場所にしていけたらと思っています。