サルと糞虫の連携により効率化される種子散布プロセス

Enari and Sakamaki-Enari. 2014. Synergistic effects of primates and dung beetles on

soil seed accumulation in snow regions.

Ecological Research 29: 653-660.

動機と背景

 種子散布者としてのニホンザルの役割はよく知られています。しかし、多雪地ではそのプロセスを定量評価したものはほとんどありません。そこで、この研究ではサルからスタートする種子散布プロセスを深く掘り下げて評価してみました。

成果

 サルによって果実が採食され、種子を含む糞が別の場所で排出されたら、種子散布は終了・・・ではありません(これを一次散布と呼びます)。サルによる一次散布後、種子が土上に放置されれば、ネズミによって糞内の種子の大半は採餌されてしまい、種子散布の成功にはつながりません。そこで、重要な役割を担っているのが、種子を土中に運び入れる糞虫です(このプロセスを二次散布と呼びます)。この研究では、種子の一次散布と二次散布の両方を、いろいろな森林タイプで評価しました。調査地は、いつものとおり白神山地です。

その結果、次のことが分かりました

  1. 白神山地では、春に11種、夏に14種の木本植物の種子がサルによって一次散布されていること

  2. 春に一次散布される種子は、夏より小さく、数も倍程度散布されること

  3. 春も夏も、糞虫によってそれらの種子は無事に土中に二次散布されていること

  4. 埋土される深さは種子サイズによって異なり、深さ10センチ以下が最も多かったのですが、深いものになると25~30センチに達することもあること

  5. 春のほうがより深く土中に運ばれやすいこと

  6. 広葉樹二次林より、ブナ林や人工林のほうが二次散布が期待できること

などが明らかにされました。人工林でも一次・二次散布プロセスがうまく機能するということは、サルが分布することで、不毛な生態系と呼ばれやすい人工林の生物多様性確保に貢献できることを意味しています。害獣と呼ばれやすいサルですが、なかなか良い役割をしていますね。


 この研究では春と夏の種子散布プロセスのみを扱っています。その理由は、以前に実施した研究から、秋に糞虫がほとんど現れないことが分かっていたためです。では、秋の果実はサルからスタートする種子の一次・二次散布プロセスは成立しないのでしょうか・・・。

この疑問については、次の研究で解決することにしました。こちらも意外な結末です!

後記

種子の二次散布をみるために、種子を模した様々なサイズのビーズをサル糞に埋め込み、誘引された糞虫に運ばせてみました。土中深くまでビーズは埋め込まれることが分かり、感動と同時に、それを測定するのも一苦労。

埋土されたビーズを探すのに、土嚢数袋分の土を採取し、ひたすら篩にかけるという、修行のような作業を行いました

※ちゃんと許可をとって土を採取していますので。あしからず