日本の長期停滞は老害のせい?

林 文夫

2022年107

<初出:キヤノングローバル戦略研究所 機関誌Highlight Vol. 113, 2022年10月号掲載>

上の二つの散布図を見ていただきたい。対象国は、OECD 加盟国(1973 年時点、トルコを除く)と Asian Tigers (韓国、台湾、香港、シンガポール)と中国とインド。横軸の「老人比率」とは、生産 年齢を 20 歳から 69 歳として、

        50歳から69歳までの人口 を 20歳から49歳までの人口 で割った比

の期中平均。去る 7 月に発表された国連の人口推計から計算した。縦軸の一人当たり GDP 成長率 は、PWT(Penn World Table, 成長率の国際比較の定番データ)による。

図 1 からわかるように、1960 年から 1990 年までの 30 年間は、Asian Tigers や日本の人口構成は若く 成長率も高かった。図の左上に位置するこれらの国々から右下のイギリスにかけて、多数の国が右 下がりの傾向線の近傍に並んでいる。すなわち、老人比率と一人当たり GDP 成長率の間には負の関 係がある。これを「老害」と呼ぼう。(アメリカやカナダなど、第2次大戦非戦場国はこの線の下に あるが、それは 1960 年の GDP に戦禍の悪影響がないせいだ。)

図 2 から一目瞭然だが、1990 年以降、日本は老人比率が急上昇し、老害により成長が大幅に低下し た。このような急速な高齢化が 1990 年よりかなり前から進行していた出生率の低下によることは、 衆目一致だろう。(なお、図 2 の中国の成長率は世銀や IMF によると 8%を超えるが、PWT では学会 の研究を反映して 5.8%。)

この出生率から成長への因果関係を用いて成長率の長期予測をしてみよう。

国連の人口推計によると、2020 年からの 30 年間で、低出生率の結果、日・韓・台・中の人口は減 少し老人比率は 40%を超える(日本は 45%)。これに対し、アメリカは移民の効果もあり、人口は 増加(年率 0.4%)、老人比率は 37%にとどまる。

老人比率 40%越えの日・韓・台・中の一人当たり GDP は老害により停滞し、GDP(一人当たり GDP と人口の積)は減少する。老人比率 37%のアメリカの一人当たり GDP は、図 2 から判断する と年率 1%弱で成長する。これに 0.4%の人口増加を加えたものがアメリカの GDP の成長率となる。

人口減少の衝撃は老害によって増幅される。これ は日本ばかりでなく,イタリアやギリシャのような 高齢国でも起こっている。