コロナが変える大学

林 文夫

2021年4月6日

<初出:キヤノングローバル戦略研究所 機関誌Highlight Vol. 95, 2021年4月号掲載、小幅修正>

去年の緊急事態宣言以来、多くの大学で授業が対面からオンラインに移行した。私も授業はすべてZoomで行っている。

対面でしか得られないものは確かにある。美空ひばりをテレビで見るのとディナーショーで見るのとでは全く違う体験だと聞いたことがある。その場の雰囲気や講師のオーラはオンラインでは伝わらない。

しかしオンラインにより物理的な距離が克服された意義は大きい。私は去年、自宅にいながらにして二つの国際学会に出席した。いずれもZoomによるオンライン学会だったが、聴衆の一人としてプレゼンに不満は感じなかった。時差を我慢してリアルタイムで参加すればチャット機能を使って講師に質問ができるし、録画は後日何回でもネットで見ることができる。

技術的なことをいうと、オンラインのプレゼンが有効である理由は、画面共有機能(講師のパソコン画面を聴衆のパソコン画面に投影すること)にある。たとえば、私は授業で、画面にパワポとホワイトボードを同時に開けて、パワポで見せる方程式の導出はホワイトボードで手書きで行う。この画面は録画されるので、学生は板書のノート取りに精を出す必要もなくなる。

私の経験では、学生が20人か30人程度までなら、対面よりもていねいな授業がZoomでできる。名前付きで学生一人一人の表情をモニターできるから、誰がどこでつまずいているかリアルタイムで把握できる。対面よりオンラインの方が学生は発言しやすいようだ。逆説的だが、オンラインの方が学生に近づけた気がした。

期末試験の実施も問題なくできた。自室で答案を書く様子はZoomでモニターされ続けるので不正行為はしにくい。答案は学生がスマホで各自撮影・PDF化し、それをメール添付してもらった。授業でカバーできた範囲は対面に比べやや減ったが、成績は今回のオンラインの方が良かった。

オンラインコースを終えて感じたのだが、大学はキャンパスなしでも機能し得るのではないか。履修者のメルアドリストや時間割の作成は大学のバックオフィスのお世話になったが、そこから先は大学のリソースに頼らず自宅からコース運営ができた。教室や講堂はいらない。Zoomへのアクセスも大学のサーバーは経由しない。教材はGoogle Driveに置いたので、コピー機もいらない。

学生がお互いを知ることが学びの一環というのなら、(今は感染対策の徹底が前提だが)ホテルを借り切って新入生合宿をやればよい。バックオフィスはどこか場末のオフィスビルの一角に置けばよい。このようなネット大学は施設費がゼロだから、リーズナブルな授業料設定ができる。キャンパスで青春を謳歌したい学生は、プレミアムを払って従来型の大学を選択すればよい。

コロナを機に大学がどう多様に展開してゆくのか、注視していきたい。