パーシステント加群と箙の表現論(詳細)

パーシステントホモロジーの代数的な構造は1変数多項式環上の加群として理解されていましたが,近年は,関係式付き箙(えびら,quiver)の表現として,もしくは関手としても取り扱われています.これによりパーシステンスの研究に表現論的もしくは圏論的な道具を活用できるようになりました.例えば,時空間解析のような多重パラメータのもとでの位相的性質の存続性を調べることが可能になり,位相的データ解析の適用範囲が格段に広がります.

可換はしご型箙

文献[5]において,有限型可換はしご型箙上のパーシステンス加群を導入し,研究しました.文献[2]において,やはり有限型の可換はしご型箙に対して,直既約分解を計算するための行列手法を開発しました.これによりこの設定においてパーシステンス図を構成できるようになりました.

Commutative Ladder型パーシステント加群のAuslander-Reiten箙

文献[4]において,無限型可換はしご型箙に対して,任意の与えられた値より大きい次元をもつ直既約パーシステンス加群を構成し,それの簡単な幾何実現を与えました.この例を考察すると,一般に高次元の直既約パーシステンス加群も無視すべきでない重要な幾何的情報を持っているであろうと考えられます.

2Dパーシステンス加群

文献[3]において,前区間,区間,直既約細表現を導入し,それらの関係を調べました.さらに,与えられたパーシステンス加群が区間分解可能であるかどうかを決定するアルゴリズムを与えました.

文献[1]において,1Dパーシステンス加群はある直既約2Dパーシステンス加群の直線による制限として得られることを示しました.これは直既約2Dパーシステンス加群の複雑さがさらに別の観点から表現されたものといえます.以下は我々の構成を用いて作られた穴の開いたサポートをもつ直既約2Dパーシステンス加群の例であります.

穴の開いたサポートをもつ直既約2Dパーシステンス加群の例

ジグザグパーシステンス加群の間の距離

ジグザグパーシステンス加群の間の新しいボトルネック距離を導入しました.その距離はジグザグパーシステンス加群のAuslander-Reiten箙の形状に依存しています.我々はもとのジグザグな構造の改良を提案しました.その改良は新しい距離がうまく振る舞うような,いままでに与えられたほかの距離とは異なる特徴を強調するようなものです.

11頂点のジグザグAn箙の表現からなるAuslander-Reiten箙

文献

[1] M. Buchet and E.G. Escolar. Every 1D Persistence Module is a Restriction of Some Indecomposable 2D Persistence Module. arXiv:1902.07405.

[2] H. Asashiba, E.G. Escolar, Y. Hiraoka, H. Takeuchi. Matrix Method for Persistence Modules on Commutative Ladders of Finite Type. Japan J. Indust. Appl. Math. 36 (1), 97--130 (2019).

[3] H. Asashiba, M. Buchet, E.G. Escolar, K. Nakashima and M. Yoshiwaki, On Interval Decomposability of 2D Persistence Modules. arXiv:1812.05261.

[4] M. Buchet and E.G. Escolar. Realizations of Indecomposable Persistence Modules of Arbitrarily Large Dimension. 34th International Symposium on Computational Geometry (SoCG 2018), Leibniz International Proceedings in Informatics (LIPIcs) 15, 1--13 (2018).

[5] E.G. Escolar and Y. Hiraoka. Persistence modules on commutative ladders of finite type. Discrete Comput. Geom. 55, 100--157 (2016).