原子を操り原子で創る究極の表面創成
RESEARCH OUTLINE
ダイヤモンド状炭素(DLC)、カーボンナノチューブ、グラフェンといったナノ材料は、従来材料にはない特異かつ卓越した特性を発現します。これらのナノ材料の構造を原子レベルで精密に制御し、特性を自在に調整することで、「原子スケールで設計可能かつ、ナノスケールで特性が確定した表面」、すなわち「究極の表面」としての創成が可能になります。これらナノ材料を用いた表面改質技術は次世代の機能性表面の設計を根本から変革し、幅広い分野に革新をもたらすと期待されています。
POINT
本研究では、ナノ材料の構造と特性を精密に制御し、「究極の表面」を創成することを目指します。そのために、機械学習をはじめとするAIシミュレーションを活用し、ナノスケールでの材料設計を加速させます。AIによる大規模データ解析と第一原理計算を組み合わせ、最適な原子配列やプロセス条件を予測し、ナノ材料の特性を自在に調整する革新的な表面改質技術を確立します。
ダイヤモンド状炭素 (DLC: Diamond-Like Carbon)膜は、ダイヤモンドとグラファイトの中間的構造を有するアモルファス状態の硬質系炭素薄膜の総称です。高耐久性、耐摩耗性、低摩擦性、化学的安定性、生体親和性などに優れ、さまざまな分野での応用が期待されています
低次元ナノマテリアルとは、厚みや幅が原子スケールで小さく、私たちが普段目にする金属やプラスチックなどの材料(3次元マテリアル)とは異なる特性を持つ新しい材料のことです。例えば、カーボンナノチューブ(CNT)は細長い1次元構造を持ち、軽くて強い上に電気をよく通します。グラフェンは厚さが原子1層分しかない2次元材料で、銅よりも高い導電性を持つ特異な特性を示します。これらの低次元マテリアルは、エレクトロニクスやエネルギー技術の革新を支える重要な材料として注目されています。
ファンデルワールスヘテロ構造 (vdWH) は、異なるナノ材料を積層・接合させた新しい構造体で、層の組み合わせや積層角度により、電気的・光学的特性を制御できる点が特徴です。層間をファンデルワールス力で結合し、各層の特性を保持しつつ新たな機能を生み出します。本研究室ではグラフェンや六方晶窒化ホウ素 (hBN) などの2次元マテリアルの組み合わせにとどまらず、カーボンナノチューブや窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)などの1次元マテリアル、ダイヤモンド状炭素 (DLC) などの3次元マテリアルを組み合わせた異次元ファンデルワールスヘテロ構造の創成に世界にさきがけて挑戦します。
理論計算科学とデータサイエンスを融合させたマテリアルズ・インフォマティクスにより、vdWHの「界面に潜む複雑な学理」を解き明かし、物性を評価することで革新的な特性を有する未踏ナノマテリアルの探究を行います。また、第一原理計算に分子動力学計算を組み込んだ機械学習シミュレーションによって、最適なNeural Networkポテンシャルを導出し、vdWHの成長機構の解明を目指します。計算の実行には、すずかけ台キャンパス内に設置され、演算精度において現存する国内のスパコンの中では「富岳」に次ぐ速度を有するTSUBAME4.0を使用します。