豪雪地に生息するサルの糞は誰に利用されるか?
Enari, Koike, & Sakamaki (2011). Assessing the diversity of dung beetle assemblages utilizing Japanese monkey feces in cool-temperate forests.
Journal of Forest Research, 16, 456-464.
食糞性コガネムシ(平たく言えば「糞虫」)は、哺乳類の糞を利用する昆虫の中で種の多様度とバイオマスが最も高いといわれています。そのため、糞虫は生態系における分解者として、更には二次的な種子散布者としての生態学的な役割が様々な森林帯において注目されはじめています。
しかし、冷温帯に生息する森林性糞虫に関する生態学的な研究は著しく少ないのが現状です。また、糞虫の多様性は資源 (すなわち「糞」) 提供者である哺乳類に影響を受けるのですが、哺乳類の分布やその動態から糞虫群集を評価した事例も限られています。そこで、この研究では寒冷豪雪地に広く生息するニホンザルに焦点を当て、サル糞を利用する糞虫群集の多様性や群集構造を評価しました。
本研究では、①白神山地北東部を調査地として、サル糞を利用する糞虫の広域的なインベントリ調査を実施すると同時に、②人為的な森林撹乱が冷温帯林に生息する糞虫群集に及ぼす影響を定量化するために、当該山地における一次林(ブナ林)、二次林(ブナ-ミズナラ林)、スギ人工林の3つの地域にサル糞を誘引餌としたピットフォールトラップを設置し、糞虫の多様性を季節ごとに評価しました。
その結果
14種(8種はdwellerタイプ、6種はtunnelerタイプ)の糞虫が冷温帯林においてサル糞を利用していること
春と夏において、ケブカマグソコガネが糞虫群集のコア種になっていること
すべての糞虫は春季に極めて出現頻度が高くなること
人為的な森林撹乱は冷温帯林に生息する糞虫の多様度及びバイオマスを減少させること
が明らかとなりました。
※当該論文は"Journal of Forest Research Award 2013"に選ばれました